法制審議会 民法(成年後見等関係)部会 第25回会議 議事録 第1 日 時  令和7年9月16日(火)自 午後1時15分                     至 午後5時55分 第2 場 所  法務省大会議室 議3 議 題  1 民法(成年後見等関係)等の改正に関する要綱案の取りまとめに向けた検討(1)         2 民法(成年後見等関係)等の改正に関する要綱案の取りまとめに向けた検討(2) 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山野目部会長 法制審議会民法(成年後見等関係)部会の第25回会議を始めます。   本日も御多用の中、御出席を賜りまして誠にありがとうございます。   出欠関係の御案内を差し上げます。本日は上山委員、久保野委員、櫻田委員、松井委員、家原幹事及び海老名幹事が欠席と伺っております。そのほか、若干遅れて御参加になる予定の委員、幹事がおられます。   本日の審議に入ります前に、配布資料の説明を事務当局から差し上げます。 ○木田関係官 本日は新たな部会資料として部会資料22及び23を配布しております。資料の中身については、後ほどの御審議の中で事務当局から御説明差し上げます。   また、民法(成年後見等関係)等の改正に関する中間試案に対して寄せられた意見の概要(1)をお配りしております。これは、本日の御議論の際の参考としていただく趣旨で、パブリック・コメントの手続で寄せられました意見のうち部会資料22及び23で取り上げた事項について、現時点までに集計することができたものを暫定的に御紹介するものです。集計途中でございますので、パブリック・コメントの手続における全ての意見を御紹介するものでないことや、今後の集計作業における修正の可能性があることに御留意ください。また、部会で使用した資料のホームページ掲載につきましては部会長に御判断を頂く事項でございますが、この資料が中間試案の一部についてのもので、かつ暫定的なものでございますので、本日の会議のホームページには掲載することをせず、後に準備する予定の中間試案の全体についてパブリック・コメントで寄せられた意見をまとめたものを部会のホームページに掲載する取扱いとすることにつきまして、部会長に御判断をお願いする予定でございます。本日の配布資料は以上でございます。   ○山野目部会長 資料について説明を差し上げました。よろしいでしょうか。   それでは、本日の審議に進むことにいたします。   まず、部会資料22の第1についての審議をお願いいたします。この部分について事務当局から説明を差し上げます。 ○木田関係官 部会資料22の第1について御説明いたします。   「第1 任意後見制度における監督に関する検討事項」の「1 任意後見人の事務の監督の在り方」では、任意後見人の事務の監督の在り方について中間試案の(注)の記載に関してパブリック・コメントにおいて寄せられた意見を説明において記載しております。ここでは中間試案の本文の甲案及び乙案についての御議論に加えて、(注)に関して寄せられた意見に関する御議論もお願いしたいと考えております。   また、「2 任意後見人の事務の監督の開始に関する検討」では、ゴシックにおいて開始の要件については現行法の規律を維持するものとすること、申立権者については、後の論点の結論を先取りしてしまいますが、任意後見制度と法定後見制度とが併存することを前提に、法定後見の保護者を申立権者とすることや、本人が公正証書によって指定した者を申立権者とすること、申立義務については申立義務の規律を設けないものとすることを記載しております。   これらの点について御議論いただきたいと思います。 ○山野目部会長 ただいま説明を差し上げた部分について御意見を承ります。いかがでしょうか。 ○小澤委員 ありがとうございます。第1の1の任意後見人の事務の在り方についてですが、任意後見制度は、委任者が受任者の監督を行う任意代理の性質を有する制度と承知しています。そして、任意後見監督人の選任が必要とされる理由としては、本人の判断能力が不十分となって本人による監督を十分に行うことができなくなるために、本人に代わって任意後見人を監督する必要があるからだと理解しておりますので、本人の意見を監督事務の在り方にも反映できる制度とすることは本来の委任の趣旨と反するものではなく、むしろ趣旨に沿った制度といえるものと考えております。   確かに制度の導入当初は、これまでにない新たな制度であることから、委任の原則である本人自身による監督よりも厳しい監督となる慎重な仕組みを講じたことは理解できるところでありますが、制度発足から既に25年を経過したものの、その慎重な仕組みが結果的に重たい監督との評価や費用の負担感につながり、制度利用が広がらないという現状に鑑みれば、このタイミングで監督事務の在り方を大きく見直していく必要があるのではないかと考え、部会資料22の5ページにも記載されているような新たな監督事務の在り方を提案させていただきました。   このまま任意後見制度の利用が進まなければ、他の民間や行政等の支援の仕組みを否定するわけではございませんけれども、幾つか課題が指摘されている点もある中で、他の契約の仕組みを利用する方が増えて、本人の判断能力が不十分となったとしても本人の意向や意思が尊重され、かつ監督機能を備え持つことで実効性の確保や本人保護も期待できる最も理想的な制度といわれる任意後見制度がますます利用されないこととなるのではないかというふうな懸念を持っております。   以上を踏まえて、次の仕組みの創設を引き続き検討すべきと考えております。すなわち、第1に委任者、受任者、監督人候補者の3者による任意後見計画を制度化し、その中で監督の要領、範囲、責任、報酬などを定め、裁判所がこれを前提に公正中立な判断を行い認可する仕組みを設けること。次に第2として、国が認証した法人などを将来の任意後見監督人候補者として本人が任意後見契約の中で指名できる仕組みを創設することであります。 ○野村(真)幹事 ありがとうございます。事務の監督の在り方については、これまでも任意後見制度は契約の内容及び任意後見受任者を本人の意思で定める制度であることから、任意後見契約が発効した後にもその本人の意思を尊重した事務が行えるための監督の仕組みが在るべきではないかという視点から意見を述べているところです。任意後見契約を適切な時機に発効させて、任意後見監督人による監督及び間接的な家庭裁判所という公的機関による監督という適切な制度運用を実現する体制を構築するという点も重要な視点ではないかと考えております。そのためには、監督人の報酬と監督人から監督される負担を一定の範囲で軽減することが有益かと思われます。   これらの点から、まず任意後見監督人の監督の範囲の限定、その責任の限定の規律を設けることとして、任意後見監督人の監督の範囲を限定した場合には家庭裁判所の監督の範囲も任意後見監督人の監督の範囲となると考えます。監督の範囲を例えば財産管理に限定した場合は、家庭裁判所の監督の範囲は財産管理に限定されると考えます。責任は監督の範囲に限定されて、また任意後見契約に関する法律第7条第1項第3号、第4号についても、任意後見監督人の職務はその監督の範囲とすることが考えられます。   監督の範囲や監督人の責任の範囲が限定された簡易な監督というのは、任意後見の委任者と受任者の関係性(例えば配偶者・親子間、任意後見受任者が専門職、市民後見人)を考慮して、代理権が一定の範囲(日常的な支援の代理権、例えば不動産の処分を含まない)といったものの契約でのみ選択されることを想定しています。   簡易な監督というのは、概要の報告を基本として、特に重要な事案について重点的に報告しますが、具体的には収支予想と実際の預貯金の増減を比較するチェックのみの監督を想定しています。収支予定と預貯金残高に一定額以上の差があれば、疎明資料で確認するなどして不正防止に主眼を置きます。将来的にはこのような監督は、IT技術を用いればかなり効率的かつ安価に行うことができるだろうと考えています。   今後、任意後見制度の利用が促進されることを想定しますと、任意後見監督人の担い手を確保する必要がありますし、簡易な監督を適切に行う人及び団体の認証制度を創設するということは引き続き御検討いただきたいですが、当面の運用は、委任者があらかじめ任意後見監督人候補者と三面契約をする場合でも、任意後見監督候補者は法定後見制度も含めた後見制度に関する実務経験と知識を持つ専門職、資格者や団体の中から選定することが制度の適切な運用につながると考えます。   また、委任者が任意後見監督人候補者を三面契約で定めていたときでも、任意後見監督人の選任申立てに際して、家庭裁判所は、任意後見契約に関する法律第5条、第7条第4項で援用する民法第847条に加えて、任意後見受任者と任意後見監督人候補者間のその事案での利害関係を考慮して適切な任意後見監督人を選任することができるとすることで、任意後見監督人の公平性、中立性を維持することができるのではないかと考えています。   一方、三面契約とはしないで、任意後見契約の中で委任者が簡易な監督を希望しておけば、任意後見監督人の選任の申立時に家庭裁判所が簡易な監督を行う者を選任するという方法も考えられます。後ほど部会資料23において、法定後見の保護者の選任について、民法第843条第4項において本人の意見を重視すべきことを明確にするという案が提案されていますが、この条文は任意後見監督人にも準用されておりますので、そのことからも任意後見監督人の選任においても本人の意思を重視する規律を設けるべきと考えます。   監督の開始をする要件や監督を開始するための方策については、御提案の内容についてほぼ賛成ですが、2(エ)の四親等内の親族の範囲を狭めることについては、申立権者の範囲が狭まるため反対の意見ですので、慎重に検討することに賛成です。(オ)の申立権者に加えて公正証書によって本人の指定した者を申立権者とするという意見にも賛成です。また、(イ)の申立義務については、申立てを義務付ける規律を設けないとすることに賛成です。 ○佐久間委員 何点か申し上げたいのですけれども、1のところで、まず一般論としてなのですが、任意後見監督人の監督の責任や監督の範囲を限定するという考え方には反対です。それでは任意後見制度を法定後見の言わば代替的なものとして用意するという考え方に反すると考えるからです。   その点に関しまして今、お二方から本人の意思を尊重するというお話がありましたが、それは理念としては正しいと思うのですけれども、検討が進んできて非常に疑問に思っておりますのは、法定後見の方を個別化し、いろいろなところを柔軟化すると、同じような制度を二つ本当に置いておくことが大事なのか、特に任意後見について、監督を切り下げるというと変な言い方ですけれども、そこまでしてやることが必要なのかということを疑問に思います。さらに、今お二人がおっしゃったことからすると、かなり新しい制度を作らなければいけないことになるのではないかと思っております。なぜそう思うかというと、今の枠組みの中で監督を今の水準より切り下げるというのには私は反対なので、監督の簡易なものだったら別に用意しましょうとなるべきではないかと考えるからです。そのように考えたときには、もういっそのこと代理権の証明だけを国がしてあげる、登録代理権制度みたいなものを作って、あとは監督人を付けようが付けまいが自由どうぞという制度を設ける方が、私はより簡易で、そして柔軟化された法定後見とも明らかに違うものとして、よいのではないかと思います。   お二人がおっしゃった考え方を取り入れることは、もちろんあり得るとは思いますけれども、現状そのようなことをして、任意後見制度をなるべく今のような形で維持しよう、法定後見が柔軟化されているのにというのは、私は本当に中途半端に思えて、もういっそのこと、本人が委任契約を結べるのであれば委任契約を結び、代理権の証明について相手方から不安だと言われるのであれば、そこは国の登記か何かで証明してあげると、あと、その外側に今おっしゃったような監督の仕組みをとりたければとるというようなことをする方が私はいいと思っています。   そのようなことから、第1の提案全体については、監督の責任や範囲を限定するような考え方を現行の任意後見法を前提に盛り込むことには反対です。これが1点目です。   2点目なのですが、監督の開始について(1)に書かれていることの限りでは特段異論はありません。つまり、事理弁識能力に関しても一応判断を残すことは反対ではないし、本人が意思表示できないときには本人の同意は要らないとすることも反対ではありません。ただ、その上で、法定後見開始の要件に必要性というのを入れる場合に、任意後見について全くそれを、必要性という言葉なのかどうかはよく分からないですけれども、考慮しなくていいのかということを思いました。本人が請求したり同意をしたりしているときは、そのことは考えなくていいと思うのですけれども、本人の同意を経ずに開始するときには、飽くまで例えばですけれども、任意後見の事務の内容として不動産の売買などが並んでいて、必ずしも現在の本人を見れば、それらの事務についてする必要はないと考えられる状況の下で、本人以外の者が開始の申立てをしてきた、これは任意後見なのだから認めていいですよねというふうに、法定後見の方を変えるときに、本当にしていいのかということを少し考えた方がいいのではないかと思いました。これが2点目です。   3点目は、あとは賛成ですという立場で、(2)はいずれも賛成でございます。 ○根本幹事 私から3点申し上げたいと思います。まず1点目は、第1の1の前段部分の家庭裁判所の判断によって家庭裁判所が直接任意後見人の事務の監督をすることを認めるという考え方について、今回の資料では3ページから4ページのところで甲案、乙案と御記載を頂いているかと思います。その点について、まず申し上げたいと思います。   3ページの下から4行目のところで、部会やパブリック・コメントで甲案の立場について、裁判所の人的及び物的体制の点などを考慮するということで直接の監督をさせることは難しいとの意見があったというのは、御意見としてはそのとおりなのだろうと思いますが、乙案の選任を必須としない考え方を採るということを前提に甲案のこの意見を考慮するとするのであれば、例えば、原則として監督人、つまり現行の規律を維持するのだけれども、家庭裁判所が特段の事情ないし、例外的に相当と家庭裁判所が認めた場合にのみ監督人の選任は必須としないということを規定していくということであれば、この御指摘いただいている人的及び物的体制の点を考慮したとしても、困難であるということにはならないのではないかと思います。   その上で、4ページのウのところになるかと思いますが、仮に必須としない考え方を採った場合ですけれども、その解任事由は法定後見でも、いわゆる1号解任、2号解任というような形で、欠格事由と結び付けるか否かということによって解任事由そのものが狭まってくるということになろうかと思いまして、任意後見にもそこははねるのだと思います。解任事由が狭まるということで考えれば、ここで御指摘があるような、任意後見人の解任についての私的自治に対する介入として必要最小限の範囲にとどめるということになるのではないかとは思います。   それから2点目が、先ほど小澤委員や、若しくは佐久間委員からの御意見のところにもありましたけれども、本人の任意後見の意向を尊重するというところについてですが、家庭裁判所が最終的に監督の責任を負うということとの関係で、その契約の拘束力が理論的に家庭裁判所にどこまで及ぼすことができるのかという点ですとか、若しくは先ほどの佐久間委員の御指摘とも重なるのかもしれませんが、任意で監督付きの委任契約を結んでいる場合とのすみ分けというところも制度的には区別をして考えなければいけないのではないかと思いますので、この点についてはもう少し慎重な検討が必要ではないかと思います。   3点目の、佐久間委員の開始の要件のところで必要性を考慮する必要はないのかという御指摘についてです。任意後見については必要性を開始要件に入れるということは私は不要だと思っておりまして、その理由は、一つは法定後見の場合に開始要件の中に必要性を入れるというのは、必要性が喪失した場合に終了するという終了事由との関係で、開始要件に必要性を入れていくと私自身は理解をしていますので、任意後見の場合にはそうではなくて、家裁の監督が入っているか入っていないかによっても許可が要るかどうかということは変わりますが、基本的には解除ができるということになっているということの違いがあるということと、もう一つは、元々、どの程度の判断能力が低下したかにももちろんよるとは思いますが、佐久間委員がおっしゃられたように、本人の請求若しくは同意がない場合を念頭に置くのだとすると、文字どおり事理弁識能力を欠く常況に近い状況に御本人があるということになるのだろうと思いますので、そうだとすると、そのような状況になったときには任意後見を発動してほしいのですということで御本人は任意後見契約を締結されていると理解できるかと思いますので、必要性というのは任意後見については開始要件として不要ではないかと考えます。 ○竹内委員 ありがとうございます。私も監督の範囲を限定するということについては反対の立場をとります。といいますのは、監督ということで、もし仮に任意後見人が不正な事務をした場合、ここで解任ができるというところが監督の究極の行使の仕方だと思うのですけれども、任意後見契約の第8条の任意後見人の解任については、解任権者を見ますと任意後見監督人、本人、親族、検察官となっておりまして、仮にこれが身寄りのない方の場合は実質上、任意後見監督人しかいらっしゃらないということになるのではないか。となりますと、監督の範囲が限定をされることで果たして適切に解任権を行使できるのだろうかという不安があるからです。また、先ほど監督の範囲の限定の仕方として、例えば財産管理に限定をするという御意見をお伺いしたのですけれども、果たしてそれで限定ができるのか、といいますのは、財産管理に付随する身上監護というのもあり得るべきで、そこまで切り分けて財産管理のみということができるのであろうかということが気になりました。   また、報酬について合意をして計画を立てるというアイデアも頂いたのですけれども、それについても果たしてそこまで明確にできるのかと。先ほど任意後見法の7条の3号、4号についても監督の範囲に含めるとおっしゃってはいただいたのですが、この3号、4号については結局何が起こるか分からない、そのような中でこういったことまで含めて計画が立てられるのかということが懸念されますので、その辺りを詰めないことには、この御意見には賛成し難いのかなと思いました。   また、私は家裁が直接監督するということについても難しいのではないかと考えています。今の家裁の体制と言ってしまえばそれで終わるのですけれども、先ほど根本幹事が、例外的に相当と認めれば監督人の選任はしないというアイデアを頂いたのですが、では例外的に相当というのは何なのかと、任意後見人が誰かというのは家裁が判断できるのかと、この人はいい、この人は悪い、そういったことが判断できるのかと、現時点でよくても将来的にそれが続くのかということで、やはり懸念を覚える次第です。   取り急ぎ、以上です。 ○青木委員 第1の部分については、3点申し上げたいと思います。   まず、家庭裁判所による直接の監督も可能にするかどうかという点についてですが、パブリックコメントに寄せられた意見には私的自治の観点ということが述べられているものがありますが、私的自治をベースにしつつも、監督を入れることと公正証書によるということによって判断能力不十分になった後の委任契約を安定せしめようという趣旨ですので、監督の在り方が家庭裁判所によるか、任意後見監督人によるかを、私的自治の観点から切り分けるということにはならないだろうと思います。   それから、家裁の負担感の観点も出ていますが、ここは実際のボリューム感を見定める必要もあると思うのですけれども、現在1万件年間契約されて、年間に発効しているのが800件から900件という状況がここ10年ほど推移している中で、今後、急に任意後見の契約件数が年間10万件、20万件に増えるということはなかろうと推測される中で、発効する件数も様々な努力をして必要な事案の発効を促したとしても年間数千件程度の発効になるのではないかと思われます。そして、そのうち任意後見監督人が必要な部分も相当数あり、家裁が直接監督をするものもある、と考えた場合、任意後見契約を直接家裁が監督をする事案のボリューム感というのは、それほど大きな負担になるほどのものではないのではないか、と思います。もちろん今後10年、20年の推移の中で利用件数に大きな変化があるということはあるかもしれませんが、その間に任意後見契約法を全く見直しをしないということではないとも思いますので、その時に再度見直せばよく、現時点における想定できるボリューム感を前提にすれば、家裁の直接監督は十分に対応可能ではないかということを議論する必要があるのではないかと思います。   それから、家裁が直接監督をする事案を家裁が選ぶことができることにするわけですので、例えば、パブリック・コメントにもありましたけれども、最初のうちは全てに任意後見監督人を付けつつ、安定して直接監督でも大丈夫だと見込まれる事案については直接監督に移行するということであれば、先ほど竹内委員が懸念されたような、どうやって事案を選ぶのかというところについても一定の目安ができるのではないかと思います。今、大阪家裁では、法定後見における親族後見人について、総合支援型監督人といって、選任から9か月間、後見監督人を付けて、親族後見人が一人前になれるかどうかを見た上で9か月後に監督人を外して家裁の監督に戻すという取組を実施していますけれども、これと似たような発想で、まずは任意後見監督人を付けるけれども、1年、2年の間に直接監督で相当かどうかを見極めていくということは、実務運用として十分に対応可能ではないかと思います。   それから、任意後見監督人の報酬の負担が重いという点を、家裁の監督によって解消するというのは筋が違うのではないかという御意見もありますけれども、今後身寄りのない人が増える中で、必ずしも財産を多く持っていない人も本人の意思を尊重した任意後見制度を使ってもらうようにしていこうという施策の方向性から言えば、そういった費用負担の点も考慮した上で、民法の制度や家裁の負担を考えるというのは、筋が違うとは思いません。   他方で、任意後見契約の中で監督のあり方を選べる制度、あるいは内容を選べる制度については、一番懸念しますのは、ご本人が、監督の在り方とか、その違いがどう及ぶかということを理解した上で選ぶということが可能なのだろうか、ということです。むしろ、支援する側の任意後見受任者や監督人になろうとする関係者のリードによってしか契約内容は定まらないのではないだろうかということになり、私的自治といいながら、実際にはそういう事態になることを懸念します。とりわけ、任意後見受任者と任意後見監督人との関係性が密接な場合の契約においては、監督の実が果たされないところが懸念されます。以上が、監督の在り方についての意見になります。   2点目は、申立権者についてです。公正証書で御本人が指定できるという制度を前向きに検討いただきたいと思っておりますけれども、それに関して、実務運用の問題かもしれませんが、考慮すべき点があると思っております。一つは公正証書で作るということにつき、任意後見契約と同時でなくても、別途、公正証書で申立人だけを指定できるという方策がとれるといいのではないかと思っています。   それから、申立権者に指定される側の人について事前に承諾を得ておく必要があるのではないか、また、指定されたことについて公証役場等から通知をしていただくなどして自覚を持っていただくようにしないと実効性がないことになるのではないかと思います。また、申立にあたって、申立権者であることを疎明する資料としては、公正証書の提出でいいのだとは思いますけれども、任意後見登記の中に、指定された申立権者の記載を入れることができるのか、そこまで登記に反映する必要はないのかということも、更に詰めて議論する必要があると考えております。   3点目は、任意後見受任者に監督人選任申立てを義務づけるかの点ですけれども、積極的に支持をする見解は少ないように思いますけれども、消極的な理由としては、もう少し申立てに関する意識付けをしっかりと広報も含めて周知するべきだということだとは思うのですけれども、現時点で何か具体的な方策というのが特に示されているわけではなく、公証役場の実務においても、この間のヒアリングでは、親族の任意後見受任者が申立てを意識していないのではないかということについて公証実務として自覚的に何か取組をされているということではなさそうでもありますところ、今後任意後見監督人選任申立てをより促進するための方策がないままに、今回の申立義務化は見送ろうということになったときには、この事態がどのようにして改善されていくのかということが見えない状況が危惧されます。