売買春に係る規制の在り方検討会 (第7回) 第1 日 時  令和8年7月16日(木)   自 午前 9時29分                        至 午前11時23分 第2 場 所  中央合同庁舎第6号館A棟1階会議室 第3 議 題  1 論点についての議論         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○栗原参事官 ただ今から、売買春に係る規制の在り方検討会の第7回会議を開催いたします。 ○北川座長 皆様、本日も御多用中のところ、御出席いただきまして、誠にありがとうございます。本日、吉田審議官は、公務のため御欠席されております。   まず、事務当局から、本日お配りした資料について説明をお願いいたします。 ○栗原参事官 本日は、配布資料6として、「売春防止法違反事件の科刑状況」をお配りしております。その内容につきましては、後ほど御説明いたします。 ○北川座長 それでは、議事に入りたいと思います。   本日は、前回会議で申し上げたとおり、「論点整理」に記載されている論点のうち、「4 法定刑」について二巡目の議論を行いたいと思います。その上で、いずれかの論点について補足や追加の御意見があればお伺いし、その後、前回会議の最後に委員の皆様から御意見を頂戴した点を含め、「論点整理」に記載されていない論点について御議論を行っていただく時間を設けたいと思っております。本日は、そのような進め方でよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○北川座長 ありがとうございます。それでは、まず、「法定刑」について二巡目の議論を行いたいと思います。   一巡目の議論について整理をしておきますと、まず、売春防止法の法定刑のうち、特に罰金刑の上限については、抑止力の観点等から十分なものとはいえず、引上げを検討する必要があるという点で、おおむね異論はなかったのではないかと思います。他方で、売春防止法の法定刑のうち自由刑については、「罪の重さに対する社会的評価に鑑みると、売春防止法第6条以下の罪の法定刑の引上げを検討することが考えられる。」といった御意見があった一方で、「売春防止法制定当時に参考とされた他の法令の法定刑の自由刑について、その後引上げがなされていないことなどを踏まえると、法定刑の上限を引き上げることは難しいのではないか。」といった御意見がございました。   また、そのほかに、両罰規定が定められている罪についていわゆる法人重科の規定を設けることや、特に売春防止法第7条の罪の法定刑を引き上げること、また、同法第6条の行為によって利益を得た場合の加重類型を設けることなどについても、検討することが考えられるのではないかといった御意見がありました。   その上で、一巡目の議論において、法定刑の在り方を検討するに当たっては、近年の売春防止法違反事件の科刑状況も考慮する必要があるとの御意見があったことを踏まえ、本日は、配布資料6として、「売春防止法違反事件の科刑状況」をお配りしていますので、まず、事務当局から、配布資料6の御説明をお願いしたいと思います。また、先ほど御紹介した御意見にもあったように、売春防止法の制定当時に法定刑を定めるに当たって参考にされた他の法令上の罰則があるようでしたら、その点についても併せて御説明をお願いしたいと思います。 ○栗原参事官 まず、配布資料6について御説明いたします。   配布資料6は、「売春防止法違反事件の科刑状況」であり、令和4年から令和6年までの間に全国の検察庁において処理された、売春防止法違反事件の科刑状況をまとめたものです。この資料においては、分かりやすさの観点から、売春防止法第5条から第13条までの罪を、「1 法定刑に必要的併科が定められている罪以外の罪」と「2 法定刑に必要的併科が定められている罪」とに分け、それぞれの科刑状況を別の表として掲載しています。いずれの表も、右側の「罰金」欄に計上されているのは、罰金刑のみが科された事案、左側の「懲役」又は「懲役・罰金」欄に計上されているのは、懲役刑のみが科された事案又は懲役刑と罰金刑が併科された事案です。また、「(注2)」のとおり、この資料の作成に当たっては、罰金刑のみが科された事案については、併合罪として処断された罪があるものを除外し、それ以外の事案については、異なる罰条又は法令に規定された罪で併合罪として処断された罪があるものを除外しています。   まず、「1」の表について御説明いたします。「(注3)」及び「(注4)」のとおり、懲役刑が科された事案のうち、第6条第1項が適用された49件中9件、第7条第1項が適用された3件中2件については、罰金刑が併科されています。懲役刑が科された事案については、それぞれ、執行猶予が付された事案の内数を記載しています。罰金刑が科された事案については、第7条第1項が適用された1件を除き、いずれも、その罰金額はそれぞれの罪の罰金刑の上限として定められているものとなっています。なお、「(注5)」のとおり、第7条第1項が適用されたもののうち1件は、罰金5万円とされていますが、これは未遂犯であることが影響したと考えられます。また、「(注6)」のとおり、第11条が適用された7件のうち2件は、第14条の両罰規定が適用され、法人等に罰金刑が科されたものです。   次に、「2」の表について御説明いたします。資料の2枚目を御覧ください。懲役刑と罰金刑が併科された事案については、「(注7)」及び「(注8)」のとおり、第12条が適用された1件を除き、いずれも執行猶予が付されています。罰金刑が科された事案については、いずれも、第14条の両罰規定が適用されたものであり、その罰金額は、それぞれの罪の罰金刑の上限として定められているものとなっています。   配布資料6についての御説明は、以上です。   次に、売春防止法の制定時に、法定刑を定めるに当たって参考にされた他の法令上の罪の法定刑について御説明いたします。   昭和31年の売春防止法案の国会審議における政府の答弁等によれば、売春防止法上の罪の中では、第12条の売春をさせる業が、売春を助長する行為として最も悪質であることなどから、同罪の法定刑を最も重いものとしているとの説明がなされています。その上で、その法定刑については、他の法令に定められた、人身売買や女性の搾取に関する罪の自由刑、例えば、刑法第225条の営利目的での誘拐の自由刑が「1年以上10年以下の懲役」とされていること、職業安定法第63条の公衆道徳上有害な業務に就かせる目的での職業紹介等の自由刑が「1年以上10年以下の懲役」とされていること、労働基準法第117条、第5条の暴行等による強制労働の自由刑が「1年以上10年以下の懲役」とされていること、児童福祉法第60条第1項、第34条第1項第6号の児童に淫行させる罪の自由刑が「10年以下の懲役」とされていることなどを踏まえ、売春防止法第12条の罪の法定刑についても、その自由刑を「10年以下の懲役」とすることとしたとの説明がなされています。   また、罰金刑については、売春防止法制定当時、職業安定法の公衆道徳上有害な業務に就かせる目的での職業紹介等、労働基準法の暴行等による強制労働、児童福祉法の児童に淫行させる罪のいずれについても、選択刑として、「2千円以上3万円以下の罰金」という罰金刑が定められていたところ、売春防止法第12条の罪の法定刑は、それらよりも重い、「30万円以下の罰金」の必要的併科とされました。