侮辱罪の施行状況に関する刑事検討会 (第4回) 第1 日 時  令和7年12月1日(月)    自 午後 1時55分                         至 午後 3時53分 第2 場 所  法務省5階会議室 第3 議 題  1 検討事項1(侮辱罪の規定がインターネット上の誹謗中傷に適切に対処することができているか)について         2 検討事項2(表現の自由その他の自由に対する不当な制約となっていな           いかどうか)について         3 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○猪股参事官 ただ今から侮辱罪の施行状況に関する刑事検討会の第4回会議を開催いたします。 ○橋爪座長 本日は、皆様御多用中のところ御出席いただきまして誠にありがとうございます。   まず、事務当局から資料に関する御説明をお願いいたします。また、第3回会議におきまして、柴田委員から、諸外国における名誉毀損罪・侮辱罪に関する法制度について御要望がございましたが、この点についても事務当局から御発言がありましたら、お願いいたします。 ○猪股参事官 本日、配布資料6として「検討事項」をお配りしています。これは、第3回会議において、「検討事項(案)」について修正を要しないこととされたことを踏まえ、作成したものです。   また、侮辱罪の法定刑を引き上げた令和4年の刑法改正に先立って開催された法制審議会刑事法(侮辱罪の法定刑関係)部会の第2回会議の配布資料「諸外国における名誉毀損罪・侮辱罪に相当する罰則の概要」に記載されたドイツ、フランス、韓国の法制度について調査をしたところ、いずれについても記載された条文について改正等はされておりませんでした。同資料につきましては、机上配布資料としてお手元のタブレットに格納しておりますので、御参照ください。 ○橋爪座長 ありがとうございます。   それでは、議事に入りたいと思います。   本日は、検討事項1「侮辱罪の規定がインターネット上の誹謗中傷に適切に対処することができているか」、検討事項2「表現の自由その他の自由に対する不当な制約となっていないかどうか」の2点について御議論いただきたいと思います。議論の進行ですが、それぞれまず現状の評価について御意見を伺った上で、それを踏まえて具体的な措置や対応の必要性について御意見を伺うという流れで進めたいと考えておりますが、そのような進め方でよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○橋爪座長 ありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきます。   検討事項1「侮辱罪の規定がインターネット上の誹謗中傷に適切に対処することができているかどうか」から、御議論をお願いいたします。この点に関する現状の評価について御意見のある方は、御発言をお願いいたします。 ○赤羽委員 侮辱罪の法定刑の引上げ後、インターネット上の誹謗中傷事案を含め、罰金刑に処せられた事案が相当数あったところでございまして、一般論として申し上げれば、検察におきましては、侮辱罪の法定刑が引き上げられたことによって、悪質な事案に対して、より適切に対処することができるようになったと考えております。他方で、侮辱罪につきまして、一律に重い処罰がされているわけではなく、科料となった事案も相当数あることに鑑みますと、検察におきましては、拘留、科料を存置しつつ法定刑を引き上げることにより当罰性の程度に応じた処罰を可能とするという改正の趣旨を踏まえ、個別の事案に応じた適切な運用をしているものと考えております。引き続き、個別の事案ごとの当罰性の程度に応じた適正な科刑の実現に努めてまいりたいと考えております。 ○柴田委員 警察における認知件数が増えて、その結果、検挙件数ですとか処罰件数が増えたというのは示されており、もちろん警察の対応が以前に比べてよくなったというか、敷居が低くなったとは思いますけれども、やはり違法・有害情報相談センターへの相談件数が結局まだ右肩上がりであることですとか、松永さんの話も聞いて、拘禁刑1年に法定刑を引き上げたことによる効果があったとはいえないのではないかと私は考えております。拘禁刑1年に法定刑を引き上げたことによって、認知された事件への対応が適切になされているとは思っていますが、一般の誹謗中傷に対する抑止力という意味では機能していないのかなと考えております。 ○内藤委員 前回までのヒアリング等を通じまして、インターネット上の誹謗中傷の特殊性といいますか、例えば、匿名性が高くて拡散が容易である一方、削除が困難であるといった特性があるために、受け手の側に様々な負担や損害を及ぼすということが、より実感を持って切実なものとして知ることができたと思っております。今般も御紹介いただきましたけれども、インターネット上の誹謗中傷を対象とする侮辱罪の事案につきましては、今後も事例が集積されていくのではないかと思っております。裁判所といたしましては、このような議論状況ですとか実情の把握に努めつつ、個別具体的な事件の処理に当たりまして、引き続き適正な事実認定と量刑判断に努めてまいりたいと考えております。 ○橋爪座長 ほかの方はいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、現状評価を踏まえまして、以下では、具体的な措置の必要性につきまして議論を進めたいと思います。御意見のある方は挙手をお願いいたします。 ○柴田委員 更なる措置としては、やはり刑法以外のインターネット上の誹謗中傷を削除しやすくする制度とか、損害賠償請求しやすくする制度の構築というのも大切だとは思うのですが、いずれも被害が生じてからの事後的な対応でしかないので、やはり被害を防ぐ、誹謗中傷を少なくしていくという観点から考えると、刑法による一般予防が必要で、先ほど申し上げた現状の認識を基にすると、やはり法定刑の引上げはやむを得ないと思っております。 ○橋爪座長 今の御発言の御趣旨は、インターネット上の誹謗中傷に特化して法定刑を引き上げるということではなく、侮辱罪全体について法定刑を引き上げるべしということでよろしいでしょうか。 ○柴田委員 インターネット上の誹謗中傷に特化した加重類型みたいなものも抽象的には考えられて、それが適切に定められるのであれば、そういうものでもいいとは思うのですけれども、例えば、街頭演説において、ネット上での拡散をお願いする場合においては実際には街頭演説によって誹謗中傷されたものがネット上で広がるという話になるので、境界線を明確にするのが難しいと思います。インターネット上の誹謗中傷について適切かつ明確な境界線を定めることが難しいので、一般的に法定刑を引き上げるのも仕方がないと思っております。先ほどの御発言にもあったとおり、検察、裁判所の適切な対応によって、事案に応じた適切な対応というのがなされるということに期待していいのではないかと私は思います。 ○橋爪座長 今、柴田委員から、侮辱罪について更に一般的に法定刑を引き上げることもあり得るという御発言を頂きましたけれども、それについて御意見、御質問がございましたら、よろしくお願いいたします。 ○嶋矢委員 私も現状、なおインターネット上の誹謗中傷については大変厳しい状況にあり、直ちに事態が改善している状況にはないと思うところです。ただ、新たに一般的に侮辱罪の法定刑を引き上げることについては、前提として、憲法、情報法が御専門の宍戸参考人がおっしゃられたことでありますけれども、刑を上げるというような場合にも萎縮効果の問題はあり、表現の自由との関係を考慮しておくことが最近の議論の中では必要になってくるというお話があったところです。確かに萎縮するかどうかというのはなかなか目に見えないところですので、簡単に萎縮している、していないというのを判断できるところではありませんが、表現の自由に関して刑を加重するとか新しい刑を設ける場合については、本当に必要なのかどうかということを十分に吟味した上で考えていくことが重要ではないかと出発点としては思うところです。   それを前提としまして、令和4年に引き上げられた法定刑を更に上げなければいけないかどうかという点については、異なる見方をする余地も十分にあるのではないかと考えております。