営業秘密保護のための 刑事訴訟手続の在り方研究会 第3回会議  日 時  平成22年12月7日(火)  自 午前10時                      至 午前10時50分  場 所  法務総合研究所第一教室(法務省赤れんが棟3階) ○事務局(法務省・杉山企画官) 大変お待たせいたしました。予定の時刻になりましたので,ただ今から第3回営業秘密保護のための刑事訴訟手続の在り方研究会を開催いたします。 ○山口座長 本日は,御多忙中のところ,朝早くよりお集まりいただきまして,誠にありがとうございます。   本日も要綱(骨子)案の議論を続けまして,最終的に当研究会としての意見を取りまとめたいと考えておりますので,よろしくお願いいたします。   これまでも2回にわたりまして委員の皆様方より様々な点につきまして御意見等をいただいているところでございますが,最終的な意見を取りまとめる前に,改めて要綱(骨子)案に対する御意見やこの際是非とも発言しておきたいということにつきまして,遠慮なく御発言いただければ有り難いと考えておりますので,よろしくお願いいたします。   それでは,どのような点でも結構でございますので,御発言をお願いいたします。 ○山下委員 これは質問になりますけれども,前回,第2回の会議におきまして,要綱(骨子)案のうち,特に第2の公判期日外の証人尋問等についての要件についていろいろな御意見が出たと思います。私自身も意見を述べましたし,多種多様な意見が出たと思います。今のところ,特にこの点については事務当局の案を変えることなく,今日議論に入っているわけですけれども,前回の議論を踏まえて事務当局で議論されて,何かこの点について検討した結果等ございましたら,御教示いただきたいと思います。 ○事務局(法務省・杉山企画官) 私の方からお答えさせていただきます。   御指摘のように,前回いろいろ要件について御議論をいただいたところでございます。まず,要綱案第2の公判期日外の証人尋問等について,要綱案では「著しい支障」となっております,その「著しい」を削除してはどうかというような御意見をいただいたところでございます。これにつきましては,本来,公判廷において実施されるべき証人尋問等について,公判期日外で実施した上,その結果が記載された調書を公判廷で取り調べるという点で,刑事手続における例外的な取扱いを認めるものであるといったことから,刑事訴訟法等における他の規定振りも参考にしつつ,この「著しい支障」という要件を設けることとさせていただいたものでございます。   また,同様に,この公判期日外の証人尋問等につきまして,「これを防止するためやむを得ないと認めるとき」,この要件についても御指摘があったところでございますが,これにつきましても,公判期日外の証人尋問等は審議を期日外において行うことにより当該営業秘密を秘匿するものであるのに対し,秘匿決定を始めとする秘匿措置が公開の法廷における訴訟活動に関するものであることからすると,秘匿措置によって対処可能な場合にまで公判期日外の証人尋問等を実施する必要はなく,また相当ではないと考えられるところでございます。そのような意味で,営業秘密を適切に保護するために,秘匿措置を講じることによっては足りず,証人尋問等を公判期日外において実施する必要があるときに限ってそれを認めることとするのが適当であることから,この趣旨を適切に表現するために,「これを防止するためやむを得ないと認めるとき」との文言を用いるのが適当であると考えているところでございます。仮に,「これを防止する必要があると認めるとき」というような言い方にした場合には,単に事業活動への支障を回避するための要件となってしまいまして,先ほど申し上げたような趣旨を必ずしも明らかにすることができないのではないかというように考えているところでございます。   付け加えまして,第3の証拠開示の際の秘匿要請の「著しい支障」についても御意見をいただいたところでございますが,改めて検討しましても,やはりこの点についても開示された証拠に基づく情報の使用に対する制約となり得る配慮義務を課すという点で,刑事手続の例外的な取扱いを認めるものであるということから,「著しい支障」というのは必要な要件ではないかというふうに考えているところでございます。 ○山口座長 今,事務局より御検討をいただいた内容につきまして御説明をいただきましたが,今の点でもほかの点でも結構でございますので,更に御意見がございましたらお聞かせいただきたいと思います。 ○山下委員 今,御説明いただいたんですが,結局,第1と第2の関係について,やはり第2はどちらかというと限定的というか,もともと本来制限的であるべき公判期日外の手続ということで,ある程度要件を厳しくせざるを得ないということは理論的には大変よく分かるんですが,前回でも出ておりましたが,実際に使うニーズというか場面というか,その関係からいくと,この現在の書き振りは非常に限定的であり,恐らく,この議論に参加している人はいいんですが,これが法律ができて独り歩きしたときには,裁判官はこれを非常に限定的に解釈して,第2をなかなか認めないと。