もっとも、先ほど申し上げた三つの罪については、その後の法改正によって、法定刑のうち罰金刑の上限が引き上げられ、現行法では、職業安定法の公衆道徳上有害な業務に就かせる目的での職業紹介等及び労働基準法の暴行等による強制労働については「20万円以上300万円以下」、児童福祉法の児童に淫行させる罪については「300万円以下」とされています。   事務当局からの御説明は、以上です。 ○北川座長 ただ今の事務当局からの御説明について、何か御質問はございますでしょうか。いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、二巡目の議論においては、先ほど申し上げた一巡目の議論や、売春防止法違反事件の科刑状況等を踏まえて、更に御議論いただきたいと思います。御意見のある方は、御発言をお願いいたします。 ○古川委員 ただ今御説明のあった科刑状況の実態をよく見て罰金刑又は拘禁刑それぞれについて分析的に考えるというのが、一巡目の議論での他の委員からの御指摘であったものと理解しており、それに沿っていま一度考えてみたところを申し上げます。   罰金刑については、上限への張り付き現象が見受けられることから、関連犯罪とのバランスもとりつつ、上限の引上げが望ましいのではないかと考えました。他方、拘禁刑については張り付き現象のようなものは見当たらないようですし、また、そもそも上限付近で量刑される事案も乏しいことからすると、突っつき現象のようなものも想定しづらいのではないかと思われ、性的自由の保護価値の高まりや人身に対する罪の側面に鑑みて何らかの引上げを検討する余地もあるものの、直ちに検討すべきとはいえないと考えるに至りました。   また、売春防止法第14条における法人重科導入の検討についても、直ちにというよりは、必要になる可能性を考慮に入れておくのが現状では穏当かなと考えます。 ○川崎委員 事務当局からの先ほどの御説明について確認させていただきたいのですが、法定刑については、立法当初、関連する他の犯罪との比較を検討された上で定められ、その後、その関連する他の犯罪の法定刑のうち、罰金刑については引上げが認められるが、自由刑の引上げはないと理解してよろしいでしょうか。 ○栗原参事官 そのような理解で結構でございます。 ○川崎委員 そうしましたら、古川委員がおっしゃったように、拘禁刑については、科刑状況から見ても、他の犯罪類型との比較という点からしても、今すぐの引上げの必要性というのは高くないといえると思います。それに対して、罰金刑については、科刑状況と他の犯罪類型との比較のいずれの点からも引上げが必要、特に、他の類似した犯罪類型との比較において均衡を逸しないような形での引上げが必要かと思います。 ○大沢委員 配布資料6の科刑状況を見ると、古川委員や川崎委員がおっしゃっているように、罰金刑が科された場合に金額がいずれも上限に張り付いていることが見えまして、そうでなかった1件も未遂犯だということを踏まえると、罰金刑を引き上げるべき背景事情として十分なのだろうと感じています。   それから、両罰規定が適用されたものを見ると、売春防止法第11条第2項違反の売春の場所提供を業としたものでは、いずれも上限の30万円が科されています。最近、宮城県で、ソープランドで売春の場所提供をしていたとして摘発された事案があったのですが、この事案では1か月で4,000万円近くの売上げを得ていたと見られています。こういった現実と比べてみても、やはり現行法の罰金刑の上限は著しく低額だと思われまして、相応の引上げが必要だと改めて思っています。 ○星委員 一巡目の議論でも申し上げたところですが、今の各委員からの御意見に基本的には賛同するものでございまして、罰金刑については、売春防止法の立法時に比較対象とされた罪の罰金刑が上がっているということと、当時と比べて今は貨幣価値が変わっていること、また、いわゆる張り付き現象が起きているのは明確であることを考えると、抑止力やメッセージとしての意味というところも含めて、考え直す必要が大きいと思います。   これに対して、拘禁刑に関しては、特に立法時に比較対象とされた刑法第225条の営利目的等の誘拐について、御承知のように、未成年者の略取誘拐は平成17年に法定刑が引き上げられたものの、営利目的等の誘拐の法定刑は引き上げられていないということも踏まえ、また、現在の科刑状況も含めて見ると、将来的にはまた別の事情が生ずるかもしれませんが、各委員からお話があったように、少なくとも現状において直ちに拘禁刑の引上げに踏み込む必要がある状況にはないというのが私の認識です。 ○北川座長 ただ今の各委員の御意見は、罰金刑の引上げが必要だという点で一致しているかと思います。まず、その点について何か御意見があれば伺いしたいと思いますけれども、ほかの委員の方々も、引上げ相当ということで御異論はないでしょうか。よろしいでしょうか。   次に、大沢委員から、両罰規定に関して、宮城県での事件の御紹介があり、そうした事件があることも考慮して見直す必要があるとの御意見がありましたが、こちらについてはいかがでしょうか。 ○川崎委員 古川委員からは、これから必要となる可能性を考慮に入れておくという御意見もありましたが、現行法のままですと、自然人が違反をした場合と同額が法人に科されることになるわけで、それをよしとするかどうかだと思います。科刑状況を見ると、現状としては自然人が売春防止法第6条以下の犯罪を行っていることが多いようです。ただ、先ほど大沢委員から御紹介があったように、風営法の対象になるような業者がその範囲を逸脱して売春まで行っている例があるわけですが、不法な収益については没収できるから法人重科を定める必要はないと考えていいのか、それとも、没収には幾つかの条件があって、各違反行為との因果関係が認められなければ没収できませんので、そういう点も踏まえて、法人が第6条以下の犯罪を実際に行った場合に不法な利益を法人に残さないためにも、感銘力を高めるためにも、両罰規定の中で法人重科という形で一定の罰金額を定めるのも選択肢の一つだと私は思います。 ○星委員 法人重科に関してはなかなか悩ましい問題だと思うのですが、大沢委員が言及されたソープランドのような事案で、罰金刑の上限を自然人との連動にするのか、あるいは切り離しで重科にするのか、両方あり得るのだろうとは思います。ただ、風適法は、風俗営業の適正化を目的とし、いわゆる業法なので、法人処罰の必要性が高いといいますか、規制の必要性が高いというところがあるかと思うのですが、売春防止法は、業を取り締まるというよりは、売春助長行為を規制して、売春をせざるを得ない状況になってしまうことを防ぐことを目的にしていて、そうした行為は必ずしも業という形でなくても行われ得るものだというところも含めて考えますと、風適法と売春防止法とではその保護法益に違いがあるかと思います。そうしますと、法人によって行われている事例があることが、直ちに法人重科の必要性を基礎付けることになるかどうかについては、若干ちゅうちょを感じるところもございます。 ○古川委員 論点の「3」において、売春の相手方となる者の勧誘を新たに罰する可能性について御議論があったものと理解しておりますが、もしそれを新たに罰することとなった場合にその法定刑をどうするかについても考えておく必要があるかと思い、私の意見を付け加えさせていただきます。   