侮辱罪の施行状況に関する刑事検討会 (第5回) 第1 日 時  令和7年12月23日(火)   自 午前 9時58分                         至 午前11時30分 第2 場 所  法務省5階会議室 第3 議 題  1 検討事項3(その他)について           ・インターネット上の匿名での誹謗中傷による侮辱罪に関し、被疑者の            特定に係る被害者の負担を軽減することについて           ・損害賠償命令制度の対象事件を拡大することについて           ・その他         2 検討事項全体について         3 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○猪股参事官 ただ今から侮辱罪の施行状況に関する刑事検討会の第5回会議を開催いたします。 ○橋爪座長 本日は、皆様年末のお忙しい中御参加いただきまして誠にありがとうございます。   まず、事務当局から本日の議論に入る前に説明事項があればお願いいたします。 ○猪股参事官 前回会議におきまして、侮辱罪につき正当行為に該当すると判断されて無罪とされた裁判例について御質問がありましたが、調べたところ、山口地方裁判所令和7年4月24日の判決が存在いたします。   事案といたしましては、被告人がSNS上で特定のNPO法人の代表の活動等を批判する投稿を複数回行った侮辱・名誉毀損被告事件であり、本判決はこのうちの侮辱に該当するとした2件の投稿について、一般論として、「侮辱罪の構成要件に該当する表現であっても、当該表現に公共性及び目的の公益性が認められ、意見、論評の前提となる事実の重要部分について真実であることの証明があった場合には、対象者の人身攻撃に及ぶなどの意見、論評の域を逸脱した表現でない限り、許容される論評として刑法35条により違法性が阻却される」とした上で、当該該当行為について許容される論評として違法性が阻却されるとして無罪を言い渡したものです。 ○橋爪座長 ありがとうございます。それでは、本日の議事に移りたいと思います。   本日は検討事項のうち「3 その他」について御議論をお願いしたいと考えておりますが、特に御議論頂きたい内容は、具体的に3点ございます。すなわち、第1に「インターネット上の匿名での誹謗中傷による侮辱罪に関し、被疑者の特定に係る被害者の負担を軽減すること」、第2に「損害賠償命令制度の対象事件を拡大すること」、第3に「その他」について御議論をお願いいたします。   その後、これまでの議論を踏まえまして、検討事項全般について更に御意見を伺うことにしたいと考えておりますが、そのような進め方でよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○橋爪座長 ありがとうございます。それでは、そのように進めてまいります。   まず、「インターネット上の匿名での誹謗中傷による侮辱罪に関し、被疑者の特定に係る被害者の負担を軽減すること」について御議論をお願いしたいと思いますが、それに先立ちまして事務当局から説明事項があればお願いいたします。 ○猪股参事官 「インターネット上の匿名での誹謗中傷による侮辱罪に関し、被疑者の特定に係る被害者の負担を軽減すること」について御議論いただく前提といたしまして、プロバイダ責任制限法の一部改正法が施行された令和4年10月1日以降の発信者情報開示命令の申立件数及び発令数について御報告いたします。   最高裁判所事務総局によれば、令和4年10月から12月までは申立件数が581件、発令数が79件、令和5年は申立件数が3,959件、発令数が1,379件、令和6年は申立件数が6,779件、発令数が2,789件であったということでした。 ○橋爪座長 ありがとうございます。まだ3年間ですが、申立件数も発令数も徐々に増加傾向にあるということかと思います。   それでは、「インターネット上の匿名での誹謗中傷による侮辱罪に関し、被疑者の特定に係る被害者の負担を軽減すること」に関しまして御意見のある方は御発言をお願いいたします。 ○柴田委員 被害者が警察に相談をして、警察が捜査関係事項照会書でコンテンツプロバイダなどに発信者情報の開示を求めたとしても、メジャーなところは結局それに回答しないため、警察からも被害者が民事手続で特定してほしいと言われ、被害者が弁護士費用を掛けて被疑者特定のための仮処分をするという流れになっていると認識しております。   ですので、まず第一に、捜査関係事項照会に対して、ちゃんと回答をしてもらえるような制度づくりが必要なのではないかと思っております。   次に、被害者が弁護士費用を掛けて被疑者を特定したとしても、その弁護士費用を誰が負担するのかが問題になります。弁護士費用の実費も損害に含めるという判決がありますが、それも回収できない可能性が十分にあるわけです。判決は取ったものの被害者が弁護士費用を負担することになるということは往々にしてあるので、基本的には被害者の負担を軽減しなければいけないとは思っています。   また、それだけ時間と手間を掛けたとしても、1年以下の拘禁刑と法定刑が軽いものですから、時効が3年と短く、時間を掛けて被害者の方が何とか被疑者を特定して、警察に何とか捜査してくださいとお願いしたとしても、時効の関係で動いてくれないという案件もあるようなので、より早期に発信者情報が開示が促される仕組みというのが必要なのだろうなと思っております。 ○橋爪座長 ただ今三つの観点から、現状に関する問題意識をお示しいただいたものと承知しております。   柴田委員にお伺いしたいのですけれども、ただ今、警察の照会にプロバイダが回答しない場合があり得るので何らかの制度が必要であるという御指摘、被害者が民事訴訟を提起した場合の弁護士費用の負担が大きいのではないかという御指摘、法定刑の問題から時効が短くて、調査を尽くしても刑事事件として取り扱ってもらうのが難しいという御指摘の、三点の御指摘がありましたが、微妙に視点が異なるようにも思われます。   柴田委員としては、特にどの点について問題意識がおありなのかにつきまして、更に深掘りして伺ってもよろしいでしょうか。 ○柴田委員 被害者側の視点からすると、警察できちんと動いてほしいという希望があります。そういう意味では捜査関係事項照会にコンテンツプロバイダがきちんと回答する制度ができないといけないと思っています。まず答えてこないというのが何人か知り合いの弁護士に聞いた感想なので、回答しないことがあり得るというよりは回答しないことの方が圧倒的に多いというのが被害者側の認識だと思っています。   あと1点追加させていただきたいのが、それだけ手間を掛け、仮処分を取ったという段階になっても、アクセスプロバイダに記録が残ってないこともあるそうなので、通信履歴の保存期間の長期化を図ってもらわないといけないと思っています。 ○玉本刑事法制管理官 通信事業者にきちんと回答してもらえる制度について御指摘がありましたけれども、もともと差押えという制度がありますが、更に加えまして、今年の通常国会で電磁的記録提供命令という新しい強制処分が導入されております。来年施行ですが、これは令状に基づいて事業者等に証拠となる電磁的記録について提出するように命令でき、その命令違反については罰則を設けて、罰則によってその提出を担保するという制度になっております。捜査を合理化、効率化するという観点も含めて導入した制度ですので、今後はこういったものの活用も考えられると事務当局としては考えているところです。 ○柴田委員 捜索、差押えとなると、現場での負担が一段、二段高くなってしまうので、その点についてどうなのか疑問です。   その制度に関連して一つ考えていただきたいと思っているのが、例えば今発信者情報開示命令事件については、全国の事件を東京地裁の民事第9部だけで処理しているので、先ほど御報告のあった件数を民事第9部の数人の裁判官で処理しているという状況です。ただ、その件数を処理するためにホームページの内容も充実していて、申立てのひな形とかも取りやすくなっていたり、疑問点もホームページを見れば分かるようになっていたりするというように、専門性が高く処理もしやすくなっています。警察組織の内部のお話になるので、単なる希望なのですが、侮辱罪や名誉毀損罪などのインターネット上の被害に対する専門チームというか、全国でそういう相談があったらここにつなぐみたいな形で専門家集団をつくっていただいて、迅速な対応をしていただければなと思っています。 ○山本委員 インターネット上の誹謗中傷事案について、改正刑法が施行された令和4年以降を調べてみましたが、全ての都道府県警察でインターネットを利用した名誉毀損罪や侮辱罪の検挙があります。   これは何を意味するかというと、警察法上、サイバー警察を除けば、捜査は都道府県警察単位で行うことになっているところ、サイバー事案の捜査経験を有する捜査員が各都道府県警察に存在しているということです。   サイバー事案は、国の事務の部分もありますけれども、原則、都道府県警察の警察本部にサイバー部門がありまして、高度な専門的な知識や技術に基づいた支援を行う専門の捜査員を配置しています。被害者から相談があった場合には、警察本部の経験豊かな捜査員が必要に応じてインターネット上の誹謗中傷事案を取り扱う刑事部門や警察署の支援を行っています。これは47都道府県全てそうです。   こういったような状況にある中で、警察は侮辱罪以外にもいろいろな事件を取り扱っていますので、柴田委員から御提案があったインターネット上の誹謗中傷事案のみを取り扱う部署を設置する必要性というのは、私自身は今のところは少ないと思っております。   いずれにしても、今後も引き続き、担当部署において被害者の方に負担が掛かることがないような対応をしっかりするように指導していきたいと思っております。 ○柴田委員 警察の人的資源にも限りがあるということを認識した上で、効率化を図ってもっと被害者の負担を軽減できる体制をつくっていただきたいという趣旨なので、全く対応がなされてないというわけではないのですが、侮辱罪や名誉毀損罪だけではなく、リベンジポルノ等、インターネット上で被害を受けたものの発信者がよく分からないという案件はそれ以外にもあるので、インターネット上の匿名の加害者に対する部署や捜査体制があってもいいのではないかという意見でございました。 ○橋爪座長 ほかにいかがでございましょうか。特によろしいでしょうか。   それでは、この問題につきましてはここまでといたします。   警察の捜査について、いろいろな課題の御指摘がございましたが、発信者の特定をめぐる問題は、民事、行政の問題も含めまして、全体として考えなければいけない問題という側面があるような印象を持ったところです。   続きまして、「損害賠償命令制度の対象事件を拡大すること」につきまして御議論いただきたいと思いますが、それに先立ちまして損害賠償命令制度の概要や対象犯罪の範囲が特定されている趣旨につきまして、事務当局から説明をお願いいたします。 ○猪股参事官 損害賠償命令制度は、犯罪被害者等による損害賠償請求に係る紛争を刑事手続の成果を利用して簡易、迅速に解決することを目的とする制度であり、一定の対象犯罪の被害者等が刑事裁判所に対し、起訴状に記載された犯罪事実に基づいてその犯罪によって生じた損害の賠償を被告人に命ずることを申し立てるものです。   申立てを受けた裁判所は、刑事事件について有罪の判決があった後、刑事裁判の訴訟記録を証拠として取り調べ、原則として4回以内の審理期日で審理を終わらせて損害賠償命令の申立てについて決定することとなり、これに対して当事者のいずれかから異議申立てがあったときは通常の民事訴訟の手続に移ることとなります。   また、対象犯罪については、損害賠償命令制度においては故意の犯罪行為により人を死傷させた罪や性犯罪など被害者等が類型的に身体的、精神的に疲弊して通常の民事訴訟を提起することは困難であると思われる重大な犯罪であって、救済の必要性が強く認められ、かつ刑事手続において認定された事実を基に簡易、迅速な手続で民事上の請求についての判断をすることができる犯罪がその対象とされているところです。 ○橋爪座長 ありがとうございます。以下では、ただ今の御説明も踏まえて、侮辱罪を損害賠償命令制度の対象にすべきかという点に関して議論を進めたいと思います。   この点につきまして、御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○柴田委員 損害賠償命令が重大犯罪に限定されているというのはそのとおりですが、新しい制度ができるときに小さく産んで大きく育てていくということはあり、ストーカー規制法ですとかDV禁止法でも、最初は範囲が狭くても運用していく中で必要に迫られて対象を拡大していくということはよくある話なので、損害賠償命令制度ができたときに重大犯罪に限るとしたからといって対象を拡大してはいけないという話ではなく、対象犯罪を拡大していくという考え方を取ってもいいのだろうと私は思っています。   ただ、実際問題として損害賠償命令があまり活用されてないという実態がありまして、損害賠償命令自体の使い勝手の悪さというところも問題視されております。   日本弁護士連合会が第5次犯罪被害者等基本計画案に対する意見書という形で出したパブリックコメントでも多少触れていますが、損害賠償命令制度自体をより使いやすく改善していくこととセットで対象犯罪も広げていくという考え方を取って、侮辱罪ですとか名誉毀損罪の場合に対象犯罪を広げるというのがいいと思っています。   