その理由の一つは、侮辱罪の事例集などを拝見しましたところ、あくまで罰金刑が主であり、自由刑などはまだ余り利用されていない状況にありまして、法定刑を更に上げる前に、悪質な事案などを、場合によっては適切な量刑の枠内で自由刑等で対応していくという、科刑の状況になお余白があるので、それで対応できるのではないかということと、もう一つは、宍戸参考人も、かつ、先ほど柴田委員も、民事、行政との総合的な対策のサイクルの中で事態というのは改善していくのではないかということをおっしゃっていたところであり、それはまだ全体的に緒に就いたというところでありますので、それをうまく回しながら、もう少し様子を見ていくというような判断もあっていいのではないかと考えております。   最後に、法定刑を上げるとしてどこまで上げるのかというのも難しい問題でございまして、名誉毀損罪がそれなりに重い刑として既に存在している状況において、そちらも併せて上げるのかということになってくると、かなり重い刑になってくるのではないかというところです。もちろん悪質性に対応するため、一般予防のためというのはあり得るところではございますが、最初の話に戻ると、刑罰が重くなればなるほど萎縮の効果は強くなってくるということが考えられますので、少し慎重に考える必要があり、先ほど述べたとおり、必要な範囲を吟味するという観点から、現状ではまだ加重までしなくていいのではないかと私は考えているところでございます。 ○佐藤委員 嶋矢委員の御意見、非常に説得的だと感じている反面、侮辱の中にもアナログな方法からインターネット上の侮辱、また、インターネット上の侮辱であっても様々な態様のものがあるというときに、その中で特に悪質なものを抽出して重くするという考え方は、なおあり得るのではないかと考えるところです。   確かにおっしゃるとおり事例集を拝見しますと、罰金刑は上限30万円のものが5件載っていますが、自由刑はほとんどないという状況で、そこの部分が今の嶋矢委員の表現をお借りすると「余白」ということになり、まだ法定刑の上限に張り付いていない、張り付き現象は起こっていないということだと思います。ただ、現在の運用は被害者の外部的名誉が保護法益だという理解を前提に適用されていると思います。ヒアリングでもいろいろ御意見がありましたとおり、被害者の受けている精神的な苦痛を考えたときに、現在の法定刑の枠内でそうした特に悪質な侮辱について十分に評価し尽くしているといえるのかどうかというのは議論があり得るかと思います。他方で、特に悪質なインターネット上の侮辱というものを抽出するときに、私の漠然とした考えですと、反復的に行うですとか、炎上している状況で火に油を注ぐですとか、そういうものが思い浮かびますが、それを条文上の文言に落とし込むときに、立法技術上うまく適切な文言を選べるのかどうかという問題もあるかと思いまして、そこのところは私自身、悩んでいるところでございます。 ○長戸委員 質問ですが、先ほど侮辱罪の保護法益は外部的名誉であるというお話が出ました。この外部的名誉の中に、いわゆる心の傷はどれぐらい含まれるのか、それとも分けて考えられているのか、その保護法益が含むものを具体的に更に教えていただきたいと思います。また、柴田委員がおっしゃった更なる措置、侮辱罪の法定刑の引上げはどのくらい上げればいいかなど非常に難しいところがあるということでしたが、柴田委員はどれぐらいの引上げが妥当だと思われているのか、名誉毀損罪と同じくらいが妥当と思われているのか、そのあたりの感覚を教えていただきたいと思います。 ○柴田委員 個人的には名誉毀損罪も侮辱罪も上げるべきだと思っています。やはりこの30年でネット社会という大きな社会変化が生じているにもかかわらず、刑法がこれに全然対応してこなかったという事実があって、それを踏まえると、やはり名誉毀損罪も侮辱罪も引き上げるべきだということになると思っています。刑法上、決まりがあるのかどうか分からないのですが、拘禁刑3年の次は5年なんですよね。だから、名誉毀損罪が拘禁刑5年、侮辱罪が拘禁刑3年で私はいいと思っています。   ただ、名誉毀損罪は上げないとすれば、その法定刑の上限である拘禁刑3年が侮辱罪の上限となってしまい、事実の摘示の有無で名誉毀損罪と侮辱罪には差があると考えると、侮辱罪は拘禁刑2年に引き上げるという考えもあると思っています。この2年というのは、けがのない暴行罪ですとか、権利義務のないことを行わせしめることを含まない、単なる害悪の告知としての脅迫罪と同じ刑になります。今のネット上における侮辱罪の与えている影響の大きさというのを考えると、少なくとも2年になってもおかしくないのではないかと私は思っています。 ○橋爪座長 長戸委員からの侮辱罪の保護法益に関する御質問ですが、一般に侮辱罪の保護法益は外部的・社会的名誉と言われておりまして、社会において人が受ける評価、例えば橋爪はこういう人間で、こういった業績やこういった経歴を持っていると、そういった社会的な評価といったものが一般に侮辱罪や名誉毀損罪では保護されていると考えられています。人に知られていないような私的な事実を暴露する行為であるとか、あるいは不当に評価をおとしめるという行為が典型的な侮辱罪や名誉毀損罪の法益を侵害する行為とされています。   したがいまして、先ほど佐藤委員から御指摘があったように、言わば人格権と申しますか、そういったものを傷つけたり、あるいは人の感情を追い詰めて侵害していくような被害それ自体は侮辱罪の保護法益には含まれていないというのが一般的な理解かと思います。ただ、実際、具体的な量刑を判断する際には保護法益の侵害という観点だけではなく、それ以外の被害といったものも、当然に考慮されていると解されています。例えば、性犯罪の保護法益は、性的な自由、性的自己決定権と言われていますが、性被害に遭った方の心の痛みやトラウマなどの被害も、これらが仮に保護法益に含まれないとしても量刑判断においては当然に影響を持ってくるわけです。したがいまして、保護法益が限定されているからといって、それ以外のことは一切処罰をするときに斟酌してはいけないというわけではないと思うのですが、佐藤委員の御発言は、そうはいっても、保護法益に含まれていない事情の考慮には、やはり限界があるだろうという御趣旨だと理解してよろしいですか。 ○佐藤委員 おっしゃるとおりです。 ○橋爪座長 佐藤委員は、仮にインターネット上の誹謗中傷罪を新たに設ける場合、その保護法益を、どのようなものとしてお考えでしょうか。 ○佐藤委員 私自身もはっきりとまだ態度決定できるわけではないのですが、仮に現在の外部的名誉というものではなくて、別の法益構想をするとした場合に、日本でこれまで文献に出てくる表現ですと、名誉感情という言葉がありますけれども、例えば外国のドイツなどの議論を参考にしますと、人間は社会生活を営んでいく上でお互いを対等なコミュニケーションの当事者として扱うというものが要請されるわけですが、それを押し下げる、つまり、人を人として尊重せよという要求をないがしろにするという、そういう尊重要求の侵害というような言われ方もします。これは日本語にしてはちょっとこなれていないので、これをどうやって表現するのかということは難しいのですけれども、そういう人格権侵害というのでしょうか、また、一部の文献では生活の平穏を害するというようなアイデアも提示されていたり、様々な考え方があるかと思います。 ○橋爪座長 生活の平穏であったり人格権や人格の尊厳といったものを損なうということ自体を保護法益とすると、社会的名誉に尽きない事情も含めてそれを処罰の根拠にできるということだと理解いたしました。   今、論点が2点出てきているかと思います。一つは、そもそも法定刑を引き上げるかという問題です。これは侮辱罪全般について引き上げるという議論もあり得れば、インターネット上の誹謗中傷に絞って引き上げるという議論も論理的にはあり得るところです。それとは別に、佐藤委員の問題提起のように、インターネット上の誹謗中傷に絞った新たな罰則を設けるという選択肢もあり得る旨の御発言があったところです。以上2点の論点につきまして更に御発言、御意見がありましたら、よろしくお願いいたします。 ○趙委員 まず、侮辱罪一般の法定刑を更に引き上げるかどうかという点につきましては、やはり前回の法改正が施行されてから3年程度ということで、この段階で更に引き上げるというのはやや早いのではないか、拙速なのではないかと率直に考えます。先ほどから指摘があるとおり、法改正後の科刑の状況等を見ても、懲役刑、拘禁刑に処せられている例はほぼないという状況ですし、そういうことを踏まえたときに、更に引き上げる立法事実といいますか、そういう状況にはないのではないかと考えます。   