そういう意味では、義務付けを見送るのであれば、任意後見受任者が適切な申立てを行うように周知をするための具体的な方策をしっかりと作っていく必要があるのではないかとも思います。 ○佐久間委員 今の青木委員がおっしゃった最後の点なのですけれども、制度の利用が1万件中、要するに1割に満たないという状況を何とかしなければいけないのではないかというのはそのとおりだと共感を覚えますが、では義務付けることも一つの方法かということなのですけれども、本人に不十分ながらも事理弁識能力がなおあるというときに、本人も申立てをしようと思ったらできるのに、していない、その状況で他の者、受任者などが申立ての義務を負っていて、履行するという言い方なのかどうか分かりませんけれども、すべきである、した方が望ましいということは、必ずしも言えないのではないかと思います。したがって、私は先ほど(2)については両方賛成ですと申し上げましたけれども、むしろ義務付けはしてはいけないと思っているということだけ加えておきます。 ○佐保委員 ありがとうございます。3点ほど申し上げたいと思います。   任意後見人の事務の監督の在り方については、これまでも繰り返し、家庭裁判所が直接的に監督を行うのは体制的にも難しく、現行法の規律の維持でよいのではないかと申し上げてきました。パブリック・コメントでは甲案、乙案それぞれに賛成の意見と課題が指摘され、特に本人の意向を尊重できる制度の在り方として更に検討すべきと、様々な案が寄せられております。5ページの16行目の①にあるようなハイブリッドな案もあり、検討を深めることに異論はございません。一方で、意見の背景にあるような、監督人の責任や範囲を限定することで監督人の負担が減り報酬も軽減するのか、疑問もございます。他の委員の方の意見も聞いて、よい方策がないか引き続き考えてまいりたいと思っております。 ○山野目部会長 引き続き、いかがでしょうか。   引き続き伺ってまいりますけれども、久保委員、花俣委員にもこの順番でお声掛けをしようと考えています。ほかの委員、幹事、いかがでしょうか。 ○野村(真)幹事 先ほどの竹内委員の御指摘について、少し補足させていただきます。財産管理だけということでの監督というのは、分かりやすい例を挙げただけで、例えば、財産管理だけではなくて日常生活の支援、そういったものが代理権項目になっている場合は、主に不正防止を主眼に置いた財産管理の監督を行って、身上保護については最低限の監督にとどめることも考え得るというのが、簡易な監督ということになります。 ○星野委員 ありがとうございます。私も監督の範囲の限定について一言意見を言っておきたいと思います。今、野村真美幹事からのお話もありましたけれども、もちろん財産管理だけが必要であると言われていたわけではないというのは理解をするのですが、打ち出し方によっては、やはり任意後見契約というのが資産がある方のための制度と思われてしまうと感じます。そう思わないように、やはり身上保護の部分と財産管理というのは非常に密接ですので、監督の範囲を限定するということについては慎重であるというか、むしろそれについては賛同できないという意見を申し上げておきたいと思います。 ○木田関係官 2点お伺いしたいことがございます。   まず、根本幹事にお伺いしたいのですが、先ほどの乙案を採った場合の例外的な事由について、今の段階でもしお考えがあることがあればお知らせいただきたいというのが1点目でございます。   もう1点、佐久間委員がおっしゃっていた必要性を考慮するかどうかの部分でございまして、先ほどの例で不動産の売却が必要ではないのではないかという話が出されたと思うのですが、今の任意後見契約だと代理権が広く与えられていることが多いと思われますが、そのうち、例えば不動産の取引だけ必要がなくなった場合その必要性をどのように考えていくのかについて、もし今の時点で御意見があれば教えていただければと思います。   以上、2点でございます。 ○根本幹事 個人的には、家庭裁判所が相当と認めたときと広く規定してもよいのではないかと思いますが、ただ、甲案のお立場から御懸念されているところを十二分に配慮するのだとすれば、逆に監督人を不要とする特段の事情が認められる場合には監督人を付さないことができるというような限定的に規定をすれば、御懸念というのは相当程度減るのではないかとは思います。具体的には、法定後見においても監督人を付すかどうかについては現状も家庭裁判所が御判断されていると思いますので、後見人の状況や財産状況、事務状況などに照らして御判断いただくということは、どちらの要件においても可能かと思います。 ○佐久間委員 先に申し上げておくべきだったかと思いましたが、まず、非常に広範なというか多項目にわたる受任、委任がされている場合において、その中に必要な事項が含まれていれば、当然それは必要性があると判断する、ということを考えております。やはり申し上げておかなければいけなかったのだろうと思うのですが、私は法定後見の必要性のところも、これまで述べてきたことの繰り返しですけれども、不要だとなったら審判しないのだけれども、そこまでの判断ができなかったら審判することが望ましいと考えていることもありまして、任意後見だって現時点においてはこれは不要だということはあり得るのではないかと思うのです。例えばですけれども不動産の売買で言うと、資金需要が出てくるということを前提に不動産の売買の委任はしておいたけれども、現状そうでないということが明らかであるというようなときには、その時点での開始はすべきではないという判断があって当然なのではないかと思うので、それを酌める、必要性という言葉がいいかどうかは、先ほども申しましたけれども、分かりませんが、酌める要件を設けることが適切ではないかと思ったという次第です。   根本幹事が先ほどおっしゃったことに関しても、ついでだから申し上げておきたいのですけれども、後で申し上げようと思ったのですが、私は任意後見も、それこそ必要性がなくなったら何らか終了というのはあってもいいと思っているので、その必要性の終了のときの判断の前提になるのだとすると、同じようにここで入っていた方がいいというふうに、幾つかのところでつながっていくのですけれども、そのように考えているということです。 ○山野目部会長 木田関係官、お続けになることはありますか。 ○木田関係官 大丈夫です。ありがとうございました。 ○久保委員 今いろいろお話をお伺いしていて、監督人のこともそうですけれども、任意後見と法定後見が緩やかになったことによって、少し区別が付きにくいと思って、皆がどう選択をすればいいのかというのが分かりにくいなというような感じを思っております。そこが少し、ここのところが違うということがはっきり分かれば選択をすることはできるかなと思って、任意後見の方がいいよねと思えるような違いがはっきりすれば分かるのですけれども、法定後見を緩やかにしていただいたばかりに少し区別が付きにくいというか、部分が多々あるなと思いまして、その辺のところが利用者側にしては少し分かりにくいというのがあって、どちらを選んだらいいのだろうかとなりはしないかということを、皆様の御意見をお聞きしていて思っているところです。 ○山野目部会長 ありがとうございます。 ○花俣委員 久保委員と似たようなことを感じつつも、もう一つ、そもそも論で任意後見というのは何故設けられたのだろうという疑問が出てきてしまいました。必ずしも任意後見を使う方の全てに財産、資産があるわけでもない時代がこれから来るわけですから、そういうことから考えると、本人の意思の尊重という意味では、法定後見よりはるかに任意後見の方が私たちにとってメリットがたくさんあると思っていましたが、いろいろと先生方の御意見を聞いていると、やはり複雑な議論が重ねられていて、そうすると任意後見のメリットが、先ほど久保委員もおっしゃったように、私たちにとってはよく理解が及ばないところに行ってしまうという思いがあります。   それほど任意後見制度の中でいろいろなややこしいことが起きてくれば、それは法定後見に移行してしまえばいいのではないのかと、素人はそのようにも思ってしまうので、もう少し、最初の議論にあったように、例えば任意後見人だけではなくて監督人もあらかじめ決めておけるとか、報酬のことも御本人さんがしっかりとしている間にあらかじめ決めておくと、小澤委員からの意見にもあったように、すっきりと、法定後見との違いが分かりやすい制度になれば、もっと使いやすくなるのではないかと、私たちは単純にそのように思ってしまったところです。   そんなことで、果たして今の先生方の議論に対して何を言えばいいのかよく分からないのですけれども、いつも任意後見のメリットというのはこれよねと、これだからやはりみんな使いやすいし、しっかりしているうちに視野に入れておく制度としてもっと理解しようねという気になかなかなれないのはどうしてなのかと感じてしまう次第です。 ○山野目部会長 花俣委員に御案内を差し上げます。今御議論いただいたところを経て、次の部会資料22の第2のところに参りますと、今、花俣委員のお言葉にややこしくなるという言葉がありましたけれども、もっともっとややこしくなります。今般、後見制度の改革はこの後、第2で御議論いただくところのややこしくなるという題材がたくさん出てきて、それは改正として実現する可能性が大きくありますけれども、結局ややこしくなって、久保委員が御心配になったように、任意後見契約を用いることにどのような魅力があるであろうかということがよく分からないままの帰結に近づきつつある気配がかなり濃くなってきています。今のお二人の委員の御注意はよく承りましたから、諦めないで委員、幹事が引き続き論議を重ねてくれるものと思いますけれども、現状については二人の委員が的確に鋭く御指摘いただいたとおりであるということをまずお伝えしておきます。どうもありがとうございます。 ○花俣委員 ありがとうございます。よろしくお願いいたします。 ○山野目部会長 第1の部分について御議論いただきました。私も花俣委員と同じで、伺っていて何をどう言ったらいいか分からない状況ですが、私は自分の役割から申せば、何をどう言ったらいいかよく分からないでは済まされない、許されない状況の下に置かれておりますから、次の部会資料の作成に向けての御案内、御相談を差し上げることにいたします。   第1の1のところの任意後見人の事務の監督の在り方につきましては、本日段階で今後の方針についての見定めをすることを見送ります。中間試案のこの部分について、あと一度、実質的な意見交換をなさっていただく機会があります。そこに向けて委員、幹事の一層の御努力をお願いすることにいたします。お話を伺っておりますと、誰とかの意見には反対であるとかとおっしゃる局面が見受けられますけれども、よく聴いていると、反対とおっしゃいますが、実質的にこのような姿になるとか、あるいはこういう姿を目指しているというものはそれほど掛け離れていないですよね。   それをシンボリックにうかがわせる契機は、佐久間委員が最初の御発言の中でおっしゃった、そういうラベルは貼っていないですけれども、スーパー簡易な監督ですよね、代理権の存在のみ証明してあげればそれでいいという制度と、現在の法が定めているものの骨格を維持したものの二本立てにすると、現在の比較的ヘビーな監督の仕組みと、それから私の名付けでいいますと先ほど申し上げたようなスーパー簡易な監督と、二つルートぐらいは考えてもいいかもしれませんというアイデアが語られて、小澤委員がおっしゃっていることは、佐久間委員が少しアイデアとしておっしゃったスーパー簡易な監督に向かっていく可能性のある、それに近付いていくような内容のものを、むしろ現行制度の中で実現しようとするものであって、ですから現行制度の手直しに大幅に論及なさることになりますけれども、それは民事法の規律の中にそのアイデア、発想を置いて形作っていこうとするか、外に置いてスーパー簡易な監督に当事者が様々な手立て、スキームで盛り付けをしていくという路を促すかということの違いがあり、その違いは小さくないですけれども、しかし委員、幹事が議論してつぶし合うほど全然見通しのない、しようもない案であるかというと、小澤委員のアイデアもそうですし、ほかの委員、幹事がこのようなことは実現できるといいですねとおっしゃったことの一つ一つは、それぞれ意味があると感じられます。   今日、事務当局がこれを聴いておりますから、整理をしてもらいましょう。次回に向けての整理は、かなり作業としては工夫をしなければならないものになりますし、そこに向けての委員、幹事のお話も御検討も深めていただかなければいけないわけでありまして、お話ししたように実質的な意見交換をする機会があと一度になりますから、そこに向けて皆さんで励んでいくということにいたしましょう。 ○山城幹事 まとまらなかったもので、時機を失した発言になり、申し訳ございません。大きく分けて三つのことを考えております。   一つは今、部会長からおまとめいただいた監督の点ですけれども、先ほど佐久間委員から御発言がありました委任契約を認証する登録代理権制度のようなものを設けることで、監督を簡易化することの狙いは、一定程度、達成されるのではないかという印象を持っています。例えば合意によって監督者を選ぶということは任意後見によらなくてもできるのであって、任意後見の特徴は、やはり公的機関が監督をするという仕組みが担保されている点にあるのであろうと考えます。もちろん、公的機関による監督の在り方自体は様々ですけれども、これについては現行法の枠組みを維持した上で、その仕組みの柔軟化は、任意後見とは別の枠組みでやっていくこともあり得るだろうと考えます。以上は全く、これまで御議論に賛成するというだけのものです。   さらに二つございまして、特定の方向性の解決をお示しするものではなく、このような点が問題となるのではないかと感じたことを申し述べたいと思います。1点は必要性に、もう1点は任意後見受任者の義務付けに関わります。   必要性につきましては、任意後見においては、法定後見と同じ意味での必要性を問題とする必要は基本的にはないのではないかと考えていました。任意後見の場合には、どのような場合にどのような保護が適用されるかを契約によって定めることができるのではないかと考えていたからです。しかし、議論を伺って改めて考えますと、現行法では、任意後見契約の発効が判断能力の低下のみに結びつけられる等の制約がありますので、当事者の考えを契約の内容に反映することができない場合もあり得るのではないかと気付かされました。任意後見における必要性の位置付けは、どのような事項を委任することができ、その効力発生をどのように規律するかとの兼ね合いで検討していかなければならないのではないかと感じます。これが1点目です。   任意後見受任者の義務付けにつきましては、申立て義務をどのように規律するかについては両様の考え方があり得るのではないかと思うのですけれども、それが難しいと考える理由には、二つのものがあり得るのではないかと思います。一つは、申立てを義務付けることが任意後見受任者の義務内容として重すぎ、負担が大きいという観点です。もう一つは、監督人が選任されるまでは任意後見の効力が生じないのだから、代理権を行使することができる状態になるまでは任意後見受任者が任意後見契約に基づいて義務を負うことはないという議論です。前者の考え方による限り、任意後見受任者がいわゆる発効の前にも一定の義務を負う余地自体はあるわけですから、申立て義務を否定するということの意味合いは、どちらの考え方によるかでかなり違ってくるのではないかと思います。   仮に付随義務的なものとして何らかの義務を負うということがあるのであれば、任意後見受任者は、任意後見の発効前にも、本人の見守りをする等の義務を契約に基づいて負うことがあり得るだろうと思います。もちろん、これは申立てを義務付けるという結論に直結はしないだろうと思うのですけれども、受任者が発効前にも一定の義務を負う旨を契約に定めておく余地があることを、例えば解釈論として基礎付けていく余地はあるのかもしれないと感じます。そのような観点から、その延長線上で申立てを義務付けることができるといった考え方も、更に検討する余地はあるのではなかろうかと感じました。 ○山野目部会長 山城幹事が最後に2点おっしゃったことを含めて、今後の部会資料の作成に向けて、私からお話を差し上げます。   部会資料で用意しておりますところの2(1)の任意後見人の事務の監督を開始する要件の検討について問題提起を差し上げている点につきましては、本人の事理弁識能力が不十分な常況にあるということをもって監督開始の要件とするということについて、委員、幹事の間に意見の相違が見られませんでした。この方向で次回に向けての部会資料の作成を進めていくということにいたします。   その上で、それのみが要件でよいか、必要性の観点を加える必要があるかということについて問題提起があり、若干の御議論を頂きました。これにつきましては、本日この後に御議論を頂く段階的発効についての議論のところで、併せてここの論点との関連を意識して御議論を頂くということをお願いし、その様子を見た上で次回の部会資料の作成に向けての見立てを考えるということにいたします。   付け加えますと、ここで必要性の要件を付け加えるかどうかの議論の佐久間委員と根本幹事の論争というものは、実はその論争自体も意味があるとは思いますけれども、必要性なるものを抽象的に考えるか具体的に考えるかという論点の代理戦争を今お二人はした、いえ、代理戦争というか、二人とも論争の本人ですから、別なところで本戦をやっていただくべきものを、ここで番外でしているというか、場外乱闘をしているというか、なさっておられるような風景の部分があって、ここの議論をいたずらに複雑にした、とまでは申し上げませんけれども、いささか複雑にしてくださったという側面はあるように感じます。いずれにしても、先ほど御案内した方向で引き続き検討していくということにいたしましょう。   (2)の適切な時機に後見人の事務の監督を開始するための方策のうち、アにつきましては、公正証書において申立権者を当事者が考えた上でアレンジすることができるという方向について御異論が見受けられませんでした。細部についての御注意は頂いているところでありますから、それらに留意することとした上で、この方向で次回に向けての部会資料の作成をするということにいたします。   イの申立義務については、これを積極的に提案として育てていこうという御意見を頂くことができない状況にあります。青木委員が御心配になっておられる先々の見通しやこのアイデアに根拠、魅力があるではないかというお話は、多分それそのものに反対する人は委員、幹事の中にいませんけれども、ここに至るも、これについて民事基本法制上の規律を設けるという仕方でお答えを差し上げるということが困難な状況であるという情勢は、やはり動いていないと感じます。あと一度議論をお願いする際に、改めてここの議論の確認のようなお話を皆さんにお願いしようと考えますけれども、本日意見交換をしていただいたところを踏まえて、次回に向けて部会資料の作成を進めるということにいたします。   特段の御意見、御発言がなければ、その次の部分に進もうと考えますけれども、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、部会資料22の第2及び第3の部分について事務当局から説明を差し上げます。 ○木田関係官 部会資料22の第2及び第3について御説明いたします。   14ページからの「第2 任意後見制度と法定後見制度との関係」では、任意後見制度と法定後見制度との併存を可能とする方向とした上で、併存を可能とする場合の任意後見人と法定後見制度の保護者との権限の調整のために、任意後見人の代理権の停止の規律の在り方などについて記載しております。任意後見人の代理権の停止の制度を設ける場合の要件、停止期間、裁判手続を含めて御議論いただければと思います。   22ページからの「第3 任意後見制度に関するその他の検討」の1では、任意後見契約の方式等について記載しております。これらの点について、ゴシック部分に記載されているものを中心に御議論をお願いしたいと考えておりますが、例えば、任意後見契約の一部の発効においては、このような規律を設けることが任意後見制度を複雑にさせるもので、制度を分かりにくくするという指摘があることも踏まえた御議論をお願いしたいと考えておりますし、予備的な任意後見受任者の制度を設ける場合については、第1順位の任意後見受任者が欠けたときに第2順位の任意後見受任者が任意後見人として事務を開始するための手続や、予備的な任意後見受任者の登記の在り方、特に順位を登記する必要性の有無も含めて御議論いただければと思います。   また、30ページからの第3の2として、その他の項目について整理しており、ゴシック部分に記載した五つの項目について御議論いただければと思います。 ○山野目部会長 御意見を承ります。第2、第3に分けておっしゃっていただく必要ありません。お気付きのところを御随意に御発言をくださるようにお願いいたします。 ○小澤委員 ありがとうございます。まず、第2の1(2)の任意後見人と成年後見人との権限を調整する規律についてですが、制度の併存によって明らかに権限の調整が必要なケースとしては、任意後見人に権限がある事項について、任意後見人に不適切な権限行使があるなどの事情によって家庭裁判所が必要性を認めて、重ねて成年後見人等を選任して権限を付与する場合があると考えています。   このような場合であれば、家庭裁判所が必要性を認めて付与された成年後見人等の権限を優先し、必要性がなくなり法定後見の利用が終了するまでの間は、任意後見人の権限については成年後見人の権限と重複する範囲で無権限となる旨の規律をしてはいかがかとの意見が私たちの検討の中でありましたが、権限の解釈の問題により任意後見人と成年後見人等の間で権限の調整が必要なケースも考えられ、このような場合は家庭裁判所や監督人により調整がなされることが通常かとは思いますが、このような場合は法定後見を優先することが適切だとは限らないため、家庭裁判所による権限の調整を可能とする規律は必要だという意見もございました。   なお、この意見は法定後見制度の枠組みについて中間試案の乙1案を想定してのものですが、甲案や乙2案を採用した場合、事理弁識能力を欠く常況にある者については包括的な代理権を持つ現行法と同様の後見や保護Bによる法定後見が開始され、任意後見人による権限と複数の権限重複が生ずることが想定されますが、その点については検討が必要ではないかとの意見もありました。   また、この権限の調整については、後見登記においていかに任意後見の登記と法定後見の登記を一覧性を持って分かりやすく公示するかが重要であると考えますので、登記についても引き続き検討が必要であると考えています。   次に、第3の1(2)イの任意後見契約について、公正証書によりその変更ができる規律を設けることについては提案を支持します。そのことによって任意後見契約の一部解除や事務の委託の追加による変更が一つの契約の変更によって行えることとなりますので、後見登記も分かりやすく登記ができることになるものではないかと考えます。 ○野村(真)幹事 ありがとうございます。まず、第2について、任意後見制度と法定後見制度との併存を認めない規律を削除することには賛成いたします。権限の調整についてリーガルサポート内で出た意見としては、停止の期間については、その重複する法定後見の代理権に期間が定められた期間と同一期間とすること、あるいは期間の上限を定めることが分かりやすいのではないかという意見がありました。停止の請求権者については、法定後見の代理権の付与の申立権者がその申立てと同時に請求することが分かりやすいのではないかという意見がありました。   第3のその他の検討のところですが、(1)の任意後見契約の方式については、現行の規律を維持することに賛成いたします。   (2)の一部の解除と事務の委託の追加ですが、一部の解除及び合意による事務の委託の追加を行うこと、それから公正証書によりその変更をすることができる規律を設けることについては賛成いたします。その場合、任意後見の監督が開始された後に事務の委託の追加を行うことも想定されますが、追加された代理権についても監督を及ぼすために、手続について規律を設ける必要があると考えます。追加変更は委任者と受任者の合意があれば可能ですが、裁判手続を確実に行うことや、監督人が変更の事実を知るための手立ても必要だと思います。例えば、公正証書作成時に、監督人や家庭裁判所に対してその旨を通知した旨の書類を添付することや、追加変更がなされた際に公証人から裁判所や監督人に通知することなどが考えられます。   