その場合の法定刑については、現行法第5条の売春目的での勧誘行為を罰する場合と同じような減軽的取扱いをする事情は見当たらないことからすると、第6条を超えない限度で第5条より重い刑にするといったところが妥当な落とし所であって、少なくとも第15条による任意的な併科は認めることが必要ではないかという意見を持っております。 ○川崎委員 古川委員の御説明はものすごく説得力があると思うのですが、一方で、現行法第5条の売春目的での勧誘等の法定刑について類型的な減免がかかっているのだということに関しては、確かに、主体の事情としては、売春をする者の保護の必要性があるということはあるわけですが、保護法益の観点から言うと、風紀を乱すという点は、売春目的での勧誘等とその相手方となる目的での勧誘等とに違いはありませんので、法定刑の段階で違いを評価するには、個別の事情がかなり大きいように思われます。売春の相手方となる者による勧誘等だけを処罰対象にするのか、それとも売春をする者とその相手方の両者を罰するのかという議論の中でもありましたが、女性側、つまり売る側が全て保護に値する、配慮すべき存在だといえるかというと、ヒアリングにおいても、売る側は売る側で自己決定権を持ってやっているのだというお考えもあったことも踏まえると、売春をする者の多くは配慮すべきだとしても、そうでない場合もあることも事実だと思います。そうすると、売春をする者の保護の必要性は個別の量刑で事案ごとに考慮すべきであって、法定刑の段階であらかじめ格差を付けておくことが絶対的に正しいかというと、そうではない選択肢もあり得ると思います。 ○佐藤委員 川崎委員のおっしゃることは一理あると思っていまして、すなわち、いわゆる責任減少になるような酌むべき事情がないこともあろうかと思います。折衷的な案としては、類型的な責任減少を理由にした刑の減軽又は減免事由みたいなものがあってもいいのかなと考えております。具体的には、売春に至った経緯や経済的事情、あるいは境遇等の情状を考慮して刑の減軽又は減免を可能にする規定を作ることがあり得ると思っています。減軽又は減免の根拠としては、先ほど申し上げた責任減少がありますが、もう一つは、特別予防的な観点から見たときに、処罰より支援の方が更生に資する、再犯防止になると考えられることがあろうかと思います。 ○星委員 売る側の勧誘と買う側の勧誘に一律に差が設けることができるかについては、買う側にいろいろな事情はあるのかもしれませんが、それ以上に売る側の方にいろいろな事情があることが類型的に考えられるという佐藤委員の御指摘は、確かにそのとおりだと思います。第5回会議で発言させていただいたことでもありますが、売春防止法第5条は、必ず処罰するということを目的としているというよりは、それがいいかどうかはともかく、刑事司法を一つのチャンネルにして、保護のための介入のきっかけを作るという性質があることを考えますと、情状により刑を減軽し又は免除することができるというような規定によって、売る側と買う側に差を設けるというのも一つの案としてはあり得るかなと思いました。 ○川崎委員 私は、これはどちらかというと責任減免というよりは検察官の起訴裁量の問題になるかなと思っており、例えば、売春防止法第5条等に、佐藤委員や星委員がおっしゃったような規定を設けることもあり得るとは思うのですけれども、現行法の第4条に、「この法律の適用にあたつては、国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。」という規定がありますので、この規定の趣旨を敷衍する形で、起訴裁量の行使に当たって、売春をする側の個別事情に十分配慮して、最も適切な対応が起訴をすることでない場合についてはこれを控えることができるという規定を置くことはあってしかるべきかなと思っています。ただ、それは責任減少というよりは、情状も含めた総合的な考慮の中で、検察官においてそういう判断をしていただくことが重要なのかなと思っています。   もっとも、必ずしも第4条にそういった規定を置くということではなく、例えば第4条でと申し上げた次第です。あるいは、私は立法の専門家ではありませんので、それではまた違うところで問題があるということもあり得ると思いますから、附則に置くとか、やり方はいろいろとあると思います。せっかく今、売春防止法の改正を検討をしていて、特に櫻井委員から御提案いただいている問題意識は我々も共有している中で、それを実際に立法にどこまで反映できるのかはなかなか難しいなと思うところは私自身もあるものの、一方で、売る側の置かれた状況について考慮する必要があるのは間違いなくて、恐らくこの検討会でも、刑事罰を積極的に適用することが常に望ましいことではないという問題意識は共有できていると思いますので、その点はどこかで反映する必要があるのではないかと思っています。それが法改正という形でないにしても、例えば、この検討会の取りまとめにおいて、検察や裁判所に対してその点についての意見という形で明言するとか、様々な方法はあると思うのですが、いずれにしても、今回の検討が、思わぬ形で売る側の厳罰化につながるようなことにはならないようにしていただきたいと思っています。 ○佐藤委員 売春防止法の第4条に書くという考えは、私も非常に賛成しております。第4条にそうした規定があることによって第6条以下にも適用可能になる、つまり、第6条以下が適用される事案においても、それに関与している売春者の支援をしっかりすべきというメッセージにもなろうかと思います。現行法の第4条は、売春防止法の適用上の注意として、寝室に捜査官は入ってはいけないよみたいなメッセージになっていると思うのですが、これに加えて、同条第2項に、売春者に対しては、まずもって支援をするという視点で対処しないといけないよみたいな規定を設けるイメージになります。現行の売春防止法は、売春者の保護更生という視点が消えたことによって少し冷たい法律になっている印象がございまして、そこに、法律の目的は支援なのだということをはっきり打ち出すことには価値があると思います。第4条と第5条のどちらにもそうした規定を設けることもあり得るのではないかと思いますが、それはまどろっこしいというのだったら、私は、第4条に設けることに賛成いたします。   先ほど川崎委員もおっしゃったように、恐らく前例のないような条文になって、本則に設けることは難しいと思いますので、附則とか、あるいは取りまとめ報告書に、先ほど申し上げたようなメッセージを周知してくださいと書き込むという方法はあろうかと思うのですが、ただ、実際に法律を運用する側、特に、10年後、20年後に運用している人がこの検討会の取りまとめ報告書を見るかというと、そこまで配慮が及ばないことも多いのではないかと思うと、やはり法律に書き込むのが一番いいのではないかと考えています。 ○星委員 今の川崎委員や佐藤委員の御意見の趣旨は全く賛成です。他方で、立法技術としてできるかどうかという問題はあり得るところで、どういう形で実現していくのかについては、多少幅を持った形で検討されていくのがいいかと思います。