法制審議会 刑事法(再審関係)部会 第12回会議 議事録 第1 日 時  令和7年12月2日(火)   自 午前 9時31分                        至 午後 0時24分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 審議          ・「再審請求審又は再審公判における被害者参加」          ・「再審開始事由」          ・「弁護人による援助」         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○今井幹事 ただいまから、法制審議会刑事法(再審関係)部会の第12回会議を開催いたします。 ○大澤部会長 本日は御多忙のところ御出席くださり、誠にありがとうございます。   本日、後藤委員、酒巻委員、井上関係官、寺田関係官はオンライン形式により出席されています。なお、後藤委員、酒巻委員は所用のため途中で退出されると承っております。また佐藤委員、平城委員は欠席されています。   それでは、本日の議事に入りたいと思いますが、それに先立ちまして、第9回会議において鴨志田委員、村山委員及び田岡幹事から御提案がありました、更なるヒアリングの代替措置に関して、鴨志田委員から御発言があると伺っておりますので、よろしくお願いいたします。 ○鴨志田委員 福井女子中学生殺害事件に関しましては、直近で再審無罪が確定した事件ということもあり、是非ともヒアリングを実施すべきであるということを私どもの方で御提案を差し上げていたところ、時間的な問題があり、ヒアリング自体の実施は難しいけれども、それに近い形での代替的措置が検討できないかということを部会長の方からおっしゃっていただきまして、これを受けて、元被告人御本人及び弁護団と、どのような方法が考えられるかということについて協議を重ねてまいったのですけれども、最終的に、元被告人が現在少し体調が悪くて、今回、例えばビデオでメッセージを送るというようなことについては、今の時点では御協力ができかねるというお返事を頂いたものですから、この点については今回は取下げをさせていただき、福井弁護団からの意見ということに関しましては、現在、湖東事件、布川事件等の他の事件の弁護団からも意見書、要望書といったものがこの法制審の部会に提出をされているところでございますので、それと同じような形で意見書を提出していただきたいと、弁護団の方からもその意向があるということを伺っておりますので、まずは、その旨御報告をさせていただきたいと思います。   いろいろと御配慮いただきまして、ありがとうございました。 ○大澤部会長 ビデオメッセージ等を頂ける可能性がないかを探っていただきましたけれども、できなかったということで、残念ではございますが、今御発言にあったような御要望がある場合は、追って事務当局を通じて調整させていただければと思います。   次に、事務当局から本日お配りした資料について説明をしてもらいます。 ○今井幹事 本日は、配布資料18及び19をお配りしております。これらは、1巡目の議論において、それぞれの論点に関し、委員・幹事の皆様から示された検討課題等について、部会長の御指示の下、事務当局において整理したものとなります。   配布資料18は「論点整理(案)」の「4 再審開始事由」に、配布資料19は「論点整理(案)」の「7 弁護人による援助」にそれぞれ対応しています。   本日お配りした資料の御説明は以上です。 ○大澤部会長 本日お配りした資料について御意見、御質問等がある場合には、前回までと同様、関連する論点についての議論の際に御発言いただきたいと存じます。   それでは、諮問事項の審議に入りたいと思います。   本日は、まず、前回の会議でお配りした配布資料17に沿いまして、「再審請求審又は再審公判における被害者参加」について審議を行いたいと思います。この論点については、「第11」の「1 再審請求審における被害者参加を認めることとするか」及び「2 再審公判における被害者参加に関する規定を改めることとするか」について、全体をまとめて審議を行いたいと思います。御意見等がある方は挙手をお願いします。 ○山本委員 まず、再審請求審においての被害者参加を認める必要性についてですけれども、被害者が、自分が被害に遭った事件について手続が進行している際に、その手続はいつどのようなやり取りでなされているかを知りたいと思った場合でも、規定がなければ、検察官の意欲と能力に頼らなければ、それを把握できないという状況にあります。これまでの被害者の扱いを見れば、法律上の根拠がない場合には、被害者に理解のある裁判官、検察官、弁護人に当たらなければ、「規定にない」という理由で事情を把握することができず、これを解消するために被害者の関与を認める規定が設けられてきた経緯があります。   そのため、今回再審請求審において期日が設けられるとすれば、その期日において尋問が行われるとすれば、被害者がその期日に出席をして経緯を直接把握したいと思った場合に、通知という間接的なものではなく、直接把握できる規定を設けておく必要があります。そして、被害者ができる活動として、期日への出席と検察官への意見のみと限定すれば、これを不相当とする事由はないと考えます。   この点、再審請求審は、制度上、検察官が全過程に関与するものではないという御指摘がありましたが、期日に至れば検察官が関わることが想定されるため、検察官の関与を前提とすれば、問題は事実上ないと考えます。また、再審請求審は、中間的な一段階という性質はあるものの、期日が裁判所と再審請求人との間で開かれるのであれば、第8回会議で御指摘を受けた各制度とは段階を異にするものと考えられ、期日に絞って被害者が関与することは、他の規律と矛盾するものではないと思います。   なお、再審請求審は職権主義の下で行われる点で、少年法22の4の傍聴が参考になり、私としてはこれに準じてよいとも思いますが、対象が極めて限定的であって、この点に問題があると考えています。   次に、「第11」の「2」に関してですけれども、被害者参加の施行前の事件の再審公判手続において被害者参加を認めることについては、第1に、手続が進行していることから混乱が生じ得ること、第2に、再審公判手続は通常審の公判手続と一体として見るべきものであることから否定されたとの御指摘がありました。ただ、この検討は、被害者参加という全く新しい制度が実施される前になされた検討でした。実際に被害者参加の運用が始まってみると、被害者参加制度自体に混乱を生じさせるような点があるという指摘はなく、手続の混乱についての懸念は解消されると思います。また、通常審の公判手続との一体という点についても、通常審においても、審議の途中や控訴審の段階からでも被害者参加をすることを認められていることからすれば、再審公判手続に限って手続の途中からの参加を制限する理由が求められるべきであって、これが見当たらない以上は、施行前の事件について参加を肯定する方向で検討すべきものと思います。   その上で、この点を改正しなければ、一定の事件の被害者が再審公判に参加することは認められないものであって、自分の事件について、再審公判に参加したいという被害者がその道を奪われることを回避する必要があります。特に日弁連が求めている死刑判決における量刑に関する事実誤認が再審事由に採用されて、それが遡及的に適用される場合には、その事件の御遺族に再審公判への参加を求めるべき強い必要が認められます。   なお、公平についてですけれども、確かに既に参加ができなかった過去の再審公判事件の被害者との関係では必ずしも公平とは言えないものの、それを理由として新しい手段を禁止するのであれば、新しい手段を獲得する余地がなくなることから、この公平への考慮は一歩引いて考えざるを得ないものと考えます。 ○大澤部会長 ほかに御発言はございますでしょうか。 ○池田委員 私は、「1 再審請求審における被害者参加を認めることとするか」の点について意見を申し上げます。   第8回会議における宮崎委員からの御説明によれば、検察実務では、被害者等の意向を踏まえつつ、担当検察官等において、個々の事案に応じて再審請求審における審議経過等の説明を行うなどしているとのことでありました。そうであるとすれば、再審請求審における被害者参加を認めることとしなくとも、被害者等は、再審請求手続の経過や帰すうに関する情報を得ることができるものと思われます。   また、私の考えとしても、同会議で述べましたとおり、被害者等は再審の公判手続に参加することなどが可能であり、それにより、刑事裁判の推移や結果を見守り、これに適切に関与したいとの心情は十分に尊重されていると考えております。   加えて、これも同会議で述べたとおり、再審請求審における被害者参加については、再審請求審は通常審と異なり、制度上、検察官が審議の全過程に必ず関与するとは限らないため、被害者参加を可能とする上で前提ともなるべき、検察官との間での密接なコミュニケーションという基本的な条件が整わないと考えられることや、検察審査会による審査手続等について被害者参加が認められていないことを踏まえた場合の刑事手続全体としての規律の整合性という観点からも、慎重に検討する必要があると思われます。   ただいまの山本委員からの御指摘の中では、設けられるであろう期日に限って認める限りでは、検察官との関与ということが想定できるのではないかという御指摘がございましたけれども、依然として断片的なものにとどまりまして、手続全体の整合性に与える影響について、なお十分な説明がなされているとは思われませんので、私としては相当ではないと考えております。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○宇藤委員 私も、「1」の論点について発言をさせていただきます。   ただいま池田委員から御発言がありましたとおり、現行法が前提とする被害者参加制度の立て付け、また再審請求審の構造等を踏まえますと、山本委員が御発言になったような制度設計は、なかなか難しいのではないかと思っております。配布資料17の「検討課題」「(1)」にありますように、正にこの課題については、「前提となる基本的な条件が整っていない」と考えざるを得ません。仮に、期日制度を前提とした場合には、状況が変わるかもしれないとの御指摘がありましたが、そもそも請求審の手続について、公判手続と比肩し得る期日制度を導入することについては、少なくとも疑問があります。一定の手続に限って期日を決めて行うことは考えられますが、その際にも、被害者参加人にどのような役割を求めるかは、定かには想像し難いと考えております。   以上のところから、再審請求審における被害者参加を制度として設ける必要性については疑問があると思っております。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○成瀬幹事 私は、「第11」の「2」について意見を申し上げます。   第8回会議で述べたとおり、被害者参加制度は、「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」により導入されたものであり、同法の施行の際、現に係属していた事件の通常審の公判手続及び同法の施行前に判決が確定した事件の再審の公判手続は、経過措置によって適用対象外とされています。そして、前者の手続について経過措置が設けられた趣旨は、既に進行している手続に混乱が生じるおそれがあるためとされ、後者の手続について経過措置が設けられた趣旨は、通常審と再審の公判手続を一体として見るべきであることによるとされています。   これらのうち、まず、前者の手続について、既に進行している手続に混乱が生じるおそれがあるとされたことには、合理性があると思います。先ほど山本委員から、現状において被害者参加制度は安定的に運用されているので、混乱は生じないのではないかという御指摘もありましたが、同法が施行される前は被害者が公判手続に参加することは想定されていなかったのですから、同法の施行の際、既に進行している手続に混乱が生じることを避けるため、適用対象外としたことにはやむを得ない理由があったと考えます。   他方、後者の手続について、通常審と再審の公判手続を一体として見るべきという理解は、刑事訴訟法第451条第1項が再審開始の決定が確定した事件について、「その審級に従い、更に審判をしなければならない」と規定していることと整合するものであると思います。そして、この理解を前提とした場合、仮に、公判係属中に同法の施行日が到来した通常審の公判手続においては被害者参加を認めない一方で、通常審の判決確定後に同法の施行日が到来し、その後に行われた再審の公判手続においては被害者参加を認めることとすると、たとえ同一日に起訴された事件であっても、判決の確定に至るまでの期間の長短という被害者等の関与し難い偶然の事情により、公判手続における被害者参加の可否が左右されることとなり、公平を害すると考えられることから、同法の施行前に判決が確定した事件の再審の公判手続を被害者参加制度の適用対象外としたことについては、政策判断として一定の合理性があると考えられます。   そのため、これを改め、被害者参加制度の適用対象外とされている事件の再審公判手続について被害者参加を認めることとする場合には、積極的な立法事実が必要となるように思われますが、先ほどの山本委員の御意見を踏まえても、現時点において、なおそのような立法事実は明らかになっていないと思います。   第8回会議で述べたとおり、こうした事件の再審の公判手続における被害者参加を認めることとすると、こうした事件のうち、既に再審公判手続が行われた事件の被害者等と、今後再審公判手続が行われる事件の被害者等との間でも、公平性の問題を生じかねません。先ほど山本委員は、新しい措置を採る際には、公平性への配慮は一歩引いて考えるべきだとおっしゃいましたが、先ほど申し上げたように、そのような改正をする積極的な立法事実が十分に示されていない状況において、公平性を害する措置を採ることについては、ちゅうちょせざるを得ません。   よって、山本委員の御指摘を踏まえても、再審公判における被害者参加に関する規定を改め、被害者参加制度の適用対象外とされている事件の再審の公判手続における被害者参加を認めることについては、相当でないと考えます。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 それでは、この論点についてはこの程度ということにさせていただきたいと存じます。   次に、本日お配りした配布資料18に沿いまして、「再審開始事由」について審議を行いたいと思います。この論点につきましては、まず、「第4」の「1 刑事訴訟法第435条第6号の規定を改めるか」について、検討課題全体をまとめて審議を行いたいと思います。御意見等がある方は挙手をお願いします。 ○田岡幹事 私は、刑訴法435条6号の規定を改めることに賛成ですが、第6回会議において、他の委員・幹事の皆様からいただきました御意見を踏まえて、今回、日弁連改正案とは異なる案を提案したいと思ってまいりました。具体的には、要旨、「新証拠単独で、又は旧証拠、あるいは他の全証拠と総合して判断したときに、無罪等を言い渡すべきとき」という文言にしてはどうかと考えております。   理由を説明いたします。   まず、「(1)」の「規定を改めることの必要性」ですが、第6回会議において御説明しましたとおり、日弁連改正案は、白鳥・財田川決定、すなわち最高裁判所の判例の趣旨を、解釈上争いのない限度で明確にする趣旨の提案であると理解しております。ただ、第3回会議のヒアリングで、髙橋正人参考人から、日弁連改正案は6号の要件を緩和するものであるという御発言がございました。私が日弁連改正案の作成者に確認しましたところ、それは誤解であって、飽くまで解釈を明確にする趣旨のものであるから、要件を緩和する趣旨ではないという説明を受けております。もっとも、その趣旨が文言上明確でないために誤解の余地があると言われれば、それはそのとおりではないかなと思いました。   私は、日弁連改正案にこだわっているわけではありませんので、そうであれば、白鳥・財田川決定の趣旨を、解釈上争いのない限度で明確にする文言を、改めて考えればよいのではないかと考えております。   その上で「(2)」ですけれども、第6回会議において、池田委員、江口委員から、白鳥・財田川決定の判示の趣旨を一義的に確定すること自体が困難であるという御指摘がございました。しかし、白鳥・財田川決定の判旨のうち、いわゆる孤立評価説、心証引継説を否定し、総合評価説、再評価説を採ったこと、及び、総合評価、再評価の際に「疑わしきは被告人の利益に」の刑事裁判の鉄則が適用されるという点については異論はないと認識しております。池田委員から、「その認定を覆すに足りる蓋然性」の部分について見解の相違があると発言されましたが、第6回会議において成瀬幹事の論文を引用しましたとおり、少なくとも現在では、蓋然性の要件は事実上意味を失っていると理解されていると認識しております。池田委員も、この点に異論があるわけではないのではないでしょうか。