また、追加した代理権についての任意後見監督人の選任申立てを行う必要があると思われますが、監督人選任申立て時の申立権者に加えて、申立てがなされないことが起こり得ることも想定して、裁判所の職権による選任も可能とするべきだと思います。追加変更の代理権についての監督人は、同じ人が選任されることが一般的であると考えますが、代理権の内容によっては別の監督人を選任することも可能であると思います。また、一部解除及び合意による事務の委託の追加を行うに当たっては、監督人に意見を聴く手続も必要ではないかと思います。   後見登記については、契約の一部解除及び当事者の合意による事務の委託の追加を行う場合に、代理権の範囲が変わることになって、一部解除の場合は任意後見契約法第11条が適用されることになると思われます。それらの確認のために、現在有効な代理権の証明書のほかに、従来の履歴が分かる履歴事項証明書を取得するニーズが増加することが想定されますので、本人や取引の相手方ともに分かりやすい公示制度が必要になると思われます。   例えば、商業登記における会社の目的変更の登記事項のように、追加後の代理権を含んで取り消された代理権を除去した現在有効な全ての代理権が一覧化された代理権目録を公示する方式としてその証明書を取得することができるようにします。また、代理権のこれまでの履歴を取得したい場合には、各審判の対象となった代理権ごとの目録を含む履歴事項全部証明書を取得することを可能とすることなども検討すべきではないでしょうか。   (3)の一部の発効については、制度が複雑になるために慎重に考えるべきだと思います。   (4)の予備的な任意後見受任者ですけれども、従来から申し上げていますが、現在でも任意後見はその契約の締結から効力発生終了まで長期にわたるために、任意後見受任者の事情で後見事務が行われない場合に備えて、複数の任意後見契約を締結すること、また、委任者と受任者の間で主たる受任者を決めておく旨の合意がされています。これを法律上規定する必要性については、特に委任者において、複数の契約が自ら希望し定められたとおりに発効することを手続的に担保できるというメリットがあると考えられます。   予備的受任の登記については、契約時に本人、任意後見受任者、予備的な任意後見受任者の全員で合意をする場合は、1個の契約であると考えて、登記も数人の任意後見人が共同して代理権を行うべき事務を定めた場合と同様に、後見登記をなすことは可能であると考えてよいのではないでしょうか。   また、予備的受任者の事務を開始する要件については、先順位の受任者の死亡のほか、高齢や病気などの事情によって事務を継続できない場合も想定する必要があります。契約発効後は法定後見の監督人の職務について、民法第851条第2号で、後見人が欠けた場合に遅滞なくその選任を家庭裁判所に請求することとされており、これに準じて後順位受任者の監督人の選任を請求することが考えられます。また、先順位後見人が事務を継続できない場合も、その旨の事情や医師の診断書などの書面を添付して請求することを可能とするべきだと考えます。契約発効前について、任意後見監督人の選任申立てが後順位受任者についてなされた場合も同様に、申立人による先順位の受任者が事務を行えない旨の事情説明とともに、死亡の記載のある戸籍や医師の診断書などの資料を添付するという方法が考えられます。   後順位受任者が後見人として事務を行う場合の監督人については、契約発効後に、先順位の後見人が欠けた状態若しくは事務を行えない状況となった場合は、現在選任されている監督人が継続して選任されることを原則としつつ、親族から専門職等、属性が変更する場合などの個別な事情において監督人を変更することも想定されますので、後順位後見人の監督人選任手続が必要であると考えます。   第3の2のその他については、(1)について、本人の意思の尊重等に関する規律について、法定後見の規律と同様の見直しをすることについては賛成します。   (4)の親権者等の法定代理人が締結することができるか否かについては、任意後見制度の趣旨を踏まえて慎重に検討する必要があると考えますが、加えて規律を設けることは必要ないのではないかと考えます。   (5)についても、消極的な意見です。 ○根本幹事 まず、第2のところを先にと思っています。併存するということ自体には賛成ですけれども、調整する規律を設けるかどうかということについて、ここは三つの段階で整理をしていくべきだと思っています。まず、そもそも任意後見人が解任されるというような事態であれば、これはそもそも併存するということにもならないですし、権限の調整は要らないということだと思うのですが、部会資料の中にもある一部解除の制度を導入した場合には、この調整が必要になるような場面において一部解除してしまえばよいではないかという考え方でよいのかどうかということが、検討の意義につながるのではないかと思っております。一部解除をするということは、当該任意後見人が持っている代理権については将来にわたって、任意後見人は代理権を持たなくなるということになるだろうと思いますが他方で、この権限を調整する規律であれば、その効果として仮に一定の停止期間を設けるのだとすれば、無期限の停止だとしても結局取り消せるという終わりが決まっているということで、任意後見契約において、御本人がその人にこの代理権を付与したいという意思なり任意後見契約をできるだけいかしていくということを重視するのであれば、一部解除に加えて、更に権限調整規定を設けていくということが理論上、必要になってくるということではなかろうかと思っています。   その上で、権限調整規定を設けないとした場合、一部解除が認められれば、そこで調整するということはあるのかもしれませんが、一部解除ないし権限調整、両方できないということになってしまうと、先ほど小澤委員から御指摘があったような場面で法定後見がかぶさっていく、その法定後見人になるのは、専門職がほとんどの場合だと思いますが、その入った専門職は実務上、法定後見で入った代理権限の行使が円滑にできないという事態は容易に想定され、それでは結局、法定後見を重複して開始させた実質的な意味というのがなくなってしまうのではないかと思っています。   具体的に申し上げれば、後で佐野委員等からも御発言があるのかもしれませんが、例えば調整規定がないということになり一部解除もできないということになりますと、金融機関としては、権限をお持ちの方二人ともが、窓口に来てくださいというようなことになります。でも、任意後見人は自分の権限を譲りたくないということになれば、行きませんと言われたときに、強制的に行かせるということはできないわけで、かつ、その程度の事由で解任にまで至るかというと、それは解任には至らないのだと思いますので、結局そうすると事務が進まないという結論になってしまうのではないかということを強く懸念します。権限の調整規定というのは必要だと思います。   部会資料の16ページの31行目のところの停止の概念についてです。これについては書いていただいているとおり、代理権の行使に関する、権限を停止させる効力という理解になるかと思いまして、17ページ以降の他方でというところで書いていただいている解任とは異なるというのは、今申し上げたところと同じように考えていますので、解任とは違う、つまり一部解除とは将来効との関係で異なってくるという違いに着目すれば、一部解除とは別に権限調整規定を設けるというのは意義があることではなかろうかと思います。   その上で、期間のところです。取り消されるまで無期限の停止ということでよいのではないかとは思っておりまして、停止の制度の必要がなくなれば取り消せばよいという整理でよいのではないかと思います。   その上で、請求権者です。18ページの一番最初のところの契約の当事者でない第三者である法定後見の保護者が解除するというのは困難であると書いていただいているのですが、他方で17ページの25行目のところで、解任の請求権者としての、任意後見監督人や本人はともかく、親族とか検察官を請求権者とするということなのであれば、これも契約の当事者ではない第三者だと思いますので法定後見の保護者ができないという理屈にはならないのではないかと思います。実際に併存の場面で困るのは、今申し上げましたように、法定後見の保護者が円滑に自らの代理権限を行使できないということになりますので、先ほど野村真美幹事から、監督人と法定後見の保護者が同一である場合とない場合というお話があったように記憶していますが、同一であればいいのかもしれませんが、同一でない場合もあるのだとすると、尚更、法定後見の保護者も請求権者に入れていただかないと実務は回らないのではないかと思います。 ○佐保委員 ありがとうございます。第2の1の任意後見制度と法定後見制度との併存の可否等についてですが、併存を認めない規律を削除する方向性に賛同いたします。混乱を避けるため、家庭裁判所の審判による代理権の停止でよいと考えております。停止期間の可否や方法などについては、ほかの委員の方の意見もお聞きして検討をしてまいりたいと思っております。   次に、第3の1の27ページからの任意後見契約の一部の発効についてですが、自分が適切に判断できるうちに任意後見契約を行い、段階的に発効させたいという意見もございます。本人の意思をより尊重できる選択肢の一つとして、制度の簡素化も含めて、引き続き検討していただきたいと考えております。   2、その他の34ページからの医的侵襲に関する意向の表明でございますが、例えば延命治療を望まないなどの意向であれば、今でも公正証書など表明する方法はあると考えます。様々な医療行為がある中で、本人の意向に沿ったものかを任意後見人が判断することは難しいのではないかとも考えます。任意後見人に医的侵襲に関する意向の表明を委託することは慎重に検討すべきではないかと考えております。 ○佐久間委員 まず、第2の1なのですけれども、(1)はよろしいと思うのですけれども、(2)で権限の調整をする規定は設けない方が私はいいと思っています。今のところ、任意後見人が選ばれていて法定後見制度が次へ重なったということだけを専らお考えになり、かつ法定後見の優先というふうな議論だけがされていますけれども、論理的に、また今後あるいは望ましい事態としては、法定後見が始まっているけれども任意後見が後から、本人が用意したものが始まるということだってあり得るということも含めて考えていかなければいけないのではないかということを、まずは申し上げておきます。もっとも、そこを深めるつもりはありません。   その上で、任意後見が始まっているところ、法定後見を重ねてというときなのですけれども、まずは任意後見人が任務に適さない事由があるような場合、これは全体としてそうなのだったら解任すべきであると思いますし、後の論点かもしれませんけれども、一部の解除だって認めていくべきだと私は思っています。その一部解除を認めないところを、停止などで処理するというのは、一見よさそうに見えますけれども、根本さんは停止しておかないと実務で困るのではないかとおっしゃいましたけれども、停止してしまうと、後の論点にも関わりますけれども、その停止が取引相手方に分かる状態になっていなかったら、取引相手方としてはむしろ、今までこの人は任意後見人でした、取引していました、大丈夫でした、その後も取引を継続しました、ところが無権代理でしたとなってしまうので、よろしくないのではないかと思います。   二人が権限を持っているときに、それは内部で調整するのが当たり前だし、望ましいでしょうけれども、調整が付かずに一人だけが来ましたというときには、両方権限を持っているのだから、これは飽くまで相手方の方から見ての話ですけれども、相手方からすると無権代理になるというリスクがない分、権限調整はしない方が法的には安心できるのではないかと思います。停止期間を定めるのか分からないですが、相手方に停止期間はこの期間ですよと分かるようにするのは、極めて難しいので、よろしくないのではないかというのが一つです。   ただ、相手方の方が主ではなくて、一番申し上げたいのは次のことでありまして、まず、任意後見が開始しているときにかぶせて法定後見を開始するというのであれば、当然それこそ必要だからだと思いますけれども、権限競合は避けられる限りは避けるということが望ましいと思いますので、まずそうすべきであると。   2番目に、任意後見人がとにかく言うことを聞かないし邪魔するやつだというのだとすると、そこは一部解除で対応することも考えられる。その上で、そうではないということになると、これは任意後見人と法定の保護者、法定の後見人等が役割分担しながら、きちんと話合いもして進めていくのが本来在るべき姿だと思いますので、法的にどちらかだけを優先させるということをすることは適切ではないと私は思います。これが第2の1についてです。   第3についてなのですけれども、特に(2)について、これはよく分からなかったので確認したいのですけれども、イの公正証書によりその変更をすることができる規律というのは、公正証書自体に変更契約というのを認めていこうということなのか、多分今そんなのはないのではないかと思うのですけれども、公正証書自体は今までと扱いは変わらなくて、前の公正証書は効力を失わせて新たに作るとしておいた上で、裁判所の手続というのでしょうか、前のものの効力がなくなったら、今いる任意後見人は任務としては終了してしまって、一応同じ人なのかもしれないけれど、もう1回、任意後見監督人の選任の審判をするとことになっているところを、私は、公正証書のところは改めずに、裁判所の手続の方を、変更の審判みたいなもので済むのだったら、それをしていったらどうかなという限りで、実は考えていました。   それでは大した違いにはならないのですけれども、任意後見契約というのは法的には極めて不自由な立て付けになっているのだということを少しでも緩和することが、イメージだけの話なのですけれども、任意後見契約の使い勝手がよくなるように見えて、使いましょうねという気運につながるのではないかと思うので、その程度のことでもやったらいいのではないかと思っていました。そこで、公正証書によりうんぬんのところは、公正証書の在り方自体を見直そうということなのか、そういうことができるのかということを確認したいということが(2)についてです。   (3)は、一部発効と、これも言うは簡単だけれども、どの順にどうやって発効していくのかというのは非常に難しいことになり、それを適切に、例えば本人の意向をうまく尊重しつつ不要なものを発効させないなんていうことを考え出すと、もう多分収拾が付かないので、理念的には美しい制度だと思うのですけれども、組むのが現実には極めて複雑になって難しいのでどうかな、と思っています。   予備的な任意後見受任者については、契約が何本かあって順番が付いていますというのはあり得る話だと思うのですけれども、これも登記についてよく分からなくて、この登記は誰のためのどういう登記なのでしょうか。少なくとも代理権を証明する登記とは性格が違うので、登記をしておくことによって裁判所が後に後見監督人の選任の審判などをするときに間違いがないということを目指しているのでしょうか。それだったら登記である必要はあるのかな、ないような気がするなという、感想めいたことですみませんけれども、(4)はそのようなことです。   それから、30ページのその他のところについても何点か申し上げたいことがございまして、一つは(2)と(3)について、このような点についてこうすべきだということは、私はまだ今の段階では何とも申し上げることができません。というのは、私は法定後見と少なくとも同程度の解消のしやすさは確保すべきなのではないかと考えています。そうしないと、任意後見は不自由な制度だから使うメリットがないということにもなりかねないので。そうであるからこそ、法定後見でどうなるかによってここは変わってくるので、何とも今の段階で申し上げられませんと言いつつ、1点だけ、今の段階で非常に気になっているのが、任意後見契約の9条2項の「正当な事由がある場合に限り、裁判所の許可を得て解除することができる」とある中の、「正当な事由がある場合に限り」というのはかなり強い表現のような気がしています。先ほど部会長には根本さんとの間での代理戦争的なと言われたところですけれども、必要性というのに比べると、つまり必要かどうかとか、不要になっていないかどうかというのに比べると、「正当な事由がある場合に限る」というのは相当強い表現に見えるので、ここを何とかいろいろな事情を取り込めるように変えられないかと思っているところです。それが(2)と(3)についてです。   (4)については、私は自分の考えとしては、親権者が未成年者の将来の任意後見人を選ぶなんていうことは、制度上あってはならないと思っています。けれども、前も申し上げたようなことで、そのことを法律で決められるとはおよそ思わないので、論点としては落とせばいいのではないかと思っています。   それから、(5)については、これはやはり任意後見契約の中に取り込むのは難しいのではないでしょうか。例えばですけれども、先ほど申し上げた(2)と(3)のところの解除の不自由のところを、この種の事項について同じにしておいていいかというと、それはよろしくないと思います。また、任意後見監督人を、例えばこの場合も選ぶのか、選ぶとしたらどんな職務を委ねるのかということも別途考えなければいけないことになると思います。別途考えなければいけないことになるのは、医療同意等についてはおよそ任意後見契約が予定しているような事項ではないからだと思います。したがって、医療同意に関する規律を法体系全体の中で設けるということはあり得ると思うのですけれども、それは任意後見契約に接合してということではないだろうというのが私の意見です。 ○山野目部会長 佐久間委員の御発言の中で、第3の1の幾つか諸点にわたる論点を掲げているうち、お尋ねにわたる部分もありましたけれども、お尋ねを頂いた点に限らず、木田関係官から何かお話を頂いておくことがあれば、御随意にお話しくださるようにお願いします。 ○木田関係官 公正証書の見直しの部分でございますが、もちろん裁判手続が簡易化するということもあるかなと思いますが、それに加えて、公正証書の変更については、各種調整が必要であるということは承知した上で、どういった形で実現することができるのか整理させていただきたいと思います。   あわせて、今の佐久間委員の発言に対して何か所か御質問させていただいてよろしいでしょうか。停止の部分につきまして必要ないという意見の中で、基本的には権限調整で避けるべきだという理屈はおっしゃるとおりなところがあるのかなと思ったところでございますが、他方で現行の任意後見を前提とすると、当初から代理権が幅広く与えられていることが多いというところで、これが変わるかどうかにもよるとは思いますが権限調整がなかなか難しい場面もあるだろうと考えております。   他方で一部解除のところで、先ほど少し根本幹事の発言にもあったところで、一部解除について誰が解除できるのかという部分につきましては、契約の解除でございますので基本的には契約の当事者しか解除できないだろうという理解に立つと、仮に任意後見人のやり方は問題があるけれども本人は余り問題だと思っていないような場面ですと、本人から一部解除をするというのが期待できない場面というのも生じ得るのではないかと、そういった場合に権限の調整として何か必要な場面があり得るのではないかと考えたところでございます。話合いによって調整することは御指摘のとおりかと思います。それを踏まえて、更に何かしらの規律が必要ではないかという趣旨で記載したということを補足させていただければと思います。 ○山野目部会長 佐久間委員、お続けください。 ○佐久間委員 公正証書のことについて伺いたいのですが、公正証書契約の変更も視野に入れてというのは、この局面だけでそういう変更という制度を作ることがあり得るという想定なのかということだけを。あり得るのだったらいいと思うのですけれども、およそ想定としてあり得ないのだったら、時間も限られているところで、やめた方がいいのではないかと思ったというのが1点です。   それから、確かに本人の解除が期待できないときにどうするかという問題は残るとは思うのですけれども、でも停止だったらいいのかということを逆に疑問に思いました。復活させるというので、そこは少し何か、もし一部解除が駄目なのだったら、停止だって本人がしているところでということになると思うので。あともう一つ、でも御指摘のとおりというか、本人に意思能力というか事理弁識能力がある状況ばかりではないということからすると、やはり任意後見監督人の解任権というのですかね、そこも視野に入れて制度は組んでいく方がよくて、申し訳ないですけれども、解除が駄目で停止だったらいいというのがよく私には分からないとしか言いようがありません。 ○竹内委員 私の意見としては、もちろん並存は賛成です。権限調整については今、議論されておりますけれども、基本的には部会資料16ページの冒頭のウのところで、運用でできるだけ調整を図るのが筋であるとしても、やはりそれではなかなか解決できない場面というのは生じ得るのではないかと考えていますから、その方法としては、やはり停止という制度はあり得るのではないかと。任意後見ということで、元々お願いしたい人にその権限をお願いした、ただ、例えば法定後見で専門職がやった方がいいことがたまたま生じたと、そういう場合であれば一時的に停止はして、それが終わったらまた元の任意後見人の方にやっていただくようなことができるのであれば、やはりこれは停止かなと思っています。   期間と請求権者につきましては、期間については部会資料で、親権停止を参考に、例えば1年とか2年を超えない、1年を超えないというのがあるのですが、適度ではないかと思います。もしそこで、やはり権限調整が間に合わない、1年で間に合わないとなれば、親権停止もそうですけれども、再度の延長といいますか停止の申立てをすることで対処できるのではないかと思います。   また、停止の請求権者につきましては、既に何人かの先生から御意見が出ておりますが、部会資料17ページの28行目以下のところで、法定後見の保護者、あるいは今でいう成年後見監督人とか、そこは請求権者として含めることがいいのではないかと思います。佐久間委員から、先ほど取引の相手方の保護をどうするのかということで問題提起を頂いたのですが、これができるかどうかなのですけれども、任意後見契約の登記については、任意後見登記法の第5条の9号で、職務の執行停止の保全処分がされたときにはその旨登記をすることになっておりますので、権限停止ということを登記事項にできるのであれば、ここで明らかになることはできるのではないかと考えました。   続いて、任意後見の部会資料18ページの2のところですけれども、私は部会資料に賛成でございます。部会資料の18から21ページまでです。   続いて、部会資料22ページなのですけれども、第3の1(1)、これは公正証書によるということは賛成です。   (2)の一部の解除及び追加については、少なくとも一部の解除、これについては可能なのではないかと思いますし、やり得る余地はあると思います。登記との関係でも、例えば元々代理権の範囲というのは、後見登記法の第5条の4号に代理権の範囲と書いておりますので、代理権の範囲について変更した場合、つまり一部解除した場合は変更の登記をするということで対処する。また、現行法では代理権が変更することはありませんので、後見登記法の7条の第4号では、第5条第2号、3号又は6号のみで4号は入っていないのですけれども、この条文に4号を含めることで、一部解除の場合には代理権、もし代理権が少なくなったりした場合には、ここで変更登記をするということで明らかにはできないのだろうかと考えました。   一部発効については、なかなか複雑になってしまうので、それはいいですねといまだに私は言えない段階なのですけれども、もしこのように一部だけは自分でやりたいというニーズが本当にあるのであれば、こういう制度を設ける必要があるのであれば、この考えは一部について小さく産んで大きく育てていくというか、増やしていくという発想の提案なのですけれども、逆転の発想をして、最初に全部発効させた上で、権限停止ではないのですけれども、ご本人がやりたいというものだけ残して、残りは後見人の権限停止をする。つまり、逆転の発想で、大きく産んでおいて、停止をしておくみたいなことで、もしかしたらできないのかなと、あれこれ考えました。すみませんが、まだ具体的に詰めてはおりません。   最後、予備的任意後見受任者については、これはニーズがあるということで賛成しておりますし、先ほど野村真美幹事がおっしゃってくださいましたが、先順位の受任者が死亡その他欠けたとき以外に、例えば今でいう後見人の辞任事由、正当な事由という文言がありますので、これを使って、先順位の受任者が正当な事由で職務の執行ができない場合、それも含まれ得ることにした方がいいのかなと考えました。