そうなりますと,第1の方法をとるしかないわけですけれども,第1の方法をとるときに,実際には営業秘密そのものを争う場合には大変やりづらいという,つまり攻撃防御,特に被告人,弁護人の防御権の観点からいくと,大変それに対して非常にやりづらいということは,支障が出るという可能性があるわけでありまして,第2の現在のこの要件は非常に限定的であることが,結局,第1の方に手続としては押し込められて,その中で大変使いづらい状況になる,そして,逆に言うと,この手続を使うということ自体に対する消極的な意見が出るとか,そういうこともあり得るところであって,今現在の第2のこの要件の決め方については,やはり本当はもう少しいろいろ議論があるのではないかと思うところでございます。意見として述べておきます。 ○山口座長 ほかの点でも結構でございますが,何か御意見ございましたら御発言をいただきたいと思います。 ○林委員 今,山下委員からもお話がありましたが,私も第2回の研究会において要綱の文言について幾つか御提案しましたので,その趣旨について3点補足説明させていただきたいと思います。   資料2に今回の改正の必要性について御説明がございますけれども,やはり第1に,本件における立法事実の存在,必要性は非常に明白であるということを確認したいと思います。秘密という保護法益を維持したまま法的救済を得られなければ,営業秘密を刑事的に保護する法の趣旨は全く実現できないということを確認したいと思います。しかるに,平成15年の刑事罰の導入以来,今日まで法律の矛盾,法の不備の状態が継続していますので,今回,必要な措置を講ずる必要性は明白であると思います。   第2点としましては,そうしますと,資料1にあります要綱案ですが,ここに盛られております今回の法改正は,あくまでも公開停止ではなく,裁判公開の原則の範囲内で立法事実に対処する必要な措置を講じるものであるという点が重要だと思います。このことに照らしますと,要綱(骨子)案の要件は同様の措置の要件と比較して厳格すぎるのではないか,そして運用において法改正の実効性を欠くおそれがないか,という懸念があります。   第3は,将来の議論への影響の懸念であります。このような措置について過重な要件を設けますと,将来,憲法解釈又は新しい規定を設けるといった場面において,公開停止について検討する際にほとんど使えないような厳格な要件を要求することになるのではないかという懸念があります。   以上のような観点から,要綱案第2の期日外尋問,それから第3の証拠開示における秘匿要請について,要件の緩和を検討してはいかがかということを前回御提案いたしました。一応要約させていただきますと,公判期日外の証人尋問の要件については,「著しい支障」とか「やむを得ない」という要件は価値評価的な要件でございますので,むしろ端的に,秘匿決定や呼称などの定めによっては秘密を維持できないおそれがあるという手続的な観点から,「これを防止する必要があると認めるとき」という文言を御提案しました。   要綱案第3の証拠開示における秘匿要請の要件については,そもそも営業秘密の公開がその保護法益の喪失という重大な損失に直結するということは自明の理でございますので,「事業活動に著しい支障を生ずるおそれ」という文言の代わりに,端的に,「証拠開示に当たり,営業秘密の内容が明らかになるおそれがあると認めるときは」と規定することを御提案いたしました。   ただ,先ほど事務局からの御説明をいただきました趣旨は,それはそれでよく理解しております。また,私自身は知的財産分野の観点から意見を申し上げておりますが,実際の法律の文言については刑事法制度の全体のバランスを考慮して調整していただく必要があるということは理解しております。 ○山口座長 ありがとうございました。   何かほかにございますでしょうか。 ○中戸川委員 中戸川でございます。   前回の研究会でも申し上げたことですけれども,私ども産業界としては,今回の検討させていただいている成案の具体的な運用,実行に当たって,企業の立場から申し上げますと,当然,営業秘密の保護を刑事訴訟手続において適正に図っていただきたいという基本的なところがございます。そのためには,当の営業秘密の保有主体である企業として積極的に協力をさせていただくことが必要であるということを基本認識として持っております。   