法制審議会 刑事法(再審関係)部会 第11回会議 議事録 第1 日 時  令和7年11月26日(水)   自 午後 1時29分                         至 午後 5時39分 第2 場 所  中央合同庁舎第6号館A棟5階会議室 第3 議 題  1 審議          ・「再審請求に係る決定に対する不服申立期間」          ・「再審請求審における裁判官の除斥・忌避」          ・「再審請求の審理に関するその他の手続規定」          ・「再審請求又は再審開始決定があった場合の刑の執行停止」          ・「再審請求手続に関する費用補償制度」          ・「再審請求審において取り調べられた証拠の再審公判における取扱い」         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○今井幹事 ただいまから法制審議会刑事法(再審関係)部会の第11回会議を開催いたします。 ○大澤部会長 毎回のことではございますが、本日は、御多忙のところ御出席くださり、誠にありがとうございます。   本日、重松委員はオンライン形式により出席されています。また、佐藤委員は所用のため遅れての出席となります。小島幹事、中山幹事、寺田関係官は欠席されています。   それでは、事務当局から本日お配りした資料について説明をしてもらいます。 ○今井幹事 本日は、配布資料12から17までをお配りしております。これらは、一巡目の議論において、それぞれの論点に関し、委員・幹事の皆様から示された検討課題等について、部会長の御指示の下、事務当局において整理したものとなります。配布資料12は「論点整理(案)」「3 再審請求審における裁判官の除斥・忌避」に、配布資料13は「論点整理(案)」「8 再審請求の審理に関するその他の手続規定」に、配布資料14は「論点整理(案)」「9 再審請求又は再審開始決定があった場合の刑の執行停止」に、配布資料15は「論点整理(案)」「13 再審請求手続に関する費用補償制度」に、配布資料16は「論点整理(案)」「12 再審請求審において取り調べられた証拠の再審公判における取扱い」に、配布資料17は「論点整理(案)」「11 再審請求審又は再審公判における被害者参加」にそれぞれ対応しております。   また、第4回会議におきまして、先の通常国会において提出された「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」を机上配布しているところ、先日、「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」から法務大臣に対して、同法律案の趣旨等が記載された「再審法改正にかかる要望」と題する書面が提出されましたので、御参考としてその写しを机上配布としております。   本日お配りした資料の御説明は以上となります。 ○大澤部会長 本日お配りした資料について御意見、御質問等がある場合には、前回までと同様、関連する論点についての議論の際に御発言いただければと存じます。   それでは早速、諮問事項の審議に入りたいと存じます。本日は、前回の会議でお配りした配布資料11に沿いまして、「再審請求に係る決定に対する不服申立期間を延長するか」から審議を行いたいと思います。この論点につきましては、検討課題全体をまとめて審議を行いたいと思います。御意見等がある方は挙手をお願いします。 ○成瀬幹事 再審請求に係る決定に対する不服申立期間を延長すること自体については、一巡目の議論において特段の異論は見られなかったと認識しておりますので、そのことを前提に、検討課題「(1)」について簡潔に意見を申し上げます。   第7回会議において申し上げたように、再審請求審における判断は、通常審における事実認定に係る判断と類似した性質を有し、審理が複雑なものとなったり、決定書が長大となったりすることもあり得ることから、延長後の不服申立期間は、通常審における控訴・上告の提起期間を参考に、14日とすることが考えられます。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○田岡幹事 成瀬幹事の意見に賛成いたします。通常審の控訴・上告期間と同様に、14日とすることによって、再審請求人や弁護人において、その期間を正確に把握することができ、不服申立ての行使が容易になると考えられます。検討課題の中に、仮に本格的な審理を要しない事案について迅速な処理を可能とする規律を設ける場合にも、延長の対象とするかという課題がございましたが、同一の種類の不服申立てについて異なる期間とすると、その期間を誤解して不服申立ての機会を失ってしまうということがあるといけませんので、同一の種類の不服申立て、つまり即時抗告であれば即時抗告の期間は同じ期間、14日とするのが合理的であると考えます。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○池田委員 検討課題の「(2)」について意見を申し上げます。再審請求に係る決定に対する不服申立期間を延長する対象について考えますと、法令上の方式違反である場合や請求権消滅後の請求である場合、あるいは主張自体失当である場合など、請求が容れられないことが一見明白な再審の請求や、逆に理由があることが一見明白な再審の請求については、審理が複雑なものとなったり、決定書が長大となったりするという、延長を認める趣旨が妥当し難いと考えております。したがいまして、仮に、先ほど成瀬幹事が御提案になられたような、本格的な審理を要しない事案について迅速な処理を可能とする規律を設ける場合には、そうした規律により再審請求に係る基本的な資料の確認・検討を行うのみで終局決定に至った事案については、不服申立期間を延長する対象から除外するということが考えられます。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○後藤委員 抗告の規定であります刑事訴訟法第419条以下を眺めましても、控訴や上告とは異なり、申立書とは別に、理由書を提出すべき期間に関する定めは置かれておりません。そのため、抗告においては、申立書において申立理由を記載することが求められていると解されるところであり、第7回部会で川出委員が御指摘されたとおり、これによって原裁判所は再度の考案を速やかに行うことができます。仮に再審請求に係る決定に対する抗告について理由書の提出期間の規定を設けるとすると、同じ抗告であるにもかかわらず、他の抗告の規定とは随分かけ離れた規定となります。また、再度の考案までの期間が長期化し、抗告審での審理の開始が遅れることになりますが、果たしてそれでよいと考えるかは疑問の余地があろうかと思います。 ○大澤部会長 ほかに御発言はございますでしょうか。 ○鴨志田委員 まず、延長後の期間につきましては、これはやはり内容も様々ある再審事件とはいえ、一つの手続の中での期間ということになりますので、一律に14日とすべきではないかと考えるところです。   それから、理由書の提出期間について、日弁連では、別途、理由書の提出期間を一か月というような形で設けるような規定を御提案しているところでございますけれども、これは、現状のように決定書がいきなり前触れもなく送達をされて、そこから抗告に向けた準備を始めるということを余儀なくされるような場合を考えると、記録も非常に膨大であったりすることに鑑みて、仮に抗告申立期間を14日間という形で延長したとしても、そこに詳細な申立理由を記載するということが事実上困難である場合もあるので、理由書の提出期間を別途設けるということの必要性が認められるという観点から意見を述べました。   一方、別の論点になりますけれども、論点「第8」の「(8)」で審理の終結、それから決定日の告知、これに関する規定が整備された場合には、そのような弊害といいますか、事前に何も予想しない状態でいきなり決定が送達され、そこから抗告の準備がスタートというような場面にはならないということになりますので、ここがきちんと整備されれば、抗告申立期間を14日として、その期間内に理由も付した申立書を提出するという形で十分対応が可能ではないかと考えております。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○村山委員 今ほど多くの方が延長することについては賛意を表しておられると思います。私も同じ意見でございます。参考になるのは、やはり少年事件の抗告なのかなと思っておりまして、期間も2週間、14日ということで、やはり延びた分、理由も同時に提出するというのが本来の在り方だろうと私は思っています。これは、鴨志田委員が言われたように、決定日の告知があればより準備をしやすいということとセットで考えた方がいいとは思っております。そういう意味では、2週間で理由も出すということで、あとは延長の対象について更に中で分けるという必要はないのではないかと、一律に2週間にしても、3日にするか5日にするか2週間にするかということでそれほど大きな差はないのだろうと思いますので、手続を煩瑣にしないためにも、一律に2週間、14日ということでいいのではないかというのが私の意見です。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。   この段階としてはよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 ありがとうございます。それでは、次に、本日お配りした配布資料12に沿いまして「再審請求審における裁判官の除斥・忌避に関する規律を設けるか」について審議を行いたいと思います。この論点につきましては、検討課題全体をまとめて審議を行いたいと思います。御意見等がある方は挙手をお願いします。 ○田岡幹事 第5回会議でも発言しましたが、「(1)」の通常審に関与した裁判官を再審請求審・再審公判から除斥するべきであると考えます。他方で、「(2)」の再審請求審に関与した裁判官を後の再審請求審・再審公判から除斥する必要はないと考えます。   第5回会議で成瀬幹事が発言されたとおり、刑訴法20条の趣旨は、裁判官が現実に公正であるかどうかを問題にする趣旨ではなくて、裁判官の公正さに疑いを持たれる相当な理由がある場合に当該裁判官を裁判に関与させないことが裁判の信頼確保につながるということにあります。再審請求審は、形式的には確定審の審判対象とは異なる審判対象について審理をすることになりますので、前審関与の場合に当たらないと言われれば、それはそのとおりかと思います。ただ、少なくとも6号、明白性の判断は、実質的には有罪・無罪の判断の実体判断と異なりませんので、客観的に見て過去の判断に固執するのではないかと疑われる、そのことに相当な理由があるのではないかと思います。   また、実務上、再審請求審を担当する裁判官が再審公判をそのまま担当することとされており、再審請求審と再審公判は連続した手続であると認識をしております。そうしますと、再審公判の審判対象は、確定審の審判対象と同一でありまして、これは前審関与というよりは、むしろ刑訴法20条7号の破棄差戻し又は移送された場合における原判決関与の場合と同視できるのではないかと思われます。   そうすると、再審請求審と再審公判を区別する理由はなく、いずれの場合についても確定審に関与した裁判官は除斥の対象とするというのが相当であると考えます。 ○大澤部会長 ほかに御発言はございますでしょうか。 ○成瀬幹事 私は、検討課題「(1)」と「(2)」に共通する、最高裁判例との整合性について意見を申し上げます。   確定判決の審判手続に関与した裁判官が再審請求審から除斥されるか否かについて、最高裁判例は、「刑訴20条7号にいわゆる前審の裁判とは、上訴により不服を申し立てられた当該事件のすべての裁判を指称するものであって、再審は上訴の一種に属しない」として、除斥されないと判示しています。   また、同一の事件についての過去の再審請求審に関与した裁判官が後の再審請求審から除斥されるか否かについても、最高裁判例は、「同一確定判決に対し再審の請求が回を重ねてなされることがあっても、これらの各審判手続はそれぞれ別個のものであって、互いに前審と上訴審の関係にあるものではない」として、除斥されないと判示しています。   もっとも、これらの最高裁判例は、その判示内容からすれば、飽くまでも現行の刑事訴訟法第20条第7号の規定を前提として、通常審や過去の再審請求審が同号にいう「前審」に該当しないため、同条に定める除斥事由に当たらないとしたものにとどまり、立法政策として、除斥の範囲を広げることまでを否定しているものではないと考えられます。   よって、これらの最高裁判例との整合性は、新たな除斥事由を設けない理由には直ちにはならないように思われます。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○鴨志田委員 私も「(1)」と「(2)」のうちの「(1)」については、裁判官が除斥されるのは、有罪の確定判決に関与した裁判官がその後の再審の手続―これは請求審、公判、併せてということになりますけれども―に関与できないというような形で規律を設けるべきであるという意見でございます。やはり、ここでは裁判の公正・公平ということについて、それが国民からそのように見える、「らしさ」という問題が非常に重要であろうと考えます。一般の国民から見て偏頗な裁判をするおそれが払拭できない可能性がある以上、除斥規定を設けるべきであると考えます。   私どもは、これまでの間、例えば、国会議員に対する勉強会であったり、また、先ほど要望書の提出があった超党派の議員連盟でもヒアリング等を行ってまいりましたが、有罪の確定判決に関与した裁判官が再審でも同じ事件の手続に関わるということに対する抵抗感というのは非常に強くて、率直におかしいのではないかという意見が最も多く出たと認識をしております。昨年の6月に超党派の議連が最初に法務大臣に提出した要望書の中でも、証拠開示と検察官抗告の禁止と並んで、この除斥・忌避の規定を設けるべきであるということが3項目に入っておりました。ただ、その後、議員連盟では様々な調査をし、また裁判所の関係の方からもお話を聞いた結果として、累次の再審で前の再審に関わった裁判官が後の再審に関わるというところまでを除斥の対象とすると、なかなか人事的な手当てが付かないという現実的な問題があるということから、ここについては規定を置くことをせず、回避や忌避の申立てといったところで柔軟に対応するということで、除斥の対象としては、先ほど申し上げた有罪の確定判決に関わった裁判官が後の再審手続にというところだけを、議員立法で現在提出されている法案の中でもここだけを規定するという形になっているというところです。ですので、「(2)」については取り立ててここで私の方から申し上げることはありません。   先ほど成瀬幹事の方から判例との関係が示されましたが、私も同じ考えで、一般論として、制定された法律の解釈である判例があるということをもって、それと整合しない法改正をなし得ないということにはやはりならないのであろうと、立法府の方が必要性を認めて立法するのであれば、当然それは改正はなし得ると考えるべきだと思います。   また、従前、民事再審との平仄というようなことも指摘されたかと思います。しかし、民事と刑事の双方に存在する制度で要件や概念が異なるというものはほかにも存在するように思います。例えば、特別抗告の要件を考えてみれば分かることですけれども、刑事では憲法違反と判例違反と両方ありますけれども、民事においては憲法違反の場合のみであり、判例違反については抗告受理申立ての方に回るというような形で規定ぶりが違っているものはございますので、民事再審との平仄ということもここではさほど考える必要はないのではないかと思っております。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○後藤委員 私は、検討課題で申しますと「(1)」と「(2)」の「ウ」の点について、第5回部会で述べましたことに付加して申し上げたいと思います。   運用上、一番問題が生じ得る場面というのは小規模庁になろうかと思います。まず、地裁の小規模庁におきましては、刑事担当の裁判官は3人という庁も相当数あります。このような庁が確定審となった場合に、再審請求のタイミングや異動のタイミングにもよりますが、その再審請求審を担当できる者は刑事部には誰もいないという事態が生じ得ることになります。また、小規模庁の中には、刑事部の裁判官が民事部を兼務しているというような場合もあります。民事部からの填補を検討したとしても3名を確保できないという事態もあり得ます。さらに、高裁の場合は必ず合議体で審理を行わなければならないことになりますので、その規模が小さいと問題はより深刻になってまいります。もちろん、裁判所法第19条、第28条の職務代行の規定で対応するということも不可能ではありません。しかし、職務代行の措置をとるためには、「裁判事務の取扱上さし迫つた必要がある」という厳しい要件が定められています。加えて、特定の再審請求事件の処理のために現に別の場所で忙しく事務処理に当たっている裁判官を充てること自体にかなり困難があるのが現状でございます。   そもそも、除斥の対象となるのがどの範囲なのかという点も、まだ十分に検討されていないように思います。確定裁判の構成メンバーのみなのか、各審級の判決又は決定に加わった者なのか、各審級の審理のどこかの時点で審理に加わった者などが考えられますが、そのどれを想定しているのかという点、この辺りが問題になっていくかと思います。さらに、確定審と再審請求審、累次の再審請求審相互間、再審請求審と再審公判と、それぞれについて除斥の対象とするとするならば、中規模庁につきましても担当すべき裁判官が構成できなくなることが想定されます。   このような実務運用上の問題点があることをお伝えしました上で、仮に何らかの除斥等の規定を設けるとした場合に、更に検討すべき論点を申し上げたいと思います。一つ目は、刑事訴訟法第17条の管轄移転の請求です。小規模庁などにおきまして担当すべき裁判官が確保できない場合、裁判官が異動するまで事件を止めておくわけにはいきません。同法第17条第1項第1号に管轄を移転させることを前提にした条文がございます。しかし、当該条文は、検察官か被告人が請求することが前提になっており、これらの者が請求をしない限りは、裁判所は事件を動かすことができなくなってしまいます。そこで、裁判所が職権で管轄外の別の裁判所に事件を移転できるようにする規定を設けることも考えられるところです。   二つ目は、一般的に、除斥となりますと、その事件に関する全ての訴訟行為に関わることが禁止されることになると思われます。他方で、あらゆる場合に手続から排除しなければならないかどうかという点につきまして、第5回会議における池田委員の御発言にもあったところですが、例えば、刑事訴訟規則第283条、刑事訴訟法第447条第2項などの手続違反で棄却すべきような場合、あるいは前の請求がそのような形で判断されたというような場合には、実体審理・判断を行っていないという理由で除斥の対象としないという考え方もあろうかと思われます。しかし、事件処理についての実情を申し上げますと、不適法として棄却決定をすることが可能であったとしても、少なくとも理由がないことが明らかなため実体判断を先行させて棄却決定をするということもないわけではありません。どこまでの関与が除斥の対象になるかについて内容面から規律しようとするのは大変悩ましいところがあります。また、当初は手続違反の申立てであったものの後に補正されるということがございますが、その場合、除斥対象裁判官が補正されるまでに行った訴訟行為をやり直すことになるのか、どのような手続を行うことになるのかという問題も検討する必要があるように思われます。もし除斥という制度を導入されるのであれば、外形的・客観的に明白な基準に基づくことが好ましいのではないでしょうか。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○村山委員 今ほど後藤委員から非常に懇切丁寧なお話を伺いまして、私もそうかなと思っていまして、確かに裁判官の人数が少ないところでは非常に困るという事態が起き得ることは事実だと思います。そういう意味では、「(2)」の方は、これは除斥対象にする必要はないのだろうと思っています。というのは、同一の理由では請求できないとなっていますので、やはり再審請求が繰り返された場合でも理由としては違うということもあると思いますし、それを一律に除斥するということは必要ないと思いますが、ただ、その場合であっても場合によっては忌避の対象になる、若しくは裁判所の前審との関係で回避をするとかいうようなことがあってもよろしいのではないかとは思っている次第です。   「(1)」の方は、私は、除斥の対象にすべきだと思いますけれども、今ほど後藤委員が言われたように、対象を明確にしないと除斥になるのかならないのかというところが曖昧になるということでは非常に問題があると思います。また、その結果、担当裁判官がいなくなるというようなことがあってはいけませんので、それは裁判所の内部努力の問題だと言われてしまえばそうかもしれないですが、そうは言ってもやり繰りがなかなかできないという場合には、今、後藤委員が言われたような刑事訴訟法17条ですか、これを活用する余地はあるのかなとは思っております。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○川出委員 私も検討課題「(1)」と「(2)」に共通する「ウ」の実務上の運用可能性について意見を申し上げたいと思います。   第5回会議において池田委員から御指摘がありましたように、除斥制度の趣旨は、審理を行う裁判官が実際に公平・公正であることを確保するというよりも、司法に対する国民の信頼を確保するという政策的なものですので、除斥の範囲というのは論理的に定まるものではなく、その範囲を定めるに当たっては、司法に対する国民の信頼の確保という観点からおよそ許容できないものでない限りは、裁判所の体制として現実的に対応可能であるかといった観点を考慮することが否定されるものではないと思います。したがって、通常審・再審請求審に関与した裁判官を後の再審請求審や再審公判から除斥することとする規律を設けるかどうか、また、規律を設けることとした場合に除斥の範囲をどのようなものとするかについては、ただいま申し上げました観点も踏まえて更に検討することが必要であると思います。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。   この段階としてはこの程度ということでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 ありがとうございます。それでは、次に、本日お配りしました配布資料13に沿いまして「再審請求の審理に関するその他の手続規定」について審議を行いたいと思います。この論点については、まず「第8」の「1 本格的な審理を要しない事案について、迅速な処理を可能とする規律を設けるか」について審議を行った後、「2」、「3」、「6」、「9」、つまり「2 期日指定に関する規律を設けるか」、「3 請求理由についての陳述の機会を付与することとするか」、「6 事実の取調べ後の意見陳述の機会を付与することとするか」及び「9 審理を公開することとするか」については関連すると考えられますことから、まとめて審議を行うこととし、その後、「4 請求理由の追加・変更に関する規律を設けるか」について審議を行い、それ以降、「6」を除いて一つずつ番号順に審議を行うということにしていきたいと思います。   それでは、まず、「第8」の「1 本格的な審理を要しない事案について、迅速な処理を可能とする規律を設けるか」について審議を行います。この論点については、検討課題全体をまとめて審議を行いたいと思います。御意見等がある方は挙手をお願いします。 ○江口委員 第7回部会で、成瀬幹事から、不適法又は明らかに理由がない事件については直ちに却下できるようにすること、身代わり事件などの明らかに理由がある事件については直ちに開始できるようにすること、それ以外の事件では本格的な審理を行うようにするという振り分けを行う規定、今回の検討課題でいうと「A案」について御提案を頂いたかと思っております。   裁判所といたしましても、注力すべき事件とそうでない事件をスクリーニングする必要があることには異論を述べるものではございません。   