また、最終的には、売春防止法第1条の最後にある、売春の防止を図るとは何なのかというところにつながっていく話なのかなとも思いますが、それを個別の条文あるいは附則に書くことや、取りまとめ報告書に書くほかにも、例えば、平成13年に創設された危険運転致死傷罪は当時の法曹時報に載った立案担当者解説が相当参照されているようですので、そういった方法も視野に入れた検討をしていくことが望ましいと思います。 ○北川座長 売春する者に対する配慮規定等についての御意見を頂戴したところではありますが、法定刑の話に戻って、自由刑については、今までの御議論では、直ちに引上げということにはならないだろうということでしたけれども、これに対して更なる御意見はございませんでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、本日の「法定刑」についての議論は、ひとまずこの程度とさせていただきたいと思います。   以上で、「論点整理」に記載された全ての論点について二巡目の議論が終了しましたが、いずれかの論点について補足又は追加の御意見がある方がいらっしゃいましたら、この機会に御意見を頂戴できればと思いますけれども、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、次に、「論点整理」に記載された論点についての一巡目・二巡目の議論を踏まえ、それ以外の項目で、本検討において議論した方がいいと思われるものについて、この機会に、委員の皆様に御議論いただきたいと思います。   この点に関しては、前回会議において、櫻井委員から、「売春防止法の第1条の目的規定」について、また、既に本日の議論で御意見が出ていますが、川崎委員から、「売春をする者に対する保護・支援の在り方」について、それぞれ御意見を頂戴したところです。そこで、これらの点について、それぞれ御議論いただければと思います。   最初に、「売春防止法の第1条の目的規定」について議論を行いたいと思います。   この点については、前回会議において、櫻井委員から、「売春防止法第1条においては、「売春が人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだすもの」と規定されているものの、同法が根幹に捉えるべきなのは、売買春が人としての尊厳を傷つけるという点ではないか。」、「売春防止法第1条においては、「売春が」と規定され、売春を行う者は「悪」であるという趣旨が含まれているように思われるが、買春側の需要に要因があるということを示すべきかについて議論することが必要ではないか。」という御意見がありました。   まず、御提案を頂いた櫻井委員から、補足等がございましたら、おっしゃっていただければと思いますが、いかがでしょうか。 ○櫻井委員 今おまとめいただいたとおりですが、少し追加で申し上げたいと思います。私が法の目的の再検討を提案した理由は、これまでの検討を通じて、度々、法の目的とは何なのだろうとすごく考えさせられたということがあります。その際に、現行法の目的が現代の社会情勢からは乖離しているのではないかという懸念もありました。現行法第1条の前半には「売春が」という主語が置かれています。ここを改めて読みますと、売春者のみが悪いということではなくて、売春という事態そのものが起きること、すなわち買春も含めて売買することがよくないという意味にもとれるのですが、やはり売春のみが取り上げられていることに、私としては違和感があります。また、これまでも申し上げてきたところですが、そもそも買春という需要があるからこそ売春構造が成立すると思っておりますし、売春側と買春側の間には非対等な力関係が存在しています。したがって、第1条の主語を、買春行為に焦点を当てた「買春」という文言に見直してはどうかと考えています。   また、現行法では「人としての尊厳」と「性道徳」と「善良の風俗」が並列して記載されています。売春防止法ができた当初は、女性の処罰とか保護更生ということで、人権の擁護よりも性道徳や善良な風俗の遵守が主な目的であったことは明らかと思っています。しかし、売春に至るには様々な困難があって、買春側は困難を抱えている人たちを買っているという実態はあるのであって、性の売り買いの本質的な問題は人の尊厳の侵害であるといえると考えています。第6次男女共同参画基本計画にも、「性を商品化し、人間の尊厳を傷つける売買春」という記載があります。したがって、売春防止法の目的規定について、第一義的な目的を人としての尊厳の保護に置くような文言にしてはどうかと考えています。そして、人としての尊厳の保護を主軸とするならば、やや時代と乖離しつつある「性道徳に反し」という文言は不要ではないかと思っています。「社会の善良の風俗をみだす」という点については、悩ましく感じています。社会の風紀については、現に大久保公園周辺の問題があり、前回会議のヒアリングにおいても新宿区の地域住民や来街者の懸念の声を伺ったことを考えれば、無視できない現代的な課題であると思っています。また、これまで検討を重ねてきた買う側の勧誘行為の処罰の根拠は、風紀を害されるという点にあると思います。他方で、第1回会議において、佐藤委員から、売春者の尊厳を保護することと社会の風俗を保護することは必ずしも方向性が一致していない旨の御指摘がありました。私自身、「社会の善良の風俗」を売春防止法の目的規定に残すことは、結果として、売春者も風俗を乱す存在として捉える構造を維持することになりかねず、それが売春者の尊厳の保護と一致するかという点は疑問に感じましたので、検討が必要であると考えております。 ○北川座長 櫻井委員、ありがとうございます。それでは、今頂いた櫻井委員の御意見も踏まえまして、ほかの委員の御意見も頂戴したいと思いますが、いかがでしょうか。 ○古川委員 櫻井委員が御指摘になった点は、売春防止法の趣旨が正しく理解されているのか、本来の趣旨を踏まえた適用がきちんとなされているのかといった現実問題に対する強い御懸念を表している、重大な問題であると理解しました。これをどう受け止めるかは、率直に申し上げて、なかなか難しい面があるとは思います。売春防止法上、「売春」の語はあっても「買春」の語がないというのは、恐らく立法当時、「買春」という言葉がなかっただけであって、条文上、第3条ではっきりと、今でいうところの買春は禁止であることは明示されています。また、法律の題名が「売春防止法」となっているのも、決して買春行為を容認するという趣旨ではなく、むしろ法制の重点が、人が売春をする立場に追いやられるような事態をどう防止していくかに置かれているということを的確に表しているともいえようかと思います。   そうは言っても、第1条の目的規定の書きぶりは、人の尊厳と風俗秩序が並列的に挙げられているという点で、櫻井委員が御懸念されるように、事の重大さを分かっていないのではないかという疑念を招くことになるのは大変残念なことだとは痛感いたします。ただ、法律論としては、売春防止法上の罪は刑事処分との関係ではあくまで風俗犯、ただし人の尊厳に関わる深刻な風俗犯という位置付けであって、その趣旨を踏まえた解釈・適用を徹底していくのが筋であると考えています。個人的法益に引き付け過ぎると、かえって成人間の売買春は個人の自己決定権の行使であって国家の介入は不当であるといった議論が蒸し返されてしまうということも危惧するところです。