侮辱罪一般についての法定刑を引き上げる場合に、やはり考えなければいけないのは、侮辱罪というのは表現活動そのものに対する処罰ですので、その弊害を考えなければならないと思います。そういう観点で、3年前の法改正のときにもインターネット上の誹謗中傷に特化した罪を設けるという案も議論されました。確かにインターネット上の誹謗中傷というのは一般の外部的名誉を保護法益とする侮辱罪では抱え切れないものがあるとは思いますが、一旦侮辱罪の法定刑を引き上げるということで3年前に法改正して、次に更に別の罪を設けるという状況にあるかと考えると、やはりそれもまだ時期尚早なのではないかと考えます。   ですので、嶋矢委員が言われたとおり、必要性を完全に否定するということではないのですが、やはりこの段階で更に法定刑を引き上げるであるとか、あるいは新たな罰則を設けるということは、まだ早いのではないかと考えます。 ○田山委員 嶋矢委員、それから趙委員の御意見に賛同いたします。時代の変化とともに法定刑の見直しが必要ということはもっともなことでありまして、先般の侮辱罪の引上げというのは正にそういう意味があったと認識しております。ただ、3年たったところでまた更なる引上げが必要かという話になってきますと、まだその効果を見極めるには早過ぎるのではないか、そして、上限としてはまだ余裕がある状態なのではないかと感じるところです。   さらに、前回の法改正時は、法定刑の軽い侮辱罪の文言をそのまま引き継いだ上での法定刑の引上げということでしたので、侮辱という相当曖昧な概念がそのまま残っていると言わざるを得ない状況かと思います。ここまでが侮辱であり、ここからは侮辱ではないという明確な線を引くことが非常に難しい状況において、以前は法定刑が軽かったために、一定程度許容できていたところ、その不明確性を残したまま更なる法定刑の引上げということになると、文言の不明確性という問題が正面から顕在化してくるのではないかというのが懸念されるところだと思います。そういう意味では、今の侮辱罪のまま、更なる法定刑の引上げということに関しては少し慎重になる必要があろうかと思っているところです。 ○柴田委員 3年しかたっていないではないかというお話ですが、逆に3年たっても全然変化が見られないという事実を率直に見つめるべきだと思っています。3年しかたっていないから上げる必要がないというと、そもそもこの検討会は必要なかったという話になりますので、3年後見直しということで、3年という期間が経過してどうだったのかという観点から議論をすべきだというのが1点目です。   2点目は、侮辱の概念が不明確という御批判がありますけれども、国会の審議でも言及があったと思いますが、侮辱罪自体は刑法制定時からずっとあり、長い判例の蓄積がある概念なので、条文化して明確化するというのは難しいかもしれないけれども、一定程度の共通概念というか線引きができる概念だと考えております。 ○嶋矢委員 私自身も問題が全くないとは考えていないところではあり、法改正や法定刑を上げるかどうかはともかく、一定の対応を継続していかなければいけないとは思っているところでございます。それとの関係で、先ほど科刑状況につきまして、まだ余裕があるというような話をさせていただいたところですが、そういったところで対応するのでは不十分であると柴田委員はお考えになられるということでしょうか。 ○柴田委員 法定刑引上げの考え方は恐らく2通りあって、裁判の実務上もう法定刑の上限いっぱいまで使い切っていて、そもそも現在の法定刑が低過ぎるという批判が積み重なって法定刑を引上げるというパターンと、侮辱罪のように、当該罰則に対する社会の評価自体が変わって、もっと重たい評価をすべき犯罪だという認定に基づいて引き上げる場合と、大きく分けて2種類あると思っていて、今回はその後者の場合だと思います。実際、科刑状況に余裕があるというお話ですけれども、侮辱罪の中で最も重い、もう侮辱罪の法定刑の上限で対応しなければならないと考えるものが出てきていないだけであり、かつ今の科刑状況というのは法定刑の上限が拘禁刑1年という前提で処せられているものということになりますし、個人的には2年ぐらいに引き上げていいのではないかという意見です。例えば、罰金刑でも、強制執行関係の妨害の罪ですと確か罰金250万円ですし、ほかの罪でも150万円の罰金を定めているものも刑法の中でもありますので、そういう観点からすると、一概に刑の引上げといっても、罰金自体を引き上げるという考え方もありますし、そこは柔軟に考えてもいいという気持ちはあります。ですので、科刑状況に余裕があるというのは引上げを否定する理由にはならないと個人的には考えています。 ○嶋矢委員 おっしゃるとおり、私自身もネット上の事案について、より悪質なものとか問題を大きく起こすものがあるとは感じるところでございます。ただ、前回の改正自体が、ある種、それへの対応のために上げたというところがあり、更にそれを考えて議論を深めながら、より悪質なものを具体化していって、これから実務上での捜査や起訴、あるいは量刑の際に考慮していくということ、そういう対応の余地がなおあるというところが私の意見で、そういう余地がある以上、必要以上に引き上げて萎縮効果が出てしまうのは困るという考えでございます。 ○橋爪座長 今、嶋矢委員からも御発言がございましたが、前回の侮辱罪の法定刑を引き上げた際の刑事法部会の議論におきましても、法定刑引上げの根拠として、インターネット上の誹謗中傷の問題が深刻であるということが援用されておりましたので、前回の法定刑の引上げの際に既に現在の誹謗中傷の深刻さといったものは考慮されていたという理解もあり得ると思うのですが、柴田委員のお考えは、そもそも前回の部会の議論に基づく法定刑の引上げが不十分であったということでしょうか。 ○柴田委員 私も前回の部会に出ていましたが、前回の部会では、従前の法定刑が低過ぎたものですから、新たに懲役刑を設けることにより、付随して、例えば共犯者の処罰ができるとか逮捕ができるとか、それまでとは変わることが余りにも多いので、そういうことに対する配慮もあって、まずは1年という形になったと個人的には思っています。 ○佐藤委員 罰金刑は上限に達しているものがあり、他方で自由刑はほとんど言い渡されていないという状況で、余白の部分というのは自由刑の部分のことを指していると思うのですけれども、現在の侮辱罪の法益の理解の下で侮辱事案に対して自由刑を科すというのはどのぐらい現実的にあり得るのかということと、あと、罰金刑の高さが30万円で足りているのかどうかというのは、実務家の先生方に感覚をお伺いしたいです。 ○吉田官房審議官 実務的な話の前提として、刑法上の罰金刑の定め方ということで申し上げますと、一律にこうなっていると断定できるほどのものは持ち合わせておりませんが、いわゆる自由刑と罰金刑とが選択刑として定められている場合の罰金の上限額は、選択刑としての自由刑の重さとある程度の相関関係があると思っておりまして、例えば、名誉毀損罪ですと3年以下の拘禁刑と50万円以下の罰金が定められています。3年以下の拘禁刑と50万円以下の罰金というのは比較的見られる組合せで、例えば、刑法第233条の信用毀損罪等も同じようになっていますし、幾つか類似の定め方をしているものもあります。   先ほど、柴田委員からは、強制執行妨害関係の罪において250万円という罰金の上限額が定められているという話がございましたけれども、これは、平成23年の改正において、経済的・利欲犯的な動機に基づいて行われることがあるので、罰金の併科を可能にするということも含めて、その種の犯罪が経済的に見合わないものであることを行為者に実感させる、感銘を与えるというような趣旨もあって、そのような上限額に引き上げられたと記憶しております。これは、刑法の中ではやや例外的な扱いでして、自由刑の方が3年を上限としているのに罰金の上限が250万円であるというのは、やや高めの設定ということになるだろうと思います。   罰金の上限を引き上げることの意味としては、上限が高ければ高いほど罰金の中で処断できるということであって、罪自体を重くするという意味は必ずしも伴わないように思います。その罪に対する法的な評価を引き上げようと考えると、やはり最も重い刑種のところを引き上げることになるのではないかと思いますので、話を侮辱罪に戻しますと、もし侮辱罪に対する刑法上の評価を引き上げるとすると、罰金の上限を引き上げるというよりも、やはり拘禁刑の方を引き上げることができるのかどうかというのが、まず中心的な課題になってくるのではないかという気がいたします。   