法制審議会 民法(成年後見等関係)部会 第24回会議 議事録 第1 日 時  令和7年9月3日(水)自 午後1時29分                    至 午後5時19分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  参考人からの意見聴取 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山野目部会長 法制審議会民法(成年後見等関係)部会の第24回会議を始めます。   本日も御多用の中、御出席を賜りましてありがとうございます。   前回会議の後、委員の異動がありました。事務当局から御紹介を差し上げます。 ○波多野幹事 前回の御報告と重複いたしますが、法務省民事局の人事異動に伴いまして、松井信憲法務省民事局長が委員に就任いたしました。また、内野委員が退任し、その後任として、これまで幹事として参加していた竹林俊憲法務省大臣官房審議官が委員に就任し、竹林審議官の後任の笹井朋昭民事法制管理官が幹事に就任いたしました。 ○山野目部会長 松井民事局長は、第5回会議まで法務省大臣官房審議官として参加されていました。これからは法務省民事局長として会議に参加されることになります。改めて自己紹介のお言葉を頂戴いたします。  (委員等の自己紹介につき省略) ○山野目部会長 どうぞよろしくお願いいたします。   会議の出欠の状況について御案内を差し上げます。本日は佐久間委員並びに家原幹事、海老名幹事、山城幹事及び山田幹事が御欠席と伺っています。また、余儀ない用務によってオンラインの参加となった星野委員からは、会場にお見えになることができなくて悔しいという言葉を頂いております。   本日の審議に入ります。配布資料と本日の進行についての説明を事務当局から差し上げます。 ○波多野幹事 本日はヒアリングのみを予定しておりまして、部会資料の配布はございません。参考人から御提供いただきました資料を配布しております。順に御説明いたしますと、原参考人から「任意後見契約の締結方式について」と題する資料を、秋下参考人から「高齢者の判断能力の診断、評価について」と題する資料を、オンラインで御参加ですが、信託協会の参考人から「成年後見制度の改正に係る課題と検討の方向性について」と題する資料を、吉野参考人から「成年後見制度において聴覚障害者の困りごと」及び「アンケート」と題する資料を、河合参考人から「意見」と題する資料を御提供いただいており、配布しております。   本日の進行ですが、4組の方にヒアリングに御対応いただくために御出席をお願いしております。お話をお聞きする順に団体、お名前を申し上げますと、まず日本公証人連合会総括理事丸の内公証役場公証人、原啓一郎様、次に、東京都健康長寿医療センター理事長、秋下雅弘様、次に、信託協会の関係で、信託協会業務委員長三菱UFJ信託銀行経営企画部協会担当部長、竹内慶太様、三菱UFJ信託銀行リテール企画推進部上級調査役、川島崇史様、同じく上級調査役、渡部和弘様、三菱UFJ信託銀行リテール受託業務部上級調査役、加藤亮吾様、三菱UFJ信託銀行事務管理部課長、清水順子様、さらに、日本ろうあ連盟の関係で全日本ろうあ連盟の吉野幸代様、国連障害者権利委員会委員、弁護士の田門浩様、全日本ろうあ連盟福祉労働委員会委員、埼玉県聴覚障害者福祉会理事、河合めぐみ様でございます。   ヒアリングの進め方でございますが、まず日本公証人連合会総括理事丸の内公証人役場公証人の原様から20分程度で御意見を述べていただき、その後15分程度で質疑応答を行い、同様に、東京都健康長寿医療センター理事長秋下様から20分程度で御意見を述べていただき、その後15分程度の質疑応答を行う進行でお願いしたいと存じます。その後、オンラインになりますが、信託協会で5名の参考人からオンラインの方法により20分程度で御意見を述べていただき、その後15分程度の質疑応答を行う進行でお願いしたいと存じます。その後、全日本ろうあ連盟の関係で3名の参考人から、手話通訳を通じますので、40分程度のお時間で御意見を述べていただきまして、その後30分程度の質疑応答を行う進行でお願いしたいと存じます。   なお、各参考人は御自身以外の参考人のヒアリングをお聞きになるために在席される可能性がございます。 ○山野目部会長 説明を差し上げました。初めに、御案内を差し上げたとおり日本公証人連合会総括理事丸の内公証役場公証人、原啓一郎様からのヒアリングを実施いたします。   この際、原啓一郎様に一言、御礼を申し上げます。オンライン参加の委員、幹事もおりますから、着席のまま一言申し上げることをお許し賜りますようお願いいたします。本日は大変お忙しい中、資料を整えてくださいまして事前の御用意を経た上でこの部会に御来臨を賜りまして、誠にありがとうございます。御意見を伺って、今後における当部会の調査審議にいかしてまいりたいと考えるものでございますから、何とぞよろしくお願い申し上げます。   それでは、どうぞよろしくお願いいたします。 ○原参考人 日本公証人連合会の総括理事を務めております公証人の原啓一郎と申します。公証人としては東京の丸の内公証役場で勤務しておりまして、任意後見契約を始め様々な種類の公正証書の作成その他の業務に携わっております。それでは、座ったままでよろしゅうございますか。失礼します。   本日はこの法制審議会民法(成年後見等関係)部会の場で、日本公証人連合会を代表して意見を述べさせていただく機会を与えていただきまして、ありがとうございます。任意後見につきましては、この部会において数多くの論点について議論がされていると承知しておりますが、これらの論点のほとんどについては、日本公証人連合会としては特に意見を申し上げる立場にはございませんけれども、本日は1点だけ、任意後見契約の締結の方式について意見を申し述べさせていただきたいと存じます。   まず、現行法の定める契約締結の方式についてでございます。任意後見契約に関する法律第3条は、任意後見契約は法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならないと定めています。その理由としては一般に説明されているところは、まず、契約に当たっては本人すなわち委任者の意思と判断能力を確認し、また、もう一つの理由としては、契約の内容が法律に従ったものになるようにするため、長年法律の仕事に従事し法的知識と経験を有する公証人が作成する公正証書によらなければならないとされているものでございます。日本公証人連合会といたしましても、任意後見契約の締結を公正証書によらなければならないとする現行の制度は維持されるべきであると考えております。   初めに、本人の意思及び判断能力の確認についてのところでございますけれども、まず先ほどの理由のうち、委任者本人の意思及び判断能力の確認等の関係につきまして具体的に述べたいと存じます。任意後見契約は本人、つまり委任者が将来において精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な常況になった場合において、療養監護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与するという内容の一種の委任契約でございます。平たく言えば、お年寄りが認知症などで判断能力が一定レベル以下に低下した場合に、老人ホームへの入居契約の締結だとか、あるいは所有する不動産の売却、預貯金の解約等を行う権限を与えるというものであって、いずれも御本人の人生の最後の場面において、その有り様に大きな影響を与える法律行為を任意後見人に委ねるものでございます。   したがって、かような重要な法律行為を例えば特定の親族に任せることにつき、本人が納得して契約することが必要でございます。取り分け重要なことは、任意後見契約の場面において時折、親族間紛争、つまり相続紛争の前哨戦のようなものがうかがわれるケースがあり、親が高齢になってきた際に、例えば親族の一部からの圧力や強い誘導により、特定の親族と不合理な任意後見契約を締結させられるような事態も避けなければなりません。したがって、任意後見契約の締結に当たっては、真実その者に代理権を与える意思が本人にあるのかどうか、明確に確認する必要があります。   また、任意後見契約を締結する際に、多くの場合、本人はある程度年をとっておりまして、まだ任意後見をスタートさせるというほどではないにせよ、判断能力や記憶力がある程度低下した段階になっています。任意後見契約の文面は法律用語を使って記載されておりますので、契約締結の際に、取り分け本人が果たして契約の意味内容をきちんと理解しているかどうかを確認し、理解が不十分であれば分かりやすく説明した上で、なおそのような内容で契約をするか否かを確認しなければなりません。   公正証書の作成において、公証人に任意後見契約公正証書の作成を依頼してこられるのは、間に入った弁護士さんや司法書士さん、行政書士さんといった士業者であることも多いですけれども、そのようなケースを除けば、受任者が依頼してくると、つまり、例えば子供であるとかおい、めいといった、そういう受任者が依頼してくるという場合がほとんどであります。また、士業者を通じて依頼してくるケースでも、士業者にまず相談するのは高齢の本人ではなく、その子供等の受任者である場合がほとんどだと推測されます。   このような実態がありますので、高齢の本人が特定の子供、すなわち法定相続人の一人から強い誘導を受け、内容を十分に理解しないまま任意後見契約を締結してしまって、財産の処分等をその者に委ねてしまい、新たな親族間紛争の火種となるといったリスクも生じ得ます。もしかような誘導や無理解があれば、公正証書作成の過程で何らかの兆候がうかがわれることも多いですし、それから、公正証書の場では必ず公証人が本人と直接面談しますので、少なくとも理解の度合いは公証人が直接確認することができます。   実際、私自身も公正証書作成の場においては、任意後見契約の公正証書の文案をそのまま読み上げるとともに、例えば、もしあなたが将来認知症などで物事の判断がしづらくなったときに、銀行で預金を解約したり、あるいは貸しアパートで新しい賃借人さんと契約したり、老人ホームに入る手続をしたりといったことを、例えば娘さんに任せるのですよと、その際には任意後見監督人といって裁判所の選んだ弁護士さんのような方が娘さんを監督しますよと、それからまた、銀行や税務署などからお手紙が届いたら、娘さんが必要な限りで開けて内容を確認することもありますからね、などと法律用語をできるだけ分かりやすくかみ砕いて説明するようにしております。   この点につきまして、もし任意後見契約を公正証書によることなく一般の私的な契約書で締結できるようになるとすると、どのような事態になるでしょうか。そのような任意後見契約は、締結に至る経緯や締結の状況が第三者に全く分からず、完全なブラックボックスとなります。本人、すなわち多くはお年寄りの委任者が、契約締結の際に十分な判断能力を有していたか、それから契約の意味内容を理解した上で契約書を作成したか、それから本人に対して圧力を掛けたり強い誘導をしたりした者はいないか、あるいはそもそも契約書は本人が作成したのかといった点について客観的に判断するすべはなく、契約締結時に利害関係のない第三者が公平な目で確認するということもできません。   契約の成立や効力を争う訴訟が頻発し、任意後見人による法律行為が争われて任意後見実務が混乱して、高齢化に対応すべく創設された任意後見制度の機能が大幅に制約されることになると予想されます。それから、当該法律行為による取引の相手方も極めて不安定な立場に置かれることになります。また、それを解決するための社会的なコストも膨大なものになるということが容易に予想されるところでございます。   釈迦に説法で恐縮ですけれども、公正証書の制度というのは、かような無意味な紛争を未然に防ぎ、社会的コストを抑えつつ、世の中がスムーズに進行、発展していくための予防司法と呼ばれるシステムの一つでございます。そもそも紛争は生じないに越したことはなく、公正証書はそのために活用されているのですが、その効果というのはなかなか目に見えにくく、一般の方からどうしてもなかなか認識していただけないという実情がございます。任意後見契約公正証書は、今申し上げたような社会的に重要な役割を果たしているということを申し上げたいと思います。   次に、2番目の理由でございます。契約の内容が法律に従ったものになるようにするという目的との関係で意見を申し上げます。任意後見契約は委任契約の一種ですけれども、任意後見契約に関する法律その他の法令により規律されており、様々な制約やルールの下で締結され、運用されています。契約については一般的には契約の自由の原則というものがありますけれども、任意後見契約についてはその目的に照らし、法律に定められた要件を満たさないと最悪の場合、契約の効力が否定されることになります。   例えば、任意後見の効力は家庭裁判所により任意後見監督人が選任されたことにより生じるとされており、それ以外の事実を効力発生の要件とすると、それはもはや任意後見契約ではないということになって、効力が否定されかねません。また、任意後見契約は法律行為の代理権を与える契約ですので、代理権目録に事実行為を記載するということはできませんので、例えば自宅を修繕することといったような事項を代理権目録に記載しますと、修繕についてリフォーム業者と契約するという意味であればよいのですけれども、任意後見人自らが金槌やのこぎりを持って修繕するという行為は、これは任意後見契約では認められていない事実行為であるということになりまして、かような曖昧な事項は代理権目録に記載することは認められないということになります。なお、今挙げました二つの例は、いずれも私自身の任意後見契約公正証書を作成する実務の中で、実際に私自身が遭遇した事例でもあります。   それで、私的な文書での契約の締結を認めた場合に予想される事態でございます。かような任意後見契約について、公正証書で作成しなければならないという要件を外して私文書契約での経験締結を認めると、どのような事態になるでしょうか。言うまでもなく、一般の方々は先ほど申し上げたような法的な制約についてはほとんど御存じないので、法的に誤った契約書がかなりの頻度で作成されてしまうことになります。そして、先ほどと同じく契約の効力を争う訴訟が頻発し、任意後見実務が混乱することが容易に予想されます。   のみならず、その前の段階でも問題が生じます。任意後見契約が成立すると、その登記が必要になりますけれども、先ほど述べたような問題のある契約書で登記の申請がなされた場合に、契約が有効に成立しているかどうか、代理権の記載に問題がないか等についてチェックする法務局の担当者の負担は、現在とは比べ物にならないほど増加します。そのままにしておけば登記業務が大幅に滞留し、公示制度としての登記が機能不全に陥るということは誰の目にも明らかです。   私ども公証人は、法曹資格を有する者又はこれに準ずる法律業務に長く従事した者が主に就任し、就任後は日本公証人連合会から担当業務全般について詳細なテキストを渡され、また初任者研修を始めとして随時研修を受ける等により、任意後見を含む業務の全般について常に最新の知識を吸収して研鑽しております。また、公証人の中では人によっては弁護士や学者の先生との勉強会にも積極的に参加して常に最新の議論に触れ、知識を吸収している者もおります。このような制度、状況の下で、嘱託人やその依頼を受けた弁護士さん等の士業者が持ち込む公正証書の案文をチェックし、関係法令の求める要件を欠いてていないか、違法な条項を含んでいないか、あるいは表現に不明瞭な点はないか等についてチェックし、問題のない公正証書に仕上げていくという業務を行っております。任意後見契約の締結についてかような公証人の関与を外すことは、当事者に対しても、また社会的にも、以上に述べたような様々な弊害、不都合をもたらすものと言わざるを得ません。   以上に述べたような理由により、日本公証人連合会としては、任意後見契約の締結を公正証書によらなければならないとする現行の制度は維持されるべきであると考えております。本日は私どもの意見をお聞きいただきましてありがとうございました。 ○山野目部会長 丸の内の公証役場にいらっしゃると事案がたくさんあって、さぞかし日々お忙しくていらっしゃると想像いたします。そのような中で実務の経験を踏まえた貴重なお話をなさってくださいまして、誠にありがとうございました。   委員、幹事からのお尋ね、意見などを頂戴する時間を設けることにいたします。どなたからでも随意に御発言をください。 ○小澤委員 ありがとうございます。原先生、いつもお世話になっています。本日もお忙しい中ありがとうございます。2点御質問させてください。   1点目ですが、任意後見契約の利用を促進するために、例えば、任意後見契約の条項の中に一部定型的な文案を作ることなどで、公証人の先生の事務負担を軽減させて、費用を抑えることができないかという点が1点です。   2点目として、特に御家族や御親族が任意後見となるケースで、御本人に聴覚の障害やその他の障害のある方が結ぼうとされているケースもあると思うのですが、そういったときの御本人の理解度の確認作業というのは実際にどのような形で行われているかということを教えていただければと思います。 ○原参考人 1点目の御質問は、費用を抑えるというのは、例えばそういう定型的な文言のものは手数料を低くするということですか。余り考えたことがないのですけれども、今のところ任意後見契約の内容によって手数料が変わるということはないわけでして、立法論ですので何とも、余り申し上げる立場にないのでございますけれども。少しお答えはしづらいですね、申し訳ないですけれども。   それから、2番目の問題ですけれども、聴覚障害の方の任意後見契約、実は私、担当したことはないのですけれども、中には経験した公証人もおられると思います。それは公証人法などにも規定がございまして、手話通訳の方に来ていただいて通訳していただくとともに、例えば聴覚の障害の方ですと、場合によっては法律用語を分かりやすく書くために、あらかじめ筆記しておいて、これを見せて、これで分かりますかとか、任意後見契約とはこういうものですよとお見せしたりするなどして工夫していくのだと思います。その辺の実態は私、経験したことがないので、何分分かりませんけれども。こんな答えでよろしいですか。申し訳ございません。 ○山野目部会長 小澤委員、よろしいですか。 ○小澤委員 ありがとうございます。 ○山野目部会長 引き続き伺います。 ○野村(真)幹事 本日はありがとうございました。2点質問させていただきます。   まず1点目は、本人の判断能力の確認についてです。任意後見契約の公正証書の作成の実務において、公証人の先生による本人の判断能力の確認は、具体的にどのような手順と基準で行われているのかをお聞かせいただけたらと思います。確認の手順において、遺言書作成の場合のように診断書の提出が求められる場合があるのでしょうか。