しかし、「A案」では、まず趣意書やその添付資料のみならず確定記録等を確認・検討した上で、「ア」に当たるかどうか、すなわち「法令上の方式違反があると認める場合」、「請求に理由がないと認める場合」かどうかを判断することとされておりまして、現行制度における再審判断の実務と特に異なることはないように思われます。更に言いますと、「ウ」に当たる場合というのは、実際には、趣意書やその添付資料、確定記録によっては、請求に理由があるか否かが判断できないような場合、すなわち事実取調べを要するような場合ということになるように思われます。   そうしますと、「A案」というのは、事実取調べが必要ない場合にはそのまま再審の判断をし、事実取調べの必要がある場合には事実取調べをして判断をすると言っているということになると思われまして、これは現行の実務の運用と異なるところはなく、注力すべき事件とそうではない事件をスクリーニングするという観点からは、更に検討を要する部分があるのではないかと思っているところでございます。   また、実務的な観点から更に意見を申し上げますと、裁判官の研究会の意見でも出ておりましたが、例えば同一理由による請求として不適法にするか否かの線引きが難しい事案の場合には、その線引きを綿密に行うことに時間を掛けるぐらいなら実体判断をしてしまった方が早いということで、実体判断を先行させるという運用も行われているところでございます。また、棄却するにしても、方式違反で簡単に棄却するのではなく、請求人の納得のためにあえて実体判断を行うという場合もあります。このような運用を前提にしても、「A案」はスクリーニング規定として適切にワークするのかどうかということは検討を要する部分があるように思っております。   続いて、「B案」についてでございます。この案では、刑事訴訟法第435条第6号に規定する事由があるとしてされた再審請求につき、同号に該当しないことが明らかかどうかをまず判断してスクリーニング、つまりはその段階で速やかに再審請求を棄却し、同号に該当しないことが明らかではない場合には、手続を積み重ねるなどして、更に同号に該当するかを検討した上で判断するということとなるように思われます。仮にそうだとしますと、現在の運用におきましても、不適法なもの、理由がないという心証を抱いたものについては、その段階で速やかに棄却の判断をしており、「B案」はこの現状と何ら変わるところはないのではないかと思っております。また、現在の運用におきましても、再審請求が法令上の方式に違反する場合等には、請求にそれなりに理由があるかもしれないということがうかがわれるような事案につきましては、一定の提出期限を定めた上で補正を促すなどしていることは、第3回会議で中川参考人が述べたとおりかと思います。そういたしますと、「B案」をあえて設ける意味というのがやはり問題となってくるように思われます。   繰り返して恐縮ではございますが、裁判所といたしましても、注力すべき事件とそうでない事件をスクリーニングする必要があることには異論を述べるものではございません。   ただ、今後そのための制度を具体的に検討するに当たっては、まずはスクリーニングすべき事案のイメージを我々で共有した上で、それを前提として、スクリーニングの手続をいかに簡易迅速に進めることができるのか、スクリーニングの対象とされる事案となった場合に具体的にどの手続部分が省略できるのかを明確にして議論する必要があると思われます。   そのこととの関係で更に申し上げますと、スクリーニング規定に関しましては、第9回部会で議論した証拠の提出命令との関係を整理する必要があると思っております。すなわち証拠の提出命令をかけるか否かの判断については、スクリーニングを通過した後の事案に関してのみ検討すればいいという制度としなければ、証拠の提出命令だけを目的とした濫訴的な再審請求がなされるのではないかと懸念しているところでございます。また、先ほど除斥・忌避の議論の際に後藤委員からも関連する御発言があったかと思いますが、スクリーニング規定を設ける場合には、この点を除斥・忌避に関する規律の議論の中でも十分に検討すべきこととなるかと思っております。 ○田岡幹事 先ほど江口委員から、「A案」、「B案」いずれであっても現行の実務運用と異なるところはないのではないかという指摘がございましたが、私はこのスクリーニング規定は「第8」の「2」以降の期日等の手続規定を適用する対象事件を限定する要件であり、新たに期日等の手続規定を設けることを前提にした場合に期日等を開くまでもない事件を除外する趣旨の規定であると理解しております。   すなわち、再審請求事件の中には多種多様なものがあり、その中には本格的な審理を要する事件もあれば、それを要しない事件もありますので、全ての事件について一律に期日等の手続規定を適用するとしますと、かえって迅速な処理ができなくなる場合があるので、期日等の手続規定を適用する対象事件を、本格的な審理を要する事件に限定する機能を有する要件を新たに設けるという趣旨であると理解しております。   ただ、第1回会議の配布資料2の統計資料には、刑訴規則283条違反の事案が相当数あるとされておりますが、このうち弁護人が選任されている割合は明らかにされておりません。また、事務当局に確認しましても、再審請求事件における弁護人選任率の統計は存在しないと伺っております。そうすると、刑訴規則283条違反として、請求が不適法である、あるいは方式違反であるとされたものの中には、もしかしたら弁護人を選任することによって原判決の謄本及び新証拠の添付ができて、適法な再審請求理由を構成することができたにもかかわらず、弁護人の援助が得られなかったために原判決の謄本及び新証拠を添付することができず、又は適法な再審請求理由を構成することができなかった事案が相当数あるのではないかと推測されます。   そうしますと、このような場合にはむしろ国選弁護人制度を設けて、弁護人を選任することによって、原判決の謄本や新証拠の添付を可能にしたり、又は適法な再審請求理由を構成することができるように補正の機会を設けることが適切であると思われます。逆に言えば、国選弁護人制度がなく、弁護人が選任されていないにもかかわらず、単に原判決の謄本や新証拠が添付されていないといった形式的な方式違反をもって、迅速に処理するなどというのは本来無実であって、再審開始決定が得られる可能性がある人を迅速にその対象から除外することになりかねず、不適当であると考えます。   なお、第7回会議でも発言しましたが、ドイツでは、再審請求の方式として、書面による申立てに加えて、事務部局による調書化の方法が認められていると認識しております。日本では刑訴規則297条に、刑事施設の長が、被疑者又は被告人が裁判所に申述しようとするときは、努めて便宜を図らなければならない旨の規定がありますが、被疑者又は被告人が主体とされているため、再審請求人は除外されているという問題がございます。再審請求人が裁判所に対して再審請求をしようとする場合にも、国選弁護人制度を設けるか、又は刑事施設の長による助力がなければ、再審請求の趣意書を作成することができず、若しくは原判決の謄本及び新証拠を添付することが難しい場合があると思われます。   したがいまして、スクリーニング規定は、国選弁護人制度及び再審請求準備段階の証拠開示制度などを保障する、また、刑事施設の長による努めて便宜を図らなければならない旨の規定を整備するなどの規定とセットで、検討すべきです。弁護人等の援助が得られるにもかかわらず、原判決謄本や新証拠が添付されておらず、又は適法な再審請求理由が主張されていないものを迅速に処理する規定を設けるというのが適切です。   その上で具体的な規律の在り方を考えますと、家事事件手続法68条1項が、申立てが不適法であるとき又は申立てに理由がないことが明らかなときを除き当事者の陳述を聴かなければならないとし、同条2項が、その陳述は当事者の申出があるときは審問の期日においてしなければならないと定めていることが参考になります。つまり、これは「B案」と同じ発想でありますが、不適法であるとき又は明らかに理由がないときは、期日を開くまではないという趣旨の規定です。「B案」は再審請求を棄却する決定をすると書いてあるわけですが、そうではなくて、不適法である場合又は明らかに再審請求理由がないときは期日等の手続規定を適用しない、とする規定を設けることによって、期日等の手続規定の対象事件を限定する要件であると位置付けるのが適切であると考えます。 ○大澤部会長 ほかに御発言はございますでしょうか。 ○鴨志田委員 今の田岡幹事の意見に基本的に賛同するものですけれども、まず、スクリーニング規定というものを設けるかどうかということが議論の俎上に上るようになったのは、正に再審請求審における証拠開示の規定を設けるべきではないかということが言われ始めた頃に、様々な再審請求事件があって玉石混交の中で、全ての事件に日弁連が言うようなフルスペックの証拠開示規定を当てはめるということになると審理が非常に遅滞する、重たくなってしまうと、そのような御意見を主に法務省の方から頂いたというところから検討するようになったと私は記憶しております。   そのような観点で考えますと、このスクリーニング規定というのは、限られた人的資源を本格的事件の審理に投入するということで審理の充実を確保するという観点があることはもちろんです。この点では江口委員と同じなわけですけれども、そのことによって直ちに棄却するものとそうでないものをふるいに掛けるということではなくて、今、田岡幹事がおっしゃったように、いわゆるフルスペックの手続規定に乗せなくてもいい事件は、もうそこで判断ができると、フルスペックの手続規定に乗せる必要のある事件をふるいに掛けて残して、そこには充実した手続規定を、今、提案しているようなものを当てはめていくと、そういう観点で議論がされてきたと考えておりますので、基本的には「B案」に近い考え方なのですけれども、再審請求を棄却するかどうかということではなくて、その後の手続規定に乗せる事件とそうでない事件をふるいに掛けるというものであるという位置付けになろうかと思います。   ただ、これも田岡幹事がおっしゃったように、このようなスクリーニング、特に法令上の形式に違反する場合、明らかに刑事訴訟法第435条6号に規定する事由に該当しない場合というのは一見して、例えば新証拠が付いていない、確定判決の謄本が添付していないというような場合であったり、それから新証拠といわれるものは付いているのだけれども、全然関係ない事件の新聞記事が付いているというような場合などを想定していただくといいと思うのですけれども、こういう場合には、もちろん先ほど申し上げたように、スクリーニングではじかれて、その後の手続規定には乗せないということになりますが、ただ、例えば収監中の受刑者が弁護人の援助もない状態で確定判決の謄本を入手できない、無実だと訴えているのだけれども新証拠が用意できないというような状況も当然その中には交じっているということがあり得るわけです。ですので、やはりそのような観点から、このようなスクリーニング規定を正当化するためには、救済が必要な事件までふるい落とされないようにする制度的な担保、具体的にはやはり弁護人の援助と再審準備段階での一定の証拠開示ということだと思いますけれども、このようなものがセットで必要ではないかと思います。   それからもう一つ、少し前に戻りますけれども、その判断に当たって、「A案」では確定記録等も判断の対象、検討の対象にしていますが、これを加えてしまうと実質的な内容に立ち入っていくということになりかねませんので、ここはやはり当初の申立書、いわゆる趣意書ですね、それと添付書類、新証拠、ここに限定したところでスクリーニングの判断をすべきだと考えます。   以上を前提に、具体的な規律の在り方としては、今申し上げたとおり、請求人提出の趣意書、添付資料、これは確定判決の謄本や新証拠等ということになりますが、のみから法令上の方式違反や再審開始理由非該当が明らかな場合には、それ以上の審理を要せず、手続規定に掛けることもなく決定をすることができる、ただし確定判決謄本の添付漏れなどのように補正が可能な場合には、裁判所が補正を命じることができるとするというような規定にすべきではないかと考えます。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○成瀬幹事 私は、検討課題「(1)」の「ア」及び「イ」について、「A案」のような規律を設けることに賛成の立場から意見を申し上げます。   「A案」のように、再審請求に係る基本的な資料の確認・検討を終えた段階で、再審請求事由の有無についての審理に入らずに終局決定すべき事案と、再審請求事由の有無についての審理をした上で終局決定すべき事案を選別し、後者の事案についてのみ審理を行う仕組みを設けることについては、先ほど江口委員から、現在の実務運用と変わらないのではないかという懸念を示されました。   もっとも、第7回会議において述べたとおり、近時、裁判実務においては、再審請求審における手続規定が少ないことがむしろ審理運営上の困難を生じさせている旨の指摘がなされていることを踏まえますと、裁判所が再審請求を受けた際に行うべきことを法律において適切な範囲で定めて、裁判所による審理運営に一定の指針を与えることにより、再審請求手続の円滑化・迅速化を図ることが望ましいと考えられるところであり、このこと自体については、特段異論がないものと思われます。第7回会議において、平城委員は、「訴訟指揮のやりやすさを担保するために一定の規律を設けていただくということは、あり得る選択肢ではないか」と述べておられましたし、江口委員も、スクリーニングの必要性自体は認めておられます。   「A案」のように、裁判所が手続の段階に応じて行うべきことを法律上明確化することは、正に裁判所による再審請求審の運営に一定の指針を与えるという点で、意義があると思います。その上で、江口委員から、「A案」のようなスクリーニングの規律を導入することがどのような意味で再審請求手続の円滑化・迅速化につながるのかという御質問がありましたので、その観点も踏まえて申し上げると、このスクリーニングの規律と連動させる形で、例えば、再審請求事由の有無についての審理を要しない場合には、再審請求事由の有無についての事実の取調べをする必要がないことから、再審請求事由の有無についての事実の取調べは、審理を行う旨の決定がされた場合に限り、することができることとしたり、後ほど論点「第8」の「5」において議論がなされる事実の取調べの請求権を認める場合に、その請求権は審理を行う旨の決定がされた場合にのみ付与するといった仕組みとすることも考えられます。このような仕組みとすれば、より再審請求手続の円滑化・迅速化に資することとなりますので、法律において規律を設ける必要性は十分に認められると思います。   よって、先ほどの江口委員の御意見を踏まえても、「A案」のような規律を設ける必要性・相当性は認められると考えます。   なお、「A案」においては、「B案」にあるような補正に関する規律を設けることとはされていません。「A案」は、第7回会議において私が提案したものであると思われるので、この点について追加で説明をさせていただきますが、「A案」も、再審の請求に法令上の方式違反がある場合に、補正を促すことを否定するものではありません。第7回会議において恒光幹事が指摘しておられたように、補正に関する規律が設けられていない現行法の下においても、裁判実務において、補正を促すことは否定されていないことからすると、「B案」のような補正に関する規律をあえて設ける必要性は認められないと考えています。 むしろ、現行法には、補正に関する明文の規律がないのに、あえて補正に関する規律を設けることとすると、裁判所は積極的に補正を促すことが求められるといった解釈を招く懸念があり、これは第7回会議で平城委員が特に心配しておられたことかと存じます。また、現行法の下で明文の規定なく補正が行われている再審請求以外の場面について、補正が否定されるというような反対解釈を招くおそれもあります。   よって、補正に関する規律を設けることは相当でないと考えます。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○池田委員 第7回会議と今回の会議において、田岡幹事、鴨志田委員から、いわゆるスクリーニングの規律を設ける場合には、国選弁護制度や再審請求の準備段階における公判不提出記録や証拠物の閲覧・謄写に関する規律を設けることとセットで考えるべきだという御指摘がありました。   もっとも、ただいま成瀬幹事から御指摘があったとおり、特に「A案」は、裁判所による再審請求審の運営に一定の指針を与えるというものであって、それ自体として再審請求者に何らかの不利益を課すことになるものではないと考えられます。したがって、「A案」のような規律を設ける場合に、併せて国選弁護制度や公判不提出記録等の閲覧・謄写に関する規律を設けなければならないとする理由はないものと考えます。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○田岡幹事 先ほど江口委員及び成瀬幹事から、スクリーニング要件を満たした場合にのみ証拠提出命令あるいは事実の取調べをすべきであり、スクリーニング要件を満たさない場合には証拠開示命令あるいは事実の取調べをする必要はないという趣旨の御発言がありました。これは、新証拠が添付されていない場合には、証拠の開示を命じるまでもなく、再審請求を棄却すべきという趣旨かと思われます。   しかし、東京高等裁判所昭和30年9月1日決定によれば、再審請求の趣意書に証拠方法として証拠書類が添付されていなくても、それを具体的に列挙し、その所在を明示して裁判所に取寄せを求めている場合には、これは刑訴規則283条の趣旨に反しないと判示されております。また、例えば、「逐条解説実務刑事訴訟法」などのコンメンタールでも、新証拠が再審請求人の手元にない場合には、裁判所に記録の取寄せや証人尋問あるいは証拠の開示を求める形で再審請求をすることも一律に不適法とすべきではないと解説されております。   特に、国選弁護人制度を設けないのであれば、再審請求人としては裁判所不提出記録の閲覧・謄写をすることができず、それを新証拠として添付することができないわけですから、裁判所に対してその取寄せを求めるか、又は証拠の開示を求める以外に、新証拠を提出する方法はありません。このような場合に証拠開示命令や事実の取調べを行わないこととして再審請求を棄却して、迅速に処理するというのは、現行法よりもむしろ再審請求が認められる範囲を狭めるものであって、証拠開示及び事実取調べをする対象事件を制限する案であり、法の改悪にほかならないと思います。 ○吉田(雅)幹事 今、田岡幹事がおっしゃった点は、配布資料の記載のうち、「法令上の方式違反があると認める場合」について、具体的にどのような場合にこれに該当するかという点に関わるものだと思います。ここは正に御議論いただきたい点でございまして、これまでの判例・裁判例においてとられてきた方式違反についての考え方を踏襲した上でこの文言を規定していくということは十分にあり得ることだろうと思いますので、その点を含めて御議論いただければと思います。 ○村山委員 このスクリーニングの規定がどういう意味を持つのかということがやはり大事かと思っていまして、「A案」も「B案」も請求を棄却する決定を出すのだと規定されているわけなのですけれども、このスクリーニングの議論がなぜ出てきたかというのは、先ほど鴨志田委員が言ったように、証拠開示は重要だけれども、どの事件も全部重装備でやるのですかと、それから、期日指定などを設けるべきだという主張に対しても、どの事件もやるのですかというところから発していると思うのです。つまり、そういった重装備の審理をしないでいい事件だという振分けをするためのスクリーニングだという理解でいたわけです。それがいつの間にか、迅速に棄却決定をするという形になっていまして、これは審理の一般的な運営の問題ではなくて、棄却するとなってしまうと、これはもう決定を強制するという形になるわけです。そこにすごく私は違和感を覚えています。   先ほど田岡幹事も言ったように、こういったスクリーニングで振り落とされた事件については、期日の指定であるとか、証拠開示、不提出記録の提出、こういった規定がかぶらない事件で比較的迅速に処理ができるという事件だということが共通理解だったと思いますので、そこを再度確認した方がいいのではないかというのと、それから、法令上の方式違反というのは、今ほど吉田幹事が言われたように、今までの判例とかそういうものの積み重ねで判断するのだと思いますので、直接の書証が提出されなくても、こういう証拠があるのだということを具体的に示して再審請求書を出していれば、その請求書と付けられている資料、そういうものを一体として見た場合に、不適法としては扱わないということだと私は理解しています。   以上ですけれども、「A案」のように棄却する、それから開始決定をするというふうに一律に決めるのには、非常に私は、先ほど言った意味で抵抗があるということであります。 ○大澤部会長 案をまとめるときの書きぶりの問題という気もしますが、その上で、スクリーニングの問題は再審請求の審理においてどのような手続を組んでいくのかという問題と密接に結び付いているということは御指摘があったとおりで、それはこの後に議論する問題ということになります。この段階で、更に「1」について意見を述べておきたいことがあれば伺いますが、いかがでしょうか。 ○池田委員 「(2)」について意見を申し上げます。再審請求の方式に関する規律を法律上明確化すること自体については異論がないところだと思いますけれども、第7回会議において鴨志田委員、田岡幹事から、刑事訴訟規則第283条において趣意書に原判決の謄本を添付することが義務付けられているが、社会のデジタル化を踏まえるとこれを不要とすべきである旨の御意見があったことについて、意見を申し上げたいと思います。   刑事訴訟規則第283条において再審請求の趣意書に原判決の謄本の添付が義務付けられている趣旨は、再審請求の対象となる原判決を特定させること及び原判決と再審請求理由との関連を再審請求者自身に十分に検討させた上で再審請求をさせることにあると考えられます。そして、この趣旨は、さきの通常国会において成立したいわゆる刑事デジタル法により刑事手続がデジタル化された後においても、なお妥当するものであり、再審請求手続における原判決の謄本の位置付けと、例えば、省略が許されている民事執行手続における債務名義の位置付けとは状況が異なるものと考えられます。   仮に趣意書に原判決の謄本の添付を要求しないこととすると、再審請求者が趣意書に原判決の特定に関する情報を誤って記載するなどしたために再審請求の対象となる原判決が特定できない再審請求や、原判決と再審請求理由との関連が不明確な再審請求理由が増加するといった弊害が生じるおそれも指摘できようかと思います。   以上から、再審請求の趣意書に原判決の謄本を添付することを不要とするということは相当でないと考えております。 ○大澤部会長 「(2)」について御発言がございましたけれども、この点で何か御発言はございますか。   よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 「1」の問題は、次の個別の手続の話と関連が強いという御指摘もございましたので、「1」についてはこの程度ということにさせていただき、次に、「第8」の「2 期日指定に関する規律を設けるか」、「3 請求理由についての陳述の機会を付与することとするか」、「6 事実の取調べ後の意見陳述の機会を付与することとするか」及び「9 審理を公開することとするか」について、まとめて審議を行いたいと思います。それぞれ検討課題がございますが、全体をまとめて審議を行いたいと思います。御意見等がある方は挙手をお願いします。 ○田岡幹事 「2」番の期日指定と「3」番及び「6」番の意見陳述について発言いたします。   第7回会議でも発言しましたが、私は、期日を設ける意義は、単に再審請求手続を迅速化するということだけではなくて、再審請求人の手続保障のために、再審請求人に期日における意見陳述権及び事実取調べ立会権を保障することにあると考えております。また、その期日を公開法廷において行うことにすることによって、再審請求手続における再審請求人・弁護人、裁判官、検察官の活動を国民の監視下に置くことができるとともに、被害者やマスコミなど国民の知る権利にも応えることができると考えております。   