売買春に係る規制の在り方検討会 (第4回) 第1 日 時  令和8年5月29日(金)   自 午前 9時30分                        至 午前10時51分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  1 論点の整理について         2 論点についての議論          (1)売春の定義について          (2)売春及びその相手方となる行為に対する規制の在り方について         3 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○栗原参事官 ただ今から、売買春に係る規制の在り方検討会の第4回会議を開催いたします。 ○北川座長 本日は、皆様御多用中のところ、御出席くださり、誠にありがとうございます。   本日、星委員は、所用のため途中で御退席される予定と伺っております。また、吉田審議官は、公務のため御欠席と伺っております。   それでは、まず、事務当局から、本日お配りした資料について御説明をお願いします。 ○栗原参事官 本日は、配布資料5として、「論点整理(案)」をお配りしています。その内容につきましては、後ほど御説明いたします。 ○北川座長 それでは、議事に入りたいと思います。   本日は、前回会議で申し上げたとおり、第1回会議における委員の皆様の御意見及び第2回・第3回会議におけるヒアリング出席者の方々の御意見等を踏まえ、私の方で検討すべき論点を整理した、「論点整理(案)」をお配りしています。   まず、事務当局から、配布資料5の「論点整理(案)」について説明をしてもらった後、皆様から御質問や御意見があれば、お伺いしたいと思います。   それでは、事務当局から、「論点整理(案)」の説明をお願いします。 ○栗原参事官 配付資料5について御説明いたします。   配布資料5は、「論点整理(案)」です。  先ほど座長からも御説明がありましたとおり、この「論点整理(案)」は、座長の御指示により、第1回会議における委員の皆様からの御意見や第2回・第3回会議のヒアリングにおける出席者の方々からの御意見を踏まえ、本検討会において検討すべきと考えられる論点を整理したものです。   「論点整理(案)」においては、論点を大きく4つに分けて記載しています。  まず、「1」は、売春防止法第2条に規定されている売春の定義についてです。  「2」は、売春及びその相手方となる行為に対する規制の在り方についてです。  「3」は、勧誘等に対する規制の在り方に関するもので、そのうち「⑴」は、売春の相手方となる者による勧誘等に係る処罰規定について、また、「⑵」は、売春防止法第5条に規定されている売春目的での勧誘等に係る処罰規定についてです。  最後に、「4」は、法定刑についてです。   配布資料5の御説明は、以上です。 ○北川座長 ただ今の事務当局からの御説明について、何か御質問はございますでしょうか。   よろしいでしょうか。それでは、「論点整理(案)」に掲げるべき論点について、御意見のある方は御発言をお願いします。   特にご意見はないでしょうか。それでは、この「論点整理(案)」については、特に修正を要する点はないということで、本検討会で検討すべき論点は「論点整理(案)」のとおりとしたいと思います。   その上で、本検討会における検討は、この「論点整理」に沿って、順次進めることとしたいと思いますが、そのような形で進めさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○北川座長 ありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきます。   それでは、引き続いて、個別の論点についての検討に入りたいと思います。   本日は、「論点整理」に記載されている論点のうち、「1 売春の定義(売春防止法第2条)」、「2 売春及びその相手方となる行為に対する規制の在り方」について、ただ今申し上げた順に御議論いただきたいと考えております。そのような進め方とさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○北川座長 ありがとうございます。それでは、まず、「1」の「売春の定義」について御議論いただきたいと思います。  御意見のある方は御発言をお願いします。 ○櫻井委員 売買春の定義ということで私の意見を述べさせていただきます。  私は、売春防止法における売春の定義について、刑法の「性交等」との整合性を図り、現在の膣性交に加え、肛門性交、口腔性交及び膣・肛門への身体の一部や物の挿入を含めるべきという意見です。もし、それが現状では困難であるならば、次善の策として、売春の定義に、少なくとも肛門性交を加えるべきと考えます。その理由を述べます。   この法律の目的には、買春が人の尊厳を害するという認識の下、売春者の人としての尊厳を守るという人権擁護へのまなざしがあってしかるべきであると考えるからです。この観点に立てば、そのような行為を課される当事者にとって、挿入を伴う行為は、身体的・心理的侵襲性において、膣性交と本質的な差はなく、また、売春者の行為が18歳になった途端に変容するわけではないため、刑法やいわゆる「児童買春等禁止法」との整合性から、性交類似行為も含まれるべきということになります。仮に現行の膣性交に限定する売春の定義を維持するとすれば、様々な形態の行為や男性間の売買春の実態もある中、なぜ膣性交のみが売春の対象となるのかについて、合理的な説明をすることが困難です。法成立当時の逐条解説でも既に、性交類似行為を売春防止法の対象とすべきかは、今後の研究課題とされていました。それから70年が経過し、時代背景や関連法が大きく変化した現在、売春の定義の見直しは当然の要請だと考えます。   他方、ヒアリングにおいて、売春の定義に口腔性交等を加えると社会的影響が甚大であるとの懸念が示されました。そこで、現状、一足飛びの拡大が困難であるならば、ヒアリングで被害が深刻であると指摘された肛門性交の追加を最低限のステップとすることとするのはどうかと考えます。これは、社会的な混乱を抑えつつ、一つの前進となり得ます。ただし、売春の定義を膣性交と肛門性交にとどめるということは、諸外国の例や「児童買春等禁止法」との比較において、一貫性を欠くという課題は残ります。