ある場合には、どのような基準に基づいて求められるのでしょうか。それから、判断能力の確認における手順については、各公証人の先生が独自に考えて実践されているものなのか、それとも全員で共有されている判断能力の確認におけるガイドラインのようなものがございますでしょうか。また、例えば保佐や補助相当の診断書がある場合でも、本人の意思に基づき任意後見契約を認める判断をされることはあるのでしょうか。もしあるとしたら、その際の判断基準はどのようなものになるのでしょうか。さらに、公証人の先生方の主観的な御判断と診断書の内容が異なる場合は、どのように対応されるのでしょうか。例えば、補助相当との診断書がある場合であって、契約可能と当事者が考えている場合に、公証人の先生から異なる判断がなされる可能性があるのでしょうか。これは専門職として契約作成に関わる立場から、契約締結の可否に関する予測可能性という観点から御質問させていただきました。   もう1点は、法務省の令和3年と令和4年の調査によりますと、任意後見監督人の選任の申立てをしていない理由として、選任の申立てが必要なことを知らなかったという回答があり、そう回答した者のうち親族の割合が高かったと伺っております。この法務省の調査を受けて、受任者に対して、本人の判断能力が低下した場合には受任者は速やかに任意後見監督人の選任の申立てをしなければならないということを意識的に伝えるような、何かガイドラインを作成するなど、工夫をされている点はございますでしょうか。以上2点になります。 ○原参考人 ありがとうございます。まず1点目ですけれども、本人のそういった判断能力の判定について、何か公証人連合会の方でガイドラインのようなものがあるということはございません。結局、個々の公証人が経験に根差して、その事案、その事案で行っているというのが実情だと思います。   それと、例えば遺言などの場合に、公証人によってはその場で長谷川式を少しやってみたりとか、そういう公証人もいるやに聞いていますけれども、それは遺言の場でももちろんですし、任意後見の場でもそういうことまでする公証人というのは実際はかなり少数派だと思います。というのは、一つは、取り分け遺言について、少し本件のテーマから外れますけれども、遺言についても、御存じのとおり長谷川式の何点以上だから遺言能力がある、何点以下だからないというような単純なものではございませんで、やはり遺言の内容との相対的な関係によって決まると言われておりますし、大体裁判所の判例などを読みましても、そういった傾向がございます。任意後見につきましても、比較的内容がシンプルで、例えばいろいろな契約をしたりとかそういったことを息子さんに委ねるのですよとかいうようなことを説明して、それが分かっているかどうかというのを会話の中で判断していくのかなという感じがございます。   私自身が一度、あるアルツハイマーの方で非常に怒りっぽいお父さんと息子さんとの間に任意後見契約を結ぼうとしたケースがありまして、これはかなり時間が掛かったのですけれども、大分話をして、とにかく息子さんにそういった契約を任せるけれどもいいですかということを、時間を掛けて話をして納得していただいたというケースがありまして、よほどお断りしようかとも途中で思ったのですけれども、最後は、これはまあ大丈夫だろうということで、基本的なことは分かっていらっしゃるなと判断してお作りしたというようなケースもございました。結局そのケース、そのケースで判断していくしかない、対応していくしかないのではないかというのが実情でございます。   それから、補助とか保佐の関係で、どういった御質問でしたか。 ○野村(真)幹事 ありがとうございます。補助や保佐の診断書がある場合でも、本人の意思に基づいて任意後見契約を認める判断をされることはありますでしょうか。 ○原参考人 それはあると思います。それから、先ほどの診断書の件もそうなのですけれども、一つ一つやはり診断書を取っているということはないと思います。そういう公証人が、ゼロではないかもしれませんが、それはいたとしても極めてレアケースだと思います。保佐や補助のレベルであっても、任意後見の基本的な内容が分かっていれば、息子さんに任せてねとか、いろいろな銀行の関係をお嬢さんに任せるのはいいですかとかいうことで、そのことが分かっていれば、細かい法律的な専門的な技術、登記がどうのとか計算期間がどうのとか、そこまで理解していなくても、それは契約を認めてもいいのではないかと判断して、公正証書をお作りしているというケースはあろうかと思います。   それから、2番目の御質問が、すみません。 ○山野目部会長 任意後見監督人の選任申立てという論点を知らない当事者がいるかもしれないということでしょうか。 ○原参考人 これは私は説明しているのですけれども、実際に知らなかったというケースがやはりあるのですかね。私は説明しているのですけれども。必ず普通は読み上げますので、少し考えにくいのですけれども。説明はしていますけれども。例えば、本当にこの土地を売らなければいけないような事態が生じたときに、任意後見というのが効力を生じていないと契約できなくなりますからね、そのときは家庭裁判所に申し立ててくださいねとか、そういった説明をしておりますので、どういうケースなのか私はよく分からないです。申し訳ないですけれども。 ○山野目部会長 野村真美幹事、よろしいですか。 ○野村(真)幹事 ありがとうございます。特にこの法務省の調査を受けての変化ですとか、ガイドラインが出たとかといったことはないという理解でよろしいですか。 ○原参考人 それはないですね。 ○野村(真)幹事 承知いたしました。ありがとうございました。 ○山野目部会長 引き続き委員、幹事から伺います。 ○竹内委員 お話しいただきまして今日はありがとうございました。私からも2点、お尋ねいたします。   まず1点目ですが、お話の中で、法律行為を特定の者に任せる意思を明確に有しているかとか、判断能力とか、今し方、お話をしながらケースごとに経験に基づいて判断しておられると伺ったのですけれども、お話をしながらという部分で、御本人の判断能力や、同意をしていらっしゃるかということの確認をなされるときに、具体的にはどういうところに質問をしたりとか、どういう部分のお話を聴いたりとか、どのようなこと留意されて、原公証人の場合は確認をなさっているかというのを教えていただけたらというのが、まず1点目でございます。   2点目を続けて申し上げますと、先ほど公証人の先生方に就任時に詳細なテキストが配布され、あるいは研修や勉強会の機会などもあると伺ったのですけれども、その中で御本人の意思を確認するときの何か、どのようにすると工夫できるかとか、どういう御経験があるかとか、そのようなことをテーマにしたものが現時点であるのかどうか、あるいはこれからそのようなものが予定されているのかどうか、分かる範囲で構いません、御教示いただけましたら幸いです。よろしくお願いします。 ○原参考人 まずは法律的な内容の理解の確認のポイントですけれども、基本的に言うと、要するに、任意後見ですから財産管理と身上監護ですので、その中の代表的な、例えば銀行の関係のいろいろな預貯金を解約したりとか、あるいは、もしも証券会社で株の取引なんかをやっていたら、その株についても場合によってはいろいろな取引をするとか、あるいは手仕舞をするというようなことを全部息子さんに任せますよ、いいですかとか、それから、例えば身上監護ですと、代表的なものだと老人ホームへの入居契約だとか、そういった代表的な具体的な例を挙げて、できるだけ具体的に例を挙げて、こういうことも息子さんにやってもらうけれどもいいですかと言って、そういったような、できるだけ分かりやすく具体例を挙げて説明するようにしています。それでいいですよと言って、特に誘導的に、ただ、はい、はいとうなずいているだけではなくて、本当にこの人は中身を理解しているなというのは何となく表情とか話のニュアンスで分かりますので、それで特に問題ないかなと思えば、基本的に理解されていると思いますので先に進めますねというふうにして、進めております。   それから、本人の意思能力の確認の具体的な手法までは特に、細かい研修は実際はやっていないとは思います。ただ、やはりそれは随時いろいろな公証人といろいろな場面で雑談したり議論したりとか、そういった中で話題が出たりということもありますし、特に私のように複数の公証人が勤務しているような公証役場の中ですと、例えば、今こんな案件を抱えているのだけれども、これはどうかなみたいな感じで、事実上の合議ではありませんけれども、そういったような形で議論したりしながら進めているというのが実情で、特にその点について具体的な、理論化したりとか、何かノウハウをみんなで共有したりという、そこまではやっていないのが実情です。 ○竹内委員 ありがとうございます。 ○山野目部会長 引き続き伺います。いかがでしょうか。 ○青木委員 原先生、本日はありがとうございました。4点ほど御質問させていただきます。一点目は、方式の関係で、公正証書による必要性があることを本日十分にお伺いできましたけれども、やはり契約書の条文が少なくとも10から20条ぐらいになって、ご本人さんとしては難しい内容にもなる、法定後見を受けたいとしてご自身で申込みをする際の理解内容に比べますと、任意後見を契約して利用するにはかなりハードルが高いと思います。そのため今までも公証役場ではいろいろ分かりやすい条文化というのを工夫していただいていると思いますけれども、さらに、例えば、条項として必要な情報を全てチェックリスト化して、必ず選択をするようにして、もう少し分かりやすく、これとこれとこれは必ず選択してくださいとするなどを、オンライン上でも見えるようにして、ご自分で選びやすく、考えやすくするような工夫というようなことがあり得ないかということはいかがでしょうか。あるいはそれを更に進めていけば、必ずしも公正証書にする前の申し込み段階で、もう少しエントリーをしやすくするような手法を考えられないかということも、諸外国の例などを参考にして考えるのです。この辺りについて公証実務から見た御意見をうかがえればと思い、ご質問させていただきたいと思います。   二点目は、今後、公正証書の作成についてオンライン化が進められていきますけれども、公証役場に来られない人、遠隔地の人が利用しやすくなるという期待もありますけれども、先生がおっしゃられたように、任意後見契約ではご本人の意思をしっかりと確認をすることが重要だということになりますと、オンライン化による任意後見契約の公正証書の作成がどの程度円滑化、あるいは利用しやすくなるかというのと、逆に本人の意思確認というところでの難しさについてはどのような受け止めをされていますでしょうか。   三点目は、任意後見受任者が発効が必要になったときに監督人の申立てをすることについて、専門職の場合は任意後見契約の中に受任者の義務として契約条項を入れていることが多いと思いますけれども、親族後見人の皆さんも含めて、監督人選任の申立義務というのを受任者の義務として契約条項に入れることはかなり一般的になっているのか、あるいは条項を入れることを公証人の先生方から受任予定者にお勧めいただいているのかについて実務状況を教えていただければと思います。   四点目は、これは制度に関する御意見ではなくて、実情としてお伺いしたいのですけれども、予備的な受任者を付けたいけれども一つの契約の中では難しいということとか、あるいは段階的に代理権を発効したいけれども代理権は一機に発効してしまうのですしょうか、ということ、あるいは代理権目録が十分でなかったので、追加で付けるには一から公正証書を作り直さないといけないのかということ、こうしたことについての現場におけるニーズというのを先生方の中では感じておられるかについて実感だけでも教えていただければと思います。よろしくお願いいたします。 ○原参考人 まず、条文を本人がチェックを入れて、例えば代理権でこういうのをチェックを入れて分かりやすくする、アクセスしやすくする、それは一つの考え方だとは思います。現在そういう方式は採られていないわけですけれども。ただ、不相当な任意後見契約がなされるとして、それが問題になるというのは、むしろ任意後見契約の与える代理権の内容というよりも、誰を任意後見人に選任するかということで、親族の中のA、B、Cといた中で、これまで親と全く付き合いのなかったAさんが突然現れて、非常に強い誘導で自分に全部任せるといってB、Cの知らないところで任意後見契約を結んでしまったと、そういったようなケースではないかと思うので、そういったときにアクセスしやすくすると、逆に言うとそういう人との間の任意後見契約も作りやすくなってしまうという問題もありまして、そういうやり方で本当に委任者のためになるのかというのが少し疑問がないではないです。   それから、次にオンラインの話ですね。御存じのとおり、この10月1日から公正証書がデジタル化されまして、オンライン、ウェブ会議でも作れるようになっております。ただ、その場合の本人確認はもとより、その意思の確認ですね、そういったもの、それから作成の場において不当な圧力を掛ける第三者がいないということをどうやって確認するかというのは、これはなかなか難しい問題でございまして、取り分け遺言のときにどうするのだということがございます。なので、これはオンラインによるウェブ会議による公正証書の作成というのは相当性の要件というのが要りますので、公証人が相当と認めたときでないと駄目ということになっておりますので、遺言にしてもそうですし、任意後見してもそうですけれども、例えば、隣の部屋から長男がじっとにらんでいるとか、お父ちゃん、ペケペケとかとやったりとか、そういう人がいるのかいないのかというのを完全にやはり防ぐことはできないのではないかと思われますので、確か、かつて法務省の傘下で行われました実務者会議でしたかね、その中でやはり遺言と任意後見についてはオンラインによる作成というのはかなり慎重になされるべきであるというような協議結果が示されたと思いますけれども、私も基本的にはそうではないかと思っております。   もっとも、そういった影響を明らかに受けないような比較的若い方で、例えば会社の経営者の方で、元気なうちにあらかじめこういうものを作っておきたいというようなことで任意後見契約を結んでおるというような場合で、第三者の圧力とか不当な強い誘導というのもおよそ考えられないよねと、それから内容の理解も全く問題がないよねというようなケースで、ただ忙しいからオンラインでやってくれというようなときまで拒む必要はないかなと思っています。だから、そういったような場合には有効な場面もあるのではないかと考えております。   それから、申立義務については、実際の条項の表現なのですけれども、任意後見監督人の選任を申し立てるものとするとか、そういったような表現の条項が多いのではないかと思います。ものとするというのは一応、義務を定めた条項であるというようなことを言われていますけれども、では申し立てなかったら何か処罰されるかというと、そんなこともありませんし、何か形成的な効力があるわけでもありませんので、なかなかそういう、何か義務的な条項を設けたからといって実効性の点ではどうかという感じはします。ただ、私としては契約をお作りする際に、いよいよとなったら本当に家庭裁判所に任意後見監督人というものの選任を申し立てて任意後見契約というのをスタートさせないと、契約できなくなるから、もしそういうふうになったら申立てした方がいいですよということを申し添えるようにはしております。   それから、実情としてのニーズとしての、例えば予備的受任者の問題であるとか、簡易な手続による代理権の追加あるいは段階的発効ですよね。実は先ほど申し上げた、予備的受任者の関係では、私もそういうのを持ってこられたことがありまして、子供さんA、B、二人を受任者として持ってこられたわけなのです。それで、委任者が会社の経営者でございまして、自分が事理弁識能力がなくなった段階では、まず年長の方のAさんにこの株主権の行使を委ねると、ただ、Aさんが何か健康を害するといったような事情があって株主権の行使ができなくなったら、Bさんに委ねるというような条項で持ってこられたことがありまして、ばらばらに作ると結局、それぞれが単独の代理権を持つようになりますし、だからそういうのが大変なので、A、Bと順位を付けて持ってこられたのだろうと思いますけれども、それは今の制度ではできないのですよということでお断りしたというようなことがございました。実際に、特に会社の経営者だとかそういった方で、株主権の行使などに関しては、実際のところそういったニーズはあるのかなと少し感じたことがございます。   それから、代理権の追加の問題ですけれども、これはよく弁護士の方にも言われるのですけれども、一般的な文例とかで出回っている通常の定型的な代理権目録で作ったと、ところがその後、携帯電話を解約しようとしたら、それが代理権が載っていないので困ったというような話も聞いたことがございます。だから、弁護士さんとかによっては、携帯電話の解約に関する件というようなことで、そういったものも代理権として追加してくださいと言われたことがございます。なので、そういったことが、やはり作った後で、しまったというようなことがあったときに、またゼロからお金を掛けて作り直すというのではなくて、何か比較的簡単な手続で追加できるといいのではないかと、そういうニーズは時々やはりあるのかなと感じたことがございます。   段階的発効も、それと似たようなことだと思います。段階的発効については、私自身が実務上そういったニーズがあるというのを感じたことはまだないのですけれども、いろいろな議論を聞いていますと、場合によってはあるのかもしれないとは思います。ただ、経験上、そこは何とも私は申し上げられません、申し訳ないのですけれども。こんな程度の答えでよろしいでしょうか。 ○青木委員 ありがとうございました。 ○山野目部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○根本幹事 先ほど青木委員からの御質問の御回答の中で、携帯電話の代理権のお話をしていただいたかと思いますが、現行制度を前提として、その件については先生はどのように追加の対応をされたのかということを具体的に教えていただいてもよろしいでしょうか。 ○原参考人 というよりも、作る段階で入れてくださいと言われたのです。その弁護士の先生が、前に別の件で作ったときに、なくて困ったことがあるので、公証人会の文例集などにも書いてある定型的な代理権目録のほかに、携帯電話の解約に関することというのを追加で入れてもらえないかと言われたということがあるということでございます。追加について何か対応したという意味ではありません。 ○根本幹事 もしその場面で仮に代理権の追加をするとなるとすると、現行だとどのように対応されているのかを確認させていただいてもよろしいでしょうか。 ○原参考人 しかし、現行法だと追加するとなると、やはり改めて作り直すしかないのでしょうね、ほかに手段がないですもんね。しようがないのではないでしょうか、それは。だからこそニーズがあるのだと思いますけれども。 ○山野目部会長 よろしいでしょうか。 ○根本幹事 ありがとうございます。 ○山野目部会長 ほかにいかがでしょうか。   それでは、原参考人におかれましては本日は誠にありがとうございました。先生のお話を伺うことによって、公証実務のリアルというものを私ども、理解することがかないました。今後のこの部会における調査審議にお話を活かしてまいりたいと考えます。本日はどうもありがとうございました。   休憩にいたします。           (休     憩) ○山野目部会長 再開いたします。   続きまして、東京都健康長寿医療センター理事長でいらっしゃる秋下雅弘様からのヒアリングを実施いたします。   この際、秋下雅弘様に一言申し上げます。オンラインで参加している関係者がおりますから、座ったままでお話を差し上げることをお許しくださいますようお願いいたします。本日はお忙しい中、資料をあらかじめ調えてくださり、その他の事前の御用意も頂いた上で本日この部会に御来駕を賜りまして、誠にありがとうございます。本日御意見を伺い、今後におけるこの会議における調査審議に活かしてまいりたいと考えるものでございますから、何とぞよろしくお願い申し上げます。   それでは、秋下参考人、どうぞよろしくお願いいたします。 ○秋下参考人 では、よろしくお願いいたします。私は主に、認知症の方の判断能力をどう考えるかというようなことでお話をさせていただければと思います。ちなみに私は医師で、老年科医というものです。小児科医に対しての老年科医と考えていただくと分かりやすいかなと思いますが、余りまだ皆さんの周りにおられないと思いますので、希少種かなと思います。   それで、まず最初の質問は、本人の判断力について医学的見地から診断する際、実務においてどのような観点や情報に基づき診断しているのかということで、我々がどのようにしているのかというお話をさせていただければと思います。いきなり認知症に行く前に、年齢とともに記憶力というのが落ちてくるということであります。それがこのオレンジの点線でございまして、一見その辺は認知症の方と途中までは見分けが付かないのですが、あるところから乖離してきて、認知症の方の経過の中では様々な問題が出てくるということです。   ちなみに加齢に伴ういわゆる物忘れというものの中でも、単純な記憶である流動性知能ですね、神経衰弱をやったときの記憶力とか、瞬時にそれを取るようなスピード感、そういったものはほぼ年齢に伴って低下するとされていますが、一方で結晶性知能といって、こうやってまとまったお話をするとか、そういうことについてはむしろ老年期の方が高いというものもあって、一概に年齢とともに落ちてくるというわけでもない。ここにおられる方々は皆さんも自信を持っていただいていいようなものもあるということでございます。   そういうことで、認知機能が徐々に低下してくるわけでございますけれども、いわゆる認知症の方に認められる症状の中で大きく、中核症状と、これが認知機能の低下でございます。判断力、記憶力、見当識、言語、失行、失認とかでございますが、一方で、よく一般の方あるいは認知症の家族の方が問題にされるのが周辺症状、我々の言葉でいうと行動心理症状、BPSDと呼んでおりますけれども、徘徊とか妄想あるいは暴言といったような、そういう行動がございます。ただ、一般的にこの行動心理症状というのは周りの環境との応答性ですね、我々も何か怒ったりとかいうようなことはあるわけですけれども、そういうところにかなり影響を受けていると考えられておりますので、BPSDが必ずしも認知症の重症度を表しているわけではないということは御理解いただければと思います。   認知症の診断がどのようになされるかということで、アメリカの精神医学会の診断基準が使われているわけでございますけれども、まず1に、認知機能の障害がある、認知機能の低下があるということであります。もう一つは、その認知機能の障害の結果、社会的職業的機能の低下があるということで、実際には我々はそれをADL、日常生活の活動度と日本語で訳されておりますが、そのADLの低下などで見ていくということになりますので、認知症の診断及び重症度の判定において、この認知機能の低下とADLの低下というものの両面、二つの面を見ていくということになります。   認知機能の低下については、前のスライドでお話しましたような遂行機能、失語、失行、失認等の記録に関わるもの、あるいは注意力、こういったものが含まれるということで、この辺については神経心理学的検査等である程度判断できるということになります。   我々がよく用いているものということで、先ほども出ておりましたけれども長谷川式ですね、これは長谷川先生という方が作られたものでございますけれども、今日は何年何月何日何曜日ですかという時間の見当識であったり、桜、猫、電車に代表されるような3単語をまず覚える、これは大体の方ができますが、その間に計算とか数字の逆唱などを入れて、もう一度聞くと、それが思い出せないと、それに対してヒントを与えたりもして、出るか出ないかというところで、ここは6点が付くということになります。あとは5物品の記憶とかですね、例えば野菜の名前というものがありますけれども、5個までは0点でございまして、6個言わないと1点にならないというのは結構難しく、しかもふだん料理をしない方、男性の方、ここにおられるかもしれません、私もそうかなと思いますけれども、そういう方の方が苦手であったり、少しこの野菜の名前というところが、動物の方がいいのではないかとか、そういうようなこともあります。ただ、実際には定型ですのでこれを使わせていただいていて、30点満点で20と21の間にカットオフがあって、20点以下ならば認知症らしい、認知症が疑われるというスコアになるということでございます。   それとよく似たもので、ミニメンタルステートイグザミネーション、通称MMSEと略して呼ばれるものがありまして、長谷川式は日本で作られたのに対して、MMSEは海外でということで、海外の論文とかそういうものを意識した場合には、このMMSEが主に使われております。よく似ている部分がありまして、例えばここにある時間ですね、何年何月何日何曜日かと、それから場所、そして物品の3個の名前を覚えて、やはり途中に100引く7を7回繰り返すというようなことがありますが、その後でもう一度聞くと覚えていないというようなことです。この後が少し長谷川式と変わりまして、幾つかの命令に従えるかどうかという比較的簡単なものが続くのですが、最後にこの図形を描いてくださいというようなものがあって、視空間認知能といいますけれども、こういうものを問うものもある。合計はやはり30点でございますが、カットオフポイントは長谷川式と違って、こちらは23と24の間にあるというようなことになっていますということです。   これらを見ていただきますと、例えば聴覚障害がある方、あるいは目で見るものもありますので視覚障害がある方、あとは言語の、何かの病気で失語になっている方というような方はなかなかできませんので、そこをどういうふうに正確に判定するかという問題もあるいうことになります。それと、我々は認知症を疑って来られた方にこういう検査をするわけですが、こういう検査を逆にそうではない通院患者にいきなりいたしますと、激怒される方がおられるということで、やはり自分が何をされているかというのが分かりますので、そういうのを向こうが求めていない現場でするというのはなかなか、また問題があります。本人の承諾がないと、こういうものもしづらいということでございます。   それと、認知機能とADLということなので、ADLを例えばどういうふうに評価するかというのを載せていますけれども、まず手段的ADLというのが落ちてまいります。買物や家計管理、服薬管理ということで、認知症の方が毎日スーパーで同じものを買ってきてしまうので、冷蔵庫を開けると同じものがぐっと下に入っているとか、おつりがきちんと出せないので、大きなお札を出して小銭がたっぷりになってしまうとか、薬の飲み残しが大量にあるとか、食事が、以前は料理が上手だったのに、最近少し味がおかしくなってきているとか、簡単なものしか作れない、そういうようなところが出てまいります。こういったものは独居能力と関係してまいりますので、この手段的ADLを見ることで、この人が一人で今後住み続けられるのかというようなことをある程度我々も判断させていただいていると。   それが更に進んでまいりますと、ここに挙げたような移動とかセルフケアに関する機能が落ちてまいりまして、これらが基本的ADLといわれるものになります。特にアルツハイマー型認知症の方の場合には、トイレに、気がつくと漏れそうになっていて、漏らしてしまうのですね、尿失禁をしてしまうとか、こんなに暑い時期でも厚いセーターを着ているとか、身だしなみが整っていないとか、あんなにおしゃれだった方がこんなふうになってしまっていると、こういうようなことがございます。ということで、認知機能とADLの評価をお示ししました。   こういうことをまず行った上で、さらに認知症にも、認知症というのは症候群でございますので、原因となる病気がございます。アルツハイマーが実はそういうものの6割ぐらいを占めているので、皆さん、一般の方もアルツハイマーで物事を考えられることが多いのですけれども、実際にはそれ以外のレビー小体型、血管性、前頭側頭型といったような病気があり、例えばレビー小体型ですと幻視ですとかパーキンソン症状が出たり、逆に言うと、パーキンソン病の方がこのレビー小体型に進行してくることもございますし、脳血管性の場合には階段状の進行ですね、こういうものが見られたり、前頭側頭型は比較的若年者でも出てまいりますけれども、毎日散歩に行って同じごみ捨て場から同じような何かがらくたを拾ってくるとか、例えば万引きをしてしまって、これが社会人でも結構出ますので、万引きを繰り返して会社を首になって、実は後でこの前頭側頭型認知症でしたなんていうことがございます。血管性は動脈硬化等に基づく血管の病気ですけれども、アルツハイマー、レビー、そして前頭側頭型は、それぞれ脳にある種のタンパクがたまるというようなことで、こういうようなものが診断の補助にもなる場合があるということであります。   診断の補助になるとは言いましたけれども、今のところこれが分かるのがアルツハイマーでございまして、アルツハイマーの方の脳にはアミロイドβというものを主成分とする老人斑という大きな染みのようなものですね、こういうものが脳にあって、あるいはタウというタンパクを主体とする神経原線維変化という、この涙のような構造物がありますが、こういうものがたまってきています。これらのタンパクは神経に障害をもたらすので、周りの神経細胞が脱落していきます。死んでいきます。その結果、最終的には脳が萎縮してくるということが起きるということであります。   アミロイドβなのですが、実は50代ぐらいからたまり始めるということが言われていまして、やはり一つの加齢変化であるということです。ですので、認知症のない方でもアミロイドβは多少はたまっている方は結構、亡くなった後に病理学的に見ると、いらっしゃるということになりますが、これが量が増えてきますと、更にその後のタウの蓄積につながってきます。アミロイドβがたまるとタウがたまりやすくなるということが分かっていますし、こういったタンパクがたまると神経障害が起きて軽度認知障害、MCI、マイルドコグニティブインペアメントといわれる状態を来し、更にそれが進むと認知症と呼ばれる状態になるということでございます。   ただ、アミロイドβがたまっても、認知症の症状は呈さないまま亡くなる方というのも結構いらっしゃいますので、必ずしも病理学的な変化と症状というのは一致しないということになります。今、アミロイドβの蓄積というのはアミロイドペットと呼ばれる検査で検出が可能になっています。かなり高額な検査なのですが、可能ではあるということです。   今御説明したような病気のほかに、感染であるとか腫瘍、それから内分泌障害、代謝異常、循環障害、そして薬物そのほかのものでも認知症、あるいは認知症に類似した症状は呈するということになります。時々、肺炎などで入院された高齢者の方が、どこが何だか分からなくなってしまうせん妄という状態を呈されて、認知症に詳しくない医療者などがそれを認知症だと言ったり、家族もそう思ったりしますが、実は必ずしもそれが認知症とは限らないということになります。鬱病とかてんかんについても同様でございまして、ここは認知症の原因疾患と書いておりますけれども、むしろ認知症と鑑別するべき疾患ということになりますので、飽くまでも認知症というのは長い経過の中で認識の低下が認められ、しかも進行していくようなタイプのものを指しているということになります。   今示したものの中に、いわゆる治る認知症というのもあるということでございまして、例えば、この方は転倒して頭をぶつけて、頭部打撲後に認知機能の低下が出たという方ですけれども、CTを撮りますと、ここに血腫という血の塊がありまして、血腫除去術といってこの血の塊を抜くと認知機能が戻ったと、こういうケースもありますので、それは本当の意味での認知症ではないということにはなるかもしれませんが、そういうトリータブルなものも含まれていることがありますということです。   さて、皆さんの疑問に答えるべくこの表を作成いただいたのですが、言いましたように、認知機能とADLというものを見て認知機能の重症度を考えます。そして、健常、軽度認知障害、軽度から重度の認知症というような重症度判定もするということになります。それぞれ認知機能は低下し、ADLも低下していくわけですが、さて、その方々の判断能力はということで言いますと、例えば重度の認知症になると、もうコミュニケーションをとるのも難しくなります。例えば、長谷川式とかMMSEももう0点ということになりますので、そういう方にはやはり判断能力というのはもう余りないだろうということになるので、こういう方々が判断能力というのは、それほど難しくない。しかし、このMCIから軽度辺りが特になかなか、ここにも疑いとか何とか書いてありますけれども、どの程度何ができるのかということは医学的にも難しいということになります。   そういうことに基づいて、医学的見地からの評価として本人の判断能力についてどういった評価がなされるのかということなのですが、先ほど示しましたように、例えば長谷川式とかMMSEは構成要素がありますので、どういう部分が落ちているのかとカテゴリー別に見ていくことはできます。MMSEについても、このようなものを見て、どこができないからこういうことはどうだろうと、記憶はできないでしょうねとか、そういうことが分かるということにはなります。   そして、そういうものを特出ししたものの検査もございまして、このスライドは運転免許の高齢者講習で行われている認知機能検査の一部なのですけれども、この数字がだっと書いてある中で1と4に斜線を引いてくださいと、それをなるべく早くやらなければいけないのですけれども、このように評価ができますと。注意機能とか遂行機能を見ることができますし、例えばこれですと、10時10分を時計で書いてくださいと、真っ白なところに文字盤も全部自分で書かなければいけないのですけれども、これは視空間認知能といったものが見られるということになります。   これがその説明ですけれども、長谷川式やMMSEでも、認知機能全般に加えてカテゴリーについては評価が可能であると、そして、それぞれ特異的な検査を追加すれば、その部分が落ちているのかどうかということはより精密に評価はできます。ただ、これらの検査というのは結局、具体的な状況に応じた判断能力を想定しておりませんので、類似していたとしても、あることができるかできないかというのはなかなか判断が難しいということになります。そして、もちろん病型によってその後の進行も違いますし、体調や人生背景ですね、どういう生活をされていて、家族でどういうふうにおられてというようなことも今後の判断能力に大きく影響してきますので、そういうものによっても変わるだろうということになります。   それと、検査なのですけれども、MRIやCT等ですね、よく認知症の診断をしてほしい、認知症を診てほしいのでこういう検査をしてくれと言われるのです。逆に、これらの検査は認知症であるかどうかの検査ではないということなのです。飽くまでも病型診断、あるいは病理診断ですね、アミロイドが陽性であるとか、そういうことを行うものであって、そのことで補助的に経過の予測などが分かります。例えば、アミロイドペットあるいは髄液検査で陽性になって脳萎縮が認められれば、そういう方の経過は悪いでしょうということはある程度分かりますけれども、そのことだけで、逆に言うと、認知症かどうかの判断も実はできないということで、認知機能や判断能力というのは別のものであると、補助診断ツールにとどまるということになります。   例えば、実際のケースとして1例だけお見せしますが、80歳の男性、自営業の方で、糖尿病等々の病気がある、こういうものも影響しますので、確実に聞いておく必要があります。飲み忘れが多く、それが糖尿病のコントロール不良の原因でしょうねと、食事のことも忘れてしまうと、本人には記憶障害の自覚がない、本人は年齢相応、これぐらいは誰にでもありますよねとおっしゃるけれども、それにしてはひどいねと。先ほどの長谷川式やMMSEはこのようにある程度落ちていて、ADLも手段的ADLについてはいろいろできないことがあるということが分かりました。一方で鬱的ではないし、意欲もある程度保たれている。妻と同居されているので、その方の助けを借りて、できない手段的ADLは何とか生活の中で支えられているということでございます。脳萎縮はない。アミロイドペットを、抗体薬などもありますので、行ったところ、陽性であると。   こういうことで、この方は軽度認知症で、しかもアルツハイマー型であると診断をしましたが、さてこの方の問題解決能力はということになると、軽度でございますので、ちょうど一番難しい辺りなのです。何ができるか、何ができないかというのは、なかなか難しいよねと、10回に1回ぐらいはできるかもしれないけれども、半分ぐらいできないかもしれないしというようなことになるので、診断書としてそういうところまで付してお返しするというのは、医療現場の判断としてはなかなか難しいということになります。   私からの説明は以上になります。ありがとうございました。 ○山野目部会長 どうもありがとうございます。一言、まことに興味深かったですね。   委員、幹事から、どうぞ御随意のお尋ねをお出しくださるようお願いいたします。 ○小澤委員 秋下理事長、本当に参考になる話をありがとうございました。私から2点御質問させていただきます。   1点目なのですが、今後の新しい成年後見制度については、利用に当たって原則として御本人の同意を要するという制度設計にしてはどうかという議論がなされています。もっとも本人に制度の利用が必要と思われる場合であっても、同意をする能力がない場合も考えられると思っています。