ただ、実際問題としては、略式命令の場合には損害賠償命令制度が利用できないので、損害賠償命令制度の対象にしたからといって被害者が大いに救済されるというわけではなくて、方策の一つとして十分検討に値するのではないかという意見でございます。 ○長戸委員 損害賠償命令制度は導入されても思ったほど実は使われてないというお話もお聞きしておりまして、柴田委員がおっしゃった損害賠償命令制度の使い勝手の悪さについて、具体例を挙げて実務家の方から御説明をお願いできればと思います。 ○柴田委員 いろいろ意見があるところなので、私の個人的な意見という前提でお話しさせていただきますと、日本弁護士連合会の意見書などで指摘されているのは、基本的に加害者が異議を出した場合、通常訴訟に移行してしまうのですが、その場合に、損害賠償命令の申立ては2,000円という安い印紙代でできるのが、異議が出された段階で通常訴訟になり、印紙代が訴額によって10万円や20万円とかなり高額に跳ね上がってしまうことが問題とされています。   また、個人的には、損害賠償命令が刑事事件の1審判決と控訴審判決の間に出されるので、被害者が厳罰を望んでいるときには利用しにくいという点に問題があると思っています。要は厳罰を望んでいて示談にも応じなかったけれども、損害賠償命令を申し立ててしまうとそこで損害額が決まります。そうすると、被告人がお金を払ってしまえば損害が賠償されたということになってしまうので、せっかく頑張って示談にも応じず厳罰に処してくださいとお願いしていた被害者側の気持ちが無にされるということになるので、厳罰を望んでいるときには使えないということがあります。   あとは対象犯罪が重大犯罪に限られているということで、せっかく損害賠償命令を勝ち取ったとしても刑務所に長期間入ってしまって回収ができない可能性が高いということがありまして、そういった面からも利用をちゅうちょしているところがあるのかなと思います。もともと回収可能性が低いけれども、きちんとした判決を取りたいと思っている被害者のための制度という側面もあるのですが、ただ、先ほど言ったとおり異議が出されたら、結局回収ができないにも関わらず高額な印紙代、弁護士費用が掛かってしまうというところもネックなのかなとは思っています。 ○趙委員 損害賠償命令制度の一般というより侮辱罪を念頭に対象事件を拡大するかという点について少し意見を申し上げたいと思います。   損害賠償命令制度を仮に侮辱罪に導入したとしたら、想像されるのは損害の範囲といいますか、何を損害として捉えるのか、インターネット上の誹謗中傷によって自死されたとか、そこまでいかなくてもとても大きな派生的な損害が生じたとして、どこまで損害に含めるかということが当然問題になると思います。   当然侮辱罪ですので、保護法益は社会的な評価を下げたということにとどまるとすれば、そこは恐らく被害者が求めるものとずれが生じることは容易に想像がつき、しかも被告人側からしたら、損害の範囲について簡易な手続の中でまとまるというのはあまりイメージが湧かないというところがあって、そういう意味で侮辱罪を損害賠償命令制度の対象にするということは非常に難しい面が多々あるのではないかと感じます。 ○柴田委員 先ほどの発言に補足させていただきたいのですけれども、侮辱罪に限らず、一般論として損害賠償命令制度が不十分なので、被害者に対する新たな補償制度というのが必要だと私は考えています。 ○笹倉委員 損害賠償命令制度そのものについて、現在の対象事件との関係でも使い勝手が悪いという御指摘があり、実際にも利用があまりないとのことであり、そのことは重く受け止める必要があります。ただ、そもそも、この制度は、民事と刑事の別を大前提にしつつ、その例外として、民事の損害賠償請求を刑事手続に付随して扱うことが可能な場合に、その限度において、被害者の方の救済に少しでも資するものをつくろうということでできたものですので、制度に内在する限界としてやむを得ない面があることも否定できないのだろうと思います。その上で、刑事手続に付随して原則4回以内の審理期日で審理ができるものはどこまでかということになりますと、構成要件的結果としての被害が、定型的、類型的、あるいは一般的に大きく、しかも、その存否や内容・程度について、ある程度、定型的、類型的、あるいは一般的な判断ができるようなものということになると思います。しかし、先ほど趙委員がおっしゃったように、侮辱を理由とする損害賠償の場合には、損害の範囲、しかも、構成要件外結果を含むそれが深刻な争点になり得るということだとすると、現在の損害賠償命令制度で対処し得る限度を超えるように思われます。   個別の事案で需要があるということは、もちろん、よく分かりますけれども、損害賠償命令制度そのものを抜本的に見直すというのであればともかく、現在の制度を前提として対象犯罪を拡大して侮辱罪を含めることには消極に傾かざるを得ない。そのように考えているところです。 ○玉本刑事法制管理官 事務当局からですが、柴田委員から損害賠償命令制度におきまして、相手方が異議を申し立てれば通常訴訟に移行して、その際に通常の印紙代が掛かるという御指摘がありました。   ただ、そこについては恐らく損害賠償命令制度特有の話というよりは、そもそも犯罪被害者の方が民事訴訟を提起する場合に、その費用負担についてどのような支援をすべきかという大きな話なのではないかと思います。   また、相手方からの回収可能性の問題についても、損害賠償命令制度に限ったことではなくて、損害賠償請求訴訟全般について検討されるべき問題なのではないかと思います。   それから、損害賠償命令の審理が、地方裁判所での刑事手続の後に行われているという関係で、厳罰を求める場合には利用しにくいという御指摘ですけれども、これは損害賠償命令制度の趣旨が損害賠償請求に関する紛争を刑事手続の成果を利用して迅速に解決するというものであることからすると、地方裁判所での刑事事件の審理に引き続いて行うことについては一定の合理性があるのではないかと考えているところです。 ○趙委員 損害賠償命令制度だけでなく、刑事事件から続く民事的な損害賠償の話になったので、一言だけ蛇足ではありますが、申し上げたいと思います。   通常訴訟で被害者の方が損害賠償請求するということがあるわけですけれども、現場で何が問題になっているかというと、例えばもともと刑事手続に被害者参加されていた被害者が損害賠償請求するときに、証拠の取扱いとして、刑事訴訟法で被告人側には目的外使用の禁止規定がありますが、被害者参加している方が検察官から謄写を受けた証拠については、目的外使用の禁止規定がなく、被害者の側が裁判で証拠を出すことについては少なくとも法的な制限は何もありません。それに対して防御をする側は、もともと刑事裁判で検察官から開示を受けていた証拠の中にその損害賠償事件において必要な証拠があったとしても、それは目的外使用だということで出せないという問題があって、結構現場ではかなり深刻な問題になっていたりもします。   