まず、期日指定に関する規律を設ける必要性については、第7回会議において、村山委員及び鴨志田委員が発言したとおり、現実に再審請求審の審理に10年単位の時間を要している事例や、第1回期日が開かれるまでに年単位の時間を要している事例がありますので、必要性があることは明らかであると考えます。   また、規律を設ける相当性について、第7回会議において、江口委員から、最初の期日にどのようなことを行うのか明らかではないといった発言がありましたが、少なくとも再審請求の趣意書が提出されているのですから、再審請求人・弁護人が意見陳述を行うことはできるはずです。何もすることがないということはあり得ないことだと思います。   また、「3」番の再審請求の理由についての意見陳述の機会について、第7回会議において、江口委員から、刑訴規則286条による意見聴取の規定があると指摘されておりましたが、書面による意見聴取と口頭による意見陳述は全く性質が異なります。この部会でも福井事件の元被告人の方のヒアリングを行うかどうかということについて、書面があるから必要十分であるという発言がありましたが、単に書面を読むのと本人から直接意見を聴取するのでは全く性質が異なります。この点、家事事件手続法68条1項及び2項は、先ほど申しましたとおり、当事者の陳述を聴かなければならない、そして、当事者の申出があるときは審問の期日においてしなければならないと規定しておりますが、立案担当者の解説によれば、これは裁判官に直接陳述することを望む当事者のために、当事者に審問の申出権を認めたものと説明されております。   再審というのは裁判のやり直しを求める手続であって、再審請求人は、裁判官に直接その判断が誤りであるということを訴えたい、と思っているものです。その再審請求人の訴えに対して、裁判所が話を聴く必要はない、という態度をとることは、裁判に対する信頼を失わせることになるのではないでしょうか。再審請求人から直接話を聴くことによって、再審請求理由を的確に把握することができますし、疑問があれば質問することもできます。事前に書面を読んでいるから、改めて意見陳述の手続を設ける必要はないなどというのは、意見陳述権の保障の趣旨を理解しないものと言わざるを得ないと思います。   その上で、「9」番の審理の公開について意見を申し上げます。再審請求事件は、再審請求人の権利に関わる重要な手続であるのに、非公開とされているために被害者やマスコミなど国民は傍聴することができず、ブラックボックスになっております。この点について、検討課題のメモには、「刑事訴訟法上、決定手続の審理について公開を義務付ける規定はない」と書かれていますが、私の理解では、刑の執行猶予の取消し請求は、正にこの「決定手続の審理について公開を義務付ける規定」であって、憲法上の要請ではないけれども審理の公開を義務付けている規定であると理解しております。なぜ、このような指摘がなされているのか理解に苦しみます。   念のために申し上げますと、刑訴法349条の2第1項は、刑の執行猶予の取消し請求について、「前条の請求があったときは、裁判所は、猶予の言渡を受けた者又はその代理人の意見を聴いて決定しなければならない」と規定し、同条2項は「前項の場合において」「猶予の言渡しを受けた者の請求があるときは、口頭弁論を経なければならない」と規定しており、刑訴法43条2項の例外を規定しております。そして、刑訴規則222条の12第1号は「裁判長は、口頭弁論期日を定めなければならない」とし、同条5号は「口頭弁論は、公開の法廷で行う」と規定しております。これは、刑訴法43条2項の例外として、決定手続の審理ではあるけれども、憲法上の要請ではないのにもかかわらず、刑の執行猶予の取消しを求められる者にとっては重大な利害に関わる重要な手続であることから、公開を義務付ける規定である、口頭弁論を公開の法廷で行うことを義務付ける規定であると理解しております。   そうしますと、再審請求手続についても、再審請求人の重大な利害に関する重要な手続であるにもかかわらず、再審請求人が審理の公開を希望している場合であっても、審理の公開が義務付けられていない、口頭弁論を公開の法廷で行うことが義務付けられていないというのは不合理であります。むしろこのような場合には審理を公開することが現行法の規律と整合すると考えるべきではないのでしょうか。 ○大澤部会長 ほかに御発言はございますでしょうか。 ○村山委員 私は、期日指定をするということは有益であるばかりか、期日指定をすることによる弊害というのはまず考えにくいのではないかと思っています。平城委員から提供された裁判官の研究会ですか、これでもやはり当事者との間でのスケジュール感を持った方がいいとかそういうことで、当事者と集まった方がいいのだという趣旨のことを発言されている方がいました。それは実際に審理する裁判官にとっては率直な感想だと思うのです。何が言いたいのか、どういう審理をしたらいいのかということを請求人と裁判所の間で話合いをする、場合によっては検察官も立ち会ってもいいと思うのですけれども、そういったことをするということが必要で、そのためにはやはり期日を指定するということが重要だと思います。期日指定の規定を設けると手続が硬直化するというような御意見もあったように思いますけれども、確かに期間の限定をぎりぎりやってしまうと、そういうことが起き得ると思いますが、それは期間をどの程度のスパンでとるかという問題だと思います。   期日を設けなくてもいいというのは、やはり裁判所は分かっているのだというふうな気持ちかもしれませんけれども、それはやはり田岡幹事が言ったように、本当は対面で議論をした方がよほど審理が円滑に進むという効果を生みます。また、前回お話ししたと思うのですけれども、この期日が指定されないがために再審請求手続がうんと長期化したという事例は現にございます。期日で議論をしていけばこんなことにはならないはずなのです。また、現状では三者協議というものが行われていますけれども、この三者協議を求めても一切応じないということが現状では許されていますが、請求人側にとっては三者協議すら開かれていないことに対する不満というのは非常に強いものがあります。そういうものも解消できますし、審理が予定できる、そういう意味でもいいことばかりだと思います。そういう意味で、期日指定をするということについて反対されるという意味が私はよく分かりません。   また、公開原則について若干補充させていただきますと、開示証拠の関係で従前、目的外使用の禁止ということが議論されました。この目的外使用の禁止というのに、私は目的外使用を禁止すべきではないという立場ですけれども、仮に禁止されるということになった場合には、やはりこの再審請求事件で何が問題で、どういう審理をしているかというのが社会の人は全く分からない。事実審理、例えば証人尋問等は法廷でやっているのです。ですから、場としては法廷でやっているのを公開するかどうかということで、今、再審請求事件の事実審理の証人尋問を公開すると言ったところで、多くの裁判官はそれほど違和感を持たないと思うのです。現に日産サニー事件では公開でやったという例があるわけですけれども、現状では確かに非公開でやっています。しかし、公開でということになったとしても、それほど違和感はないですし、また、公開でやることによる公正の担保、これは憲法上の公開原則がなぜ要請されているのかという、同じ要請というのはやはり再審請求事件でもあると思います。そういう意味でも、やはり重要な期日については公開の法廷で行うという定めをするのが必要だと私は思っています。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○江口委員 再審請求後、一定の期間内における期日の指定を一律に義務付けるということにつきまして、最初の期日を開く時期に関する規定を設けるというのであれば、これは法的に意味のある期日でなければいけないのではないかと考えているところであります。今、村山委員からもお話がありましたように、例えば単なる顔合わせのためであるとか、今後の進行を協議するための場というのは事実上のものでございまして、法的に意味のある期日とまではいえないのではないかと考えております。このような事実上のものを法定されるとなると、事件に応じた柔軟な対応は、より困難なものになると考えております。   仮に法的な意味のある期日として定めるというのであれば、少なくとも争点でありますとか証拠の整理に着手できるようにする必要がございますので、例えばですが、検察官に対しては直ちに確定記録を提出し、その期日の一定期間前までに請求理由に関する意見の提出を義務付ける規定を設けるでありますとか、請求人に対しましても、その期日の前に検察官の意見を踏まえた主張の補充を義務付ける規定などをワンセットで設ける必要があると考えております。 ○大澤部会長 ほかによろしいですか。 ○村山委員 今ほどの江口委員の御意見ですけれども、法的な意味があるという期日で一向に私はいいと思っています。もちろんそういう意味で発言しています。1回目というのは何をするかといったら、やはり請求人が何を求めているのかというのを陳述してもらう、それと同時に、裁判所がこの事件についてどういう形で取り組むか、確かに期間が短いと、まだ見当が付かないということがありますから、一定の期間というのをどの程度のスパンでとるかという問題はあるのですけれども、やはりある程度、請求人が一体何を問題にして、例えば事実の取調べとしていろいろ書いてあるけれども、本当に核として要求しているのは何なのかと、そういうことを表明してもらうということは十分できると思います。そして、その後どういう審理をするのかという予定を立てるという意味でも、その期日で行うというのは一向に差し支えないことでありまして、通常の公判期日でも第1回公判期日で、例えば否認事件であれば実質上、同意書証だけの取調べをして続行するわけですよね。それとほとんど同じであろうと思います。   要するに、第1回期日の法廷というのをどのぐらいのスパンの期日でとるかという問題は確かに重要な問題だと思いますけれども、だからといって、それが難しいからといって、そういう期日を設けることに意味がないとか、それから、仮に意味があるとすれば双方の意見が全部出そろってからやるのだというのは、余りにも時期が遅れるということを招く結果になると私は思います。 ○鴨志田委員 期日の問題と、それから意見陳述の問題と、公開の問題と、三つに分けて意見を述べたいと思います。   やはり通常審でも裁判官は期日概念で動いているわけです。だから、再審においても期日を刻むということで一定の迅速かつ充実した審理が実現するということは明らかだと思います。一方そのような期日を含む手続規定がないために、私が第7回会議で実例を出したとおり、現実に審理の放置や著しい遅延を招いているという実情が存在するわけです。ちなみに第4回会議で平城委員に御提出いただいた共同研究の中でも、どこから手を付けてよいか見込みが付きにくいという裁判官も少なくないという発言がございまして、やはり人間、どうしていいか分からないものはどうしても後回しになるという傾向があることは否めないのではないかと思います。ですから、そのような意味でも、まず期日の規定を設けるということは、それ以降の手続規定の取っ掛かりを与えるという意味でも極めて重要であると考えます。   もちろん、日弁連案では2か月という数字を出しているのですけれども、特にこの2か月という縛りにこだわるものではありません。ただし、三者での審理計画の共有や請求人の主張の確認のために早期に期日を入れるべきであるというのは、判例時報の2620号の現役裁判官の論文の中にもはっきり書いてございまして、要は具体的な主張等がフィックスされない段階であっても、まず当事者を呼んで、正にどういう主張がメインなのかというようなことを聴き取って、そして審理計画を作っていくというような形で期日を設ける、そのためには、もちろん何も準備をしていなければ無理でしょうけれども、確定判決と主要な旧証拠、それから申立書、そして今回の新証拠、この程度を頭に入れた段階で期日を設ければ、少なくとも年単位が掛かるとは思いませんし、そのような前提で今のような形で請求人や、相手方である検察官からも意見を聴くというような形になれば、審理がそこから回っていくのではないかと思います。ですので、2か月というのを入れるべきでないというのであれば、速やかに設けるというようなレベルの条文でも構わないのではないでしょうか。   それから、公判期日や公判前整理手続期日には同様の規定が設けられていない、刑事訴訟法全体としての整合性が問題となるという御趣旨の発言も一巡目にございました。しかし、再審請求手続は職権主義だからという理由で手続規定が設けられていないわけで、既にこの時点で通常審とは整合していない状態になっているということではないでしょうか。したがって、もしそう言うのであれば、立て付けの異なる場面に別個の規定が入ってくるということに対しては、これを整合性の問題として抑制的に考える必要はないのではないかと思います。   次に、意見陳述の問題ですけれども、再審請求には通常審の被告人質問に相当するものがございません。したがって、再審請求にとって意見陳述は被告人質問にも匹敵するような極めて重要な機会であるとともに、この請求人が有罪の言渡しを受けた者である場合、書面ではなくて直接、本人の表情や声に接することが再審理由の有無についての職権判断にも大きく影響してくると考えます。刑事訴訟法の目的は言うまでもなく人権保障と真実発見であって、再審請求手続は直接的に有罪・無罪を判断する場でなくても、刑事訴訟手続上の制度である以上、等しく刑訴法の目的の下にあり、意見陳述権の保障は正にこの二つの要請にかなうものであると思います。これは申立段階での意見陳述においても、事実の取調べ後の意見陳述についても等しく当てはまると考えます。   最後に、公開の問題ですけれども、先ほど村山委員からもありましたが、現行法の下での再審請求手続において、進行協議期日といわれる打合せ的な期日は会議室などのような場所を使い、証人尋問や請求人の意見陳述については法廷で実施するという扱いがほぼ定着していると思います。しかし、非公開ということになっているという理由から、この証人尋問が行われている法廷には施錠がされます。法廷内に入る弁護人は、途中の入退室も含めて厳しくチェックされます。さらに、書記官がこの尋問の間中、法廷のドアの前に立って見張りをしているという、非常にある種、異様な形で事実調べが行われています。   法廷で実施される手続は、裁判所も重要な手続であると認識しているからこそ法廷で行い、証人尋問については通常の裁判と同様、請求人側の主尋問と検察官の反対尋問が実施され、事実上、対審構造に極めて近い形で実施されているというのが現状でございます。これらの手続の重要性に鑑みれば、請求人の手続保障、適正手続の観点や、また国民の知る権利に資する、また報道の自由といった観点から、審理を公開するという要請は極めて強いものがある、その要請は刑事訴訟法全体の整合性というような形式的な理由で否定されるべきではないと思います。   なお、本日付の読売新聞の朝刊第1面の編集手帳という、これは恐らく論説委員が書いているコラムだと思われますけれども、再審の進め方にルールはなく、国の有識者会議―この部会のことだと思いますが―が長期化を防ぐ制度改正を検討している、裁判の過程を国民に見える化してほしい、裁判官が検察官、弁護士と再審の計画を立て、密室の審理を公開する、司法の信頼を取り戻すには、怠ける余地をなくす規律が必要ではないかと指摘をしています。やはり法改正に当たっては、国民の意見を広く聴くということも非常に重要なことでございまして、この法制審の部会でも宮下参考人が公開の必要性を説いていたということに鑑みても、このような意見をないがしろにするということはできないのではないかと思う次第です。 ○大澤部会長 ほかに御発言はございますでしょうか。 ○成瀬幹事 私は、まず「第8」の「2」について意見を申し上げます。   現行法においても、裁判所が裁量により期日を開くことはできますので、「第8」の「2」で議論の対象となっているのは、一定の期間内に期日を開くよう裁判所に義務付ける規律であると理解しています。田岡幹事・村山委員・鴨志田委員から、そのような規律を設ける必要性として、審理の迅速化・充実化に資するという御意見が示されましたので、その点について申し上げたいと思います。   第7回会議で江口委員が指摘しておられたように、再審請求を受けた裁判所が、確定記録、再審請求者・弁護人の提出した趣意書や新証拠等を読み込んだ上で、当該事件の審理方針を定め、争点・証拠の整理に着手するまでに要する時間は、事案ごとに様々であると思われます。   そのことを前提とした上で、審理の迅速化について考えてみると、審理当初の一定期間内に必ず期日を開くこととしたとしても、当該期日が空転してしまう可能性がありますので、直ちに審理の迅速化につながるとは思われません。   また、審理の充実化についても、裁判所側の準備が間に合わなかった場合には、期日が空転するだけですので、期日を開くこと自体が直ちに審理の充実化につながるとは考え難く、むしろ、審理の充実化のためには、事実取調べの請求権の付与等の審理に関する手続規定の整備を検討する必要があると思います。   さらに、田岡幹事からは、期日を設けることによって、再審請求者及び弁護人が審理内容を把握して適切に意見を陳述しやすくなり、また、事実取調べの請求権を行使しやすくなるという意味で、手続保障に資するという御指摘もございました。これは、期日が義務的に開かれることになれば、再審請求者・弁護人による意見陳述や事実の取調べ請求がやりやすくなるという趣旨であると理解していますが、期日指定を義務的にするかという問題と、意見陳述の在り方や事実の取調べの請求権を認めるかという問題は、理論的には別の問題です。一定期間内に期日が義務的に開かれない限り、再審請求者・弁護人による意見陳述や事実の取調べ請求ができなくなるという関係にはありません。   第7回会議で議論があったとおり、審理当初の一定期間内に必ず期日を開き、再審請求者・弁護人・検察官を集めて行うこととすべき定型的な手続は想定し難いように思われます。先ほど田岡幹事から、再審請求の趣意書に基づいて意見陳述を行うだけでも良いのではないかという御提案がありましたが、裁判官はわざわざ期日を開かなくても趣意書を読めば再審の請求理由を把握できますので、再審請求者・弁護人が趣意書の内容を口頭で主張することを、第1回期日の定型的な手続内容として想定することは困難であると思われます。やはり、一律に審理当初の一定期間内に期日を定めなければならないとすると、手続が硬直的なものになり、かえって審理の充実化・迅速化を害することにもなりかねず、相当でないと思われます。   よって、再審請求後一定の期間内における期日の指定を一律に義務付ける規定を設ける必要性・相当性は、なお十分に説明されていないと考えます。   次に、「第8」の「3」について意見を申し上げます。   第7回会議で述べたとおり、再審の請求理由を的確に把握するためにいかなる方法を採るかは、審理の主宰者である裁判所の判断により柔軟に決すべき事柄であると考えます。そして、現在でも、必要があれば裁判所の裁量により請求理由を陳述させることができるほか、先ほども申し上げたとおり、裁判所は、再審請求をする際に差し出される趣意書により再審の請求理由を把握することができることに鑑みると、一律に請求理由についての陳述の機会の付与について義務付ける必要はなく、かえって手続の硬直化を招きかねず、相当でもないと考えます。   さらに、「第8」の「6」について意見を申し上げます。   第7回会議で申し述べたとおり、再審請求について決定をする場合に意見聴取を行うことは、再審請求事由の有無を慎重に判断する上で重要な意義を有すると考えられることから、刑事訴訟規則第286条に規定されている意見聴取に関する規律を法律上明確化することが相当であると考えます。   もっとも、これまでの田岡幹事・村山委員・鴨志田委員の御提案は、事実取調べ後の意見陳述を公開の法廷で行う意義を強調しておられることから拝察するに、一律に口頭で意見陳述の機会の付与を義務付ける趣旨ではないかと思われます。しかし、意見聴取のためにいかなる方法を採るかについても、審理の主宰者である裁判所の判断により柔軟に決すべき事柄であり、口頭ではなく書面によってすれば足りる事案もあると思われることから、一律に口頭によることを義務付けることは、手続の硬直化を招くものであって、相当でないと考えます。   最後に、「第8」の「9」について意見を申し上げます。   田岡幹事・村山委員・鴨志田委員からは、裁判所の判断の公正・適正さが確保されるよう、裁判所の職権行使の在り方を広く社会の監視下に置くために審理を公開する必要がある旨の御意見が述べられました。しかし、ここまでの皆様の御発言を伺っても、再審請求審において一般的に不適正な運用が行われており、事実の取調べ等の一定の手続の公開を義務付けることによって裁判所の職権行使を国民の監視下に置かなければならないことを示すほどの立法事実は提示されていないように思います。   また、第2回会議において、宮下参考人から、再審請求審の審理が一部でも公開されれば審理の迅速化に資するのではないかという御意見が述べられましたが、審理を公開することがどのようにして迅速化に結び付くのかは必ずしも明らかではありません。   よって、田岡幹事・村山委員・鴨志田委員の御発言を踏まえても、「第8」の「9」の検討課題「(1)」は未だ解消されていないと思われます。 ○大澤部会長 いろいろな検討課題があって、それらが絡みあっていますので、長くならざるを得ないところもあるのかと思いますが、なるべくコンパクトにお願いします。   更に御発言のある方はお願いします。 ○宇藤委員 私からは「第8」の「9」、再審請求審の公開について意見を述べさせていただきたいと思います。   公開が、再審請求審の手続としての透明性を確保し、その公正さを高めることを狙いとするものであることは理解しておりますが、一定の手続に限定するとはいえ、裁判所の裁量を超えて審理の公開を義務化することについては反対でございます。まず、現行の再審請求審における様々な経験や知見を踏まえ、日本弁護士連合会改正案が再審請求審について公開を求めるに至ったということについては、理由のあるものとして理解をしております。しかしながら、再審公判と比肩するような公開の原則を再審請求審に求めることは、現行法の考え方にはそぐわないことはもちろんのこと、日本弁護士連合会改正案の考え方からしても必ずしも説明が容易とはいえないのではないかと考えます。   というのも、これまで本部会の会議において鴨志田委員、村山委員、田岡幹事から、現在の請求審における審理の在り方が慎重に過ぎることを踏まえ、その肥大化を避けて、むしろ再審公判を本番と見定めた取扱いがなされるべきであり、それがゆえに、時に再審公判において有罪判決がなされることも致し方なしという旨の発言があったかと存じます。ただ、そうすると再審請求審に義務的な公開を求めることは、本物の屋上の手前に本格的な屋根を重ねるようなものでございますので、日本弁護士連合会改正案との整合性から言えば、ポイントの置き方が異なるという印象を受けざるを得ません。   また、一巡目における関連の議論において、審理の公開という部分よりは、むしろ請求審における関係者間の情報共有に重きが置かれていたように思われます。例えば、本部会会議において田岡幹事が家事事件手続法の例を引きながら、職権主義の下での請求者やその弁護人の適切な関与の在り方を問おうとしておられたのも、そのような点を踏まえたものではないかと思われます。先ほども田岡幹事からは、非公開である家事事件手続法の例を引きながら御発言があったのも、同様の文脈のものと承知しております。実質的に考えてみても、従来の実務における再審請求審の問題点も、審理の公開でなければ解決できないものではなく、むしろ公開の方は裁判所の裁量に任せつつ、関係者、特に請求者及びその弁護人を置き去りにしない、法外な期間をむげに過ごさせるようなことがないよう具体的な方法を検討する、こちらの方が生産的で、実があるのではないかと存じます。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○宮崎委員 私からは、意見聴取に関する規律と審理の公開について意見を述べたいと思います。   まず、第7回会議におきまして、鴨志田委員から、意見陳述の機会につき再審請求人側についてはそれを保障し、検察官に対しては権利としては認めないべきであるという御意見が述べられましたけれども、第7回会議で池田委員が述べられていたとおり、検察官は公益の代表者であり、裁判所に法の正当な適用を請求する権限を有するとされ、それが義務であるともされています。