いわゆるセルフネグレクトのような事案では、その事象が本人の意向や生き方として生じているものなのか、若しくは判断能力の喪失に起因しているものであり、そもそも同意能力がないと評価すべきなのか、その見極めというのがすごく重要になってくるように思っています。制度設計に当たって、本人の同意能力の有無についての診断も今後必要になってくることが考えられると思っているのですけれども、そのような診断をすることについては、その可否も含めて、どのようにお考えになられるかというのが1点でございます。 ○秋下参考人 では、まずお答えします。3個ぐらい聞かれますともう覚え切れませんので。   先ほど少し表でお示ししましたが、かなり、逆に言うと、こんなに遅くまで、まだ進むまで放っておかれたのかというぐらいの方が受診されることがございます。それこそ本人の拒否があったのかもしれません。そういう方で、例えば長谷川式などをやって、本人が拒否されていれば別なのですが、本人が答えようとするけれども全然答えられない、0点であるということになると、なかなかその同意能力というか、少なくとも理解をして同意をされようとしているのかどうかということの判断はできないのだろうと、そういう意味では同意能力はないかなというぐらいのことはできます。ただ、その前ぐらいの段階で、ある程度の点数を取られるような方ですね、こちらの指示に従ってきちんと回答されて、時には間違えてできなかったり、そういう方ですと、なかなか同意能力というところが、同意あるいは理解を含めた同意能力というところがどこまでできているのかというのは難しいのではないかと思いますので、私どももそれを聞かれると、なかなかこの方でと言われても難しいです。一つ目は以上でよろしいでしょうか。 ○小澤委員 はい、ありがとうございます。   2点目なのですが、今般の法改正の議論の中で、法定後見制度の利用に関する判断能力について、代理権の付与を求める法律行為ごとに、その法律行為について判断能力が不十分かどうかを評価すればよいのではないかという意見がございます。不動産売却であるとか、遺産分割の手続であるとか、相続放棄の手続といった特定の法律行為ごとに、判断能力が不十分かどうかを医学的に診断することというのは可能なのでしょうかということです。 ○秋下参考人 ありがとうございます。逆に包括的に聞かれると難しい面があって、パーツ、パーツで聞いていただいた方がこちらが答えやすい部分はあるのですが、だからといってそれぞれに答えられるかとなると、同じ答えで申し訳ないですけれども、やはりそこもまた難しいということにはなります。ただ、その中では、これは明らかに無理というところはあって、無理ですねというところは逆に分かりやすいのですけれども、できますかというのがなかなか答えにくいというのは、我々としては回答しにくいというのがあります。 ○小澤委員 ありがとうございます。 ○加毛幹事 ありがとうございます。ただ今の小澤委員の御質問に関連してお尋ねしたいのですが、小澤委員が挙げられた例はいずれも、ある行為がいかなる法的な効果を有するのかということを本人が理解しているかどうかにかかわるように思います。同意能力については、後見開始審判を申請し、審判が下されると、自分一人では有効に契約をできなくなる、あるいは、他人が自分の代わりに契約をすることになるということを理解できるかが、問題となります。また、相続放棄については、自分が相続するはずの財産を得られなくなる一方で、自分が負担しなければならない債務は免れられることを理解しているのかどうかが、法的には重要なポイントになります。しかし、そのようなことを医学的な見地から判断するのは難しいのではないかと思われます。本日の御説明の中で、例えば日常的に買物をしたり、料理をしたりするということであれば、医学的な判断も可能であると思うのですが、問題となる行為が有する法的意味を理解するの能力があるか否かを、医学的に判断するのは難しいのではないかと思われます。その点について、補足的にコメントなどを頂ければと思います。 ○秋下参考人 ありがとうございます。そこは本当におっしゃるとおりで、我々が逆に、そこは大丈夫ですと、この方は理解されて同意される能力がありますというようなことを言うことは、多分無理だと思います。責任を問われるような判断を求められるとしたら、善意で何かをすることはできるかもしれませんが、責任がこちらに来るとなりますと、なかなか難しいということになりますので、本当におっしゃるとおりかなと思います。   私どもで、要するに日常生活でやっておられてできること、できないことが分かっていて、それができるのかできないのかというのは、同じことの繰り返しなのでいいというのは、正に御質問のとおりですけれども、似たようなことで言いますと、医療同意というのを我々、日常的に取得していますが、そこも起きたことがないことなので、こうこうでこういうことが起きるかもしれないし、こういうことがあるかもしれないのだけれども、それはきちんと理解をして、この手術の同意書にサインをしてくださいみたいなことをやっていますが、どこまで十分に理解されているかということは我々も自信がないです。それなので、いつも家族等にカウンターサインをしていただいて、一緒に同席していただいてあなたも聞いていましたよねということで、一種の免責みたいなことをさせていただいているということにはなります。それに近い部分があるのかなと正直思いました。ありがとうございます。 ○竹内委員 秋下先生、ありがとうございます。私は質問1点でございます。成年後見制度は、例えば、認知高齢者の方に対して、その方を支援する人に権限を与えるという制度です。権限とは何かというと、その御本人のために法律行為の代理をする代理権であるとか、御本人がやった行為について、それを取り消すという取消権、これが権限となります。   その場合、御本人を支援する方に権限を与える場合の要件には、大きく二つの考え方があると思っています。一つは、御本人が同意をされていれば支援者に権限を付与していいと、もう一つが、御本人が嫌だ、やめてほしいと言っていなければ権限を付与していい、つまりは前者は本人の同意をすることを要件とし、後者は本人が反対の意思を表明することを要件とする、この2つの考え方があると思うのですが、軽度の、あるいは中等度の方も含まれるかもしれませんが、認知の高齢者の方にとって、あることについて同意をすることと反対をすること、これはどちらの方がしやすいのか、負担なくできるのかということについて、一定の傾向、一般論というものがあり得るのか、いや、そういうのはやはり、先生のスライドにもあるように、本人の人生背景とか生活環境によってケース・バイ・ケースであって、一定の傾向、御本人にとってどちらの方がやりやすい、負担が少ないというのはやはり言えないのか、その辺りが気になっておりまして、教えていただけたらと思います。 ○秋下参考人 ありがとうございます。非常に重要な質問かと思います。同意あるいは同意能力というのは、これまでの質問に対して私の答えたとおりなので、積極的に同意するという行為が、あるいはそこへ持って行くとか、そこの能力が確かなのかというところは難しいかなと思いますし、逆に言うと明確に否定されないということをもって、拒否ではないということですね、それだったらいいでしょうというような考え方であるならば、多分後者の方が現場としては判断しやすい、それだったら明確に否定しない場合は一応オーケーとして進めていくという考え方ですかね、それの方がやりやすいし、そこら辺の曖昧な部分も含めてということになるので、その曖昧な部分を含めて、こちら側であるならばそれを判断してもらえればいいと言われた方が、我々は否定はしていないという状況を、すみません、いい言葉にならないのですけれども、否定はしていないという状況であり得る、この人がそういう状況だという判断はしやすいです。はいと言われたときに、本当にその人が分かっているのかなというのは、逆に疑問に思ってしまいますので。ただ、もちろん誘導の仕方でどちらとも行きますので、先ほどの参考人の質問にもありましたけれども、どなたかがおられてこうこうというので、例えば我々が、こちらではないですかみたいなことを誘導すれば、そちらにも行くし、極めて移ろいやすいような状況にあるのが、正に軽度の認知症とか、その前の軽度認知障害の方々かなと思います。 ○竹内委員 どうもありがとうございます。 ○山野目部会長 引き続き伺います。 ○根本幹事 3点お伺いしたいと思いますが、先ほども一つずつということでございまして、一つずつお伺いいたします。   今日の先生のお話の中で、認知症の診断において、認知機能の低下とADLの低下と、この二つの要素で判断をされるというお話を頂いたかと思います。先生方が診断される上で、認知機能の低下は先生方の御判断かと思うのですが、ADLの低下を確認するためには御本人の日常生活の御様子をお伺いするということが必須になるかと思います。もちろん先生とお付き合いが長い患者様であれば、先生が御存じということもあるかと思いますが、日常生活の御様子が分からないということになりますと、御家族ですとか、若しくは介護事業者等から御意見をお伺いされるということかと思うのですが、ADLの低下というのは認知症の判断においては欠かせないものであるということで理解をしてよいかどうかということを、まず確認をさせていただければと思います。 ○秋下参考人 ありがとうございます。認知症であるかないかという、その診断をする最も重要な根拠がADLの低下なのです。認知機能が低下しているだけで実はADLが低下していない方は、軽度認知障害という認知症の前の段階という診断になります。だから、MCIという軽度認知障害と軽度の認知症という、大きな認知症かどうかの境界を分けるものがADLになりますので、ADLの判断というのは非常に重要になります。ということでよろしいでしょうか。だから、そこがもし情報として十分でないならば、その判断というのはなかなか難しいということになります。 ○根本幹事 ありがとうございます。2点目ですけれども、今の特にADLのところに着目してお伺いをできればと思うのですが、いわゆる認知機能の低下はあるけれども、ADLが、例えば、ある時期と少し時間経過がたった時期を比べた際に、認知機能の低下については、徐々に低下していくことはあるということだと思うのですが、それにもかかわらずADLはいろいろな環境等の面から見て向上しているというのは、今までの御経験の臨床のケースの中でおありになるのか、もし御存じでしたら教えていただければと思います。 ○秋下参考人 ありがとうございます。厳密な意味では、認知症の方のADLというのは認知機能障害に伴うものですので、認知機能が低下している場合に、ADLが余り変わらないということはあったとしても、改善するということはないです。もし改善しているように見えるとすれば、それは、例えば御家族とか公的な介護などを使ってそれを支えているという部分があるので、生活が破綻していないというふうに見えるだけでございまして、いわゆる日常生活能力という意味では確実に落ちているはずでございますので、並行して動くものと考えていただければと思います。 ○根本幹事 ありがとうございます。3点目なのですが、先ほどの加毛幹事の御質問とも関係するかと思いますけれども、例えば長谷川式ですとかMMSEでは具体的な状況に応じた判断能力を想定しておらず、その評価は困難ということで、できるという評価は非常に難しいということでした。ケースによってできないと評価をするということはあり得るのではなかろうかというお話を頂いたかと思いますが、具体的な状況に応じた判断能力を想定して、できないと評価をする方法として、何か長谷川式ですとかMMSE以外のもので、通常の専門医の先生方がとられる、何かそういった手法がもしありましたら、御紹介いただければと思います。それを専門医でない、例えば一般の内科医の先生なども行うということは、現実的なことなのかどうかということをお伺いできればと思います。 ○秋下参考人 ありがとうございます。認知症がある程度やはり進んでいっている状況の方になるかと思います。したがって、その特別な検査というものは実は余りないのです。なので、むしろ、先ほど示しました手段的ADLと基本的ADLとありましたけれども、手段的ADLが低下している、あるいは更には基本的ADLが低下している、特にそういう進んでいる方で、もうできない、能力が落ちているという方の場合は、基本的ADLの方に問題がありますので、日常生活の状況さえ分かればある程度判断することはできます。ということになると、これは専門医である必要はなくなります。掛かりつけ医で十分でございますので、むしろ専門医の腕の見せどころというのは、ぎりぎりのところですね、この人が少し落ちているのかどうかとか、認知症のところまで入っているのか、MCIなのか、あるいは2、3か月後にはどうなるのかみたいなものの予測を付けたり、そういうところでございますので、判断能力うんぬんのところが関わるようなものについては十分、専門医でなくても行けるかなと思います。 ○根本幹事 ありがとうございます。 ○山野目部会長 引き続き伺います。 ○青木委員 本日はありがとうございました。認知機能あるいは判断力、理解力ということについて、どう考えたらいいのかということで、教えていただきたいということになります。例えば、御本人さんが認知症等になられまして、自分が生活するには年金をもらっているのは分かっている、年金が通帳に入るのも知っている、でも、その年金を出す方法が分からない、したがって、年金を出さなければ、銀行に行かなければということまでは今も分かるのだけれども、実際には出す方法が分からない、それは誰かに教えてもらえれば、それに従って行動はできるけれども、一人でやってと言われるとできない、これは御本人さんの能力のどういう部分ができて、どういう部分ができないということで説明可能、理解可能なのかというご質問になります。   また、施設に入りたいというのは自分で考えられる、施設にいれば食事もいろいろなことをしてもらって安心だから、そうしたいというのは自分で決めることができるし、反対に、私は施設は嫌で家にいたいということは決められるのだけれども、そのために介護保険を使うとか、利用契約をしないといけないとか、お金をどの程度払わないといけないということは、説明してもよく分からない、こういう理解の程度の方は、認知症の方でもあり得る状態であると思っているのですけれども、それを医学的に言うと、どのように説明をすればいいということになりますでしょうか。 ○秋下参考人 まず、銀行からお金を下ろす、下ろせないというようなところは、正に認知機能の中では遂行機能ということになりますが、実は複雑にいろいろなことを使いますので、一言で遂行機能と我々は言ってしまうのですけれども、例えば、やはり記憶力が大きくは関わっています。手順をやはり覚えるということになりますので、その手順を記憶して、それに従ってこうこうとやっていくと。暗証番号だったら暗証番号を覚えるとか、紙を見ながらやればいいという話にはなるのでしょうけれども、それに従ってやってくださいというようなことなので、ある程度遂行機能の検査をすると、そういうものができるかできないかというのが分かりますし、あと、非常に具体的な手順であれば、それをシミュレーションしてやってもらえばいいので、実際にやったらできる、できないということで、そのこと自体ができるかできないかというのは分かると思います。それが一番、それをいかに医療の現場で我々は落として見ているかということになりますので、日常生活の中で、あることができるかできないかは、むしろ判断いただいた方が早いし、その情報が正確に我々医療者に伝われば、それはできるできないというのは我々は、そこに対してサインをするということですね、カウンターサインをすることはできます。   一方で、介護保険うんぬんのことになりますと、少し制度が関わることなので奥行きが深くて、どこまで理解されているのかなというのはなかなかには難しいです。実際に我々は介護保険の認定というのを取っていただいた方がいいということでお話をして、申請を頂いてというのを認知症の方にもやっていただいています。これは不利益がないと我々は考えるので、やっています。生活が成り立たなくなりますので、お金さえあれば、やっていただいた方がいいということになりますので、それを出した方がいいか出さない方がいいかというのは余り考えていないのですけれども、そこまで大丈夫かということになると、正確に分かって利益、不利益を考えてやっていただいているかということになると、少しそこは難しいですね。 ○青木委員 ありがとうございました。 ○山野目部会長 引き続き委員、幹事の皆さんから伺います。いかがでしょうか。 ○野村(真)幹事 本日はありがとうございました。現行の成年後見制度の診断書の様式は、契約書等の意味内容を自ら理解し判断することを評価の基準に設定して、それを基準に3段階に分けていますが、これについて御意見等があれば、お伺いさせていただきたいと思います。 ○秋下参考人 3段階というのはどういう段階なのでしょうか。例えば、それが明らかにできるとか、できる、できない、分からないというものだとしたら、それは我々は、できるかなと、分からないという回答になるケースが多いかもしれませんが。そういうことでしょうか。 ○野村(真)幹事 ありがとうございます。今は、支援を受けなければ契約等の意味内容を自ら理解し判断することが難しい場合がある、支援を受けなければ契約等の意味内容を自ら理解し判断することができない、支援を受けても契約等の意味内容を自ら理解し判断することができない、こういったチェック項目になっております。 ○秋下参考人 なるほど。我々がその内容をよく理解していないので、すみません、正確ではないかもしれないのですけれども、そういう選択肢であるならば、付けてお返しすることはできるかもしれないです、多くのケースでは。ただ、できないケースもあるかもしれないので、どちらだろうというのがやはり判断に迷うケースがありますので、必ずどこかを付けなければいけないとしたら、どれも判断できないという選択肢がないと、一律には返せない可能性があります。要するに、白紙で返される方がやはり出てくるのかなという気はします。私にはできませんとかですね。   やはり今、医療の世界というのはかなり難しくなっていますので、いろいろな意味での責任を取る、取らないということでですね。やはりある程度、善意で成り立っているのですけれども、患者さんとか御家族からのクレームもすごく多くなっていて、これは権利意識の高まりとかということがあるのですけれども、そういう中で医療が萎縮しつつありますので、このままの状況で行くと、今までは善意でやっていたものを、それができなくなってきてしまうというふうに思っていますので、余りかちっとしたものを、白黒はっきりしろというようなことを答えてくれというと、答えられないという方が多くなってきてしまうかなとは思いますので、曖昧さなどを持たせていただく必要があるのかなと思います。 ○山野目部会長 野村真美幹事、よろしいですか。 ○野村(真)幹事 ありがとうございます。あと1点よろしいでしょうか。