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第1節 高齢者又は障害のある者等への支援等

第3章 保健医療・福祉サービスの利用の促進等のための取組
第1節 高齢者又は障害のある者等への支援等
1 関係機関における福祉的支援の実施体制等の充実

(1)刑事司法関係機関におけるアセスメント機能等の強化【施策番号34】

 法務省は、矯正施設において、犯罪をした者等について、福祉サービスのニーズを早期に把握し、円滑に福祉サービスを利用できるようにするため、社会福祉士又は精神保健福祉士を非常勤職員として配置している。さらに、刑事施設においては2014年度(平成26年度)から、少年院においては2015年度(平成27年度)から、福祉専門官(社会福祉士、精神保健福祉士又は介護福祉士の資格を有する常勤職員)の配置を進めている。社会福祉士等の配置施設数の推移は資3-34-1のとおりである。また、2018年度(平成30年度)からは大規模な刑事施設8庁において、認知症スクリーニング検査等を開始し、2019年度(令和元年度)からは女子刑事施設2庁を加えた10庁で同検査等を実施しており、認知症等の早期把握に努めている。

 少年鑑別所において、2015年の少年鑑別所法施行後、地域援助の一環として、いわゆる入口支援※1への協力が適切に行えるよう、アセスメント機能の充実を図っている。具体的な取組状況として、被疑者等の福祉的支援の必要性の把握のために、検察庁からの依頼を受けて、知的能力等の検査を実施しており、2020年(令和2年)は224件の依頼を受け、援助を実施した。

 保護観察所において、福祉サービス利用に向けた調査・調整機能の強化のため、福祉的支援等を担当する保護観察官が、福祉的支援に関する講義を含む保護観察官向けの研修に参加しているほか、社会福祉士会等が主催する研修や刑事司法関係機関と福祉関係機関が参加する福祉的支援に関する事例研究会に積極的に参加するなどして、保護観察官のアセスメント能力の更なる向上等を図っている。

資3-34-1 刑事施設・少年院における社会福祉士、精神保健福祉士及び福祉専門官の配置施設数の推移
資3-34-1 刑事施設・少年院における社会福祉士、精神保健福祉士及び福祉専門官の配置施設数の推移

(2)高齢者又は障害のある者等である受刑者等に対する指導【施策番号35】

 法務省は、刑事施設において、高齢者又は障害のある受刑者の円滑な社会復帰を図るため、2014年度(平成26年度)から、「社会復帰支援指導プログラム」(資3-35-1参照)の試行を一部の施設で開始し、2017年度(平成29年度)から全国的に展開している。同プログラムは、刑事施設の職員による指導のほか、地方公共団体、福祉関係機関等の職員や民間の専門家を指導者として招へいするなど、関係機関等の協力を得て実施している。その内容は、基本的動作能力や体力の維持・向上のための健康運動指導や各種福祉制度に関する基礎的知識の習得を図るための指導等である。2020年度(令和2年度)の受講開始人員は462人であった。

資3-35-1 社会復帰支援指導プログラムの概要
資3-35-1 社会復帰支援指導プログラムの概要

(3)矯正施設、保護観察所及び地域生活定着支援センター等の多機関連携の強化等【施策番号36】

 法務省及び厚生労働省は、2009年(平成21年)4月から、受刑者等のうち、適当な帰住先が確保されていない高齢者又は障害のある者等が、矯正施設出所後に、福祉サービスを円滑に利用できるようにするため、矯正施設、地方更生保護委員会、保護観察所、地域生活定着支援センター※2等の関係機関が連携して、矯正施設在所中から必要な調整を行い出所後の支援につなげる特別調整(資3-36-1及び【指標番号10】参照)の取組を実施している。この取組では、関係機関の連携が重要であることを踏まえ、矯正施設、保護観察所、地域生活定着支援センター等において、特別調整の対象者等に対する福祉的支援に係る事例研究会や、各関係機関等が有している制度や施策について相互に情報交換等を行う連絡協議会等を行っている。