法文の規定の仕方としては、今の任意後見契約法の4条に任意後見契約を発効させない、開始しない事由という条文があると思いますけれども、ここに例えば、順位について登記することを前提に考えた場合には、先順位者が登記をされているという場合は開始をしない、後順位の人が開始を申し立てても発効しないみたいな規定の仕方があり得るのかなと思いました。 ○根本幹事 佐久間委員からのお尋ねを頂いている点も含めて、少し多岐にわたりますが、まず権限調整のところです。先ほど竹内委員から登記のお話も出ましたが、私としては取引の相手方との関係では、法定後見人が通知をしない限りは任意後見の停止の効力は対抗できないという規定を設けるということで十分対応可能なのではなかろうかと思っています。もちろん登記という方法もあり得るのだとは思うのですが、この場面はかなり急いでいる場面で、今の登記実務、若しくは改正後の登記実務の登記期間にもよりますけれども、それを待っていられないということもあるかと思いまして、現行の実務においても、法定後見人が追加選任されるような場面においては、後見人から金融機関に対して通知を出させていただいて、そこで届出の調整をしていただいたり、場合によっては家庭裁判所からの御連絡を頂いたりということでやっておりますので、通知という形で対抗要件を定めていくことで取引の相手方を保護していけば、停止という制度を設けても問題はないのではないかとは思います。   その上で、佐久間委員がおっしゃるように、本来は任意後見人と法定後見人が協議をして調整するというのがもちろん前提にはなるわけですが、それが実務上どうしてもかなわない場合ということがあるかと思いますので、できる規定ということで、必ず別にその調整をしなければいけないというわけではないので、調整が必要な場面で家庭裁判所にイニシアチブをとっていただいて調整する必要はやはりあるのだろうと思います。   その上で、一部解除との違いということですが、一部解除と権限調整といわれる規定では介入の度合いが違うので、必要最小限の介入で、かつ、先ほど木田関係官からもありましたけれども、一部解除は法定後見の保護者はできないわけですが、権限調整においては法定後見の保護者が仮にできると考えるのであれば、そういう意味でも必要最小限という整理ができるのではなかろうかと思います。   その上で、先ほどの竹内委員からの御意見を伺っていて思いましたけれども、必要最小限ということの関係で言えば、期間を定めず取り消すのではなくて、1年なら1年で決めて、その更新の必要があるかどうかということを見定めていくということであれば、必要最小限ということとの関係でも整合するのではないかと思ったというのが調整関係のところになります。   その上で、第3のところに少し話を進めたいと思いますが、第3のところについても、先ほど佐久間委員から関係官宛てにお尋ねがありましたが、締結し直すということで今できているのではないかということではなくて、公正証書の変更という概念を少なくとも任意後見の範囲においては入れていただきたいと思っています。最終的に締結し直せばできるということでは、使い勝手が悪いということになっているのだろうと思いますので、佐久間委員から正におっしゃっていただいたように、それほど大きな変更ではないのかもしれませんけれども、変更できるとすることによって、使い勝手がよくなったというイメージを強くお持ちいただくことができるのではないかと思いますし、理屈の上でも、想定されているのは代理権の目録の話であって、契約本体の本文を変更するという話ではありませんので、代理権目録を変更するというためだけに契約全体を解約し契約全体を巻き直すということが、果たして国民の皆さんの視点から見たときに、どちらの方が使い勝手がよいと映るのかということではなかろうかと思います。その意味では、パブリック・コメントにおいてもそのような観点からの御意見を頂いているのではないかと思うところです。   それから、部会資料26ページの(ウ)のところになりますけれども、事務の監督が開始された後に公正証書で変更するということと、その後(エ)のところで、本人の締結能力がない場合においては難しいのではないかということで、(エ)のところの記載自体は従前の私の個人の意見とは異なるところもありますが、仮にこの記載を前提にしたとしても、ここできちんともう一度議論しておかなければいけないと思うのは、監督人が代理で今は結ぶということを代理権付与していればできるということが前提になっており、それは本人の契約締結能力がない場面においても任意後見人と任意後見監督人が結ぶということが実務では一部行われていると認識をしていますので、ここの議論においては整理をした方がよいのではないかとは思います。   それから、予備的なところについては、29ページの25行目のところで、しかしということで、合意に反してされた申立てに関する任意後見契約の発効を防ぐことができないと思われるとなっていますが、このようにしたのでは、予備的なことを認めると非常に混乱が大きく生じるのだと思います。今までほかの先生方からもいろいろアイデアがあったところかとは思いますが、法制上、順位をきちんと決めている以上は、第1順位が死亡その他欠けたときでないと第2順位はそもそも発効の申立てに至らないということを規律することが必要だと思いますし、想定されるものとしては、第1順位の任意後見受任者と第2順位の任意後見受任者との間で、自分がなるのだということで紛争が生じるという可能性もあります。きちんと契約に基づいて発効してもらえるように、家庭裁判所において判断はしていただく必要があると、つまり、第1順位が死亡その他、欠けたといえるのかどうかということを、仮に第2順位の人が申し立てたときに第1順位の人が争いたいのであれば、そこを争えるようにしておくということは制度上必要なのではないかと思います。   それから、2のその他のところですが、先ほど佐久間委員からも終了における正当事由という文言の見直しについて言及を頂いていましたが、私もそれについては強く賛成をするところでして、終了事由自体を例示化するということはなかなか今回の法制上は難しいということを前提に資料をお作りいただいているのではないかと思いますが、少なくとも正当事由を見直すというときに、例えば、辞任することが相当でない場合を除きという規定をしていただくということであれば、従前から議論があった目的達成とかそういうことも含めて、この中に全て吸収させていくということもできるのではないかと思いますし、実質的にも信任関係が破綻しているという、継続して就任する意思がないというような任意後見人がいるということであれば、辞任することが相当でないというところで全て個別のケースを吸収できるのではないかと思いますので、文言を変えるということは是非次回までに御検討いただければと思います。   最後に、その他の(4)ですけれども、代理締結のところについては、個人的にはいろいろとありますが、今回は親族法等との関連規定との関係もあるかと思いますので、論点を落とすこと自体に私も賛成はいたしますが、ただ、現行の活用の具体的なされ方についていろいろと問題があるところもあります。今回部会でこの議論が落ちたということが今の行われている代理締結を部会として容認しているというわけではないと、誤ったメッセージにならないようにしたうえで、落としていただければと思います。 ○山野目部会長 今、佐野委員に御発言をお願いし、その後も引き続き委員、幹事の御意見を伺っていきますけれども、法律家が議論に時間を割けば割くほど、ほとんどその世界の議論にどんどんなっていくということは、話題の性質上をやむを得ない面があると眺めつつ、恐れ入りますが花俣委員、また後で御発言を伺います。 ○佐野委員 第2のところについて申し上げさせていただきます。既に今までの議論の中でも皆様に御発言いただいているのですが、まず、少なくとも任意後見制度と法定後見制度の併存を認める場合、任意後見人と成年後見人の権限を重複しないようにするという、重複を避けるというところのベースの考え方は取り入れていただきたいと考えております。そこでどういう方法論をとるのかというところに際しては、皆様の御議論を伺って、少し考えまとまっていないので、明確に発言はできないですけれども、少なくとも問題意識としましては、権限が重複している場合に銀行取引において誰が正当な手続者であるのか判断に困るという事例が予想されるためになります。   ここで、以前に少し部会でも発言したこともあるのですけれども、権限の重複がたとえないようにきれいに仕切れたとしても、銀行取引の実務上、対応に苦慮するトラブルというのはどうしても起こり得ると考えております。例えば、預貯金についての代理権を持つ方と遺産分割に関する代理権を持つ方お二人から異なる先への振込の申出を同時に受けた場合、それで更に原資が足りないといった場合などには、両方の申出を実行するにはどうしたらいいかと判断に迷うというようなことが予想されます。ここも、運用面の調整となるのかもしれないのですが、その規律の考え方と併せて、こういうトラブルが発生した際に、取引の相手方である銀行としてどういう対応をすべきかという判断を仰げる、相談をできる先というのを設けるといったことも、内容の考慮として入れていただけると有り難いと考えております。   次、続けて第3の任意後見制度の方式のところを簡単に述べさせていただきますと、ここの方式に関しては、公正証書による要式行為をする旨の規律を維持することに賛成としております。ここも既に資料内の23ページに記載いただいておりますとおり、取引の相手方が任意後見契約を活用する御本人の方と安心して取引するためには、公証役場であるとか公証人である方が関与する仕組みである方が有り難いと考えるためです。 ○山野目部会長 佐野委員の御意見を承りますとともに、権限の調整についておっしゃっていただいたことについて引き続き考えていただきたいことの御案内を差し上げますと、佐久間委員がおっしゃったように、権限の調整をしなくて両方に権限があるときには、金融機関が戸惑う、悩むとおっしゃったのですけれども、どちらも無権代理にならないということが法理論的には明らかであって、それはむしろ困らないのだと思います。少し距離があるところの例を挙げますと、債権譲渡が重複して行われたときに、対抗要件たる債権譲渡通知が同時に債務者に到達したときには、どちらに払ってもよく、こちらの方に何となく払おうと考えて払いましたといって後でもう一方から叱られるかというと、そういう関係にはなっていませんから、理論を整理するとそうなのです。ただし、佐野委員のお悩みもよく分かり、銀行の窓口としてはそう言っても、法律的にというよりは事実上戸惑いますというお話はそのとおりでしょうから、ここでされている権限の調整の議論を引き続き深めていくということになるのでしょう。ありがとうございました。   引き続き承ります。 ○青木委員 権限の停止の点につきましては、どうしても一部解除ですと御本人さんが解除できない場合が想定されますので、一部解除とは別に必要だと思っております。具体的には、任意後見受任者が解任するほどのことではない方で、ただ、この権限は法定後見の方に行使させるべきである場面ですので、例えば日常的な金銭管理とか介護のことについては夫が任意後見人としてできるけれども、貸しアパートの賃貸借契約の管理とか証券取引とかについては、高齢のために十分対応できなくなっているという事案が想定されるのではないかと思いますが、そういう場合に、法定後見人を付けるのですけれども、任意後見人の夫はなお自分はできると思っているような人がある場合に、権限が両方にあるとなると、取引の相手方としては困ったり、戸惑ったり、場合によったら夫の方にだけ不動産会社から打診があるということがあるので、そういう場合について、やはり任意後見人の権限の停止する必要がある場合はどうしても出てくると思っています。その場合には、取引の相手方からしても、明確に裁判所の権限停止の審判があり、それを法定後見人から相手方に提示をするということによって、取引の相手方の方が、誰を相手にすればいいか戸惑わないようにするということが重要ではないかと思っております。   それから、任意後見契約の方式につきましては、公正証書によるという現状を維持することについて異論を申し上げるものではありませんが、今後、公正証書がオンライン化がされても、なお面談等についてはオンライン面談で果たしてできるかということは前回のヒアリングで公証実務の感覚としてお話しになっていたところであり、公正証書の方式によることを維持したままで任意後見契約がどれだけ利用されるようになるかについては、今後の推移を見る必要があると思っています。今後、例えば5年間ぐらいの見直しの中で、やはり利用がさっぱり促進されないというときには、先ほどご提案のスーパー認証型も含めて、改めて任意後見契約の方式については公正証書に代替するものも議論をしないといけないのではないかと思います。今回部会の議論だけで、引き続き公正証書でいいよね、というだけで済む問題ではないということを意識して議論を継続することが必要なのではないかと思っているところです。   次に、任意後見契約の段階的発効の点ですけれども、認めることで複雑になるというお話があるのですが、私は全くシンプルなことだと思っています。任意後見契約の発効時点において、本人の同意の確認とともに、本人がどの代理権限を発効させるかということを選択をさせ、その選択した部分だけを発効させるということにすることだと思っています。本人の同意に基づく発効であるとともに、現在、本人がこの代理権限については発効させたい考える事情が発生しているという意味で、必要性の一つの表象でもあると思っています。その選択によって、一部の権限を発効させるが、3年や、5年がたって、代理権を使ってもらう必要なものが増えたのでもう少し発効する代理権限を足してほしいという申立てが本人ないしは任意後見人からあれば、それに基づいて発効させる。そして、もう全部の代理権限を発効したいと本人から言われれば、全部を発効させるという制度になると思っています。加えて、本人がそういった発効すべき代理権限につき意思を表明できなくなることが来た場合には、任意後見人の申立てによって残りの全部を発効させるということにすることも必要です。これだけでして、それを申し立てるについては、何らかの資料などの提出も必要はないと思いますので、シンプルだと思っています。あとは後見登記上、任意後見契約を登記したときに既に登記されている代理権目録のうち現在発効済みのものと未発効のものとを区別して表示することが登記上できれば、取引先の相手方もその登記事項証明書を見て対応ができるということで、これも複雑にはならないと考えております。   最後に、その他の事項のところの「医療に関する同意」についてですが、これを権限に加えることについては私も消極的でありますけれども、資料22の34ページから35ページの記載が少し誤解を招くといいますか、誤解ではないのかもしれませんけれども、医的侵襲に関する同意権を与えることに関する議論なのか、そうではなくて、本人が医的侵襲に関する自らの意思を表明したときに、その表明した意思を相手方に伝えることに関する事務なのかということが明確に整理されないまま記載されていると思います。(1)のこれまでにおける部会の議論、というところでは、同意権そのものを議論しているかのようですが、最後の方になりますとそうでもないような表現になっていまして誤解を招くと思っています。   前者の医的侵襲に関する同意権につきましては、これは一身専属的なものであって、他人に医的侵襲に関する同意をさせるということはできないということではっきりさせるべきだと思います。一方で、本人が表明した医的侵襲についての意思を、医師、医療スタッフ等に伝えることについては、そういた本人のニーズもあることは承知をしますけれども、9月のヒアリングにおいて山縣参考人が、終身サポート事業における事前同意書についての是非をお話しになっていたように、時的な問題、あるときに本人が表明した意思が実際に医療の必要なときに果たして同じ意思かということも含めて、時間的な流れが長い中で慎重に考える必要があって、医療機関としても、ある一点で示された医療に関する本人の意思をもって、現に医療行為をするときにも尊重するものではないということを言っておりまして、終末期医療におけるガイドライン等もそういう立場で取りまとめられているものですので、本人の事前の意思表明を伝える事務を取り扱うことを契約に入れるということについては、現時点ではやはりいろいろな問題点が多すぎると思っていますので、慎重に考えるべきだと思っています。 ○星野委員 ありがとうございます。福祉関係者として、社会福祉士会の中でも任意後見について一番意見として出すべきというのは、今回のところで言うところの第3の1の、変更などの修正をしやすくするというところです。今までの議論の中で、公正証書であることの必要性というところについて特に意見はなかったのですけれども、ただ、一度作成された公正証書を変更するという手続きが非常に複雑というか、変更の手続きを容易にする議論がこの審議会の期間でできることではないという御意見であったりとか、あるいは任意後見に限ってそのような仕組みを設けるのか、というような根本幹事の御意見もあったのですけれども、これらのことが変わるか変わらないかは、私はかなり多くの方が、福祉関係者も含めて、注目しているところだと思っています。要は、ここが変更することによって、時間がかかるという問題や、経費がかかるという問題が改善されるということになるのかならないのか、これは民法ではなく公正証書の契約の在り方というところの既定、規律というところが別の法律で関わってくるのかと知識がないなかで考えています。今回の審議会の議論において検討されたことを是非示していってほしいと思っているところであります。   任意後見については、法律の専門家の委員の方々が想定している任意後見のニーズと、やはり福祉関係者や、あるいは久保委員や花俣委員もこの後おっしゃると思いますけれども、制度の利用を考える当事者の方々のニーズとしては、ずれがあるように感じています。現場では身寄りのない方について、あるいは障害のある方の親亡き後などですね、そういった不安にこたえていくための大切な制度でありますので、これについて現状では利用することを検討する際に非常にハードルが高いというところを変えられるかどうかというのがとても大事だと思いますので、これがもし公正証書では難しいということになるのかも分からないのですが、であれば、公正証書であることの必要性というところについても改めて考えなければならないとも、今日の議論を聞いていて思ったところです。   それから、医的侵襲のところ、その他の(5)については今、青木委員がおっしゃられた論点が非常に整理をしていただいたので、そこのところがはっきり出ればよろしいかと思いました。 ○山城幹事 第3の1(3)の一部の発効のところについて御発言申し上げます。一部発効の仕組みがあれば望ましいけれども、具体的にどういうような形で一部と残部を切り分けて発効させるかについては難しい問題があるということですが、私も一部発効を認めることが望ましいと考えています。任意後見は法的性質においては委任契約であって、それに裁判所が関与してその効力発生を認めるという仕組みが付帯しているものだと理解しますと、委任という法的性質に即して、当事者の意思に基づいて効力発生時期を段階化する契機があってよいのではないかと考えるからです。この点について、竹内委員と青木委員からそれぞれ違った形で段階を画するアイデアが示されていたと思うのですが、それぞれの考え方は矛盾するものではなく、二つの仕組みがあり得ることを念頭において検討することが望ましいのではないかと感じました。   具体的に申しますと、一つは、委任契約に条件を付けて、一定の事由が発生したときに代理権が付与されるという定めをすることが考えられるかと思います。これは一般法上の委任においてもできることですから、任意後見ではできないと考える必要はないのではないかと思います。もっとも、任意後見の場合には、家庭裁判所が監督人を選任することで発効させるという手続を踏みますから、これを制度化する際には、竹内委員から御指摘があったとおり、裁判所による発効は全体についてさせることとせざるを得ず、ただ、条件未成就の間は委任事項ごとに代理権が制限されているにすぎないと考えなければならないのかなと思いました。その場合には、実体法的には、その条件が満たされない限りは代理権授与の効力は発生しないということになるのではないかと思うのですが、そのような形で代理権が制限されていることを相手方に対抗することができるかという問題は残るように思います。その辺りの整理は必要ですが、条件を付することで段階化すること自体は、できるのではないかと思います。   もう一つは、青木委員からお話がありました、申立てを細分することで段階化していくという方法があるかと思います。こちらはもう少しシンプルになるかもしれませんが、仮に申立権者の範囲が拡がることになりますと、委任契約の当事者以外の者が監督人の選任を申し立てることができることとなりますから、申立てが段階的に行われるようにするための担保をどこに求めるかについて、少し考えるべき点があるのではないかと思います。いずれにいたしましても、既に御議論がありましたような二つの方向から、一部を発効させる方策を考えていくことはできるのではないかと考えましたので、発言いたしました。もちろん、ほかの方法もあるかもしれないとは思います。 ○波多野幹事 若干これまでの御議論の中で部会資料について御言及いただいたところ、部会資料作成の過程でいろいろ考えていたところを少し補足して御説明させていただければと思いますが、公正証書の変更の関係でございまして、いろいろ御意見いただいているところで、公正証書の変更という言葉の意味がどういうものかというところは整理が必要なのかとは思いますが、我々としては、今の実務でも、代理行為目録以外の部分は変更なる方法でやっているケースがあるというように書いてある文献等にも接したことがありまして、現在の実務では代理権行為目録は変更して増やしたり減らしたりは駄目だけれども、ほかの部分、例えば報酬については変更できますというようなことを書いてあるものがあったりするものですから、その変更が一体どういうものなのかはなお整理して、次回以降御提示させていただくようにしたいと思います。   もう1点、医的侵襲のところは青木委員から少し整理が必要との御指摘いただいたところでございます。これまでの部会の御議論ではいろいろな考え方が出されてきた部分があると思いまして、部会資料を作成した際には、委員幹事の中には、医的侵襲に関する同意権のようなものを成年後見人ないしは任意後見人にあるというようなルールにすべきという趣旨の御意見もあったように理解をしておりまして、その観点から書いているものでございますので、ここは委員幹事の中で御議論いただければと思っております。その上で、そのような同意権があるというルールから意向の表明の委託はできるというルールまでレベルが異なることについて記載がされているというのは、御指摘のとおりです。   それが部会資料についての説明で、1点、青木委員ないし根本幹事に御質問したい点がありまして、また違う論点なのですが、権限の調整の場面で、一部の解除では余り適切に対応できない場面というのがどのような場面かというところを少し、イメージがあれば教えていただきたいと思っておりまして、先ほど例に出された不動産の取引についての代理権を止めたいということであれば、それが一回的なのか、ある程度幅がある代理権なのかは両方あり得ると思いますが、先ほど例にあった親族の方に不動産の代理権を行使させるのは余りよくないということであれば、停止しても、もう一度復活させて行使させることは余り考えにくいような気がいたしますので、一部解除で対応できる場面もあるのではないかという気もいたします。それ以外で、停止をして後ほど復活させた方がいいというような代理権というのは一体どのようなものを念頭に置かれているかというところがあれば、少し教えていただければと思います。よろしくお願いいたします。 ○根本幹事 よく虐待対応などの場面においても、再統合という言い方をされることがあるのですが、任意後見人の方と法定後見人の関係性が当初非常に悪くて、なかなか御指示に従っていただけない、若しくは勝手にいろいろなさってしまうというようなことがあったとしても、特に継続的な取引ですので預貯金取引ですとか、若しくは施設の入所関係のところが念頭に置かれるところかなとは思いますけれども、そういった関係のときに、任意後見人と、一回は停止をさせていただいて、法定後見人が権限行使しなければいけない場面というのはあるとしても、ずっと任意後見人が権限行使するということが不適切なままなのかと言われると、様々な、正に佐久間委員が言われるようなコミュニケーションですとかやり取りとか、家庭裁判所や任意後見監督人からの指導などを徐々に受け入れていただいて、最終的に御理解いただけるということはあり得るのだろうと思うのです。