現行の刑事訴訟規則においても、裁判所は、再審請求について決定をする場合には再審請求人だけでなく検察官の意見も聴かなければならないとされ、公益の代表者たる検察官を関与させることにより判断の適正担保が図られているところであり、法律に意見聴取に関する規律を設けることとした場合、裁判所の判断の適正を担保するためには、双方の意見、すなわち再審理由があるとする請求人側だけでなく検察官の意見も聴取されるべきであり、検察官が意見を述べる機会だけを制限することは相当でないと考えます。   次に、審理の公開に関してですけれども、第7回会議においても述べたとおり、被害者等の事件関係者には、事件発生から長い年月を経過したがゆえに今更知られたくないという名誉・プライバシー等に関連する事情もあるところであり、再審請求審における事実の取調べ等の一定の手続の公開を義務付けることとすると、審理の内容等について、公開しない場合よりも詳細に報道等がなされることにより、被害者等の名誉・プライバシーや生活の平穏が害されるおそれが高まることとなります。これまでのところ、このような弊害があってもなお公開を義務付けなければならないような積極的な立法事実は示されていないところであり、再審請求審の審理の公開を義務付ける規定を設けるとの御提案については慎重に検討する必要があると考えられます。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○村山委員 何度もしつこいようで申し訳ないのですけれども、期日の関係で、先ほど成瀬幹事が、硬直化するというのですけれども、どのように硬直化するのでしょうか。要するに、具体的にどういうことが考えられると硬直化するということなのか、私はイメージができないのです。むしろ、一定期間内にという定めがないと、結局やらないで済むという、「ずっと放っておかれたのではないか」と請求人が思うような事態が生じているということなのです。   これを解消するためには、一定の合理的な期間内に期日を設けて、そして何を求めているのかというのを口頭でも言ってもらう、裁判所も正直に言ってまだ全部記録が読めていないという状態であれば、それはそれでいいのではないですか。要するに、それほど完璧にそろってやるわけではないわけですから、むしろその方が、今後どういう審理が予定されるか、若しくは事実取調べの中で請求人は最低限これだけは絶対やってほしいという意向のあるものもあるわけですから、それは裁判官の場合、記録を読みながら事実審理をするということだってあり得るわけです。これは事実審理に踏み込まなければならないだろうと思った事件については、その記録を読みながら検討しながら、更に審理をするということも十分あり得ると思うので、それほど完璧な状態で検討し終わった後でないと期日が開けないなんていうことはないと思うのです。これは一般の裁判でも、それから決定事件でも、みんなそうなのではないでしょうか。そういう意味で、硬直化するから一定の期間内に期日を設けることに反対するというのは結局、期日を設けずにずっとそのままに置いておいてしまうということを容認するということにつながるので、私はそれは反対です。期日を設けるということに弊害があるという、その硬直化というのは私は全く理解できない。   それから、公開原則は直接的には迅速化に結び付くということを私は言っているつもりはないのです。公開の要請とは別の要請だと思っています。それから、宮崎委員がプライバシーの問題というのがあるのですけれども、これはやはりそのときに実際そのようなことがあった場合には、請求人と裁判所の間で協議をして、どういう事実の取調べを行うかというのを考えても、それはいいのだろうと思うのです、公開停止がどうしても必要だと。しかし、そういうことが本当に起きるのでしょうか。通常審の証拠調べのときにそういうことは基本的に起きていないわけですよね。それを考えれば、通常審の証拠調べと再審請求の場合の事実の取調べでどのように質的に違うのか、私は、それほど質は違わないと思いますので、公開でやっても何ら差し支えないのではないかと思っておりますし、私も実際、事実の取調べは非公開でやったのですけれども、今考えてみると、どうして公開しなかったのかというのは、公開している例が実務的に少ないという実務慣行的な発想でやったのは間違いなくて、それは安易だったと批判されれば、それはもう仕方がないと思うのですけれども、よくよく考えると、あれを公開の法廷でやってどうして悪かったのかというのは、今でも自分で後悔しているところです。 ○平城委員 数々の委員・幹事の方から、「こうなっても裁判官が困らない」という発言もあったものですから、私の方からも発言させていただきます。恐らくここで言われている期日は、この前に議論されたスクリーニング規定がどうなるかによっても変わってくるのだろうと思っています。裁判官が、事実審理が必要かもしれない、事実審理が必要ないとまでは判断できない、と考えたものがスクリーニング規定でくぐり抜けて、このステージに入ってきます。例えば先ほど鴨志田委員が言われたような別事件の新聞記事が付いていましたというものも、これが本当に新規の明白な証拠ではないのかどうかを判断するためには、確定記録を見ないと分からないところがあったりします。本人の陳述書みたいなものが付いていたりするときも、これが前の請求事件とどう関連するのか、こういうことも見なければいけなかったりもします。つまり、このステージに入ってくると、一定程度裁判所としても準備ができているかもしれないと思ったりもするわけでございます。そうすると、きちんとした審理をやりましょうねということも一定程度あるでしょうし、また、そうではなくて進行協議みたいな、まずその期日を設けた上で、次のその後の審理を考えていきましょうねと、こういう期日の立て方もあろうかと思います。   恐らく皆さんの、スクリーニング規定が仮にできたとした場合のその後の期日のイメージについて、ある程度幅があるのであれば、柔軟にやれるようにしておいた方がいいかという発想もあろうかと思いますし、あるいは、柔軟にすると裁判官が困ってしまうのではないか、若しくは長期化するのではないかとなれば、その長期化しないような目安として、どこら辺でくくって、いつ頃に入れなさいというのがあったりした方がいいのかという問題なのかなと思っておりまして、第1回期日の審理のイメージというのもどこかで共有できた上で議論できるといいかなと思ったりします。 ○大澤部会長 イメージの共有ということでいえば、前に戻って恐縮ですが、スクリーニングのところで一体どこまでのことを調べるのかというところも、少し御意見の隔たりがあったように感じておりました。   池田委員、先ほど手を挙げておられましたでしょうか。 ○池田委員 「第8」の「2」と「6」について併せて意見を申し上げます。   今、平城委員からも御指摘があったスクリーニングを経た事件についての期日のイメージということに関連してのものになるのですけれども、スクリーニングが行われた事件であっても、裁判所において再審請求に係る基本的な資料の確認・検討を行って、請求に理由があるか否かを判断するために審理を行うか否かを判断するものであるにとどまっておりますので、その中には、複雑な、争点も多く、証人尋問等の事実の取調べをする必要もあるため、再審請求者、弁護人及び検察官の出席を求めて主張や争点を整理し、実施すべき事実の取調べの内容、順序、日程等について協議するために期日を開く必要があると考えられる事案もあるでしょうし、他方で、まずは書面のやり取りによって再審請求についての意見等を聴取すれば足り、期日を開く必要がないと考えられる事案まで、様々なものがあり得ると思われます。   そうなりますと、スクリーニングを経た事案であっても、審理当初の一定期間内に必ず期日を開き、再審請求者、弁護人及び検察官を集めて行うこととすべき全ての事件に当てはまるような定型的な手続は想定し難いということになります。にもかかわらず一律に期日指定を義務付ける規律を設けると、同じ目的を達成するために柔軟に審理を進め得る手段が多様にあるにもかかわらず一定の方式が義務付けられてしまうという意味で、審理が硬直化し、手続の円滑化や迅速化を害することになりかねないという懸念を持っております。そのため、このような規律を置くことの必要性、相当性は、なお十分に説明される必要があるのではないかと考えております。   なお、第7回の会議において、村山委員から、期日指定に関して、いきなり決定書が裁判所から再審請求者等に送達されるという事態を避け、進行についての予測可能性を与えるべきだという文脈で期日指定に触れられておりますけれども、これは先ほど鴨志田委員からも御指摘があったと思いますが、この点は、「第8」の「8」の審理の終結及び決定日を告知することとするかの論点に関わるものと考えております。   続きまして、「6」の意見陳述について意見を申し上げます。これは先ほど成瀬幹事から御指摘があったところですけれども、刑事訴訟規則第286条に規定されているような意見聴取に関する規律を法律上明確化するということには意義があると考えております。その上で、同条による意見聴取には刑事訴訟規則上、その時期に関する定めは存在しませんが、通常審における最終陳述に相応するものと考えられていることからすると、審理の終結に先立ち行うこととするといった規律を設けることが考えられます。また、刑事訴訟規則第286条は、「再審の請求について決定をする場合には、請求をした者及びその相手方の意見を聴かなければならない」と規定し、意見聴取の対象者として弁護人を掲げておりません。ただ、通常審においては弁護人に最終弁論の機会が与えられていることとの整合性を考慮すれば、再審請求者が弁護人を選任している場合には、弁護人を意見聴取の対象とすることも考えられるのではないかと思います。   これに対して、検察官が再審請求をしている場合には、この規定に基づいて有罪の言渡しを受けた者がその相手方として意見聴取の対象となると考えられていますが、検察官が再審請求をする場合には、専ら有罪の言渡しを受けた者の利益のためにするものであって、更に有罪の言渡しを受けた者が意見を述べることへの利益を観念し難いとも思われます。そのため、その者からの意見聴取を一律に義務付けるまでの必要はないとも考えられることについて指摘をしておきたいと思います。 ○江口委員 第7回部会で申し上げたところでございますが、実務家の立場から申し上げますと、先ほど成瀬幹事がおっしゃられましたように、再審請求事件の審理のあり方は事案ごとに様々なはずであるということは、私は実務家として賛同するところでありまして、成瀬幹事が御指摘になられた、手続が硬直化するということにつきましても、私としては実務家として賛同するところでございます。 ○山本委員 「9」の公開のところなのですけれども、村山委員から、現在の公判でもプライバシー上問題ないという指摘がありましたが、現在の公判では、被害者情報の秘匿という制度が前提となっておりますので、ここでいう公開というところについても、その配慮は同様にしていく必要があると思っております。 ○田岡幹事 成瀬幹事や池田委員の御発言を聞いていますと、裁判所が期日を指定しようと思えばできるのだから、事案ごとに柔軟にすればいいのだと、言わば裁判所を非常に信頼しておられる性善説的な考え方をとっておられるように思われます。   しかし、現実の再審請求事件において裁判所に任せていては問題が生じているから、期日等の手続規定を設けることを提案しているわけです。つまり、再審請求をしてから1年たっても2年たっても期日が開かれない、再審請求人が裁判所に対して三者協議をしましょうと言っても期日を開いてもらえない、一体いつ期日が開かれるのだろうと思っていたら、いきなり突然再審請求棄却決定が届くと、これでは手続保障も何もあったものではありませんし、そもそも再審請求書を読んでもらえたのかどうかも分からないわけです。   また、検察官の中には、再審請求手続においては検察官は当事者ではないと言い張って、弁護人が直接連絡しても連絡を受け付けない、弁護人が直接書面を送っても受け取らない、検察官が書面を出す際にも裁判所には出すが弁護人には渡さないなどと、検察官が再審請求人・弁護人と連絡を取ろうとしない実例があります。そうなりますと、再審請求人としては、裁判所が期日を指定して、三者協議を開いてもらわないと、検察官とコミュニケーションをとることすらできないわけです。   このような場合に、裁判所が適切に期日を指定して、三者協議をすることができれば問題ないのでしょうけれども、現実には期日が開かれずに問題が生じているから、期日を指定して、検察官に出席してもらい、再審請求人・弁護人の意見を聴きましょう、また、事実の取調べをして、今何が行われているのかということの共通認識を持ちましょう、そのために期日等の手続規定を整備しましょうと提案しているわけでありまして、その必要性については、私は疑いのないところではないかと思っています。   その上で、期日の中にも様々なものがあるというのは先ほど平城委員から御指摘があったとおりでして、必ずしも全ての手続を公開法廷における期日で行う必要はなくて、それとは別に進行協議や打合せのようなものがあっていいと思います。実際に、控訴審でも第1回公判期日において控訴趣意書と答弁書を陳述した後に、事実取調べの採否については進行協議をしましょうということで、三者が非公開の会議室に移動した後に、率直なところ、ここはどうなのですかといった進行協議をして、決定している実情がございます。公開の法廷でしなければならないことと、そうではないことは分けられると思いますので、それぞれについて規定を設ける、例えば第一審で言えば刑訴規則178条の6の打合せのような規定があれば、再審請求手続においても三者協議が行われるようになると思うのですが、現在はそのような手掛かりとなる規定がありませんので、現実には三者協議すら行われない事例があるということを御認識いただいた上で、公開法廷で行うべきこととそうでないことを整理した上で、それぞれに規定を設けることが適切であると考えます。 ○大澤部会長 スクリーニングの規定を設けるかという話があって、そこで審理を行う決定をしたということになると、その後、そのような決定があったものを放置しておくわけにはいかなくなるのではないか、その意味で、スクリーニング規定を設けて審理を行う決定をするということ自体が手続を進める意味合いも持ってくるのではないかいう気がしますが、その点について何かお考えはございますか。 ○田岡幹事 そうなればいいのですけれども、スクリーニング規定を設けても、どのように運用されるかは分かりません。今まで、余りに何も手続規定がなくて問題があったものですから、法律や規則を改正するだけではなくて、運用を変えるには法曹三者の姿勢が同時に重要になってくると思います。せっかくこういった会議をやっているわけですから、その点についても共通認識を持つことができればよいのかなとは思います。 ○大澤部会長 鴨志田委員、お願いします。 ○鴨志田委員 補足させてください。今、田岡幹事がおっしゃったように、対応の仕方というのは本当にいろいろあって、例えば私は再審請求をした当日、これは申立て当日ですから、まだもちろん裁判所は何も見ていない状態です、申立書が出たその日に、もうその場面で弁護人との面談に応じて、事実上の事実取調べの期日を決めていくというような訴訟指揮をされた裁判体にも当たったことがあります。また、進行協議期日と打合せ期日を分けて、打合せは二者とやってもいい、進行協議というときになると三者一緒になってやるというような様々な工夫がされて、そういう信頼のおける裁判体に当たったことももちろんございますので、全部が全部、田岡幹事が言うような、全く押しても引いても何も反応がないというばかりではないのです。   ただ、こういう裁判体もある一方で、全く本当に一回も、期日を設けてくれということを繰り返し要請してもなお、期日を設けないまま棄却決定をぺらっと送ってくるというケースが、しかもこれは確か、かつて実際に具体的な事件名を挙げていると思いますけれども、名張事件の第10次請求審と豊川事件請求審ですが、これらの事件はいずれも一審が無罪の事件なのです。名張事件に至っては一度は再審開始決定も出ている事件なので、これをスクリーニングに掛けてはじかれるなどということは絶対にあり得ないような深刻な事件でありながら、しかも名張事件は死刑再審ですから、実際にそういう対応された例があるということを申し上げたいのであって、それがやはりなべて最低限きちんとした期日の設定の中にはまっていくような、そういうルールを作ってほしいと。その一助とするためにスクリーニングがうまく活用されて、スクリーニングに残ったものはきちんと普通に期日が入っていくというふうになるのであれば、それはあとはルールの作り方の問題だと思います。ただ、やはり事実の共有認識というのは必要だと思いますので、そこは御理解いただきたいということを最後に申し上げておきたいと思います。 ○大澤部会長 大分この論点の話が長くなっておりますが、いかがでしょうか。更に御発言はございますか。   よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 それでは、この論点はここまでということにしまして、次に、「第8」の「4 請求理由の追加・変更に関する規律を設けるか」について審議を行いたいと思います。御意見等がある方は挙手をお願いします。   ○村山委員 やはり証拠開示によって新証拠が得られるという場合が、実際に開始決定になった事件はほとんどそうなのですけれども、そういった場合に請求理由を追加できるということができませんと、実際その証拠と請求理由が符合しないということが当然起きてきますので、当然その追加・変更というのは許されなければならないと思います。他方、例えば請求棄却決定があった場合に、即時抗告審でそういうことができるのかどうかというのが即時抗告審の性質等の関係で問題があるというのは、それは私もそういう問題があるとは思っていますけれども、少なくとも請求審の段階で請求変更の必要が生じて、それが書面によってなされるということがあれば、それは認めるべきだと思っていますし、現に今までの実務でもそれは認めていたものと認識しています。 ○大澤部会長 ほかに御発言はございますでしょうか。 ○江口委員 請求理由の追加・変更に関する規律に関しましては、第7回会議で述べたとおりでございますが、即時抗告審・異議審における請求理由の追加・変更について、今、村山委員からも御発言がありましたので、付言させていただきます。   第7回会議で田岡幹事が御発言されておられましたとおり、抗告審において新たな証拠が開示された例があることは否定しませんが、たまたまそれが別の再審事由になり得るとしても、その追加を抗告審で認めることは、やはり抗告審の事後審としての性格にはなじまないように思っております。このことは平成17年3月16日の最高裁決定でも明らかにされていると理解しております。   仮に今回、抗告審におきましても請求理由の追加・変更を認めるということであれば、当該最高裁判例が不当である、あるいは現在においては既に妥当しなくなっていることを指摘する必要があるかと思いますが、別の再審事由について新たに再審請求を申し立てることは現行法上何ら制限されていないのでございまして、直ちに新たな再審請求を申し立てることは可能なわけですから、審級制度を無視してまで、抗告審で追加を認めるべき必要性が見いだせず、さきに述べた最高裁判例が不当である、あるいは妥当しなくなっているという状況にはないように思っております。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○田岡幹事 第7回会議でも発言しましたが、確かに先ほど江口委員が引用された狭山事件の特別抗告決定、最高裁判所平成17年3月16日決定は、抗告審・異議審においては事後審の性格に照らして新たな主張ができないという判断を示しているわけですが、他方で財田川事件の特別抗告決定、最高裁判所昭和51年10月12日決定や、ロシア人おとり捜査事件の即時抗告決定、札幌高裁平成28年10月26日決定は、再審請求人が主張していない再審開始事由を認めて再審開始決定をしているわけでございまして、即時抗告審及び特別抗告審においても、裁判所は必ずしも再審請求人の主張する再審開始事由にとらわれずに、それを離れて再審開始時決定をすることができるというのであれば、再審請求人がそれをできない理由はないのではないでしょうか。   先ほど江口委員は、その場合には直ちに新たに再審請求を申し立てればよいと発言されましたけれども、そうしますと第1次再審請求が即時抗告審又は異議審に係属しているにもかかわらず第2次再審請求がなされることになりまして、それぞれの判断が食い違ったとしても、再審開始事由はそれぞれ異なっているので問題はないのだというのかもしれませんが、再審棄却決定に即時抗告を申し立てている最中に再審開始決定がなされることがあり得ることになり、手続が複雑になりますので、複数の再審請求が併存する形というのはやはり望ましくはないのではないかと思います。そうしますと、即時抗告審又は異議審において新たな証拠が開示された結果、再審理由の追加・変更が認められるとした方が、手続が複雑にならずに、手続全体の長期化を防ぐことができるのではないかと思います。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○成瀬幹事 第7回会議において江口委員が述べられ、先ほど村山委員も述べられたように、現在の裁判実務においても、請求理由の追加・変更は、再審請求審の第一審においては、一定の範囲内で行われているとのことであり、そのような運用がなされている中で、あえて法律において規律を設ける必要はないように思われます。   その上で、田岡幹事から、第7回会議と今回の2回にわたって、判例・裁判例に基づく御意見が示されましたので、その点について私の理解を申し上げます。   まず、請求理由の追加・変更を認めなかった判例として、白鳥決定と狭山事件第2次再審請求特別抗告審決定の御紹介がありました。これらは、田岡幹事も指摘されているように、上訴審において、請求理由の追加・変更をすることは不適法であると判示したものであり、再審請求審の第一審において、請求理由の追加・変更をすることが不適法であると判示したものではありません。   また、田岡幹事は、財田川事件第2次再審請求特別抗告審決定やロシア人おとり捜査事件即時抗告審決定に言及しつつ、「再審請求人が主張すらしていない再審理由に基づいて再審開始を認めている裁判例がある」、「再審請求の裁判所あるいは抗告裁判所は、再審請求人の主張に拘束されず、再審理由の追加・変更をしている」旨の指摘もしておられました。   私は、この御発言の趣旨を必ずしも十分に咀嚼できておりませんが、再審請求審において、裁判所は、再審請求者の主張する事実に拘束されるとしても、法律的見解にまで拘束されるものではないと一般的に解されているところです。より具体的に申し上げれば、再審請求者の主張する事実が刑事訴訟法第435条各号に列挙された再審開始事由のいずれに該当するかという法的判断については、裁判所自ら行うことができると考えられています。   田岡幹事から御紹介のあった両決定も、このような一般的な見解を前提とするものであると考えられ、裁判所が、再審請求者が主張していない事実に基づいて再審開始を認めたり、再審請求者の主張に拘束されずに、再審理由の追加・変更をしたりしたものではないと思います。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○池田委員 私も即時抗告審・上訴審における主張の追加・変更について意見を申し上げたいと思います。   上訴審で新証拠が開示された場合に追加・変更が許されないのは、訴訟経済に反するという御指摘が先ほども田岡幹事からあったところでありますけれども、前提として、一般に上訴審においても再審請求者が抗告の趣意の理解に資する参考資料を裁判所に提出することは許容され得るものとされています。その上で、先ほど江口委員からも御指摘があったように、上訴審における請求理由の追加・変更を認めることは、上訴審が事後審であることとの関係で理論的に困難な課題があると考えております。仮に、上訴審において請求理由の追加・変更を認めることとしますと、再審請求事件が確定するまで請求理由の追加・変更ができることとなる結果、第一審の軽視や散漫な審理を招くなど、運用の弛緩を招き、再審請求の手続全体の円滑かつ迅速な進行が損なわれるという懸念がございます。   以上を踏まえますと、検討課題に示されている課題を解消するに足りる説明は、なおなされていないと考えております。