もし異論があるのであれば、おっしゃっていただければよいかと思います。   その上で、第6回会議において、成瀬幹事から、「事実の誤認があると疑うに足りる証拠」という文言に改めても、明白性の判断方法は明確化されないという御指摘がございました。また、小島幹事から、「疑うに足りる証拠」という表現が、合理的な疑いという趣旨であるということが分かりにくいという御指摘がございました。確かにそれはそのとおりかなと思いました。刑訴法336条にも「疑うに足りる」又は「合理的な疑いを差し挟む」という文言はありませんので、刑訴法435条6号のみ「疑うに足りる」という表現を用いた場合に、これが刑訴法336条の無罪を言い渡す場合と同じ趣旨であるということが読み取りづらく、誤解の余地があると思いました。   既に、私は、第6回会議において、ドイツ及び台湾の立法例を引用して、「新証拠単独又は旧証拠、あるいは他の全証拠と総合したときに」と書いたほうがより明確になると私も思いますと発言しておりましたが、今回、その考えを進めまして、日弁連改正案とは異なる案を提案したいと思います。   先ほど申しましたが、「新証拠単独で、又は新証拠と旧証拠、あるいは他の全証拠を総合して判断したときに、有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑を言い渡した者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決が認めた軽い罪を認めるべき」という文言にすれば、総合評価説、再評価説を採ったこと、及び無罪等を言い渡すべきときであること、つまり刑訴法336条と同様に、刑事裁判の鉄則である「疑わしきは被告人の利益に」の原則が適用されることが明確になるのではないかと思います。   念のため申し上げますが、このような文言に改めたときには、「明らかな」という文言は入りませんけれども、これは白鳥・財田川決定の判示の趣旨を明確にする趣旨でありまして、要件を緩和する趣旨ではありません。   なお、「(3)」の「上訴理由との整合性」について、第6回会議において、江口委員から、控訴理由や上告審の職権破棄事由との整合性に疑問があるという御指摘がございました。ただ、刑訴法382条の「明らかな」という文言は、判決に影響を及ぼすことが明らかであるという意味で用いられているわけでありまして、これは、新証拠の明確性とは異なる意味であります。刑訴法411条3号の「判決に影響を及ぼすべき」という文言と、刑訴法382条の「影響を及ぼすことが明らかである」という文言は、表現こそ違えど、いずれも判決に影響を及ぼすという意味に理解されており、特段の意味があるわけではないと理解しております。   その上で、無罪等を言い渡すべきときは、当然判決に影響を及ぼすわけですから、刑訴法382条の控訴理由や刑訴法411条3号の職権破棄事由との関係で、整合性に問題があるとは考えられません。 ○大澤部会長 ほかに御発言はございますでしょうか。 ○成瀬幹事 ただいま田岡幹事から、刑事訴訟法第435条第6号に「新証拠単独又は新証拠と旧証拠、他の全証拠を総合したとき」という文言を加えることによって、証拠の明白性の判断方法について、総合評価説や再評価説を採っていることを明確化することができるのではないかという御提案がありました。   しかしながら、白鳥決定・財田川決定における証拠の明白性の判断方法に関する判示については、特に再評価の対象となる旧証拠の範囲について様々な理解があり、判例も固まっているわけではありません。この点については、1巡目の議論において、田岡幹事や他の弁護士委員の皆様も含めて、共通認識になっているものと理解しております。   それにもかかわらず、ただいま田岡幹事が提案された文言では、総合評価の対象となる旧証拠に限定が付されておらず、むしろ「全証拠」が対象になることを明示しておられます。このような文言を加えることは、証拠の明白性の判断方法に関する様々な理解のうち、いわゆる全面的再評価説を前提とする立場に依拠して、刑事訴訟法第435条第6号を改正したものであるという解釈を招きかねないように思います。   先に申し上げたように、証拠の明白性の判断方法について、いまだに確立した理解が存在しない現状に鑑みますと、御提案のような形で刑事訴訟法第435条第6号を改正することは相当でないと考えます。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○鴨志田委員 ただいまの成瀬幹事の御発言に関連して、白鳥・財田川決定の判断の解釈が統一されていない、いろいろと争いがあるということが、このような田岡幹事の主張する条文の文言を設けることについて、問題となるのではないかという御指摘であったかと思うのですけれども、そもそも白鳥・財田川決定そのものは、新旧全証拠の総合評価というところに関して何らの限定も設けていないわけです。その後の調査官解説や様々な評釈の中で、総合評価の対象となる旧証拠の範囲をめぐって様々な解釈論が展開されているということについては、私も承知をしておりますけれども、少なくとも白鳥・財田川決定の趣旨を明確化するという意味で、今田岡幹事が提案した形の条文化をするということについて、そこに不整合という問題が生じるということはないのではないかと思います。   加えて申し上げるとすると、この判例の理解に関してなんですけれども、確か昨日全メンバーに共有をされたと思いますが、机上配布資料になっている研究者からの要望書というものが提出されています。見ることができる方は、幾つかの声明とか意見書が一つの固まりになって、46ページの資料になっていると思うのですけれども、その46ページある資料のうちの19ページ以下に、4人の研究者による「再審法の改正に関する意見」という意見書が含まれています。この中で、明白性の判断方法に関する判例を、この部会で援用するときの方法に問題があるのではないかという指摘がされています。この意見書でいうと15ページ、全体の資料の通しページでいうと46ページの33ページ以下に詳細な記述がございます。   簡単に言うと、まず判例を踏襲するといっても、今、立法論を議論しているわけですから、判例の考え方に必ずしも従わなければならないという前提に立つということ自体が、余り検討されていないのではないかという点が指摘されています。それから、二つ目の問題として、ここが一番重要だと思うのですけれども、論点ごとに、この判例の理解に一貫性が見られないのではないかという指摘があります。今議論している再審開始事由の論点では、成瀬幹事の御発言のように解釈が固まっていないということで、明文化に困難があるという形での見解が主張されておりますけれども、一方で、証拠開示や証拠の一覧表の開示に関しては、限定的再評価を取るということが前提とされた意見というのが述べられていると理解をしています。このような形で論点ごとに、要は、白鳥・財田川決定の解釈が固まっていないということが前提とされて主張が展開されている場面と、限定的再評価を採っているということを前提に主張がされているという論点があるということで、この辺りの整合性ということについて発言をされた方々に、特に3巡目の議論においては、明確にしていただきたいと思っています。   話を元に戻しますが、白鳥・財田川決定において、再評価説、それから総合評価説を採る、つまり孤立評価ではないし単独評価でもないというところは、ここは誰にも争いがないところです。その限度で、今田岡幹事が提案された文言によってこの趣旨を明確化するということは、全く問題がないと思います。また、加えて言うならば、ドイツ法においても、また台湾法においても同様の文言、要は新証拠、それ単独でという部分と、又は他の証拠と総合してという、両方が含まれる形で判決を見直す必要が生じたときには、再審を開始するという条文になっているという比較法的な観点に立っても、日弁連が従前申し上げていた条文案よりは、現在田岡幹事が提案をされた新しい条文案ということになりましょうけれども、こちらの方が比較法的に見ても妥当ではないかと思います。   最後になりますが、田岡幹事の現在御主張されている提案の、「新証拠単独又は旧証拠、あるいは他の全証拠と総合して判断して」のうち、「旧証拠」とは、確定判決を支えている、言わば確定判決を元から支えている確定審で提示された証拠というものが想定されると思うのですが、マルヨ無線事件の最高裁決定では、累次の再審にまたがっている場合には、過去の再審で提出された新証拠も、新旧全証拠の総合評価に加えることができるという判例があり、これは確立してそのような扱いが採られていると考えますので、この旧証拠というところについては、いわゆる確定判決を支えている証拠だけではなくて、他の全証拠の中に含まれるのは、この累次の再審で提示された証拠も含むのだということが、趣旨として明確になるように、せっかく明確にするための条文を作るんでしたら、そこも加えた方がよいのではないかと思う次第です。 ○大澤部会長 御発言、他にございますでしょうか。 ○今井幹事 事務当局から申し上げますが、今鴨志田委員が御引用された資料につきましては、タブレット上では見ることができませんので、今言及された範囲で議論していただければと存じます。 ○鴨志田委員 机上配布で共有されている資料なので、それを援用することはできないというのはどうなのでしょうか。 ○玉本幹事 外部の方からの意見書や要望書につきましては、統一的な取扱いとして、委員・幹事の皆様には共有させていただいてはおりますけれども、机上配布はしておりませんので、そのように御理解いただければと思います。 ○大澤部会長 昨日、事務当局から委員・幹事宛に送られてきた要望書の中には入っていたということですね。 ○鴨志田委員 ここは非常に重要な御指摘だと思いますので、資料の扱いの仕切りということが今おっしゃったようになっているということは承知はしましたけれども、せっかく全メンバーに共有いただいている以上は、是非ここの部分については御確認を頂きたいと思います。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○村山委員 ここへきて、日弁連の案と全然違う案を提案するというのはどうなのかと思っておられるかもしれませんけれども、従前から言っているように、私ども、日弁連の提案というのはもちろん尊重しているわけなんですけれども、この場での議論ですね、これをきちんと踏まえた形で議論していきたいと思っておりまして、そして、田岡幹事の提案というのはもちろん、どういうものかというのは我々委員の中でも議論しているわけなんですけれども、最低限白鳥・財田川決定の趣旨を生かすとすれば、どういうものが考えられるのかということと、それから、現在の文言よりも、より白鳥決定に即した形の条文にするというのが本意であります。   総合評価の仕方について説が対立しているというのは、これは事実だし、それは否定するつもりはないのですけれども、その文言として、新証拠の単独というのと旧証拠という場合に、その旧証拠を総合的に判断しないという、例えば全証拠かどうかというのは問題あるんですけれども、旧証拠を総合的に判断しないという考え方はないと思います。そういう意味で、誰にとっても明らかな部分だけで規定を作りたいということと、あと、やはり私は、刑事裁判の鉄則である「疑わしきは被告人の利益に」というところと、現在の6号の「明らかな証拠」というのが、やはり語感として非常に、市民の方とお話などしたときに、非常に誤解をされているという部分がありまして、そこをきちんと分かるようにしたいです。   そこで、「疑うに足りる」とか「合理的な疑い」というのがあるわけですけれども、そういうのを入れると、かえってまた分かりにくくなるということで、「無罪を言い渡すべきとき」、要するに、無罪は犯罪の証明がないときというふうなっているわけでして、それが無罪だということで規定を作ったらどうかということだと思います。その明らかだというようなことで、上訴理由とのそごがあるんではないかという指摘については、先ほど田岡幹事が説明したとおりで、「明らか」というのは「判決に影響を及ぼす」というのにかかっているということが明らかですから、それは理由はないんだろうと思っていまして、要は、総合評価説の評価の仕方についての説の対立があるというのを、どのように乗り越えた形で条文が作れるかということと、あと現在の条文よりもより白鳥決定に即したものに条文を改めたいという要望で、田岡幹事のような提案がなされていると理解しています。そして、私は、田岡幹事の提案に賛成です。 ○大澤部会長 ほかに御発言はございますでしょうか。 ○池田委員 私は「(3)」の「上訴事由との整合性」について意見を申し上げたいと思います。   第6回会議において御議論がありましたし、ただいまも田岡幹事や村山委員から御指摘があったところですけれども、「明らかな証拠」という文言を、「事実の誤認があると疑うに足りる証拠」と改めることは、控訴理由や上告審における職権破棄事由よりも緩やかな基準で再審開始を認めることとなりかねず、通常審よりも再審の方が事実誤認を理由とする判断見直しの基準が下がることになりかねず、相当ではないと考えております。   先ほど田岡幹事から、無罪を言い渡すべき事実の誤認がある場合は、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある場合に当たるとの御意見が示されたところですが、日弁連案の文言によればということですけれども、無罪を言い渡すべき事実の誤認がある場合ではなく、そのような誤認があると疑うに足りる証拠がある場合を再審開始事由とするものですので、その文言自体を控訴理由や上告審における職権破棄事由の文言と比較すれば、それらよりも緩やかな基準を述べるものと解されますので、やはり相当ではないと考えます。 ○大澤部会長 ほかに御発言はございますでしょうか。 ○成瀬幹事 先ほど鴨志田委員が引用された研究者の先生方の意見書において、「法制審のメンバーは、明白性の判断方法に関する判例の理解が一貫していないのではないか」という指摘がなされている点について、私の考えを説明しておきたいと思います。   まず、鴨志田委員が指摘されたように、白鳥決定・財田川決定は、明白性の判断方法について判示する際に「他の全証拠」と述べており、特に限定を付してはいません。他方で、限定的再評価説が、その後の調査官解説や判例評釈等においてのみ主張されているかというと、必ずしもそうではありません。むしろ、その後に最高裁判所が出した判例の中で、再評価の対象となる旧証拠の範囲を限定する判示が繰り返されています。例えば、マルヨ無線事件第5次再審請求特別抗告審決定では「新証拠とその立証命題に関連する他の全証拠とを総合的に評価」と判示され、大崎事件第3次再審請求特別抗告審決定では「(新証拠の)立証命題に関連する他の証拠」と判示されており、さらに、飯塚事件第1次再審請求特別抗告審決定では、「新証拠によってある旧証拠の証明力が減殺されたとしても、そのことによって他の旧証拠の証明力が左右される関係にないならば、他の旧証拠を再評価する必要はない」という趣旨の判示までなされています。このように、再評価の対象となる旧証拠の範囲を限定する最高裁判例が現に複数存在していることを、指摘しておきたいと思います。   もっとも、白鳥決定・財田川決定の判示を明示的に変更する判断がなされたわけではありませんので、「他の全証拠」と述べた白鳥決定・財田川決定と、再評価の対象となる旧証拠を限定する複数の判例が併存している状況であり、それは正に判例が固まっていないことの証でしょう。   それゆえ、明白性の判断方法に関する判例は未だに固まっていないと言わざるを得ないわけですが、このような認識を前提としつつも、近時出された複数の判例を見る限り、常に全ての旧証拠を再評価することが求められるわけではないことが強く窺われますので、そのような現在の裁判所の運用により整合的な裁判所不提出記録の閲覧・謄写制度を模索することは何ら矛盾する態度ではないと考えております。   私は、以上のような判例理解に基づき、各論点において一貫した発言を心がけて参りました。 ○大澤部会長 ほかに御発言はございますか。   最初に鴨志田委員が言われた点ですけれども、立法論を考える場だから、判例が示している解釈があっても、必ずしもそれに拘束される必要はないのではないかという問題提起があることの御紹介を頂きました。この点ですが、再審理由を見直すということは、法務大臣の諮問において具体的な形で挙げられているわけではありません。その上で、日本弁護士連合会の委員・幹事から議論が提起されているわけですが、その中でも、現在の判例の内容をより明確化するという方向での、判例を前提とした御提案がされるにとどまっているという状況ですので、それを共通の前提にここまで議論が進んできたということだと理解しています。   現在の判例を前提にしたときにどうなるかというときに、今、成瀬幹事の御発言もありましたけれども、議論がいろいろ分かれているのではないか、そのときに、一方でそのこと自体を前提にした議論をすることもあるし、他方で最小限いえることという括りで判例の傾向を捉えて、それを前提に議論することもあるのではないか、私自身は、今のところ、これまでの議論をそのように理解していたということでございます。