その上で、実務的にどうなのか、罰金30万円で感覚的に足りないと思っているのかについては、手元に資料もないのですが、もし罰金30万円で足りないということになると、やはり拘禁刑を科すことが必要になってくると思います。拘禁刑について、例えば、実務的には、求刑としては、2月、3月、6月といったものがございますので、もし罰金刑で足りないとすると、そうした拘禁刑の求刑をすることも選択肢になってくるのだろうと思います。このあたりはまだ事例としてもほぼ把握していないので、今後のことかと思います。 ○玉本刑事法制管理官 若干補足ですが、これまでのデータを見る限りは、拘禁刑に処せられた事案が最近あったということでございますけれども、基本的には罰金刑のみで処罰をしているという状況です。今、審議官から御説明がありましたように、罰金刑で適切な処罰ができないという事案であれば、通常は拘禁刑を求めていくということになると思いますが、それが現時点でほとんどないということは、あくまでも推測ですが、今の罰金刑の法定刑の範囲内で基本的には実務上適切な処理ができるという判断があるのではないかと考えられるところです。 ○佐藤委員 そうすると、ヒアリングにいらっしゃった被害に遭われた方や、その遺族の方々がおっしゃっているような被害実態に現在の科刑で対応できているのかどうかというところが問題になると思うのですけれども、それは現在の状況で十分ということになるのでしょうか。 ○橋爪座長 具体的な個別の事件については、お答えすることは難しいと思いますが、やはり検察官が具体的に事案を検討された上で、罰金30万円では不十分だと評価された場合には、公判請求をした上で拘禁刑を求刑し、また、そのような求刑があった場合には裁判所が適切な量刑判断をするということになるところ、少なくとも現段階においては拘禁刑を科すべきと判断される事件が実際にはそれほど生じていないという評価になってくると思います。   もちろん今の私が申し上げた点については、検察官の評価自体が不適切だという理解もあり得ると思いますし、その点もこの検討会で御議論いただくべきだと思いますが、少なくとも現在の実務においてはそういった評価までには至っていないということではないかと思います。   私から1点、柴田委員に質問させていただきたいのですが、柴田委員の御意見は、基本的に一般予防の観点からのものだと思います。一般予防というのは、要するに刑罰を恐れて一般の方が犯罪を控えるようになるということです。そうしますと、法定刑を1年から2年に引き上げたことが一般予防効果を持つということは、厳密に申し上げますと、拘禁刑1年であればそれほど怖くないから、あえて誹謗中傷をする人がいるけれども、拘禁刑2年に上がってくると、2年は厳しいなと思って侮辱的な言動を控える人間がいるということになると思いますが、私個人としましては、拘禁刑といった選択肢があることに大きな抑止の効果があると思っておりまして、それが1年か2年かということが一般人から見て一般予防の程度にそこまで大きい差が生ずるわけではないような印象を持っているのですけれども、その点についていかがお考えでしょうか。 ○柴田委員 1年が2年になったから劇的に効果があるという認識を持っているわけではないですが、やはり法定刑が引き上げられましたなどといったアナウンスされるということ自体が一つ影響があるのではないかと思います。実際、法改正がなされたということになりますと、警察もこういう改正がありましたからちゃんと理解するようにという通知を全国に出すので、警察の対応がよくなるということもありますし、仮に2年だったとしてもそれなりの効果があるのだと思っています。   ついでに言わせていただきますと、萎縮効果については、前回の法制審の中で、井田良先生や安田拓人先生も侮辱罪に当たるような事実の摘示を伴わない発言については表現の自由の保護の範囲外ですよという趣旨の御発言をされていたと記憶していますし、それでも正当な発言については刑法第35条の正当行為が適用されるから、それは犯罪が成立しないということをその場で確認された上で、検察官の委員が、それに基づいて警察も検察も運用していきますというお話をして、議事録に残っていたはずなので、そういう意味では萎縮効果というキーワードで引上げを否定するのは、妥当ではないのかなと思います。この3年で、これは正当行為として扱われるべきだったのにされていないではないかみたいな事案があれば別ですけれども、そうではないので、やはり処罰されるべきものが処罰されているという状況において、萎縮効果を声高に重視するのは、どうなのかなと思います。 ○橋爪座長 法定刑の引上げについてはここまでで、よろしいでしょうか。   その上で、先ほど佐藤委員から問題提起があった、インターネット上の誹謗中傷を対象とした特別な罰則を設ける可能性という点でございます。佐藤委員の御趣旨としては、インターネット上の誹謗中傷は、複数の人が同じようなことを書いて炎上になるなど、被害者の方の人格を大きく損なう事態があり得ることから、一般の侮辱罪とは異なった構成要件として規定すべきではないかという御発言だったと思います。同時に、そういった悪質なインターネット上の誹謗中傷を処罰することがあり得るとしても、それをどのように刑法上明確に限定し、規定し得るかということについては、なかなか難しい課題もあるという御指摘もいただいたところです。   1点確認しておきたいのですけれども、これまでの議論で、先ほど私も侮辱罪の保護法益は外部的・社会的名誉と申し上げました。だからこそ侮辱行為は公然と行うことが要件となっているわけです。つまり、マンツーマンで個人に対して行っても、それは名誉感情は損ないますが、社会一般の評価を毀損するわけではないことから、侮辱罪には公然性が必要と考えられてきたわけです。これに対して、佐藤委員からも御示唆がありましたけれども、仮に名誉感情であるとか、あるいは人格権とか、そういったものが保護法益だとしますと、一対一で誹謗中傷する場合、あるいはダイレクトメッセージやメール等を送って相手を誹謗中傷する場合でも、それが保護法益を侵害する行為ということになりますので、論理的には公然性という要件を課すことが難しいという問題も生ずるように思われます。このように、まずはインターネット上の誹謗中傷に絞った特別な罰則を設けることの当否という観点から、更に御議論をお願いできればと思います。 ○柴田委員 木村響子さんのヒアリングでも触れていたかと思いますが、例えばSNSのダイレクトメッセージを利用した誹謗中傷については公然性がなく、今は全く放置されている状況なので、こういった行為も処罰すべきだという観点から、インターネット上の誹謗中傷に特化した罰則を新たに作るというのは十分に考えていい内容だと思っています。 ○橋爪座長 その場合には、先ほど申し上げましたけれども、保護法益はやはり従来の侮辱罪とは異なった内容になってくるということですよね。 ○柴田委員 そうですね、前回の法制審議会で、外部的名誉を保護法益とするとしても、副次的に人の精神的被害も考え得るという発言が出ていたとは思いますが、SNSのダイレクトメッセージを犯罪とする以上は、やはり精神的被害を保護法益の中心に据える必要があるとは思います。 ○田山委員 公然性がないような場合、つまりダイレクトメッセージのような場合の処罰規定が必要かという点ですが、確かにそれが非常に大きな苦痛を与えるものであるということは認識しておりますが、公然ではなくダイレクトに一対一で行うような侮辱行為に関しては、従来のインターネットを使わない対面での侮辱というものとそれほど大きく変わらないのではないかといった感覚を個人的には持っております。むしろ、インターネットならではの類型として考えるべきは、一人一人は非常に小さなことしかしていないにもかかわらず、それが積もり積もって炎上といったような形になってしまうような、そういう類型の方なのかと考えていたところです。インターネットに特化した形の規定を考えるといったときに、一体どういうものを想定して考えるのかという点につき、是非御意見をお聞かせいただければと思います。 ○佐藤委員 今の点は私も同感でして、公然性が要らないとした場合に、それはインターネットに限って公然性要件を外すのかというと、インターネット上の侮辱や名誉毀損の危険性の特徴として拡散性というものがありますけれども、ダイレクトメッセージですと、そこから拡散して炎上するということはありませんので、アナログとの差というのは大きくないのではないかと思います。