それでも、現行の膣性交限定という特殊な状態を放置するよりは、まずは、肛門性交を追加して男性間の売買春等を捕捉することとし、口腔性交等の扱いについては更なる検討課題とすることが現時点における現実的な解決策と考えました。  ○大橋委員 私の意見としては、売春の定義を見直して性交以外のものを含めることを検討する余地はあると思うのですが、現時点でこれを直ちに変更していくことが非常に必要とされているといえるまでの、そういったことを根拠付けるまでの事実は、今は示されていないのではないかと考えています。   確かに、ヒアリングでも、肛門性交が非常に深刻な被害を生んでいるという御発言はありましたけれども、他方で、先ほども御発言があったように、売春の対象を拡大すると、非常に処罰対象が拡大していくことが懸念される、特に、売春の対象に口腔性交を含めると非常に処罰の範囲が広がって、いろいろなところに影響が及ぶのではないかといった懸念も示されていたと思います。   第1回会議でも申し上げましたが、こういった売買春をめぐる議論について、あるいはその規制の在り方については、国際的に見てもかなり大きな立場の違いがあると思いますので、総論的なところとして、簡単にその点を申し上げたいと思います。   この点については、近年の公衆衛生分野の研究を踏まえた国際人権機関の意見では、売買春の当事者や周辺行為を広く刑事処罰の対象にすることについては慎重であるべきだといった意見がかなり有力に主張されているのではないかと思います。こういったものを踏まえた意見として、2013年6月21日に日弁連が出している、「刑法と売春防止法等の一部削除等を求める意見書」があります。この内容を簡単に申し上げますと、人身取引や搾取的な管理売春への対処は強化すべきであるという考えを踏まえつつも、売買春の当事者に対する刑事規制の拡大には慎重であるべきだという考え方を踏まえ、売春防止法第5条を削除すべきだといった意見を述べているところです。   こういった日弁連の意見書を踏まえても、必ず私がこれから申し上げるような意見に至るわけではなく、事前にこの検討会に参加されている方にお示しした、日弁連の「性の平等に関する委員会」の有志の弁護士一同が作成した「売買春規制の在り方に関する提言書」というものがあります。こちらは、今私が申し上げた日弁連の意見書を踏まえつつも、いわゆる「北欧モデル」といった考え方を踏まえて意見をおっしゃっているものになります。   しかしながら、私としては、先ほど申し上げた日弁連の意見書で示されているような、需要側である男性ではなくて売春に従事する女性のみが処罰や社会的非難の対象になっていることが非常に問題であるという指摘は正当であると思うものの、第1回会議で申し上げたような国際人権機関の意見等を踏まえると、刑事的な規制が当事者の福祉的な支援を妨げる要素があるのではないかといったことから、売春の対象範囲の拡大には慎重であるべきなのではないかと思う次第です。   いろいろとヒアリングで出てきた問題の中で、特に中心として指摘されているのは、いわゆる路上売春が非常に盛んになっているというところかと思います。そういった現状に対応するために、例えば肛門性交を売春の定義に含めることでどういった効果が期待できるのかということが、私としては、いまひとつ判然としないように思っており、また、売春の定義が拡大されて処罰対象が広がっていくことによって、様々な想定していないような副作用が生じることも懸念されるのではないかと思うところです。そういったことを双方考えると、今、売春の定義を変更することがどうしても必要とされているとまでいえる状況ではないのではないかと思うというのが冒頭申し上げた意見です。 ○星委員 今、櫻井委員、それから大橋委員から、それぞれのお立場での御見解を賜ったところです。どちらも本当に相応に根拠のある御見解かと思いますけれども、結論から申し上げると、私も大筋において大橋委員の御見解の方に賛同するものです。   以下、理由を述べさせていただきたいと思います。売春の定義にいわゆる性交類似行為を含めるかどうかについては、立法当時から論点としてあったということも御指摘のとおりですし、ヒアリングでも、そのような御見解があったと思います。その際に、例えば身体への侵襲性とか、あるいは性感染症リスクも、性交と性交類似行為とでは違いがないのではないかという話もあったと思います。それも本当に傾聴に値する見解であると思うのですが、私としては、主に3つの観点、すなわち、保護法益の観点、プライバシー性の高い領域に公権力が介入することの在り方あるいは是非といった観点、それから、現実問題としてのいわゆる性風俗産業への影響という観点の3点から、私の見解を述べさせていただければと思います。   まず、1点目の保護法益の観点ですけれども、売春防止法は、売春を「人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗を乱す」ものと位置付けており、売春を助長する行為等を処罰対象としています。身体への侵襲性というのは、社会の善良な風俗というよりは、むしろ個人の性的自由であるとか性的自己決定権を保護法益として、御指摘のように刑法において保護の対象になっているわけですけれども、売春防止法における保護の対象、保護法益は必ずしも刑法と同一のものではないという観点は、一つ認識しておく必要はあるのではないかと思っています。   それから、性感染症ということに関しても、これは御承知のように感染症予防法制の中で対処すべきものと位置付けられているわけですので、売春防止という観点には必ずしも沿うものではないのではないかと思います。  また、確かに、18歳を境に急に扱いが変わることに合理性があるのかという見解もあろうかと思いますけれども、どうしても法律には線引きという要素があり、どの領域にも関わってくる問題でもありますので、18歳を境にした違いというのはあろうかと思います。以上が1点目です。   それから、2点目の公権力の介入の是非、在り方ということに関しては、これも改めて申し上げるまでもなく、性行為というのはプライバシー性の高い領域における行為だというところで、そこに公権力が介入することに関しては、どういう文脈であるかはともかく、慎重であるべきだという要請が一方ではあることも事実です。このこと自体は、売春防止法制定時に現在のような形の法規制になったというか、落ち着いたことの一つの根拠として重視すべきなのかなと思います。   