いずれにせよ、改めて再審理由を一から議論することを必要とするような状況はなかったことから、判例の解釈を共通の前提にここまで議論が進んできたということではないか、そのように理解しているということだけ申し上げておきたいと思います。   それでは、更に御発言があればお願いします。 ○宮崎委員 第6回会議におきまして、田岡幹事から、刑事訴訟法第435条第6号の文言について、最高裁判例の趣旨を争いのない限度で明確にする改正をすべきであり、白鳥決定、財田川決定が判示した「その認定を覆すに足りる蓋然性」には特段の意味がないということに異論はないのではないか、との御意見が示されました。今日もそのような御趣旨かと思います。   しかしながら、同会議においても御指摘があったとおり、証拠の明白性の意義について白鳥決定、財田川決定以降の最高裁判例を見ますと、まず、名張第5次再審請求の特別抗告審決定においては、「確定判決の有罪認定につき合理的な疑いを生じさせ得るか否かに帰着する」と判示された一方で、その後のマルヨ無線第5次再審請求の特別抗告審決定及び大崎第3次再審請求の特別抗告審決定においては、いずれも、「その認定を覆すに足りる蓋然性」の部分も含めて、白鳥決定、財田川決定と同一の判示を繰り返して判示されたものと承知しています。   白鳥決定、財田川決定について明示的な判例変更はされておらず、その後の最高裁決定において「その認定を覆すに足りる蓋然性」という文言が引用されていることを踏まえると、白鳥決定、財田川決定がどのような趣旨から「その認定を覆すに足りる蓋然性」と判示したのかは明らかとは言い難く、この判示の文言に特段の意味はないという解釈が実務的に固まっていると断定していいのかには、疑問が残ります。   また、第6回会議においても議論がありましたように、一般論として、一般国民から見たときに法律の文言が分かりやすいものであることが望ましいということを否定するつもりはありません。しかしながら、田岡幹事からは別案の御提案がありましたけれども、刑事訴訟法第435条第6号の「明らかな証拠」を、日本弁護士連合会改正案のように「事実の誤認があると疑うに足りる証拠」と改めることについては、そもそも様々な課題がある上、仮にそのように文言を改めたとしても、日本弁護士連合会改正案の意図するように、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則が再審請求審に適用されることが、文言自体から一般国民にとって分かりやすくなるとも思われないところでありますし、新たに御提案されたものも同様ではないかと思います。   いずれにしても、同号を改正することについての必要性、相当性は、なお十分に説明されていないと考えます。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○田岡幹事 今ほど私の提案に対して、成瀬幹事、池田委員、宮崎委員から、現在の文言を改める必要性、相当性がないという御指摘がございましたけれども、少なくとも現在の文言では、総合評価、再評価をするということが明確になっていないということは、誰の目にも明らかなのではないでしょうか。普通の人が6号の文言を素直に読めば、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したとき」というわけだから、新証拠単独で見たときに、無罪を言い渡すことが明らかかどうかということで判断するんだなと誤解されるおそれがあります。   しかし、少なくとも今挙げられました、名張第5次再審請求の特別抗告審決定、マルヨ無線事件第5次再審請求の特別抗告審決定、大崎事件第3次再審請求の特別抗告審決定でも、新証拠と他の全証拠、あるいはその立証命題に関連する他の全証拠を総合評価するという限度では争いがないわけでございまして、これを明文化することになぜそこまで抵抗されるのかが、正直よく分からないところでございます。問題は、「他の全証拠」という文言にした場合に、全面的再評価説と誤解されるおそれが出てくるのではないかということかと思いますが、私は、あえて全面的再評価説を明文化する趣旨ではないということを繰り返し申し上げておりまして、「他の全証拠」という場合に、文字どおり全証拠をいうのか、それとも新証拠の立証命題に関連する他の全証拠をいうのかは、そこは解釈の余地を残してもいいのだろうと考えております。   ただ、少なくとも新証拠単独ではなくて、新証拠と他の全証拠を総合して判断するのだということを明らかにすることには、大きな意義があると思っております。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 それでは、「1」の論点についてはここまでということにさせていただき、次に、「第4」の「2 死刑判決について、量刑等に関する事実誤認を再審開始事由とするか」について審議を行いたいと思います。この論点については、検討課題全体をまとめて審議を行いたいと思います。御意見等がある方は挙手をお願いします。 ○田岡幹事 私は、日弁連改正案435条8号、量刑等に関する事実誤認を再審開始事由とすることに賛成しますが、第6回会議における他の委員や幹事の皆様の御意見を踏まえまして、少なくとも、刑の必要的減軽事由に関する事実誤認に限って、再審開始事由とすることが考えられるのではないかということを御提案したいと思います。   第6回会議でも発言しましたが、日弁連改正案435条8号の趣旨は、再審請求審に新証拠として提出された証拠が、仮に通常審において提示されていたならば、死刑判決が言い渡されることはなかったであろうという事実が判明したときには、死刑が言い渡された事件に限って、いわゆる量刑再審を認める趣旨で提案されているものと理解しております。   ただ、ここで量刑再審と申しましたけれども、日弁連改正案435条8号を見ましても、刑の加重減免事由に関する事実誤認と量刑の基礎となる事実の事実誤認とが併記されておりまして、両者は性質が異なるものですから、「量刑等」として一緒くたに議論することは、相当ではないと思います。第6回会議においても発言しましたし、また池田委員からも御指摘がございましたが、刑の加重減免事由のうち、刑の加重事由及び刑の免除事由については議論する実益がありません。ここで問題になっておりますのは、刑の必要的減軽事由を認めるべき新証拠が発見されたとき、これが刑訴法435条6号の文言にないものですから、「軽い罪」に当たるということが必ずしも明確でないとしますと、再審開始事由としなければならないのではないかということが問題になっていると理解しております。   具体的には、中止未遂は必要的減免事由ですので、必要的減軽事由に限りますと、心神耗弱、従犯、身代金目的略取等の公訴提起前の解放、これらが必要的減軽事由ですが、これらの事実誤認を認めるべき新証拠が発見されたときを、再審開始事由としなくてよいのかということが問題になっていると理解しております。   これがなぜ死刑事件において特に問題になるかといえば、刑法68条によって、死刑を減軽するときは無期又は10年以上の拘禁刑に減軽されることから、刑の必要的減軽事由が認められるときは、本来は死刑を言い渡すことができないので、特に問題が大きいことから、再審開始事由とする必要性が高いということでありまして、これは本来死刑に限った問題ではないということを、既に第6回会議において発言していたところでございます。   その上で、「(2)」の再審開始事由とすることの相当性について考えますと、池田委員から、死刑についてのみ量刑等に関する事実誤認を再審開始事由とすると、不公平、不均衡な帰結となるという御指摘がございました。私は、死刑は特別な刑罰だと考えておりますので、死刑に限って量刑再審を認めたとしても、問題はないとは考えますが、仮に公平性、均衡性ということを重視するのでしたら、刑の必要的減軽事由の事実誤認を刑訴法435条6号の再審開始事由に加えることによって、死刑に限らず、刑の必要的減軽事由を認めるべき新証拠を発見したときを再審開始事由にするのが、一貫するのではないかと考えました。   このように、刑の必要的減軽事由と量刑事実を区別した上で、刑の必要的減軽事由を認めるべき新証拠を発見したときに限って6号の再審開始事由とすれば、幅広く再審請求がなされることとはなりませんので、確定判決による法的安定性が不当に害されるおそれ、及び、再審請求審における迅速な事件処理に支障が生じるおそれはないと考えております。 ○大澤部会長 ほかに御発言はございますでしょうか。 ○池田委員 私は、「(2)」について意見を申し上げます。   ここに検討課題が二つ挙げられていますけれども、最初の項目につきましては、第6回会議において述べたとおり、死刑判決についてのみ情状事実等に関する事実誤認を再審開始事由とすることとすれば、共犯事件において死刑に処せられた主犯格の者は、量刑等に関する事実の誤認を理由として再審請求をなし得る一方、無期拘禁刑に処せられた共犯者は、同様の事情があっても再審請求をなし得ないことから、不公平、不均衡な帰結をもたらし得ることになりますが、そのような法整備を行うことは不合理であると言わざるを得ず、この点については、田岡幹事も先ほど一定の共感を示されていたところと承知しております。   その上で、そうした不合理さを回避するためには、2番目の項目のように死刑判決に限らず、広く一般の有罪判決について、情状事実等に関する事実誤認を再審開始事由とせざるを得ないこととなると思われますけれども、そのような制度は、第6回会議で成瀬幹事が述べられていたとおり、量刑は犯情から一般情状に至るまで多種多様な事実に基づいて判断されるものであり、刑の減免事由についても多種多様な事実に基づいて判断されることから、再審請求事由が過度に広範なものとなってしまい、また、それを回避するために、かつて田岡幹事が御提案になっていたことですけれども、確定判決の主文に影響を与えることが明らかな場合に限るとしても、多種多様な事実のうちのいずれかの事実に誤認があったと主張しさえすれば、再審請求をすること自体は可能となるため、理由のないものも含めて、幅広く再審請求がなされる事態を招きかねないといった問題があることから、やはり相当ではないと考えております。 ○大澤部会長 ほかに御発言はございますでしょうか。 ○鴨志田委員 田岡幹事が新しく提案した案に賛成するという立場から、意見を述べたいと思います。   ただいま池田委員の方から御指摘があった懸念事項、これは検討課題の中にも入っているものですけれども、要は、大きく二つの方向があって、一つは、死刑判決についてのみ量刑再審というか、量刑に関する事実誤認を再審開始事由とすると、死刑事件以外との間で不公平、不均衡が生じるという方向性のものが一つ。もう一つは、そこを押しなべて全ての事件について量刑等に関する事実誤認を再審開始事由とすると、今度は幅広く再審開始請求がされるということで、法的安定性であったり迅速な事件処理に支障が生じるというような、今度は別の方向のベクトルの問題が生じるということが指摘されました。そこで、この二つを勘案して、いずれの方向に対してもある程度考慮をした上でバランスを取ったというのが、田岡幹事の提案、具体的に言うと、刑の必要的減軽事由を再審開始事由とするという、この案になっているのだと思います。   なので、私はこの案に賛成するわけなんですけれども、元々死刑の量刑再審というところからスタートしたということとの関係で申し上げれば、やはり一番問題になるのは、死刑が確定した後に、心神耗弱についての事実を立証する証拠が出てきたというときに、これが確定審段階で出ていれば、死刑を言い渡せない被告人に対して死刑を言い渡してしまったということになって、死刑の不可逆性というところから考えると、これは非常に大きな問題がある。そうなってきたときに、もちろん死刑の量刑にはいろいろな事情がありますけれども、少なくともこの必要的減軽事由については、それを証明できる証拠が発見されたときには、死刑を回避するための再審請求というのが認められるということになれば、かなりの部分でこの問題を解決することができると思います。   一方で、刑の必要的減軽事由のみに限定される、しかも、これは恐らく6号の中に文言として埋め込まれる形になりますから、新たな類型を設けるというよりは、ここの部分の不備を穴埋めしたという程度になりますので、事件が爆発的に増えるとか、理由のない再審請求が増えるということにもならないのだろうと思います。   以上のような理由で、田岡幹事の新しい提案に賛成する次第です。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○村山委員 田岡幹事の新提案なんですけれども、再審開始事由のくくりで死刑判決についてとなっているわけですけれども、そもそもそれを外して考えていただきたいということなのです。   私どももこの審議会で、前回のこのパートの議論のところでいろいろと考えさせられましたし、いろいろ悩みもあったわけですけれども、やはり量刑論一般からすると、死刑だけ特別に扱うというのはなかなか難しいのかなという。死刑は、私は特別な刑罰だと思っていますけれども、それだけ取り出して議論するというのは、なかなかうまくいかないというのは事実だと思います。   そういう中で、量刑というのはいろいろな事情を考慮して出される結論だということと、あと、場合によっては、その判決が言い渡される時代によって違うということはあり得る話なので、それを全部事実誤認だということで、もう一回再審議するということは、やはりなかなか難しいということは承知したということです。そういう中で、分かりやすいのは、やはり処断刑の範囲が明らかに異なってくる場合ですね。それを取り出すというのは一つの方法ではないかということで、取り分けそれが死刑の場合には顕著になるという、そういう言い方でございます。   そういう意味で、日弁連の以前の案とは違う案なんだということを前提に御議論いただきたいと思いますし、その中でも、必要的減軽事由、減免事由でも、中止未遂でもなかなか免除というところにはいかないんで、減軽事由にとどまっちゃうわけですけれども、それだと多分、今の6号だと駄目だと思うんですよね。だから、そういう意味では、従犯もありますし、そういうところで多少広がるということは間違いないと思うんですけれども、やはり切実な問題だと思います。実際に死刑以外のところでも処断刑のゾーンが変わってくるわけですから、当然刑は変わってくる可能性は高いと思います。そういう形でこの規定を取り入れるというのが、田岡幹事の新提案だということで御理解いただきたいと思いますし、私は、こういう形ならば、それほど一般的な量刑理論とそごすることなく、再審事由として規定してもおかしくないという形になるのではないかと思っております。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○吉田(雅)幹事 先ほどの田岡幹事の御提案について御趣旨を伺いたいと思います。必要的減軽事由に限るという御提案でしたが、例えば、確定判決で共同正犯の認定がされていたという前提で、それが従犯に当たるという主張をしたいと考えた場合において、必要的減軽の理由となる事実の誤認があると疑うに足りる証拠ということを考えたときに、共同正犯が従犯になるかどうかは、例えば、犯行に至る経緯や犯行時の役割、あるいは財産犯であれば犯罪収益として得た財産の分配状況など、いろいろな事実を総合的に評価して判断するというのが、実務的には一般的な考え方ではないかと思います。それを前提とした場合、例えば、従犯に当たると疑うに足りる事実を主張するためには、報酬に関する認定が誤っているということを主張すれば、それで足りるということになるのか、また、役割分担に関する確定審の認定は誤っているということを主張するときに、それはまた別の理由として再審請求が可能になるのか、その辺りはどのようなお考えで主張されておられるのか、教えていただければと思います。 ○田岡幹事 具体的な文言までは考えておりませんが、基本的には、刑訴法435条6号に入れることを考えております。6号は、「有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡しを受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき」となっておりますが、この「軽い罪」に心神耗弱や従犯が入るか入らないかについては争いがあり得るところですので、端的に「刑の減軽事由を認めるべき」という文言を加えることが考えられます。   この場合には新証拠の発見が再審請求の理由ということになりますので、異なる新証拠が発見されれば、異なる理由による再度の再審請求も可能になると考えられるところです。   ですので、先ほどの質問にお答えするとしますと、従犯を認めるべき新証拠が発見されたということが再審請求の理由になると理解しております。 ○吉田(雅)幹事 そうすると、従犯かどうかの認定については、先ほど申し上げたように、生の事実を総合的に評価するという考え方が裁判例では一般的だと思うのですが、その評価の対象となる事実として、例えば、10個の事実から最終的に評価して従犯と評価し得るという場合に、その10個の生の事実一つ一つが、ここでいう従犯と認めるべき新たな証拠として、再審請求理由を構成し得るというお考えだということでしょうか。 ○田岡幹事 事実というよりも、新証拠の発見が再審請求の理由ですので、理論的には、10個新証拠があれば、10回再審請求が可能なんだろうとは思うのですけれども、通常はそのようなことはなくて、新証拠を発見するのはそれだけでも大変なことでしょうから、一つでも新証拠が出ると、その新証拠と他の全証拠を総合評価して、従犯を認めるべきときは再審開始事由に当たるということになるのだろうと思います。   現行法でも、例えば殺人未遂ではなく傷害に当たるという場合には、「軽い罪」を認めるべきときに当たりますので、6号の再審開始事由になります。殺意の認定は状況証拠を総合評価することになりますけれども、殺意の認定に合理的な疑問を差し挟む新証拠を発見した結果、殺人未遂ではなく傷害罪に当たるという場合は、「軽い罪」を認めるべきときに当たるわけですので、それと同じように、心神耗弱や従犯を認めるべき新証拠を発見したときが再審開始事由になると理解しております。 ○村山委員 今ほどの吉田幹事の御質問は、そういう形にすると、濫訴的な再審請求が増えるんではないかという御趣旨なのかなと思うわけですけれども、確かに新証拠が出てくれば再審請求できるという形にすると、例えば分け前の点であったりとか、その現場で行った役割がどうだったかというのが一個一個出てくれば、それは今の理屈からするとできるという結論になるとは思うんですけれども、その従犯の認定が総合認定だということになると、その一個一個を出しても、それほど動かないということもあるんだろうと思うんですね。そうすると、やはり一つの証拠だけではなくて、なるべくたくさんのものを出して、そうしないと従犯という認定にたどり着かないのではないかなと思いますので、実際上は難しいのではないかと思っております。   そういったことを、先ほど田岡幹事も言ったように、軽い罪を認めるべきときというのも同じような問題が起きますので、確かに増えることは間違いないと思うんですけれども、それが非常に多くなって処置に困る、処理に困るということになるということは考えにくいかなと、私は思っています。 ○玉本幹事 私も田岡幹事に御質問させていただければと思います。刑の必要的減軽事由に限って再審開始事由とするという御提案ですが、必要的減軽事由に当たらなくても、重要な情状というのはたくさんあり、それが量刑上決定的な意味を持つという場合も個別の事案では多いと思うのですけれども、そういった個別の重要な情状についての認定の誤りは再審開始事由としない一方で、必要的減軽事由に該当するものに限って再審開始事由とするというところのバランスというか整合性については、どのようにお考えでしょうか。 ○田岡幹事 私は、本来、死刑事件に限っては、必要的減軽事由に限らず、量刑事実の事実誤認も対象とするのがよいのかなと思って第6回会議でも発言をしたのですが、そうなりますと、量刑というのは様々な事実を考慮してなされることから、あらゆる事実誤認が再審請求可能となりかねないといった御批判を頂きましたので、それであれば、処断刑に影響を及ぼす場合に限定したらどうかと考えました。   例えば、刑訴法435条6号には、既に刑の免除を言い渡すべきとき、「軽い罪」を認めるべきときが入っております。また、例えば強盗致死と強盗殺人のように、同一条文で同一法定刑でも犯罪類型が異なる場合は、「軽い罪」に当たるのだという裁判例もあります。また、心神耗弱についても、「軽い罪」に当たるかどうかが争われており、様々な裁判例があるということから、ここを一つ広げるのが一歩前に進めるためには必要なことであるし、また、死刑事件に関して言えば、刑の必要的減軽事由が認められれば死刑は言い渡せなくなることから、理論的な説明としても、他の情状事実とは異なるという理解の下に、今回、日弁連改正案とは異なる案として、予備的な提案として、少なくとも刑の必要的減軽事由、これを刑訴法435条6号に追加する必要性があるのではないか、また相当性があるのではないかという御提案をしております。 ○宇藤委員 私からも、田岡幹事の提案について御質問したいと思います。   田岡幹事の御発言、また鴨志田委員からの御発言をうかがっておりますと、必要的減軽事由の中でも、心神耗弱の事例が中心的であるということであったかと思います。その点について確認をさせていただきたいと存じます。仮に、そうであるとすれば、必要的減軽事由ということでざっくりとした文言を入れるのではなく、場合によっては、心神耗弱についてと限定して盛り込むということもあり得る御提案だったのでしょうか。 ○田岡幹事 実務上、再審開始事由として主張されることが多いのは、心神耗弱が435条6号の「軽い罪」に当たるのかどうかであり、裁判例も複数あると認識しております。ただ、心神耗弱だけを特別扱いする理由はないのだろうと考えております。   刑の必要的減免事由である中止未遂で免除を認めるべきではない場合、刑の必要的減軽事由である従犯、身代金目的略取等の公訴提起前の解放を認めるべき場合をあえて排除する理由もないと思われますので、刑の必要的減軽事由を認めるべき場合とすればよいのではないかと考えました。刑訴法435条6号の他の再審開始事由、例えば免訴を言い渡すべき場合にも様々な場合があるわけですけれども、あえて限定していないわけですので、刑の免除と並んで刑の減軽を加えるのが素直な条文なのではないかと考えました。 ○大澤部会長 更に御発言ございますでしょうか。よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 それでは、この論点につきましてはこの程度としまして、先に進ませていただきたいと存じます。   次に、「第4」の「3 手続の憲法違反を再審開始事由とするか」について審議を行いたいと思います。この論点については、検討事項全体をまとめて、審議を行いたいと思います。御意見等がある方は挙手をお願いします。 ○田岡幹事 「4」の「(3)」についても、私は、第6回会議における他の委員・幹事の皆様の御意見を踏まえまして、少なくとも、あらゆる憲法違反を再審開始事由にするのは広がり過ぎると考えましたので、日弁連改正案を修正して、限定的な文言に改めるのがよいのではないかと考えております。   二つ考えてまいりました。一つは、刑訴法411条1号の上告審の職権破棄事由を参考に、「判決に影響を及ぼすべき憲法違反があって、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるとき」という文言が考えられるかと思います。もう一つは、刑訴法338条4号により公訴棄却の判決を言い渡すべき場合には免訴に準ずると考えられることから、刑訴法435条6号に「公訴棄却の判決又は決定を言い渡すべき新証拠を発見したとき」、これを加えればよろしいのではないかと考えております。   その上で、まず必要性について御説明します。   日弁連改正案435条9号の趣旨は、第6回会議における鴨志田委員の御説明のとおり、いわゆる菊池事件を念頭に置いて、憲法13条、14条1項に違反し、憲法37条1項、82条1項に違反する疑いがあるとしながらも、なおこれらの憲法違反があることのみで再審事由があると認めることはできないというのは余りに不合理だと、こういう場合は免訴に準じて再審開始事由とすべきではないかと、こういった問題意識から、憲法違反の中でも特に重大な憲法違反がある場合には再審開始事由とすることを提案されているものと理解しております。また、これはいわゆるファルサ型の再審開始事由であって、新証拠の発見を要件としない趣旨で提案されていると理解しております。   ただ、日弁連改正案の435条9号は、「憲法の趣旨を没却する重大な違反」という表現であるために、例えば違法収集証拠排除法則のような場合まで含まれるのかといった疑問が生じることから、通常審の控訴理由や上告審の職権破棄事由と比較した場合に、広がり過ぎるのではないかという御懸念があることは、確かに御指摘のとおりなのかなと思いました。そうだとしますと、上告審の職権破棄事由は、訴訟手続の法令違反のうち、判決に影響を及ぼすべき場合であって、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するときという縛りをかけておりますので、これを参考にするのであれば、判決に影響及ぼすべき憲法違反であって、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときを再審開始事由とすれば、広がり過ぎるということはなくなるであろうと考えます。これが一つ目の提案です。   二つ目の提案として、こういった場合には、そもそも公訴の提起自体が違法であって、公訴棄却の判決に至り得る事案であると考えますと、それを端的に再審開始事由とするということが考えられるのではないかと考えました。「(2)」の他の再審開始事由との整合性について、第6回会議において、池田委員、成瀬幹事から、現行法の再審開始事由は、確定した有罪判決の事実認定の誤りの是正を目的として、新証拠の発見等の事情変更があり、かつ、その認定を覆すに足りる蓋然性が認める場合に限り、再審開始事由とされているのだという御説明がありましたが、7号の職務犯罪は、必ずしも事実誤認を覆すに足りる蓋然性が認められる場合とは言えないように思われますし、6号の免訴も、必ずしも事実誤認の誤りを是正する場合とは言えないと思われます。例えば、犯罪後の法令により刑が廃止されたときといった場合は、事実誤認の誤りを是正するために再審開始事由とされているわけではないと理解しております。   そうだといたしますと、最高裁判所昭和55年12月17日決定は「公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合」という表現を使っているわけですけれども、職務犯罪というのは、正に7号の再審開始事由ですけれども、職務犯罪を構成するような極限的な場合には公訴の提起が違法となり、刑訴法338条4号により公訴棄却の判決をするということであれば、そのような場合を別途再審開始事由にすればよろしいのではないかと思います。これは新証拠の発見を要件としないことも考えられますけれども、刑訴法435条6号に免訴が挙げられているということと、確定判決に代わる証明又は新証拠の発見を要求しないと、あらゆる場合が再審開始事由になりかねないということを考えますと、6号に入れてしまうのが素直であり、6号の免訴に準じて、公訴棄却の判決又は決定を言い渡すべきとき、特に刑訴法338条4号によって公訴棄却の判決を言い渡すべき新証拠が新たに発見されたときを再審開始事由とすれば、公訴権濫用論等により訴訟手続の打切りがなされる場合は再審開始事由になりますので、菊池事件のような極限的な場合は、この条文によって救済される可能性もあるのではないかと考えました。   ですので、結論的には、一つは、「判決に影響を及ぼすべき憲法違反があって、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるとき」、もう一つは、刑訴法435条6号に「公訴棄却の判決又は決定」を入れる。この二つのアプローチによって、菊池事件のような極限的な事例を救済することができるのではないかと考えました。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○川出委員 ただいま田岡幹事の御提案は、手続の憲法違反が再審開始事由となる場合を二つに限定した上で、それを認めるということであるわけですが、第6回会議において申し上げましたように、現行の刑事訴訟法第435条第6号以外の再審開始事由は、確定有罪判決の事実認定を覆すに足りる蓋然性があることが類型的に推認されるという意味で、事実認定の誤りにつながるということが前提となっています。その意味で、現行の再審制度は、確定した有罪判決の事実認定に誤りがあった場合に、それを是正することを目的としたものであることは揺るがない前提だと思います。   そうしますと、仮に捜査手続や裁判所の手続に、御提案のあった二つの再審開始事由に該当するような憲法違反があったとしても、有罪の言渡しを受けた者が罪を犯したことに変わりがないということであれば、再審を開始して公判手続を行ったとしても、事実認定が是正されるということはないわけですので、御提案のような再審開始事由を設けることは、やはり再審制度の目的と整合しないと思います。加えて、刑事訴訟法においては、判決が確定した事件に係る審判手続の法令違反を是正するための制度として非常上告制度が設けられておりますので、御提案のあった事由に該当する審判手続の法令違反については、本来非常上告で対処すべきものであると考えられます。   この点について、第6回会議において田岡幹事から、裁判所の手続に憲法違反があっても、検事総長が非常上告の申立てをしなければ、憲法違反が是正されることなく放置されるので、これを再審開始事由とする必要があるとの御意見がありました。しかしながら、非常上告の申立権者が検事総長に限られているのは、非常上告の目的が、法令の解釈適用の統一を図ることにある以上は、その申立権を、公益の代表者として裁判所に法の正当な適用を請求する職責を有する検察官を指揮監督する立場にある者にのみ認めるのが相当であると考えられたことによるものですので、それ自体としては十分な合理性を有するものといえると思います。   したがって、御提案のように事由を限定したとしても、検討課題の「(2)」と「(3)」についての十分な説明はなされていないように思います。 ○村山委員 今ほどの川出委員の御意見についてなんですけれども、確かに再審が事実認定について変動があるということが原則なんだと、ファルサ型もその類型なんだというのは、それは、私はそう思うんですけれども、やはり6号再審の中には免訴が入っているというところが私は気になっていまして、その免訴事由というのは、事実認定の変動はないと思うんですよね、法令の廃止とか大赦があったときとかというのは、全然事実は動いていませんので。そうすると、そういう場合も取り込んだ形で再審事由が規定されているということからすると、公訴棄却ということについても取り込むという可能性は、私は、否定されないのではないかなと思っています。   前回の議論で、日弁連の委員の考えている憲法違反とほかの方が考えている憲法違反には相当差があるのかなというのは、実感として思っていまして、かなり極限的な場合に、どうしても手続違反という形でないと、再審事由が成り立ちにくいという場合もあるのではないかという問題提起だったわけです。そういう意味で、極限的な場合というのを考えると、そういう形でたくさん事件が生じてしまうのではないかという懸念は、請求は確かに起きてしまうので、それはそうかもしれないんですけれども、開始事由になるには相当遠いと理解していただいていいと思います。そういう意味で、公訴棄却という判決なり決定なりの一部が取り込めるということは、十分あり得るのではないかなと思っています。   それから、非常上告は確かに法令の解釈の統一という意味で検事総長が申し立てるんだというのは、それは理屈としてはそうなのかもしれないんですけれども、実際にそういう重大な手続違反、重大な憲法違反の手続によって有罪の確定判決を受けた者が救済を求めようとした場合に、検事総長に上申書を送っても、検事総長の方では解釈の統一ということは必要ないと判断した場合には申立てしないわけですから、そうなると手が届かないという問題があって、やはり非常上告と再審の機能の違いという面からすると、再審請求権者がそういう申立てをできる道を設けておく必要があるのではないかと、私は思っています。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○鴨志田委員 私は、ただいま田岡幹事が新たに提案をされた案に賛成する立場から、意見を申し上げたいと思います。   確かに従前の議論において、各委員・幹事の頭の中でどの程度の憲法違反を想定しているのかというところに、日弁連関係のメンバーとそれ以外のメンバーとの間にかなりの乖離があったのではないかということは、私も肌感覚でそのように思ったところです。   先ほど田岡幹事からあったように、私どもがというか、私自身が想定しているのはやはり菊池事件で、このような、もう本当に考えられないような、憲法の根幹の原理原則に関わるような違反があり、国家賠償請求訴訟の判決の中でも指摘をされているにもかかわらず、そのような事件、しかも死刑事件というようなものについてまで事実誤認の部分に関わる新証拠がなければ再審にたどり着かないというのは、やはり正義に反するのではないかという、ここが出発点なわけです。