そうしたときに、仮にアナログの方も含めて公然性を外したときに、対面で「ばか」と言ったときに罪になるということになるので、公然性を外した場合には、また何らかの限定を考えなくてはいけないということが出てきて、そこは一つ、また立法技術上の問題が発生するのではないかとは思っているところです。 ○趙委員 今、インターネット上のダイレクトメッセージなどと対面での罵倒の比較に関する議論がありました。インターネット上のそのような言動についての被害の特質ということを考えたときには、そこはダイレクト、非公然のもので、伝播はしないとしても、匿名性というものがインターネット上の大きな特性としてあるとは思います。面と向かって言うということは、顔を相手に見せる、あるいは直接言うわけですが、それが匿名で、どこの誰だか分からない、自分の姿を消した状態だからこそ罵倒できるという実情はあると思います。対面だと言わないようなことを、匿名だからひどい言葉を浴びせるというような特性はあると思います。ですので、インターネット上の言動による被害というものを捉えたときに、公然でないものは対面と全く同じかと言われると、私はやはりそこは別かなと思います。   ただ、それが法技術上どうかと言われると、正直アイディアがあるわけではありません。また、そういうものについて処罰を設けるべき状況にあるかという観点から考えたときに、少なくともこの会議で御提供いただいている資料や、被害を受けられた方からのヒアリングなどをいろいろお聞きしましたけれども、現状そういうダイレクトメッセージのような形の非公然のインターネット上の言論について何かしら処罰を設けなければいけないような差し迫った状況にあるかと言われると、そのような事実は出てきていないと思います。そういう意味で結論としては、そこに何か新たな罰則を設けるということも、また時期尚早なのではないかと思います。ただ、被害という部分だけを見たときには、面と向かって言うのとインターネットの特性というのは、やはりそこは違うのではないかと考えます。 ○佐藤委員 誤解がないように補足いたしますが、確かに松永さんもヒアリングのときにおっしゃっていたように、対面の場合はそんなに被害感がないとのことでしたが、私が申し上げたアナログというのは、怪文書を郵送することによる侮辱といった場合とダイレクトメールを考えた場合に、それほど差がないのではないかということです。インターネット上の侮辱の特性として持続性、つまり書かれたものが残り続けるというものもあるのですけれども、それは手紙でも一緒ではないかと思っています。私自身悩んでいるのですけれども、差は小さいのではないかということを申し上げたかったということです。 ○柴田委員 補足しますと、ネットの場合は炎上に付随する形で、集中的に一時期に被害を受けることがあるというところが、やはりリアルの問題とは違うと思います。消そうと思っても消せないというのは、かなり大きいと個人的には思っています。木村響子さんの話を聞いても、これも放置されていて本当にいいのかという気持ちは強いです。 ○嶋矢委員 私も公然性は、いろいろな理由もあって、維持はした方がいいのではないかと思っているところです。先ほど来の議論に出ております現在インターネット上で生じている問題の特に大きなところ、被害者の心情が非常に害され、その自尊感情、人格を尊重する欲求のようなものが毀損されるという側面は確かにあると思います。そうではあるのですが、そういうものは恐らく公然と行われることによってより侵害されるという側面もあるように思いまして、みんなが見ている前で行われることや、そういった不当な取扱いの発言が残り続けるというような状態が、一つ大きな害の原因になっているのではないかと考えるところです。そういたしますと、そういった被害者の方の心情をどう考えるかというと、科刑の側面で重くしていくべきではないかという考えはあり得るところでございますが、それを考える際に、公然性というものは維持をしておいた方が、より適切に重いものを判別できるのではないかと考えているところです。 ○橋爪座長 ほかに、よろしいでしょうか。   ただ今、委員の皆様からいろいろな御発言を頂きました。確かにインターネット上のダイレクトメッセージのように、非公然と被害者の感情を侵害するような行為といったものに当罰性がないわけではないと思うのですが、しかし、今多くの委員の方から、公然と誹謗中傷し、それが点々と伝播する可能性がある場合に比べれば、やはり法益侵害の程度には差があるのではないかという御発言もあったところです。   また、個人的な意見をあえて更に申し上げますと、仮に公然性を外した場合には、名誉毀損罪・侮辱罪の法益概念が大幅に変わってくるわけでありまして、その場合にどのような観点から処罰対象を限定すべきかについては、更に慎重な議論が必要ではないかと感ずるところがございました。   ここで議論いただく最後の論点になりますが、インターネットに特化した侮辱罪の特別の規定を設けるべきかという問題に移りたいと思います。先ほど非公然のインターネット上の誹謗中傷行為、つまり侮辱罪を構成しない場合の処罰の可能性について議論を頂きましたが、その可能性をここでは除外して議論することにいたしますと、結局インターネット上で公然と誹謗中傷行為を行えば、それは侮辱罪の構成要件にも該当するわけです。したがいまして、インターネットに特化した罰則を設けるということは、必然的に加重類型を設けることが前提になります。この場合については、インターネット上の悪質な誹謗中傷行為に限って、現行の侮辱罪よりも更に重たい法定刑の罰則を設けるべきかという論点が問題となるかと思いますので、その観点から更に御議論をお願いできればと思います。 ○嶋矢委員 この問題を提起された佐藤先生に質問させていただければと思います。加重するという場合に、何に着目するかによって、その規定の仕方、どのような切り出し方をしていくかということが変わっていくということになるかと思います。インターネット上の誹謗中傷でどこの部分に特に着目して加重を考えていくべきかという点については、何かお考えがありますでしょうか。 ○佐藤委員 それは先ほどの議論とも関係しますが、被害者の生活の平穏ですとか人格権侵害というところに着目すべきなのだろうと思います。先ほどの公然性についての議論と若干食い違うのではないかという御指摘もあるかもしれませんが、私は公然性を外すこと自体はあり得ない選択肢ではないと思っていますが、そうした場合の処罰範囲の限定方法にいろいろ議論があり得、更に難しい問題があるのではないかと考えた結果ですので、必ずしも先ほどの公然性の話の立場とは矛盾しているものとは個人的には考えておりません。   そうした観点で加重を考えていくとしたときに、幾つかの考え方があり得ると思いますが、一つは、インターネット上の侮辱というものはおよそ危険なのだと、先ほど内藤委員が御指摘された匿名性、持続性、拡散性といった特徴をインターネット上の侮辱は持つので、その抽象的な危険に着目して加重するという形が一つ考えられると思います。ただ、そうは言っても、インターネット上でも単発の軽微な侮辱というものはあり得ると思いますので、それを全て包含するような形での加重の仕方がいいのかどうかという点については、異論もかなりあり得るところかと思います。   そうしますと、具体的な事例において、特にそういう生活の平穏を害するおそれが高い類型というものを切り出すということが必要になると思いますが、それがどういう形があり得るのかという問題が次に来るように思いまして、これに関する学者の書いた論文の中には、例えばストーカー的な行為、繰り返すということとか、又は炎上を狙ったような書き方、執拗に公然とやるというものとか、既に炎上している状態に油を注ぐような行為、そういう切り出しが可能だというような指摘がされているところですけれども、それを条文の文言に落とし込むときに、特に、炎上しているところに油を注ぐという類型については、行為状況に関する要件を規定するということになると思うのですが、日常用語では表現できるんですけれども、法的な文言としてどのように表現するのか、これはなかなか難しいのではないかというところも感じており、冒頭の方で申し上げた悩ましさというものにつながっているということでございます。 ○柴田委員 私もインターネットの特性に応じた処罰規定があっていいと思っています。