先ほどの根本幹事の質問と重なる部分もあるかと思うのですが、一般的に診断書の作成を依頼する場合、取得目的が特にない場合と、何か具体的な法律行為をするためという目的が提示されている場合、例えば、私ども司法書士が不動産売買のために売主の判断能力を確認したいということで診断書をお願いしたりするケースがありますが、そういった場合にお医者様の聴取事項や検査項目に違いがあるかということと、また診断書の記載事項に違いがあるかどうかについて教えてください。 ○秋下参考人 ありがとうございます。今日御紹介したようなもの、特に長谷川式、MMSE、それはどちらかの場合もあります、似ているものなので。両方行っているところも多いですけれども。そのぐらいは多分付けて書いてくださるのかなと思います。それから、ADLに関しても付けていただけるところも多いかなと思いますが、まだそれも実は標準化されているというか、どなたでもやってくださるというわけでは、認知症の診療現場でも皆さんがやってくださっているわけでもないのです。なので、それは付いていない可能性もあります。あと、それ以外の検査になると、例えば診療所、クリニックですと、そういう大型の検査機械等はないので、そういうものはないと、その中で判断していくということになるので、最低限、長谷川式ないしはMMSEだけで、こういう状態にあるというような意見書が返ってくる可能性があります。 ○山野目部会長 よろしいでしょうか。 ○野村(真)幹事 ありがとうございました。 ○山野目部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○佐野委員 三井住友銀行の佐野と申します。銀行の立場で一度お伺いしたいなと思っているものがありまして、手段的ADLの中に家計管理というのを今記載いただいています。この家計管理というのはどの程度のものを指してここで判断するのかなというのを少しお伺いしたく、例えば、銀行取引で預金という観点で考えますと、自分が口座からお金を引き出しに行ったら自分の財産が減ることを認識できることを指すようなイメージなのか、それとも、私は今この口座からお金を何に使おうとしているという目的までを持って引き出しができるといった管理になるのか、その辺りの家計管理がどの程度を指すものが一般的なのかということをお伺いできますと有り難いです。よろしくお願いします。 ○秋下参考人 ありがとうございます。非常に重要な質問かと思います。我々のこの家計管理のところの考え方は、正に財産、例えば、銀行からお金が下ろせるからといってどんどん下ろしていって、どんどん買物をしてどんどん使ってしまっているという状況は、それは家計管理ができていないという考え方になりますので、適切に持っている財産を減らさないようにとか、無駄遣いしないように管理されている状態となります。ということでよろしいでしょうか。 ○山野目部会長 佐野委員、いかがですか。 ○佐野委員 承知しました。イメージが湧きました。ありがとうございます。 ○山野目部会長 秋下参考人にお教えいただきたいと考えます。銀行に赴いて100万円引き出すというときに、100万円が減るということはもちろん理解しているということが望まれて、そこのチェックはしなくてはいけないし、すると思うのですが、100万円を引き出すのは家のリフォームに使うために引き出すのですと、だけれども、周りから見ている分にはリフォームをする必要なんか全然ないのに、そのつもりで100万円を下ろしているというふうな行動に出たときに、それはこの家計管理という概念との関係から言うと、100万円減るということを理解しているから、それでひとまずよしとしようということになるのか、リフォームの要否まできちんと考えることができていないけれども100万円下ろしてしまいましたねというところを更に追求していくような話も視野に入ってくるのかといったようなことについては、医療の診断の現場では何かその向き合い方において考えておられるようなことがおありでしょうか。 ○秋下参考人 ありがとうございます。実際には話として我々のところでは余りないのですけれども、ただ、通帳を見るとどんどんお金が減っていっていると、娘さん等が御覧になったときに、一体何に使っているのだろうかみたいなお話を頂くことがあって、それは多分不適切にお金を下ろされているということになるので、本人的には何か適切な使い方をしようと思っておられるのかもしれませんが、されていない、それは家計管理という手段的ADLに障害が生じていると我々は考えます。 ○山野目部会長 分かりました。ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   それでは、秋下参考人に改めて御礼を申し上げます。我々、認知症の専門のお医者さんというふうなイメージでふだん考えてしまいますけれども、秋下参考人のお使いになった言葉あるいは推奨なさった言葉で言うと老年科でしょうか、老年科の先生のお話がこれだけ伺っていて本当に興味深く伺うことができるお話であるということが、よくわかりました。今日はすごくいろいろなことがすっきりしましたし、楽しくお話を承ることができました。小児科と同じくらいに、やがて老年科という言葉がこの国に普及して定着していくことによって、先生が今日してくださったようなお話に社会全体が関心を持ってくれるようになると期待しますから、引き続き先生にいろいろお仕事をなさっていただきたいと望みますし、私どもの会議でも、これから検討を深めていくに際して、またいろいろお尋ねを差し上げることもあるかもしれませんけれども、引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます。今日はどうもありがとうございました。 ○秋下参考人 ありがとうございました。 ○山野目部会長 休憩といたします。           (休     憩) ○山野目部会長 再開を致します。   続きまして、信託協会からのヒアリングを実施いたします。   この際、竹内慶太様、川島崇史様、渡部和弘様、加藤亮吾様、清水順子様に一言申し上げます。本日はお忙しい中、資料を調えてくださるなど事前の御用意も頂き、この部会に御出席を賜りました。誠にありがとうございます。この部会においては、御案内を差し上げているとおり、成年後見制度の見直しに関する調査審議をしております。本日頂戴するお話を活かし今後の部会における検討を深めてまいりたいと考えておりますから、どうぞ忌憚のない御意見をおっしゃってくださるようにお願いいたします。   それでは、どうぞよろしくお願いいたします。 ○竹内参考人 よろしくお願いいたします。今年度、信託協会で会長会社を勤めております三菱UFJ信託銀行経営企画部の竹内と申します。本日はこのような場で発言の機会を頂きまして誠にありがとうございます。   信託協会からはお手元の資料に沿いまして、成年後見制度改正に係る課題と検討の方向性についてと題しまして、まずは信託協会とはどのような業界団体であるのかを簡単に御説明させていただいた後に、後見制度の見直しに関し、信託固有のサービスである遺言信託、後見制度支援信託においてどのような課題、対応策が考えられるのかを御説明させていただきます。委員の皆様からの貴重な御意見、御示唆を頂戴し、私どもとしましても今後の検討にいかしてまいりたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。   では、早速ですが資料に沿いまして、まずは目次を飛ばしまして、次の資料右肩のページ番号の1ページを御覧ください。信託協会の簡単な紹介のページとなります。信託協会は1926年1月に設立されまして、来年2026年1月に100周年を迎えます。現在、加盟会社は信託銀行に加えまして信託会社や地方銀行など91社となります。信託に関する法規制が初めて整備されてからこの100年の間、時代や社会の変化、ニーズに応じまして、信託の仕組みを活用し、資産の管理保全、資産の運用、資産の承継といった様々な機能を提供してまいりましたが、足元では新NISAによる投資信託の拡大等もありまして、2025年3月末時点の信託財産の総額は1,825兆円に達しております。これは10年前と比較して約2倍増加と、世の中で広く信託を活用いただいているところだと思っております。   現在議論されております成年後見制度の見直しにおきましては、信託固有の商品、サービスとして遺言信託と後見制度支援信託が関係いたします。商品並びにサービスの詳細は後ほど御説明いたしますが、遺言信託の受託件数は年々増加しておりまして、足元の受託件数は19万5,000件となっております。また、後見制度支援信託は2018年3月より導入されました後見制度支援預貯金とともに活用されておりまして、足元の受託件数は1万5,000件となっております。   それでは、2ページ目以降は信託の具体的な商品となりますので、発言者を交代いたしまして、弊社の川島の方から御説明させていただきます。 ○川島参考人 替わらせていただきます。三菱UFJ信託銀行リテール企画推進部の川島と申します。どうぞよろしくお願いいたします。   では、2ページを御覧ください。遺言信託について御説明いたします。信託銀行では遺言書の作成サポート、保管、死後の遺言執行までをパッケージとした遺言信託をサービスとして提供しております。もう少し詳しく説明しますと、生前にお客様の遺言作成の助言、お手伝いをし、遺言書を保管いたします。そして、お客様が亡くなられた旨の御連絡を頂きましたら、信託銀行は遺言執行者として、各お取引金融機関の残高等の調査、換金、引渡しを行います。また、不動産については相続人への名義変更の登記を行います。このように、生前お客様が作成された遺言のとおりに各種財産承継のお手伝いを行うといった業務を行っております。   遺言信託におきまして、意思能力がない相続人がいらっしゃる場合、登記のお手続に必要な書類への押印、相続財産の金銭の振込先の指定、遺言書に記載のない財産については、ほかの相続人と相談して取得者を決定するといった対応ができない状況が想定されます。したがいまして、このような状況が予見される場合には、信託銀行からあらかじめ対象の方の御親族に法定後見制度に基づく後見人の申立てをお願いすることとしています。しかし、現状では法定後見が終了できないことによる本人の利便性の制約や、専門職後見人の報酬支払い等の負担が継続することを気にされて、御親族はその利用をちゅうちょされる傾向がございます。その結果として遺言執行のお手続が進まない、できないケースが生じます。   近年、高齢化に伴い、亡くなられた方の相続人、御親族も高齢化が進んでおります。その中で意思能力の低下が進んでいる方も一定数いらっしゃいます。非日常の法律的な判断、手続が必要な相続は、多くのそのような御親族に法定後見制度の利用を検討する主要なイベントであると考えられます。したがいまして、今般の制度改正がなされた場合、相続手続などといった特定の目的に限定した法定後見制度、いわゆる終われる後見が利用できることで、制度を利用すべき相続人の利用促進につながると考えております。これにより、本人の利益が適切に守られた形で遺言執行者による相続手続が早期かつ円滑に完了できるようになるほか、登記などの名義変更、承継手続の推進、社会的な相続資産の流動化、有効活用などの効果も見込まれます。   一方で、制度改正後、意思能力の回復の有無によらず保護の必要性がなくなったことで法定後見を終了した相続人、この資料上では、一度法定後見を利用された方だと区別するために、元被後見人と記載させていただいておりますが、この相続人自身の財産、保全管理が必要なことになるとともに、日常の金融取引上の課題が新たに発生いたします。課題の詳細は後ほど4ページで御説明いたしますが、現在の金融取引では法定後見が終了することが想定されていないため、本人又は後見人等が取引相手として適切なのかを確認する必要が新たに生ずることとなります。金融機関等の負担や二重払い等のリスクも増えることが想定されるため、取引相手方の保護が確保されていることが後見制度改正の円滑な移行、ひいては法定後見制度の安定拡大には重要な視点の一つになると考えております。   続いて、3ページを御覧ください。こちらのスライドでは、もう一つの信託商品である後見制度支援信託について御説明いたします。後見制度支援信託とは、後見制度による支援を受けている本人の財産管理面のバックアップをするための信託の仕組みを活用した商品です。本人の財産のうち通常使用しない金銭を後見制度支援信託として信託銀行に預ける仕組みとなっています。   図の左側で後見制度支援信託のスキームを御説明します。まず、①の後見人は本人の生活状況や財産状況を踏まえて検討し、後見制度支援信託の利用に適していると判断した場合には、信託する財産の額などを設定し、家庭裁判所に報告書を提出します。そして、②の家庭裁判所は報告書の内容を確認し、後見制度支援信託の利用に適していると判断した場合、後見人に対して信託契約の締結を指示する指示書を発行します。③の後見人は、この指示書を受託者となる信託銀行に提出し、本人を委託者兼受益者とする信託契約を締結し、金銭を信託します。④の契約締結後、信託銀行は管理する金銭の中から契約で定められた金額を定期的に後見人が管理する預貯金口座に振り込みます。なお、本人の急な医療費の支払いなどで後見人が管理する預貯金口座からの支出だけでは足りない場合、後見人は家庭裁判所から指示書を得て、信託銀行に支払いを請求することによって一時金の交付を受けることができます。制度改正により法定後見の終了が可能となった場合、後見人はその任を外れます。併せて信託銀行では後見制度支援信託の契約終了手続を行い、本人に信託財産を返還することになります。この際にも遺言信託と同様の課題が発生いたします。   4ページを御覧ください。こちらのスライドでは制度改正後の課題、検討の方向性について御説明いたします。制度改正により、遺言信託及び後見制度支援信託を利用していた被後見人は、事理弁識能力が回復したときでなくても、保護の必要性がなくなったときは法定後見の終了が可能となるため、終了後の本人の財産保全に対する懸念及び日常の金融取引上の課題が生じると考えます。具体的な論点につきましては、以下の3点に整理いたしました。   まず論点1として、法定後見が終了可能となることで、事理弁識能力が不十分な方に対しても財産が相続、返還されることで、自ら財産を適切に保全管理することができない事態が想定されます。この課題に対し、事理弁識能力が低下した際の財産保全、管理に対する信託商品の活用、例えば信託銀行等で取り扱っている代理出金機能がある金銭信託を活用できると考えております。こちらについては5ページで商品の詳細を御紹介させていただきます。   次に、論点2については、法定後見の終了後と利用中に分けて御説明いたします。まず、法定後見の終了後においては、一度制度を利用し終了した方、すなわち元被後見人と金融取引が新たに発生することになります。この際、本人の事理弁識能力が不十分である場合には、本人又はその御親族から後日、当該取引の無効を主張される可能性があると考えられます。そのため、本人の意思能力の状況によっては金融機関として取引をお断りせざるを得ないケースが生じることも想定されます。この課題に対応するため、金融機関としては本人の意思能力の確認など慎重な対応を継続する必要がございます。   なお、慎重な対応の結果として取引をお断りするケースが生ずることに加えて、仮に金融機関が本人に意思能力がないことを認識しないまま取引を行ってしまった場合には、当該取引が後日無効とされるリスクがある点も看過できません。何より利用者本人が安心して金融取引を行える環境を整えることが前提ではございますが、このような金融取引上のリスクに対しては、金融機関等の取引相手が不測の損害を被ることのないよう、事理弁識能力が不十分であることが後から判明した場合であっても一定の保護が図られるような法的整備を制度設計の中で御検討いただきたく存じます。   さらに、法定後見の終了に係る家庭裁判所の一定の関与が確認できる情報を取引の都度、本人から金融機関に提示していただき、確認する対応が考えられます。この点、論点①で例示した代理出金機能がある金銭信託を利用した金融取引では、取引の都度確認する必要はありませんが、それ以外の金融取引も発生すると想定します。したがいまして、金融機関側においては、取引相手の法定後見終了時点における意思能力の状況や、過去に保護の対象となったことを適切に把握することが可能となり、金融機関としてどのような対応が必要なのか目線を持つことができます。こうした情報提供を制度的に担保することで、金融機関が取引の安全性を確保しつつ円滑な取引を行うための基盤が整備されるものと考えております。以上のような点では、信託によらず金融業界全般に関わる論点として認識しており、制度設計における御配慮を是非お願い申し上げる次第です。   一方、論点②のうち法定後見の利用中においては、複数の取消権者が存在するケースにおいて、有権限者による取引後に、ほかの取消権者から取消しの申出があり取引の無効を主張される事態が想定されます。このような事態を防ぐためには、取引時に取消権者全員の合意、追認を要件とする制度設計、又は取消権者の権限調整機能を設けるなど、取消し可能取引の範囲や条件を明確にする制度設計が望ましいと考えております。   最後に、論点③については、法定後見の利用中において、権限保有者である保護者との取引に際しては、都度、当該保護者が有する権限の有無及びその有効性について確認を行う必要がございます。このため、保護者の権限内容が明記された公式な根拠資料を取引の都度、保護者から金融機関へ提示いただく運用が求められます。こうした確認を円滑かつ確実に行うための根拠資料として、権限の有無及び有効性が明記された審判書の発行を制度的に整理していただきたいと考えております。   なお、当該審判書については金融機関が実務上、権限の有無、種類、有効性が負担なくかつ容易に確認できる統一された書式であることが望ましく、現場での円滑な運営のためにもこうした点に御配慮いただきますようお願い申し上げます。   信託協会として、以上のような制度改正に伴い想定される事態及び課題に対し、関係団体、省庁と協力しながら対応策の検討を進めてまいりたいと考えております。   最後に、5ページを御覧ください。信託銀行においては、本人の事理弁識能力が低下した際の資金保全に対して、信託の仕組みを活用した商品を取り扱っております。御参考として、4ページにおける代理出金機能がある金銭信託の一例として、三菱UFJ信託銀行が取り扱っている代理出金機能付き信託「つかえて安心」を御紹介いたします。   「つかえて安心」は①のとおり、まず、本人が自身を委託者兼受益者とする信託契約を締結し、金銭を信託いたします。そして、本人の事理弁識能力が低下した場合においては、あらかじめ指定された代理人が②のとおり信託した資金を出金することができます。また、③で、出金内容は関係者全員に通知されますので、本人や代理人以外の御家族等も出金内容を確認することができます。なお、ほかの信託銀行においても類似商品の取扱いがございます。