ただ、それで範囲が広がり過ぎるという御指摘も受けたので、田岡幹事は二段階ですね、要するに、本当に極限のような場合は、従前の日弁連案の435条9号のような形にして、ここはもう「判決に影響及ぼすべき憲法違反があって、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるとき」というような文言を加えるということで整理をし、それ以外の捜査段階での様々な―それでも重大な違法だと思いますけれども―ものについては、公訴棄却要件に該当するのであれば、6号再審の中に入れ込むという形で、二段階で整理をするというのが、今回の意見であろうかと理解をしています。   そうすると、9号として私たちが元々日弁連案で主張していたものはファルサ型の類型で、それから435条6号はノヴァ型ということで、新証拠の要否という大きな違いもありますけれども、類型の異なる条文の類型にもまたがる形で、この論点が規定されるということについての疑義が生じるのではないかと思うのですけれども、ノヴァとファルサというのが現実の問題としてそれほど大きな違いがあるのかということをお考えいただく必要があるのではないかと思っています。   と申しますのは、ロシア人おとり捜査事件、それから福井女子中学生殺害事件、この二つを念頭に置いてお話をしたいと思うんですけれども、福井女子中学生殺害事件においては、警察、それから検察官の極めて重大な違法ですね。一つは警察による利益誘導、それから、もう一つは検察官が意図的に証拠を隠していた。この二つは、職務犯罪を構成するような事実であり、それを裏付けるような新証拠が明白な証拠と認められて、再審開始、再審無罪に至っています。ただ、これは職務犯罪を構成する、直接的にはそれを裏付ける証拠なんですけれども、このことが目撃供述の信用性を減殺するということで、この目撃供述の信用性が落ちるので被告人の犯人性に疑義が生ずるというプロセスを踏んで、最終的に普通の6号再審で再審開始、再審無罪になっています。   一方で、ロシア人おとり捜査事件は、警察のおとり捜査によって拳銃等を渡すという行為に出たということで、職務犯罪を構成する事実を明らかにした証拠が、一審では6号再審事由として、犯罪事実を支える旧証拠が違法収集証拠として排除されるべきという形で整理をされて、6号再審が認められたわけですけれども、これが抗告審においては、裁判所の職権で請求理由が変更されて7号再審として、435条7号に437条を加えるという形で再審開始に至って、それが確定している。   この二つは、結局のところどちらも職務犯罪を構成するという事実を裏付ける証拠というものが出されたわけで、ただ、片方は6号再審でそのままいき、もう片方は手続違反であると、要するにおとり捜査の結果、犯罪事実として行った、いわゆる犯行事実自体は変更がないということから7号に整理されたわけですけれども、このように見ていくと、それほど大きな差がないのではないでしょうか。むしろ、ロシア人おとり捜査事件に関しては、正にそのような重大な違法捜査を裏付ける証拠が出てきたわけですから、これを新証拠として認めて、公訴棄却される場合として、この6号再審の中にそのような類型を設けることで救済をするというのが、一番すっきりするような形でなかったのかなと思います。   そのような次第で、今回も非常に大きな憲法上の違法があるような場合については、従前どおり日弁連の意見、ここの435条9号を少し限定するような形の条文として手当てをし、公訴棄却に相当するような捜査の重大な違法のような場合には、公訴棄却事由をノヴァ型再審である6号の方に、これは新証拠が要求されることになりますけれども、整理をするというのが、合理性があるように思います。 ○川出委員 1点質問させていただきたいのですが、手続の憲法違反を再審開始事由とするという御提案は菊池事件を想定しているのだという御発言がありました。菊池事件では、被告人に対する公判審理の在り方に平等原則違反や公開原則違反という憲法違反があったという判断がなされているわけですが、その上で、御提案のように、それらの憲法違反を再審開始事由として加えるとして、その狙いはどこにあるのでしょうか。つまり、再審公判において憲法に反しないかたちで手続をやり直すことを目的として、新たな再審開始事由を設けるということなのでしょうか。他方で、後半の福井女子中学生殺害事件についての御説明では、職務犯罪があったことが事実認定の誤りにもつながるという御趣旨のようにも聞こえました。再審の目的をどのように考えて、新たな再審開始事由を追加することを考えておられるのかを、お聞かせいただけないでしょうか。 ○鴨志田委員 やはり菊池事件の場合は、再審公判に至ったときの結論が無罪になるのか、公訴棄却になるのかというところは、実際にやってみないと多分分からないと思うんですけれども、どちらにしても、死刑の確定判決を受けている、しかも、もう既に執行されておりますけれども、死刑囚として一生を終えたというところからの名誉の回復ということは、やはり再審公判によってしか果たせないという部分ではないかと思います。   ロシア人おとり捜査事件のような場合は、これ、結局再審公判で、違法収集証拠として当該証拠が排除されることでの無罪判決というような形で、無罪の方向に持っていくということは当然できるのではないかと思う次第です。 ○川出委員 菊池事件の場合、仮に再審公判になったとして、どうして公訴棄却という結論になるのですか。 ○鴨志田委員 重大な違法ということで。 ○川出委員 公判審理の方法に憲法違反があったということで再審開始決定が出て、再審公判を行う場合、その再審公判は、当然に、従前の公判とは違って、憲法に適合した手続でやり直すことになるわけですよね。それなのになぜ公訴棄却になるのでしょうか。 ○鴨志田委員 その手続をやり直した結果、公訴棄却事由に該当する、要するに、手続を打ち切らなければならなかったのだという結論を確認をするという趣旨なんですけれども、ただ、何よりも端的にやはり、先ほど申し上げたとおり、元被告人の名誉回復という点が最大の目的になろうかと思いますので、そのように考えた場合には、やはり端的に、要はもう無罪判決に持っていくというような話になるんだろうと考えます。 ○大澤部会長 恐らく川出委員の御質問は、公開の原則に反した公判が行われて有罪判決を受け、それが確定している者について、憲法違反を理由に再審を開始したときに、再審公判で手続をきちっと公開の形でやり直せば、再審公判の手続に憲法違反はないのだから、公訴棄却となる理由はないのではないかという御質問かなと理解しましたが、いかがでしょうか。 ○鴨志田委員 承知しました。実際に、菊池事件の再審請求審においては、様々な無罪方向の事実であったり、また合理的な疑いが生じていると考えられる事情が具体的に主張されています。ですから、再審公判に至れば、仮に公開原則違反が治癒されたとしても、確定判決の有罪認定に合理的な疑いを生じさせる事実というのは、当然に主張されるわけです。ではなぜ新証拠が要るか要らないかという話になるかというと、御承知のとおり、やはり明白性判断のハードルが高いがゆえに、新証拠の明白性というハードルの段階で、なかなか超えられないような個々の事実であっても、仮にこれが再審公判に行って、その平場で有罪認定が成り立つかどうかというレベルになったときに、例えば、その状況的な証拠であったりとか、その立証が尽くされていないといったような事実が幾つも指摘することができるということになれば、当然無罪判決が言い渡される蓋然性というのは高くなるだろうと考えています。   ですから、菊池事件の場合は、まずは再審公判、やり直しの裁判で、特別法廷で秘密裏に行われた一つ一つの事実がきちんと見直されて、適正な手続や公開原則の下で審理をやり直せば、これは有罪になろうはずがないという下で再審公判を行いたいということであろおうと思います。そのためのハードルが現状では高過ぎるので、重大な憲法違反を理由に、まずはやり直しの裁判の場に立たせてほしいということで、憲法再審ということを弁護団も含めて主張してきたのだろうと思います。 ○大澤部会長 菊池事件を離れて、一般的に、例えば公開原則違反で、憲法違反を理由に再審を開始して再審公判となった場合に、そこで、手続をやり直せば有罪もあり得るという、そういう前提でお考えになっているということになりますか。 ○鴨志田委員 6号再審の場合も含め、裁判をやり直すかどうかという判断を経て、再審公判に行った段階で、それが有罪と認定されるということは当然あり得るという前提で、制度を構築すべきという考え方です。 ○大澤部会長 分かりました。ほかに御発言はございますでしょうか。 ○田岡幹事 川出委員から御質問がございましたので、私の理解を御説明します。   まず、手続違反があったとしても、再審公判を開いて有罪になるような場合は、再審請求をする実益ありませんので、そのような場合には再審請求する人はいないと思います。検察官がするかどうかはともかくとして、有罪判決を受けた者が、改めて有罪判決を受けるために再審請求をすることは考えられるかと言いますと、かえって不利益になるわけです。   例えば執行猶予判決を既に受けている人が、一旦取り消された上で改めて執行猶予付き判決を受けますと、執行猶予の始期が遅れるわけですから、改めて猶予期間が経過しないと、刑の執行が終わらないことなってしまいます。また、例えば懲役刑の判決を受けた人が、再審公判を開いた結果罰金刑になったとしますと、既に受けた懲役刑はなくならず、かつ、更に罰金刑を科されるわけですので、不利益になることをわざわざする人はおりません。   ですので、当然再審請求する場合というのは、自分にとって有利な判決、つまり無罪の判決であったり、あるいは軽い罪であったり、刑の免除であったり、免訴であったり、さらには公訴棄却であったり、これによって有罪の判決を破棄してもらえるという場合に限って、再審請求が行われるものでありまして、その意味では、手続違反を再審開始事由に取り込んだとしても、判決に影響を及ぼさないような場合は、当然除外してよいということから、私は先ほど判決に影響を及ぼすべき憲法違反の場合に限るか、あるいは公訴棄却になる場合に限ればよいという御提案をしております。単なる公開原則違反で、本当に結論が異ならないようでしたら、その場合は再審請求はそもそもなされないでしょうし、またその場合は再審開始事由にする必要はないのだろうと思っております。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○成瀬幹事 1点、田岡幹事に確認させていただきたいのですが、御提案いただいた二つの類型のうち、一つ目の刑事訴訟法第411条第1号に類似するものは、新証拠を要求されないという理解でよろしいですか。 ○田岡幹事 そうですね、それはそのとおりです。 ○成瀬幹事 では、その前提で、私の意見を申し上げます。   第6回会議において池田委員が述べられたように、現行刑事訴訟法において、再審開始事由は、有罪判決の確定後に事情の変更がある場合に限られています。これに対して、田岡幹事の一つ目の御提案は、そのような事情の変更を一切要求しないものであり、一定の事由を証明する確定判決を得ていなくても、また、新規性のある証拠を得ていなくても再審請求をすることができるようになります。よって、この点は現行法の再審請求事由と整合しないと思います。   また、田岡幹事はいろいろと工夫をされて、非常に限定的な要件をお考えくださったと思いますが、先ほど村山委員からも御指摘がありましたように、幾ら要件を限定したとしても、受刑者や死刑確定者が、もしかしたら無罪になるのではないか、もしかしたら公訴棄却にしてもらえるのではないかという期待を持って、再審請求をしてくる可能性は否定できませんので、再審請求件数が増加することは避けられないと思います。 ○宮崎委員 第6回会議において議論がありましたとおり、日本弁護士連合会の御提案は、捜査手続や裁判所の手続に「憲法の趣旨を没却するような重大な違反があつたとき」に限定した再審開始事由を設けようとするものであるとしても、捜査手続や裁判所の手続の違法が問題となる事案の中には、確定有罪判決の事実認定に影響しないものが多数含まれると考えられるところ、再審公判で結論が変わる見込みがない事件まで幅広く再審が開始される仕組みとすることは、確定判決による法的安定性を不当に害することとなりかねないという問題点があると考えられます。   また、田岡幹事から別案の御提案もありましたけれども、再審請求自体は、重大な違法があるなどと主張すればできることになるため、今成瀬幹事からも御指摘がありましたけれども、実態としては、軽微な違法も含め手続の違法を理由として再審請求ができることとなり、しかも、積み重なる一連の手続の一部分の違法を取り上げ、次々に主張を追加したり、繰り返し再審請求をすることを許すことにもなりかねないため、再審請求審が長期化したり、請求件数が激増し、全体として再審請求審における迅速な事件処理に支障を生じさせることとなりかねないという問題点があると考えられます。これは御提案の別案でも同様かと思います。   検討課題「(4)」に示された指摘に対して、説得的な説明はなされていないと考えられます。 ○大澤部会長 更に、この際どうしてもという御発言があればお受けしたいと思いますが、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 それでは、「3」はこれで終えまして、次に「第4」の「4 刑事訴訟法第437条の規定を改めるか」について審議を行いたいと思います。この論点については、検討事項全体をまとめて審議を行いたいと思います。御発言のある方は、挙手をお願いします。 ○田岡幹事 私は、刑訴法437条のただし書の規定を改めることに賛成ですが、第6回会議でも申し上げましたけれども、公訴を提起して無罪判決になった場合まで、確定判決に代わる証明を認める必要はないと考えますので、検察官が不起訴処分をしたために確定判決を得ることができない場合、この場合を刑訴法437条ただし書の場合に当たらないということを明確にするのが適切なのではないかと考えております。   まず、規定を改めることの必要性ですが、日弁連改正案は刑訴法437条ただし書を削除するという提案をしておりますが、その趣旨は、確定判決以外の証拠によって当該事実の証明ができる場合に、これを再審の理由から除外すべき理由はないということだと理解しております。ただ、証拠不十分によって公訴が提起されたのに無罪の判決が確定した場合は、確定判決に代わる証明を認める余地はないと思われますので、このような場合を刑訴法437条ただし書から除外するという必要性はないと思います。そうすると、現実に問題になるのは、確定判決を得られる証拠はあるのに、検察官が公訴を提起しないために確定判決を得るための法的手段を採ることができない場合、特に検察官が証拠不十分による不起訴処分としてしまったために、公訴を提起すれば有罪の確定判決が得られるのに、それが得られない場合、この場合を刑訴法437条ただし書に当たるとして、確定判決に代わる証明を認めなくてよいのかということが問題だと思われます。   第6回会議でも御紹介しましたが、徳島ラジオ商事件は、有罪認定の根拠とした2少年は偽証を告白しており、そして、検察官は嫌疑不十分による不起訴処分としましたが、検察審査会による審査の申立ての結果は不起訴不当の議決がなされていました。また、2少年は民事訴訟、つまり名誉毀損に基づく謝罪広告請求事件でその請求を認諾しておりました。そうすると、恐らく検察官が公訴を提起すれば、偽証の有罪判決が出た蓋然性が高い事案でありまして、本人が自白していて証拠もあるわけですので、これを起訴しなかったというのは、検察官の起訴裁量としてなされたものであり、当時は検察審査会による強制起訴の制度もありませんでしたので、このような場合には確定判決を得る手段がなかったと。そのために、徳島ラジオ商事件において再審開始に至るまでに相当の時間を要したという立法事実がございます。これが必要性ということになろうかと思います。   その上で、「(2)」の刑訴法437条の趣旨との整合性を考えますと、第6回会議において、宇藤委員から、確定判決が得られる証拠はあるものの、確定判決を得るための法的手続を採ることができない場合についてまで、確定判決による証明を必要とすることは正義に反するという趣旨からすると疑問があるという御指摘がございました。ただ、今のような事例を想定しますと、確定判決が得られる証拠はあるのに、検察官が公訴を提起しないために確定判決を得るための法的手段を採ることができないわけですから、この場合が正義に反することに何ら変わりはないかと思われます。検察官は裁判官ではありません。検察官が証拠不十分と判断したとしても、証拠不十分による確定判決と同視することはできません。仮に証拠不十分であるために確定判決に代わる証明が認められなければ、再審開始決定が認められないということになるだけのことでして、そもそも、確定判決に代わる証明を許さないという理由はないと思われます。   「(3)」の要件、確定判決による証明が要件とされていることの整合性についてですが、先ほど説明したとおりですけれども、刑訴法437条の趣旨は、確定判決が得られる証拠はあるのに、検察官が公訴を提起しないために、確定判決を得るための法的手段を採ることができない場合には、確定判決による証明を許さなければ正義に反するということであると理解しております。