そうしたことを考えますと、条文上の言葉遣いを改めることによって期待できるメリットは余り大きくないのではないかという意味で、冒頭に申し上げたとおり、この問題をどう受け止めるかは難しい面があると考えた次第です。 ○川崎委員 私も、これまでの議論の中で出てきたように、今回の検討の契機になった、買う側の勧誘等が処罰されていないのは均衡を失するのではないかという問題意識を踏まえ、しっかりバランスをとった形での規定を盛り込む必要はあると思います。ただ、それが櫻井委員が御提案になったような形で実現することが必要なのかというと、これまでにも様々な場面で申し上げてきましたが、私は、売春防止法は、かなり悩まれた上で作られていて、今も通用するような、うまくバランスのとれた立て付けになっている法律だと思っております。それを、例えば、買う側に重きを置いて名宛人にするような形での規定にそっくり入れ替えるとか、法の目的規定を大幅に変えるということについては、これまでにも申し上げたように、果たして社会的なコンセンサスがあるのかというと、売買春については様々な意見がある中で、改悪だという意見を持つ人も出てきかねないと思います。   私は、先ほど申し上げたように、買う側の勧誘等の処罰規定を設けることと、売春防止法において保護の観点が弱まっている点について見直すこと、また、売る側の刑事処分が不必要になされることがないように留意することは必要だと思っております。ただ、それを超える形での改正をすることについては、それがもたらすメッセージもあると思う一方で、古川委員がおっしゃるように、負の側面もあり得ると思いますので、その点については慎重に検討する必要があるのではないか、必要最小限の改正にとどめておくことも一つの選択肢ではないかと思っております。 ○星委員 私も、櫻井委員の御指摘は非常に重いもので、恐らく、売春者の支援等に携わっておられる方々が共通して持つ御認識なのだろうと思いますが、古川委員や川崎委員から御指摘があったように、そうした観点とのバランスをどのように考えて、売春防止法の中にどのように織り込むのかというのは、本当に悩ましいと思っております。   古川委員の御指摘にもあったように、昭和31年の売春防止法制定当時は、「買春」という言葉が、俗語としてはあったかもしれないけれども、法令用語としてはなじまないから使われなかっただけかもしれないですし、第3条において「売春」と「その相手方」という言い方がされているからといって、売春防止法が買う側は悪くないとの理解に立つという趣旨ではないという可能性もあります。現在、「買春」という言葉が法令用語として使えるぐらい熟したものになっているということであれば、それを条文に規定するというのも選択肢の一つなのだろうとは思います。ただ、売春防止法の第一義的な目的は、売る立場に陥らざるを得なくなってしまう人をいかに救うというか支援するかというところにあって、その意味では、買う側に対する買春禁止の働き掛けや買う側の処罰は二次的な目的になるのではないかと思います。確かに、買う行為があるから売る行為をせざるを得なくなってしまうという関係はあるわけですが、今後の検討状況にもよりますが、仮に買う側の勧誘等の罰則が規定されれば、売春をせざるを得ないような状況に陥ってしまう人の支援をより確実にして売春の防止を図るという現在の法の目的との関係では、それで十分とも考えられ、川崎委員からも御指摘があったように、コンセンサスが完全に得られているわけではない論点にあえて今の段階で踏み込んでしまうことが立法的な選択として適切なのだろうかということを考える必要があると思います。昭和31年に成立してから、困難女性支援法によって補導処分に関する規定が削除されたこと以外大きな改正がなく、今回、今議論しているような改正をしようとする中で、俗な言葉で言うと、無理をするとハレーションも大きくなってしまうのではと思われるところもあり、法律を改正していく場合にはステップ・バイ・ステップでやっていくことの方が望ましい場合もあることも考えますと、櫻井委員の御意見の趣旨はよく分かるのですが、現行法の第3条では売春の相手方となる行為が禁止されているわけですし、それに加えて、今後、買う側の勧誘等も処罰対象にするということであれば、まずはそうした改正を行って様子を見て、もし更なる改正が必要だということになれば、次のステップとして、条文のワーディングを変えることを考えるというのも一つの選択肢かなと思います。 ○大沢委員 売春の問題を考えるときに、買う側の存在というのは当然考えなければならないことであると思っていまして、買う側の需要の抑制が売春の防止につながるというのは、本当にそのとおりなのだと思います。「買春」という言葉は、人々の間ではかなり使われるようになっていて、広辞苑などに載せられるようになってから久しいということを考えますと、「買春」の「春」という文字を使うかどうかという別の議論はあると思いますが、「買春」という言葉を何らかの形で法律に規定するというのも一つの考え方ではないかなと素直に思っているところです。   また、第1回会議でも少し申し上げたのですが、私個人としては、売春防止法を考えるに当たっては、人としての尊厳が守られることが一番大事だと思っておりますし、また、特に昨今は人権尊重の取組が社会全体に求められていて、個人の尊厳を損なういかなる行為も許されてはいけないのだということは、私は、基本認識として持っています。一方で、これまで長い歴史を経て社会の中で形作られてきた性道徳や、社会の中で善良なものとして定着してきた風俗というのも、やはり大切な価値を持つ、守られるべきものだと思っておりまして、これらに優劣を付けられるものなのかなとは思っています。人によってはこれらのどれに一番重きを置くかは異なるのではないかと想定されまして、また、そういった違いがあるのも当然で、そういう多様な価値観が認められるのが健全な社会なのではないかと私は思っています。ですから、人としての尊厳も、性道徳も、善良な風俗も、いずれも法で守るべき大切な価値であるということが国民の間に広く浸透することが大事なのではないかと思っています。   そういった面から売春防止法の第1条をもう1回見てみると、この三つの要素の中でも一番初めに人としての尊厳が言及されていることも踏まえれば、現行法のままでも十分意味があるのではないかと感じています。 ○佐藤委員 おおむね他の委員と同じような意見なのですけれども、被害者の同意論の視点で見ますと、人の尊厳というのは、犯罪の保護法益とするには非常に扱いが難しい概念だと思います。具体的に言えば、人の尊厳を同意によって放棄できるのかは非常に難しい問題です。例えば、性犯罪の保護法益は人の尊厳だとする見解がありまして、確かに性的な侵襲が人の尊厳を傷つけることは間違いないと思うのですが、他方で、では性的行為への同意は人の尊厳の放棄かといえば、これは違う気がします。性犯罪の保護法益はあくまで性的自由であって、それが侵害されたときに同時に人の尊厳が著しく害されるという形で、人の尊厳が付随的に乗ってくるものと解する方が妥当な説明になるように思います。   この点、売春防止法について見てみますと、第6条以下の罪は、売春者の尊厳が害される危険性の著しく高い行為類型であると理解しています。管理されることによって売春相手を選べないとか、売春をやめたいときにやめられないとか、ひどい場合には、弱みに付け込んだり、困惑に付け込んだりして本来の意思に反して売春させられるといった状況は性犯罪と類似の性的自由侵害の危険があって、よって人の尊厳も害されていると説明できると思われます。   