このような代理出金機能を備えた商品を参考に、成年後見制度の利用終了後における本人の資金管理のための制度や商品の活用を検討する必要があると考えております。   以上、信託協会からの御説明とさせていただきます。御清聴いただきありがとうございました。 ○山野目部会長 信託協会におかれましては、法改正をにらんだ課題の整理、検討をなさっていただき、それを本日御披瀝いただきました。誠にありがとうございます。   委員、幹事からのお尋ねを出してもらうことにいたします。いかがでしょうか。 ○小澤委員 お話ありがとうございました。2点御質問をさせていただければと思います。   1点目ですが、資料5ページにある代理出金機能付き信託において、当該代理人が代理権を行使する際に、その権限の濫用防止のための措置についてはどのようにお考えになられているでしょうか。また、この商品というのは預入財産が100万円以下といった少額な場合でも利用できるのでしょうかというのが1点目でございます。 ○山野目部会長 今のところについて、まずお答えを頂戴します。 ○渡部参考人 まず、1点目の御質問である代理人の濫用措置でございますけれども、こちらの5ページ目の資料の③のところを御覧いただきますと、仮に御本人が認知症になり払い出せないときに代理人が出金をすることができるのですけれども、そのときに③のところで、払い出しがあったという旨は、御本人、代理人のほか、閲覧者を指定することで、閲覧者にも通知されますので、代理人に対しては、誰かの目があるという形で牽制機能を働かすという形で濫用措置を設けております。   あと、2点目の質問でございます。2点目の質問でございますけれども、この「つかえて安心」については、最低の預入金額が200万円以上ということになっておりますので、今おっしゃっていただいたような100万円という形でございますとお申込みができません。なお、各信託銀行で取り扱っている類似商品につきましても、申込みにあたり受託金額があるということは申し上げたいと思います。 ○山野目部会長 小澤委員、お続けください。 ○小澤委員 2点目、もう1点お願いします。資料3ページに、制度改正による後見制度支援信託終了後の新たな課題という御指摘がございますが、元被後見人であった方が新たに信託契約を締結して、信託銀行などが受託者に指定されて、福祉型信託を取り扱うといったようなことについては、何かお考えがございますでしょうか。 ○山野目部会長 お願いします。 ○渡部参考人 現状で申しますと、後見制度支援信託については終わらない設計でございますので、現状存在している既存の信託商品は、後見制度支援信託から移行されるということは想定された商品ではございません。   今後で言うと後見制度が終わるという前提でございますので、後見制度支援信託が終わったあと、どういう形で信託商品につなぐかというところについては、今後検討していく論点の一つではないかと考えております。 ○小澤委員 ありがとうございました。 ○根本幹事 4ページの関係で3点確認をさせていただければと思っております。   1点目が、論点②の一番右側の一番上のポツのところで、先ほど御案内も頂きましたけれども、金融機関で現在行っている意思能力の確認など慎重な対応を継続とお書きいただいておりまして、先ほどの御説明の中でも、仮にですけれども、後見制度を終了したということで窓口の取引に来られた方でも、金融機関として対応が難しいと御判断される場合には、慎重な対応をされるという御説明も頂いたところかと思いますが、具体的には再度、預貯金取引等について後見制度の利用等をお願いするというような対応になるという理解でよろしいのかどうかということです。   2点目ですけれども、論点②の法定後見の利用中のところで書いていただいております、複数取消権者がいる場合ということですが、これは、若しくはということを書いていただいていて、複数取消権者がいる場合に取消権者の権限調整機能を設けるというような制度設計がなされない場合には、若しくはの手前のところにある、複数いる取消権者全員で何か金融機関の方に行使をするということでないと金融機関としてはお困りになるということで承ればよろしいかどうかという確認です。   3点目としましては、論点③のところにも関係しますけれども、権限保有者に関わる審判書ないし、後見の登記事項証明とお伺いしていいかと思いますが、取引の都度提示するということを書いていただいています。仮に権限保有者が表明保証なり、若しくは責任を負うということであれば、必ずしも都度提示でなくてもよいとお考えいただけているかどうかという、この3点をお伺いできればと思います。 ○山野目部会長 お願いします。 ○清水参考人 すみません、3点頂いたので、御質問についてもう一度お伺いするかもしれないのですけれども、まず1点目については、論点②のところで、後見を終了された方との取引を窓口で行う際に、金融機関が慎重な対応を行った末、お客様にもう一度後見制度を御利用いただくことをお願いするというようなシチュエーションがあるかという御質問と受け止めました。こちらについては、現状も事理弁識能力が不十分でいらっしゃるのではないかというお客様がいらっしゃった際に、当社においては窓口の担当者と一緒に管理職が対応する等して、お客様の事理弁識の確認をした上で、お客様のおっしゃる手続をとることができるかどうかというのを慎重に確認し、判断させていただいております。   こちらの終了された方についても同じような慎重な対応をとることを想定しておりますが、過去にこういった制度を使われていた、終了ができるようになった際に、されたというものを御提示いただいて、その際にやはり手続が難しいというような判断をした場合は、そのような御案内もするような運営になるのではないかと今のところ想定しておりますが、実際にこれは制度が終了するということが固まって、リリースを頂くということになりましたら、社内で検討するというような、各社そういった対応をとるのではないかと考えております。1点目については、御質問に対する回答になっておりますでしょうか。 ○山野目部会長 大丈夫です。お続けください。 ○清水参考人 ありがとうございます。では、2点目については取消権者のお話を頂いている認識でございます。複数いる取消権者の皆さんの権限調整機能を設けていただけない場合に、全員の合意、追認が必要な制度設計がないと金融機関として取引として困ってしまうかという御質問と受け止めておりますけれども、そうですね、こちらはお話しいただいたとおりの認識ではおりまして、やはり我々が毎日、引き出しですとか預貯金に対する手続をしている中で、取消権者の方が複数いて、後から取り消されるというような事象が日々たくさん起きることは、やはり運営としてなかなか厳しいと思っている部分もありますので、これは業界全体としても何らか、取消権者の方の権限調整機能を設けて調整を頂くですとか、それができない場合は、合意、追認など必要な制度設計を頂けると有り難いと考えている認識でございます。   申し訳ございません、3点目の御質問について、もう一度頂いてもよろしいでしょうか。 ○根本幹事 3点目は、論点③のポツのところで、権限保有者に関わる情報の記載がある審判書とここは特定されていますが、登記事項証明書も含むという理解でおりますけれども、そのことを前提としまして、例えば、都度提示ということでお書きいただいているのですが、権限保有者が表明保証をする、若しくは権限保有者に責任を負わせるということであれば、都度提示でなくてもよいということを御検討いただく余地があるかどうかという質問になります。 ○清水参考人 そうですね、実際はその運営が固まったところで検討させていただく形にはなるかと思いますけれども、今ご説明いただいたような設計を御検討いただくのであれば、都度提示でなくてもよいとする対応も検討の余地があるのではないかと考えます。 ○山野目部会長 ありがとうございました。   引き続き伺います。 ○野村(真)幹事 本日はありがとうございました。3点ありますので、1個ずつ質問させていただきます。   まず1点目ですが、先ほど取消権者が複数いる場合というお話がありましたが、取消権者は現在でも複数いることがあり得ますので、制度変更による影響はないのではないかと思われますが、どういった趣旨での記載でしょうか。これが1点目です。よろしくお願いいたします。 ○清水参考人 今お申出いただいたとおり、現状も取消権者が複数いらっしゃるケースというのは想定していると思っているのですが、これは、終われる後見が始まることで利用者の方が増えると考えております。それによって、今それほど取消権が複数発動されるというケースが顕在化していない状況であることが、ケースとして増えてくるのではないかということを想定し、このような記載をさせていただいている次第です。 ○野村(真)幹事 ありがとうございました。2点目は後見制度支援信託についての質問です。後見制度の利用が終了した場合においても、本人保護のために後見後見制度支援信託を引き続き利用したいですとか、またその類似商品を利用したいというニーズもあるかと思いますが、この点についてどのようにお考え方かということと、保佐、補助類型でもこの後見制度支援預金を利用できる取扱いを始めた金融機関があると伺っておりますけれども、更に法定後見制度以外の任意後見や、その前段階の任意代理においても活用の可能性はありますでしょうか。 ○渡部参考人 1点目の御質問につきましては、後見制度支援信託が終われるようになるというところで、どういった形で後見制度支援信託に代わるものを受皿として用意するかというところになると思います。そこにつきましては御本人の事理弁識能力の状態によって変わると思います。仮に家庭裁判所の関与が必要であるならば、後見制度支援信託をそのまま続けるということもあり得るのかもしれないですし、そうではなく、既存の信託商品をある程度カスタマイズした受皿となる商品を利用していただくことも考えられます。今後検討していく論点の一つであると思います。 ○野村(真)幹事 ありがとうございます。あと1点ですが、任意後見や任意代理にも後見制度支援信託の活用の可能性はございますでしょうか。 ○渡部参考人 後見制度支援信託の商品設計のところにつきましては、今でいう3類型という形のものが変わってきますので、今後検討していく論点の一つではないかとは考えております。 ○野村(真)幹事 ありがとうございます。最後の質問ですが、代理出金機能付信託信託のような仕組みがあれば、後見制度の利用が終了した後も一定の安全性を確保できるのではないかと思うのですが、ここで閲覧者というのが設定されていますが、こちらは親族以外の第三者、例えば公的な性質を持つ個人や団体にすることはできるのでしょうか。また、日本には信託銀行がない地域も多くございますが、この仕組みは信託銀行に行かなくても出入金等の取引ができるのでしょうか。例えば、実際の出入金を地方の銀行やATM、コンビニエンスストアで行うことができるといったような形で、地方でも現実的に利用することができるものなのでしょうか。 ○渡部参考人 先ほどおっしゃっていただいた閲覧者のところの範囲につきましては、この「つかえて安心」につきましては特に指定する範囲はございませんので、今おっしゃっていただいたような方も閲覧者になることはできます。   あと、2点目のところにつきましては、この「つかえて安心」というところに限って言うと、いわゆる出金という手続のことであったりとか、こういう通知のものについては、いわゆるスマートフォンのアプリケーションを使って行うことができますので、そういった意味で言うと、いわゆる銀行の所に来ていただいてとかという形でお手続いただく必要はございません。ただ、他社さんのところにつきまして言うと、アプリケーションを使った払い出しではございませんので、アプリケーション使ったところで言うと、当社、三菱UFJ信託銀行独自のサービスという話になります。 ○野村(真)幹事 ありがとうございました。 ○加毛幹事 ありがとうございます。実務家の先生から質問が出るのではないかと思っていたのですが、信託協会の御報告において後見制度支援信託について検討されている内容が実務の認識とずれていないだろうかということが気になりました。法定後見制度がどのように改正されるのか、現時点では明らかではありませんが、この部会において示されている有力な見解に基づけば、現在の後見制度支援信託は望ましいものではなく、なるべく使われないようにすべきことになるのではないかと思います。   後見制度支援信託は、現在の成年後見類型のように、全般的に財産の管理処分権を制限される本人について、後見人による権限濫用などに対処するために、言い方は悪いかもしれませんが、財産を「塩漬け」にする制度であるように思います。そうだとすると、現在の後見類型が利用される場面が限定され、行為能力を個別的に制限するという制度改正がなされた場合には、後見制度支援信託は必要なくなるというのが、制度改正の帰結なのではないかと思いました。   仮にそのようなことになった場合に、それを信託協会としてどのように受け止めるのかということをお尋ねしたいと思います。後見制度支援信託という信託商品が導入された経緯としては、信託業界が積極的に働きかけたのではなく、最高裁などからの要望を受け入れて、信託業界が商品を作ったものと理解しています。それゆえ、後見制度支援信託は、少なくとも導入時においては、信託業界にうまみがある商品とは考えられていなかったように思われます。しかし、本日の御報告では、成年後見が終了した後に、後見制度支援信託を別の信託商品つなげていくことが積極的に提案されています。後見制度支援信託の導入により、それなりの金額の預貯金が信託業界に流れ込んだという現状の下で、それをみすみす手放すことはしたくない、うまく別の信託商品につなげていきたいということを、信託業界としてはお考えなのでしょうか。   もう一言しますと、仮に制度改正後も後見制度支援信託が残ったとしても、それが現在の後見類型のようなものに利用されるのであれば、その後見はそれほど簡単には終了しないようにも思われます。終了する後見制度として想定されるのは、個別の法律行為について行為能力を制限する場合ではないでしょうか。全般的に行為能力が制限される類型の成年後見が存続し、その場合に後見制度支援信託が利用されるのだとすれば、後見が終了し、後見制度支援信託の後継商品を検討する場面は、それほど多くはないのではないかと思いました。   後見制度支援信託については、そもそも成年被後見人の意思に基づいて設定されるものではなく、本人の意思の尊重という観点から望ましくないという評価もあると思います。本日伺ったお話と私の認識が大分ずれているところがあるように感じましたので、以上の点について、お考えを伺えればと思います。 ○山野目部会長 お願いします。 ○渡部参考人 なかなかお答えしづらい御質問を頂いたなというところが正直なところでございます。確かにおっしゃるとおりの考え方もあるのかなと思います。一方、現状、後見制度支援信託についてはそれなりに件数が積み上がっておりますので、後見制度支援信託が終わることが前提になるということであれば、それに対する受皿を用意しておくは、検討していく論点になると考えております。 ○山野目部会長 信託協会に御案内します。ただいま加毛幹事からお尋ねがあった事項は引き続き課題として御検討いただければよろしいと考えますし、是非引き続き課題として御検討いただきますようお願いいたします。どうもありがとうございます。   久保野委員にお声掛けをします。 ○久保野委員 ありがとうございます。5ページの代理出金機能付信託についての御質問です。冒頭の質疑の中で、濫用防止の文脈でではありましたけれども、③の通知があるとのご説明を頂きました。この③の通知がされた後に、④の払い出しまで一定期間経過があるという仕組みになっていますが、③を行った結果、どなたかから何か申出があるなどの事情によって④の払い出しがなされなくなる、控えることになるといったことが想定されている仕組みという理解でよろしいでしょうか。もしその場合には、どのような場合に払い出しが控えられることがあり得るのかについて御教示をお願いいたします。 ○山野目部会長 お願いいたします。 ○渡部参考人 結論を申し上げますと、御本人、代理人の方が、一定期間内であれば払出しを止める権限がございます。 ○山野目部会長 ありがとうございます。 ○竹内委員 私からも3点、簡潔に行きます。1点目、2点目は「つかえて安心」に関することです。   この商品の説明文書を確認しましたところ、信託期間満了日に原則として5年延長して、以後も同様の取扱いとありました。この延長するときに、契約者の意思は改めて確認するのかどうなのか、その運用状況をまず1点目、教えてください。 ○山野目部会長 お願いします。 ○渡部参考人 確認いたしません。 ○竹内委員 分かりました。2点目は、同じ「つかえて安心」ですが、受益者代理人については契約者の三親等以内の親族、弁護士、司法書士から御指定とあります。これについて、例外で取り扱ったケースがあったのか、あるいは例外を認めるべきか悩まれたケースがあったのかなかったのか、分かる範囲でお願いします。 ○山野目部会長 お願いします。 ○渡部参考人 例外は設けておりません。ただ、三親等内の親族の方がいらっしゃらなくて、申込みできなくて残念という形でのお声は頂戴しているというような事実はございます。 ○竹内委員 ありがとうございます。最後、3点目は、スライド5ページの論点3なのですが、権限保有者に係る情報の記載がある審判書ということですが、先ほどおっしゃられたのは、これまでの裁判所が発行している審判書ですとか登記事項証明以外に、新たなもっと簡易な裁判所から発行できる審判書のようなもの、権限が分かるもの、これをイメージされての御発言だったのでしょうか。 ○清水参考人 具体的な内容は今後、最高裁家庭局様と協議して検討していきたいと思っておりますので、現状では以上でございます。 ○竹内委員 承知いたしました。ありがとうございます。 ○山野目部会長 ありがとうございました。 ○加毛幹事 ありがとうございます。スライドの4ページにおいて幾つかの問題が検討されているのですけれども、ここに挙げられていない問題も重要ではないかと思います。4ページに挙げられているのは、銀行にとって、ある顧客が後見制度の対象である、あるいは、後見制度の対象であったことが分かっている事例です。しかし、金融機関にとってより深刻な問題になりそうなのは、行為能力の制限が個別化された結果として、外見からは行為能力の制限が分からない顧客と金融取引をしたところ、事後的に当該金融取引について行為能力が制限されていたことが判明し、当該取引が取り消されるという場面ではないでしょうか。つまり、目の前にいる顧客が行為能力を制限されているか否かが分からないままに取引をしてしまうという事態が今まで以上に生じるのではないかということです。そのような場面について、金融機関として対策を講じる必要があるとお考えであるのか、教えていただければ幸いです。 ○山野目部会長 お願いします。 ○清水参考人 今申し上げていただいたとおり懸念を持っておりますので、こちらについては検討を進めていく必要があると認識しております。 ○山野目部会長 委員、幹事からほかにお尋ねがおありでしょうか。よろしいですか。   信託協会におかれましては、本日は内容充実した資料を御用意いただきまして、また、成年後見制度の見直し後の取引のイメージを踏まえた課題の整理も提供してくださいまして、ありがとうございました。お話を伺っていて、資産管理に関して制度改正後どのようなことを考えていかなければいけないかということが、私ども法制審議会の部会において理論的には漠然と理解しておったところでありますけれども、かなり可視的に具体化した仕方で認識し、今後検討していかなければいけないということがよく分かりました。これは本日ヒアリングのために御用意を頂いた御意見の賜物であると考えます。深く御礼申し上げます。どうもありがとうございました。   休憩にいたします。           (休     憩) ○山野目部会長 それでは、審議を再開いたします。   続きまして、全日本ろうあ連盟からのヒアリングを行います。   全日本ろうあ連盟の皆様、こんにちは。この会議においては、成年後見制度の見直しを議題としています。成年後見制度は民法という法律に定められています。本日はお考えになったことをそのままお話しください。私たちは皆様のお話を聴きます。聴いて、そこから学び、法律の改正に活かしていくことにします。本日はどうぞよろしくお願いいたします。 ○吉野参考人 よろしくお願いいたします。 ○山野目部会長 それではお始めください。 ○吉野参考人 一般財団法人全日本ろうあ連盟の吉野と申します。次のスライドをお願いします。こちら、お話しすることになったきっかけですが、社会保障審議会障害者部会の私、委員をしております。そこに出席していたときに、成年後見制度の見直しについての報告がありました。その資料を拝見しておりますと、構成メンバーやヒアリングの中に全日本ろうあ連盟、ろう当事者団体が入っていない、対象にされていないということが分かりまして、是非ヒアリングをしていただきたいというお願いをさせていただいたということです。   この理由を申し上げますと、聞こえない、聞こえにくい、聴覚障害者については、判断能力は問題はないのであろうイコール成年後見制度は使われていないのではないかという誤解があるのではないかと思いました。実際には成年後見制度を使っている聴覚障害の方はたくさんいます。聴覚障害といっても、高齢になって、判断能力が落ちてきている、また、認知症になってしまった方、知的障害を併発している方、精神障害等の重複障害をお持ちの方、そして、本人も施設に入る契約等。先般優生保護法の裁判がありました。提訴するときの本人の意思決定がなかなか難しく、後見人が必要でした。様々な場面があるということです。聴覚障害者は、聞こえないために、様々な情報、コミュニケーションというのが、見て分かるものでないとわからないという部分があります。さらに、手話言語でのコミュニケーション非常に大事になってきます。   特に、聞こえない高齢者の場合は、家庭環境、その背景ですね、育ってきた環境によります。例えば教育、昔は口話教育といいまして手話は禁止されて育ってきたために、口話で教育を受けたため、十分に教育を受けることができなかった、聞こえる人にかわいがられて生きるべきというような生き方を強いられてきたということがあります。聞こえる人の言うことは全部聞く、私は聞こえないから我慢をしなければならないといったような教育を背景に育ってきた高齢者の方も多くおります。そういった意味もありまして、コミュニケーションで、意味が分からない、通じていなくてもうなずいて、聞こえる人の言うことには分かったふりをするという聞こえない人がたくさんいるということになります。聞こえる人には聞こえない人のことについて理解が足りない方も多いと思うので、そのうなずいているのを見て、理解をしている、分かっていると誤解をされているという事例が多く見受けられるということを、きちんとこの場でお話をしたく、参りました。   次のスライドをお願いします。私は福岡におります。以前はろうあ者相談員を担っておりました。その相談員としての業務の中で起こった事例について整理をしたものです。後見制度について困りごとがあった、これは変えた方がいいのではないかという意見を頂いております。こちらを踏まえた上で、困りごとの事例について御紹介をさせていただきたいと思います。   次をお願いします。先ほどもお話ししましたけれども、聴覚障害者については手話言語が必須です。手話でコミュニケーションをとります。一番の大きな問題は、後見人になる方とのコミュニケーションが手話でとれないということです。本人と後見人の方が手話で話ができないということで、聞こえないことの特性や背景を理解されないということがあります。例を申し上げますと、後見人が家庭裁判所等と話をするときに手話通訳を連れていかない、要約筆記などを用意しないというような事例で、本人は何を話されているのか分からないということです。聞こえる高齢者、認知症などの場合は、聞こえてはいるけれども理解はできていないということはあると思うのですけれども、そもそも聞こえない高齢者の場合ですと、聞こえませんから当然、(必要な)情報保障としての手話通訳や要約筆記といったものが、用意されていないまま物事が進められ、後見人と裁判所が話して物事が進んでしまうという状況がまず問題の一つです。   また、後見人が、先ほどもお話ししたとおり、聞こえないということの障害特性や、その方の背景などを理解していないので、本人がうなずいているので分かっているのだなと思ってしまって書類を出し、ではここにサインをしてということで署名をさせてしまうといったような、本人の抜きの決定、後見人主導的な決定をしてしまうという事例も起こっています。   3点目、本人の意思確認がどうしても、コミュニケーションがうまくいかないことで、本人の意思を尊重しなければいけないのですが、判断能力がないとされ、代わりに後見人が決めることになってしまいます。本当に本人の意思で進められているのか、どうなのかというところです。   次のスライドをお願いいたします。コミュニケーションの部分で申し上げます。手話でのコミュニケーションというのが聞こえない人、聞こえにくい人の特性ですが、それが分からないまま後見人を選定されてしまう、業務として進められてしまうという事例が多数ございます。ここには三つ紹介しております。本人は判断能力が残っているのですが、先ほどお話ししましたとおり、聞こえる人に従う、尊重するように育っているので、意味の分からないまま聞こえる人の言うままに、後見人が付いてしまったというケースもあるのです。判断能力があっても後見人が付いてしまったというケースですます。それは、自分の意思どおりにはなっていないということ、その例が下に書いてある三つになります。その事例を御紹介いたします。   本人は高齢ですが、最後まで自宅で住みたいと思っていました。そんな気持ちを持っていましたが、後見人の方とコミュニケーションがうまくいかないまま、勝手に家を売却されてしまって施設に入れられるという話が進んでしまいました。施設ではなく、私は自分の家で最後まで、死ぬまで暮らしたいのだという話になっていても、家はもう売られてしまい、手続が終わってしまったので、やむを得ず施設に入らざるを得なくなったという話を聞きました。その後見人の責任というのは非常に大きいものであると思います。コミュニケーションがうまくいかないことによる事例になります。   二つ目は、本人が理解ができない間に、聞こえる人がいろいろと身振りを介し、それでうなずいてしまったようで契約行為をしてしまった。そして、家族が後見人に選任され、その後に後見人である家族が決定をして、家、財産が全て処分されてしまった事例。これは大きな問題ではないかと思います。聞こえないから仕方ないと諦めてしまいつつも、非常に悔しがっていたという、本人が泣き寝入りしたという例があります。   事例3です。本人との意思疎通の問題です。理解の問題も大きく占めている部分はありますが、その方は、軽度の認知症でした。手話では通じる、理解力は残っているのですけれども、後見人がそのことを理解していない、聞こえないことの特性が分からないまま、親族はよく分かっているので、(後見人は)この人に任せたらいいですよと決めてしまったという事例もあります。   そういった事例をアンケートで、少し細かいもので恐縮なのですが、資料としてお配りしていますので、参考までに後ほど御覧ください。   次のスライドをお願いします。本人の意思決定支援をせず、判断能力がないイコール後見人の決定となってしまう事例があります。特に、③で書きました、御本人が聞こえない方で、配偶者が亡くなってしまったという場合といる場合があります。配偶者も聞こえないという方が多いです。(1つの事例ですが)両方とも聞こえないご夫婦なので、お互い手話で密なコミュニケーションをとっていました。長い夫婦関係を続けていたのですけれども、御主人に後見人が付いて、役所、病院、銀行等の手続を全て配偶者には知らせずに、自分は御主人の後見人だからといって奥様には知らせずに決めてしまうというケースがありました。奥様としては何の情報もなく、立場がなくなってしまって弱くなってしまうという例がありました。   つまり、このケースでは何が言いたいか具体的に申しますと、旧優生保護法の問題で、裁判を提訴した御本人の配偶者、夫婦ですので配偶者関係にあるわけですね、その配偶者も国からの和解金を得られるという話があるのですが、そのための書類が本人の分と配偶者の分郵送されてきました。でも、本人に届いた分の内容は配偶者に知らされないという状況のまま手続が進められてしまったということ。夫婦なのにそういうことが起きるわけなのです。当然、御主人に届いた内容は奥様にも知る必要があると思いますが、後見人は、それは本人に届いたものなので奥さんには知らせません、私が後見人なのでということで、奥様には全く知らせる必要はありませんということで手続を進めてしまいました。そういうことが起きていいのかどうか。御夫婦ともきこえない場合ですね、御本人の後見人ではあるのですけれども、配偶者との関係もきちんと念頭に置いていただいて後見をしていただきたいということです。状況をきちんと奥様にも説明をするとか、コミュニケーションをとるとか、手話でコミュニケーションをとるのがもちろんベストなのですけれども、そういった配慮は全くないまま進められてしまったという事例です。   次のスライドをお願いします。こちらは後見人に対する不満というか苦情、困りごとです。本当は判断能力があるけれども、間違った判断で後見人を付けられてしまった、それを取り消したいと本人が思ったとします。後見人を替えたいというときもあるかと思います。それは非常に難しい手続となります。それが困りごととして非常に多いです。例えを申し上げると、相当な理由がないと後見人というものは変更ができません。なので、やむなく諦める。もしくは(変更手続きを行う)家庭裁判所に行っても、手話通訳は設置されておりません、自分で連れていかなければなりません、そういった困難な状況があります。家庭裁判所では手話通訳などの情報保障の制度というのは全くない状況です。少し分野が異なりますが、優生保護法についても、裁判を進めるに当たって法廷での情報保障という面で問題にもなりました。その問題はまだ解決に至っていません。別の機会にまた詳しく、裁判所における情報保障について改めて意見交換をさせていただきたいとは思っております。   成年後見制度の話に戻りますけれども、高齢の方、認知症の方が利用されている方が多いと思うのです。聞こえる人向けの制度であるために、聞こえない高齢者がこの後見人制度を使う時には不都合な制度であるということ、本人の意思決定を尊重するためのコミュニケーションがうまくいかないという課題の整理もまだされていないということ、また、後見人になるための研修についても、あるそうですが、聴覚障害に関する特性、それはどういうものか、聞こえないとはどういうことかということについても全く触れられていないということがあります。後見人が聴覚障害者を後見する仕方が分からないということもありますので、そこも十分理解を進めなければいけないです。   成年後見の選任の部分についての在り方についても、問題があるのではないかと思っています。つまり、聞こえないことと知的障害、精神障害、軽い認知症などを重複で持っている場合については、任意後見人を使う場合もあると思います。大体は親族、家族が後見人になるということが多くなっています。それは家族によって決定されてしまうということがほとんどです。任意後見の相談も私のところにたくさん来ます。そして、先ほどコミュニケーションについてうまくいかないということを申し上げました。また、聞こえないことを知らない、理解がない後見人、又は、うなずいたから理解したのだろうという誤解ですね、本人が同意したと思い込んでしまうということ。そして、後見人の責任で手続きが行われ、問題が深刻化するということです。例えば、やむなく施設に入っていて、一時的に家に帰りたいと思っても、名義変更されてしまっているので家に戻れないという状況が起きています。   後見人制度は、聴覚障害者も本来守られるべき制度であるはずなのに、聴覚障害者の財産等が守られてはいないような気がするのです。日本国憲法13条及び14条等はありますが、蓋を開けてみると、この後見制度というのは聴覚障害者を守る制度になっていないのではないかという悲しい実情があるわけです。   相談もよく持ち込まれますので、この運用を変えるためには、やはり家庭裁判所に後見人の選任方法について、この方は聞こえない方なのだなと認識し、どのような方を選任するかをきちんと確認、審査をする、そういった仕組みを設けていただきたいです。聴覚障害者情報提供施設、また聴覚障害者協会は、全国47都道府県にございます。ろうあ者相談員といった専門の相談員の方もいます。そういった方々に、この形で後見人を決めてもいいかどうか、こういう申出があったけれどもどうしたらいいかということをヒアリングをするというような方法ですとか、又は研修の際にきちんと聞こえない当事者に入ってもらい、聞こえないことについて共に学ぶなど研修の在り方を変更するとか、選任の在り方等を検討頂きたいです。改善をいただく必要があると思っています。手話施策推進法も、先日6月25日から施行されています。手話は言語であります。手話で支援する環境整備というのは早急にしなければならないと考えております。   聴覚障害当事者の経験などいろいろと事例を伺って、今回お話をさせていただきました。河合参考人にはろう重複障害施設で支援をしている立場からのお話もしていただきますし、田門参考人には聞こえない弁護士当事者としての話もしていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。私からは以上です。 ○山野目部会長 続けてよろしいですか。河合参考人、お願いします。 ○河合参考人 ありがとうございます。埼玉聴覚障害者福祉会という埼玉県内で聴覚障害者専門の施設を運営しています河合と申します。本日は中間試案の中で、聴覚障害ではなくて身体障害により意思疎通が著しく困難な人の後見制度の利用に関して引き続き検討するといった事項に関して、一つお願いとお話をさせていただきたいと思っています。   というのは、先ほど吉野がお話ししたように、聴覚障害がある方は自分で意思疎通だったり自己決定ができない方ではないのです。ただ、高齢の方の中には未就学といって学校に通われた経験がない方、それから就学猶予といって学校に入る時期をかなり遅らされて、私が関わった方の中では、12歳になって初めて小学校1年生で、ほかの子供たちとは非常に身長差があって恥ずかしかったと言われる重複の方もいらっしゃるわけです。そういった方々は、一般的な手話通訳ではなかなか意思疎通が難しかったりする方もいらっしゃいますし、未就学といわれる方の中には、親との関係を絶縁をしてしまって、全く親、親族との関わりがないので、人が亡くなる場面にも立ち会ったことがないという方もいらっしゃいます。ですので、葬儀をする方法も分からなければお墓に入れる方法も分からない。ただ、手話通訳や手話ができる職員、手話通訳の資格を持った職員がきちんと話をすれば、理解をして契約等ができる方は多くいらっしゃるわけですが、そういった聞こえない人の背景というものを理解した後見人の方というのは本当に非常に少ないわけです。私どもの施設にもたくさんの後見人の方にお世話になっている方々がいらっしゃいまして、後見人の方が面会に来られますが、手話通訳や要約筆記を伴って来られる方はお一人もいらっしゃいません。ですので、本人との意思疎通が必要な場合には職員が間に入るということが一般的になります。   そうすると何が起きるかというと、職員の手話通訳という、公的な資格を持たない職員がその場面に立ち会わざるを得ないので、当然ですけれども、本来必要な御本人の判断能力をきちんと後見人さんに伝えられるかどうかという懸念を私どもは持っているので、基本的に本人の権利に及ぶ部分については私どもは入れませんとお伝えをしますが、手話通訳や要約筆記を入れていただく方というのは余り見掛けないのです。お一人の後見人さんは、特に社会福祉士会にも十分関わっていらっしゃる方なんかは、要約筆記の手法を御本人自身が用いてお話をされる方もいらっしゃいます。けれども、果たして御本人のコミュニケーション手段というか権利の部分をどのように考えているのか、そこをきちんと理解をしていただかなければ、本人の身体障害だけで意思疎通ができないと判断されてしまう危険性をはらんでいるのではないかと思っています。   意思疎通支援事業というのは、飽くまでも障害福祉サービスの一つになります。本人の権利、手話が言語であるという権利には基づいていても、福祉サービスの利用ができない環境にある方も中にはいらっしゃいます。というのは、行政が手話通訳の費用等を予算化している範囲内で派遣をするものですから、当然、派遣費用が上限に達すると派遣ができないと行政から断られる可能性も、最近非常に起きています。合理的配慮という名の下に、本来であれば福祉サービスで手話通訳の派遣されるべきところが、後見人からきちんと費用を支払って派遣をするべきだと言って断られるケースも今後発生するのではないかと思っていますので、是非聴覚障害がある、身体障害がある、イコール意思疎通が著しく困難だという見方ではなくて、御本人がコミュニケーションをとれる環境、どういった環境であればコミュニケーションがとれるのか、そういった本人一人一人を見ていただいて、是非御判断いただければと思います。 ○山野目部会長 ありがとうございます。続きまして、田門参考人、お願いします。 ○田門参考人 弁護士の田門と申します。私も聞こえない当事者です。手話通訳を通してお話しさせていただきます。吉野参考人、河合参考人からお話しさせていただいたものを補足的にお話しさせていただきます。   まず、判断能力がある聴覚障害者ということについてお話をしたいと思います。