そういった場面において、場合によっては法定後見自体が終了して任意後見にまたお戻ししていくという場面もあり得ると思いますし、そのときに結局、解除してしまうと、そこで一旦終わってしまって、法定後見をずっと続けなければいけないことになってしまうのだと思いますので、戻すというのは、今申し上げた想定はされるのではないかとは思います。あとは、任意後見人としても、もうこれで一切自分は当該対象事項について権限行使ができないのだとされてしまうことと、いや、きちんとこういうことが終わればお戻しするのですよということによっても、やはり受け入れ方というのは大分違うのではないかとは思っております。 ○青木委員 一部解除で解除権者が誰になるかによっても変わるという点が1点あります。もう1点は、やはり本当に解除までしないといけないのか一部停止によって見極めできるという見極めの期間というのが一定必要なのではないかと思っています。今も後見人に何らかの問題がある場合に、職務執行停止というのをして複数後見にした上で、やはり問題が大きいので辞めていただきましょうとなる場合もあれば、そこまでではなかったので改善して続けましょうということになって複数後見のまま行くということもありまして、やはり一定の期間、職務停止をした上で見極めるということが必要だという感覚が実務的にあるのではないかと思っていまして、そういうことも含めて、一部停止が必要ではないかということを考えています。 ○波多野幹事 ありがとうございます。今御説明いただいたものを踏まえて整理を進めたいと思いますが、今御説明いただいたケースですと、任意後見人の解任の申立てと執行停止の場面とどこまで違うのかというところがよく分からない部分といいますか、重なってくる部分もあるのかなという気もいたしますので、現行法の規律で対応できない部分が一体どこなのかというところを、なお引き続き整理を検討したいと思います。 ○根本幹事 解任というのはかなり重いので、解任に至らない場合というのは想定されるのだと思っています。 ○加毛幹事 今のお話にも関わるのですが、16ページの34行目において、代理権の停止があった場合に、任意後見人の行為は「基本的には本人に対して効力を生じないものと整理されると考えられる」と書かれています。ここでの「基本的に」という言葉に込められたニュアンスがどういうものなのかが気になりました。これは、代理権の停止を登記の対象とした上で、代理権の消滅に関する任意後見契約法11条の規定を代理権の停止について設けることは考えていないのだろうかということにもかかわります。代理権は一時的に停止されているのだけれども、表見代理などによって任意代理人の行為の効果が本人に帰属する場合があるということが、「基本的に」という表現について、想定されているのでしょうか。   なお、代理権の停止という制度を導入する場合、代理権が一度停止されて、その後、復活することが想定されます。そうしますと、登記の効力も、代理権の停止についての登記の効力と代理権の復活についての登記の効力のそれぞれについて考えなければならないだろうと思います。さらに、佐野委員の御懸念に関係して、現在の任意後見契約法11条は「任意後見の代理権の消滅は、登記をしなければ、善意の第三者に対抗することができない」と規定しているのですが、その反対解釈として、登記をすれば善意・悪意を問わず第三者に対してその効力を主張できるという効力、商業登記に関する積極的公示力のような効力を認めることができるのかも問題となるように思います。この点は、代理権の停止と復活を認めることになった場合、今まで以上に重要な問題になると思われまして、成年後見登記の効力に積極的公示力のような効力を認めて、その限りでは表見代理の規定の適用が制限ないし排除されるというような解釈論を導くことが可能であるのかについて検討する必要があるのではないかと思います。この点が決まらないと、取引相手方が、何をどこまでチェックすれば良いのかが決まらないことになりそうであり、その辺りについての議論が必要なのではないかと思う次第です。   様々なことを申し上げましたが、御質問したいのは、「基本的に」という言葉がどのような意図で用いられているかというところでして、その点について教えていただければ幸いです。 ○山野目部会長 事務当局から説明をお願いします。 ○波多野幹事 今御指摘いただきましたところ、加毛幹事から御発言いただいたところでして、我々としても登記との関係をどのようにするのかの議論がまだ決まっていないところもありますので、ここで書き切るのは少し怖いなと思って、まだなお整理する必要がある部分があるのではないかということを踏まえて、基本的にと書いたものでございました。 ○山野目部会長 加毛幹事、お続けください。 ○加毛幹事 ありがとうございます。そうであるとしますと、御質問とは別に申し上げたところが問題になるのではないかと思います。任意後見契約法は、11条において、代理権の消滅についてのみ登記に関する規定を設けているのですけれども、代理権の停止などについても、登記に関する規律を設ける必要があるのではないか、少なくとも規定の要否について議論をすることが必要になるのではないかと思います。ありがとうございました。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   木田関係官から補足のお尋ねなどの御発言があれば頂いた後で、花俣委員、久保委員から順に御発言を頂き、その後、次回の部会資料作成に向けて私からお話を差し上げます。 ○木田関係官 大丈夫です。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   花俣委員、お願いします。 ○花俣委員 今ほどの議論を通じて、正直なところ、私たちがイメージできるような理想とは、つまり本人の意思の尊重という、その最大のメリットという点については、実務面というか法律や法文化する際の議論においては、ここではその本人の意思というか、本人に主体性はなくて、所詮客体として扱われてしまっているのではないのかという印象を受けました。   竹内委員の御意見はとても分かりやすく、理解ができました。また、青木委員から、段階的発効というところで、本人の選択が要件だという非常にシンプルなものだとおっしゃっていただいたところも勇気付けられた気がしています。認知症の当事者発信が昨今、盛んに行われています。その中のリーダー的な役割をされている方の御著書の中に、まず、周りの人に自分はできないことと、そしてできることと、やりたいことの三つを必ず伝えていますと記されています。正に任意後見制度を選択したときに、こういう前提でこの制度を利用できるようになれば、よりいいのになと思いましたし、また、その他のところの先ほどの医療侵襲でしたか、そのところについては星野委員と同様に、青木委員の御意見に賛成しておきたいと思います。 ○山野目部会長 ありがとうございます。 ○久保委員 ありがとうございます。何をどう話していいのかよく分からないのですけれども、法定後見であっても任意後見であっても、切れたときというのが本人にどうはっきり分かるようになるのかなと思って、割と知的障害の人というのはしょっちゅうキャッチセールスだとかいろいろなものに捕まってしまって、要らないものを次々と買うというようなことをしてしまいますので、それを考えると、ずっと必要なのではないかと思ってしまう部分もあるのですけれども、いつそういう取引をするか分からないわけですから。だけれども、本人を保護しなければならないというか支援しなければならないことは、そのことだけではないので、どのように切り分けて、困ったときに相談できる人というのは今はいるけれども、これからはもうしばらくいないよとか、そういうことが本人にどう伝わるのかなと思いながらお聞きしていたのと、本人は自分はできると思っていて、間違っていないと思って行動するというのも多々ありますので、その辺のところはなかなか、軽度の人は比較的しっかりしておられますけれども、中度の人は、自分はできるのだと思っていろいろなことを、行動範囲も広くなりますので、その辺のところも少し心配があるなと思いながら、代理権が消滅したりした後、あなた専属で相談してくださる方がこれからいなくなるよというのをはっきり本人に伝えるということができないと、また同じことの繰り返しをしていくなという、少し心配もありまして、柔軟にしていただきたいというのは十分皆、それを望んでいますし、本人も望んでいますし、けれども、代理権がなくなったり、後見人だとか任意後見が効力を発揮しないときにどう守る、それはどこに、これからはこの人のところに相談に行きなさいとか、そういうのをしっかり本人に分かるようにしておかないと、もう何も守られない状態の人になってしまうなというのは、すごく心配をしていまして、私自身も今御議論いただいていることはよく分かっていないのですけれども、本人はもっと分からないだろうと思っていますので、本人に分かるような、そういう仕組みというものをこれからも皆さんに御議論いただいて、いいものができたらいいなと思っています。少し感想みたいなもので、申し訳ありませんけれども、以上です。 ○山野目部会長 ありがとうございます。引き続き任意後見についての検討を深めていくことにいたします。   部会資料22の第2及び第3についての意見交換を頂いたところを踏まえて、次の機会に向けての御相談を差し上げます。第2の1(1)併存の可否の部分についてでございますけれども、任意後見と法定後見を併存させることそのものに反対であるという委員、幹事はおられるでしょうか。   これを併存させる方向で検討していくという方針を見定めることでよろしいですね。その上で、併存するということの具体的意味を念のため、部会資料の訂正があったこともありますし、更に可視的にしておく方が今後の論議が混乱しないと考えられますから、木田関係官と私が漫才の掛け合いみたいに少し今やります。皆さん、御覧いただければと望みます。5つほど問いを発しますから、それで木田関係官が一問一答で答えていただくということにましょう。   4条1項2号は削るということでよろしいですね。 ○木田関係官 はい。 ○山野目部会長 これが1個目。二つ目が、4条2項を削る、でよろしいですね。 ○木田関係官 はい。 ○山野目部会長 これが二つ目。三つ目、10条1項は残す、でいいですね。 ○木田関係官 はい。 ○山野目部会長 それから四つ目ですけれども、10条2項も残す。 ○木田関係官 はい。 ○山野目部会長 10条3項は削る。 ○木田関係官 はい。 ○山野目部会長 ありがとうございました。ちょっとした掛け合いが今うまく成り立ったと考えますが、私もそのように考えていました。そこで二人でやっていることでは分からんという方もいらっしゃるかもしれませんから、次回の部会資料では、今確認したところを目に見えるような形でゴシックの文章にした上で、若干の説明を添えて皆さんに確かめていただくという手順をとって、併存とは何かということを可視化、具象化して御議論を頂くような段取りをとります。   法定後見と任意後見との併存を是認するということになりますと、さきほどから出ておりますとおり、権限の調整の話になります。調整をしなければいけないということについて、併存するとそれを考えなければいけないという要請が出てきますが、これも当事者から見ると、一部の解除とか解任とか、いろいろなものが飛び交っている上に、権限の停止というものが入って分かりにくくなってきてしまう部分が大きいでしょう。   当事者の目から見て余り複雑にしないようにするためには、竹内委員がおっしゃっていただいた、任意後見人の職務執行停止の措置をとった上でその旨の登記がされるというゆきかたは、現行の登記の実務から言うとそれほど乖離した話ではありませんから、そのようなアイデアを組み合わせてしていきましょうという辺りが、余り複雑にならない範囲では精々のところであるかもしれません。   ただし、考えてみると、任意後見人の職務の執行を停止するということは、保全処分のルールとしてはそうですけれども、裁判所が任意後見人に対して監督処分的なことをすることができるとする扱いは、理念としても余りずばずばとすることは相当ではないですし、それから、そういうことがそもそもできるということは実体法の規定として明示されていて、それを根拠として職務執行停止の措置をとることができるというふうな建付けにすることがよいとも考えられますから、任意後見人の仕事を停めますということが監督処分類似の性質のものとして家庭裁判所はできますということを定めておく実体規定を用意した上で、それを前提に竹内委員がおっしゃったような職務執行停止の措置をとってもらって、これは後見登記に反映されるというイメージで運用する制度を作ることができるでしょうから、取引の相手方から見たときに、後見登記の内容を確認し逐次の取引に応じてもらえるという制度環境を調えることができるかもしれません。そういったことを考えていくといった辺りをヒントにして、次回に向けてこの権限の調整についても考えを深めていくということにいたしましょう。根本幹事と青木委員から整理していただいたように、ぎりぎり解任とか一部の解除ではうまく器用に回らない場合があるかもしれませんねという御指摘はそのとおりかもしれませんから、そこは事務当局で再び考えてみるということにいたします。   あともう一つ、つまらないことを付け加えますけれども、皆さん、停止という言葉を普通に使っていただいていますけれども、これは何か抵抗感を感ずるのは私だけですか。停止というのは余り前例がありません。親権停止の停止は親権喪失と役割分担をする文脈で出てくる話で、ここの停止とはかなり、漢字が同じではないかといえば同じですけれども、かなり性格の異なるものであって、停止された任意後見人は、私が任意後見人だったら少しショックのような気もしなくはありません。これは多分、従来の実体法の用語の例で言うと、内閣法8条に中止させるという文言がありますけれども、どちらかというと伝えようとしているものが近いかもしれません。内閣総理大臣は、個々の国務大臣がしようとしていること、何も悪いことをしているわけではないけれども、今はこちらの大臣にさせたいから、そちらの大臣がすることを少し中止させますということができて、その中止させますということだけの措置を、急迫のときには内部だけで、任意後見人と裁判所との間のみでする単なる監督にとどめることもあるかもしれないし、それを職務執行停止の保全的な措置として後見登記に反映させる措置をとることがあるかもしれないし、どのくらいそれを続けるかということについても事案と事態の性質に応じて裁判所が判断してもらえるということを期待して、そういう概念措置を設けておくということには意義があるし、もしかしたら必要かもしれませんから、少しそうしたことを念頭にも置いて、次回に向けて新しい部会資料の調製の作業を進めていこうと考えます。今日はここを白熱した議論をしていただいて大変有り難かったですし、引き続きの御議論をお願いできればと考えます。   部会資料22の第3の方に行って、第3の1でいろいろな論点を挙げていて(1)の方式、公正証書にするという現行の規律については変更を考えないということを次回に向けての方針にしようと考えます。このこと自体に御異論はなかったと見ますけれども、よろしいでしょうか。青木委員と星野委員から頂いた御注意は承って、今後の議論を発展させていくことに役立てられるであろうと感じます。   それから、(2)の一部の解除のところは、事務の追加のところに関連してですけれども、これは、これ自体があり得ないという御意見はなかったように見受けます。ここは育てていくということにした上で、公正証書をどの段階でどういうものを作成し、裁判所の関与があるかないか、あるとするとどのような関与であるかということについて、今日頂いた御議論を参考にして、この方向があり得るというところまでお話が来ていますから、具体的なものをゴシックになるべく出して皆さんにお示しして、検討していただけるような段取りを次の機会の目標にしようと考えます。   1(3)の一部の発効ないし段階的な発効があり得るというお話は、佐久間委員から複雑な制度になってしまうのではないかという御心配の指摘があり、青木委員からは、いや、全然シンプルな話ですよというお話もあり、それぞれのお話を伺っていると、説得力はいずれもあるなと感じますが、両方あるということは、現場がどうなっていくかがよく分からないということでもあります。次回に向け、青木委員がおっしゃったようにシンプルな話ですということが本当にどのようにシンプルであるかということを、もう少しお話を伺いながら論議を深めていくことになるでしょうし、半面において、竹内委員がおっしゃったように、大きく広げて始めた上で縮めていくということもあり得るところでありまして、縮めていくというときの手法は、一部の解除のような仕方でかちっとした形で縮めていくということもあるでしょうし、しかしそうではなくて、山城幹事の整理をヒントにして申せば、随時に委任契約の構造に着目して、本人が意思を表明することができる段階であれば本人が指図をする仕方で、ある範囲の事務については自分の方でするから任意後見人は手出しをしないでくれという指図をすれば、その指図はもちろん委任契約の運用としてはあり得るお話でありますから、それに従って受任者が仕事をするという姿は、任意後見契約もまた一種の委任契約である以上は当たり前のことでありまして、それでしてもらうことになるでしょうし、本人の意思表明が困難になった段階で言えば、第3の2、その他の(1)のところで提案している本人の意思の意思を尊重して任意後見人の事務を行うという規律とあいまって、きちんと尊重してしてくださいねということを任意後見人が受け止めて仕事をしていく分には、段階的に仕事をしていってもらえるであろうということの期待ができると考えられます。それはただの期待かもしれませんけれども、期待に大きく背くような任意後見人の行動、権限行使の態様が見られたときには、あるレベルに達すれば、それは解任事由になるということでありますから、そのような組合せで縮めていくということを考えるということもできるでしょうから、その点も含め、今日お出しいただいた意見を整理して次回の部会資料作成に向かっていくということにいたしましょう。   1(4)の予備的後見受任者は、このアイデア自体があり得ないと否定した方はおられないようにお見受けしましたから、育てていくことになりますけれども、あり得るという御意向を今日お示しいただいたとすると、その前提で次回ゴシックの方にもう少しその具体的な制度像が見えるようなものをお示しし、審議を頂こうと考えます。佐久間委員から、何のための登記であるか分からないというお話も頂きましたから、その点も考えますけれども、考えてみますと、任意後見の登記事項というのは何のための登記事項か分からない、誰に向けてどういう効力がある、あるいはないということを決める登記であるかがよく分からない登記というものは、今までもあったように感じます。あったではないかと居直るつもりはありませんけれども、なるべくどのような役割の登記事項を考えるかがはっきりするような仕方での論議を皆さんに提供できればよいのではないかと感じます。   第3の2(1)本人の意思の尊重の規定は、何も議論がありませんでしたけれども、これは置くことでよいですね。   (2)と(3)の解除の要件と期間の話ですけれども、解除の要件は、解除に裁判所の許可を係らしめるという9条の規律そのものを変更せよという御意見はなかったようにお見受けしますが、よろしいですね。その上で、許可の要件が現行法で正当な理由になっているところを改めたらどうかというお話はありまして、複数の御意見を頂きましたから、相当な事由ないし事情があるときはといったようなものないしそれと類似の文言として改めていく可能性も含め、9条の規律を骨格を維持するということを確かめた上で、次回に向けての審議に進むことにいたしましょう。   (3)の期間は、法定後見ではない任意後見の方の期間については論が熟していなくて、期間があった方がいいという意見は真っ当なものとして、今でもおありかもしれませんけれども、これをこれから育てることは難しいように感じますが、いいですか。期間の規律を設けることは、全くあり得ないとは申し上げませんけれども、現段階では難しいだろうという見立てをお伝えして、次回に進むというくらいの感覚でよろしいでしょうか。ありがとうございます。   (4)の親権者による代理で任意後見契約を結ぶ可能性については、見送りましょうと複数の方がおっしゃって、見送らざるを得ないとも感じますけれども、これは行われている実態が一方にはあるし、他方ではこの親権者による代理に安易に依存することへの危惧も語られていて、そのような話で難しいから見送りましょうとしてしまう進め方は、何か無責任というか、もう少し議論を差し上げてもいいかもしれないとも感じます。あと1回しか実質の議論の機会がないとすると、ハードルは高いかもしれません。   家庭裁判所の許可を得て親権者が代理人として締結することができるというような規律は考えられなくもなくて、未成年者を養子とするときの家庭裁判所の許可の規律、798条の規律の並びのようなものを考えることがアイデアとしてはあるかもしれないですけれども、考え始めると、そこで親権者が代理してやる行為というものは、これは身上監護の事務であるか、それとも財産管理に関する事項であるかという点がはっきり決まっていないと、先々の解釈運用も少し困ると思われます。両面ありますよと述べてみても、それでは管理権を喪失した親権者がなおできるのですかとか、財産管理の権限のみ与えられた未成年後見人はできるのですかというようなことも細かく見定めた上で、何か規律を設ける以上は、きちんと先々、逐条注釈で説明ができるようになっていなくてはいけませんから、それらの議論の用意をこれからしようとすると難儀であるという気がします。あと1回機会がありますから、何か御意見をお持ちの方は事務当局にお寄せいただければ、可能な限りにおいて検討することにいたします。それらが実を結ばないときには、甚だ残念ではあるけれども、(4)の親権者による代理の論点は見送らざるを得ないかもしれません。   その他の(5)の医療についての意向の把握と伝達のお話については、青木委員からもそれに近いお話がありましたけれども、これは医療同意の権限を与えるかというふうな論点としてラベルを貼ると、少し誤解をもたらしてしまいますから、精密に言えば、医療についての意向を把握し、それを伝達することの全部又はその一部の事務を任意後見人の事務として民事基本法制上の規律として定めるかということを問うています。そして、今に至るもこれを推そうという御議論が強く出されていませんから、(5)の論点を成案として要綱に含めることを見送らざるを得ないであろうという見立てを持っています。よろしいですかと尋ねても、実はこのことを発展性があるお話であるとして熱意を持って話してくださった上山委員が今日、御欠席ですから、ここで尋ねれば、皆さん御異論がありませんねということになりますけれども、おられないところでその方針を見定めてしまうという扱いは、少しそれも乱暴なお話であって、今日のところの議論では難しそうであるというところまで確認しておいて、次回そのようなことを部会資料に記した上で、上山委員がおられるのであれば、再び御意見をおっしゃっていただきますし、万が一何かの事情で上山委員が次回もおいでになれないときには、個別に上山委員の御意向を確認したりすることにいたします。   これについて併せて申し上げますと、民事基本法制の話ではありませんけれども、厚生労働省の方の医療の部局が取り扱っている領域の政策の話ですけれども、人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドラインは早晩、今回の成年後見制度の改革を踏まえて文言等、細部を改めて見直さなければならなくなることが当然の成り行きとして予想されます。あそこで国民、皆がなるべく書いてくださいということが推奨されている意向表明文書と呼ばれている文書は、なるべく直近の文書を用いて医療を実施したいという観点から、随時に各自において、なるべく頻繁に小まめに書き換えてくださいねということになっていますから、人々が意向表明文書を作成するときにはもしかすると、任意後見の契約を結んでいれば、任意後見人に検討するチームの一員に入ってもらって、私が救急搬送が必要になった場合において搬送するかどうかは、私に聴いても答えないときには、任意後見人を入れたメンバーで相談していただけますかというようなことを書くかもしれません。