他方で、第5条については、売春者側が常に被搾取者であって、よって尊厳が害されているという理解が正しいかというと、これをコンセンサスでもって結論付けることはなかなかできないのではないかと思います。確かに、主として売春者になる女性というのは社会的に弱い立場にあることが多く、買春者になることの多い男性との社会的地位の格差があるといえますが、他方で、性的な場面においても常にそういう格差が利用され、女性側が不当に搾取されているかというと、そうは断言できないところがあるのではないかと思われます。それは女性を性に関して常に受け身的な存在として観念することであって、それ自体が女性に対する偏見であると主張する人たちがいることも、念頭に置いておかなければいけないと思います。   こうした点に鑑みますと、現行法の第1条の目的規定については限りなくバランスをとったものというか、苦肉の策でできているものであって、これを変更するのは慎重に考えなければならないと思います。他方で、現行法のままでは売春者に焦点が当たっているというのはそのとおりだと思います。法律の名称からして「売春防止法」というものになっており、これは第6条以下の売春助長行為も意識して、売春を防止するという趣旨だとも思うのですが、ぱっと見たときに売春者に焦点が当たっていることで、売春は売春している人が悪いのだと読まれる可能性があることは考えておくべきだと思います。そこで、法律の名称を「売買春防止法」とすることが考え得るかと思います。ただ、そうすると、「買春」の定義規定が存在しないと変なので、法律に「買春」の定義も規定する必要があるのかなと思うところではありますが、一つの意見として申し上げた次第です。 ○古川委員 今の佐藤委員の御意見は、大変理論的に詳細で説得力がありましたが、最後に言及されていた法律の名称を「売買春防止法」にする可能性については、実際に法律の名称をそのように改めようとすると定義規定をどうするのだという話に波及するので、そう簡単にできるという趣旨でおっしゃられたわけではないと思うものの、少し気になる点がありましたので、発言いたします。   先ほど星委員もおっしゃっていましたが、現在の売春防止法が目指しているのは、売春をする立場になってしまうことを何とかして防ぎたいというところにあって、決して買春をやめられない人たちを何とかして改善、指導するとかいったことではありません。あくまで売春防止法の目標は、やや抽象的な言い方ですが、売春をする立場に人を追いやったりしないようにみんなでちゃんと考えましょうというところに主眼があることからすると、「売買春防止法」という名称にすると、そうした点に終局の目標がある法律の焦点がぼやけてしまうリスクもあるのではないかと思いました。 ○櫻井委員 「買春」という用語を規定するかという点に関して、一言申し上げます。   買春者側については、勧誘等の行為について処罰規定を設けるべきだということで、この検討会での意見はおおむね一致していると思うのですが、その場合の具体的な規定は、「買春」という言葉を用いないとしますと、「売春の相手方」というような形になるのでしょうか。というのも、買春者から声を掛ける場合もあると思うのですが、そのときにも常に「相手方」という表現でよいのかは疑問があります。また、先ほども申し上げたとおり、「売春の相手方」と規定することになると、買春者が従属的な表現でしか登場しないというイメージになるように思います。他の委員の御意見も伺って、売春防止法の意義は大変よく理解しているのですが、「売春の相手方」という規定だと、やはり買春者が売春を行う人に付随する受動的な存在にすぎないかのような印象がありましたので、今回の検討の結果、買春側の勧誘等の行為について処罰規定を設けることになったとしても、買春側の責任性を後退あるいは軽視させる原因になりはしないかという懸念がございます。 ○川崎委員 古川委員や星委員がおっしゃったように、売春防止法の立て付けは、売春という現象といいますか、これを防止するのだという一貫した観点から、売春そのものについては禁止しながらも処罰はしないこととしつつ、勧誘行為や助長行為をそれぞれの保護法益を保護するために必要な範囲で処罰するという形がとられています。   その中で、今回の検討は、そうした売春防止法の目的は、一貫して、売春をせざるを得ない状況を防ぐ、あるいは、売らないといけない立場の人たちを保護するということにあると考えた上で、保護法益を侵害しているにもかかわらず処罰されていない人がいるではないかという観点から、買う側の勧誘等も処罰の対象にすることによって、必要な範囲で手当てをするということかと思います。そうだとすると、私は、実効性として合理性があるといいますか、買う側の勧誘等として処罰すべきものを処罰対象として規定できるのであれば、「買春」という言葉を使う必要はなく、その言葉にこだわることにはメリットもあれば、デメリットもあり得ると思います。もしそうした処罰規定が「買春」という言葉を使わないと実現できないというのであれば改正する必要があると思いますが、その一方で、「買春」という言葉を使うことによって、売春というものに焦点を当てて、これを防ぐのだという法全体の一貫した立て付けがぼやけてしまうというマイナス面についても留意する必要があると思います。 ○古川委員 私も川崎委員と同様の考えを持っております。   櫻井委員の御指摘のように、売春の相手方となることを「買春」と現代の言葉で呼ぶことにして、売春防止法の第2条にその旨の定義を書き足して、第3条や第5条、第6条といった禁止規範や罰条を修正することも論理としては可能な策ではありますが、理論的にそれで何かが変わるわけではなく、そうした法改正をする積極的な根拠としては必ずしも強くないと感じます。ただ、例えば、将来、買春についてだけは、つまり第3条の買春禁止の違反についてだけは直罰にするという判断がなされるときが来たとすれば、「買春」という言葉を前面に出すことはあり得るかもしれません。しかし、先ほどの議論でも、法の目的規定を改めるといったことは現状では余りにもラディカルな主張であって、多様な価値観の中でそこまで特定の価値観を前面に出すという判断は性急ではないかとの意見が大勢であると見られることからすると、現時点で「買春」に言葉遣いを変えることによって得られる実際的な意義やメリットは乏しいのではないかと感じます。 ○大沢委員 「買春」という言葉を入れるかどうかについては、いろいろな御議論があると思いますし、法律的な議論もあると思います。私は、法律には素人なので、法律的な議論については何とも言えないのですが、もし「買春」という言葉を入れる意味があるとしたら、国民に対してこの法律が持つメッセージ性といったものなのではないかと思います。前回会議でも申し上げましたが、例えば、学校等の教育現場で売買春について教えるときに、買う側も問題あるよねということを伝えていく上では、意味があるのかなと感じています。また、櫻井委員がおっしゃっていたように、買春側の勧誘行為について規定する場合に、その主体を「売春の相手方」とするというのは、普通の読み方をすると、やや隔靴掻痒と感じるかもしれないなと素直に感じます。 ○北川座長 ほかにこの点について何かございますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、次に、「売春をする者に対する保護・支援の在り方」について議論を行いたいと思います。この点については、先ほどの法定刑についての御議論の中で既に御意見が出ていたかなと思いますが、改めて、前回会議における川崎委員の御意見を御紹介させていただきますと、川崎委員からは、「困難女性支援法が制定されたことによって、売春をする者について、パターナリスティックに保護・支援につなげることが難しくなっているので、売春防止法の改正について議論するに当たっては、売春をする者に十分な保護・支援を届ける必要性についても、本検討会において言及があってしかるべきではないか。」という御意見が述べられました。川崎委員から補足等がございましたら、お伺いできればと思いますが、いかがでしょうか。 ○川崎委員 今座長にまとめていただいたとおりです。 ○北川座長 ありがとうございます。それでは、この点についてほかに御意見がある方がおられましたら、御発言をお願いいたします。 ○入江委員 保護・支援に関して、これまで本検討会で実施したヒアリングやその後の議論においては、売春をする者の中には、経済的困窮や家庭環境の不遇等の困難な事情を有し、そうした脆弱性を抱える中で売春をせざるを得ない者が多くいるといった御意見が複数の委員から述べられ、私自身も、売春する者を保護や支援につなぐ必要があるということはそのとおりであると考えております。売春防止法第5条の罪で検挙された者を適切な保護や支援につなぐことでその更生に資することができれば、ひいては売春をなくすことにもつながるとも考えております。   売春防止法第5条で検挙された者に対する検察庁の処分や対応の現状について申し上げたいと思います。先ほど川崎委員から御指摘のあった起訴裁量とも関係するところですが、第1回会議の配布資料2を見ていただいても分かるとおり、近時の売春防止法第5条の事案については、検察庁で送致を受けた事案のほとんどが不起訴処分となっております。被疑者の刑事処分を判断するに当たっては、様々な事情を考慮しており、不起訴処分となる理由は様々ですので一概には申し上げられないのですが、一般論として申し上げますと、検察官は、被疑者が犯罪に至った経緯や前科の有無、境遇、生活状況等のほか、今後の更生可能性をも考慮して、起訴・不起訴の処分を判断しております。売春防止法第5条の事案の処理に当たっても、売春をする者あるいは売春をしようとする者のそのような様々な事情を考慮して、適切な処分に努めているところです。また、売春防止法違反事件のうち第5条に係るもの以外の事件についても、その処理や公判立会に当たっては、その者らの情状として、売春をさせられた者らの事情についても考慮し、適切な処分や量刑の実現に努めているところです。なお、起訴・不起訴を問わず、売春防止法第5条で検挙された者について、検察庁としても、警察や弁護人と協力したり、検察庁内の社会復帰支援室を通じるなどして、できる限り、その者の生活環境を改善し、支援につなげられるように努力しているところです。   今後も、本検討会における議論を踏まえまして、売春防止法違反事件の起訴・不起訴の判断や、公判立会に当たっては、売春をする者の事情を踏まえた保護・支援の必要性を十分に考慮し、適切な対応に努めてまいりたいと考えています。 ○大橋委員 私も、売る側の立場にある方の中には支援を必要としている方が相当数いて、そうした方に対して支援を提供することが非常に重要だということは、これまでにも繰り返し申し上げてきたところで、先ほどの川崎委員と佐藤委員からの、考慮規定を設けるという御提案も検討に値するのではないかと思って聞いておりました。   困難女性支援法が制定される前の売春防止法に基づく補導処分や保護更生は、本人の意思にかかわらず介入できるという意味で強い力を持つという面があったかと思いますが、他方で、支援を必要とする本人を中心として福祉的な支援をしていくという現在の立て付けについては、本人の意思は必要になるものの、支援の力としてはむしろ非常に強力なものになっているのではないかと思います。困難女性支援法の制定の経緯でも、要保護女子という枠組みで捉えると、その人が抱えているDV、性暴力、貧困、居住上の困難、家庭環境、その他様々な問題に対して包括的に対応して支援するというニーズに十分に応えられないのではないかといった問題意識が提示されていたと理解しています。そうしますと、売春防止法の運用に当たっては、そういった支援の枠組みを周知する、あるいは届けるような工夫をすることが非常に重要になると考えております。   国際的にも同じようなことが言われておりまして、例えば、「アンタイ・トラフィッキング・レビュー」というオンライン雑誌に、「説明責任と人身取引対策における一斉摘発の利用」という論文が掲載されているのですが、そこでは、法執行機関による摘発についてはマイナスの側面もあることを踏まえて、当事者のニーズを満たして、その主体性と自己決定を優先する権利基盤型、当事者中心型の方法を発展させるべきであるということが書かれています。そういった点に十分に留意して運用していくことが非常に重要であると考えます。 ○川崎委員 私が申し上げたことについていろいろ御意見を頂いて、私自身も改めて参考になっています。私の問題意識の一つは、前回会議で「パターナリスティック」という言葉で申し上げましたが、例えば、客待ちをしている人を売春防止法第5条の違反で検挙するのが難しい状況、つまり、まだそれが犯罪でなくても、困難女性支援法の制定前であれば、そういうところで立っていること自体を理由に警察が介入し、その人を補導することは可能だったと思うのですが、売春防止法から補導処分に関する規定が削除されたことによって、そうした介入の根拠がなくなった。なので、話し掛けはしても、強制力をもって保護につなげていくことができなくなっている。もちろん女性の自己決定権を尊重することは非常に大事なことではあるのですが、そうした建前と実際に起きている問題に間隙ができてしまっていないかが気になっているところです。困難女性支援法が制定されて、せっかく法制度は改善したはずなのに、それによって支援の間隙ができてしまったのでは元も子もないという思いがありますので、補導処分を売春防止法に戻すべきだという意味ではないのですが、売春をせざるを得ない立場に置かれた女性を売春から防止するスキームの中で抜け落ちている部分がないかは、もう少し俯瞰した観点から見る必要があると思います。そういった総合的な観点から見たときに欠落している部分があるのであれば、立法や警察を含めた行政の対応の中で、手当てをしていくことが必要ではないかと思います。 ○星委員 川崎委員の御指摘はもっともな視点でして、少なくとも売春防止法上、補導処分がなくなったことで、かえって保護が難しくなってしまっていないかという問題意識が生じるということだと思います。   ただ、困難女性支援法の制定とそれに伴う売春防止法上の補導処分の規定の削除の検討の段階においても、こうした点は恐らく検討はされた上で、それでも適切に行えるという判断の下で、現行法のような形になっているのだろうと思います。