ですので、刑事事件の損害賠償の在り方等、今後仮に更に検討するということがあった場合に、その問題についても現場では非常に大きな問題になっているということを申し上げさせていただきました。 ○柴田委員 法的な規制がないのはそのとおりかもしれませんが、被害者支援をしている側の弁護士である私の知っている範囲では、謄写を受けるときに謄写する弁護士が誓約書を提出して、目的外使用しないことを約束しており、実際に、それを流用したりせず、民事訴訟をする場合には謄写し直しているので、被害者参加のためにもらったものをそのまま利用しているというわけではありません。一部そういう問題な行動をしている人がいるのかもしれないですけれども、大多数の被害者側の支援している弁護士はそういうことはやってないということを一言言わせていただきたいと思います。 ○橋爪座長 ほかにこの点に関係しまして御発言はおありでしょうか。よろしいでしょうか。   今伺っておりますと、犯罪被害者の方をどのように保護するかという大きな問題と、また別の観点として、現行の損害賠償命令制度、つまり刑事手続に随伴して損害賠償を行うという仕組みをどこまで拡張できるかという問題が交錯する論点であるように理解いたしました。   そして、後者の観点については、先ほど笹倉委員から御指摘がありましたように、因果関係の有無や損害の範囲、程度について刑事事件において類型的な判断ができるかという視点が具体的な検討においても重要であるような印象を持ったところです。   それでは、この論点はここまでとさせていただきまして、次の論点に移りたいと思います。   今度は「その他」について更に検討したいと思いますが、1点御提案があります。   すなわち、本検討会第3回のヒアリングにおきまして、松永様から死者に対する侮辱を処罰してほしいという御意見がありました。現行法では、死者に対する侮辱は侮辱罪の構成要件に該当しないわけですが、これを新たに処罰対象にすべきかという問題につきまして御議論をお願いしたいと思います。   この点につきまして、御意見のある方は御発言をお願いいたします。 ○柴田委員 死者に対する名誉毀損罪はありまして、いろいろ争いはあるにしても、死者に対する名誉毀損罪の保護法益は亡くなった死者自身の外部的名誉とするのが多数派のようです。死者に対する外部的名誉が保護法益として成り立つのであれば、死者に対する侮辱罪というのも創設するのは問題ないのではないかと考えております。   法定刑引上げ以前は侮辱罪というものが刑法の中で一番刑が軽い犯罪だったものですから、それよりも更に軽い罪というのは考えられなかったのだとは思いますけれども、今回法定刑が1年以下の拘禁刑に引き上げられて、それよりも軽い罪が想定し得るようになった状況において、死者に対する名誉毀損罪にパラレルな形で死者に対する侮辱罪というものをつくってもいいのではないかと思います。 ○橋爪座長 今御指摘がありましたように、名誉毀損罪については刑法第230条第2項がございますので、死者については名誉毀損罪が例外的に処罰されています。この処罰根拠については議論がありますが、多数説は死者が生前に有していた社会的名誉・外部的名誉が保護対象であると考えており、そうすると侮辱罪についても保護法益が共通であるならば、死者に関する侮辱を処罰対象とすることもあり得るという観点から御発言があったものと伺いました。   ほかにいかがでしょうか。 ○佐藤委員 先日のヒアリングで松永様のおっしゃったような事例については処罰されてしかるべきかなと私も感じましたが、死者といったときに限定がどういうところにかかるのかというところが疑問としてあります。つまり、歴史上の人物も死者でありますので、そこまで侮辱罪の範囲を広げると処罰範囲が過剰になりかねないとすると、何らかの形で絞りをかける必要があり、その方法はどのような形があり得るのかというところが検討事項として出てくるかと思います。 ○橋爪座長 死者といってもかなり幅があり、歴史的な人物もいれば最近亡くなった方もいらっしゃるため、どのような限定があり得るかという観点からの問題提起かと存じます。 ○嶋矢委員 私自身は、虚偽の事実を述べて死者をおとしめる行為のみを処罰している刑法第230条第2項の現行の規定及び処罰範囲というのはそれなりに合理的なのではないかと思っております。それが一番悪質で処罰の実態があるということもあるのですが、こういった規定により死者の名誉の保護と歴史的存在となった死者に対する批評をする表現の自由の保護とのバランスが取られているのではないかと考えられるからです。   仮に柴田委員がおっしゃるように、死者に対する侮辱罪も同じように設けるというような場合には、死者に対する名誉毀損罪と同様に表現の自由に配慮して処罰対象を限定する必要があると思われるところですが、しかしながら前回の議論とも関わるところでありますが、事実の摘示を伴わない侮辱行為について、虚偽の事実の摘示を前提とした構成要件を規定するということは困難であると思われますし、他に適切に処罰範囲を限定する方法もなかなか見当たらないのではないかと思います。かといって、限定をかけないと、先ほど佐藤委員がおっしゃられたように、歴史上の人物への批評も処罰対象となりかねないということもあり、現状の規制で差し当たりよいのではないかと考えております。   ただ、適用例はかなり乏しい規定だとは思いますので、悪質な事案では難しいところもいろいろあるのだと思いますが、積極的に刑法第230条第2項を活用することを考えることは今後の課題になっていると思うところです。 ○田山委員 私自身も、死者への侮辱罪を創設することについては慎重な立場ということを申し上げたいと思います。   今も御発言がありましたように、歴史的人物への批評に対して十分配慮しなければならないというのは一番大きいところですし、さらに、死者に対する侮辱という行為には非常に悪質なものがあるというのももちろん承知はしているところですけれども、その本質を考えたときに、残された遺族を始めとして、現在生きている人間に対して非常に大きなダメージになるというところがむしろ本質的には大きいのではないかという気がいたします。   そういう意味では、構成の仕方も多少難しくはなるかもしれませんけれども、遺族本人に対する侮辱や名誉毀損を基本に考えていく方が現実的なのではないかという気がしているところでございます。 ○柴田委員 もちろん処罰範囲の限定という検討は必要にしても、現在実際に遺族本人に対する名誉毀損ですとか侮辱で処罰してもらえないからこそ、検討してほしいという声が上がっているので、遺族に対する侮辱や名誉毀損での対応では足りないという今の現状をお酌みおきいただいて、処罰範囲の限定についてはきちんと検討した上で、新たな法律をつくるということも十分検討に値するのではないかという意見でございます。 ○佐藤委員 処罰範囲の絞り方としては、構成要件段階で何らかの絞りをかけるという方法と、法的性格については違法性阻却なり、処罰阻却なり、いろいろあると思いますが、免責規定を置くという考え方があると思います。御参考までにドイツにおいては、刑法第189条に死者の追憶に対する不敬という罪がありまして、これは死者に対する侮辱行為を捕捉するものだと思うのですが、免責規定のつくり方が日本の名誉毀損や侮辱とドイツではかなり違うというところがございます。   ドイツの場合、刑法第193条に侮辱や誹謗中傷をまたがる形で正当な利益の保護という、一言で言いますと利益衡量的な規定が置いてあります。したがって、恐らく歴史的な人物に対する批評については、これは違法性阻却という法的性格だとされているのですけれども、違法性阻却がされる余地があったりとか、また構成要件段階でも侮辱の程度が重大でなければならないというような絞りもあり、これらによって処罰範囲の調整ができているのかなと思います。   それに対して、日本の刑法は立て付けがかなり違いまして、刑法第230条の2の真実性の証明の話になってきますので、これは立法技術上の問題になると思うのですけれども、こういう立て付けの中で侮辱罪について免責規定を設けるとなるとかなり工夫が必要になるのではないかとと思います。柴田委員のおっしゃる気持ちは非常によく分かるのですが、いろいろ乗り越えるハードルがあるのではないかというのが私の考えです。 ○田山委員 先ほどの柴田委員の御意見、本当にごもっともだとは思います。   結局、現行法の考え方を前提にすると、そうならざるを得ないのではないかという非常に現実的な発言をしてしまったわけなのですけれども、死者そのものに対しての保護を拡張するに当たっては、死者そのものがどれほど人格権の対象になるのかといったような、かなり根本的な議論が必要になってくるのではないかと感じているところでございます。死者に法主体性を正面から認めるべきという議論は少ないのではないかと思うのですが、生前の延長という形での人格権の保護というのをどこまで認めていくかについては、現状を見るところ議論としては相当複雑になっていくだろうという印象を持つところでございます。   例えば、死後間もない人をめぐっては、臓器移植に関連して、死体そのものに対する保護を人格権的な観点からどこまで認めていくのか、そして生前の意思というのをどこまで守っていくのかといったような議論がなされており、ここでの議論と根底で通じる問題意識があるのではないかと認識しているところです。   ですから、そういったものも含めて死者に対する人格権の保護というのを正面から認めて拡張していくためにはかなり深い議論をしていく必要があろうかと、その意味で時間が少々必要かと感じているところでございます。 ○橋爪座長 ほかにいかがでしょうか。   基本的な論点は出尽くした感じでしょうか。いろいろな論点があるような印象を持ちました。そもそも本来ならば人格権、名誉権といったものは生きている人間しか享有できないはずが、例外的に刑法は死者についても社会的名誉を保護しているわけです。   そうすると、侮辱罪についても例外的な保護を更に一般化して広く処罰をすべきかという論点が生じ、さらに、死者といいましても、最近まで御存命の方もいらっしゃれば数百年前に亡くなった方もいらっしゃるわけでありまして、さすがに徳川家康などに対して批評、論評することを侮辱罪で処罰するということは適切ではないと考えますと、死者という概念をどのように限定するのかということが具体的な論点になってくるように思います。   さらに、名誉毀損罪につきましては先ほどから御紹介がありましたように、真実を摘示した場合には、これは名誉毀損罪に該当せず、虚偽の事実を摘示した場合に限って構成要件に該当します。したがいまして、理屈の上では、徳川家康に対しても虚偽の事実を摘示してその名誉を毀損すれば現行法でも名誉毀損罪で処罰はできるわけでありますが、数百年前に亡くなった人について、摘示した事実が虚偽であることを立証することはほとんど不可能ですので、実際に処罰されることはほとんど考えられません。しかし、侮辱罪は事実を摘示することが要求されていないので、摘示した事実が真実か否かという観点とは別の観点から処罰を限定しなければならず、それでは、どのような処罰の限定の契機があり得るのかという観点から、ただ今、委員の皆様から御議論いただいたものと承知をしているところです。   何かほかに御発言、御意見はありますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、死者に対する侮辱罪の成否については、ここまでとさせていただきます。   その他として、ほかに検討すべきものがありましたら御発言をお願いしたいと思います。 ○赤羽委員 先ほど、ヒアリングで頂戴した御意見を踏まえて、死者に対する侮辱罪を新たに創設してはどうかという御議論があったわけですけれども、これに少し関連しまして、実務上は死者に対する侮辱以外にも、例えば御遺体に対するわいせつ行為といった事案が現に発生しているところでございます。こういったものの中には、現行法の死体損壊罪等は成立しないけれども、やはり死者の尊厳を害するような行為と言えるものもあるように思われます。   そこで、もし可能であれば、この機会に、死者に対するわいせつ行為など死者の尊厳を害する行為を刑罰の対象とすることについて委員の皆様の御意見を伺えたらと考えております。 ○橋爪座長 今、赤羽委員からは、死者に対する性的行為など尊厳を害する行為の取扱いについて議論してはどうかという御提案を頂戴したところです。   これまで死者に対する侮辱罪について検討してまいりましたが、その発展的な問題として死者に対する侮蔑的な行動に対して、どのように対応すべきかという実務的な問題提起かと存じます。   本日の議論に関係するテーマですので、この機会に併せて皆様方の御意見を頂戴したいと考えておりますけれども、いかがでしょうか。 ○長戸委員 今の赤羽委員からの御提案に私も賛同します。私が被害者問題を取材するきっかけの一つになった事件に、女性が殺害されてその遺体に対するわいせつ行為がされたという事件がありました。 【具体的事例の紹介】   確かに死者と生きている人では保護法益は違ってくるのかもしれませんが、極めてひどい事件であり、そのような形での死者の尊厳を害する行為というのは罰する必要性があると私も思いました。 ○佐藤委員 その場合に、実行行為をどのように特定するのかというのが問題として出てくるかと思います。例えば「冒涜」という言葉ですとその概念の内容がどうなるのかという問題がありますが、その点についてもしお考えがあればお伺いしたいです。 ○赤羽委員 死者と一言で言っても、直前まで生きておられて実行行為者の行為により亡くなられた方である場合や、あるいは、大分前に別の原因で亡くなられた方である場合など、いろいろな場合が想定されると思いますし、一言で御遺体、死体と言っても、生前と変わらぬ姿の場合もあれば、死後の時間の経過とともに外観等が相当程度変化している場合もあると思いますので、御指摘のとおり、例えばわいせつにしても冒涜にしても、どのような行為をもってそのように評価するかという点で争いが生じ得るという問題は承知しております。   ただ、他方で、刑罰を科すべきかという観点においては、科すべきと思われるような、正に死者の尊厳を害するような事案を現に経験しているものですから、「冒涜」の範囲をどうするかというところも含めて、委員の皆様の御意見を頂戴できればと考えた次第でございます。 ○佐藤委員 ドイツの話ばかりで恐縮ですが、ドイツでも同じような問題がありまして、それを捕捉可能な構成要件はあるようです。しかし、そこで適用される例として注釈書などで載っているのを見ますと、例えば死体の衣服を剥いで撮影するとか、死体の髪型をめちゃくちゃにするとか、死体にいろいろな張り紙を貼るとか、そういう常識的に考えて処罰してもよさそうだなと思うものが載っている反面、ひつぎの蓋を開けてその近くで酒を飲んで騒ぐとか、非常に卑わいな歌を歌うというのも例として載っていました。   構成要件の定め方がそういうものを捕捉し得るような形にドイツの場合はなっているということなのだと思うのですが、さすがに最後の二つの例は、処罰すべきかどうかかなり争いがある例なのではないかと思います。日本の場合、うまく線引きできる文言があるかというのが問題になると思います。 ○柴田委員 実際に裁判例として検索できる中にも、遺体安置所の女性の遺体を裸にして撮影する行為をした被告人に対して、建造物侵入罪しか成立しないといった、一般の感覚では納得ができないものもありますので、規定の仕方が難しいとか、処罰範囲を限定しなければいけないとか、いろいろあるにしても、もうそろそろきちんとそういうものを議論する場を設けるべき時期に来ているのかなと思います。   例えばリベンジポルノの規定上は、死者を対象に含めるのか不明ですが、恐らくもともとリベンジポルノの規定ができたきっかけになった事件も、殺害される前に行っていたということも考慮すると、リベンジポルノも生きている人を対象にしているという可能性が高いと考えられるところですけれども、名誉毀損や侮辱だけではなくて、性的なものについても亡くなった後も保護されなければいけないという状況はあるので、きちんと検討する協議会というのを設けていただきたいと思っております。 ○嶋矢委員 これまでの議論と少し重なるところもあるのですが、死者の性的自由を死後も引き続き保護しようという議論というのは、性犯罪の旧規定の下では被害者を死後の性的行為を目的として殺害した犯人との関係で認める例が裁判例上あったと記憶しておりますが、それを超えてそのような構成が可能となるかというのは、性的自由の性質からすると、ややどこまで広げられるかは難しいかもしれないなというのがまずあります。   それ以外の既存の枠で考えるとするなら、死者に対する敬けん感情等を保護している刑法第190条の死体損壊罪等で処罰される行為、それらと通底する部分というのはかなりあると言えると思います。ただ、御指摘のような今問題になっているような行為というのは、恐らく死体に対して損壊に至らない物理的な介入を行うという行為類型となり、現行法では直ちには捉え難いかと思います。   これに関連しまして、やや古い議論ではありますけれども、刑法の全面改正が議論されていた頃、例えば昭和初期の改正刑法仮案では死体等への公然侮辱を処罰するということが案として設けられており、昭和中期の改正刑法草案では死体を陵辱する行為への処罰が案として設けられていたことがあります。現在ある遺棄、損壊、領得といった刑法第190条の行為以外の行為を処罰しようとするもので、御指摘の今問題になっている問題意識と共通しているのかなと思うところです。   法益を最終的にどう考えるかというのが問題の前提にはなってくるわけなのですけれども、公然の侮辱や陵辱というような定め方だと、死体に対して罵るとか、死体に対して唾を吐くとか、死体を足蹴りするとか、わいせつ行為をするという行為のどこまで処罰されるのか、やや不明確になりそうではあります。ですので、死者に対する敬けん感情を害して、処罰に値する行為を切り出して明確に定めることができるかどうかということに最終的にはなっていくかと思います。   もちろん今議論に出ております死者を性的におとしめるタイプの行為は、先ほどの例の中でもかなり悪質な部類だとは思いますので、そういったものを切り取るということは一つ考えられる議論であるかなと思うところです。 ○橋爪座長 ほかにはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   今、嶋矢委員から詳細な御説明を頂きましたけれども、性犯罪は性的な自由や性的自己決定権を保護する犯罪ですので、生きている者の利益のみを原則的には保護しています。したがいまして、死者に対する性的行為といったものは、初めから性的な目的で殺害行為に及んだような場合を除いては、性犯罪では処罰ができないというのが現在の一般的な理解とされています。また、死体損壊罪との関係についても議論はあり得ますけれども、判例は物理的な損傷が必要であると解していますので、死体に対する性的行為によって死体が物理的な損傷に至れば、それを死体損壊罪で処罰をすることは可能ですが、物理的な損壊に至らない場合については死体損壊罪で処罰をすることも難しく、現行法では限界があるという御指摘があったところかと思います。   このような前提から、死体に対する性的行為についても、それを新たに処罰をすべきではないかという御提案、御提言をいただいたところですけれども、佐藤委員からも御示唆がありましたように、死者の尊厳を害する行為というのは、死者に対して罵倒する行為であるとか、周囲で卑わいな言動をするとか、いろいろなタイプがあり得るところ、死者の尊厳を可罰的に侵害する行為をいかなる観点から限定するかというところが、立法論としても困難な問題として残る印象を持ちました。   恐らく本日の委員の皆様の御意見の中では、死者に対する性的な侵害行為については、これを処罰することは十分にあり得るという御意見が強かったように思うのですが、死者については性的自由といったものが観念できないわけですので、死者に対する行為について、性的な行為か否かをどのように区別するかという問題もあり得ますし、更に申しますと、性的自由を享受していない死体について、性的に尊厳を害する行為と別の観点から尊厳を害する行為を切り分けた上で、前者のみを処罰対象とすることの当否といったことも問題になるような印象を持ったところです。   いろいろ困難な問題がありますけれども、本日議論ができたことは非常に有益であったように思います。   