もとより任意後見契約を結んだときに書くとしても、書いた後で時間が経つと、どうもあの任意後見受任者は必ずしも自分の本当の気持ちに寄り添ってくれない人かもしれないから、財産は任せるけれども救急搬送は頼みたくないと思ったときには、そのときは書き換えればいいわけです。公正証書に入れてしまって私法的効果が生ずるというふうなところで受け止めるよりは、今お話ししたような政策の文脈で扱ってもらえる方がよろしいでしょうし、ガイドラインを見直すならば、そのときに視野に入れてもらうことがよいであろうとも感じます。ここでされている論議というものは、厚生労働省の担っている事務当局においても参照してもらうことができるはずですから、論議の状況を伝えるというふうな手順が今後、それで行く際には想定されるところであろうとも感じられます。   部会資料22についての御論議を頂きまして誠に御苦労様でした。休憩にいたします。           (休     憩) ○山野目部会長 再開します。   休憩前に引き続きまして、今度は部会資料23の検討をお願いすることにいたします。部会資料23について事務当局から説明を差し上げます。 ○山田関係官 部会資料23について御説明いたします。   部会資料23では、まず1ページ、第1において法定後見制度における保護者の代理権消滅と相手方の保護について記載しています。この点については、ゴシック部分に記載の規律を設けることを含め、取引の相手方の保護について御議論いただきたいと思います。   また、3ページ、第2からは保護者に関する検討事項について記載しており、1では保護者の選任について、6ページの2では保護者の報酬について、12ページの3では保護者の事務の監督について、それぞれ記載しています。これらの点についても、ゴシック部分の記載を中心に御議論いただきたいと思います。 ○山野目部会長 ただいま説明を差し上げました部会資料23について、順序を問いませんから、御随意に意見をお述べいただくという仕方で御発言をください。いかがでしょうか。 ○小澤委員 ありがとうございます。第1の保護者の代理権消滅後の相手方の保護については、現在でも主には本人の死亡によって終了し、保護者の代理権が消滅することは多くありますけれども、実務上はほとんど問題となっていなかった部分であり、規律を変更する必要を感じていないため、基本的には消極に考えています。代理権を消滅させる家庭裁判所の審判が確定した時点で効力が生じていますので、不動産取引に関与する場合などの実務を踏まえますと、取引の相手方の保護のため、家庭裁判所から嘱託登記がされるまでの間や、登記された事項をよりリアルタイムに確認できる方法や、家庭裁判所に代理権消滅の有無を照会できる仕組みができれば、より円滑な取引が行えるのではないかと考えています。   第2の1の保護者の選任に関する規律については、御提案のような規律に改めることを支持しますが、あわせて、現在この規律は任意後見監督人選任においても準用される規定となっておりますので、規律を改めることによって任意後見監督人の選任における本人の意思を考慮して判断することにも資するものと考えています。   第2の3の保護者の事務の監督につきましては、部会資料23の13ページに保護者の不正防止に関しての各種専門団体における取組との記載がございますので、日本司法書士会連合会での取組を簡単に紹介させていただきますと、全国の司法書士会の会則や預り金取扱規則基準を設けて預り金の保管方法や記録に関する規定を置くとともに、司法書士行為規範の中で財産管理業務の規律に関する章を設けております。また、事務の監督の取組についての詳細は、恐らくリーガルサポートの野村真美幹事より御報告いただけるかとは思いますけれども、平成11年に全国全ての司法書士会の会長を発起人としてリーガルサポートという社団法人を設立したのは、正にこの成年後見業務について会員の事務の監督を行って不正防止に取り組む機関が必要であると考えたからであります。司法書士がリーガルサポートを中心として不正の再発防止や早期発見に取り組んだ結果、被害を予防できたケースや軽減できたケースも相当数存在しており、この不正防止に関する能力を有していると考えています。 ○佐野委員 第1のところについて申し上げさせていただきます。部会資料2ページの7行目辺りにも記載いただいていますとおり、保護者の代理権が消滅していることを知らずに取引の相手方が本人の代理として取引をしてしまう場面というのは増加すると考えておりまして、取引の相手方に関する保護の検討が必要だと考えております。   今回、部会資料3ページのエの部分で、保護者の代理権の消滅は、登記をしなければ善意の第三者に対抗することができないものとするとの規律を設けることを提案いただいております。この点、取引の相手方の保護とひとくくりに申し上げておりますが、第22回の部会でも青木委員からもおそらくお話しいただいたように、金融取引は反復継続する点や日々大量の取引を受け付けているという点で特殊なものとなります。これを前提としますと、対面の窓口取引の都度、登記事項証明書の確認を行うのはなかなか現実的ではないと思いますし、非対面のキャッシュカードを用いたATMとかインターネットバンキングの取引を想定すると、この確認は不可能かと考えております。これを踏まえて金融取引において考えた場合、第22回の部会にて、仮に保護者の代理権消滅を把握できていない状態で無権限者と取引を行った場合に、預貯金の払い戻しに関しては預金規定にて後見等の届出がなされたことにより生じる損害につき免責されるという旨の定めを置くことであるとか、民法478条の規定により免責を受けられるのではないかという論点があるかと思います。   ここに関して以前、部会長からも、民法478条の適用における金融機関の無過失の解釈であるとか、運用とか法制上の措置についてお話しいただいたと認識しております。この事例において、法制上の措置がないという場合に、都度、登記情報を確認できていないと過失があると認定されてしまうのかであるとか、仮に法制上の措置をとるとするとどのような対応が考えられるのかであるとか、例えば民法112条に何らかの追記を行うかといった点を含めて、ここで先生方の御意見を頂きたいと考えております。   取引の相手方の保護という文脈で、少し資料の内容から派生してしまうのですが、もう1点述べさせていただきます。まず、意思能力に疑義のあると思われる方の対応についてです。金融機関の実務上、意思能力に疑義のある方と付き添いの方が一緒に御来店されて、口頭でサポートとか代筆等を含めた手続を求められるという場面がございます。ケース・バイ・ケースではあるのですけれども、このような場合に金融機関としては本人の意思能力の有効性について判断できず、後に取引が無効となる懸念があるとして、謝絶するケースが多い状況となります。   今般、法改正がなされた場合、必ずしも事理弁識能力の回復がなかったとしても後見が終了することになることから、先ほど御説明のように、付き添いの方と共に店頭にやってきたようなお客様が手続するような場面が多くなると想定しております。この場合に、せっかく後見を終えて本人取引をされようとしているのに、現状の実務の慣行からしますと、やはり同様に謝絶せざるを得ないという場面も多いものとなってなってしまいます。このように、後見終了した方が預金取引をできないとなると、本人の安定的な日常生活という観点からは、この法改正が実質的に意味をなさなくなってしまうので、これは金融機関としても本意ではないと考えております。   そこで、金融機関としては、このような場面においても安心して払い戻しを行うことができるような制度設計が必要だと考えております。民法上具体的な手当てができるかどうかというところは、確かにハードルが高いかもしれませんが、例えば、特定の預金商品における一定金額までの払い戻しについては取引の有効性が担保されるといった制度を考えることで、金融機関としても安心した取引ができるようになるのではないかと考えております。   なお、今の前提として、この部会でも過去に、本人による預金取引において意思能力がないことにより無効になることがあり得るのかといった御指摘も頂戴しております。この点に関しては、先ほど申し上げたような付き添いの方がいらっしゃるパターンであるとか、本人が亡くなった後に相続人の方から銀行に対して、出金時には本人は意思無能力だったはずだといった主張がなされるような場面もありますので、その当時において御本人が認知症であったような資料が提出される場合など、幾つかこういうリスクがある類型というのは実際に今も存在しているものと考えているというものになります。   長くなりましたが、私からは以上となります。 ○山野目部会長 佐野委員から、大きく二つの点についてお話がありました。前段のお話は従来も、佐野委員からお話があったとおり、この部会で論議の積み重ねがあった事項について、重ねて委員、幹事の御意見を伺いたいという要望を頂いたものであります。御発言の後段は、これも今まで散発的にはそういう問題意識が部会において語られてまいりましたけれども、本日もっと整った仕方で新しい観点として御提示いただいたものと受け止めます。前段及び後段のいずれの点につきましても、委員、幹事から、ただいまの佐野委員の問題提起を受けて活発な御意見の開陳をしてくださるように、引き続きお願いいたします。 ○佐保委員 ありがとうございます。第1の法定後見制度における保護者の代理権消滅と相手方の保護でございますが、パブリック・コメントを踏まえて、法定後見でも代理権の消滅は登記をしなければ善意の第三者に対抗できないという規律を設ける方向性については理解いたしました。懸念点はないのかどうか、ほかの委員の方の御意見もお伺いしたいと思っております。   第2の保護者に関する検討事項の2の保護者の報酬ですが、報酬については立場によって様々な意見があると推察されます。現行規律を維持するという方向性に賛同しつつ、報酬額判断の考慮要素については、他の委員の方の意見も聞きながら検討していきたいと考えます。予測可能性、透明性を高める方策は重要だと考えております。 ○野村(真)幹事 ありがとうございます。まず、第1の法定後見制度における保護者の代理権消滅と相手方の保護ですが、リーガルサポート内部でも様々な考えがあって、一つの意見にまとめるのは難しいのですが、現段階の意見としては、部会資料のような規律は必ずしも設ける必要はないのではないかと考えています。この規律が意味を持つのは、保護者の代理権が消滅して以降、その旨の登記がされるまでの間の行為についてかと思いますが、必要性がなくなったため制度の利用が終了する場面が増えるとしても、死亡を除けば終了の場面の登記は嘱託で行えることとすれば、登記懈怠は生じないので、この規律は終了の審判がされてから嘱託登記が完了するまでの極めて短い期間しか意味を持たないものになるのではないかと思います。もちろん相手方の保護の検討が全く必要ないということではありませんが、過去に部会でも検討された民法112条の適用の可否については、その問題点について多数意見がありましたし、112条類似の制度の創設という意見もあったと思いますが、現段階ではいずれも積極的には肯定しかねます。   現在の制度では判断能力が回復した場合に制度は終了しますが、新しい制度では判断能力が不十分だけれども制度が終了することになって、新しい制度下の判断能力が不十分な本人の方がより責任が重いというのは簡単には容認できず、容認するにはそれなりの根拠が必要になるのではないかと思います。その根拠として、終了に関して本人の関与が予定されるかという程度では足りないと思われます。判断能力が不十分なままでも制度が終了することができるのは、成年後見制度以外のサポートで本人を支えることができるからということだと思いますが、新体制の開始直後にそのサポートがつまずいてしまわないよう、この代理権消滅と相手方の保護の規律については現行制度のままでよいのではないかと思います。   続いて、第2の保護者に関する検討ですが、1の保護者の選任、2の報酬、3の事務の監督について、それぞれ御提案の内容に賛成いたします。部会資料の13ページのウの、先ほど小澤委員から御説明のあったところなのですが、保護者の不正に関する各専門職団体の取組の一例として、リーガルサポートでは研修や業務報告・執務管理支援を中心とした取組を行っています。業務報告については、会員が受託している全ての事件を対象として、インターネット上のクラウドを利用して、個人情報保護に配慮した上で、本人の心身の状況、生活、財産状況、会員の執務内容等の定期業務報告を義務化し、これは通常6か月に1回なのですが、その報告をさせるようにしています。さらに、より詳細な指導監督の実施が必要であると判断された会員を対象とした特定会員制度、それから全会員を対象として順次実施する全件原本確認などにより不正防止を図っています。   それから、13ページのエですが、虐待事案以外で成年後見人が親族に本人の施設の場所を教えずに本人と親族を会わせないケースというのは、通常は後見人が一人で決めるものではなくて、他の支援者とチームで慎重に本人の意見を確認した結果として、そのようなケースがあるのではないかと思います。後見人としては、そのようなプロセスを丁寧に親族に説明することが求められていると考えています。また、親族間紛争で、ある親族が他の親族に会わせないように施設に言うケースでは、後見人には他の支援者とチームで慎重に本人の意思を確認することが求められていて、実際に後見人が本人の意思に基づいて、他の親族と本人が会えるように配慮するというケースもあると聞いています。確かに部会資料に記載されているように、後見人には親族に対して本人の居場所などの情報を開示しなければならない義務はありませんが、本人の意思を尊重して、本人が望む親族との交流を支援する役割を実務上は果たしていると思います。 ○佐久間委員 まず、第1の点につきまして、取引相手の保護は、可能であれば充実させることが求められると思います。可能であればということを少し今から申し上げようと思います。佐野さんからは専ら金融機関の立場での御発言がありましたけれども、別に金融機関のお立場をあれこれ言うつもりはありませんが、ここは金融機関だけを考えればいい話ではないので、取引相手方一般について考えるところを述べます。   これに関する規律で保護すべきは継続的な取引であると思います。それまで取引をしたことがなかった人が後見の終了後に初めて取引したという場合は、それは余り考える必要はないと思います。その継続的な取引の場合に、第1の御提案のようなことのみを定めた場合にどうなるかというと、佐野さんも途中でおっしゃったことだと思いますけれども、きちんとしたというか、リスクに敏感な相手方は、極めて頻繁に登記事項証明書の提出を求めることになると思います。それは求める側にとっても、もちろん負担ではあろうと思いますけれども、求められる側にとっても相当の負担になるということで、どちらも幸せにはなれないと思います。   そのようなことを避けるにはどうすればよいかというと、方向が二つに分かれると思います。一つは112条類似の規定を設けるということです。もう一つは、登記を確認したってどうしようもないのだという状況にするということで、この種の、第1で御提案になっているところももう設けないということだと思っています。   第1のこの規律には、私はそれ自体としては設ける意味はあると思っておりまして、それは前も申し上げましたけれども、任意後見の場合には任意後見契約法11条にこの種の規定があり、法定後見には今のところない。確かに任意後見は任意代理の一種だという整理がされているところで違いはあるとも見えますけれども、機能的には同じ役割を果たすものなので、二つで大きく規律が異なるのは適当ではないという考え方に基づいてのことです。   しかし、任意後見と法定後見とでやはり違うところはありまして、これは野村真美幹事が御指摘になったところに関連するのですけれども、任意後見の場合の登記は本人側というのでしょうか、が登記の申請手続をしなければならず、そうすると特段何も規定を置いておかなかったら、それがいつまでもされないままということが恐れられるのに対し、法定後見の場合については嘱託で登記がされるので、その心配はない。   他方、またもう一つ、任意後見を任意の制度だと考えれば、その登記の懈怠は本人の責めに帰すことができるということにもなるのだろうと思います。ただ、この点は任意後見の本人に自分で登記の手続をせよということが本当に期待されるのかと。法的にはあり得るとは思いますけれども、本当に期待されるかというと、多分そうではなくて、それは結局、旧保護者の失策等によって本人が不利益を受けるということだと思います。この観点からすると、法定後見の場合も、その観点というのは、本人は自分以外の者に結局頼らざるを得ないところ、その失策によって本人が不利益を被ることがあるとすれば、僅かな期間かもしれないけれども、嘱託によってされる登記がある段階までされない、これは本人の失策でも何でもないけれども、先ほどの任意後見の場合と同じ理屈で、本人の不利益に帰すということはあり得ると思っています。   ただ、元に戻るのですけれども、これだけ置くのはいかにも中途半端で、余りいい結果を生まないのではないかと思うということが一つ。もう一つは、そもそもの前提として、代理権の消滅事例が増えるので相手方保護を図る必要があるということの前提として、このような継続的取引を保護しようという場面で代理権を消滅させようというときに、裁判所の手続の間も含めて、継続的取引の相手方に何ら連絡もなく、必要性がなくなりましたねということで代理権が消滅するということがどれほどあるのか、あるいはそういうことが起こってもいいというような構えで改正をするのかを考えるべきで、そのようなことにするのはおかしいのではないかと思います。   行われている継続的取引をもれなく把握できるとは思っておりませんけれども、多くの継続的取引については、現に行われているものであれば把握可能なはずであり、代理権の消滅を必要性がなくなったとして認めるかどうかを判断するためには、その相手方に対して何らかのアプローチ、照会を掛けるのか、どのルートからかは分かりませんが、などをしてからしか必要性の消滅が判断されないというのが本来基本であるとする。そうすれば、その照会のようなものが来たときに相手方は警戒することができる、以後は警戒せよということになり得るので、そのようなことさえ整えば、繰り返しになりますが、この中途半端な規定は設ける必要がないのではないかと思います。   中途半端なというのは、もし相手方の保護のことを十分考えるのであれば、結局のところ、今最後に申し上げた消滅前に相手方に対して何の知らせもない、突然代理権はなくなっている、しかし登記は残っているというのは、相手方からすると、都度登記事項証明書を提出させるということにすれば別ですけれども、そうでなかったとしたら勘弁してくれという事態のはずであり、本人側から何もアプローチがなかったのは本人の責めに帰されていいのではないかということを考えてもいい事態だと思うので、表見代理の類似の規定を設けるということはあってもいいと思っています。   第1について最後にですけれども、ただ、そもそもが任意後見の場合について、先ほど加毛幹事が早い時間におっしゃったことですけれども、登記がされた後になお表見代理の成立が認められるのかというと、恐らく見解の一致はないのだと思います、判例はありませんし。そうだとすると、任意後見の場合に、任意後見法11条の外側で、112条の文言上の制約がないから表見代理が成立し得るのだということを確認をしてからでないと、この脈絡で表見代理又はその類似の規定を設けることはできないということになると思います。   あれこれあちらへ行ったりこちらへ行ったりしましたけれども、結論としては、相手方保護を図る必要はあると思う、それは本人が取引に応じてもらえないという事態を避けるためにも必要であると思いますけれども、第1で提案されている規定にとどめるのは適当ではないと思いますし、それを超えて表現代理類似の規定を設けることも、これは困難だろうと思います。任意後見の方だって明らかになっていないので、困難だろうと思っています。そうすると結果的には、恐らく今までおっしゃった方とは全然違う理由なのですけれども、何もしないというのがいいのではないかと思っています。第1については、長くなりまして申し訳ありません、以上です。   次が第2の2の保護者の報酬のところで、皆さんこれで結構だとおっしゃったので、少し言いにくいと思っているのですけれども、私は保護者及び本人の資力という判断要素は、現状でもある判断要素ですが、今後は不適当ではないかと思っています。それは、まだこれからどういう法定後見の枠組みになるか分かりませんけれども、どの類型になろうが、恐らく個別の事務の代理等をしていくことが中心というか、それが望ましいという考え方にはなると思うのです。   そうであるときに、本人の資力が乏しいからといって、同じ事務をする人について報酬が異なるというのは、素朴になぜかと思いますし、さらには保護者が、例えば弁護士が引き受けた場合だと、一体どのような資力状態なのか分かりませんが、それは置いておいて、金持ちが引き受けていたら報酬は低くていい、保護者も大してお金持っていないときは報酬が高くてもいいとか、本当にそうなるかどうかはともかく、そういうことを考慮しますよということはおよそ有り得ない話なのではないかと私は思います。福祉的なものなのだと言われれば、そうかもしれませんけれども、この脈絡で福祉的な要素を強く出すことが、こういうと反発を食らうかもしれませんが、適当なのかどうかに疑問があります。むしろ保護の事務の内容のほかには、法制上の観点から文言にできるかどうかは分かりませんが、それを置いて申しますと、保護者の属性とか、例えば保護者と本人の人的関係ですね、親族関係の有無とか、そういったことを考慮するというのはあるのかと思いますけれども、個別の事務をしてもらうということだとすると、保護の事務の内容が考慮要素の圧倒的な中心になるのではないか、なるべきではないかと思っています。これが2点目です。   3点目は、12ページにある保護者の事務の監督のところで、このゴシック書自体は、維持するということに何ら異論はありません。その上で、前にも一度申し上げたことなのですけれども、854条を「できる規定」として付け加えることはあり得るのかあり得ないのか。あり得るとしても、まだそれは今後の話ですというのであれば、それで構いませんけれども、論じるのはこの場面ですということになると、私は幾ら個別の代理等が制度の中心になったとしても、保護者がかなり広い権限を握るということだってあり得るので、常にそうしなければいけないというわけではないけれども、事態によっては財産目録の調整が終わるまでは事務を始めさせないことを家庭裁判所の判断でできるということにすることが望ましいのではないかと思っています。 ○山下幹事 私からは、相手方保護の方法ということで1点申し上げたいのですが、今までのお話のような第三者保護の制度を直接設けるかどうかということとは別の方向です。直前に佐久間委員が問題提起された、継続的取引の相手方を保護する観点からは、保護者には、任務終了時の義務として、継続的取引の相手方には任務終了の事実を通知し、他の支援者には継続的取引に関する情報を提供するなど、取引が支障なく継続されるように引継に関する事務を行う義務を明示的に課してはいかがでしょうか。任務終了時に適切に事務を引き継ぐということは、おそらく後見人の善管注意義務の内容であり、明示的に課さなくても解釈で導くことは可能だと思いますが、条文に書いておくことが分かりやすさの観点から望ましいというのが1点です。   もう1つは、本人自身についても、後見が終わった以上は、自分がこれから取引を行いますということについて、知れている継続的な取引の相手方に対しては通知をしなさいという義務付けをすることが、考えられるかと思います。判断能力が十分回復していない方については、支援者から通知をしていただくという形で良いと思います。その場合は、知れている取引相手方にしか通知が届かないことになりますが、そういった場合も含めて、今後は本人自身が取引をしますという通知を行うというようなことを条文に書いて置くということです。このような義務を課すことで、民法478条の表見受領権者への弁済による債務者の免責に関する規定の適用の際にも、通知が行われたかどうかを一つの判断要素とすることができ、銀行などが本人から預金の払戻しに応じる際にも一定の指針を提供する事ができるように思います。