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○宮崎委員 第7回会議において議論がありましたように、何らの制限もなく請求理由の追加・変更をすることができることとすることについては、それを再審請求審の第一審の係属中に限ったとしても、次々に請求理由が追加・変更されていくことにより当該再審請求に係る審理が長期化してしまうおそれがあるところ、請求理由の追加・変更の在り方について議論の蓄積がなく、定まった実務上の運用や見解がない中で、特定の立場に立って具体的な要件を定める規律を設けることには慎重であるべきであると考えます。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。   どんな場合に変更しないといけないのだろうかという点が少し分からないところもありまして、というのは、新たに証拠が開示されるというときに、それが元々の請求理由に関連するものとして開示されてきたということであるとすると、元々の請求理由と新証拠を起点とした証拠の総合評価、再評価の一環として出てきたものだということになって、それは別に請求理由を変えなくても、元の請求理由について判断する範囲内の問題になるのではないかという気もするのですけれども、そういう場合はどういう扱いになる前提で御発言されていますでしょうか。 ○田岡幹事 おっしゃるとおり、例えば6号再審の場合には、新証拠といっても、再審請求人が当初提出した新証拠に限られるわけではなくて、その後に開示された証拠も含めて、事実取調べの対象となった新証拠を全て見た場合に明白性があるかどうか、更に言えば、その新証拠と旧証拠を総合評価するわけですので、その総合評価の中には様々な証拠や事実が含まれてくることになりますので、それらを含めて、明白性があるかどうかを判断しているものと理解しています。そうすると、従来は、当初の再審請求理由とおよそ異なる再審請求理由にならない限りは、主張の追加・変更は認められてきたと理解していますし、即時抗告審又は異議審であったとしても、新証拠が増えたとしても、号が異なる場合は別ですけれども、6号再審の中では、主張の追加・変更は認められてきたと理解しています。   例えば、袴田事件の第2次再審請求において、再審請求審では6号を主張していたのに、即時抗告審で1号、2号、7号を追加して、刑訴法437条の確定判決に代わる証明があると主張することについては、即時抗告審で新たな再審開始事由を追加することはできないとされたわけですが、従来は、6号の中であれば、主張の追加・変更は認められてきたと理解しています。もちろん法的判断は裁判所が決めることで、再審請求人の主張に拘束されるわけではないのでしょうけれども、もともと、新証拠があるという主張だったものが、証拠の偽造だということになると、号が異なるので、それは当初の再審開始事由とは異なりますねと、そういうところで、判断しているのかなと理解しておりました。 ○村山委員 6号再審の場合に、例えば犯人性を争って新証拠を出したと、ところが開示証拠によって、それは事件ではなかった、事故だったというような証拠が出てきた場合に、請求理由としてその場合でも同じといえるのかというのは、6号再審の場合にどうなのかということです。当初出してきた証拠からすると、犯人ではないという形で理由を立てていたのが、実はそもそも事件ではなかったのだという証拠が示されたときに、いや、これはそもそも犯罪ではないのですよと理由を立てたら、それも関連するから同じ理由なのだと見てくれるかというと、ここはどうなのでしょうか。そういう場合は、やはり変更を認めないとまずいのではないかと思うのです。極限的には、即時抗告審で検察官がそれまで出していなかったものを、仮にそういうものを出してしまうと、そういう場合には本当にどうしたらいいのかというのは、私自身も非常に悩ましいところがあるというのが率直なところなのですけれども、この辺は少し御意見のある方があれば教えていただきたいと思っております。 ○田岡幹事 即時抗告審で新たな証拠が出てきた場合に、同一理由での次の請求ができなくなるかどうかというところが一番問題になるのだと思うのです。つまり、即時抗告審で新たな証拠が出てきましたと、それに基づいて主張しましたが、主張の追加・変更はできませんとなった場合には、これは取り調べられていないわけですから、同一理由で禁じられないとしますと、次の再審請求ができるのですけれども、即時抗告審で、一応、新たな証拠が取り調べられましたという場合には、同一の理由になるのではないかと言われて、次の再審請求ができなくなる可能性があるので、即時抗告審において、主張を追加・変更する以外に方法はなくなるのです。その問題を整理しておいてもらわないと、再審請求人・弁護人としては、即時抗告審の中で、新たな証拠に基づく主張の追加・変更をせざるを得ないのだろうと思います。 ○村山委員 今の田岡幹事の御質問については、それは当然できるのではないですか。だって、請求理由として認めないから、即時抗告審ではそれは判断しないというわけですから、当然、再度の再審請求がその新証拠でできるというのは、論理的な帰結になるのではないかと私は思っていますけれども。 ○大澤部会長 部会の審議として、この議論はこの程度で収めて、他になお、御発言がありますでしょうか。 ○鴨志田委員 ただ、追加・変更というところが、今のお話を伺っていても、どの範囲のものを指しているのかということが必ずしも共有されていないように思いました。だから、ここはきちんと詰めなければならないと考えます。   今の話に関しては、やはり仮に請求理由の追加・変更は認められないのだということで抗告審で蹴られた場合であっても、一旦新証拠を提出してしまうと、形式的には、新規性の要件が証拠の未判断資料性ということですから、棄却はしたけれども一応提出された新証拠は見たからねと言われたら、その新証拠が次の再審で新規性を争われるということはあり得ると思います。もちろんそれが妥当かどうかと言えば、全然妥当ではないと思うのですけれども、絶対ないとは言い切れないように思いました。 ○大澤部会長 ありがとうございます。今後の請求との関係にも問題があり、見方が必ずしも定まっていないところもあるということは分かりました。   いかがでしょうか。この論点はそろそろこのあたりでということでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   ○大澤部会長 それでは、ここで休憩を取らせていただきたいと思います。              (休     憩) ○大澤部会長 それでは、再開させていただきたいと思います。   次に、「第8」の「5 事実の取調べについての請求権を付与することとするか」について審議を行いたいと思います。この論点につきましては、検討課題全体をまとめて審議を行いたいと思います。御意見等がある方は挙手をお願いします。 ○池田委員 全体について意見を申し上げた上で、特に「(1)」について意見を申し上げます。   これまでの会議で川出委員や成瀬幹事が述べられていたように、事実の取調べをするか否かについて迅速かつ明確に判断が示されることは、手続の円滑かつ迅速な進行に資するとともに裁判所の審理の進行に対する信頼確保にもつながることから、再審請求者、弁護人及び検察官に事実の取調べの請求権を認め、裁判所に応答義務を課すということは、私としても十分に意義があるものと考えております。   これに対して、第7回会議において、一般に、裁判所は、再審請求者や弁護人から提出されたものを取り調べているところ、証拠の採否という判断で再審請求審の判断に必要かどうかを逐一判断することとなれば、再審請求審を現行制度よりも複雑なものとすることになる旨の御意見がありました。ただ、事実の取調べについての請求権を認めることとしても、飽くまでもその結果を再審請求者等に明らかにするという点が変わるものにすぎず、現在の実務における事実の取調べを行うか否かの判断の在り方等を変えることにはならないと思われます。そのため、再審請求審において再審請求者等に事実の取調べについての請求権を認め、裁判所に応答義務を課したとしても、裁判実務上重大な支障を来すとは考えにくく、事実の取調べについての請求権を認めることの必要性、相当性は認められると考えております。 ○大澤部会長 ほかに御発言はございますでしょうか。 ○田岡幹事 第7回会議でも発言しましたけれども、家事事件手続法の56条などを参考に、再審請求人に事実取調べの請求権を認めるべきであると思います。その上で、家事事件手続法の56条1項は「家庭裁判所は、職権で事実の調査をし、かつ申立てにより又は職権で、必要と認める証拠調べをしなければならない」旨の規定がありまして、裁判所には再審請求理由について、必要と認める事実取調べをする権限だけではなくて、その責任があるということを明確にすべきであると思います。その上で、当事者にその請求権を認め、裁判所にその請求について判断を示す応答義務を課して、裁判所に必要と認める事実取調べをすることを義務付ける、という立て付けにすべきであると思います。   なお、不服申立てについては、第7回会議でも申しましたが、異議の申立てはできるけれども、即時抗告等の独立した不服申立てはできないので、再審棄却決定がなされれば、その終局裁判である再審棄却決定に対する即時抗告等によって上訴審で争うということにするのがよいと思います。   「(2)」の事実取調べの立会権については、家事事件手続法69条が、他の当事者がその事実取調べ、事実の調査に立ち会うことができる旨の規定があります。立案担当者によると、これは単に調書の閲覧・謄写だけでは手続保障として不十分であるので、陳述する当事者の様子を把握することが重要だという趣旨だと解説されております。このような趣旨からすると、証拠書類の取調べについてまで立会権を認める必要はないと思いますが、証人尋問や検証、鑑定などの重要な事実の取調べについては、これを期日で行うこととした上で、その期日に再審請求人が出席することができるとすることにより、事実取調べの立会権を保障すべきであると思います。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○江口委員 実際に事実の取調べについて判断をするという実務家の立場から、今後の議論の在り方について少し発言をさせていただきます。   これまでの事実取調べについての規律に関する御議論を伺っておりまして、正直に申し上げますと、具体的にどのような手続の流れになるのか、また、何を判断すればいいのかなどについて、イメージを持つのが大変難しいと思っております。例えばですが、弁護人から事実の取調べ請求があった場合に、その採否に当たり検察官に意見を聴くことになるのか、また、裁判所が職権により事実の取調べをする場合に、検察官と弁護人に意見を聴くことになるのか、さらには、仮に意見を聴くとして、どのような内容について意見を聴くのかでありますとか、弁護人から書証の取調べ請求があった場合に、裁判所は、その書証を見ずに、事実の取調べをすべきか判断をすることになるのかなど、具体的な手続や判断のイメージがまだ持てていないというところでございます。これらが具体的にイメージできない状態で、その必要性、相当性を議論するというのもなかなか難しいと感じているところでございます。   是非とも今後の議論では、より具体的な事実取調べ手続のイメージを共有して議論ができればと思っているところでございます。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○成瀬幹事 まず、先ほど、論点「第8」の「1」のスクリーニング規定の議論の際に申し上げたように、再審請求事由の有無についての審理を行う旨の決定がされた場合にのみ、事実の取調べについての請求権を付与するという仕組みとすれば、より再審請求手続の円滑化・迅速化に資するという点を確認的に申し上げます。   その上で、事実の取調べの請求に対する決定について、独立して即時抗告をすることは認めないが、異議申立ては認めるべきであるという田岡幹事の御提案について、私の意見を申し上げます。   事実の取調べについての請求権は、再審請求手続の円滑かつ迅速な進行や裁判所の進行に対する信頼確保のために認めることが考えられるものであり、その主眼は裁判所に応答義務を課すことにあります。そして、裁判所が事実の取調べの請求について判断を示せば、その段階で応答義務は果たされ、請求権の主眼は満たされたことになりますから、異議申立てを認める基礎に欠けるように思われます。   なお、通常審においては、刑事訴訟法第309条第1項により、当事者は裁判所の証拠調べに関し異議を申し立てることができるとされているところ、これは、当事者主義の審理構造を前提として、当事者の積極的関与の下に手続を円滑かつ迅速に進めるという趣旨に基づくものであるとされています。他方で、再審請求審は、職権主義の下、裁判所において主体的に再審請求事由の有無を判断する審理構造ですから、同項の趣旨は妥当しないと考えられます。   よって、裁判所が事実の取調べの請求についてした判断に対し異議申立てを認めることについては、慎重な検討を要すると考えています。   それから、事実の取調べについての立会権を認めるべきであるという田岡幹事の御提案についても、意見を申し上げたいと思います。   第7回会議において申し上げたとおり、事実の取調べには様々な態様のものがあり、その中には、そもそも再審請求者等を立ち会わせること自体、想定し難いものもあります。また、仮に事実の取調べについて一律に立会権を認めることとした場合、再審請求者には刑事施設に収容されている者も多いことを踏まえると、その者を立ち会わせるための日程調整に時間を要するなどし、円滑な事実の取調べの実施が困難となり、審理が長期化するといった事態を招きかねず、ひいては、裁判所が必要な事実の取調べの実施をちゅうちょするようになることも懸念されます。こうした点に鑑みれば、再審請求審における事実の取調べについて、一律に立会権を認めることは相当でないと考えています。   結局のところ、再審請求審における事実の取調べに再審請求者等を立ち会わせるか否かについては、職権主義の下、手続進行について主導権を持つ裁判所が、個別の事案に即して適切に対応すべき事柄であると考えられますので、田岡幹事の御説明を踏まえてもなお、事実の取調べについての立会権を認めることには、課題が多いと考えます。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○田岡幹事 仮に事実の取調べに立会いができなかった場合ですけれども、家事事件手続法の63条は、当事者及び利害関係人に通知することを義務付けており、更に70条においても、別表第2事件において事実の調査をしたときは当事者及び利害関係人に通知することを義務付けております。これは、当事者の手続保障の観点から、裁判所が事実の取調べをした場合には、当事者がその結果を閲覧・謄写する機会を保障することによって、裁判所がどのような事実の取調べをしたのかということを把握する、その上で必要な主張や反論を準備することができるようにしたものと考えられます。   また、先ほどの再審請求理由の追加・変更に関して言えば、新証拠として提出したものが既に事実取調べがなされたものなのか、それとも事実取調べが未了のものであるものかによって、次の再審請求における新規性の判断に影響し得るとも考えられることから、事実取調べをした範囲を明確にするためにも、事実取調べをしたのであれば、その決定をした上で、それを再審請求人・弁護人に通知することを義務付けるべきであると考えます。 ○成瀬幹事 今の田岡幹事の御提案について、私の意見を申し上げます。   事実の取調べをしたことを再審請求者や弁護人に知らせる必要性については、私も共感するところです。しかし、仮に事実の取調べについての請求権を認めるのであれば、同請求に対する裁判所の判断は、決定の形式でなされることになります。そうすると、当該決定は、刑事訴訟規則第34条により、再審請求者等に告知されることになると思われます。   また、裁判所が職権により事実の取調べを行う場合について考えてみますと、先ほども申し上げたように、事実の取調べには様々なものがあり、例えば、再審請求者の戸籍謄本を取り寄せる場合や弁護人から資料の提出を受ける場合など、再審請求者等にわざわざ通知をする必要性が乏しい場合もあると思われます。よって、事実の取調べをした旨の通知を一律に義務付ける規律を設けることについては、慎重な検討が必要であると考えます。 ○鴨志田委員 まず、事実の取調べの請求権については、ほぼ皆様方の間で合意形成ができているのかなと思います。これはやはり再審請求権の実質化に当たるものですから、再審請求人に事実の取調べの請求権を認め、それに呼応した形で裁判所に応答義務を課すことが必要です。固有の即時抗告は認めないものの、再審請求自体が棄却決定という形になれば、その棄却決定に対する即時抗告の理由の中で、言わば審理不尽という形で正式な取調べ請求権に対する応答義務の懈怠が違法であるということを主張できるという形になりますので、この整理の仕方は私も異存がないです。   一方で、立会権なのですけれども、この問題は、先ほど江口委員がおっしゃったように、多分なかなかイメージがしづらい、要するに、どのような事実取調べに対してどのような立会いというものが想定されるのかということが明確になっていないように思います。しかし、だからといって一律に立会権を認めないということには反対です。、例えば証人尋問を行うというときに、やはり目撃証人などの証人尋問について、直接当事者が反対尋問をする機会を与えられるのと与えられないのとでは、非常に審理の充実度が違ってくるわけです。受刑中で身柄を取られているといっても、受刑中の者が通常審で証人として召喚されることはありますし、当然そのときには警備もされます。何よりも、自分の無実を訴えて無罪判決が欲しいから再審請求をしている人が、そこで何か、例えば逃げるとかそういうことをするというのは、絶対ないとは言いませんけれども、相対的には余り可能性は高くないとも思うわけです。一方で、では、DNA鑑定に立ち会うと言ったらどうなのかといったら、なかなかそれは難しいだろうというようなことになってきますので、ここはやはりある程度の類型化なり具体的なシミュレーションの下で考えていく必要はあるように思います。それをしないまま、いろいろあるから一律に規定を設けることは反対ですという話になるのは、逆に少し短絡的ではないかと思いました。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○村山委員 「第8」の「5」に直接関連するかどうか分からないのですけれども、やはり事実の取調べをしたか、していないか、その範囲の問題については明確にする必要があって、特にこの請求権を認めるタイプになると、それはこれを請求しているというのははっきりするわけですけれども、それ以外の職権で調べるというときに、どの証拠をいつ調べたのかというのが明らかになる必要があるのだろうと思います。それは、先ほど田岡幹事が言われたような、取り調べた後の通知義務という形でなるのかなと思っていまして、まず、事実の取調べの範囲というのがはっきりするということと、あと、事実の取調べをするときに、先ほど江口委員が言ったように、どういう形でするのかという、請求行為というものを認めると、それに対して意見を聴かなければいけないのか、裁判所が判断をするというのは必ずしなければいけないのかというような問題があって、これもある程度ルール化する必要があろうかと思います。   立会権については、事実の取調べはいろいろあるではないかというのは、そのように言われれば、正におっしゃるとおりなので、全部立ち会うというのは到底無理だと私も認識しています。ただ、重要な事実の取調べというのは、ある程度皆さんのイメージでは一致しているのではないかと思うのです。そういうときに立ち会うということができるという規定がやはり必要なのではないかと思っていまして、事実の取調べはいろいろなことがあるから、その立会権というのは必要ないのだ、これを規定することは無理なのだということまで言う必要はなくて、やはり一定の場合には立ち会うことができるという権利が保障されるべきだと思っています。 ○大澤部会長 いかがでしょうか。更にどうしてもという御発言があればお受けしたいと思いますが。   よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 ありがとうございます。それでは、この論点はここまでということにさせていただき、次に、「第8」の「7 手続の受継を認めることとするか」について審議を行いたいと思います。この論点につきましては、検討課題全体をまとめて審議を行いたいと思います。御意見等がある方は挙手をお願いします。 ○成瀬幹事 私は、検討課題「(1)」について意見を申し上げます。   第7回会議において川出委員も述べておられたように、再審請求者が死亡した場合において、その死亡後に受継の申立てがされて手続が引き継がれるのか、受継の申立てがされずに手続が終了するのかが決まらない状態が長期間継続することは、再審請求手続の円滑化・迅速化の観点から受継を認める趣旨に反することとなり、相当でないと思われます。そして、再審請求権者は、別途自ら再審請求をすることも可能であることも踏まえると、受継を申し立てることができる期間については、比較的短期間とすることが相当と考えます。   そのことを前提に、具体的な期間を検討するべく他の場面の規律を見てみますと、例えば、刑事補償法に基づく刑事補償の請求については、同法第18条第1項により、請求者が手続中に死亡した場合、その相続人は、その死亡から2か月以内に手続を受継することができるとされています。   刑事補償請求権は、同法第7条により、無罪の裁判が確定した日から3年が経過すると行使することができなくなるため、例えば、請求者である無罪の裁判を受けた者が、無罪の裁判が確定した日から3年以上経過した後に死亡した場合には、その相続人は、別途自ら刑事補償の請求をすることができず、死亡した請求者が行っていた手続を受継しない限り、刑事補償の請求をすることができなくなります。   こうしたことを踏まえ、刑事補償法においては、手続を受継するか否かを判断するための期間を2か月としていると考えられます。   これに対して、再審請求権者は、先ほども申し上げたように、自ら再審の請求をすることができる期間に制限はなく、受継の申立期間が経過した後も、別途、自ら再審の請求をすることができることからすると、再審請求者の死亡後、再審請求手続の受継を申し立てることができる期間は、刑事補償の場合の2か月よりも短いものとすることが考えられます。   他方で、受継をするか否かを決するに当たっては、それまで再審請求手続に関与していなかった者が新たに当該手続に関与してそれまでの手続の蓄積を引き継ぐか否かを判断する必要があることから、その申立期間は、既にその手続に関与していた者が控訴・上告をするか否かを判断する場合の14日よりも長いものとすることが相当でしょう。   こうしたことを踏まえると、再審請求手続の受継の申立てをすることができる期間は、例えば、1か月とすることが考えられます。   ちなみに、手続の性格は全く異なりますが、第7回会議で田岡幹事が言及しておられた家事事件手続法第45条第3項も受継の申立期間を1か月と規定しています。   このように、1か月という期間については、既に他の法分野において立法例が存在していることを申し添えます。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○田岡幹事 先ほど成瀬幹事から、第7回会議における私の発言を引用していただいて、家事事件手続法第45条第3項を参考に、1か月以内に受継できるとしてはどうかという御提案がありました。確かに、家事事件手続法45条3項は他の申立権者による受継を認めた規定でございますので、今回の再審請求手続の受継と類似した場面を想定していると思われますので、1か月とすることも考えられるとは思います。   ただ、再審請求手続の場合には定期的に期日が開かれないために、再審請求人が死亡してしまっていることに弁護人及び他の再審請求権者が気付かず、気付いたときには既に1か月が経過してしまっているといった事態も容易に考えられます。