第6回会議でも引用しましたが、大審院の昭和16年4月8日の判例は、「偽証被疑事件は犯罪の嫌疑なきものとして不起訴処分となり、これがために同人の前記証言が偽証なることにつき確定判決によりこれを証明することあたわざるものなることを看取し得る」と判示しておりますが、この判例の趣旨は、要するに犯罪の嫌疑なしの不起訴処分があるので、結果的に確定判決の証明ができないことを看取できると言っているだけですから、一律に不起訴処分の場合は刑訴法437条ただし書の場合に当たると言っているわけではないと理解できます。   ただ、徳島ラジオ商事件の徳島地裁昭和35年12月9日決定は、この大審院判例を引用して、犯罪の嫌疑がないという理由で公訴が提起されていない場合は、刑訴法437条ただし書の証拠がないという理由によって確定判決を得ることができないときに該当すると、こう判示しているものですから、不起訴処分の場合も刑訴法437条ただし書に当たると読めますので、この場合を除外しなければならないのではないかということです。   「(4)」の迅速な事件処理への影響ということですが、第6回会議において、宮崎委員から、再審請求が大幅に増加するのではないかという指摘がありましたが、先ほど申しましたように、あらゆる場合に確定判決に代わる証明を認める必要はないわけです。確定判決が得られる証拠はあるのに、検察官が公訴を提起しない処分、不起訴処分をしたために、確定判決を得ることができない場合に限って、確定判決に代わる証明を認めればよいと考えますと、再審請求が大幅に増加することはないと考えます。 ○大澤部会長 ほかに御意見・御発言ございますでしょうか。 ○宇藤委員 私からは、刑事訴訟法第437条ただし書を削除するということについて、反対の意見を述べさせていただきます。   まず、先ほどの田岡幹事の御発言でもございましたように、仮に、ただし書をそのまま削除するという形での改正をしますと、無罪の判決の場合についてもこの本文が適用されることになりますので、少なくともそのままということではいけないだろうと思われます。その上で、検察官が不起訴としたがゆえに確定判決を得られなかった場合についても、やはり疑問と考えております。   第6回会議における鴨志田委員あるいは田岡幹事の御指摘、またただいまの田岡幹事の御指摘からも、個別事案における不起訴処分について、かなりいろいろと問題があったということは、確かであると認識いたしておりますが、それでも賛成しかねます。一つには、教科書的になりますが、検察官による起訴猶予を含む不起訴処分は、それ自体として確定力を有するものではありません。だからこそ、刑事訴訟法第437条ただし書に含まれるものと解されてきたものと存じます。   それに加えて、既に検察審査会制度や付審判制度を通じて、検察官が不起訴としたことを是正する可能性が整備されております。特に、検察審査会については、先ほども田岡幹事の御指摘にあったように、この間、起訴議決の制度が整備されてきています。このようなところを踏まえますと、起訴の可能性が塞がれたというわけではありませんので、刑事訴訟法第437条ただし書をそのまま全体として削除することには賛成しかねます。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○村山委員 確かに、不起訴がその後起訴になるということはあり得ることなので、不起訴だとしても、それで再度起訴されることが考えられると言われればそうなんですけれども、そうなると、いつまで待つんですかって話になってしまって、結局時効の問題とか何とかってありますよね。そういうことを考えると、やはり再審請求人の方でアクションができないと、事実上再審請求の、再審としては動かないということになってしまうので、やはりそういう制度設計はまずいのではないかと思います。   このただし書を全部削除するということは、私も無罪判決のことを考えて無理だと思っていますので、司法判断を経ていない不起訴の場合には、やはり確定判決に代える証明を許すということが必要だと思います。それは、検察審査会制度というのが強化されたというのは私も承知しておりますけれども、やはりそれでもそういう道がないと、再審請求したいという者からして、実際に犯罪になっているのは明らかだと考えて、それなりの証拠があるにもかかわらず、検察官が動かないということによって再審請求ができない。また、検査審査会にかかっていても、やはり結論が出るまで時間掛かりますので、再審請求するという、早くしたいという場合には、やはり妨げになるわけですよね。そういう場合に、請求できるような形にしておく必要があると思います。   また、立法事実としても、前回この問題を議論したときに、そういった徳島ラジオ商事件のような典型的な事例だけではなくて、ほかにもあり得るということも当然ありますので、規定としてはそういう形で、不起訴の場合にはできるという形に改める必要があると、これは、私は非常に強く思っているところです。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○成瀬幹事 私は、刑事訴訟法第437条ただし書を改めるべきではないという宇藤委員の御意見に賛成するものであり、その立場から意見を申し上げます。   第6回会議において村山委員から、「検察官が、検察官や警察官の職務犯罪を起訴することは事実上困難であると考えられることからすると、これらの犯罪の事件が『嫌疑不十分』を理由として不起訴処分とされた場合については、確定判決に代わる証明を認める必要がある」旨の御意見を示されました。   しかし、検察官による不起訴処分については、その不当の是正を目的とする制度として、検察審査会への審査申立てや裁判所への付審判請求といった制度が設けられており、検察官による不起訴処分に不服があるときは、これらの制度によるべきであると考えられます。   先ほど田岡幹事から、「『嫌疑不十分』を理由とする不起訴処分がされた事案において、検察審査会が不起訴不当の議決をした場合でも、徳島ラジオ商殺し事件のように、検察官が公訴を提起しない場合があり、その場合には確定判決を得ることができないから、それに代わる証明を認める必要がある」旨の御意見も示されました。   しかしながら、現行法では、「嫌疑不十分」を理由とする不起訴処分がなされた場合についても、検察審査会は、起訴を相当と認める場合には起訴相当の議決をすることができ、その上で、更に検察官が「嫌疑不十分」を理由として不起訴処分をした場合においては、起訴議決をすることができますので、検察官が「嫌疑不十分」を理由とする不起訴処分をした場合であっても、確定判決を得るための法的手段自体は存在します。村山委員から、検察審査会の審査には時間が掛かるという御指摘もありましたが、たとえ一定の時間が掛かるとしても、このルートをたどって確定判決を得るための法的手段を尽くすことが、法律上求められていると考えます。   このような仕組みの中で、検察審査会が起訴相当の議決をせずに不起訴不当の議決をしたのであれば、その後に検察官が「嫌疑不十分」を理由として不起訴処分を維持し、最終的に確定判決を得ることができない事態になったとしても、不当ではないと思われます。   よって、ただいまの田岡幹事や村山委員の御説明を伺っても、御提案のような規律を設ける必要性・相当性は認められないと考えます。 ○大澤部会長 ほかに御発言はございますでしょうか。 ○田岡幹事 先ほど成瀬幹事から、起訴相当議決をすればよいのではないかという御指摘がありましたが、念のために徳島ラジオ商事件の事実関係を確認しておきますと、第5次再審開始決定に係る徳島地裁昭和55年12月13日決定によると、検察審査会は、昭和34年10月20日に不起訴処分は不当であり、偽証罪により起訴するのを相当とする旨の議決を1回しているんですね。その後さらに、第2次再審請求における証言に関して、検察審査会は、昭和37年10月24日に起訴相当の議決をした、と決定文に書いてあります。としますと、これは、検察審査会は起訴相当議決をしている事案でありまして、検察官も2回目の起訴相当議決に関しては起訴猶予処分にしている事案なんですね。にもかかわらず、第2次再審請求は、確定判決に代わる証明は認められないという理由で、昭和35年12月9日決定で、棄却されてしまった。そのために、新証拠の発見を待たなければならなかったということでございまして、起訴相当議決をしても、当時は強制起訴の制度はありませんでしたし、また検察官がそれを尊重することもありませんでしたので、結果として起訴がなされなかった事件であるということは、まず確認しておきたいと思います。   その上で、宇藤委員が先ほど検察官の不起訴処分には確定力がないとおっしゃられました。確かにそのとおりで、いつでも再起をして起訴することができるわけですけれども、問題はそのような状態にある場合に、果たして裁判所の確定判決と同じように扱って、証拠がないという理由によって確定判決を得ることができないときに当たるといえるのかどうかということなのではないでしょうか。例えばですけれども、検察官が公訴提起しない場合でも、公訴時効が完成したらば、その場合には確定判決による証明が認められるのか、それとも検察官は一旦証拠不十分、嫌疑不十分によって不起訴処分にしているのだから、公訴時効が完成したとしてもなお証明を許さないのかといった問題が考えられまして、徳島ラジオ商事件の徳島地裁昭和35年12月9日決定を素直に読むと、検察官が嫌疑なしの不起訴処分をしたら、刑訴法437条ただし書の証拠がないという理由によって確定判決を得ることできないときに当たるのだと読めますので、このような場合には、そもそも公訴時効が完成しようが、確定判決に代わる証明を許さない趣旨に読めてしまうんですね。それはやはり不当なのではないでしょうか。検察官は裁判官でありませんので、検察官の不起訴処分は確定判決の無罪判決とは異なるわけですので、このような場合は刑訴法437条ただし書の確定判決に代わる証明を許さない場合に当たると考える理由はないように思います。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○村山委員 先ほど、検査審査会の議決の重みというような趣旨の御発言があったと思うんですけれども、確かにそれはそのとおりだと思うんですが、やはり検察審査会の議決というのは、別に裁判所の司法判断ではないということなので、そこで拘束されるのはどうなのかという問題は当然残ると思います。そういうことを考えると、やはり不起訴の場合に、証明を許すという形にしないと、全体としても運用が難しい。特に再審請求人から手が出せるかどうかという観点に立ったときに、検察審査会なり審判なりに申し立てるというのは、それは一つの方法かもしれませんけれども、それは確定判決を得るための方法であって、再審請求に直接結び付くわけではなくて、直接結び付く方法があり得る、不起訴になったという形であり得るという場合に、それを許さないという理由はないんだろうと私は思います。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○成瀬幹事 ただいまの村山委員の御発言について、念のための確認で申し上げますが、刑事訴訟法第437条の趣旨は、確定判決を得るための法的手段をとることができない例外的な場合に確定判決に代わる証明を許す点にあります。よって、先ほど申し上げたように、検察審査会の起訴議決のような確定判決を得るための法的手段がある場合には、同条の趣旨は妥当しないと考えます。 ○村山委員 私もその前提で議論しているつもりなんですけれども。ただ、結局、再審請求人側からはそういう方法を採ることができず、再審請求自体には手が出せない状態が続くわけですよね。そこを申し上げているつもりです。 ○大澤部会長 更に御発言はございますか。 ○池田委員 ただいまの議論を伺って、田岡幹事からは修正の御提案もあったところですけれども、こちらの資料の「検討課題」に挙げられている「(2)」から「(4)」までの各課題との関係で、趣旨との整合性については、成瀬幹事からも御指摘があったところですし、「(3)」については、その他では確定判決による証明が要件とされているところですので、その例外を緩めることの合理性について、なお説明が足りていないのではないかと考えられます。   さらに、迅速な事件処理への影響にも課題があるとされていますけれども、ここを緩めたときにどのような影響が生じるのかということについて、懸念を解消するような御説明があったようには思われませんでしたので、なお、御提案を取り入れることは相当ではないと考えております。 ○大澤部会長 更に御発言ございますでしょうか。よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 それでは、ここで休憩を取らせていただきたいと思います。              (休     憩) ○大澤部会長 それでは、再開をさせていただきます。   次に、配布資料「19」に沿いまして、「弁護人による援助」について審議を行いたいと思います。この論点については、まず「第7」の「1 再審請求審又はその準備段階における国選弁護制度を創設するか」について、検討課題全体をまとめて審議を行いたいと思います。御意見等がある方は挙手をお願いします。 ○田岡幹事 私は、再審請求審及びその準備段階における国選弁護制度を創設することには賛成ですけれども、準備段階に関して言いますと、必ずしも国選弁護制度とする必要はなくて、裁判所に事件が係属する前の段階ですので、いわゆるリーガルエイドの仕組みにすることも考えられるのではないかと思いました。   その上で、まず「(1)」の制度を創設することの必要性ですが、第7回会議でも発言しましたが、日弁連改正案440条の2項及び3項の趣旨は、再審請求をするためには、事実上・法律上の主張を構成したり、新証拠を収集する必要があるが、有罪判決の言渡しを受けた者は法的知識が十分ではない者が多いことに加えて、身体を拘束されている場合が多いから、再審請求人に弁護人の援助を受ける権利を保障するという趣旨であると理解をしております。特に身体を拘束されている者が、裁判所不提出記録や証拠品の閲覧・謄写をするとなれば検察庁に出向かなければならない、あるいは裁判所提出型であれば裁判所に出向かなければならないということになりますが、弁護人を選任しなければ、これらの閲覧・謄写をすることは事実上不可能ですので、裁判所不提出記録や証拠品の閲覧・謄写の制度を設けるのであれば、弁護人の選任は不可欠と考えます。第1回会議でも指摘しましたが、諮問第129号に「弁護人による閲覧及び謄写」と書いてありますが、これは弁護人の存在が当然の前提とされていると理解できますので、費用のない者については国選弁護人を選任する必要があるということがいえるかと思います。   その上で、第7回会議において、宇藤委員、成瀬幹事から、被疑者・被告人は公費負担で弁護人の援助を受けることができている、つまり通常審段階では弁護人の援助を受けることができていると、再審は非常救済手続だと、また本格的な審理を要するものは一部にとどまるのだという指摘がありました。ただ、確かに一部かも分かりませんが、第2回会議のヒアリングで、東住吉事件の弁護人であった塩野参考人、袴田事件の弁護人であった間参考人からの御説明がありましたように、現実に再審開始決定に至った事件を見れば、弁護人の援助が不可欠であったということは、これはもう誰もが認めるところではないかと思います。再審制度がそもそも必要ないという意見に立たない限り、再審制度を前提にするのでしたら、再審段階における弁護人の援助が不可欠な事案があるということは、これは誰も否定できないのではないでしょうか。ただ、確かにそのような事件が一部かも分かりませんので、私も全件で国選弁護人の選任が必要であるとは思いません。   第3回会議のヒアリングにおいて、髙橋正人参考人が、日弁連案を再審請求手続全件国選弁護とする案として、これには反対であると発言しておられましたが、私の理解では、日弁連改正案は全件国選弁護とする案ではないと理解をしております。日弁連改正案440条2項ただし書は、再審請求が不適法であるとき又は再審請求の理由がないことが明らかなときはこの限りでいないと規定しておりますので、この除外要件を適切に運用すれば、全件に国選弁護人を選任することにはならずに、真に必要な事件に限定することは可能ではないかと考えます。   また、第7回会議において、成瀬幹事、後藤委員から、同一理由によるものでいない限り、何度でも再審請求をすることができて、実際に同一の者が繰り返し再審請求をする例も見られるということから、公費支出の適正さの観点から相当性に疑問がある旨の指摘がありましたが、先ほど申しましたとおり除外要件を適切に運用すれば、累次の再審請求について、請求に理由がないことが明らかなときは、国選弁護人を選任しないこともできると思います。ただ、現実に袴田事件や福井事件のように、累次の再審請求で再審開始に至った事例は存在しますので、単に累次の再審請求であるからといって、直ちに再審請求の理由がないことが明らかであるとは言えないことは、当然のことかなと思います。   