もちろん、通知の有無だけですべてを決定することはできず、取引相手方の直接的な保護にはならないかもしれませんが、それでも任務終了時の引継事務等、後見の終了から本人自身の取引へと移行する部分の行為規範のようなものを、民法の中にある程度明確に書いておくという工夫としても考えられるかなと思いました。 ○竹内委員 まず、第1のところなのですけれども、ここは取引の相手方を保護する必要性はあるだろうという前提に立っています。ただ、部会資料3ページの(3)19行目に小括とありますが、保護者の代理権の消滅は任意後見法11条のように登記しなければ対抗することができない旨の規律を設ければ解決するかというと、私はそうではないのではないかと思うところがあります。従前はこの部会で、制度が変われば基本的に本人の同意によって代理権が付与されるのであるし、その意味では現行法の位置付けとは違うのではないかと発言はしたのですが、よく考えてみますと、任意後見契約法の第11条で代理権の消滅と登記で相手方の保護を考えているのは、つまり、現行の任意後見契約で代理権が消滅するときというのは、任意後見契約が全部解除されているか、任意後見人が解任とか辞任とか委任の終了事由が発生して、任意後見契約がなくなっているという状態であるのに対して、保護者の代理権消滅が法定後見の場合にどういう場合に生じるのかといいますと、もし勘違いだったら御指摘いただきたいのですが、これから新しい制度になって、制度利用が必要性なしとして終了しました、あるいは御本人の能力が回復されて終了しましたというのはそうですが、ほかにも、従前の保護者が解任や辞任、亡くなったりですとか、欠格事由が生じて欠けてしまった場合、民法上、新たな保護者を選任しなければいけないので、新たな支援者、保護者が付いているということになります。となると、御本人はまだ支援の必要性が残っている方だということになりますから、こういう場合が含まれることを考えると、御本人の保護という観点で任意後見契約の場合と全く同じだと言えないのではないかと思いました。   また、制度の枠組みとして乙2案を採った場合、保護Bという方がいらっしゃれば、その場合も御本人の保護というところをやはり細やかに考えていかなければいけないのではないかというところです。となると、ではどうしたらいいかと考えますと、少なくとも任意後見契約と同じように、登記によって要件、規律さえ設ければいいという単純な話でもなくて、今、先生方がおっしゃった、例えば通知という方法で保護の方策を考えてみるであるとか、あるいは、佐久間委員からは難しいのではないかというお言葉もあったのですけれども、表見代理のように、登記の有無ではなくて、細かく、相手方の保護と本人の保護を斟酌できるような方策があり得ないだろうかということを考えました。   その後の2とか3については特段、部会資料のとおりでよろしいかと思いますが、保護者の報酬については以前、専門性という言葉もありましたが、私の方では専門性とは何かというのはやはり答えが出ません。ですので、保護の事務の内容という用語が一番ふさわしいと思います。先ほど佐久間委員が問題提起された点については引き続き考えてみたいと思います。 ○加毛幹事 ありがとうございます。第1の「法定後見制度における保護者の代理権消滅と相手方の保護」について意見を申し上げたいと思います。   第1に、既に委員の先生方から幾つものアイデアが出されているところではあるのですが、やはり法定後見の権限消滅に関する登記が当事者の申請ではなく職権によってなされることを前提とすれば、本人に不利益を課す規定を設けることを正当化できるのかに疑問を感じます。佐久間委員のようなお考えはあるのだろうと思う一方で、任意後見の場合には、本人や本人が選任した任意後見人の落ち度によって登記がなされないという事情を想定できるのに対し、法定後見の場合は、終了の審判があってから登記がなされるまでの期間の長短という本人のあずかり知らない事情、裁判所による手続にかかる期間の長短によって、本人が不利益を受けることが本当に正当化されるのかには、やはり疑問があります。それゆえ、第1の規定を設けるのは難しいのではないかと思います。   第2に、山下幹事が御提案された、保護者・本人に、知れている債権者に対して通知を行う義務を課すという考え方については、その義務違反の効果をどのように考えるのかというところが気になるところでして、民法に規定を置くのは難しいのではないかという気が致します。通知がなされなかった場合に本人がいかなる責任を負うことが想定されるのかがよく分かりません。現行法上は、例えば、会社の清算などについて、知れている債権者に対する通知という制度が存在しますが、それは清算手続からの除斥という効果に結び付いています。それに対して、ここで問題となるのは、事後的に債権者が知らずに取引をしてしまった場合に本人がいかなる責任を負うのかであるように思われ、そのことを民法に規定できるだろうかとというところには疑問を覚えます。   その点では、佐久間委員がおっしゃったように、法律の規定として義務を課すよりも、家庭裁判所の実務として、代理権を消滅させる場合に、当該代理権との関係で現に取引をしている相手方などに対して適切に通知を行ったか否かを確認し、その上で終了の審判を行うことの方が良いように思います。それであれば、民法に規定を設けなくとも、実務運用によって目的とするところを実現できるのではないかと思われます。   第3に、先ほど任意後見契約法11条に関連して、商業登記に関する消極的公示力と積極的公示力について言及しました。佐野委員のお話を伺っていて、少なくとも銀行界としては、後見登記に積極的公示力を認められては困るのだということを理解しました。後見登記をそれほど頻繁に確認することは現実的ではないからなのだろうと思います。これは十分に理解できるところであり、商業登記と後見登記との間には、取引相手方のアクセスの容易さの点で相当な違いがあることが、その理由なのだろうと思います。その点に、登記の効力の違いの根拠を求めることになるのだろうと思います。   それゆえ、佐野委員がおっしゃることは良く理解できるのですが、他方で、そうすると、取引の有効性を確実に保障する規定を民法に設けるのは相当に難しいように思います。民法478条の過失判断については、様々な事情を総合考慮することになりますので、銀行が後見登記をどれくらいの頻度で確認していたのか、適切な確認を行う仕組みを行内で構築していたのかなどの事情を含めて総合的な判断をせざるを得ないということになり、ルールの明確性は低下せざるを得ないことになります。   最後に、この問題に対する対応として佐野委員から、一定金額については預金の払戻しを有効とするような規律が考えられないかというお話がありましたが、佐野委員が意思能力に欠ける人の例を出されたところにも示されるように、これは後見制度を利用するかしないかにかかわらず、意思能力の存否に疑義がある人について問題となる点であるように思います。そうだと致しますと、後見制度に関連して新しい規定を設けることについては、やはり慎重であるべきであるように思われます。 ○山野目部会長 御発言をお願いする段取りについて少し御案内を差し上げます。   一つは、私の方からの中間のガイドのお話を差し上げることがありまして、ただいまも御議論があった第1のところでありますけれども、取引の相手方の保護について考えなければいけないということで、ずっとこの部会においては問題意識を抱いて向かってきたわけなのですが、ここに至ってもかなり有力な見通しが得られる提案が獲得できていないところであります。本日の部会資料で、取引の相手方について何か御議論いただかなければいけないわけですから、項目を立てておりますけれども、しかし、かといって何もアイデアがなくて、取引の相手方の保護については何もアイデアが思い付かないところであると考えられるがどうかと書くわけにはいかないので、11条並びの発想というのを一つ、何といいますか、さかなとして提示した上で皆さんの御議論を喚起しようというような気持ちも少しあります。もちろん真面目に考えた上で部会資料作ってはいるのですけれども、そういう側面もあるので、これをやっつけようというところに議論が集中していただくのは余り生産的なことではなくて、これも一つの例かもしれないけれども、ほかにも幾つか取引の相手方の状況を考えて総合的に考えなければいけませんねというような観点からお話を頂いて、議論を続けていくのに残された時間は余り多くないのですけれども、可能な限り議論を深めていただきたいと望みます。 ○星野委員 ありがとうございます。3点ほど申し上げたいのですが、まず今、部会長からお話があった第1の取引の相手方の保護のところですが、確かに取引の相手方を保護するのは、本人が先々取引ができなくなってしまわないように、やはり本人の利益を考えなければならないと思っているのは同様です。今福祉の現場で、後見制度が終了するところというのは、一番問題になるのがやはり日常的な金銭管理です。日常的な金銭管理をどうするかというところで、現在私が関わっている中核機関では、地元の金融機関の方にも入っていただきながら、制度が終了するといったことも見据えながらいろいろ検討をしています。勉強会をしたり、実際の支援のあり方を検討しています。その検討のときに、今この法改正の議論において、制度利用が終了というところで何が課題になるかというところを踏まえながらやっている。何が言いたいかというと、金融機関だけがリスクを負うという話ではなくて、金融機関の方も一緒にチームの中に入ってきていただいて、個別にその方に対する日常的な金銭管理をどうしていくか。先ほど佐野委員がおっしゃったような上限額というものをどう設定するか、そういう話にもつながってきますし、誰がその取引を行うのか、本人が行うのか、本人を支援するどんな支援者が一緒に行うのか、そういったことを個別に検討できるような仕組みづくりというものが地域の中で少しずつ行われているという実態をお伝えするのが一つ目です。地域の検討の場で一生懸命今皆さんが考えていることが、この法改正の議論が終わったときに、やはりそれは無理な話だったのだとならないようにしたいというのが私の今すごく感じている願いです。   2点目です。2点目は佐久間委員がおっしゃられた2の保護者の報酬のところです。ここは社会福祉士会の中でも十分議論できなかったのですが、今のお話を聞いていて、確かに保護者及び本人の資力というのは現状と既に合っていないと思います。現状は、本人の資力によって報酬の額を変えている裁判所の方がだんだん少なくなってきていると思います。そのために厚生労働省の方で、報酬が負担できない方の利用支援事業というものを作っているわけですから、ここの保護者及び本人の資力というところは見直すという意見を今日持ちましたのが2点目です。   それから最後、3点目のところなのですけれども、これは野村真美幹事もおっしゃっていましたけれども、13ページの不正防止のところですね、保護者の事務の監督のところです。不正防止については、現状の維持というところに賛同しておりまして、新たに何か規律を設けるかということについては、特に積極的な意見がない理由としては、専門職団体の様々な取組というところを書いていただいているとおりですが、加えて、先ほど中核機関の話をしましたが、やはり私が関わっている地域では、後見人に対する苦情のようなものに、これが先々不正につながるということもあるわけですけれども、苦情とか意見、要望を専門職団体だけではなくて中核機関の方々と一緒になって、後見人の支援、サポートということをどうしていくかという検討において、中核機関も後見人への支援として行っていますので、一緒になって役割を分担しながら取り組んで、いい結果というものが幾つか出てきております。これは厚生労働省の方の専門家会議でも不正防止というところでワーキングを以前行い、家庭裁判所と中核機関と専門職団体などが一体的に取り組むということも言われているところなので、そういう実務上の運用というものが進んできているというところから、規定を新たに何か設ける必要はないのではないかという意見です。 ○根本幹事 ありがとうございます。私からは3点申し上げたいと思います。まず一つは、今まで先生方の御議論にもありましたけれども、登記だけでというのは実際の取引の相手方がとられる行動のことを予測すると、取引の相手方もそうですし、本人ないし保護者の立場から見ても非常に難しいことになるのかなとは思いますので、事実上の通知とか届出ということで整理をしていくということではなかろうかとは思います。   ただ、その際に、後見人に通知を出させて、それを山下幹事がおっしゃる行為規範とするのか、若しくは加毛幹事がおっしゃるような運用という形にするのかはともかく、通知を出して、その写しを家庭裁判所に提出させるということ自体はできるのかもしれませんが、実際上のところは結局、例えば金融機関であれば、保護者から御本人に取引を戻すということであれば、そこで本人の新しい届出印を出していただかないといけないということになるのだろうと思います。継続的な取引でイメージされるところで言えば、例えば、入所はともかく、公共料金についても結局その後、明細の郵送先をどうするのかなど本人が当該取引相手にお知らせをしていただかないといけないことというのは、細々としたことで出てくるとは思います。終了して戻すという以上は、御本人が手続を最終的にはなさらないと手続的に完了はしないのではないかと思います。後見人が取引の相手方に対して通知を出すこと自体は可能だとは思いますが、実効性を持たせるという意味では、本人が手続を最終的にはされるということを前提に考えなければいけないのではないかというのが一つです。   もう一つは、佐久間委員と加毛幹事の議論の中でも、112条に類似する規定について債権法改正で法定後見は外れたことから、その手当ては、コンセンサスがとれるのは難しいというのはそうなのかなと思いつつ、本来は資料でもう少しその部分を議論をして、それでもやはり難しいのだというプロセスは経ないといけないのではないかと思うというのが二つ目です。   3点目は金融との関係ですけれども、先ほど佐野委員からもありましたが、佐野委員がお持ちの問題意識というところについて、部会でも議論はしなければいけないとは思っていて、二つの観点で議論がされるべきだと思います。一つは、加毛幹事の御指摘とも関係しますが、いわゆる意思無能力無効の3条の2との関係では、何かそれを金融の取引についてだけ特化して民法でそれを免責させるような規定を設けるというのは、難しいのだろうと思います。そのことを前提として、例えば取引における金融機関の注意義務を何らか免責ないしは軽減させる、若しくは損害額ですとか、若しくはその立証責任という観点で、法的な効果を意図して、ハードローないしソフトローでどういった対応があり得るのかということは、議論をしなければいけないと思います。民法で難しいとしても関連法制含めてどこかでそこの手当てをしないと、佐野委員が御懸念されているような事態というのが生じてしまって、今回の終わることができる後見という改正が最終的に個々の取引の現場で実効性を持って実現されないということになってしまうということは私も強く懸念するところですので、ソフトローで足りるかどうかという議論もあると思いますが、引き続き、もう少し議論をしないといけないのかなと思います。その具体的な提案の内容というのは、もう少し詰めなければいけないかなと思います。 ○山野目部会長 根本幹事に一つ二つお話を差し上げたい事項がございます。1点目は、根本幹事のお話のなさり方が妙に遠慮なさっておられた話しぶりで、根本幹事らしくもないというか、誰も民法では難しいとここにいるどなたかが言ったわけではありません。民法に置くのは難しいですよというお話になってきたら、民法に置くのは難しいから、場合によっては一番柔らかなものとしてはソフトローというふうなこともあり得ますねというふうに話が進んでいくなりゆきは構わないとしても、法制審議会は民事基本法制に置く規律として何が望まれ、何が可能かを議論する場所ですから、最初からソフトローであり得ますねというようなお話をしていただくのは、何か少し不思議な印象を受けます。   むしろ星野委員がおっしゃった点は、福祉の現場では金融機関も交えて皆で話し合ってこれまでもしてきています、根本幹事のおっしゃる言い方でよぶとソフトローのローにはなっていないかもしれないけれども、ソフトなるものは福祉の現場ではもうさんざんやってきているけれども、それではもうしんどくて、現場は本当に困っていますと先ほど星野委員がおっしゃったのですよ。その訴えに耳を貸して議論していく上では、民法にこそ注意義務の軽減とか、幾つかアイデアとしておっしゃっていただいたことというものを挑むべき事柄ではないかと感じられます。   それからもう一つは、話題にしていただいたものは佐野委員の最初の御発言の後段のアイデアとの関係でのお話であって、言わばニックネームを付けると小口口座のお話であるだと考えます。佐野委員のお言葉ですと一定額というものを決めてと、一定額という言葉を用いておられたと記憶しますけれども、その一定額の決め方自体も社会経済情勢を考慮しなければいけないから、難しいかもしれませんけれども、仮にイメージとして30万円なら30万円と、月々その金額まではと決めたときに、そのくらいの小口であれば出入れについて何か特別のルールを考えましょうというふうなアイデアというものは、成り立っていくかどうかということをもちろん丁寧に検討しなければいけないでしょうけれども、有り得ない話ではないと予想します。   ただし、そのときに、30万円までの範囲では何々がこういう特例を受けますというときには、意思無能力無効を理由として、とかという言葉が規律の中に表現されなければいけないでしょうね。30万円の限度だと出入れはみんな免責されます、振り込め詐欺の被害に遭ってしまったのですね、どうもそれは気の毒さまでしたで、どんな理由があっても30万円までだったらもう全然、銀行はノータッチですよということになってしまうと、その金額までの振込め詐欺を奨励しているみたいなルールであるとか、あるいはルールであると受け止められかねないところがありますから、現在の民法で述べると567条1項が、何々を理由としてという書き方をしていますけれども、ここも恐らくそのようなことを工夫していくならば、何々を理由として、こういうことが起きたときにはそれについてはこういう効果が生ずるというふうな書き方になっていくでしょうね。引き続き根本幹事にお考えいただいて、節目節目で意見をおっしゃっていただきたいと望みますけれども、今お話を伺っていて、ひとまず感じたことを御案内しておきます。   引き続き委員、幹事のお話を伺います。 ○山城幹事 2点ございまして、一つは第1の代理権の消滅と相手方の保護の点です。結論としてどうするかが悩ましい問題だと改めて感じているのですけれども、差し当たり任意後見契約法11条を出発点として検討してまいりますと、この規定には、保護される信頼の対象の捉え方として二つの側面があるのではないかと感じます。一つは、代理権の存続に対する信頼という側面であり、もう一つは、なお残っている登記に対する信頼という側面です。   前者については、議論の前提は民法の112条と恐らく同じではないかと思いますが、任意後見契約法11条は、債権法改正前の民法112条の文言と平仄を合わせたものになっていますから、継続中の取引において代理権の存続を信頼した者を保護の対象とするのであれば、現行の民法112条との間で文言を調整する必要があるのではないかと感じました。これが1点目です。これは任意後見の方の話かもしれません。   もう一つは、登記への信頼という側面に焦点に当てますと、継続的取引ではない場面でも、後見が終了した後にもなお残っている登記を信頼した者が現れる可能性がありそうに思われます。この点も、一応の検討に値するのではないかと感じます。   具体的に申しますと、借財をすることのように反復可能な事務が任意後見の事務であったときに、一度その取引をした以上、目的の達成によって委任が終了するという議論があることは、部会でも以前に検討されたところであったかと思います。その場合に、目的の達成によって委任は終了するのか、それとも、委任の取消しのような審判をしない限り代理権は残っていると考えるのかについて、整理が必要ではないかと感じます。仮に目的を達成したことで代理権が消滅するのだとしますと、審判によらずに代理権が消滅しているという状態が生じますから、例えば任意後見事務として借財をした後、別の者からまた借財をしたといったときなどに、2度目の契約の相手方は、登記に基づいて任意後見人が代理権を有することを信頼することがあり得るだろうと思います。このような場合にも、任意後見契約法11条に類する信頼保護が及ぶ余地があるのかという問題が生じるのではないかと感じました。   もう1点は、既に御議論があったことに賛成するという趣旨の発言ですけれども、報酬の算定根拠につきまして、現行862条の文言は資力を正面に出す形で作られていますが、部会資料の中にもありますとおり、やはり事務の内容が算定の主たる根拠になるべきではなかろうかと思います。つまり、報酬が幾ら支払われるのかは事務の内容に従って算定され、本人の資力はどれだけの負担を求めることができるかという局面で考慮されるというのが、分かりやすい制度設計ではなかろうかと感じます。その意味では、本人の資力という文言が862条に残ると、部会資料に示されているような考えが端的に反映されないのではないかと感じました。   862条は、成年後見と未成年後見の両方を規律するという趣旨で作られている規定かと思いますが、今般の改正の基調は法定後見と未成年後見を異なる制度として位置づけるところにあるのではないかと思います。少なくとも成年後見との関係では、現行法の文言よりも実質に即した形で報酬の算定基準を示す条文ができると望ましいのではないかと感じます。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○青木委員 まず、報酬の点につきましては、従前から、事務の内容だけではなく、専門性等も含めて考慮いただきたいと申し上げておりまして、佐久間委員から先ほど属性というお話も頂きましたけれども、やはり「事務の内容」という言葉ですと、事務の量とか、事務の手間という、狭い概念として扱われる心配もございます。といいますのも、数年前に裁判所が第一期の成年後見制度利用促進基本計画の提起を受けて、報酬算定基準の見直しを検討したときに、事務の内容に着目して報酬算定基準を細分化してみようという試みをしたことがありまして、その際、具体的にどんな事務をしたかという量を積み上げるようなものを検討したことがありますが、それでは後見の事務の実際のあり方を表現することが難しいということで、そうしたアプローチは途中で断念を頂いたという経過もあります。そういう意味で言いますと、事務の量とか手間だけではなくて、事務の質、あるいはそれを担う者の属性とか専門性というのも、十分に考慮していただく必要があるということだろうと思います。   例えば、虐待対応においては、具体的な事務ではなく弁護士が後見人になっているからこそ、養護者との関係で事態が収まっているという状況とか、あるいは高度な専門性が必要なので、手間が多いというわけではないけれども、判断過程などの総合的考慮において質の高い重要な事務であるなど、いろいろな評価軸があります。こうした要素については、資料23では、「その他の事情」によって総合考慮するべし、ということだと思いますけれども、やはりそこに位置付けるだけだけではなく、代表的な考慮要素として、「事務の内容」という概念が狭くならないような形で規定をする必要があるのではないかと思いますし、少なくとも「事務の内容」に関する解釈を明確にしてもらう手当も重要ではないかと思っています。   それから、「保護者の資力」についてはなくすべきではないかとかねてより申し上げておりますので、他の委員の皆さんの意見と一致するところです。   次に、監督のところでは、不正防止の項目で、法律専門職の取組ということを書いていただいております。弁護士会も、先ほど司法書士会やリーガルからのお話がありましたが、不正防止につきましては重要な課題と考えていまして、事前の防止策として幾つかの指標を設けて、推薦名簿の統一、養成研修、その他のフォローアップ体制など、不正が起きないようにするための事前防止の取組を、平成24年以降継続的に各弁護士会で取り組んでいるとともに、各会員の預り金等に関する弁護士会の関与を強めるという規定を強化してきている状況にもあります。   加えまして、それでもなお発生した万が一の不正については、弁護士成年後見人信用保証制度という補償制度を作りまして、故意による不正に対しても被害弁償ができる一種の保険制度を設けて後見実務を担う会員に加入させているところです。専門職団体としての取組によって、できるだけ不正防止をなくしていく取組を今後も強めていきたいと思っているところになります。   