もちろん過不足なく処罰しようとすると難しいかもしれないのですが、かなり限定的な狭めの要件にしておいて、例えばストーカー規制法の対象行為のように、徐々に、3年後にちょっと増やして、適切な範囲を過不足なく対応するようにするということはできるので、被害者側から考えると不十分かもしれないけれども、例えば連続性が高いとか、そういった分かりやすいところだけでも拾って狭めのものを作って、こういうものも処罰しなければいけないよねとか、こういう表現で特定できるのではないかということになれば、またそれを増やしていくという形でもいいのかなと思っています。 ○嶋矢委員 先ほどの公然性の話とも少し関わりますが、佐藤委員が先ほど着目されると特におっしゃられた事案類型として、炎上とか油を注ぐというような類型、それは確かに被害者の方により大きな被害をもたらす社会的な類型だと思うところです。ただ、そういうものがどのように起こるかを考えると、炎上とか油を注ぐというのは、ある人が公にそういうことを言って、別の人がそれに更に乗って、乗る人がどんどん増えていくというような状態でしょうか。従来そういう指摘が必ずしもされていたわけではないかもしれませんが、公然性要件の存在意義としては、社会の評価をダイレクトに下げるというだけではなく、インターネットの社会においては、公然とやることによってほかの人の同じく公然とした侮辱、誹謗中傷などを惹起するという側面もあるように感じるところです。   そういたしますと、現行の枠内で公然性を要件として維持して、その刑を考える際に、その態様が他の誹謗中傷を、より惹起するようなものであるというようなことも重視して判断をしていくということでも対応できるのではないかと考えています。最初の私の主張に戻りますと、科刑に余白がある部分に対応する一つの重大な事案として、そういった公然と行い、他の侮辱等を惹起するような事案を取り込んでいって処罰していくという対応もあり得るのではないかと思います。 ○佐藤委員 正にその対応のために自由刑の上限が1年でいいのかというところが、嶋矢委員と私の考え方がちょっとずれるところかもしれないと思った次第です。 ○趙委員 そのようなインターネット特有の罰則を設ける必要があるかという観点からですが、お配りいただいた侮辱罪の事例集等を見ますと、改正後、ざっくり科料のケースと罰金10万円のケース、20万円のケース、30万円のケースと分かれているように見受けられます。改正前はほとんどが科料9,000円に張り付いていた状況がこのように分かれていて、私なりに見ると、面と向かってのものとか、昔からあるような侮辱のケースは科料9,000円とか、中には罰金10万円というものもありますが、SNS等で非常に伝播の可能性が高く、実際に伝播していると思われるものが徐々に刑が重くなっているという現状があるように見受けられます。そういう意味では、非公然の問題はちょっと置くとすると、一定程度、インターネット上の誹謗中傷というものの被害の実態に即して、今ある法定刑の中で、罰金の中で幾つかのランク分けがされて科刑、量刑判断をされているようにも見受けられます。ですので、今この点について更に何か別の罰則を設けるというような状況にはなく、今ある法定刑の中で、一定程度その点は考慮されているのではないかと感じます。 ○吉田官房審議官 佐藤委員に教えていただきたいのですが、インターネット上の誹謗中傷について加重類型を設ける場合に、どのような点に着目するかということに関連して、先ほど人格権侵害という点に着目する考え方があり得るのではないかという御指摘があったかと思います。   それに関連してですが、現行の侮辱罪の保護法益についての現在の考え方を前提とすると、それは外部的・社会的な評価、名誉だということになっていて、それ自体も人格権の一部であるという捉え方が可能であるように思われるのですけれども、もしそうだとした場合に、インターネット加重類型において加重理由となる人格権侵害というのは、名誉権侵害と違うものを考えられているのか、そこで捕捉できないものとしてどのようなものがあるのかということについて、我が国あるいはドイツにおいて、どのような議論があるのか、あるいは考え得るか、教えていただきたいと思います。 ○佐藤委員 御存じのとおり名誉の理解、特に侮辱罪における名誉とはどのような意味かは議論があるので、名誉という概念自体が多義的だと思われますが、私がドイツ法を多少勉強している関係で、ドイツの名誉概念について申し上げますと、日本でいうような外部的名誉ではなくて、ドイツ語を直訳すると先ほど申し上げた尊重要求と言われますが、外部的名誉とは違った人格権侵害を内容とする罪として考えられているということであるようです。   ドイツの侮辱の条文ですが、もともと「侮辱は、1年以下の自由刑又は罰金刑に処し」という規定であったところ、2021年の改正で、「侮辱が公然と、集会において」以下の加重類型が設けられました。「公然と、集会において」というのがもともと存在しなかったのは、先ほどのようなドイツの名誉理解ですと公然性は不要だというのが通説だったからです。「公然と、集会において」というのは、特にインターネット上での侮辱などを念頭に置いてこういう加重類型を設けたということのようです。ですので、インターネット上の侮辱への対策として、ドイツにおいては割と包括的な「公然と」という要件で評価しようとしたということのようです。 ○橋爪座長 ほかに、この点について御意見や御発言はおありでしょうか。よろしいでしょうか。インターネット上の誹謗中傷に特化した加重類型を設けるべきかということについても貴重な御意見を頂きました。確かにインターネット上で誹謗中傷を拡散した場合の被害が深刻であることは明らかでありまして、これに対しては、刑事法的にも十分な対応が必要であるという御指摘と、同時に、悪質な行為を特定、限定することについては相当困難な問題があるという観点からの御発言もあったところかと思います。   私個人も、一つだけ意見を申し上げるのであれば、先ほど嶋矢委員もおっしゃったように、ネットで炎上する案件というのは、それは不特定多数人の軽率な発言が集積して炎上に至るわけです。しかし、刑法は個人責任を追及するものでありまして、集団責任や団体責任を問うものではありません。そうしますと、先ほど佐藤委員からも御示唆がありましたけれども、ある種、インフルエンサーが炎上を想定して何らかの発言をするとか、言わばネットを支配するような行為といったものに処罰対象を限定しなければいけないわけでありますが、常にインフルエンサーが発言すれば盛り上がるという保証があるわけでもなく、炎上するか否かは偶然的な事態に左右されているところがあるように思われますので、果たして処罰に値するものを適切に限定し得るかというところについては、なお慎重な議論を尽くす必要があるだろうという印象を持ったところです。   それでは、検討事項1についてはここまでとさせていただき、検討事項2「表現の自由その他の自由に対する不当な制約となっていないかどうか」についての議論に移ります。   まずは、この問題の現状評価について、御意見のある方は御発言をお願いいたします。 ○赤羽委員 検察におきましては、法定刑の引上げの前後を問わず、侮辱罪に係る事案の処分につきましては、表現の自由にも配意しつつ適切に判断してきたと考えております。なお、第1回会議で配布していただいた配布資料5「侮辱罪の事例集」の「事案の概要」には基本的に侮辱文言しか記載されておりませんが、検察におきましては、侮辱文言のみならず、個別の事案ごとに、被害者の社会的評価を害した程度や侮辱行為の態様、常習性など、侮辱行為に至った経緯等の事情のほか、表現活動の正当性の有無や程度も考慮した上で、犯罪の成否や訴追の要否の判断を行っているところでございます。今後も表現の自由に十分配慮して適切な運用に努めてまいりたいと考えております。 ○内藤委員 実際に侮辱罪の事案の取扱い経験も乏しくて、あとは、また今後も事例が集積されていくという中で、一般論として述べることも難しい面がありますが、裁判所は検察官の起訴がありますと、証拠から被告人が問題となっている行為に及んだ動機やいきさつですとか相手方の言動なども認定いたしますので、そのような中で事実認定、そして法令適用、量刑に当たりまして、表現の自由についても事案に応じた考慮をしているというのが実情ではないかと考えております。 ○趙委員 まず1点目として、やはり公共の利害に関する事項に係る意見、論評というのは表現の自由の根幹を構成することとの関係で、政治家に対する侮辱罪の適用の状況について問題意識があります。この会議における配布資料5「侮辱罪の事例集」、あるいは私からの質問に対して山本委員にお答えいただいた内容等によりますと、侮辱罪改正法施行後、今年の6月30日までの間に国会議員や地方議会議員を被害者とする事件が11件検挙されているという御説明がありました。