不特定の方との金銭的なものの授受を伴う性交類似行為というものに対する価値判断、その道徳的な在り方については、必ずしも見解が一致しているとはいえないという現状があることも、これも片方では否定できないのではないかと思います。いわゆる性風俗産業を含めた一般風俗という観点でいっても、いわゆる風適法における種々の規制の下においてということではあるわけですが、その規制の下であれば、一定範囲で適法とされているという現実もあります。そうしますと、不特定の相手方との対償の授受や、その約束という形で行われる性交類似行為についてまで、風適法の規制と異なる形で一律に売春防止法で禁止することを正当化する根拠というのは、現状においてはなかなか見出しづらいのではないかというのが2点目です。   最後、3点目に、今申し上げたところとも少し関連しますけれども、売春防止法が禁止する売春に性交類似行為まで含めるということになると、これは若林弁護士のヒアリングでも強調されていたと思いますが、風適法に基づく一定の制約の下でではあるけれども許容されているはずの性風俗産業のうち一定程度のものを、別の観点から禁止するということになり、性風俗産業自体への影響が甚大になります。これに関しても、いろいろ御見解はあろうかと思いますけれども、自らの意思でこういったサービスを提供する性風俗産業に従事している従事者の方がいることも事実ですので、そういったところを一律に違法行為にしてしまって、かえってこれらの方の状況を困難に追い込むことになってしまうと、かえって現在一定の範囲で提供されている保護というのが逆効果ということになってしまいかねないというところは、懸念されるところではないかと思います。   結論としては、性交類似行為に関して、一概に、人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗を乱すとまで言い切れるものではないところがある、そうすると、売春の定義を改めることについては慎重な考慮が必要なのかなというのが私の見解です。 ○大沢委員 売春の定義について、現在の性交から性交類似行為に拡大するかどうかということを検討するに当たっては、現在は風営法に基づいて届出をして営業している性風俗店の多くでこうした行為が行われているという現実は、やはり見る必要があるのではないかと思います。こうした行為が適法に行われているという現状、それ自体に対して厳しい批判があることも承知していますけれども、売春防止法を改正して、こうした行為を売春の定義に含めて違法とした場合には、この性風俗店や、多くは女性だと思いますが、そこで働いている人たちに相応の影響が出ることが予想されると思います。   第2回会議のヒアリングの中で、被害者支援を行っている「NPO法人ぱっぷす」の代表の方から、性交以外の性の売買をどう扱うべきかということについて、いろいろとそれぞれ人権侵害性はあるけれども、特に身体への侵襲性が高いという観点において、性交と肛門性交というのがボーダーとしてコンセンサスがとれるところではないかという御発言もありました。こうした意見にも耳を傾けながら、実際に売春の定義を拡大するかどうかということは慎重に検討する必要があるのではないかと考えています。 ○北川座長 今の大沢委員の御意見は、売春の定義について慎重に検討すべきだけれども、「ぱっぷす」のヒアリングでの意見も踏まえて、肛門性交までは拡大することを検討してよいのではないかという御趣旨でしょうか。 ○大沢委員 もし拡大するのであれば肛門性交までというところが、コンセンサスがとれるかもしれないと思いますけれども、本日の先生方の御意見もありましたので、そういう意見を踏まえて、最終的にそこまで拡大するかどうかは、議論の中で結論を出していけばよいのではないかと思っています。 ○北川座長 ありがとうございます。了解しました。 ○古川委員 私は、禁止されるべき売買春が、いわゆる膣性交のみを対象とするので十分かという点については、個人の価値観としては大いに疑問があると感じています。しかし、売春防止法の改正の要否を議論するこの検討会の場において、現在、風適法上違法ではない、つまり適法に行われている「性風俗関連特殊営業」を白から黒に塗り替える「はしご外し」のような提案をするのは、法律家としては躊躇を覚えます。風適法の在り方を抜本的に見直すというのであれば別論、売春防止法で風適法を上書きするのは悪手だと思います。飽くまで売春防止法の在り方という観点で考えると、同意があっても膣性交だけは売買してはいけないと規制することは、女子の妊娠・出産の危険や負担といった人の生命・尊厳に関わる特別な問題があるため、十分に根拠があることです。それに加えて、性感染症の危険をどう考えるかも確かに無視できない問題ですが、現下の問題は、現行の膣性交売買の禁止すら大っぴらに破られている疑いがあるということです。まずは、これを何とかするのが先であり、禁止対象の拡大はその先の課題であろうと思料します。 ○佐藤委員 現在は、まず売春防止法第3条で売春の禁止が明示された上で、第5条以下のそれぞれの構成要件で、売春に関する刑事罰が規定されているという状況だと思います。売春の対象行為を再考する際には、それぞれの構成要件の保護法益が異なるという理解もあり得ると思っていますので、それぞれの構成要件ごとに対象行為を考え直す余地もあろうかとは思うのですが、議論の拡散を避けるために、包括的な禁止規定となる3条に限って意見を述べさせていただきます。   売春の定義を改正して性交類似行為についても売春の対象に含めるべきとの議論の根底には、身体への侵襲性とか性感染症のリスクが性交と性交類似行為とでは変わらないとの御理解があると思います。この点、確かに、平成29年の刑法改正において、強姦罪の実行行為が性交から性交類似行為にまで拡張して強制性交になった際に、そのような議論がなされたのですけれども、それは強制性交等罪における保護法益が性的自由・性的自己決定権であることを前提にした議論であるというのは、星委員からの御指摘もあったところであり、売春防止法にも同じことが直ちに妥当するとは言えないのではないかと思っています。   では、売春も性的自由の問題にすればよいという理解もあろうかと思いますけれども、これについては、先ほど、いわゆる「児童買春等禁止法」との違いの話が出ましたけれども、児童の場合には健全育成というのを併せて考慮していて、児童が自分で売春したいと言っても、健全育成を考えて、その同意を無効にする、あるいは同意はあるけれども健全育成の観点から止めるという方法を採っていると思われます。