報道によりますと、三鷹事件では、事実取調べとして証人尋問が決まった後に、再審請求人が死亡していたことが判明したために、再審請求手続は終了すると報じられておりますけれども、このように1か月という受継期間の起算点を、家事事件手続法は第1項の事由が生じた日、申立人が死亡した日としているのですが、再審請求の場合には、死亡した日から1か月とすると、短すぎるのではないかということを危惧しております。かといって、死亡したことを知った時から1か月としますと、再審請求権者が複数いる場合に、その期間が異なることになり複雑になりますから、私は、1か月より長い期間としてもよいのではないかと考えております。日弁連改正案は6か月ですけれども、6か月に必ずしもこだわる趣旨ではありません。   その上で、「(2)」なのですけれども、複数の者が受継の申立てをした場合にどうなるのかというのは、確かに悩ましい問題でして、家事事件手続法45条でも恐らく同じような問題が起こり得ると思うのですが、私が調べた限りでは、特に不都合があるとは認識されていないようでして、そのような場合の取扱いについての議論自体がないようです。ただ、現行法でも複数の者が同時に再審請求すること自体はあり得るわけでして、その場合には同時並行的に審理を進めている実情がございますので、そのような場合と同じように、複数の者が受継をした場合には複数の者が再審請求をしている場合と同様に、複数の者に受継を認めた上で、審理をするほかないのではないかと考えております。   また、「(3)」ですが、そもそもとして再審請求人本人が死亡した場合に、再審請求手続は当然に終了するという解釈自体が、自明のことといえるのかが問題であると思います。旧刑訴法では、不利益再審の場合に元被告人が死亡した場合に、再審請求手続や開始決定が失効するという規定があったわけですが、この場合には刑の執行ができなくなりますので、合理性があったと思います。他方で、利益再審の場合には、死亡したから必ずしも再審請求手続が終了すると理解すべき必然性はないのだろうと思います。刑訴法451条は、再審開始決定後に再審請求人が死亡しても、再審公判は終了せずに無罪の判決ができるとされているわけですから、再審開始決定後であれば、再審請求人が死亡しても無罪判決を受け得るのに、再審請求後、開始決定前の場合には当然に終了するというのは、整合性を欠くように思われます。この場合に手当てをするために、再審請求人が死亡した場合には親族が受継するということを提案しているわけですが、受継する親族がいない場合であっても再審請求手続を続行するということも考えられるのではないかと思います。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○鴨志田委員 受継の申立期間なのですけれども、今、田岡幹事から三鷹事件の実例を出していただいて、要するに、事実調べをする決定をしたときに、その決定が出たということを知らせに行こうと思ったら、数か月前に請求人本人が亡くなっていたということがあったという事例なのですが、その続きがありまして、今度は、御本人が亡くなっていますから、再審請求権者であるほかの親族がいないだろうかという探索に入るのですけれども、これが非常に難しいという実情がございます。というのは、やはり有罪の言渡しを受けた者の親族なので、世間の目を恐れて身を潜めたりとか、別の所に移ったりとか、そういうことがかなりあります。だから、受継の申立てができる者を探し出すというところにもなかなか時間を要するということが現実問題としてあり得ると思います。ですので、請求人の死亡、有罪の言渡しを受けた者の死亡を起点とするという場合には、今のような事情をやはり考慮した上での期間の設定ということが必要なのではないかと思う次第です。   複数の候補者が我も我もというような場面になったときにどうするかという話なのですけれども、今申し上げたような事情から、実際にそれほどそういうケースが出てくることはないのではないかと思います。一方において、やはり前回、弁護人が選任されている事件の場合には審理が終結しないという形にするということに対しては、法的構成とかいろいろな困難があるのではないかという御意見を頂きましたが、この点について、やはり弁護人が付いている事案の場合には、弁護人によって審理が継続できるという整理の仕方をした方が事案が困難にならないということも言えるのではないかと思います。   そもそも再審手続における弁護人の選任の効力は再審公判まで及ぶ、再審の裁判まで及ぶというのは条文上明らかでございます。また、再審請求事件と再審公判は同一の事件番号が付けられるという扱いになっていることは既に御承知だと思います。このようなことを前提としたときに、再審開始相当という判断がある程度考えられる事件について、再審請求人が再審公判中に死亡した場合はそのまま判決まで持っていけるのに、再審公判に行く前に亡くなった場合では一旦そこで終わってしまうということになると、再審無罪になるまでのプロセスが著しく異なるということになってしまう、これはやはり手続的正義という観点からどうなのかと思います。したがって、弁護人が選任されている事例では、その効力は請求人の死亡によって当然失われるということではなくて、再審請求棄却の確定又は再審公判の判決まで継続するという考え方もできるのではないかと思うところです。 ○池田委員 先ほどから田岡幹事、鴨志田委員からも御指摘があった「(2)」の点につきまして、事務当局の方に御存じであればお教えいただきたいことがあります。   ここでの検討の参考として、他の法律に規定されている受継制度、例えば、家事事件手続法や非訟事件手続法において、複数の者が申立期間内に受継の申立てを行うという場合にどのような取扱いとなっているかについて、もしお分かりでしたら御説明を頂ければ幸いです。 ○大澤部会長 事務当局に回答をお願いします。いかがでしょうか。 ○今井幹事 家事事件手続法及び非訟事件手続法におきましては、刑事局の所管法令ではないということで、お尋ねの取扱いについて把握しているものではないのですけれども、当方で調査した限りにおいては、いずれにつきましても申立期間内に複数の申立権者から受継の申立てがされた場合の取扱いについて何か定まったものがあるといった解釈や実務の運用があるものではないようであるというところまでは判明しました。 ○池田委員 他の法律においても定まった解釈や運用があるものではないということでしたので、再審請求手続において複数の者が受継の申立てをした場合の取扱いについては、再審請求手続の性質等を踏まえて考えるほかないと考えておりますが、いずれにせよ再審請求手続の受継を認めることとした場合における複数の者がそれぞれに受継の申立てをしたときの取扱いについては、優れて実務的な問題であって、今後運用の中で適切な対応を図られていくべきものであって、かつそれで足りるものではないかと考えております。 ○大澤部会長 更にございますでしょうか。 ○成瀬幹事 検討課題の「(3)」について、意見を申し上げます。   先ほど鴨志田委員の御発言の中で、弁護人が選任されているときに審理が終結しないこととする法的根拠の一つとして、刑事訴訟法第440条第2項が「弁護人の選任は、再審の判決があるまでその効力を有する」と規定している点を挙げておられました。ただ、鴨志田委員も理解しておられることと存じますが、この規定は、飽くまで再審請求者が存命であることを前提として、弁護人選任の効力期間を定めたものですので、再審請求者が死亡し受継の申立てもない場合に、弁護人のみで審理を続けられる法的根拠とはなりえないと思われます。よって、鴨志田委員の御指摘を踏まえてもなお、「(3)」の二つ目の「○」の検討課題は克服できていないと考えます。   この点に関連して、田岡幹事と鴨志田委員から、再審公判においては、刑事訴訟法第451条第3項により、被告人が死亡している場合であっても弁護人が出頭していれば審判をすることができるとされているので、再審請求審も同様に考えてはどうかという御意見も示されました。   しかしながら、再審請求審は、再審請求権者による再審請求によって手続が開始するものであり、その審判対象は、再審請求者が主張する再審請求事由の有無であることから、再審請求者が不存在となった場合には、受継の余地があることは別として、それがなされないのであれば、手続は終結すると考えざるを得ません。先ほど田岡幹事はこの点についても異論を示されましたが、少なくとも、現在の実務は今申し上げたように運用されていると思います。   これに対して、再審公判は、裁判所による再審開始決定に基づいて手続が開始し、原告官としての検察官が訴訟を追行するものであって、その審理の対象は検察官の主張する公訴事実の存否であるなど、再審請求審とはその審理構造や審判対象が全く異なるものですから、同様に考えることはできないと思います。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○田岡幹事 家事事件手続法の45条には2項がありまして、裁判所が必要があると認めるときは、他の申立権者に手続を受け継がせることができるという規定がございます。再審請求権者の範囲が広がるかどうかによりますけれども、裁判所としては、例えば、再審開始決定がなされる見込みがあると考えており、再審請求手続を他の再審請求権者に受継させたいのだけれども、受継の手続がとられない場合には、裁判所からの働き掛けによって受継をさせる、具体的には、例えば検察官に受継させるとか、あるいは弁護士会・日弁連に申立権者が広がるのであれば、弁護士会・日弁連に受継させることによって、再審開始決定を出すことができるようになると考えられます。この場合に、検察官が自発的に受継していただければいいのですけれども、恐らく受継されないでしょうから、そうすると、手続を続行するためには、そのような規定を設けることもあり得るのかなと考えました。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○池田委員 「(4)その他」ということで、上の枠囲みの「1」にあります、「再審請求をした者が死亡したときは、再審請求手続は、中断するものとする」という、この中断することとした場合の期間の進行の取扱いについて意見を申し上げます。   例えば、再審請求棄却決定後、即時抗告期間内に再審請求者が死亡するということもあり得るわけですけれども、その場合にも即時抗告期間が進行し続けるとすると、即時抗告期間が経過すれば再審請求棄却決定が確定し、その後は受継の申立期間内であったとしても受継の申立てをすることができなくなるといった事態が生じ得ると思われます。そのため、その場合には期間を進行させない取扱いとすることについて検討する必要があると考えます。その上で、期間を進行させないこととする場合に、再審請求棄却決定後、即時抗告期間内に手続を受継した者にとって、即時抗告を行うかについて慎重に検討する必要があることも踏まえますと、このような場面で受継がされた場合の即時抗告期間としては、再審請求者の死亡の時点における即時抗告期間の残存期間とすることのほかに、改めて即時抗告期間の全体を進行させるとすることについても検討の余地があるのではないかと思っております。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。   よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 ありがとうございます。それでは、「7」につきましてはここまでということにいたしまして、次は「第8」の「8 審理の終結及び決定日を告知することとするか」について審議を行いたいと思います。この論点につきましては、検討課題全体をまとめて審議を行いたいと思います。御意見等がある方は挙手をお願いします。 ○村山委員 この点については、従前議論したときもそれほど異論はなかったのではないかと認識しております。やはり請求人にとっては、いつ決定が出るかというのは非常に関心のあることでありますので、事前に告知してもらうという利益は非常に大きい一方、裁判所側も計画していることですので、いつ決定を出すかというのは合議体であれば合議体で普通は決めていると思うのです。それを明確化するという意味で、この審理終結及び決定の日を設けるということは意味がありますし、それから審理の終結日を設けるというのは、例えば書面などを出すというのを五月雨的にどんどん出されますと判断しようとする範囲が不明確になる、そういう意味では決定がほとんど出来上がった後に提出されても裁判所も困るということもあるので、ここまでに出してくださいというけじめを付けるという意味でも、審理の終結日を宣言するというのは意味がありますし、それに伴って決定日を告知するというのも当事者にとって非常に意味があることですし、これを行うことはそれほど難しい話ではないと思います。是非これはそういう規律を設けることが必要だと思います。具体的な規律としては、それほど難しいことではなくて、家事事件とか、それから民事の事件でも、こういう規制をとっている法律はたくさんありますので、それを参考にして法律を作ればいいのではないかと思っております。 ○大澤部会長 他に御発言はございますでしょうか。 ○後藤委員 この規定については、仮にスクリーニング規定を設けた場合の本格的な審理を要する事案についてのものだという前提で意見を申し上げます。   仮に審理の終結の規定を設けるということであれば、ただいま村山委員も言及されたことに関連するのですけれども、審理の再開に関する規定も同時に設ける必要があるように思います。審理の終結について、恐らく終結日以降に提出された主張や証拠については審判の基礎としないという法的効果を付与することになると思われますが、そうした扱いをするとすれば、審理の再開については決して安易に認めるべきではなく、認めるべき場合としては、審理の終結後に請求人が死亡していたことが判明した場合など例外的な場面に限られ、新たな主張の追加や証拠の追加を行うために審理の再開を行うというのは基本的に否定されるべきではないかと考えております。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○成瀬幹事 二巡目の議論になって、この論点については、ある程度、共通認識が形成されていると思います。私も、基本的には村山委員の御意見に賛成するものですが、念のため、第7回会議において指摘された点について、意見を申し上げたいと思います。   第7回会議においては、「再審請求手続は職権主義構造を採っているから、再審請求者・弁護人及び検察官の攻撃防御を尽くさせるための審理終結日の指定やその通知に関する規律を設ける必要はない」という御指摘もありました。   しかし、先ほど「第8」の「6」や「第8」の「5」の論点で議論があったように、意見陳述の規律を法律上明確化したり、再審請求者・弁護人及び検察官に事実の取調べの請求権を付与することとする場合には、審理を終結する日を指定し、これらの者にその通知をして、意見陳述や事実の取調べの請求の期限を明らかにすることは、これらの者に対し再審請求手続の進行について予測可能性を与えることとなり、手続の円滑な進行及び手続保障に資すると考えられます。   なお、他の決定手続においては、一般的には、事実の取調べの請求権が付与されていませんので、事実の取調べの請求権を付与することとする場合に、再審請求手続についてのみ審理終結日の指定やその通知に関する規律を設けることとしたとしても、刑事手続全体との整合性は問題とならないように思われます。   また、第7回会議においては、「裁判所は、実務上、重要な再審請求事件については決定日を再審請求者・弁護人及び検察官にあらかじめ伝えているので、わざわざ決定日の指定やその通知に関する規律を設ける必要性はない」という御指摘もありました。   しかしながら、裁判所があらかじめ決定日を指定し、これを再審請求者・弁護人及び検察官に通知することは、決定が適時になされることを担保する意義を有するものであり、再審請求手続の円滑・迅速な進行に資すると考えます。   そして、検討課題「(2)」と関連するものの、決定日の指定及びその通知は、それをするのにふさわしい事件に限ることとし、決定日を変更できるようにするなど柔軟な対応がとれるように制度設計すれば、実際上の支障も生じないように思われます。   よって、第7回会議で出された御意見を踏まえても、審理終結日及び決定日の指定やそれらの通知に関する規律を設けることについては、必要性・相当性が認められると考えます。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○田岡幹事 第7回会議でも発言しましたが、家事事件手続法の71条と72条が参考になると考えております。   71条には「申立てが不適法であるとき又は申立てに理由がないことが明らかなときを除き」と書かれていますので、いわゆる「第8」の「1」のスクリーニング規定を仮に設けるとするのであれば、その対象になる事件については適用しないということも考えられると思います。その上で、本格的な審理を要する事案については事実の取調べの請求権が認められることからも、審理の終結日を告知する、また審判日を告知するということにすれば、家事事件手続法の71条や72条と同様の規律になります。   なお、審理終結日は事前に猶予期間を置いて定めるべきではありますけれども、家事事件手続法71条ただし書は、当事者双方が立ち会う期日においては審理終結宣言ができるという規律になっておりますので、期日において終結するのであれば、猶予期間を設けずに直ちに終結するという規律にすることも、合理性はあると思います。   最後に、後藤委員がおっしゃられた審理の再開ですけれども、制限する必要はないのではないかと思います。家事事件手続法81条2項は、家事審判の手続に関する裁判はいつでも取り消すことができると規定しており、審判日を取り消し、改めて審判日を指定することについて、特段の要件を設けておりません。仮に、審理を再開するためには厳格な要件を要することとすると、再審請求人が事実調べを請求する可能性がある限りは、審理の終結ができないといったことにもなりかねず、また、審理終結後に重要な新証拠が提出されたのに、それを取り調べることができないといった不都合が生じることも予想されます。裁判所の職権主義の手続でございますから、裁判所が一旦定めた審判日を変更して、審理を再開することとしても不都合はないのではないかと考えております。 ○川出委員 私も、審理終結日及び決定日の指定や、それらの通知に関する規律を設けること、そして、その対象を、スクリーニングを可能とする規律を設けた上で、本格的な審理を要する事件に限定するという形をとるのが妥当だと思います。   その上で、具体的な規律の在り方ですが、事実の取調べの請求権を再審請求者、弁護人及び検察官に付与するとした場合、審理が終結するとその請求権の行使等の訴訟行為を行うことができなくなり、その手続遂行に及ぼす影響が大きいことから、裁判所は、審理の終結については、これらの者の意見を聴いた上で定めるという形にすることが相当であると考えられます。また、既に御意見が出ていますように、事案に応じた柔軟な対応を可能とするため、審理終結日の変更や終結した審理の再開に関する規定を設けることも検討すべきであると思います。   他方で、決定日の方ですけれども、これは、基本的には、裁判官による記録の検討や決定書の作成等に要する時間といった裁判所側の事情によって決せられることになると考えられますので、決定日の指定に当たって再審請求者、弁護人及び検察官からの意見聴取を義務付けるまでの必要はないのではないかと思います。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○池田委員 「(2)」の具体的な規律の在り方について意見を申し上げます。   この点については、第7回会議で議論があり、日本弁護士連合会改正案や河井私案が示されておりまして、そこでは、審理終結日を定めるまでに相当の猶予期間を置かなければならないこととすることや、決定日をその1か月前までに通知しなければならないとされています。ただ、こうした規律を置くことは、いずれも再審請求手続の円滑かつ迅速な進行を阻害するおそれがあるため、相当ではないと考えております。そのような定めを設けなくとも、ただいまの川出委員の指摘にもありましたが、適切な手続を踏むことによって裁判所は事案に応じて適切な審理終結日や決定日を定めると考えられますので、特段の不都合は生じないと思われます。   あわせて、同会議で述べましたとおり、日本弁護士連合会改正案の第445条の16の後段、河井私案の第27条の後段は、検察官又は法定代理人若しくは保佐人が再審請求をしている場合、有罪の言渡しを受けた者に決定日を通知しなければならないこととしています。ただ、この場合には、有罪の言渡しを受けた者であっても再審請求についての決定に対し不服申立てをすることができず、また、刑事訴訟規則第286条に基づく意見聴取の対象となるにすぎず、手続に主体的に関与することが予定されていないことから、決定日という手続的事項を把握する必要はないと考えております。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○鴨志田委員 審理の終結日に関しては、実際、家事事件手続法上も、また実務上も、両当事者が出頭しているときにその場で審理の終結が言い渡されることもあるので、もちろん意見を聴いた上でという形になりますけれども、ここについて余り厳密に期間を設定するというようなことは、審理の進み方で、そろそろ機が熟しているなという意味での合意ができれば、厳格な猶予を認める必要はさほど高くないと思うのですけれども、決定日に関しては、先ほども申し上げたとおり、論点「10」との関係で、不服申立ての準備というようなところから、やはり直前に決定日が告知されるということになってしまいますと、抗告の準備が非常に負担になるという関係にございます。ですので、日弁連案等では1か月という書き方をしているのは、やはりその辺りのところで決定日の告知がされると、今のような問題もクリアできて、抗告期間内に十分理由付きの抗告申立てができるというような観点からの期間の検討ということになりますので、抗告との関係での考慮というものを入れていただければと思います。 ○大澤部会長 更にどうしてもという御発言はございますでしょうか。   よろしいですか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 ありがとうございました。それでは、これで「第8」が終わりということで、次に、配布資料14に沿いまして「再審請求又は再審開始決定があった場合の刑の執行停止」について審議を行いたいと思います。この論点については、「第9」の「1 再審請求があった場合の刑の執行停止に関する規定を改めるか」及び「2 再審開始決定があった場合の刑の執行停止に関する規定を改めるか」は関連しますことから、まとめて審議を行うこととしたいと思います。検討課題全体をまとめて審議を行います。御意見等がある方は挙手をお願いします。 ○田岡幹事 第8回会議でも発言しましたが、刑の執行停止の制度を設けるべきであると考えます。   まず、規定を設ける必要性ですけれども、再審開始決定前に刑の執行を停止しなければ回復し難い損害が生じることがあるということです。特に死刑の判決の場合には、執行されてしまうと取返しが付きませんので、このような場合に刑の執行停止を再審開始決定後に命じるというだけでは不十分であり、再審開始決定前に刑の執行の停止ができることとする必要性があることは明らかであると思います。   次に、規定を設けることの相当性について、刑の執行やその停止は検察官等の権限とされているということなのですが、民事訴訟法の民事再審では、民訴法403条1号で、再審の訴えの提起があった場合において、不服申立ての理由として主張した事情が法律上理由があるとみえ、事実上の点につき疎明があり、かつ、執行により償うことができない損害が生じるおそれがあることにつき疎明があったときには、執行停止の裁判ができるとされております。民事執行の申立権限は債権者にあるわけですし、執行権限は執行裁判所や執行官にあるわけですが、民事執行の権限が債権者あるいは執行裁判所や執行官にあるからといって、裁判所が執行停止の裁判ができないという規律にはなっていません。刑事の再審においても、検察官が執行権限を有しており、その裁量により執行を停止できるとしても、裁判所が必要に応じてその執行停止を命じ得るという規律を設けることに理論的な不整合はないと思われます。なお、家事事件手続法104条も同じ規律になっております。   また、第8回会議で申し上げましたけれども、現行法上、大阪高裁昭和44年6月9日決定によって、刑訴法502条の異議の申立てができるとされております。