そのうちの2件が配布資料5に126番と151番として載っているものだという御説明がありました。もちろん、これは先ほど赤羽委員から言及もありましたが、侮辱文言だけを取り上げたものなので、これで全てが分かるものではないことは重々承知しておりますけれども、誰々はばかだとか、あほがどうとか、政治家に対するそういう文言について罰金刑に処せられているという事例が紹介されました。さらに、それ以外のものについても、山本委員から、その他の検挙事案について、コミュニティーサイトなどで、「ばかだ」とか「くずだ」とか「犯罪者だ」「うそつきだ」と罵ったものだという御説明を頂きました。   もちろん、これらの評価というのは、もっと広く考えなければいけないものではあるのですけれども、3年前の改正のときに、侮辱罪を厳罰化するということがある意味広く社会に知れ渡った効果として、本来であれば公共的な事項、政治家に対する言動として処罰すべきではないようなものまでも侮辱罪が適用されているのではないかということについては、危惧を感じずにはいられません。そういう観点で、検討事項にもありますけれども、公共の利害に関する場合の特例の創設については、やはり検討すべきではないかと考えます。 ○長戸委員 報道の立場からということなので、一般的なインターネット上の誹謗中傷についてという観点とは違うのですが、この侮辱罪の法定刑引上げのときの新聞の社説なんかを見ると、反応は大きく二つに分かれまして、慎重に適用されてほしいという点では変わらないのですが、言論空間が非常に萎縮するのではないかという消極的な評価と、社会状況が変わって、侮辱罪が作られたときには想定し得なかったインターネットというものも出現していることを理由に、法定刑の引上げには非常に肯定的な意見がありました。   少なくともそういう両方の評価におおむね分かれていたのが、法定刑引上げから3年がたった現在どうかといいますと、あくまで私が把握している範囲ですけれども、侮辱罪の法定刑が引き上げられたため、一般的に言論が萎縮したとの評価や、注意しないといけないというような感触はないように思います。あくまで報道の現場からの意見でございました。 ○趙委員 もう1点、現状についての認識を少し申し上げたいと思います。表現の自由その他の自由に対する不当な制約となっていないかということについて、危惧すべき状況にあるのではないかという観点からです。   昨今、侮辱罪の適用が拡大しているのではないか、しかもそれはこの法改正の趣旨とは異なる方向で拡大しているのではないかと思われるような事例を見聞いたしました。個別の事例には入るつもりはないので、極めて抽象化して申し上げますと、インターネット上で、もともと匿名アカウントでSNSでコラージュ画像とかそういうもので揶揄するような表現をした人に対して、別の方が、度を過ぎているのではないか、頭おかしいやつがやっているのではないかという趣旨のことを御自身のSNSで発信したというようなことで、もともと匿名アカウントで発信していた方が侮辱罪で告訴し、これが略式起訴され、その後、正式裁判になっているケースがあるようです。このケースにおいては、当初、匿名アカウントで発信していた方、つまり侮辱罪の告訴をした方が、告訴の相手方が略式起訴されたということについて、そのことをインターネット上で更に拡散し、相手方が犯罪者になるみたいなことを騒ぎ立てたというケースを見聞しております。   あるいは別のケースとしては、個人の投資家の方が自らが株主である会社の従業員について無能だなどと投稿したことで、侮辱罪で公判請求されている例があるということも聞いております。個別の事件の当否はこれから裁判で判断されることですが、こういうものを通して私が感じる問題意識としましては、侮辱罪厳罰化ということが3年前に広く社会に広められたことで、これが言わば道具のように利用されているケースがあるのではないかということです。それらが、本来ならば国家が刑罰権という形で介入するのではなく言論対言論で対処されるべきことが、侮辱罪厳罰化というものが利用され、刑事裁判にまでなっている、少なくともそういう危惧を感じさせるケースがあるということです。このようなケースが増えると当然インターネット上の言論というのは萎縮すると思いますし、しかも、それが侮辱罪で裁判になっているということをまた更に広めるなどという動きがあれば、なおさら萎縮効果があると思います。こういうものは表現の自由その他の自由に対する不当な制約と十分なり得るものだと思います。   ですので、被害に対処できているかという検討事項1で議論したこととは逆で、侮辱罪厳罰化というものが広く社会に知れ渡ったことで、これが法改正の趣旨とは異なる形で利用されているケースということが、具体的な例を挙げましたけれども、そういうものがあるのではないかということについては、危惧を感じるところがあります。 ○橋爪座長 現状評価についてはここまででよろしいでしょうか。   ただ今の議論を踏まえますと、趙委員がおっしゃったような処罰の行き過ぎが仮にあるとするならば、正当な言論活動を免責するような規定を設けるべきかがここで検討すべきことではないかと思いますが、このような方向で以下、議論することでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○橋爪座長 それでは、恐らく趙委員に具体的なお考えがあるかと存じますので、具体的にどのような措置をお考えかについて、御発言をお願いいたします。 ○趙委員 これも3年前の改正のときにも議論に挙がって、なかなか難しかったところだと思うのですが、やはり事実の摘示がない侮辱において、名誉毀損罪における公共の利害の特則のような規定を定めることは簡単なことではないということは承知はしております。ですので、何かここで全てを解決する案があるわけではありませんが、一方で公共の利害に関わる言動だけにとどまらず、国家が刑罰権という形で介入すべきと思われないような、けれども言動だけを見れば人の外部的名誉を害するようなもの、侮辱の構成要件に当たるようなものというのは多数あると思います。そういうものについて、現状これが裁判の場になってしまうと、裁判所としては、私が裁判官を代弁するのも変ですが、もちろん刑法第35条の正当行為ということはありますけれども、それは非常にハードルが高いと思います。ですので、例えば一例としては、非常に当罰性が低いようなものについて、侮辱罪に刑の免除の規定を設けるとか、裁判所がある程度実際のケースに応じて、構成要件的には侮辱に当たるかもしれないけれども刑を免除できるなどといった選択肢を与えるということも、一つの可能性としてあるのではないかということを考えております。 ○柴田委員 取りあえず現時点で、正当行為に該当するような行為であるにもかかわらず検察が立件して、裁判所がそのまま認めましたみたいな事例がない以上は、具体的にそれを創設する必要がそもそもないと思っていますし、免除の規定というと、どういう規定にするのかということがかなり難しくなると思います。正当行為という考え方では救済されないものを免除で救うということになるはずなので、それはどんなものなのかということになると思います。 ○田山委員 ただ今の議論をお伺いしていて、免除の規定を入れるという御意見についてはなるほど一つの方法であると思った反面、どういう場合に免除ができるのか、その免除の実質的な根拠が問題になってくるかと感じました。免除ができるのはなぜかということを突き詰めて考えると、何かしら当罰性の低さを裏付ける事情が必要となるはずで、恣意的な免除ということはやはりできないと思います。そのように実質的な根拠というのを突き詰めていくと、結局はそれが正当行為であるとかそういうところに行き着かざるを得ないようにも思いましたので、そういう意味では、免除という規定による対応にも限界があるかと感じたところでございます。   表現の自由との関係から考えますと、可能な限り正当化のための特例の条文というものを作っておくに越したことはないと個人的には思うのですが、それをどのように規定するのかと考えていくと、刑法第35条を越えるものはなかなか想定しにくく、現実的に結局は重なってしまうのではないかという気がしております。ですから、一つのやり方としては、刑法第35条とほとんど同じようなものを、表現の自由に敬意を表してここで改めて重ねて規定しておく方法もあり得るとは思うところですが、結局は刑法第35条の正当化と同じ趣旨のものであれば、現状から余り変わりがないといったところもありまして、新しい規定をわざわざ設ける必要があるのか非常に悩むところではあります。