また、後見制度支援信託・支援預貯金につきましては、親族後見人の不正防止のためということで発足しておりまして、現時点においてもその位置付けというのが明確に変更になったわけではないと思っております。第2期基本計画でも、専門職後見人全てにこの制度を用いるという形で位置付けがされているわけではないと思います。今後はさらに活用の方策について検討はされるとは思いますけれども、専門職も含めて後見制度支援信託・支援預貯金を活用するという方向とするべきなのかについては十分に慎重な議論をする必要があると思いますので、資料23の記載についても配慮が必要と思っております。   それから、資料23の13ページのエに書いてありますような、後見人が親族との面会を妨害するなどという事態は基本的にはないのでありまして、7月のヒアリング等で事例として挙げられたものにつきましても、その多くは、高齢者虐待防止法に基づいて、市町村の判断と責任で面会制限をしたり居所を秘匿するという対応をされたものであり、その後に成年後見人が選任されて、そうした市町村の虐待対応の面会制限や居所の秘匿という対応の継続として、必要性を共有した上で共に対応しているものがほとんどであります。高齢者虐待防止法に基づく対応ではないものの中で、本人さんの権利や利益を守るために、ふさわしくない親族の方の面会を制限すると場合もありますけれども、その場合でも、施設関係者やその他の支援者とのチーム支援等において、面会制限をする必要があるかどうかを確認した上で慎重にしているものであり、「妨害」というような文言を使って、そういうことを意図的に行う後見人がいるかのような表現というのは、実態を全く反映はしていないと思いますので、慎重な取扱いをお願いしたいと思っているところです。 ○山野目部会長 御意見を頂きました。   引き続き伺います。いかがでしょうか。   そうしましたならば、久保委員、花俣委員にこの順番でお声掛けをしようと考えます。久保委員、いかがでしょうか。部会資料23の今議論した方の部分について感じておられることのお尋ねを差し上げます。 ○久保委員 ありがとうございます。いつもながら難しいなと思いながらお話を伺っておりましたけれども、おっしゃることはよく分かるのです。専門職の方は、青木委員がおっしゃいましたように、事務もいろいろあって、量もあれば質もあるし手間もあるということをきちんと見てほしいとおっしゃることは、もうそのとおりだと思いますし、今まででも、言えば、後見人をしていただいている方から見ると、2万円で何もかもできるわけないでしょうと言われたという話もよく聞きますので、それはそうなのだろうと思います。そこはきちんと評価をし、見ていただこうというのが私たちが望んでいることでありますけれども、ただ、それにつれて報酬がどうなるのかというところがまた、私たちの心配事でありまして、それを上にのっけていこうという形になると、私たちが払えるのかという、本人たちが払えるのかというのもありますし、そのときに国や仕組みとして支援をしていただけるような仕組みがあれば、後見人になっていただける方にも、事務をやっていただく上での報酬はきちんと積み上げていくということが大事だと思いますけれども、そういう仕組みとして本人が払えない部分を支援していただくというか、そういう部分がないと少し難しいなとも思っています。   あとは、前から申し上げているように、親も家族もいろいろな者がおりますので、親子の関係、本人と家族との関係をどう見るかというところは、確かに金銭搾取を親はしているけれども、でも我が子のことをとてもかわいがっているというような場合もありますので、その辺のところは少し辛いところでして、かわいいと思っているのだけれども、家庭の収入の一つとして使ってしまっているという家庭もありますから、その辺のところをどう見ていけばいいのかというのを、どこで判断ができるのだろうかと。その親子をどのように、分けてしまうというのも心情的にも苦しいなという思いもしますし、言ってもなかなか、自分の普通の収入のように感じてしまっているという部分もありますから、その辺のところをどう、また仕組みとして作っていくかというのも必要ではないかと。仕組みで作っていかないと、ぐずぐずになっていく親も結構たくさんおりますので、その辺のところもまた併せて、この民法の部門ではないかも分かりませんけれども、皆さんのお知恵を頂いて作っていく必要があるなとは、皆さんの御議論を聞いていて、そのように思っております。 ○山野目部会長 ありがとうございます。 ○花俣委員 私も同様に、難しいことは十分に理解できていないのですけれども、今日の第1の取引の相手方の保護、これはもちろん大事だということは認識しているのですが、障害があっても本人の日々の安心できる暮らしというのがまず大事なのではないか、そのための法定後見制度であると理解しています。我々が身近に感じられるお立場での発言というと、福祉的な視点に立った星野委員の先ほどの御意見にも同感するところでもあります。   先ほど佐野委員の御発言の中にあった新しい観点についての御提案、座長がおっしゃられた小口口座の案といいますか、安心して取引ができる方法として一定の上限額を決めてうんぬんといったような御提案を頂きました。こうした柔軟な対応が御提案いただけたことを大変有り難く思いました。あわせて、前半の議論の中で佐野委員からの御意見にもありました、権限の重複による銀行取引におけるトラブルについて判断に迷う場面が生じる、あるいはその相談先があるとよいといったような御意見ではなかったかと思うのですけれども、いずれも取引の相手方としてのお立場を超えて、取引当事者目線で様々な工夫や対応、あるいは対策等、そういったものを、先ほど中核機関のメンバーの中に金融機関さんがお入りになっているというお話も星野委員からありました、そのような御検討を頂ければ更に有り難いと感じた次第です。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   部会資料23について、委員、幹事の皆さんに活発、熱心な御議論を頂いたところを踏まえ、ここで取り上げた諸事項について、次の機会に更なる意見交換をお願いするに向けて、部会資料を新しく用意してまいります。そこに向けてのお話を差し上げることにいたします。   部会資料23の第1、成年後見制度における保護者の代理権消滅などの事態に伴う相手方の保護に関しては、本日多岐にわたる御意見を頂きました。本日段階で特定の方向をお示しして方針を見定めることを見送ります。次の機会においてあと一度、委員、幹事の皆様の実質的な御議論をお願いいたします。そこに向けて進めていくに当たって、本日本当に多岐にわたるお話がありました全部を繰り返すことはかないませんし、その必要もないと考えますけれども、3点ほど申し上げることにいたします。   1点目は、何よりも佐野委員を始め全国銀行協会や関係の皆様が、いわゆる小口口座のルールを明確にする規定のアイデアをお考えくださり、これに御礼を申し上げます。預貯金の取引が現代の生活に不可欠の状況である中、曖昧さを残したまま超高齢化社会を迎え、また花俣委員のお言葉を借りますと障害者の安心できる暮らしということを実現していくために、ここについて何らかの工夫をしなければ現場に相当の実務の混乱が起こりかねません。言うまでもなく、私の方からは簡単に小口という言葉を述べていますけれども、しかし小口とは幾らかということは社会経済情勢とその変化を勘案して見定めるべきものでありますから、固まった特定の額を民法に書き込むことははばかられます。909条の2の規定と同じように、政省令における臨機の処置をとるアイデアなどは併せて想起され、検討されていってよいことであるかもしれません。顧みますと、平成29年法律第44号による民法の改正この方、466条の5、477条、さらに666条3項など、民法は法制として預貯金の取引が現代生活において適切に機能するよう関心を向けるものとなっております。この部会の課題との関係におきましても、更なる法制の発展に挑むべく、引き続き委員、幹事始め関係の皆さんの御尽力をお願い申し上げます。   2点目といたしまして、山下幹事から、行為規範としての性格を持つものになるであろうが、通知義務というものが考えられないかというお話を頂きました。加毛幹事から、その効果をどう考えるかということも併せて注意をして議論を進めていかなければいけないという御注意も頂きました。民法の規定のほとんどは、何らかの効果が意識されたものになっていなければなりません。私たちが法学部の授業で教えるときに、何とかをしなければならないというのを教えるのではなくて、学生には、何とかをしなければならないというのを勉強したら必ず、しなかったときはどういう効果になるかという点を考える、これが法学部の学生の勉強態度ですと日頃案内しているところでありまして、それが基本であるだろうとは感じます。   半面、民法の規定を眺めてみると、特に通知義務ですけれども、通知をしなければいけないと規定していますが、通知しなかったらどうなるかというところが、多分こうなるであろうというところは見通せますけれども、規定の上にはっきり書かれていないし、解釈上も幾つかいろいろな理解があると感じられるところがないではありません。受寄者の通知義務の規定は、通知しなければいけないと書いてありますが、しなかったらどうなるかがよく分からないし、それから弁済供託をしたときの供託者が被供託者に通知しなければいけないと書いてありますけれども、あれも通知しなければいけないとお説教が書いてあるにとどまり、通知しなかったら弁済供託は無効になるかというと、多分そうではないと思われます。そのようないろいろな従前の例を含めて検討した上で、行為規範なるものを、山下幹事自身も行為規範としての性格が濃いでしょう、あるいはそこにとどまるかもしれませんとお話しいただいているところですから、その方面からもう少し考えてみるということは値打ちのあることであろうと感じられます。   それから、3点目ですけれども、後見登記そのものやその効力についての様々な御注意を頂きました。現在までの法制の状況を顧みますと、後見登記の制度はありますけれども、登記されていることの効果あるいは登記されなかったときの効果というものを直接定めている実体規定は、御存じのように存在していません。これまでの法制運用の理解としては、後見登記の制度はそれとして、しかし取引の相手方がどのようにして保護されるかは表見代理と表見的弁済受領権者の実体法の一般的規範の解釈、理解として扱われてきたと思われます。今日いろいろな指摘を頂きましたから検討してみますけれども、恐らく見立てとしては、これからもそのような今までしてきた枠組みを基本としながら考えていくと思われます。商法9条、10条に相当するような規定を設けることは、なかなか難儀でありましょう。確かに後見登記が今までと異なって頻繁にいろいろな登記事項が出入れ、変化が生ずるかもしれないという法律状況になりますから、法律家の間の意識として、あるいは関係の実務者の間の意識として、登記をしておくことの意味、しなかったことの意味が議論としてクローズアップされやすい構造になってくるのは間違いないとみられますけれども、そうであるからといって商法9条、10条並みの規定を設けましょうという進め方は少し乱暴な話であって、既に御指摘があったように、商業登記の登記の仕方と公示の在り方、それから後見登記の登記の手続やその一般への情報提供の在り方は全く異質でありますから、そこは軽々しく進めない方がよいという感触を抱くところであります。   以上3点を申し上げますけれども、いずれもその方針を決め切ることができる話ではありませんから、次回、更に委員、幹事の御議論をお願いすることにいたします。   部会資料23の第2の保護者に関する検討事項のうち1、保護者の選任につきましては、本人の意見というものを考慮要素にするし、イメージされる法文の排列としても、それを第一の要素として掲げようといったようなことを含意するゴシックの文書を示しているところでありまして、これについてどなたも何も述べなかったですよね。これはお述べにならなかったということは、この方向で次回の取りまとめに進んでいくということのお許しを頂いたものと受け止めます。   次は、保護者の報酬でありますけれども、3点を申しますと、基本はしかし、今、部会資料で示している事務の内容という文言を中心にして要綱の案文、ゴシックの文章を今後練って仕上げていくという方向について大きな御異論がありませんから、この方向で進めることにいたします。   その上で3点申し上げますと、まず事務の内容という文言を掲げました。これについて竹内委員、山城幹事から、この意味として豊かな諸要素を理解として導くことができ、そうしたものと提示されているという趣旨の賛成の御意見を頂いたところでありまして、これにもちろん皆さんも、御発言なさらなかった皆さんも含めて、異論がないと思われます。事務の内容を中心的な要素として表現していく方向で進めようと考えます。それで、事務の内容を要素として掲げるというところで止めようと考えます。青木委員がおっしゃる、事務の内容といってもいろいろに解釈されてしまうでしょうという御心配は同感です。同感であると同時に、法律の法文というものは余りおしゃべりであると、そのことの弊害もあって、専門家であるかどうかとか本人との人的関係だとかという要素も、一つ一つ伺うと気持ちはよく分かりますが、書き込むとまた何かそのことが波及効果を招きそうなおそれもあって、難しいところです。竹内委員が強調なさる仕方で、事務の内容できちんと理解しましょうとおっしゃってくださったところが、正に法文の必要十分な語り口としてはそうでしょうねというふうな見通しを抱きます。   青木委員から御注意いただいたとおり、事務の内容という文言は表面的に理解してもらっては困ります、量とか質とか総合的に考えるし、事務の内容の要素の中で、弁護士の方がなさった事務であるとか、そうではなくて市民後見人がした事務であるとか、親族の方がした事務であるとかということも当然のことながら事務の内容として理解される、そういう内容の豊かさを伴った事務の内容の概念であるということを理解した上で、そのことは、今ここで青木委員と私との間でこのような意見の交換があったこと自体が議事録にとどめられますし、次回の部会資料においても、その説明で読み取って理解ができるように明瞭に表現していく工夫を講じますから、そこに踏みとどまるという方向を見立てとして抱いているということに御理解を頂くことができると有り難いです。   2点目は、これは少し困っていますけれども、資力の問題なのです。少し複雑な問題が一つ二つあって、一つは成年後見それ自体について、多分、明治以来の原始規定からずっとやってきたときの感覚では、後見人というものは親族がなるでしょうと、家の中のことですよね、このような漠然とした意識があって、親戚のおじさんが後見人になるのだったら保護を受ける人の資力と保護する人の資力とを総合勘案して報酬を決めたらという発想は、これはあの時代の風景を考えると理解可能です。だけれども今は全く、皆さん御存じのように、時代状況が変わったというところは考慮しなければいけません。それはどちらかというと、資力という言葉をもうここからすっぱり削ってしまいましょうという方向に働くだろうと思います。   半面、少しお気付きいただきたいですが、今のこの報酬の規定は成年後見人の規定ではありません、後見人の規定です。そうすると未成年後見人の場合もというか、場合はというか、難しいですけれども、未成年後見人の場合に、お父さん、お母さんが亡くなってしまったときに、おじさんを未成年後見人に選任しましたというような場面を考えると、少し言い方が誤解なく言えるかどうか自信がありませんけれども、後見であるという側面と扶養の隣接場面であるという色彩とが、それほど現場感覚で言うと分離し切れないようなところが、少なくとも今まであったと思われます。もっとも、未成年後見に関しても今後、それであっていいですかということは一つの問題になってくるかもしれません。   しかし、いずれにしても諮問126号の下で仕事をしている私たちは、未成年後見の中味について手を触れて実質を変えるということは成し難いものであります。そうすると、精々考えられるゆきかたは、現在の報酬の規定が後見人3文字になっているところを、成年後見の方の保護者の規定と未成年後見の規定とを分けた上で、未成年後見の方はさわらないことにして、成年後見の方については今日皆さんから頂いた御意見のようなものを組み入れて見直していくということが考えられないことはありません。しかし、この作業は法制審議会の要綱で可能な限り表現していってよいという事項であるとともに、法制事項である側面も強くて、関係の規定を整理する過程でどういう扱いをするかという点は審議会の仕事ではなく、政府の仕事でありますから、そこのところを必ずこうしますというのは、要綱にどこまで書けるか分からないところがあります。   いろいろ申していますが、少し悩ましい部分があって、皆さんが御意見としておっしゃっていることの中味は多分、全てごもっともです。事務当局が今日伺っていて意見の実質は酌み取っていると感じますから、どのような工夫を当面の要綱で、そして最終的な法制の仕方でしていくことができるかは、なおあずからせて検討をお任せいただきたいと望みます。   それから、報酬の関係の3点目ですが、実は久保委員からお悩みを頂いたことで、前にも同趣旨の御発言を頂いていますけれども、結局、今般の成年後見制度改革を行って報酬はどのくらい安くなりますかというふうな目線で、世の中の現場を担っている本人や家族の皆さんは思っている側面があります。花俣委員や久保委員はそれらの皆さんと、また持ち帰っていって対話をしなければいけないという大変難しい仕事をお願いしています。そこで、報酬の議論を始めたこの審議会における仕事の初発においては、場合によってはたくさんの報酬の考慮要素を書き込みましょうとか、場合によっては政省令に委任して、委任された政省令を読むと金額がかなり数字で示されているのに近いようなものを見ることができるようにしましょうというようなアイデアも語られていました。ああいったものについて、やはり限界があるから諦めましたという説明になるのではなく、むしろ今回の成年後見制度改革の在り方にふさわしいところを捉えて述べれば、むしろ何か定額化して金額を書き込むようなことは、できなかったのではなく、しない方が望ましいことであると考えを整理していかなければいけないものではないでしょうか。   ずっと長く続く後見、しかもその権限が割と茫漠して保護者に与えられるような後見を考えるのではありません、きちんと必要性に裏付けられたターゲットの明確な事務をお願いするのであって、その事務は事案ごとに個性がありますから、むしろ定額のような発想で金額を書き込むことは非常に好ましくない、だから規定の上では事務の内容ということを書いて、きちんとこれを事案ごとに考えてくださいという規律文言にしてありますというふうな説明をしていくべきところであって、久保委員や花俣委員におかれましても御苦労がおありでいらっしゃると思いますけれども、どのくらい安くなるでしょうかというお尋ねをしてくる人がいたら、どのぐらい安くなるかというよりも、そもそも報酬を払わなければならない場面と払わなくてよくなる場面とを整理している改正がきっと実現していくでしょうと御説明いただいて、一度や二度の説明では、なかなか現場の苦しみ、思いを捉えると、納得してもらえないかもしれませんけれども、引き続き私たちとの間に立っていただいて、そういう現場の方々との対話も助けていただけると有り難いと望みます。   それから、その次の保護者の監督のところについて、現行法の規律を維持するということを基本線にして部会資料を今後も調えていくということについて、多くの皆さんからの御意見を頂き、特段の御異論はそのこと自体についてはなかったと見受けますから、この方向で次回の部会資料を用意することにいたします。   その上で2点ほど補足することにいたしますと、一つは佐久間委員からお出しいただいた、財産目録を保護者が作成しなければならないという規律に関して、あれそのものを維持するということではないけれども、家庭裁判所は財産目録の調整をさせることができるという規律を補っておくことが望ましいのではないかという提案はごもっともであると感じますから、その点は現行法の監督の基本的規律を維持することを前提として、次回に向けて更なる検討を補っていくということにいたします。考えてみますと、確かに保護者の権限が限定される方向での見直しになっていくでしょうといっても、保護Bのようなものを考えない場合ですら、事案によってはたくさんの代理権を与えますというふうな判断がふさわしい、求められますというような事案はこれからも出てくるわけであって、そういうときに、財産目録はもういいですねと全件なってしまうという扱いはおかしいわけで、それは家庭裁判所の臨機な判断の余地というものが示唆されている規定があった方がよいというお話はごもっともであると感じます。   それからもう一つは、部会資料のゴシックの本体ではないですけれども、説明の中に、本人に成年後見人が会わせる義務があるかないかとか、会わせないことをどう考えるかということについて踏み込んで、その記述を置いています。それそのものはゴシックに掲げていく規律の案文に影響することではありませんから、書かなくてもよかったではないかとおっしゃられればそうかもしれないですけれども、しかしやはりヒアリングで招いた人が強くおっしゃったことについては、一応我々としてはこのように考えていますということの態度、方向は示しておかなければいけませんから、書きました。   問題の実質は改めて考えてみると、青木委員が的確に整理なさったように、成年後見制度そのものの問題ではなくて、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律の建て付けないしその運用のところにいろいろ課題があって、その課題の現場における問題処理の波及の影響をこちらの成年後見制度が受けていると思われます。向こうの問題がこちらに持ち込まれているだけですという、青木委員もややそういうおっしゃり方でしたけれども、確かに、だけかもしれませんが、実は先ほど私が名前を掲げた法律の中に、9条2項と28条が、いかにも高齢者虐待の制度と成年後見制度の間に、単なる運用ではなく、国の法律上も何か関係付けをしているように読み取れる規定があります。それらは今までの成年後見制度を前提としても、既に指摘があったように、多々問題のある規定であると思われ、これからの新しい成年後見制度の向かっていく方向を考えると、ますますここを無為に関係付けることが不自然であるという様相は強くなってくると思われますから、そのような誤解がないような法制度環境を全体として調えていくということについても注意を向けていかなければなりません。本日頂いた委員、幹事からの御意見はそれとしてごもっともなものであって、今私が申し上げたような観点を添えた上で今後、適切な整理がゴシック本体はもちろん、部会資料の説明書きのところでもされていくように努めることにいたします。   部会資料23について、こちらについても委員会の間で熱心な御議論を頂きましてありがとうございました。   本日、部会資料22と23をお出ししておりまして、これについての内容にわたる審議を了しました。   次回の部会について事務当局から案内を差し上げます。 ○波多野幹事 本日もどうもありがとうございました。次回の予定について御説明いたします。   次回の日程は、令和7年10月7日火曜日、午後1時15分から午後5時30分まで、場所は法務省3階の東京地方検察庁総務部教養課会議室302号でございます。   次回は、中間試案第1の法定後見の開始の要件及び効果等、中間試案第2の法定後見の終了を取り上げた部会資料を作成してお送りする予定でございます。それらの事項について御審議をお願いしたいと存じます。   なお、パブリック・コメントにおいて寄せられた意見につきましては、今回と同様に次回の部会資料で御審議をお願いする部分については暫定的に作成して提供することを考えております。 ○山野目部会長 本日、既に要綱案を仕上げるに向けてのかなり重要な段階の審議に入っておりまして、次回はこれの続きであります。法定後見の制度を用いるに際しての開始の要件と終了の要件という重要なところの御議論をお願いすることになりますから、本日の御議論も白熱しましたけれども、次回も引き続き委員、幹事の皆さんの活発な御論議を期待しております。何とぞよろしくお願いします。   この部会の運営等につきまして、何か皆様からお尋ねや御意見があれば承ります。いかがでしょうか。   よろしゅうございますか。本日もお疲れさまでございました。   法制審議会民法(成年後見等関係)部会の第25回会議を散会といたします。どうもありがとうございました。 -了-