この判例は不適法な場合に限るとしながらも、明らかに再審が開始されることの見込が顕著であるなど、裁量の逸脱・濫用の場合には、刑の執行を停止しない処分が違法になるとして、刑訴法502条の異議の申立てができると解釈されております。ただ、異議の申立ての管轄裁判所が再審請求審と同じ裁判所になるとは限らないことから、このような申立てを認めるよりは、むしろ再審請求審に刑の執行停止の権限を認めた方が、再審開始事由の見込みについて適切な判断をなし得ると考えられるように思います。   なお、「(2)」の死刑確定者については、先ほど申し上げたとおり、回復し難い損害が生じるおそれがあることから、日弁連改正案は義務的に刑の執行停止を命じるということにしているわけですが、「(1)」の裁判所に刑の執行停止の権限があれば、死刑の場合には執行されてしまうと取り返しが付きませんので、回復し難い損害が生じるおそれがあるとされるでしょうから、あとは再審請求理由についての疎明があれば執行停止を命じ得ることになると理解できます。したがって、「(2)」について規定を設けないとしても、「(1)」の刑の執行停止の権限が明記されれば、死刑確定者についても、刑の執行停止を命じ得ることになると考えております。 ○大澤部会長 ほかに御発言はございますでしょうか。 ○成瀬幹事 私は、「第9」の「1」の検討課題「(1)」について意見を申し上げます。   この点については、第8回会議において、鴨志田委員から、「刑の執行は司法判断を前提とする以上、法が裁判所に刑の執行停止についての権限規定を設けることを例外視する必要はない」旨の御発言がありました。   しかしながら、同会議において後藤委員や私から申し上げた意見は、現行の刑事訴訟法は、刑の執行が司法判断を前提とするものであることを当然の前提とした上で、執行権限を行政権を担う検察官と法務大臣に委ねることを原則としており、刑の執行停止を裁判所が担う場面を例外的なものとして位置付けているという趣旨ですから、御指摘は当たらないと思います。   また、田岡幹事から、「民事訴訟法では、裁判所に執行停止の権限が認められている」という御指摘もありましたが、私法上の権利の実現を図る民事手続と刑罰権の実現を図る刑事手続との間で、執行権限や執行停止権限の分配に差異が生じることは十分に考えられるでしょう。現行の刑事訴訟法は、行政権を担う検察官と法務大臣に刑の執行権限を委ねるのを原則としていることを改めて確認しておきたいと思います。 ○大澤部会長 ほかに御意見はございますでしょうか。 ○宮崎委員 「1」の「(1)」につきまして意見を申し上げます。   第8回会議において、田岡幹事らから、「検察官が再審請求者でない場合、検察官は、再審請求事由の有無を争う立場にあることから、刑の執行停止をすることは期待できない」旨の御指摘がなされました。刑事訴訟法第442条の解釈として、再審請求があったにすぎない段階では、有罪の言渡しを受けた者は確定判決による刑の執行を受けるべき立場にあることから、再審請求が認容される蓋然性があり、かつ、刑の執行により被収容者が回復困難な不利益を被るおそれがあるというような例外的な場合を除き、刑の執行を停止すべきではないと解され、このことは、判断者が検察官であれ、仮に御提案のような法整備を行うとした場合の裁判所であれ、同じであると考えられます。   仮に、刑の執行停止に関する規律を改めるべきであるという御主張の趣旨が、再審開始決定がなされていない段階において刑の執行停止は幅広く認められるべきであるという前提に立つものであるとすれば、そのような前提自体がそもそも相当でないと考えます。   その上で、一般論として、検察官において、個別の事案に応じ、刑の執行停止の要否・当否について適切に判断しているところであり、実際に、検察官が再審請求者でない場合でも、検察官が刑事訴訟法第442条ただし書により刑の執行を停止した事例もあります。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○川出委員 私からは「(2)」について意見を申し上げます。   この点につきましては、第8回会議において宮崎委員から御発言がありましたように、死刑確定者について再審請求がされた場合に、裁判所が一律に刑の執行を停止なければならないとする規定を設けますと、再審請求が繰り返される限り死刑の執行をなし得ないということになり、再審請求者に刑の執行停止の権限を与えるに等しいことになります。田岡幹事から御指摘がありましたように、死刑については執行されてしまうと取り返しがつかないことはそのとおりなのですけれども、それは再審請求がなされた場合に限った話ではありませんので、死刑を存置している現行制度を前提とする限りは、再審請求がされた場合に一律に刑の執行を停止しなければならないとする考え方はとり得ないと思います。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○村山委員 私は、「(1)」、「(2)」と両方あるのですけれども、「(2)」の方で、死刑確定者の再審請求があった場合に一律に刑を停止しなければいけないかというのは非常に悩ましいところでして、いろいろな請求があるというのは私自身が経験しているものですから、これを全部一律に停止するというのは本当に相当なのかというところは、私自身、疑問に思っているところです。ただし、逆に言うと、やはり死刑確定者の請求の中で、これはあるいはという事案があるということも間違いなくて、現に死刑確定者の再審請求が通って無罪になったという例が日本でも五つあるということも事実です。   そういうことからすると、「(1)」の方の規定、要するに、裁量的に停止ができるのだという規定はやはり創設すべきではないかと思います。そういう中で、一定の疎明がないと停止にもならないでしょうから、何でもかんでも停止ということではないわけですけれども、先ほど宮崎委員が、請求者が検察官でない場合であっても検察官が執行停止をした例があるのだとお話しになったのですけれども、それは具体的にどういう例なのかというのは私はよく存じ上げないのですけれども、それが実際に私どものイメージしている事件の範囲よりも相当狭いのではないかと予測しているところです。裁判所が一定の判断を経る、要するに執行停止するかどうかも裁判所の判断ですので、判断を経た上であれば裁量的に執行停止をするということができてもいいと思いますし、そういう規定は現行法ではないわけですから、そういうものを新設する必要があると考えます。 ○大澤部会長 ほかにはいかがでしょうか。取りあえず今、「第9」の「1」の方に議論が集中していると思いますので、まず「1」について議論を尽くすのがいいかなという感じもします。鴨志田委員、「1」に関してでしょうか。 ○鴨志田委員 「1」です。再審請求があった場合というところです。   先ほど成瀬幹事の方から、いわゆる裁判所が司法権の行使として有罪認定、量刑判断を行って、その刑を言い渡したのだからというところについて、それは所与の前提で、それを前提としても、刑の執行に関しては、刑訴法が行政権である検察官や法務大臣にその権限を与えていると、裁判所による刑の執行停止は例外的であるという御説明をされたと思うのですが、そのお話を伺ってもやはり、要するに、刑を言い渡したというのは、刑を執行するという国家刑罰権の発生の根拠を与えたという裁判所が、このような法律の定めがあるからといって言い渡した刑の執行を停止できないという話にはならないと思います。現に刑訴法448条2項のような規定があるわけで、それが例外的という位置付けをされていますけれども、法的な根拠があれば裁判所が刑の執行停止ができるということなわけですから、そのような規定を設けるということは全然あってもいいのではないかと思う次第です。   要は、検察官が適切に判断されているとおっしゃいましたけれども、やはり刑を執行している状態というのは非常に人権侵害のリスクが大きい状態なわけです。もちろん再審請求理由があるということの疎明だけではなくて、例えば有罪の言渡しを受けた者の年齢であったり、健康状態が深刻な状況にあるといったような場合も刑の執行停止を決定しなければならないような場面というのは想定されるわけです。正にそれが執行により償うことができない損害が生じるおそれのある場合ということになる場合、命に関わるような場合もあり得るわけです。袴田さんは、再審開始決定が出た段階で拘置の執行停止になりましたけれども、一歩間違えれば決定が出る前に健康状態が非常に悪くて命を落としていたかもしれないということだって想定できるわけです。そのような場合において、仮に検察官がなかなか刑の執行停止をしないというときに、そこに裁判所が決定権限を持っている、持っていないでは、やはり結論は違ってくるだろうということも十分考えなければならないと思います。なので、検察官だけでよいのだと言い切ってしまうこと自体にちゅうちょを覚えますし、そこに判断者が増えるということで、逆に弊害が生じるということも余りないのではないかと思います。   それから、「(2)」ですけれども、確かに死刑制度があって、そして確定死刑囚が言わば死刑を逃れたいというために再審請求をしている、その事件が少なからずあるということを前提としたときに、再審請求をしたというだけで裁判所に死刑の執行停止を義務付けるということが果たして妥当なのかということは、極めて難しい問題であろうということは私も思います。ただ、正に執行により償うことができない損害が生じてしまうことが類型的に存在する場面なので、ここに関して仮にこの刑の執行停止を義務付けるという規定を置かないのであれば、正にアメリカで考えられているようなスーパーデュープロセス的な、何か別の要件を立てて死刑囚に関しては手当てを行うというようなことも考える必要があるのかなと思います。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。   「第9」の「2」についてあまり御発言が出ていなかったところですが、「2」に関しては御発言はございますか。 ○宇藤委員 「第9」の「2」の方でございます。「第9」の「2」の方は、再審開始決定があった場合の刑の執行停止に関する規定を改めるかということでございますが、この点について義務的に停止するということについては反対でございます。反対の理由は、まず、現行制度との整合性に疑問があるからです。御存じのように、再審請求審は、既に通常審における審判を経て確定していることを前提としております。現行制度は、有罪の確定判決があることを前提としておりますので、そのことを当然踏まえたものであることを要するからです。確かに、請求審において、開始決定により通常審の確定力はなくなったということかもしれませんが、それだけで一律に執行停止を義務付けるということには疑問があり、十分な説明には足りないと思われます。   また、日本弁護士連合会改正案との整合性からも疑問があります。本部会の会議において、「再審開始決定は、終局決定前の中間的な判断にすぎない」という旨の御発言が鴨志田委員、村山委員を中心にあったものと記憶しております。もちろん論点ごとに検討すべき課題が異なりますので、中間的な判断としての性格が重視されるべき場合、そのことを踏まえながら議論するということはあるのかもしれませんが、ここでの文脈において、仮に、開始決定の中間的な性格を素直に踏まえたならば、中間的であるにもかかわらず、なぜ再審開始決定により刑の執行停止が一律に義務付けられるのかということになり、その説明には容易ならざるところがあるのだろうと思います。   したがって、冒頭申し上げたとおり、義務的な執行停止については反対でございます。 ○大澤部会長 ほかに御発言はございますでしょうか。 ○田岡幹事 まず、再審開始決定によって確定判決の効力が失われるのか、失われないのかということなのですけれども、民事訴訟法348条の3項は「裁判所は、判決を取り消した上で、更に裁判をする」と書かれていますから、民事再審の場合には原判決を取り消して、更に裁判をすることは明確になっているのですけれども、刑訴法の451条1項は、単に「更に審判をしなければならない」としか書いておらず、原判決を取り消すという主文が現れません。こういう条文になっているからどうなのだということを考えなければいけないわけなのですけれども、素直に読むと、原判決の効力は再審開始決定によって既に取り消されているので、更に審判をするということなのかなと。そうでないとすれば、判決主文において、原判決を取り消すとした上で、更に判決を言い渡さないと、一体いつ原判決の効力が失われたのかがこれでははっきりしないのではないかと思います。そうすると、再審開始決定の確定によって確定判決の効力が失われたという理解もできるのではないか、少なくともその執行力については失われたという理解ができるのではないかと思います。   その場合に、刑の執行確保の要請をどう考えるかということですけれども、これは通常審と同じように、勾留の制度がありますので、必要があれば勾留すればいいだけのことですし、保釈も当然できますので、必要があれば保釈を許可した上で、出頭を確保するということが可能ですから、刑の執行確保の要請を理由に刑の執行停止を義務付けることが相当でないとはいえないのではないかと考えました。 ○吉田(雅)幹事 今、田岡幹事がおっしゃったように、仮に、再審開始決定によって原判決の執行力が失われると考えた場合には、裁判所が刑の執行停止をするというような問題ではなくて、当然に効力は失われているわけですので、当然に釈放しなければならないことになりますが、その点はどのようにお考えか、また、刑事訴訟法第451条第1項の解釈として執行力が当然に失われると解すると、それは現行法の問題となり、現行の運用が、全てとは言いませんが、違法なことをやっているということになるようにも思うのですけれども、その辺りはどのようにお考えでしょうか。 ○田岡幹事 現在はそうではない解釈が採られているのだろうと思うのですけれども、今後は、刑の執行停止を義務的なものとすればよいのではないかということです。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○池田委員 私も「2」の「(1)」について意見を申し上げます。   ただいまの御議論にも関連するところですけれども、我が国の刑事訴訟法においては、再審開始決定が確定した段階では、いまだ確定判決の確定力、執行力が失われないと解するのが現時点での通説的な見解であり、現にそのような解釈を示した裁判例もあります。田岡幹事は、ドイツ法の議論も参照されつつ、先ほどのような御主張を前の会議でもされていたところですけれども、現在の日本における一般的な理解と異なる見解を前提とした法改正を行うことは相当ではないと考えております。   その上で、私も同会議で申し上げたところですけれども、再審開始決定が確定したにすぎない段階では、被収容者は依然として確定判決による刑の執行等を受けるべき立場にあることや、再審公判において改めて有罪判決が言い渡されることもあり得るので、刑の執行のため被収容者の身柄を保全すべき必要性がなくなるものではないことから、刑の執行等の停止をするか否かは、諸事情を考慮した上で裁判所が個々の事案ごとに判断すべき事柄であって、再審開始決定をした場合に一律に刑の執行等を停止しなければならないとすることは相当ではないものと考えております。   現行刑事訴訟法第448条第2項も、以上のことを踏まえて、再審開始決定をした場合における裁判所による刑の執行等の停止を裁量的なものとしていると考えられ、これを義務的なものに改めることの必要性については、なお十分な説明がなされていないのではないかと思われます。   しかも、第10回会議において再審開始決定に対する不服申立ての論点で申し上げたとおり、仮に再審開始決定について不服申立てを禁止し、上級審による審査の機会がなくなるとしますと、下級審においては上級審による審査を見据えることで慎重かつ適正な判断の下に再審開始決定がなされるという制度的な担保がなくなり、構造的に慎重さの欠如した不適正な再審開始決定がなされやすくなることが懸念されます。にもかかわらず、ここで示されている義務的なものとする案のように、再審開始決定をした場合に裁判所が刑の執行等を義務的に停止するものとすることは、本来釈放されるべきでない者の釈放を広く許すことにもなりかねず、その意味でも相当でないということになるものと考えます。   併せて意見を申し上げますが、第8回会議においても申し上げましたとおり、刑の執行や拘置の停止の決定という判断は慎重になされるべきでありまして、判断の適正を確保する必要性は高いと考えられますので、刑の執行や拘置の停止決定に対する不服申立てを一律に禁止することも相当ではないと考えております。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。   よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 また、資料中の枠で囲まれた箱の中の記載については全く御発言がありませんでしたが、箱の中の記載についてはもう皆さん、よろしいということでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 ありがとうございます。次に、配布資料15に沿いまして「再審無罪となった事件について、再審請求手続に要した費用を補償することとするか」について審議を行いたいと思います。この論点につきましては、検討課題をまとめて審議を行いたいと思います。御意見等がある方は挙手をお願いします。 ○田岡幹事 第8回会議でも発言しましたが、補足して発言したいと思います。   まず、「(1)」の必要性、相当性ですけれども、ここで「有罪・無罪を直接審理する公判手続の前段階をなすにすぎない」と書かれていますが、「前段階」というのは言い換えると公判準備的な段階である手続であるということがいえるのではないかと思います。刑訴法188条の6は、公判準備及び公判期日に出頭するに要した旅費、日当、宿泊料並びに弁護人の報酬と定めておりますので、いわゆる公判準備費用を対象としております。実際に、通常審であれば、公判前整理手続期日に限らず、打合せなどについても、旅費、日当、宿泊料並びに弁護人の報酬が費用補償の対象とされておりますし、また、弁護士の報酬には謄写費用、実験費用、私的鑑定の意見書作成費用などの実費も含まれると理解されております。その上で、最高裁判所昭和53年7月18日決定は、再審請求手続の費用は費用補償の対象にならないとしたわけですが、調査官解説の中でも、無罪の確定判決を受けた者にとっては、再審請求手続は事実上公判準備的機能を有していたことになると指摘されており、将来費用補償制度に関する立法政策を検討する際には本件は参考になると解説されているところです。   実際に、裁判例の中には、例えば、松山事件に関する仙台地裁昭和60年9月4日決定は、「右再審請求手続においては、対審的な構造のもとに多数回の期日を重ねて証拠調と意見の陳述が行われ、その弁護活動には見るべきものがあったこと、右手続において収集された証拠の多くが再審公判においても取り調べられたことがうかがわれ、右の訴訟活動をも公判期日ないし公判準備期日のそれに含めるべきである等とする所論の見解にも傾聴すべきものなしとしない」と判示しております。また、高松高裁平成6年9月12日決定は「本件では、再審請求手続において収集された証拠はほとんどそのまま再審の公判で利用され、また、公判について打合せが行われたために再審公判の事実審理が1回開廷で済んでいるのであって、右の事実の取調べ及び協議は結果として事実上再審のための公判準備的機能を果たしており、これらに請求人及び弁護人が出頭したためかなりの費用を要していることは否定すべきものではない」として、600万円を弁護人の報酬として認めております。現在でも、再審請求手続の旅費、日当、宿泊料並びに弁護士の報酬を、事実上、費用補償の範囲に含める解釈がとられているということが言えるかと思います。ただ、判例の文言上、再審請求手続の費用は費用補償の対象にならないということになっているために、どうしても限界がありますので、この際、明確にするために、再審請求手続の費用についても、費用補償の対象に含めるべきであると考えます。   その上で、「当事者主義による対審構造をとっていないために、被告人であった者及び弁護人の出頭する公判期日等がないので、旅費、日当、宿泊料を観念し得ない」とされておりますが、期日等の手続規定が設けられることになれば、期日等に出頭するための旅費、日当、宿泊料も観念し得ることとなるわけですし、また、国選弁護人制度が設けられれば、弁護人の報酬も客観的に算定可能になりますから、期日等の手続規定及び国選弁護人制度が創設されることを前提とすれば、費用補償の範囲及び額を客観的に算定することは可能になると考えます。 ○大澤部会長 ほかに御発言はございますでしょうか。 ○村山委員 実際、再審請求の弁護人を私はやったことがないのですけれども、やった方はやはり再審開始決定が確定するまでがとんでもない苦労で、持ち出しで手弁当でやっているという話は嫌というほど聞きました。そういうものに対して何ら補償できないというのが本当にいいのかということと、あと理屈で言うと、やはり調査官解説もあるように公判準備的なものなのだと言われれば、再審開始決定が公判開始決定で、それまでが公判準備なのだと考えると、補償の範囲としてそれを想定するということは決しておかしなことではないのだろうと思います。あとは金額の定額化という点では、通常審のことをある程度念頭に置けばいいのかなと思いますし、今ほど国選弁護人のという話があったのですけれども、それがセットになれば、より客観的な費用ということになるのだろうと思います。先ほど紹介のあった600万円を認めた高松の事例でしたか、これはやむにやまれず上乗せしたということだと思うのですけれども、そうであるならば堂々ときちんと報酬として、費用補償として支払うという形にすべきなのだろうと思います。 ○池田委員 現行の費用補償制度の趣旨を確認しておきますと、罪を犯したとして公訴を提起された者は、公判廷への出頭を義務付けられ、公判廷に出頭するためには旅費等の費用を支出しなければならない場合があり、その者に対して無罪の判決が言い渡されて確定した場合には、その者が応訴を余儀なくされたことによって受けたそのような財産上の損害を国の責任で補償するのが衡平の精神にかなう旨が説明されております。   これに即して考えてみますと、現時点で再審請求手続においては法律上出頭を義務付けられている手続は存在しないということになります。   また、再審請求手続に要した費用は捜査段階における費用と同様、定型化し難いことなどから、補償の対象とされなかったという説明もされているものと承知しております。   本日も田岡幹事、村山委員から様々な御指摘を頂いたところでありますけれども、再審請求手続に要した費用を補償の対象とすることの可否や当否に関しては、今私が申し上げた点について、なお十分な整理が必要であると考えられるところでありまして、私としては引き続き検討してまいりたいと考えております。 ○鴨志田委員 村山委員が再審弁護をやったことがないとおっしゃいましたので、再審弁護をやったことのある人間から一言言わせていただきたいと思います。対審構造を採っていない、公判期日もない、それに応じて補償すべき旅費、日当、宿泊料を観念し得ないとあるのですが、そのような手続規定を今後設ければ当然ですけれども、現状においても、呼び方は様々ですが、進行協議期日ですとか打合せ期日というものは開かれていますし、また、法廷を用いて非公開ですけれども証人尋問期日や請求人の意見陳述の期日というのも設けられて、これらについては全て調書化されているというのが一般的であろうかと思います。そうであるならば、それ以外にもいろいろな活動はしているわけですけれども、少なくともそういった裁判所の期日、名前はいろいろあるけれども、その期日に出頭して調書も作成されていて、客観的にそこに弁護人が出頭しているのだということが分かるものについてまで今おっしゃったような理由で補償を認めないというのは、やはり合理性を欠くのではないかと思います。   また、仮に再審無罪のゴールまでたどり着いた場合に、累次の再審を経ている事件の場合には、弁護人が何十年もその事件のために今のような活動をしてきているわけです。