今日のところはここまででよろしいでしょうか。   では、ほかにその他事項としまして、この機会に御意見や御発言がありましたらお伺いしたいと思いますが、いかがでしょうか。 ○柴田委員 この問題で一番私が重要だと思っているのが、被害の実態がきちんと把握されてないことだと思います。警察の認知件数は、相談の扱いになってしまうと対象外になるというのは初回のときに御説明があったとおりなので、警察の認知件数でも被害の実態、推移について把握できない。   それを改善するために、例えばインターネット上の侮辱ですとか名誉毀損に関する相談件数を把握するということはかなり困難ではないかと思いますので、世論調査の質問事項にインターネット上での被害実態に対する質問事項を追加するとか、被害実態を把握する方法を検討して実施していかないと、有効な対策も採りにくいですし、実際刑罰法規がこれに十分対応できているのかどうかの判断もできないので、是非インターネット上でのこういった被害を調査する方策というのを行っていただきたいと思っております。 ○橋爪座長 今私が伺った印象で1点だけ申し上げますと、インターネット上の誹謗中傷の被害と申しましてもかなり幅があるような気がしますし、被害と感ずるか否かもかなり個人差があるような気がいたします。侮辱なり名誉毀損に該当し得る行為があるかということをアンケート調査等から具体的に明らかにすることは難しいような印象も持ったのですけれども、その点はいかがでしょうか。 ○柴田委員 もちろん世論調査の質問事項に追加するというのは一つの案でして、アンケート調査というのもいろいろありますので、例えば1,000人とか対象者を決めて、面接調査で事細かに事情を詳しく聞いた上で、それを基にサンプリングから推定するという方法も考えられます。もちろん質問の仕方を工夫しなければいけないといった問題はあるにしても、今のところ情報がないというのは問題なので、これを放置していいとは思えません。ですので、皆さんのお知恵を拝借して、実態把握の方法を検討していく必要があると考えております。 ○趙委員 今の点に関連しまして、実態把握すべきだということ自体もちろんそれはそうだと思うのですが、一方で、こういうインターネット上の言動というのは、先ほど座長が言われたように、同じ言動であっても人によってそれを被害と捉える人もいれば被害と捉えない人もいるというものだと思います。   何とも思ってないものをそれはインターネット上の誹謗中傷だから被害なんですと意識させることが、果たしていいことかということは疑問に思うところがあります。というのは、この後少し発言の機会いただければと思っていたのですが、処罰されるべき誹謗中傷というものと、少なくとも犯罪と言えないような言動との境目というのは非常に曖昧なものがあると思っていて、それを掘り起こすことによって、これは犯罪なのだというふうに、あらゆる言動を犯罪だというふうに持っていくこと自体、果たしてそれは健全なことなのかということについては疑問を感じるところがあります。   ですので、実態把握すべきだというのは本当にそのとおりだと思う一方で、そのやり方というのは非常に難しい面があるのかなということを感じました。 ○橋爪座長 そのほかに、検討事項3の「その他」として御発言、御意見がありましたら承りたいと思います。ほかによろしいでしょうか。  それでは、今日の議事次第の2に移りますが、検討事項全体について更に御意見を伺いたいと思います。   御意見がありましたらお願いいたします。 ○趙委員 検討事項2の「表現の自由その他の自由に対する不当な制約となっていないかどうか」という点に関しまして、今日冒頭で山口地裁で1件侮辱罪で無罪になった例があるということを御紹介いただきました。   私も判決文を見ましたが、その事案ではインターネット上の言動について、一つは構成要件該当性を否定して無罪にしていて、もう一つは一連の発言について、侮辱の構成要件該当性を認めた上で違法性阻却しているというケースでした。   構成要件該当性を否定している理屈としてその裁判例で述べていたことは、公然と他人を批判する表現の全てを社会的評価を低下させるおそれがあるものとして侮辱に該当するとしたのでは、個人の表現の自由を過度に制約することになって不相当なので、侮辱に該当するか否かを判断するに当たっては、当該表現が対象者の社会的評価を低下させるおそれの程度についても考慮する必要があるというべきだという解釈を示した上で、最終的には、当該事案については、刑法上処罰に値するだけの程度の社会的評価を害した表現とは認め難いということで構成要件該当性を否定していました。   他方、違法性阻却した方の言動については、侮辱の構成要件該当性は認めつつも、先ほど御紹介いただいたとおり、刑法第230条の2の趣旨は侮辱罪にも当たると言った上で、侮辱罪の構成要件に該当する行為であったとしても、表現の公共性、目的の公益性、あるいは意見、論評の前提となる事実の重要な部分について真実であることの証明といったことから、刑法第35条で違法性阻却したということが書かれているわけです。   これは、侮辱罪について違法性阻却の判断をした一例ではあるのですけれども、第4回会議でも、昨今の侮辱罪での公判請求事例に少し触れましたが、更に別でも侮辱罪の公判請求事例があるということを確認いたしました。それぞれ詳細は不明ですが、いずれこれらの事例でもこういう構成要件該当性とか違法性阻却が争われる可能性もあると承知しております。   先ほどの例も含めて、表現の自由その他の自由に対する不当な制約とならないかという点について、まずそれらは検察官の起訴裁量に委ねるべきという議論は、それは非常に危険ではないかと思います。もちろん多くの事例では、検察官のところでスクリーニングされている例が多々あると思いますけれども、それに頼るのは法制度として非常に危険だと思います。   一方で、無罪になった事例などを含めて、特に先ほど紹介した構成要件該当性のところは、一つの法解釈を示したということなのだと思うのですけれども、違法性阻却のところについては、判決文においても刑法第230条の2の趣旨が同様に妥当するということで、一定の規範を立てて当てはめているということをされていて、ある意味裁判所が法をつくっているとまで言えるかどうか分かりませんが、かなり苦慮して違法性阻却を導いているというところがあって、こういうものを見ると侮辱罪についても違法性阻却事由について一定の明文規定を設ける必要があるのではないかと思います。   これまで侮辱罪には事実の摘示が要件とされておらず、違法性阻却事由を明文で設けることは難しいということがずっと言われているわけですが、一方でこの山口地裁の事例は、一定の違法性阻却の要件を設定して判断しているというケースでもあるわけで、そこは十分検討の余地があるのではないかということを改めて感じた次第です。 ○嶋矢委員 趙委員がおっしゃられることも分からなくはないところですが、前回会議においても議論があったところですけれども、正当な表現活動を適切に処罰対象から外す規定というのが名誉毀損罪と同じようにカテゴリカルにできるかというのが難しいのではないかと考えているところです。   おっしゃられたとおり、山口地裁の判決につきましては、一定の要件を設定して判断をしているところであるわけなのですけれども、問題は侮辱の場合にはそれが全てかというと、それ以外にも、例えば事実を全く含んでいないような場合であったら当然違う構成を取らざるを得ないということもあり、同じような構成で違法性阻却できるわけではないと思うところです。ですので、そういうものを包括するという意味で現行の刑法第35条に委ねるというのは、それなりに合理性がある対応と思っております。   前回も申し上げたところですが、一部でも明確に規定するということも考えられなくはないのですけれども、しかし今度は一部を規定してしまうとそれ以外は駄目なのかということにもなりかねないところでもあり、実際に刑法第35条の適用により解決した裁判例があるということからいたしますと、それに委ねるということも可能かつ現実的な解決方法なのではないかと考えているところです。 ○橋爪座長 今、嶋矢委員からは、具体的に裁判例に即して御説明を頂きましたけれども、この裁判例は、具体的な事実関係を前提とした上で一定の発言があった事件であって、その場合については事実関係がある以上、刑法第230条の2の趣旨を適用できる旨の判断をしておりますが、嶋矢委員からの御示唆は、一定の事実関係を前提にしない侮辱といったものもあり得ることから、その場合には刑法第230条の2を援用することが難しく、そうすると全部の侮辱について共通の観点から明文の規定を設けることは困難ではないかという趣旨のものと理解したところです。   このように今改めて明文の規定の要否について議論が展開されておりますけれども、この点について、ほかに何か御発言、御意見がありましたらお願いいたします。 ○趙委員 確かに様々なパターンがあって決められないというのは、それはそうだと思う一方で、実務家的な視点で見たときに、山口地裁のケースで出されたような規範というのが仮に判決でいきなり示されたとしたときに、当事者としては何を立証の対象、あるいは防御の対象とするのかというところが非常に不明確で、それは検察官にとっても同じではないかという気もするのですけれども、それが判決で示された判決の批評としては、それは一つあり得ることだと思う一方で、実際に刑事手続をやる側からすると、こういったものがある程度ないと、どう違法性阻却について防御するかということは立証対象がかみ合わなくなってしまって、不意打ちのようになることを想像するところでして、そういう観点からも全てをカバーすることが難しいということは理解した上で、一定の違法阻却についての規範みたいなものは明らかにする必要があるのではないかということは感じます。 ○橋爪座長 ほかに、全体について御発言がありましたらお伺いしたいと思いますが、いかがでしょうか。 ○柴田委員 結局3年後見直しという限定がついている中での検討会なので仕方がないとは思うのですが、検討が難しい問題ですとか、議論が必要だということで、結局取り上げられていない問題がたくさんあるような気がしております。ですので、インターネット上での侮辱だけではなく、名誉毀損ですとか性的被害、リベンジポルノの問題ですとか、それこそ死者に関する問題などについても、きちんと議論して解決に向けて動いていかなければいけないのではないかと思っているので、是非そういう場を設けていただきたいと思います。 ○橋爪座長 ほかによろしいでしょうか。   それでは、議事次第2の検討事項全体についてもこれで議論が尽きたものとさせていただきます。   ありがとうございました。   それでは、本日までの議論を踏まえまして、今後の進め方につきまして御提案を申し上げます。   本検討会におきましては、本年9月から本日までの間、合計5回にわたって会議を開催し、活発な御議論を頂き、各検討事項について多くの御意見を頂いたところです。本日までに全ての検討事項及び関連する問題について網羅的に御意見を頂戴することができたと考えております。各論点について、異なる立場から多様な御意見を頂戴しましたので、現段階においては既に意見も出尽くたものと認識をしております。   そこで、今後、議論の取りまとめに向けた議論に入ることが適切ではないかと考えておりますが、いかがでしょうか。              (一同異議なし) ○橋爪座長 ありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきます。   本検討会の取りまとめ方法につきまして特段の定めはありませんけれども、本検討会の趣旨に鑑みますと、本検討会においてどのような事項についてどのような意見があったかが分かるような形で議論を整理して取りまとめることが適切ではないかと考えております。そして、そのようにして取りまとめた結果を公表することで広く国民の皆様の御議論にも供することが望ましいのではないかと考えております。   具体的な取りまとめの方法に当たりましては、まず事務当局に取りまとめの報告書の案を作成してもらい、それに基づいて更に議論をすることが効率的な検討に資するものと考えられます。   そこで、次回は事務当局にそのような取りまとめの報告書の案を作成してもらった上で、それについて更に意見交換を行いたいと考えておりますけれども、そのような方針でいかがでしょうか。              (一同異議なし) ○橋爪座長 ありがとうございます。   では、そのような形で進めてまいりたいと思います。   本日予定していた議事につきましては、これで全て終了いたしました。   本日の会議における御発言の中には具体的な事例に関するものもございましたので、御発言内容を改めて確認した上で御発言なさった方の御意向も確認し、非公開とすべき部分がある場合には該当箇所は非公開としたいと思います。それらの具体的な方法や記載方法につきましては、その方との調整もありますので、私に御一任をお願いしてもよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○橋爪座長 ありがとうございます。そのような形で進めてまいります。   それでは、本日の会議はここまでといたします。   次回の予定につきまして、事務当局から御説明をお願いいたします。 ○猪股参事官 次回の第6回会議は、令和8年1月26日月曜日午前を予定しております。   詳細につきましては、別途御案内いたします。 ○橋爪座長 ありがとうございます。   では、本日はこれで閉会といたします。   どうもありがとうございました。