個人的には、表現の自由を守るために何ができるのかといったところに大きな問題意識があるのですが、なかなか明快な解決策が現在のところ見いだせておりません。 ○嶋矢委員 ほぼ同じ趣旨であります。私自身も表現の自由や、その萎縮効果を防ぐという観点からすると、明確に書き切れるのであれば、それを処罰しない、免除するというような類型を設けられればと考えるところではございます。ただ、名誉毀損罪と異なりまして、侮辱罪の場合、そもそも事実の摘示がないところでありまして、名誉毀損罪と同じように考えることもやや難しいということがあり、更に民事判例を参照するということで公正な論評の法理というものもあるところでありますが、それも一定の事実的なものを前提とした対応ということになってきまして、侮辱罪の範囲に入り、かつ処罰をすべきではない例というのをそういったものでカバーし切れているかというと、カバーし切れていないという気がするところです。   そういたしますと、やはりどうしても刑法第35条などによる検討というのが必要になってきて、表現の方法とか内容、表現の状況や文脈、被害者の受け止めや、一般の人ならどう感じるかというところを総合して、事案に即して考えざるを得ないという、最初の方の実務家の先生方の御指摘と重なるところでございますが、そのようになっていくのかと思います。   そういたしますと、このように混在するものを、何か一部、もし書いてしまったというような場合に、もちろん一部でも書けば許される範囲が明確になっていいという考え方もある一方で、しかし一部だけ明文化してしまいますと、ほかの部分はそうではないというような、ある種ミスリードになりかねないという懸念もあり得るところでございます。そういたしますと、全体として広く、先ほど言ったような範囲で、刑法第35条等によって正当な表現として処罰される範囲がそれなりに広くあるという対応をしておくというのも、表現の自由や萎縮効果という観点からは十分にあり得る合理的な対応と考えております。 ○趙委員 理屈としてはもちろん十分理解するところであるのですけれども、実際、刑法第35条を適用した例がどれだけあるか、統計的なことは承知しておりませんが、恐らくほぼゼロに近いのではないかと想像します。また、この手の議論においては、検察官の訴追裁量が適切に行使されるところに期待するという議論がよくあるわけです。検察官が事案に応じて起訴猶予にするなり何なりということも、もちろんそれは一定程度は機能するわけですが、それでもやはり起訴される、公判請求される例というのは当然想定しておかなければいけません。そういう中で理屈としては正当行為だということで処罰しないということでいいのかもしれませんが、現実問題として刑法第35条を適用するということがかなりハードルが高いといいますか、実際、実例も恐らくほぼない中で、とりわけ侮辱罪の範囲というのは表現の自由に極めて密接に関わるわけですから、そこを裁判になった場合により適切に判断される枠組みというのが、現状、正当行為というものがそれなりに用いられているものであれば、それはそれで理解するところであるのですが、なかなかそうではない現状の中で、そこに委ねるということに対する不安は、正直なところあります。 ○橋爪座長 今の趙委員の御発言の御趣旨は、具体的に明確な規定を設けることは難しいけれども、それでもたとえ一般条項であっても、正当な言論活動に該当する場合には処罰しないという規定があった方が、裁判官の方はちゅうちょなくそれを適用しやすくなるということでしょうか。 ○趙委員 ちゅうちょなくかどうか分かりませんが、少なくとも現状よりかはそういうものを適用できるようになるのではないかという問題意識です。 ○橋爪座長 事務当局にお尋ねしたいのですが、これまでの実務で、侮辱罪で公判請求された上で、それが正当行為に該当するとして不可罰という判断をした裁判例はあるのでしょうか。 ○猪股参事官 直ちに把握はしていないところです。 ○柴田委員 事例集を見てもほとんどが略式請求事案ですので、公判請求される件数が少なく、そもそも公開の法廷で裁判があって正当行為の主張が弁護人からされるということがないのだろうとは思っています。ただ、かといって被害者側からすると、検察官はもっと気合を入れて起訴してよと言いたくなる案件もたくさんある中で、抽象的に表現の自由のリスクの話をされても、ちょっと違うのかなという気はします。要は、被害者側から見ると十分に表現の自由に配慮をされた運用がされていると感じています。 ○吉田官房審議官 あくまで一般論としてですけれども、侮辱罪の構成要件に該当する行為について、刑法第35条によって違法性が阻却されると認めた場合には、不起訴の主文は、「罪とならず」ということになるかと思います。それには至らなくても、刑法第35条によって違法性が阻却される可能性がある、阻却されないということを合理的な疑いを持って立証できるとはいえないとなると、「嫌疑不十分」という判断になり得るだろうと思います。検察官としては、起訴するかどうかの判断の際に、当然、刑法第35条に該当するかどうかを判断し、今申し上げたような一定のスクリーニングをすることとなります。さらに、そうした判断を経て、刑法第35条によって正当化されるものではないと認めたとしても、犯情が軽ければ「起訴猶予」ということもあり得ると思いますし、また、起訴をする場合にも略式命令請求をするのか公判請求をするのかということで更に分かれてきます。先ほど赤羽委員からも指摘があったように、処分に当たって表現の自由への配慮というものを適切に行っていると思いますので、そうしたことも影響して、裁判所で刑法第35条が適用されるというケースは生じにくいということになるのではないかと事務当局としては考えております。 ○内藤委員 一般論として、違法性阻却の主張がされた場合における裁判所の処理について御説明をしたいと思います。   弁護側から違法性阻却の主張がされた場合ですけれども、その主張は公判調書に必ず記載されまして、いずれの結論になるにせよ、判決において判断を示すことになりますので、それに必要な審理は行うということになるかと思います。そのこと自体は、刑法第230条の2のような個別の特例に基づく場合と、刑法第35条のような一般条項に基づく場合とで変わりがないということを申し上げたいと思います。 ○橋爪座長 ただ今の議論を伺っておりますと、委員の皆様の中では、全ての正当な言論活動を明確かつ網羅的に規定することは困難であるという点については、恐らく見解の一致があったものと思われます。その上で、それでもなお処罰の限界を明示的に画するという観点から、特別な規定を設けるべきかという観点から議論があったところだと思いますが、さらに今、内藤委員の方からは裁判官の御立場から、刑法第35条の主張であっても、明文の特別な違法性阻却の規定に基づく主張であっても、裁判所が判断すべきことに変わりはないという趣旨の御発言を頂戴したところかと存じます。   ほかになければ、検討事項2についてもここまでとしたいと思いますが、よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○橋爪座長 ありがとうございます。それでは、本日予定していた議事につきましてはこれで終了いたしました。   本日の会議における御発言の中には具体的な事例に関するものもございましたので、御発言内容を改めて確認するとともに、御発言された方の御意向を改めて確認した上で、非公開とすべき場合がある場合には該当部分を非公開とするような取扱いについても検討したいと思います。具体的な範囲や議事録の記載方法につきましては、その方との調整もございますので、座長である私に御一任いただければと存じますけれども、そのような形でよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○橋爪座長 ありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきます。   本日の会議はここでここまでとしたいと思います。   次回以降の予定につきまして、事務当局の方から説明をお願いいたします。 ○猪股参事官 次回第5回会議につきましては、令和7年12月23日火曜日の午前を予定しております。詳細につきましては、別途御案内したいと考えております。 ○橋爪座長 ありがとうございます。   では、本日はこれで閉会といたします。どうもありがとうございました。 -了-