これに対して、成人が誰かに強制されることなく性交等を承諾した場合に、この同意を否定するのはなかなか難しいところがあろうかと思うところです。   例えば、売春するような層は脆弱性があって自由な性的自己決定権の行使ができないということにして同意を無効にする方法もあろうかと思いますが、このような方法を採用するには、その前提として、本当にそういう層が性的自己決定権の行使ができないことを証拠でもって示さねばならず、そのためには、なお大規模な実態調査が必要になろうかと思います。   他方で、そもそもどうして売春防止法が売春の対象を性交に限っていて、風営法がそれ以外というような構造になっているのかと言われると、私もいまいちよく分からないところです。けれども、だからといって、売春概念を性交類似行為に広げて風営法の方の範囲を狭めてよいのかというと、そこは慎重にならなければいけないと思っています。というのも、この点もいろいろな委員から御意見が出たところですけれども、今許されている領域が禁止範囲に入ってくるということは、かなり影響が大きいと考えるからです。   この点、ドイツで売買春が適法化されたときには、売春者が失業保険や傷病保険、年金保険に入れないということが問題視され、弱い立場の人が更に弱い立場に陥らないようにとの配慮がなされました。現在、我が国で一部適法とされているものを違法化すると、今度はドイツとは逆に、今保険に入れている人たちが保険に入れなくなってくるというような状況が生じてくるのではないかと思います。こちらも既に御指摘のあったところですけれども、現在働いている方々が失業する可能性があるということも懸念されるところであり、守りたい人たちがかえって苦境に陥るという点を考慮すると、売春の定義を改正して肛門性交又は口腔性交を含む性交類似行為を売春の対象行為に含めることについては、慎重な検討が必要だと思っています。   肛門性交のみを売春の対象行為に含めるという考えについては、確かにあり得るかもしれないのですが、肛門性交を含めることで、今働いている人たちに影響が出ないのかについては、私には知識がございませんので、それにもかかわらず、影響が出ないだろうと結論付けて改正をする勇気は、現在のところ、私にはないところです。 ○川崎委員 各委員の方々の御意見と重複することがほとんどですけれども、気になるのは、性産業への影響という点が、売春の定義を改めることについてのネガティブな要因になるとされている点です。恐らく皆さん、もし定義を改めることが本当に必要なことであれば、性産業に影響があるからという理由で、本当は許されないことを放置することを前提にお話をされてはいないのだと思います。それから、風営法で合法化されている、適法とされているではないかという点についても、恐らく櫻井先生のおっしゃっている意味は、売春の定義を改める必要性があるのであれば風営法も改めるべきだということを前提にお話をされているのだと思います。ですから、その意味では、これらは派生する影響の問題であって、根源的な問題は、その前提となる、果たして売春の定義を改めることが必要な状況なのかどうかという点であり、この問題の方に重きを置いて判断をすべきなのではないかと私自身は思っています。   では、売春の定義を広げるべきかということですけれども、この点は、他の先生方もおっしゃったように、一つは、広げるかどうかに当たって、そもそも売春防止法で今行っている規制の保護法益は何なのかという点です。これについては、現状は、少なくとも個人の自己決定権であるとか自由であるとかを守ることを前提にはしていないわけです。それは刑法の問題として扱っている。この点については、もしかしたら売春防止法も変えるべきということがあるのかもしれませんが、少なくとも現状ではそうはなっていないわけです。   どこを所与の前提として、どこを所与の前提ではなくて改めるかによって話は変わってくるので、なかなか定点で議論をすることが難しくなりますし、法改正ですから、本当に必要であれば、保護法益も全部変えたらよいと思いますけれども、その必要性を根拠付けるような状況があるか、あるいはそれが本当に妥当なのかということを改めて考えますと、星先生もおっしゃったように、売春防止法の規制がプライバシー性の高い性行為というものを対象にしているので、規制の必要性を考える際には最低限にとどめることが必要であり、国が法によって強制する、規制をするということですので、その点については慎重であるべきだと思います。   また、現状は、社会の善良な風俗という社会法益を主眼に置いた規制をしているわけですけれども、売春の定義を広げるかどうかについては、これまでのヒアリングでも、ここでの委員の先生方の御意見でも、これを広げるべきだという意見もあれば、いや、それは今のところ慎重であるべきだと分かれているわけですよね。そういう中で、一方の価値観に寄った判断をするということについても慎重であるべきだろうと思います。仮にこれが国民的なコンセンサスをどちらかに得られるような状況になったときは、売春の定義を改めるということもあるのだろうと思います。もしかしたら、全員が間違った判断をした価値観になっていて、本当はこちらが正しいんだ、真実はこちらなんだというような根拠がある話の場合は別であり、その場合には、国民全員のコンセンサスがなくてもやるべきことだと思いますけれども、そうではなく、価値観の問題だということであれば、それは多数がどちらであると判断することができない状況、意見が様々に分かれる中で、どちらかの立場に寄った形で売春の定義を変更することには慎重であるべきだろうと思っています。   売春の定義を改めるか否かについての意見の根拠の中で、性風俗産業への影響とか、あるいは風営法との矛盾という点については、本質的な問題ではないのではないかと思っています。その一方で、売春の規制をする目的であるとか保護法益という点からいえば、売春の定義を改めることについては、現段階では社会のコンセンサスというところまでは至っていない、一方で重い問題提起はしていただいていますけれども、それを採る必要性があるのか、刑法の不同意性交等罪以外にも売春防止法にまで広げて規制をする必要性があるのか、あるいはそのような状況なのかということについては、まだ国民的なコンセンサスはない状況にあることから、売春の定義を改めることには慎重であるべきだと思います。 ○保坂委員 先ほど来、風営適正化法についての議論がされてきたかと思いますが、私の理解で申し上げますと、風営適正化法は、昭和41年以降、数次の法改正を経て性風俗関係の規制対象が拡大されてきたところであり、これは昭和31年に制定された売春防止法の存在というものが前提となっており、現行の風営適正化法は売春等の違法な行為を当然容認するものではなく、また、それぞれの行為について合法化をするものでもないと考えています。その上で、性を売り物にするものについては本質的に不健全な営業であるということで、「性風俗関連特殊営業」については営業を公に認知する許可制ではなく、飽くまで実態を把握することを目的として届出制が採用されていると理解しているところです。また、届出に当たり、広範な営業禁止区域・地域等の規制が設けられているほか、売春を含む違法行為があれば、具体の事案に即して営業停止命令等の行政処分を実施したり、事件化したりするなどして厳正に対処されていると考えています。 ○北川座長 他に御発言はございませんでしょうか。   それでは、本日の「売春の定義」についての御議論は、ひとまずこの程度とさせていただきます。  次に、「売春及びその相手方となる行為に対する規制の在り方」について御議論いただきたいと思います。  御意見のある方は、御発言をお願いします。 ○星委員 先ほどの論点「1」のところでも述べたように、売春防止法第3条が売春そのものを直罰にしていないわけですけれども、これについて、特に買春行為の側について「ぱっぷす」様の方から、一定の類型に限定してといった条件付きであったかと思いますけれども、それ自体を処罰対象にすべきではないかという御意見を頂いたと記憶しております。確かに、この点について、私自身の理解するところでも、売春防止法の制定当時にも売春、それから買春自体を処罰対象にすべきではないかという議論はあったようですけれども、そういった意見があったにもかかわらず、現行法はそこまで踏み込んでいない形になっているわけです。   事務当局の方に、なぜ売春や買春自体が処罰対象とされなかったのか、その事実関係について確認をした方がこの後も議論しやすいのではないかと考えていたのですが、いかがでしょうか。 ○北川座長 では、事務当局から、説明をお願いします。 ○栗原参事官 ただ今、星委員から、現行の売春防止法第3条の話として、なぜ売春あるいはその相手方となる行為について、立法当時に罰則が設けられなかったのかという観点からの御質問を頂きました。   売春をし、又はその相手方となる行為を処罰の対象とすることについては、売春防止法の制定過程において議論がなされたものの、その中で、「売春に関する実情等に照らすと、売春をした者は、処罰の対象ではなく、被害者として保護救済の対象とすべきである」、「売春行為そのものを処罰の対象とした場合、その立証等の過程において、捜査機関等の公権力による私生活への介入などの人権侵害が生じるおそれがある」、「男女間で合意の下に性行為をした場合に処罰されないことと比較して、売春をし、又はその相手方となる行為を処罰の対象とすることには疑問が残る、すなわち、お金のやり取りがあるから直ちに処罰をするのかというところについて疑問が残る」という指摘がありました。それから、「売春を助長する行為及び売春の相手方となるように勧誘する行為等の処罰並びに売春をした者に対する保護更生の措置により、売春やその相手方となる行為を相当程度抑えることが可能となる」などの指摘もあり、売春をし、又はその相手方となる行為そのものについて、処罰の対象とすることとはされなかったものと考えられるところです。 ○星委員 ありがとうございます。これは最終的に、それまでの法案が提出されては流れて、提出されては流れてという経過をたどり、現在の形でやっと出来たというところのぎりぎりの妥協の産物だったと理解しているところだと思います。ここについては、立法当時、つまり70年前と現在では状況が変わっているのではないかという見方もあり得るかと思うのですけれども、他方で、括弧付きかもしれませんけれども、同意の下で、金銭等の対償の授受があるとはいえ、男女間の同意の下で行われるところにまで公権力が介入していくことに対する懸念はどうしてもこの論点についても残るのではないかと思います。   そうしますと、単純売買春を処罰対象とすることによって、これまでのヒアリングでも、一方では、確かに良いことではないということは分かっていつつも、他方では、必ずしも搾取の対象となってしまっている人ばかりではないという現実がある中で、要するに、売春する側の事情が様々ある中で、一律にこれを直罰の対象にすることについて、保護の対象だから処罰の対象とすべきではないという要請が現在でも生きていないのかというと、必ずしもそうとはいえないところはあるのではないかと思います。そうすると、やはりこの点についても、私自身の考えとしては、慎重さが求められるのではないかというのが1点です。   では、せめて買う側については保護の対象というところからすると少し外れるのではないかという御意見もあり得るかと思うのですけれども、これについては、第1回会議で事務当局から示していただいた諸外国の例においても、必ずしも対応は一様ではないということであり、もちろん外国がこうなっているから日本もこうあるべきだという単純な話ではないとは思うのですけれども、買春に限ったとしても、買春行為そのものを処罰対象とすべき根拠について、なかなか一様な理解が難しい領域にあると思います。   ましてや、日本の現状について考えてみた場合に、片方では厳しい御意見がある一方で、そこまで踏み込むことについての慎重な意見もある、ヒアリングの中でも慎重な意見もあったことを考えると、買春行為そのものについて直罰の対象にするようなコンセンサスがあるとはいえないのではないかと思いますし、買春に関しては、先ほど佐藤委員から、健全育成ということも含めて、より保護の必要性が高い児童に関しては、いわゆる「児童買春等禁止法」において、買春禁止は既に規定されていて、それについては直罰も規定されているという話がありましたが、「児童買春等禁止法」と売春防止法との間の線引きというか、目的の違いといったところは、考慮する必要があるのではないかと思いますので、結論としては、この「売春及びその相手方となる行為に対する規制の在り方」への対応として、買春行為そのものを直罰の対象とすることについても慎重さが求められるところなのではないかというのが私自身の考えです。 ○櫻井委員 2点目の「売春及びその相手方となる行為に対する規制の在り方」ということで、私の意見は、まず買春行為と売春行為を分けたのですけれども、買春行為に対する規制については一律の処罰化は見送る、ただ、当事者の脆弱性を利用した買春行為を処罰化するという意見です。本来、人権や個人の尊厳という観点に立てば、買春行為そのものを全面的に犯罪化すべきとは思います。しかし、一律の犯罪化は当事者の孤立とか危険を招くという当事者団体のお話もあり、そういった懸念も看過できない面があるとは思います。したがって、買春行為そのものへの一律の罰則適用は現段階では見送り、今後の検討課題にすべきと考えています。   ただし、売春を行う側の脆弱性を利用した買春行為については、人権擁護の観点から処罰規定を新設すべきだと思っています。的確な判断を行って適正に対応するという力に欠けている人が売春をしている、これは被害だと思います。ですから、立証の難しさという課題はあるのかもしれませんけれども、私は、具体的には次の3つの状態を利用した場合の処罰化ができないかと考えています。1つ目が、知的障害、精神障害、発達障害等の心身の障害を利用した場合です。2つ目が、経済的窮迫、住居の喪失など困窮状態を利用した場合です。3つ目が、グルーミングなどの心理的支配を利用した場合です。ただ、私は法律の門外漢ですので、こういったあたりが別の法律で既に捕捉できているのかどうかということについては、分からないところはあります。   次に、売春行為に対する規制についてです。これについては、私は、勧誘等の周辺行為も含め、非犯罪化すべきと考えます。以前にも申し上げましたが、全員とは言いませんけれども、売春を行う人の多くは生活困窮、精神的な問題や知的な障害といった背景を抱えていて、本質的にケアの対象者です。現行法における売春の勧誘行為への罰則は、当事者の被害や困窮を潜在化させています。むしろ、売春を行う人、性産業従事者が支援を受けられるように、若年者にとっても魅力ある福祉的な支援の充実及び中長期的な支援の充実が必要だと考えます。そうした支援につなげる意味でも、売春行為を非犯罪化することはその前提であると考えます。   私は、支援の現場で働いてきていますけれども、支援というのは、実は、制度や建物ができれば自然に支援につながるというものでは決してありません。実際に、本人にとって、ケアや支援の必要性は意識されにくく、現場では、支援にどうつなげるかが常に課題になっています。現状でも、売春者に対する警察からの支援へのつなぎの取組はなされているということでした。しかし、福祉につながっていない、潜在化している人は、その何倍も存在しているであろうというのが実感です。つまり、支援につなげるためのスタートラインが、売春を行う人は社会的に保護されるべき存在であるという位置付けの明確化と、社会及び関係機関の意識改革にあると考えます。したがって、深刻な搾取に対する買春側の部分的な処罰規定を設けつつ、売春側に対しては非犯罪化と中長期にわたる福祉的支援の充実を一体とすることを求めたいと考えています。 ○大沢委員 この論点に関しては、私の理解ですと、売買春の行為そのものに罰則をかける場合は、現行法の考え方を維持するのであれば、いわゆる売る側と買う側の双方が処罰対象になるのではないかなと思っています。   買春行為を女性に対する人権侵害とみなし、いわゆる売る側というのは性的に搾取される被害者であり、買う側は搾取する加害者であるという、いわゆる「北欧モデル」のような考え方に立てば、法律の立て付けを変更した上で、被害者であるいわゆる売る側が保護の対象となって、加害者の買う行為に罰則をかけるという考え方も導き出せるのだろうと理解しています。   現在、現行法で違法ではあるけれども罰則はない売買春の行為そのもの、特に、今議論になっている買う側のみを処罰対象にするということにすれば、確かに買う側の需要を強力に抑制するといった効果は見込まれるものなのだろうなと思っています。その一方で、検討会のヒアリングでは、若林弁護士らから、そういう売買春の行為そのものを処罰対象にすると、その萎縮効果によって、例えば、利用客が減少して、多くは女性になると思われる性産業で働く方が困窮するのではないか、あるいは売買春が地下に潜ってしまって、そのリスクがかえって高まるのではないか、あるいは反社勢力の介入を招くのではないかといった影響や懸念が指摘されたところです。   また、実際の捜査でどのように立証するのかという点、あるいはどこまで立件するのかという問題や、先ほど来、御指摘がありましたけれども、私生活上の性行為に捜査機関が踏み込むことの是非ということに関しては、売春防止法制定当時から議論があったところだと認識していて、今も変わらずにこの問題は存在するのだろうなと思っています。   これらを考えると、売買春の行為そのものに罰則をかける、あるいは特に買う行為のみを処罰化することについては、確かに、買う側の需要抑制という効果はあるとは思うのですけれども、その一方で、処罰化した場合に予想される様々な影響や懸念もあるところであり、この両方の点を十分に比較衡量した上で議論しなければいけないと思っており、現時点では、そういうことを考えると、慎重にならざるを得ないのかなと考えています。 ○大橋委員 売春行為と買春行為に対する規制の在り方としては、売春に従事している方の中には非常に難しい環境にあって支援を必要としておられる方がいるということは、これまでヒアリングでも示されてきたところかと思います。現在の支援の状況としても、いわゆる「困難女性支援法」ができて福祉的な支援が重視されてきているといった状況にある中で、私としては、そうした必要な支援を提供することによって売買春を減らしていくことが望ましい、それに対して、買春側だけであっても売買春を直接刑事規制の対象とすることには慎重であるべきではないかと考えています。   その理由としては、国際機関の意見とか、そういったものを引用して意見を述べたいと思います。第1回会議でも申し上げたと思うのですけれども、2024年のUNAIDS、すなわち、「国連合同エイズ計画」の出している「HIVとセックスワーク 人権ファクトシートシリーズ」という文書がありますが、そこでは買春客を犯罪化することがセックスワーカーの安全と健康に悪影響を及ぼすことが繰り返し示されているといった見解が示されています。