 加えて、2018年度(平成30年度)からは、地域生活定着支援センターにおいて矯正施設入所早期からの関わりや地域の支援ネットワークの構築の推進を強化するなど、更なる連携機能の充実強化を図っている。新型コロナウイルス感染症が拡大している状況にあっても更なる連携機能の充実強化を図るため、オンラインの活用等の工夫をし、地域社会の支援対象者への理解を促進し、円滑な調整・支援及び地域生活への定着に資することを目的とした地域の関係者を交えた事例を基にした検討会を実施するなどしている。

資3-36-1 特別調整の概要
資3-36-1 特別調整の概要

(4)更生保護施設における支援の充実【施策番号37】

 法務省は、2009年度(平成21年度)から、一部の更生保護施設を指定更生保護施設に指定し、社会福祉士等の資格等を持った職員を配置し、高齢や障害の特性に配慮しつつ社会生活に適応するための指導を行うなどの特別処遇(資3-37-1参照)を実施している。指定更生保護施設の数は、2021年(令和3年)4月現在で74施設であり、2020年度(令和2年度)に特別処遇の対象となった者は、1,812人であった。

資3-37-1 更生保護施設における特別処遇の概要
資3-37-1 更生保護施設における特別処遇の概要

(5)刑事司法関係機関の職員に対する研修の実施【施策番号38】

 法務省は、検察官に対する研修等において、犯罪をした者等の福祉的支援の必要性を的確に把握することができるよう、再犯防止の取組等について講義を実施している。

 矯正職員に対して、新規採用職員、初級幹部要員及び上級幹部要員に対する集合研修において、高齢者又は障害のある者等の特性についての理解を深めるため、社会福祉施設における実務研修(勤務体験実習)や社会福祉施設職員による講義・指導等の実施、高齢受刑者に対する改善指導とその課題等についての講義を実施している。なお、2020年度(令和2年度)は新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、通信形式による研修を実施した。また、2018年度(平成30年度)には大規模な刑事施設8庁において、2019年度(令和元年度)には女子刑事施設2庁を加えた10庁において、高齢受刑者、障害や認知症を有する受刑者への適切な処遇の充実を図るため、刑務官を対象とした認知症サポーター養成研修及び福祉機関における実務研修(勤務体験実習)を実施した。さらに、2020年度から、認知症サポーター養成研修については合計78庁に、福祉機関における実務研修については合計33庁に拡大した。また、発達上の課題を有する在院者の処遇に当たる少年院職員に対し、適切に指導するための知識、技能を付与することを目的とした研修を実施している。

 更生保護官署職員に対して、高齢者又は障害のある者等の特性や適切な支援の在り方についての理解を深めるため、新任の保護観察官に対する研修において、地域生活定着支援センター職員や社会福祉分野の大学教授による講義等を実施している。また、例年、地域福祉の現状や課題について理解を深めるため、指導的立場にある保護観察官に対する研修において、社会福祉関係施設への実地見学等を実施している。ただし、2020年度においては、新型コロナウイルス感染症の影響により実施できなかった。

  1. ※1 入口支援
    一般に、矯正施設出所者を対象とし、矯正施設から出所した後の福祉的支援という意味での「出口支援」に対して、刑事司法の入口の段階、すなわち、起訴猶予、刑の執行猶予等により矯正施設に入所することなく刑事司法手続を離れる者について、高齢又は障害等により福祉的支援を必要とする場合に、検察庁、保護観察所、地域生活定着支援センター、弁護士等が、関係機関・団体等と連携し、身柄釈放時等に福祉サービス等に橋渡しするなどの取組をいう。
  2. ※2 地域生活定着支援センター
    高齢又は障害により、福祉的な支援を必要とする犯罪をした者等に対し、矯正施設、保護観察所及び地域の福祉等の関係機関等と連携・協働しつつ、身体の拘束中から釈放後まで一貫した相談支援を実施し、社会復帰及び地域生活への定着を支援するための機関。2009年度に厚生労働省によって「地域生活定着支援事業(現在は地域生活定着促進事業)」として事業化され、原則として各都道府県に1か所設置されている。