こういうものがやはり報われていかないと、今、再審のルールをどうしようかという話をしているわけですけれども、それは一つにはやはり手続のルールを明確化して迅速にすることで、この再審に手を染める弁護士が、いや、もう何十年も掛かるからやらなくていいという話ではなくて、無実の人を救済するための弁護活動をきちんとやろうという弁護士が参入しやすいような手続になるということにも十分意味があるのではないかと思っています。そういう面からも、はっきりそこに労力を要したのだということが客観的に証明できるような記録も残っている場合は、現行のものであっても、刑事補償の対象とするということには十分理由があると思います。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○成瀬幹事 鴨志田委員から、累次の再審請求を経た弁護人の活動に報いる必要がある旨の御指摘がありましたので、念のため、第8回会議で述べた意見を再度申し上げます。   再審請求手続に要した費用を補償の対象とすることの必要性・相当性については、先ほど池田委員からも御指摘があったように、今後、十分な検討が必要になると考えております。   その上で、第8回会議において述べたとおり、再審開始決定に至らなかった過去の再審請求手続に要した費用については、類型的に、無罪判決を得るために必要な費用とは評価し難いため、このような費用を一般的に補償の対象とすることは相当でないと考えます。   また、当該費用が無罪判決を得るために必要な費用だったといえるか否かを個別に判断することとしても、明確かつ客観的な基準に基づいて判断することは困難である上、不合理を回避しつつ簡易迅速な補償を実現するため、補償の対象とする費用の範囲を限定している現行の費用補償制度の趣旨にも反することになると思われます。   よって、費用補償の論点については今後も検討を続けるべきだと思いますが、少なくとも、再審開始決定に至らなかった再審請求手続に要した費用を補償の対象とすることは適当でないと考えます。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○田岡幹事 先ほど来、池田委員及び成瀬幹事から、今後調査検討しましょうとおっしゃっておられるのですけれども、昭和63年に衆議院及び参議院の法務委員会において附帯決議がなされておりまして、政府は再審により無罪の確定判決を受けた者に対し再審請求手続に要した費用を補償する制度について、更に調査検討すべきであるという決議がなされております。35年以上経過しているのに、政府は、調査検討していなかったということになるのでしょうか。何かなされているのであれば、それを是非教えていただきたいですけれども、35年以上調査検討していなかったのに、今から調査検討しますというのは、さすがに政府の怠慢ということになりかねませんので、速やかに調査・検討を遂げた上で、再審請求手続の費用を補償する制度を作るべきであると思います。   また、通常審における費用補償の範囲ですけれども、私も何回か費用補償の請求をしたことはありますけれども、定型化できるものに限定されているかといいますと、必ずしもそうではなくて、旅費、日当、宿泊料は客観的に明確ですけれども、弁護人の報酬には非定型のものがたくさん含まれております。例えば燃焼実験や再現実験など弁護人の立証の中には、結果的に無駄になったものもたくさんあるのですけれども、少なくとも証拠調べがなされており、無罪になるためには必要だったのだということを主張しますと、裁判所はそれを斟酌して合理的な金額を算定しているのが実情でございまして、定型化されるものに限定されているかというと、そうでもないということは申し上げておきたいと思います。 ○吉田(雅)幹事 私が言うことではないかもしれませんが、先ほど池田委員、成瀬幹事がおっしゃった、「今後も検討する」というのは、この部会の場で更に検討を深めるという意味であって、先送りするという意味ではないと私は理解いたしましたので、念のため申し上げたいと思います。 ○大澤部会長 更にどうしてもという御発言があればお受けしたいと思いますが、いかがでしょうか。   よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 ありがとうございます。もう一つ進ませていただきたいと思います。次に、配布資料16に沿いまして「再審請求審において取り調べられた証拠の再審公判における取扱いに関する規律を設けることとするか」について審議を行いたいと思います。この論点については、検討課題全体をまとめて審議を行いたいと思います。御意見等がある方は挙手をお願いします。 ○池田委員 第8回会議において申し上げましたように、再審請求審において取り調べられた証拠について再審公判において伝聞法則を適用しないということについては、事実認定の適正確保の観点から相当ではないと考えております。   この点については、第8回会議において、村山委員から、再審請求審における事実の取調べに検察官が立ち会って関与した場合には、検察官が再審公判においてその証拠の証拠能力を争うことは、禁反言の原則等により禁止されるべきである旨の御意見を頂いております。しかし、検察官が再審請求審における事実の取調べに立ち会って関与したことと、その事実の取調べで得られた証拠の証拠能力を再審公判において争うことは、それ自体として矛盾する行為ではありませんので、禁反言の考慮が及ぶ場面とは言い難いように思われます。   また、第8回会議において、田岡幹事から、再審公判の準備手続として中間的な判断を示す役割である再審請求審において、無罪等を言い渡すべき明らかな証拠とされたものについては、再審公判において当然に証拠能力が認められるべきであるとの御意見もございました。しかし、そもそも再審請求審は再審開始事由の存否を判断する手続であり、罪責の有無を改めて判断する再審公判の準備手続ではありませんし、再審開始決定が中間的な判断であるというのも、それぞれの手続の判断対象が当然に重なり合うことにはならない関係にあることに鑑みれば、それぞれの手続の位置付けの理解を正確に述べるものとはいえないように思われます。   さらに、第8回会議において田岡幹事から、再審請求審において証人尋問が実施された場合に再審公判において改めて証人尋問を実施することは、新たな弁解を生むなどして審理の混乱をもたらし、再審手続の迅速化の要請に反するとともに真実発見を妨げることにもなりかねないとの御発言もありました。しかし、伝聞法則を規定している刑事訴訟法第320条第1項の趣旨は事実認定の適正を確保するという点にあるところ、仮に、再審公判の証人尋問において証人が再審請求審とは異なる証言をしたのであれば、むしろそのことも踏まえて証言の信用性が吟味されるべきであって、手続の迅速化の名の下に、再審公判における慎重かつ適正な事実認定に意を用いなくてもよいことにはならないと考えられます。   以上申し上げたとおり、再審請求審において取り調べられた証拠について、再審公判において伝聞法則を適用しないことについては、なお検討すべき課題が残っており、相当ではないと考えております。 ○大澤部会長 ほかに御発言はございますでしょうか。 ○宇藤委員 ただいまの池田委員の御発言と重なるところがございますが、私もこの点について疑問があるということで、意見を述べさせていただきます。   既に第8回会議において、日本弁護士連合会改正案のように一律に伝聞法則を排するような規律を設けることには疑問があると私も申し上げました。仮に日本弁護士連合会改正案のような扱いを義務付けることになれば、自由な証明で足りるとされている再審請求審において取り調べられた、本来であれば刑事訴訟法第320条第1項により証拠能力が否定される証拠が、再審公判において刑罰権の存否及び範囲を定める事実の認定に供されることになり、理論的にはかなり疑問があるように思われるからです。   もちろん日本弁護士連合会改正案において前提とされているように、再審請求審においてその取扱いが争点となった証拠が再審公判において取り調べられないということは不自然であることは、そのとおりでありますが、しかし、そのことと伝聞法則を適用しないという帰結の間にはかなりの飛躍があるように思われます。例えば、学説上も伝聞例外等の解釈につき理論上、いわゆる片面的理解があり得るということは承知しておりますが、そのような学説にあっても、伝聞法則そのものの適用の否定はなされていないということではなかろうかと思います。   以上のように、伝聞法則を前提としないような形でまとめるということについては反対でございます。 ○大澤部会長 ほかに御発言はございますでしょうか。 ○鴨志田委員 確かに日弁連案では一律に伝聞法則は適用しないと読めてしまうかもしれませんけれども、私自身は再審請求審で取り調べられた証拠を例外なく再審公判でも採用し、伝聞法則も一切適用させないとは思っていません。以前も申し上げたことですけれども、もちろん日弁連の意見書に即した形で考えてきていますけれども、議論の中でこれは日弁連案を改めた方がいいと思うに至った事柄については、我々委員・幹事はそのような趣旨で発言するようにしているということは御理解いただきたいと思います。   ただ、再審開始決定の根拠となった新証拠が再審公判において取り調べられないという事態は、やはりあってはならないと思います。もちろん、有罪主張の中で、そこに対して証明力を争うというような訴訟活動がされることは、それは想定の範囲内だと思いますけれども、そもそも再審が再審開始決定に基づいて再審公判に移行するのだというプロセスを経ることを考えたときに、正に移行させる契機となった新証拠が再審公判においては取り調べられないという事態はやはり異常であると思います。   また、請求審において検察官に反対尋問の機会を与える形で事実取調べが行われたような場合、これは鑑定人の証人尋問などが想定されるわけですけれども、これは再審請求審でそのような手続を経た後に、再審公判で同じように証人尋問を行うということになれば、やはりこれが手続の重複になるということは否めないと思います。したがって、実質的に反対尋問の機会にさらされた証拠に関しては、その尋問調書は伝聞例外という形にして再審公判で採用すべきではないかと思います。   もう一つ、少し別の視点なのですけれども、宇藤委員から何度か指摘をされている、再審請求審の審理をむしろ軽量化して、再審公判が実質的な審理の場になるというようなモメントで考えるときに、今のような主張をすることはどうなのかという御指摘があろうかと思います。この点に関しましては、確かに現状の再審請求審を想定すると、非常に重たい手続をやって、今申し上げたようなフルスペックの証人尋問が行われたりするということになりますので、そうなると当然、再審公判で同じことをやれば手続の重複になるわけですので、そういった意見を述べざるを得ないのですけれども、再審請求審の手続をどのようなものにするかという問題と、この再審公判での審理をどのようなものにするかという問題は、やはり相関関係があるということは否めないと思います。この点に関しては、今日の段階でこうすべきということは申し上げられませんけれども、両者の関係を踏まえた議論がされるべきではないかということは、そのように私も思っておりますので、申し上げた次第です。 ○田岡幹事 確かに理論的にどう説明するかは難しいのですけれども、私も鴨志田委員が発言されたのと同じように、6号再審の場合に無罪を言い渡すべき明らかな証拠とされた新証拠が、再審公判で証拠能力がないために取り調べることができないといったことは、そもそも法が予定していない事態なのではないかと思われます。   例えば、福井事件において、夜のヒットスタジオの放映日の捜査報告書が無罪を言い渡すべき明らかな新証拠とされたわけですが、仮に、これを再審公判に提出しようとしたけれども、検察官が不同意とした場合に証拠能力が付与される余地があるかと考えますと、刑訴法321条1項3号には当たりそうにありませんし、作成者はそもそもまだ御存命かどうかも分かりませんので、証人尋問ができないとなりますと、証拠能力が認められないために、取り調べることができないということがあり得ることになります。福井事件ではたまたま夜のヒットスタジオの放映日を別の証拠によって立証できる可能性がありますので、別の証拠によってクリアできる可能性があるとしても、捜査報告書には証拠能力が認められないことになってしまうように思われます。これは余りに不合理だと思います。   また、徳島ラジオ商事件では、新証拠として取り調べられたものを検察官がことごとく不同意としたために、裁判所は、これを証拠物として取り調べたと聞いておりますけれども、現行の刑事訴訟法の証拠法則を潜脱したものと言わざるを得ないと思われます。しかし、そうしなければならなかったのは、検察官が、再審請求審において争う機会を与えられたにもかかわらず、新証拠として明白性が認められたものに不同意という意見を維持し続けたためでありまして、本来、検察官は、新証拠そのものについては同意した上で、その証明力を争えばよかったのだろうと思います。ですから、本来、これは再審公判における検察官の訴訟活動の当否が問題なのではないかと思いますけれども、しかし、こういうことが続くようであれば、特別に証拠能力を認める規定を設けない限り、再審請求審において無罪を言い渡すべき明らかな新証拠とされたのに再審公判で取り調べることができないといった法が予定していないような事態が生じ得るといったことだけは指摘しておきたいと思います。 ○村山委員 私も、請求審で取り調べた証拠の一定の部分については、再審公判において証拠として取り調べるということが必要だと思います。実際、再審請求審で開始の決め手になっている証拠というのはどういうのがあるかというと、一つは証拠物、これは再審公判でも証拠物として請求すれば、多くの場合は証拠能力を認められるということになると思います。あとは証人尋問、それから、鑑定をした場合、多くの場合は鑑定人を証人尋問していますので、目撃者や鑑定人の証人尋問をやると。この場合は、裁判所の調書が再審公判で請求されたときに、やはり一応、伝聞法則に引っ掛かってしまうわけですけれども、伝聞法則というのは結局、反対尋問権を保障して、そして証明力、信用性をテストするという機会を与えるということですから、それは再審請求審で検察官が立ち会って反対尋問権を行使した場合には、やはり伝聞法則の例外といいますか、伝聞法則のテストを経たものとして考えてよろしいのではないかと思います。そういう場合、検察官が同意していただければいいわけですけれども、同意しなかった場合でも、やはり反対尋問のテストを経た証拠という位置付けは可能だと思います。   更に問題なのは、今、田岡幹事が言われた書面です。捜査報告書の類でかなり重要な証拠が出てきた場合にどうするか、しかも記載内容が問題だという場合に、さすがに証拠物だという扱いをするのはやや脱法的な議論になってしまうと、ここは非常に難しいところであるのですけれども、ただ、再審開始決定の理由となっている証拠を再審公判で取り調べることができないという事態は、本当に想定していいのかという問題だと思うのです。真実発見のためには、やはり再審請求審でその証拠が非常に重しと見られて、そして開始決定に至っている場合は、当然、検察官の方でも請求審でその証拠を弾劾しているはずなのです。そういう意味でも、やはり何らかの形でそれが証拠として許容されなければならないのではないかと思います。理屈の問題としては、最後の類型のものをどのように理屈付けするのかというのは、私もよく理解しているかというと、できていないというのは正直に申し上げますけれども、必要性は非常に高いのだろうと思います。 ○大澤部会長 伝聞については、前に証人尋問の機会があったとしてもそれでは足りなくて、当の事実認定者の前での反対尋問でないと駄目だ、それを求めるのが伝聞法則だと理解されており、条文もそのように作られていますので、あえて御承知の上で、実質論としてお話しになられたということかとも思いますが、そこはもう一つ乗り越えないといけない課題があることも否定できないかと思います。   更に御発言はございますか。 ○成瀬幹事 ここまで、再審請求審で取り調べられた証拠について再審公判段階で伝聞法則を適用することの当否を巡って議論が行われてきましたが、私は、少し別の観点から意見を申し上げたいと思います。   第8回会議において、私の方から、「再審請求審と再審公判とでは争点及び証拠関係が異なることもあり得るので、日本弁護士連合会改正案のような規律を設けると、かえって再審公判の審理を遅延させるリスクを生じさせる」旨を指摘させていただきました。また、同会議においては、後藤委員や宮崎委員からも、再審公判において、争点が拡散したり、証拠調べが散漫なものとなり、審理を長期化させることにもつながりかねないといった懸念が表明されたところであり、私も両委員の御意見に賛同するものです。   これに対して、第8回会議において、村山委員から、「日本弁護士連合会改正案の第451条の2第1項ただし書のように、訴訟関係人が取り調べないことに異議のない書面又は物については、再審公判において取り調べないこととする規律を設ければ、上記のような問題は生じないと思われる」という御意見も示されました。   しかし、そもそも、公判手続における証拠調べの必要性は、両当事者の意見を踏まえつつも、最終的には裁判所の合理的裁量により判断されるべき事柄であるところ、仮に、御提案のような規律とした場合には、再審請求審において取り調べられた証拠については、訴訟関係人が再審公判において取り調べることを求める限り、必ず取り調べなければならないこととなります。これは、証拠調べの必要性の判断を訴訟関係人に全面的に委ねることに等しく、そうした訴訟関係人の判断に裁判所が拘束されることを理論的に正当化するのは困難であるように思われます。   また、仮に御提案のような規定を設けることとした場合には、第8回会議において池田委員から御指摘があったように、再審請求審において取り調べられた証拠であれば、再審公判において被告人に不利に働くものであっても基本的に証拠となりますが、そうした事態は、被告人の手続保障の観点からも問題があると考えます。   更に申し上げれば、通常審においては、証拠能力があり、必要性が認められる証拠のみが取り調べられた上で、有罪・無罪の判決がなされていますが、再審請求審においては、通常審において証拠能力等が認められない証拠も含めて取り調べられた上で、再審請求に係る決定がなされています。   このような規律を前提に、御提案のような規定を設けるということは、再審公判において、本来は証拠能力が否定される証拠が、証拠法則が働かない再審請求審において取り調べられたことのみを理由として、訴訟関係人が取り調べることを求める限り、当然に取り調べられるようになることを意味します。これは、少し言葉は悪いですが、通常審における厳格な証明を潜脱することを可能にする仕組みということもできます。   そのような仕組みを設けると、再審請求審においては、後に再審公判において必要的に取り調べられることを見越して、現行よりも更に取調べの必要性が乏しく、また、証拠能力が認められない種々雑多な証拠が提出されるという事態も懸念されるところであり、こうした事態を許容する仕組みとすることは妥当でないように思われます。   したがって、再審請求審において取り調べられた証拠について、再審公判において、原則として取り調べなければならないとすることは、相当でないと考えます。 ○田岡幹事 成瀬幹事は日弁連改正案を批判されているのだと思うのですけれども、鴨志田委員もおっしゃられたように、私どもは日弁連改正案にこだわっているわけではありません。私や村山委員、鴨志田委員の意見は、少なくとも無罪を言い渡すべき明らかな新証拠とされたものについて証拠能力が認められないために再審公判で取り調べることができないといった事態は、法が予定していないことなのではないかという問題意識から発言しておりますので、日弁連改正案にこだわっているわけではないということは申し上げておきます。   その上で、再審請求審における証人尋問は裁面調書になりますから、証拠能力が認められますので、再審公判において再度尋問しても別に構わないのですけれども、捜査報告書は証拠能力が認められませんので、不同意になりますと証拠能力が認められないのです。しかも、捜査報告書は捜査機関が作成したものであり、客観的な事実であると思われるのに、検察官が不同意と言ったら、無罪を言い渡すべき明らかな新証拠がないために有罪判決にするということで、よろしいのですかという問題提起なのです。それについて、検察官はそんなことはしませんというのだったら、それはそれでいいのですけれども、それを担保する制度がないのではないでしょうかということを私どもは問うているということです。 ○村山委員 誤解のないように申し上げると、私も田岡幹事と同じなのですけれども、証人とかそういうものについて裁面調書に証拠能力を認めるというのは、これは弾劾の機会を認めないというわけではないのですけれども、弾劾しない、特に同意・不同意という形で、明確に不同意にならないということになれば、それは当然、証拠能力が認められることになるでしょうし、やはり基本的にはそういう証拠を採用する方向だということになると、検察官の対応も変わってくるのかなと思っています。もちろん弾劾するということで証人尋問請求されるということであれば、それはもちろんすればいいと思いますけれども、基本的にそういうものを取り調べるという形にすることが必要だと思っています。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○川出委員 田岡幹事と村山委員から御指摘があった、再審開始決定の根拠となった新証拠を再審公判で取り調べられないのは不当ではないのか、それは法が予定していないことではないのかという点なのですが、恐らくその前提となっているのは、第5回会議で村山委員がおっしゃっていたように、再審請求審と再審公判は審理の対象が基本的にオーバーラップするので、その両方で取り調べられる証拠は同じであるべきだ、特に再審開始決定の根拠になった新証拠についてはそうであるべきだという考え方であろうと思います。確かに、再審請求審と再審公判の審理の対象は重なる部分が多いのですが、手続の仕組みとしては、再審公判というのは、再審請求審の審理を引き継いで更に審理を続ける手続でもなければ、再審開始決定の当否を審査する手続でもなく、再審請求審とは審判対象を異にする別個の手続です。そうである以上、それぞれの手続において取調べの対象となる証拠が異なることは、制度上当然あり得ることだろうと思います。したがって、実際の場面において、再審開始決定の根拠となった新証拠を再審公判で取り調べないことが不当と感じられることがあり得るとしても、それを法が予定していないとまでいうことはできないと思います。 ○大澤部会長 この際ということでなお御発言があればお伺いしたいと思いますが、いかがでしょうか。   よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 本当に皆様、お疲れ様でした。   それでは、本日の審議はここまでとしたいと思います。時間の関係で本日積み残しとなりました論点が残っておりますけれども、それにつきましては、次回会議において審議を行うこととしたいと思います。また、次回会議においては、本日の積み残しのほかに、「論点整理(案)」「4 再審開始事由」、「7 弁護人による援助」について審議を行うこととしたいと思います。   本日の会議における御発言の中で、具体的な事件に関する御発言などもございましたので、公開に適しない部分があるかどうかにつきましては、精査をさせていただいた上で、そのような部分がある場合には、御発言をなさった方の御意向なども確認した上で、該当部分を非公開とする等、適宜の処理をさせていただきたいと思います。それらの具体的な範囲や議事録上の記載方法等については、これまでと同様、部会長である私に御一任いただきたいと思います。他方で、本日の配布資料につきましては特に公開に適さない内容にわたるものはなかったと思われますので、公開することとしたいと思います。以上のような取扱いとさせていただくということでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 ありがとうございます。   それでは、最後に、次回の日程につきまして事務当局から説明をお願いします。 ○今井幹事 次回の第12回会議につきましては、令和7年12月2日午前9時30分からを予定しております。また、次々回の第13回会議につきましては、令和7年12月16日午前9時30分からを予定しております。詳細につきましては別途御案内申し上げます。 ○大澤部会長 本日はこれにて閉会といたします。どうもありがとうございました。 -了-