聴覚障害者といっても、日本語能力に非常に差があります、お一人お一人ですね。今まで、耳が聞こえない子供たちが入る学校、ろう学校といいますけれども、ろう学校でこれまでは、吉野も言いましたけれども、口話教育をされてきました。子供たちが先生の話の内容を十分に理解しないまま卒業するという場面も多いです。その中で、特にコツをつかんで本人が言語を獲得できて、大学に入れたというケースももちろんあります。私もそうなのですが、大学に入って弁護士になれたというケースもありますが、同じろう学校の同期の中では、日本語がうまく獲得できなかったという例もあります。   例えば、銀行振込という一般的な言葉もよく分からない、説明しても通じないという方もいます。銀行に行って、ATMに行って、キャッシュカードを入れて、相手の口座番号を打って、お金を送るというところまで説明すると、やっとそのことかと分かる方がいるのです。その方はきちんと仕事もしていて、判断能力もある方なのです。ですけれども、日本語として銀行振込が分からないという例もたくさんあるのです。また、ろう学校では手話が使われていなかったので、言語能力、学力が向上しないまま卒業してしまった方が多いです。そこが判断能力のないと誤解される方も多いです。   もう1点、ろう者の場合ですと誤解される件が多いのは、うなずきです。障害のない人から見ると、うなずいていると同意を得たと誤解をされるということがあるのですが、本当はそうではないのです。うなずきというのは単に相手の話を聞いていることを表すだけのもので、それを理解したということとは、同一ではないのです。聞いていることを表すだけのうなずきになっています。それを、分かった、理解されたと誤解されるケースが非常に多いです。   3点目なのですが、聴覚障害者の家族に関係するものです。家族がほとんど手話ができないというケースが多いのです。なので、家族が本人とのコミュニケーションがなかなかうまくとれないという例もたくさんあります。聞こえない子供の両親は90%聞こえる人なのです。残りの10%は自分の親も聞こえない人、ろう者同士ということになりますけれども、ろう者同士だと家族の会話は手話で問題なくできます。意思疎通の確認もできます。しかし、90%の家庭では親が聞こえる親になりますので、手話ができる家庭というのは本当に少ないのです。ほとんどないと言っても差し支えないぐらいです。十分な家庭内でのコミュニケーションもうまくいかないということになります。このため、親族だからといって聞こえない自分のことを分かってもらえるとは限らないということです。   そして、日本語の能力が十分でない人たちが高齢化して判断能力が落ちてしまった場合、もっとコミュニケーションが難しくなります。ですので、河合参考人からお話しいただきましたように、後見人の専門性というのが非常に大事になってきます。先ほど申し上げましたうなずきでも、それが単に相手の話を聞いているだけのうなずきなのか、よく分かって同意の意味でのうなずきなのかということですね、それもきちんと判断ができるような専門性を持つ後見人が必要ということになります。また、家族が専門性を持つとは限らないです。誤解を持っている家族もいます。ろう者の人のことをきちんと見ているわけではありません。意思疎通ができるわけでもありません。専門性のある人が後見人になっていただいた方がいいと思います。   先ほどもお話ししたとおり、今年の6月25日に手話施策推進法が成立、施行されました。そこに第10条、手話を使用して日常生活を円滑に営むことができる環境整備をしなければならないと手話施策推進法には書いてあります。後見人になる場合は、障害者本人の意思疎通ができる、そして、その特性が理解できる必要があると思います。また、研修の話も非常に重要だと思います。先ほどのうなずきの例もありますとおり、本当に同意しているわけではないうなずきもあるということですね。   以上、私からの補足を終わらせていただきます。 ○山野目部会長 3人の参考人の皆様におかれましては、どうもありがとうございました。大変参考になるお話を頂戴することができました。これから委員、幹事からお尋ねを差し上げることにいたします。   質疑応答を始めるに当たって、会議室におられる皆さん、オンラインで参加しておられる皆さんにお願いが2点あります。一つ目は、一問一答で、一つの問いを発し、それに対して一つの答えを得るという仕方で質疑応答をなさってください。一つ尋ねますと言っている中で枝分かれして、その中でまた小分けして複数といように複雑な質問の組立てにするのはお控えくださるようにお願いします。もう1点のお願いは、お尋ねになる際、二重否定のような複雑な文章の構造のお尋ねをすることをお控えください。ろうの皆さんにあらかじめお詫びを申し上げます。国の審議会はどうしても難しい言葉が好きな人がたくさんいます。私たちは努力をしますが、もしかしたら十分でないかもしれません。あらかじめお許しをください。それでは委員、幹事のお話を承ります。いかがでしょうか。 ○小澤委員 ありがとうございました。1点だけです。先ほど河合参考人からお話を頂いたように、今回の制度の見直しの議論の中では、事理弁識能力が不十分でなくとも、身体障害により意思疎通が著しく困難な場合には後見制度が利用できる規律を設けることも検討対象になっておりますけれども、監督付きの任意代理という性格を持つ任意後見制度をそのような方に利用できるようにするということについてどのようにお考えか、お聞かせいただければと思います。 ○河合参考人 御質問ありがとうございます。監督付きとおっしゃいますけれども、監督されるのがどなたなのかというところも課題になるかと思います。 ○山野目部会長 小澤委員、よろしいですか。 ○小澤委員 はい。 ○根本幹事 河合参考人にお尋ねします。先ほど御案内を頂いた中で、手話通訳者を手配してくださらない後見人がいるというお話を頂きました。私も、少ない経験ではありますが、手話通訳が必要な方の申立ての代理を何件かさせていただいたときに、手話通訳者の方を手配するときに、どうしても手話通訳者の絶対数が少ないので日程調整に非常に苦慮したという経験がございます。先ほどお話しいただいた中で、参考人が関わっておられる後見人が手話通訳者を手配されない理由を、参考人がご存じでしたら、教えていただければと思います。 ○河合参考人 ありがとうございます。御自身が手話ができる方は手話通訳を依頼しない。ただし、手話ができるレベルですので、先ほど部会長さんも御挨拶されたときに手話をされましたよね、手話ができる方なので、手話ができる、手話通訳ができる、先ほど田門さんもおっしゃったように聞こえないその背景を熟知されているのかどうか、そこは私どもは判断材料は持っていませんので、何とも申し上げられないですが、御自身ができる、なのでコミュニケーションがとれる、イコール手話通訳が要らないと言って、来られる方も多くいらっしゃいます。ただ、当然、聞こえない後見人の方もいらっしゃいますけれども、聞こえる後見人さんの中では、全く手話ができない方もそのまま施設に面会には来られます。なので、なぜ通訳を連れてこないのかということはこちらから確認したことはないですけれども。 ○根本幹事 ありがとうございます。 ○山野目部会長 よろしいですか。   引き続き委員、幹事のお尋ねを頂きます。 ○竹内委員 私は日頃、外国籍の方の案件を弁護士として取り扱うこともあって、そこにも言葉の問題というものがあります。その場合、最近では外国語の翻訳のアプリもありますし、手話のアプリも出てきていると思います。そういったものの活用状況は今どのようなものか、教えていただけたらと思います。アプリの活用のことです。 ○吉野参考人 御質問ありがとうございます。手話のアプリの話、アプリというのは実際ありません。今、検討はされているようですけれども、実用化されているものはありません。手話というのは地方によっても表現(方言)が様々あります。話したものを文字にするものはありますけれども、文字にされても結局、日本語能力がなければ内容を深く理解することはできないことになります。個人に差はありますけれども、アプリがあるから大丈夫という問題にはならないということです。そこは誤解のないようにお願いいたします。 ○竹内委員 ありがとうございます。日本語能力に差があるというのは私も今日、改めて分かりました。ありがとうございました。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   引き続き伺います。 ○野村(真)幹事 1点お尋ねいたします。聴覚に障害のある方に後見人が就任した際に、意思決定支援が形骸化しているというお話がありましたが、後見人の対応について、特にどこに問題があるとお考えでしょうか。コミュニケーションツールが限られているですとか、特性への理解が足りないですとか、意思決定支援のスキルが不十分ですとか、いろいろあると思うのですが、後見人に特に求めたい点を教えてください。 ○田門参考人 私も聴覚障害者の後見人に何人かなっています。やはり課題と関して考えられるのは、御本人に十分理解をしてもらう、理解してもらえるプロセスが大事だと思います。ある例で申し上げますと、預金を解約するという話をする相談がありました。預金を解約する際にはどういうメリットがあるのか、デメリットがあるのかということを私が手話で話をしました。本人が、手話を使って説明をしたのですけれども、すぐに分かったという人ではないので、かなり丁寧に時間を掛けて説明をしました。そして、本人が分かるまで丁寧に説明をすることで、本人が本当に理解したかどうかというところの判断を見極める力があるということも大事です。そして、本人の意思決定をするときに、先ほどお話したように、うなずきだけではなくて、うなずきだけでは意思決定とはいえないので、本人から、自分が決めたということを自分から話してもらう、改めてその決めたことをもう1回本人に話させるというのも一つの方法だと思います。それが意思決定のプロセスだと思うのです。そこでどうするか、本人の意思を見極めるということ、本人の意思決定がきちんと尊重されているかどうかを慎重に見極めなければいけないというところが課題だと思います。 ○吉野参考人 判断、見極めというところなのですけれども、やはり手話通訳だけを付ければ済むという問題でもまた、ないのです。支援員という意味で、ろう当事者の支援員が必要で、非常に重要な役割を果たせます。ろうの特性ももちろん十分分かっていて、その方の背景も分かっているような人を付けるということが大事だと思うのです。問い方、説明の仕方、どちらがいいのかといったような答えを明確にするような聞き方、また曖昧で遠回しな質問では通じませんので、はっきりとストレートに、危ないことは危ない、これからどうするかというようにストレートに説明できるようなろう当事者の支援員がよいです。そうすると本人の理解度がすごく高まります。そのためには、きちんとろう当事者の支援員が支援に入るということが重要だと思います。 ○山野目部会長 野村真美幹事、よろしいですか。 ○野村(真)幹事 はい。 ○青木委員 今日改めて、聴覚障害の方の特性を成年後見制度の制度の中で十分に考えてこなかったと、私も聴覚障害の方の後見を担当しておりますが、反省することが多かったということを、まず最初に、感謝とともに感想として述べたいと思います。   その上で、ご質問ですけれども、まず、判断能力のある人に関して田門さんがお話しになった点については、これは意思決定支援の問題として、そのために必要な支援制度や支援者を十分に育てるという方向での解決という理解でよろしいでしょうか。そこは成年後見制度に利用を求めるのではなくて、意思決定支援のための制度を拡充するという理解として御発言いただいたということでしょうか。 ○田門参考人 そうですね、聴覚障害者には支援が必要な方ももちろんたくさんいらっしゃるのですけれども、十分でないために、聴覚障害者のニーズと合わないということもあるために、支援を受けられない人もたくさんいます。具体的には、例えば詐欺に遭ってしまって資産を取られてしまったという方もたくさんいます。後見制度といったようなものが必要な人たちももちろんこれから増えてくると思いますので、人材を増やさなければいけないと思います。 ○青木委員 次の質問なのですけれども、聴覚障害について専門性のある人を後見人として選ぶ必要があると、これは判断能力が不十分な人の場合の話であると思いますけれども、これについては、専門性のある人というのは具体的にどういう人を想定されていますでしょうか。私ども弁護士後見人が求められる専門性を直ちに身に付けることは難しいと思いますので、例えば当事者の方が後見人にもなれるようにするとか、専門性ということの具体的なイメージを教えてください。 ○田門参考人 一つは、聴覚障害者については聴覚障害ソーシャルワーカー協会という団体があります。そこに社会福祉士の資格を持っている聴覚障害の方、個人的な意見としては複数の後見人を付けるとよいと思います。例えば、一人は弁護士、もう一人は社会福祉士、二人の後見人を付けて、聴覚障害者を支援するといったような形もありだと思います。また河合参考人から補足があれば、お願いします。 ○河合参考人 当然、弁護士の先生だったり社会福祉士の方々も後見人としてふさわしい方とか、御本人の意思を尊重してくださる方、たくさんいらっしゃると思うのです。ただ、先ほど田門先生がおっしゃったような聞こえない人の特性、今、小澤委員も、うん、うんと、これは私の話を聞いているではなくて、理解していますよといううなずきだと思うのですけれども、本当に聞こえない方と会ったことがある人は、うなずきを非常に多く見られていると思うのです。聞こえない人のうなずきが理解している意味なのかどうかを見極める、これは手話通訳でも見極められない人も中にはいます。なので、やはり聞こえない当事者の方、また、手話通訳でもある一定のスキルを持った方でないとなかなか判断は難しい。特に未就学の方であれば、聞こえる人にかわいがられるように育ってきた方も多いので、聞こえる人に囲まれれば囲まれるほど、うなずきは多くなりますし、御本人の意思は言えないかと思うので、ろう当事者の方がそばにいることが一番大きいことなのかなと思います。 ○青木委員 最後に1点だけ、質問の趣旨が外れてしまうのですが、田門参考人は最近国連の障害者権利委員会の委員に就任されましたので、この機会にせっかくですので、障害者権利委員会の委員のお立場として、今回の見直しについて何か御期待があれば教えてください。 ○田門参考人 大変大きな質問を頂きました。昨日までスイスのジュネーブにその仕事で行っておりました。国連の会議の場で、正にその審査、国に対する審査をしてまいりました。成年後見制度についても議題に上がっておりました。やはり様々な国で代理的意思決定という制度があります。私としては支援付き意思決定に変えなければいけないと強く思っています。ですので、今回の議論についても支援付き意思決定という制度につながることを期待しています。すみません、お答えになっているかどうか恐縮ですが、以上です。 ○青木委員 以上です。ありがとうございました。 ○山野目部会長 ありがとうございました。   ほかに委員、幹事からいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   委員、幹事から3人の参考人の皆さんにお尋ねを差し上げました。質疑応答を閉じるに当たりまして、私からまずもって3人の参考人の皆様に御礼を申し上げた上で、お伝えしたいことがございます。重複障害ということがよく分かりました。ろうの皆さんが同時に知的障害や精神障害の状況にある場合において成年後見制度を使っている中での苦労ということがよく分かりました。   その上で二つのことをお知らせします。一つ目は、この審議会においては民法の改正を検討していきます。田門先生はプロセスという言葉を使いました。プロセスを大事にするという規定を民法の中に置くということを目指して今、仕事をしています。本当に実現することができるかどうかはまだ分かりません。しかし、目指します。これが一つ目です。もう一つは、一つの法律の改正で全ては解決しません。吉野参考人がたくさんお話しになった悩みや悲しみのある部分は、この審議会に与えられた権限によっては法律の改正によって実現することができないものもたくさんあります。そのことは御理解ください。しかし、この審議会の議事録は公表されます。この審議会に与えられた権限でない事項についても、政府の各部門が見ています。そうした政府のいろいろな人たちの努力を今後とも見守っていただき、また意見を出していただきたいと望みます。本日は本当にありがとうございました。 ○吉野参考人 ありがとうございました。最後によろしいでしょうか。 ○山野目部会長 お願いします。 ○吉野参考人 このヒアリングの機会を頂いたことを本当に改めて深く御礼申し上げます。これだけで終わるということではなくて、引き続きあらゆる法制定、また法改正の中で、必ず障害当事者の意見を聴くという機会を作っていただけるようにお願いしたいと思います。   あわせてですけれども、今年11月15日から26日、東京でデフリンピックが開催されます。皆さんも御存じだと思います。是非ともこれを機会に応援のほどをどうぞよろしくお願いいたします。以上です。ありがとうございました。 ○山野目部会長 ありがとうございました。   あわせて御礼を申し上げます。通訳の3人の皆さん、本当に今日はどうも御苦労さまでした。拝見していて、専門家のスキルというのはすごいということを改めて感じました。どういうふうにしたらこれだけのスピードで通訳ができるのであろうかということは、本当に感動した次第です。お疲れ様でした。ありがとうございます。   本日予定いたしました4件にわたるヒアリングを了しました。内容にわたる本日の調査審議はここまでといたします。   最後に、次回の議事日程などにつきまして事務当局から案内を差し上げます。 ○波多野幹事 次回の日程でございますが、令和7年9月16日火曜日午後1時15分から午後5時30分まで、場所は法務省地下1階大会議室を予定しております。   次回の内容でございますが、中間試案の第3の保護者に関する検討事項の一部と中間試案の第5から第7までの任意後見に関する検討事項を取り上げた部会資料を作成してお送りすることを予定しております。その部会資料に関する御議論をお願いしたいと存じます。   なお、パブリック・コメントにつきましては現在、その結果の概要をまとめる作業を進めておりますが、次回の会議におきまして全体をお示しすることは恐らく困難でございます。少なくとも次回取り扱う項目につきましては、その暫定的なものを先生方にお送りできるように頑張っていきたいと思っております。 ○山野目部会長 ただいま差し上げました御案内の諸点を含めまして、この部会の運営について御意見やお尋ねがありますれば承ります。いかがでしょうか。   よろしいでしょうか。それでは、お疲れ様でした。   これをもちまして法制審議会民法(成年後見等関係)部会の第24回会議を散会といたします。どうもありがとうございました。 -了-