その根拠として、かなりたくさんの実証研究が引用されているので、そこを御紹介したいと思います。   まず、このUNAIDSの文書で引用されている文献の中で、アレクサンドラ・アルジェントさんという方が書かれた実証研究があり、これはカナダのバンクーバーで約900人のトランスジェンダーの女性のセックスワーカーを対象とした実証調査です。これによると、買春客や第三者を処罰する法制度を導入する前後を比較検討したところ、そういった制度が施行された後に医療アクセスやセックスワーカーコミュニティのサービスへのアクセスが有意に低下したと言われているところです。そうすると、買春客を処罰して売る側を直接処罰しないという制度を設けても、そういった支援へのアクセスが改善するとは限らない、むしろ悪化することがあり得るということが示されていると思います。   また、アンドレア・ライオンズという方の書かれた2020年の文献では、サハラ以南のアフリカの10か国で7,000人余りの女性のセックスワーカーを対象にした研究が示されており、これによっても、刑事規制がなされると、当事者が警察を保護の担い手ではなくて取締りや不利益の源として認識する可能性があり、そういった状況では支援機関への接続を妨げるおそれがあるといった指摘がなされているところです。   実際にも、ヒアリングの中でいろいろなお話が出てきましたけれども、非常に複雑な環境に置かれて、昼間の生活の中では社会的に排除されたような、そういった感覚を持っている当事者の方がおり、警察とか児童相談所といったところは当然そういった問題に対して支援するために体制を整えているわけですけれども、そういった当事者の方から見ると「敵のように見える」といった感想も述べられていたかと思います。そうすると、買春客を処罰するということは、まさにそういった立場にある方が望んでおられるという状況があることは承知していますけれども、こういった実証研究の結果を捉えると、かえってそういった支援を阻害していくおそれがあるのではないかと思うところです。   もう一つ、御参考にニューヨークの状況について若干御紹介したいと思います。ニューヨーク州は性的行為、つまり、セクシャルコンダクトを含む売春について、売る側・買う側ともに売春行為・買春行為が処罰の対象になっている地域です。ニューヨーク市ではこういった買春なり売春なりで犯罪として検挙された人を支援する公選弁護人事務所があり、こういったところが当事者に法的支援と福祉的支援をひとつながりに提供するといったことが広く行われています。私もその事務所の一つである「ブロンクスディフェンダーズ」という事務所でインターンをした経験があります。そういった中で、特にニューヨーク市のブルックリン区にある「ブルックリンディフェンダーサービス」はウェブサイトで、同意のある成人間の性売買については、売る側、買う側、周辺関係者を含めて非犯罪化すべきであるといった意見を述べているところです。こういった立場に置かれた方、支援を必要とされている方に対して、そういった支援を継続的に信頼関係を持って行っていく、法的な問題だけではなくて医療的、心理的、経済的な問題といった包括的な問題の解決のために関わっていくということをするためには、同意のある性売買を直接に刑事規制することは必ずしも望ましくないといったことは経験から示されていると言ってよいのではないかと思います。そうすると、買春行為だけであっても、売買春の行為そのものを刑事規制することには慎重であるべきであると、このように思う次第です。 ○佐藤委員 今問題になっているのが、あらゆる売買春行為について処罰すべきかという点だと思いますので、この点について、述べさせていただきます。売春側について考えてみると、恐らくここにいるメンバーにおいても、刑罰よりも支援であるという意見が強いかと思います。私もそのとおりだと思っているところです。では、買春者については、支援がそれほど必要ではないので処罰してよいのかというと、先ほど星委員の話にもありましたけれども、処罰根拠について考えた上で結論を出すべきだと思っています。   先に述べたように、成人が誰にも強制されていない状況で性的行為に同意した場合に、その同意を無効にするというのは、理論的な正当化が非常に難しいところだと思います。たとえ売春者が、例えば精神的な不安定さから、まるで自傷行為のように売春行為の相手方を探していたとしても、それが刑法第177条に該当しない限りにおいて、買春者に対し、当該売春者からの呼び掛けに応じないことを刑罰でもって義務付けるというのは、かなり慎重な理屈付けが必要になろうかと思います。また、買春者が一方的な搾取者であるかという点についても、過去2回のヒアリングの中でさえも意見の食い違いが見られるところであり、搾取者であると断定して刑罰を科すということについては、なお慎重にならなければいけないと思っています。   そうすると、他にどういう処罰根拠が考えられるのかを考えてみると、例えば、買春が道徳に反する行為である、あるいは女性蔑視の行為である、だから撲滅する必要があるというようなものになろうかと思います。こうした道徳的な理由に基づく禁止を刑罰という効果でもって規定するのは、少なくとも謙抑的であるべきとされる我が国の刑罰に関する理解からは外れているのではないかと思うところです。   他方で、先ほど櫻井委員からのお話にもあった、一部の脆弱性を利用して買春をする行為類型について処罰対象とする可能性、全ての買春ではなくて一部について処罰対象とする可能性についてですが、例えば刑法第177条に該当する場合には、もちろんそちらで対応することになろうかと思います。それ以外、刑法第177条に該当するまでではないけれども何らかの脆弱性があるというような場合については、恐らく路上買春の場合にはそのような事情を察知することがほぼ不可能であると思われるので、基本的にはどこかで雇われて働いている人をイメージしている類型ではないかと思われます。   この点につきましては、例えば売春防止法第7条に「困惑等による売春」という規定があり、この規定はかなり脆弱性利用、あるいは脆弱性がなかったとしても欺いたり困惑させるというような、手段的に自由意思侵害に限りなく近い類型になっていると思います。このような類型に該当する場合において、お店側を処罰し、かつ、情を知って相手方になる者を処罰するというような規定とすることは考えられるのかなと今のところ思っているところです。