その上で、準備段階ですけれども、第7回会議において、後藤委員、江口委員、池田委員から、準備段階ではいまだ再審請求の理由が明らかではないので、裁判官において、再審の請求しようとする者に国選弁護人を付すかどうかを適切に判断することは困難であるという御指摘がございました。確かに、私も考えましたけれども、再審請求準備段階ではいまだ裁判所に再審請求事件は係属しておりませんので、裁判所が国選弁護人を選任するという仕組みにする必然性はないように思われました。日弁連改正案440条4項、5項は「裁判所は」と書いてあるんですが、この裁判所が受訴裁判所でないとすると、どの裁判所をいうのか、また、その際にどのような事実の取調べをして、国選弁護人の選任の要件を判断するのかということが必ずしも明確ではありません。通常審であれば、勾留質問の際に事実の取調べをすることはできますし、公訴提起後であれば裁判所が判断することができるのでしょうけれども、日弁連改正案440条の4項、5項の「裁判所」と言われるものがどこの裁判所なのかという問題は、確かにあるのかなと思いました。   その上で、第7回会議でも御紹介しましたが、日弁連は「刑事再審弁護活動に対する援助に関する規程」というものを作りまして、弁護人に対してその費用を支援するという制度を運用しております。これは、事実上リーガルエイドの仕組みと評価できるかと思います。そこで、再審請求の準備段階は、再審請求審段階とは区別して、民事法律扶助や日弁連の委託援助事業などのように、リーガルエイドの仕組みとして、法テラス、つまり日本司法支援センターがその審査をして、再審請求準備のための弁護士費用などを援助する仕組みとしてはどうかなと考えております。確かに総合法律支援法を見ますと、民事法律扶助という仕組みになっておりますので、民事、家事、行政手続が含まれますが、刑事は除外されているということがあるんですけれども、総合法律支援法の1条の趣旨からしますと、裁判その他法による紛争解決のための制度の利用を容易にするとともに、弁護士のサービスを身近に受けられるようにするための総合的な支援の実施及び体制の整備に関する国の責務が定められておりまして、再審請求は確かに行政手続には含まれないんですけれども、検察官が勾留の請求あるいは公訴の提起をした場合に、防御をするという場面ではなくて、再審請求人が自ら請求を起こして裁判所の判断を求める場面であることからしますと、むしろ行政手続などに類似する側面もあるかと思います。そうだとしますと、これはリーガルエイドの仕組みとした上で、法テラスが、その請求に理由があるかないかを審査をして、その理由がある場合であり、かつ、法律扶助の趣旨に適合する場合には、弁護士費用等を援助すると、このような仕組みにすれば、裁判所が必ずしも弁護人を選任するという仕組みにする必要はなくなるのではないかなと考えました。   再審請求の準備段階において、このような国選弁護制度に代わるリーガルエイドの仕組みが設けられることによって、再審請求前に新証拠を発見する可能性の有無というものが調査ができますので、明らかに理由がない再審請求は、事前に再審請求を断念することになると予想されまして、新証拠が発見されて再審請求理由が構成されたものだけが再審請求に至るとしますと、先ほどから懸念されている、本格的な審理を要しない事件が増えてしまうのではないかといった懸念も解消することができるのではないかなと考えております。 ○大澤部会長 ほかに御発言はございますでしょうか。 ○成瀬幹事 私は、再審請求審における国選弁護制度について意見を申し上げます。   第7回会議においても述べたとおり、再審手続は、通常審における弁護人による援助を含む十分な手続保障と三審制の下で確定した有罪判決について、例外的にこれを是正する非常救済手続であることや、再審請求事件のうち、本格的な審理が必要となる事件はごく一部にとどまることに照らすと、再審請求をした者について、通常審における被疑者・被告人と同様に、公費の負担で弁護人を付す必要性が大きいとまで言うことは困難であると思われます。   また、同一の者が繰り返し再審請求をする例も見受けられることからすると、先ほど田岡幹事から御提案いただいたように、日本弁護士連合会改正案の第440条第2項ただし書によって、理由がないことが明らかな請求等を一部除くとしても、再審請求をした者に公費の負担で弁護人を付すことには、公費支出の適正という観点から、なお相当性に疑問が残っています。   田岡幹事の本日の御意見を伺っても、これらの検討課題が解消されたとまでは言えないように思われます。   その上で、「再審請求をした者は、法的知識が十分でなく、独力で活動することは困難である上、裁判所に提出された証拠については、刑事訴訟法第40条第1項により弁護人のみが閲覧・謄写できるのであるから、再審請求審における国選弁護制度は必要不可欠である」という田岡幹事の御意見に対して、私の意見を申し上げます。   第3回会議において、元裁判官である中川参考人から、「裁判所は、再審請求に理由があることがうかがわれるような事案においては、趣意書についての補正を促すなどして対応している」旨の御発言があったように、裁判所は、再審請求者の法的知識が十分でないことも踏まえつつ、適切に対応しているものと理解しています。私が調べた裁判例の中でも、例えば、平成12年1月11日の東京高裁決定では、弁護人が選任されていない事案において、裁判所が再審請求者に意見陳述の機会を与えるに当たり、事実の取調べの結果等を記載した書面を送付する方法をとった旨が明記されていました。   このような裁判所の運用を前提とすれば、法的知識が十分でない受刑者・死刑確定者等であっても、独力で再審請求を行うことがおよそ不可能であるとまでは言えず、国選弁護人がいない限り、裁判所に提出された証拠について意見の陳述を行うことができないとまでは言えないように思われます。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○鴨志田委員 私の方からは、今回田岡幹事が新しく提案した件について、少し補足的に意見を述べさせていただきたいと思います。   この再審請求の前段階での準備行為としての弁護人の援助というのは、実は非常に重要だと思っています。といいますのも、以前の論点の「8」の「(1)」のところで、スクリーニング規定を設けるかという話のところでも問題になったとおり、スクリーニングの前提として、ある程度の再審請求の準備段階での証拠へのアクセスと弁護人の援助というところが前提とならないと、例えば、何度も例示として出てきている財田川事件のように、深刻な冤罪事件であっても、当初の段階ではお手紙しか出てこなかったわけです。このように裁判所がそれを取り上げたから、幸運にも再審無罪まで最終的にいけたというようなケースが、スクリーニング規定がかかることによって、はじかれてしまうというリスクがある。ですから、スクリーニング規定を置くのであれば、準備段階での弁護人の援助と、ある程度の証拠の閲覧・謄写というところは前提とせざるを得ないと申し上げてきたところです。   一方で、再審請求の準備段階での証拠の閲覧・謄写というのは、再審請求が始まってからの弁護人の役割とはかなり違う側面もあると。要は、記録を見たり、その記録を探索したりというような活動で、それは、例えば公文書の開示とか情報公開とか、こういったものに類する部分もあるように思います。ですから、これを再審請求後の弁護活動とは切り分ける形で、再審請求を行おうとする者の記録の閲覧・謄写というか、その準備のための情報収集というような形での弁護士の援助、これを弁護人と呼ぶかどうかというところも一考の余地はあるように思います。   そのように準備段階での活動を特化するというような形になれば、総合法律支援法で現在、民事、家事、行政に限定されている法律扶助、リーガルエイドについても、そのような特殊性というか、刑事事件の弁護活動とは少し違う領域の情報収集活動のような形で、法律扶助的な支援をするということで手当てをすることが現実的ではないかなと思います。   再審請求後の再審弁護活動については、先ほどのスクリーニング規定をかけるという形で、国選弁護制度の適用を受ける事件、本格的な手続を要する事件かというところに、国選弁護制度をつけるかどうかというところもかけられてくると、全体として、まずその準備段階でのスクリーニング、これは総合法律支援法で法律扶助の対象になった場合には、ここの段階で全く見通しの立たないものについては、そもそも法テラスが審査で通さないという形になりますね。ここで1回スクリーニングを通ることになりますし、また、それが手当てがされた後で、再審請求がされた段階でのスクリーニング規定で、必要な事件がふるいにかけられるということになれば、そのような事件について、やはり弁護人の補助と援助というのは非常に重要性が高い、再審開始無罪になった事件で、私の知る限りで弁護人がついていなかった事件というのはないと言っていいと思うんですけれども、そのような現状からすると、本格的な審理の必要な事件については当然弁護人の援助が必要で、それについて、公費での国選という形での援助というのも当然に必要なってくると思います。   こういうふうに全体の流れの中で制度を検討していただくということが、必要なのではないかなと思う次第です。 ○大澤部会長 他に御発言はございますでしょうか。 ○池田委員 再審請求準備段階における弁護人の援助について、意見を申し上げます。   これまでの会議、あるいはただいまも鴨志田委員から、再審請求審において、本格的な審理を要しない事案について、迅速な処理を可能とするスクリーニング制度を設けるのであれば、その準備段階における国選弁護、あるいは法律扶助とおっしゃいましたでしょうか、何らかの形での公費の援助を受けた弁護士による支援を認める必要があるという御発言がありました。しかしながら、再審請求審における国選弁護を設けること自体の必要性、相当性については、先ほど成瀬幹事が御指摘されたとおりの課題があるところ、それ以前の再審請求をしておらず、再審請求をするか否かも不明である準備の段階において、援助に支えられた弁護制度を設ける必要性、相当性については、私自身が第7回会議において述べたとおり、あるいは江口委員や後藤委員からも御指摘があったように、より一層疑問が残るところです。   裁判所において、その要否についての判断は難しいという問題が、法テラスが審査することによって解消されるのかということについても疑問が残るところであり、なお課題は解消されていないのではないかと思われます。また、この点をおいても、これも第10回会議で申し上げたとおりですが、スクリーニングを可能とする規律は、裁判所による審理運営に一定の指針を与えることにより、再審請求手続の円滑化・迅速化を図ろうとするものであって、これまでも終局裁判において行ってきた判断の一部を、手続の早期の段階で行うこととするものにすぎず、そのような規律を設けること自体が再審請求者に実質的な不利益を課すものではないと考えられますので、このような規律を設けることと、再審請求審の準備段階における国選弁護制度の要否・当否との間に直接の関連性はないと考えております。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。 ○村山委員 弁護人を付けるということについて、公費でというところが問題だと思うんですけれども、記録の閲覧・謄写が弁護人によるとなってしまうと、結局私選で付けられない請求人はどうなるのかという問題は解消されないと思うんですよね。そういう本格的な審理を要すると思われる事件であっても、結局弁護人がいないとそういうことになってしまうと。そもそも、やはり本格的な審理をするための再審請求書というのも、本人自身がどこまで書けるかという問題はもちろんあるのですけれども、やはり閲覧・謄写の問題だけ取ってみても、そこに非常に大きなものに突き当たってしまうんではないかと。そうすると、何らかの形で弁護人というものを付けるという制度を作らなければいけないんだろうと思います。   問題はその付け方なんですけれども、確かに準備段階では裁判所は分からないではないかと言われれば、確かに分からないだろうなと思いますので、そこは難しいかなとは思います。そこで、田岡幹事の提案はリーガルエイドということで、枠組みということで、確かにリーガルエイドのところまで、この部会で答申できるのかというのはちょっと私もよく分からないんですけれども、制度的な枠組みとしては、扶助的な問題で解決できるんではないかと、諸外国でもそういうふうにやっているという例は聞いたことがありますので。そういうような形で、準備段階の弁護人を手当てする方向で議論するというのは必要だと思いますし、あとやはり、請求段階では、何らかの形で国選弁護制度というのを導入しないと、一向にその閲覧・謄写の問題とか、それから再審請求事件の円滑・適正な解決に至らないという可能性は非常に高いと思います。   開始決定になって無罪になった事件は、みんな弁護人が付いている事件であります。それは逆に言うと、本来は開始決定が出なければいけない事件でも、弁護人が付いていないがために開始決定に至っていない事件もあるのではないかと、私は思っておりまして、そういった事件について、今の形でいくと、言葉は悪いんですけれども、切り捨ててしまっているような形になっているんではないかということが危惧されます。そういう意味でも、何らかの形で国選弁護という制度を入れなければいけないと。ただ、付けるに当たっては、その請求後に判断をしてという、請求後になれば、どういう理由かというのは分かるということは一つ言えると思いますので、そういう形で国選弁護というのはどうしても必要だろうと思っています。 ○田岡幹事 先ほど池田委員から、リーガルエイドの仕組みにしたとして、適切に公費の支出の相当性などを審査できるのだろうかという疑問がありました。この点は、今でも民事法律扶助、つまり民事、家事、行政事件に関する手続や行政不服申立て手続に関して言えば、法テラスが審査を行っておりまして、一般的には勝訴の見込みと資力要件と法律扶助の趣旨に適合するときという要件の下に審査をして、援助を行っております。当然民事にも再審はありまして、民事の再審の訴えを提起する場合、また家事にも再審がありまして、家事の再審の申立てをする場合も、一律に少なくとも法律扶助の対象から除外されているということはなくて、勝訴の見込みがあるかないかということを審査しているわけです。また、行政不服申立手続である審査請求、再審査請求や取消訴訟の提起についても、少なくとも一律にこれらが除外されているということはなくて、勝訴の見込みがあるかないかを審査しているわけです。その際には当然弁護士も加わった上で審査をして、公費の支出の適正性、相当性を審査した上で、援助開始決定をしたものについては弁護士費用などを援助すると、こういう仕組みになっておりますので、民事や家事や行政は審査できるのに、刑事は審査できないというのは、ちょっと私には理解し難いところです。   ただ、もちろん民事法律扶助は原則償還制をとっておりますので、弁護士費用を出したとしても、分割払いで償還してもらうのが原則で、生活保護の方などでいない限りは、償還が猶予・免除されないといった限界がございますので、国選弁護制度のように、いわゆる原則渡し切りで、訴訟費用の負担が命じられない限り本人負担にならないということにはなっておりませんけれども、これは民事法律扶助の仕組みに合わせるのか、それとも別の仕組みにするのかということによるんでしょうが、そういった自己負担が一定の場合に生じ得るとしますと、逆にスクリーニング的な機能を果たすこともあり得るのかなと考えられますから、審査をした上で、その費用を支出するとし、さらに、一定の場合に自己負担もあり得ると、こういう仕組みにすれば、リーガルエイドの仕組みを整備することはできるのではないかと思います。 ○大澤部会長 更に御発言はございますでしょうか。よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 それでは、1番目の論点はこの程度ということにさせていただき、「第7」の「2 再審請求審又はその準備段階における弁護人等との接見交通に関する規律を設けるか」について審議を行いたいと思います。この論点につきましては、検討課題全体をまとめて審議を行いたいと思います。御意見等がある方は挙手をお願いします。 ○田岡幹事 私は、再審請求審及びその準備段階における弁護人等との接見交通に関する規律を設けることに賛成です。この問題は、面会いわゆる接見と、信書の発受、差入れ及び宅下げ、あるいは書類や物の授受に分けた上で、いずれについても秘密交通権が保障されるべきであると考えます。なお、規定の仕方については、必ずしも39条1項、2項の準用にこだわるわけではなくて、別途刑訴法440条に項を設けるということでもよいかとは考えております。   その上で、まず「(1)」の規律を設けることの必要性ですが、第7回会議でも発言しましたように、刑訴法39条は「被告人又は被疑者」と規定しているために、再審請求人及び再審請求しようとする者と弁護人又は弁護人となろうとする者との面会や信書の発受について、接見交通権の保障が及ばないと一般的には理解されております。