ある程度の強制性を持った保護・支援をどこまでやるべきかというのは、売春防止だけではなくて、いろいろな文脈で問題となり得る悩ましいところでもあって、売春防止に関しては被害者保護とはいえないところはあるのですが、被害者保護のためのいろいろな法令がある中で、どこまで強制力をもって対処できるのかというのは文脈ごとにそれぞれ判断がされて、現在の立法に至っているのだと思います。   現在の状態が百点満点だということではないとは思うのですが、この検討会の取りまとめの中で、売春という文脈で困難な状況に陥る女性の支援に対して引き続きしっかり対応していくということを書き込むことは十分あり得るのだろうと思います。困難女性支援法は、売春に関連する困難だけではなくそれ以外の様々な困難も視野に入れており、その意味で困難女性支援法と売春防止法はあえて非対称な形になっている中で、売春防止法の中で支援についてどこまで書けるのかについては、立法技術の問題も含めて、それなりの課題があるのかなと思います。ですので、先ほど入江委員から実務的な在り方についての御説明もあったところですが、運用において、売春をする者の支援に取り組んでいただきたいという方向性を、この検討会の取りまとめにおいて示すというのも一つの落とし所かと思います。 ○大沢委員 この点については、私は、川崎委員ほか皆さんの意見に賛同するところです。第5回会議で申し上げましたが、今回の売春防止法の見直しを契機として、支援が必要な人を取りこぼすことなく確実に福祉などの支援につなぐ体制をいま一度しっかり構築することが大事だと思っております。それをどうやって実現するのかについては、先ほど、何名かの委員から、法律にこういった形で書き込めるのではないかという御提言もありましたし、あるいは、入江委員から御紹介があったとおり、運用でしっかり対応していくという方法もあると思います。ですから、そういったことを求めていくことが大事なのだということを、少なくともこの検討会の取りまとめでしっかりと明記することが大事なのではないかと思います。 ○櫻井委員 私も、川崎委員の御提案に基本的に賛同しております。大変重要な御指摘であったと感じています。売春防止法の補導処分や保護更生が結果的にセーフティネットになっていたという側面もあろうかと思いますが、売春者を強制的に支援につなぐということはもう難しいとも思いますし、現代においては、支援に当たっては当事者の意思の尊重が大切ですので、関係機関が制度を理解して支援に確実につなげることや、民間団体による柔軟な支援の充実によってその受皿を厚くしていくことで、若年者にも支援を受けたいと感じてもらえるようにしたり、支援につながりやすくなるような仕掛けを作ることは大切だと思っています。私は法律の専門家ではありませんので、そうしたことを法律上書き込めるかどうかは分かりませんが、この検討会の成果物などにそういった観点を盛り込むことに賛同いたします。 ○古川委員 支援の観点については、第3回会議のヒアリングでも言われていたように、困難の要因は複合的ですから、かつての売春防止法にあったような、売春を行うおそれといった属性でくくって処遇しても意味がないと考えられるため、女性支援事業への統合をしたことは至極もっともなことであり、先ほど星委員も御指摘になっていましたけれども、売春防止法独自の処遇を再び考えることは余り益のあることではないように思います。   他方で、現状としては、川崎委員が御指摘のとおり、売春防止法において、第5条の罪が、刑事処分以外の処遇ルートの保障のない状態になっており、佐藤委員の言葉を借りるならば、ちょっと冷たい法律になっているというのは確かです。この点、先ほど入江委員も検察における運用の現状をお話しくださいましたけれども、とりわけ捜査機関においては、売春防止法第5条が単なる処罰規定ではない、取締りとか起訴・不起訴といった刑事手続をすれば終わりというものではなくて、その先の支援へのつなぎが肝要であるとの意識付けを徹底していくといった取り計らいがあると望ましいのではないかと強く思います。 ○櫻井委員 若干付け加えさせていただきますと、売春をする方の中には、知的な問題を抱えている方は多いと思います。私も統計的なデータを持っているわけではありませんので、どれくらいということは言えませんけれども、この検討会のヒアリングでも、例えば、コミュニケーションをとるのが難しい方がいるというお話があったように、そういう方がいることは確かです。そこが支援の現場で難しいところで、こちらとしては支援が必要だなと思っている方であっても実際には支援につながらないとか、本人があっけらかんとしてしまっていると支援が必要ではないと判断されてしまうことなどがあって、そういったところについての関係機関の意識付けを変えていく必要があると思います。そこを変えるためにも、何か法律に書き込めるものがあるのであれば、私としてはすごく有り難いという気持ちはあります。というのも、いろいろな方法はあると思いますが、結局法律に載っていないと現場は変わらないということは私自身も経験するようなところがあって、法律ではこう書いてあるからと対応されてしまう部分もあると思うのです。 ○北川座長 そのほかに、この点についてはいかがでしょうか。また、今までの議論を振り返って、ほかに議論しておくべき事項がございましたら、御意見を頂きたいと思いますけれども、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   ありがとうございます。それでは、本日の議論はこの程度とさせていただきます。   以上で、本日予定していた議論は終了となります。   本検討会においては、これまで合計7回にわたって会議を開催し、ヒアリング等を行った上で、委員の皆様に活発な御議論をいただき、「論点整理」に記載の全ての論点について二巡目の議論を終えるとともに、その他の事項についても議論を行いました。いずれの論点についても、様々な御意見が示されて大変充実した議論が行われ、本検討会としての意見の取りまとめに向けて、相当議論が深まっているのではないかと思われます。そうした議論状況を踏まえますと、次回の会議において取りまとめ報告書の案をお示しすることを考えてよいようにも思われるところですが、その点については、本日の議論を改めて精査した上で考えたいと思いますので、次回の会議の進行については、その点も含めて、私の方で早急に検討し、事務当局を通じて、できるだけ早期に皆様にお知らせすることとさせていただきたいと思います。そのような方針とすることでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○北川座長 ありがとうございます。それでは、そのように進めさせていただきます。次回会議の日程については、調整の上、なるべく早く確定させ、事務当局を通じて、皆様にお知らせすることとしたいと思います。   本日予定していた議事については、以上となります。   本日の会議の議事につきましては、特に公表に適さない内容にわたるものはなかったと思われますので、発言者名を明らかにした議事録を作成して公表することとさせていただきたいと思います。また、配布資料についても公表することとしたいと思いますが、そのような取扱いとさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○北川座長 それでは、そのようにさせていただきます。   本日はこれにて閉会といたします。ありがとうございました。 -了-