ただ、いずれにせよ、相手方が情を知っていないと処罰できないというのは変えられないと思われ、立証の困難性が生じるので、そこまで実用的ではない条文を作るかどうかという点が問題になり得るのではないかと思うところです。 ○川崎委員 佐藤委員の御指摘とほとんど一緒で、もしかしたら言葉遣いだけが違うかもしれないのですが、パターナリズムをどこまで認めるかの問題とも関わってくると思います。というのは、現在の売春防止法は売春そのものについては禁止はしている、違法だという評価はしており、これに刑罰を科すかということがここでの論点だと思いますので、それだけの介入を刑事的、法的にするのかということがポイントになるわけです。これまでの御指摘あるいは星先生の質問に対する事務当局からの回答の中にもあったように、もともと、売る側については保護の対象だということが根拠の一つになって、処罰対象にはしていなかったわけですね。この状況自体は今回のヒアリングを聞いても大きくは変わっていない、売る側が保護の対象であるという状況はあるのだろうと思います。   そうすると問題は、一つは、売る側を保護対象とする一方で、売春を禁止して、これはよくないことだという介入をすることはあり得る選択肢だったと思うのですが、これに刑罰を科すのかという点、それからもう一つは、その前提として、必ず全員が保護の対象になるのかという点であり、これは難しいところです。「男性が搾取しているんだ、女性に対する尊厳を傷付けているんだ」という問題意識の中には、「いや、同意があるではないか」という反論に対する、「その同意自体が、男性優位の社会の中で作られた本当の、真の意味での同意ではないんだ」という問題提起も含まれていることは承知していますが、これは思想信条に基づいた意味での問題提起であり、これと法的な意味での問題というのは、少し分けて考える必要があるのだろうと思います。   法的な意味で、100人が100人とも真摯な同意をする能力がなくて被害者なんだ、保護の対象であるべきなんだ、だから買春をした人、買う人だけを処罰するんだ、あるいはその行為自体を規制していいんだということに持っていくのは難しいのではないのかなと思います。そうすると、売春をする女性には真摯な同意をする能力がないことを前提に、買う行為を処罰の対象にすることは、女性が被害者であるということへの配慮が逆に足らなくなってしまうということですので、いずれにしても、売る行為・買う行為自体を処罰の対象とすることは望ましくないと思います。ですので、現状の、売春防止法第3条で売る行為・買う行為を禁止はしている、法的に違法だという評価はしている、だけれども、売る行為・買う行為そのものではなくてその周辺行為を規制の対象にしているという売春防止法の立て付けというものは、その立法の経緯において、売る行為・買う行為そのものを処罰の対象とすることが何度も提案されては実現しなかったという経緯も踏まえてのものなのでしょうけれども、非常によくできた立て付けなのではないか、この立て付けは維持しても、現段階では説得力があるのではないかと思います。 ○古川委員 既に重要な指摘が出されており、重複するような発言にはなりますが、この論点「2」、つまり売春行為自体、買春行為自体の犯罪化についてどう考えるかという問題に的を絞って現時点の考えを申し上げると、売春行為自体、それから不同意性交等に当たるものを除く買春行為自体を犯罪化することについて、売春防止法立法時に、それはやめておくことにした判断を覆すべき十分な理由は、現時点では見当たらないと考えています。   ある性行為が真の愛に基づくものか、金の力に基づくものかは、ひっきょう、内心の問題であり、個人の良心の問題です。金持ちを狙って次々と性的アピールで籠絡する、あるいは金持ちアピールで次々とナンパする、それで肉体関係を持つことは、もちろん不道徳ですが、それらと売買春行為との境界は明確でない面があります。法律学的な観点から敷衍して言えば、売春防止法第3条違反に単純に対応する罰則を設けようとすると、刑罰権の行使が思想及び良心の自由を侵食しかねない側面が否めないことから、実際の法適用の場面において適正な合憲限定解釈の在り方をめぐって紛糾するといった事態も予想されます。喫緊の課題はそこではないはずです。同条の禁止規範を破ることを助長する、明確に無価値な行為を犯罪化するという、つとに優に合憲性が確認されてきた規制の在り方を前提に、不備や不足を補っていくことが先決であろうと思料します。   誤解のないように付言しておくと、私は、売春行為自体と買春行為自体の両者又は後者だけについて処罰規定を設けると憲法違反になると考えているわけではありません。現行の売春防止法の罰則は、売買春行為のいわば外堀を埋める方策を採っています。すなわち、まずは、売買春を助長する、言い換えれば、売買春がやってもよい行為であるという風潮を広めるおそれのある行為を禁圧したい、でも穴がある、それが「立ちんぼ」事例に表れている、ならば最優先はその穴を塞ぐことです。本丸攻めは今やることではないという認識です。 ○北川座長 他に御発言はございませんでしょうか。   それでは、本日の「売春及びその相手方となる行為に対する規制の在り方」についての御議論は、ひとまず、この程度とさせていただきます。  本日は、「論点整理」に記載されている論点のうち、「1」と「2」を対象とするということでしたので、以上で、本日の議論は終了となります。   次回の会議においては、「論点整理」に記載されている論点のうち、「3」の「勧誘等に対する規制の在り方」と「4」の「法定刑」について御議論いただくこととしたいと思います。  そのような方針とさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○北川座長 ありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきます。   本日予定していた議事につきましては、これで終了いたしました。  本日の会議の議事につきましては、特に公表に適さない内容にわたるものはなかったと思われますので、発言者を明らかにした議事録を作成して公表することとさせていただきたいと思います。また、配布資料についても公表することとしたいと思いますが、そのような取扱いとさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○北川座長 それでは、そのようにさせていただきます。   本日の会議はここまでとしたいと思います。 -了- -34-