しかし、再審請求人や弁護人が立会人なくして面会をし、また書類の授受をすることができなければ、実質的には弁護士の援助を受けることができませんので、再審請求人に弁護人選任権を保障した趣旨がありません。したがいまして、面会と信書の発受に関して秘密交通権、つまり立会人なくして弁護人と面会をしたり信書を発受することが不可欠であります。   この点に関して、平成25年の最高裁判所の決定がありまして、第7回会議で池田委員から、この面会の場面に限定して平成25年決定にのっとり運用されているのであれば、別途規律を設ける必要はないのではないかという指摘がございました。しかし、この点は既に第7回会議で発言したとおりですけれども、現実には弁護人が再審請求人との面会を申し込んだとしても、刑事施設はそもそもこれを接見としては扱っておりません。受刑者の場合には刑事収容施設法112条、死刑確定者の場合には刑事収容施設法121条の規律に従って運用しておりますので、例えば、死刑確定者の場合で言えば、120条1項5号の「訴訟の遂行その他死刑確定者の身分上、法律上又は業務上の重大な利害に関する用務の処理のため面会をすることが必要な者」に当たらない限りは、そもそも面会は許可されませんし、同法121条により面会を許可する場合でも、原則は職員を立ち会わせることになっておりまして、例外的に、ただし書の場合に立会いを省略すると、「立会い等省略面会」と呼ばれておりますが、このようになっておりまして、特段の事情がある場合には、原則どおり職員を立ち会わせると、こういう解釈が採られているために、必ずしも立会いがなされないという保証はありません。そのために、国家賠償請求訴訟が何度も提起されて、国家賠償法上違法であるという判決が出ており、またさらに、仮の差止めまでなされているのに、それを無視して立ち会わせたために、また国家賠償請求訴訟が提起されて、国家賠償法上違法とされるといったことが繰り返されております。   そうしますと、問題の立て方として、「検討課題」には、刑事収容施設法において規律があるのに、どうして別途規律を設ける必要があるのかということになっておりますけれども、これは逆でありまして、なぜ刑事収容施設法に規律があるのに、秘密接見が認められない場合が続出していて、かつ、それが国家賠償法上違法という判決が相次いでいるのに、なおそれで十分と考えるのかと、なぜ別途規律を設ける必要がないのかということが、問題とされるべきなのではないでしょうか。   その上で、問題が大きいのは、面会の場合よりも信書の発受なんですね。面会は、立会いがあっても一応コミュニケーションが取れますので、コミュニケーションが全くできないというわけでありません。ところが、信書の発受の方は、発信が許可されなかったり黒塗りされますと、そもそもコミュニケーションが取れませんので、再審請求をしたいという手紙の発信が許可されませんと、再審請求のために弁護人を依頼することすらできないわけです。   そこで、信書の発受の問題について改めて申し上げますと、これは、刑事収容施設法上は、面会と信書の発受は別の外部交通に位置付けられておりまして、これには平成25年判決の射程が及ばないと理解されているものから、再審請求人が弁護人又は弁護人になろうとする者に信書を発信するという場合には、受刑者の場合は刑事収容施設法126条、死刑確定者の場合には139条により規律されておりまして、死刑確定者の場合には、原則は信書の発信は許可されないわけですね。例外的に許可されるわけです。死刑確定者の場合は、刑事収容施設法139条1項2号の「訴訟の遂行その他死刑確定者の身分上、法律上、業務上重大な利害に関わる用務の処理のために発受する信書」、これに当たらない限り、原則信書の発信は許可されません。したがいまして、死刑確定者が再審請求のために弁護人又は弁護人になろうとする者に発信する文書が削除されたり、あるいは黒塗りにされたりといった、違法な処分が後を絶ちません。   第7回会議でも御紹介しましたが、寝屋川中1男女殺害事件における大阪高裁令和7年9月19日判決は、死刑確定者が弁護士に宛てて再審請求の弁護人になってほしいと書いた書簡を発信しようとしたところ、その部分を削除又は抹消された措置が、国家賠償法上違法とされた事例です。この事件について、代理人弁護士から判決を提供してもらいましたところ、例えばですけれども、「再審請求弁護人宛信書も刑事収容施設法129条1項3号で抹消された、この手紙も抹消される可能性がある」という部分が削除されたり、「いろいろと相談したいので、○○弁護士には再審請求弁護人になってほしい」などという部分が削除されたりしているわけです。この部分を削除することが、果たして刑事施設の規律・秩序の維持や受刑者の矯正処遇の適切な実施、死刑確定者を身上把握のために本当に必要だったのでしょうか。こういうことが行われているということ自体が、別途規律を設ける必要性を示しているんではないでしょうか。   そもそもですけれども、検討課題には、刑事施設の規律・秩序の維持等のためにこういう規律を設ける必要性があるんだとされていますが、信書の発受に関して言いますと、死刑確定者の場合には、刑事収容施設法139条1項各号に該当しない限り、信書の発信が許可されませんので、129条1項3号のように、刑事施設の規律・秩序を害する結果を生ずるおそれがあるときに当たらなくても、許可されない場合があるということが問題なんです。先ほどのような129条1項3号の場合は、規律・秩序の維持のために必要があるということで差し止められているわけですが、そうではなくて、寝屋川中1男女殺害事件の死刑確定者の弁護士宛の手紙は、そもそも「重大な利害に関する用務の処理」に当たらないということで発信が許可されていないわけですので、規律・秩序の維持のために禁止されているわけではなくて、刑事収容施設法によると、原則発信は許可されないから許可されていないという問題であることを、まず正しく御理解いただきたいと思います。   その上で、このような手紙が黒塗りにされますと、そもそも再審請求しようとする者が、弁護士に再審請求を依頼しようとしても、その弁護士にお手紙を送ることすらできず、その弁護士が面会に来てくれることもありませんので、結果的に再審請求のために弁護士を依頼することができず、弁護人選任権を依頼した意味はなくなってしまうんではないでしょうか。これはちょっとうがった見方かもしれませんが、刑事施設は再審請求や国家賠償請求訴訟を提起されると困るから、弁護士宛ての手紙を黒塗りしたんではないかと疑われても仕方がないのではないかと思います。このような実情があることこそが、再審請求人と弁護人の間の秘密交通権を保障する必要性を示す立法事実であると考えております。 ○大澤部会長 ほかに御発言はございますでしょうか。 ○池田委員 検討課題「1」について意見を申し上げます。   まず、これまで第7回会議でも申し上げておりますとおり、刑事収容施設法は、受刑者・死刑確定者の面会について、それらの者の利益及び刑事施設の規律・秩序の維持の要請等の双方を考慮した上で、適切な範囲で秘密面会を認めることとされておりまして、それ自体として合理的な内容の規律であることから、改めて別途規律を設ける必要はないと考えております。また、これまでの会議で田岡幹事が御紹介された問題のある事例というものは、個別の事案における運用の在り方であって、刑事収容施設法の規律自体に問題があったことを示すものではないものと思われます。したがって、田岡幹事の御意見を踏まえても、ここに掲げられている検討課題は解消されていないと考えます。   併せて田岡幹事からは、信書の発受についても、被疑者・被告人と同様の接見交通権に関する規律を設ける必要がある旨の御意見を示していただきました。既に御指摘があったところですけれども、刑事収容施設法は、第126条において、刑事施設の長は、受刑者に対し、一定の場合を除き、信書の発受を許すものとする旨を規定し、また、第139条において、刑事施設の長は、死刑確定者に対し、一定の場合を除き、死刑確定者の身分上、法律上又は業務上の重大な利害に関わる用務の処理のため発受する信書等について発受を許すものとする規定を置いております。このように、受刑者・死刑確定者と弁護人等との親書の発受についても既に規律が設けられております。このような信書の発受に関する規律は、受刑者・死刑確定者については、その収容目的に照らし、外部交通が必要かつ合理的な範囲内で制限されることを前提として、信書の発受についての受刑者・死刑確定者の利益と刑事施設の規律・秩序の維持、矯正処遇の適切な実施、又は死刑確定者の心情を把握する必要性等の双方を考慮した上で、適切な範囲で信書の発受を認める合理的な内容となっていると考えられるところです。   もちろん、田岡幹事が指摘されたような違法、不当と評価されるような事案が生じていることは確かですけれども、法律の規定自体が、それを正面から許容するものでないということも確かだと言わざるを得ないように思われます。したがいまして、別途信書の発受についても規律を設ける必要はないと考えております。 ○大澤部会長 ほかに御発言はございますでしょうか。 ○成瀬幹事 第7回会議において、村山委員から、「受刑者・死刑確定者と弁護人等との秘密面会を認めたとしても、施設上・処遇上の支障が生じることは考え難い」旨の御意見が示されました。   しかし、私が調べた裁判例の中でも、例えば、令和4年7月20日の東京地裁判決は、刑事施設の長が、死刑確定者と弁護士との面会に職員を立ち会わせたことについての適法性が争われた事案において、死刑確定者が、外部交通を許可されていない者らとの間のやり取りについて、弁護士に仲介を依頼していたものと認められる旨を指摘し、死刑確定者と当該弁護士との面会については、刑事施設の規律等を害する結果を生じさせるおそれがあり、秘密面会を許さない特段の事情があると認めるのが相当である旨を判示しています。   この事例は、刑事施設内で自己が受けた処遇を理由とする国家賠償請求訴訟の打合せのために弁護士と秘密面会をしようとした事案であって、再審請求の打合せのために弁護人等と秘密面会をしようとした事案ではありませんが、受刑者・死刑確定者と弁護士との面会であっても、秘密面会を認めることにより、施設上・処遇上の支障が生じる場合があり得ることを示す実例ということができます。   このような実例があることも踏まえますと、やはり第7回会議で申し上げたとおり、受刑者・死刑確定者と弁護人等との秘密面会の許否については、受刑者・死刑確定者の秘密面会の利益を十分に尊重しつつも、秘密面会によって生じ得る施設上・処遇上の支障をも考慮して判断されるべきであると考えます。 ○大澤部会長 それでは、更に御発言はございますでしょうか。 ○村山委員 今ほど成瀬幹事から御指摘いただきましたけれども、やはりそれは、そういうことはあったんだと思いますけれども、私はその事例、申し訳ないですけれども、勉強不足で知らなかったんですけれども、そういうことはあると思うんですけれども、だからといって、一律に禁止するんですかということは、当然言えると思うんですよね。   これは、公判段階でも、接見禁止になっているときに、弁護人は当然秘密面会できるわけですけれども、そういう場合に、接見禁止対象者との関係で、伝言をするとか何とかというと、それは非違行為だと思うんですけれども、そういうことはではないのかというと、それはあり得ると思うんすよね。それと同じ類いではないかなと思います。   面会の点については、やはり秘密面会というのは必要だと思いますし、田岡幹事の考えだと、面会は面会でできるんだということは、それは確かにそうなんですけれども、信書の方はシャットアウトされるというのが、やはり今ほどの説明で、私は、これはどうして刑事収容施設法上そういう規制になっているのか自体が、ちょっと理解できないといいますか、死刑確定者は非常に特別扱いしているということで、確かに死刑確定者は再審請求をしたいという要求は非常に強い人が多いと思います。そういう人に対して、その再審請求を依頼したいという、そういう信書の発受すらも刑事施設の側で止められてしまうという、そういう事態でいいのかということだと思うんです。それが、今の刑事収容施設法上は、やはりそういう措置が許されるということで、そういう解釈で職員の方やっていると思うんですよね。それが、確かに国賠が起きて違法だということに判断されているわけですけれども、それでもそういう事例が後を絶たないということは、やはり刑事施設の中では、むしろそちらが優先すると理解されているのではないかと思います。ですから、そこの点は改め必要があるのではないかと、そういうふうに私は今でも思っております。 ○成瀬幹事 村山委員の御発言の前半部分において、私が申し上げたような施設上・処遇上の支障は、通常審段階の未決拘禁者と弁護人との秘密接見においても生じ得るものであり、それにもかかわらず、刑事訴訟法第39条第1項は秘密接見を一律に保障しているのだから、既決拘禁者についても同様の保障ができるのではないかという趣旨の御意見が示されましたので、その点について補足して申し上げたいと思います。   村山委員が御指摘のとおり、身柄拘束されている被疑者・被告人と弁護人の秘密接見においても、刑事施設の規律等を害する行為がなされるおそれは存在します。実際にも、身柄拘束中の被疑者・被告人が、立会人のいない接見室において、弁護人のスマートフォンを使って外部の人間と会話をした事例があると承知しております。   刑事訴訟法第39条第1項は、弁護人との秘密接見にこのような弊害発生のリスクが伴うことを認識しつつも、未決段階にある被疑者・被告人の防御権の重要性をあえて優先して、一律に秘密接見の権利を保障したものと理解すべきでしょう。   これに対して、現在議論しているのは確定有罪判決を受けた受刑者・死刑確定者であり、未決段階の被疑者・被告人とは法的地位を異にしています。そのため、受刑者・死刑確定者が再審請求のために弁護人等と秘密面会をする利益は十分に尊重されるべきであるとしても、先に申し上げた弊害発生のリスクを甘受して、秘密面会の利益を一律に優先すべきとまでは言えず、やはり秘密面会によって生じ得る施設上・処遇上の支障を考慮せざるを得ないと考えます。 ○大澤部会長 更に御発言ございますでしょうか。よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 それでは、この「2」についてはこの程度とさせていただきます。   以上で本日予定していた審議は、終了しました。   本日の審議をもちまして、2巡目の議論としては一通りの御意見を頂いたものと認識しておりますが、今後の議論の進め方について、皆様にお諮りさせていただきます。   当部会におけるこれまでの議論の状況を見ますと、具体的な規律の在り方に関して、一定程度の認識の共有がなされた項目がある一方で、なお法整備の要否・当否や具体的な規律の在り方について御意見の隔たりがあり、いまだ検討課題を克服するには至っていない項目もあるように思われます。他方で、諮問をされた法務大臣が、できる限り早期の答申を期待する旨述べられており、当部会における調査審議に掛けることができる時間にも制約があることなども踏まえますと、そろそろ意見の集約を図っていかなければならない時期にきているように思われます。   そこで、3巡目の議論においては、部会長であります私の責任の下で、事務当局に、これまでの議論を踏まえて、意見の集約に向けたたたき台となる資料を作成してもらい、次回以降は、それに基づいて更に議論を深めることとしていきたいと存じます。   そのような方針とすることでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 ありがとうございます。それでは、そのような形で今後の審議の準備を進めさせていただきます。   本日の会議における御発言の中で、特に公開に適さない内容にわたるものなかったと認識しておりますが、具体的事件に関する御発言などもございましたので、非公開とすべき部分があるかどうか等について精査をさせていただいた上で、そのような部分がある場合には、御発言なさった方の御意向なども確認した上で、該当部分について非公開とする等、適宜の処理をしたいと思います。それらの具体的な範囲や議事録上の記載方法等につきましては、部会長である私に御一任いただきたいと思います。   他方で、本日の配布資料につきましては、特に公開に適さない内容にわたるものはなかったと思われますので、公開することとしたいと思います。   以上のような取扱いとさせていただくということでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 ありがとうございます。   最後に、次回の日程につきまして、事務当局から説明をお願いします。 ○今井幹事 次回の第13回会議につきましては、令和7年12月16日火曜日午前9時30分からを予定しております。また、次々会の第14回会議につきましては、令和7年12月23日火曜日午後1時30分からを予定しております。詳細につきましては別途御案内申し上げます。 ○大澤部会長 それでは、これにて閉会といたします。どうもありがとうございました。 -了-