そういう意味で,実際の訴訟運用において適正な営業秘密の保護が図られることは,当の企業にとっても直接的な利害に関わる問題であり,協力の必要性というのは深い認識がございますので,是非訴訟の実際の運用に当たられる関係者の皆様へのお願いという意味で,営業秘密の適正な保護を実際の運用において図っていただくための企業等との対話を継続的に持ち続ける姿勢を是非お願いしたいということを改めて申し上げておければと思います。 ○山口座長 ありがとうございました。   ほかにいかがでございましょうか。 ○河本委員 やや技術的になってしまいますが,一言。   刑事訴訟手続において営業秘密の内容を保護しなければならない必要性については,十分理解されているところだと思います。公開の法廷と秘密保持の必要性,この二つの要請をいかに調和させるかという観点から,この要綱(骨子)案を基にこれまで議論が繰り返されてきました。   刑事訴訟手続における被告人の権利保障を十全にした上でできる限り営業秘密の内容を公開の法廷で明らかにしないような訴訟運営,こうしたものを我々は目指していかなければならない。被害者側に立つ企業の意見も聴き,法で規定された被告人の権利についても十分に保障した上で真実の発見に向かって裁判を進めていかなければならないと思っております。   裁判所としてお願いしたいのは,訴訟前には証拠を見ていないという裁判所の限界から来る要請です。検察官は企業の側から意見・事情・証拠の説明を十分に聞いてほしい。その上で,被害者が裁判所に対して秘匿措置の申出を検察官を通して行う際に,検察官の意見を必要的とする,そのような規定を設けていただきたい。   もう一つ,呼称等の定めに関しましても,検察官において,営業秘密特定事項とされる事項,同事項について公開の法廷で用いるべき呼称その他の表現,同表現を用いなければいけない必要性,これらについて具体的に御説明いただく必要があると考えています。この説明が円滑になされるような,そういう規定を設けていただきたいと思っております。法源については,事の性質上いろいろ御検討すべきことがありましょう。それは刑事法制全体の体系の中で御判断いただければと思っております。規定上明確なかたちで訴訟当事者全体に共有されれば,先ほど産業界の方からあった御意見にもあるような円滑な訴訟運営がより一層確実になると思っております。 ○山口座長 今の点で。 ○事務局(法務省・杉山企画官) 今御質問,2点あったかと思います。第1点が,被害者が裁判所に対して秘匿措置の申出を検察官を通して行う際に,検察官の意見を必要的とするという規定を設けるべきではないかという御指摘でございました。まず,お示しした要綱(骨子)案は条文そのものではないことから,簡略に記載してある点は御容赦いただければと考えているところでございますが,まず,この検察官の意見を必要的とするという規定につきましては,事務当局としても,被害者特定事項の秘匿決定の場合にも同様の規定がございまして,「検察官は意見を付してこれを裁判所に通知するものとする」という規定を設ける方向で検討させていただきたいと考えているところでございます。   第2点目,呼称等の定めにつきまして,検察官がその必要性あるいは呼称等の内容について意見を述べるべきであるというような御趣旨だったかと思いますが,その点は事務当局としても,営業秘密の性質等にかんがみ,検察官等において裁判所に対して適切な情報を提供することが必要であるというのは御指摘のとおりであろうと考えております。そのための手続といたしまして,「裁判所が呼称等の定めをする必要があると認めるときは,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聞き」という,当事者からの意見聴取の要件を設けることを考えているところでございます。したがいまして,裁判所といたしましても,法律上,当事者から示される意見を踏まえて判断するということになろうかと思います。また,御意見の趣旨には,その具体的な内容をというようなお話がありましたが,更に必要な規定があるかどうかということ,あるいはそれは法源も含めて引き続き検討させていただければと思っているところでございます。 ○山口座長 ほかにいかがでございましょうか。 ○甲斐委員 今の点とそれから先ほどの点も含めて感想を申し上げたいんですが,規定の要否はともかくとして,このことの仕掛けの問題でありまして,秘匿措置なりをとってもらいたいと思うのは,秘密を保有している主体であります基本的には被害者の企業ということになろうかと思います。検察官は,被害者側の意向を酌んで秘匿措置をとってもらいたいと,こういうことで裁判所に伝えるわけであります。そのときに裁判所としては,自分の方で十分な情報がないので,きちんと協力してもらいたいというお気持ちになるのは当然のことでありますけれども,検察官,それからある意味ではその背後にいる被害企業においては,それをしてもらわないと困るという立場にあるわけでありますので,そういう意味では,十分な情報を提供しないと秘匿措置なり呼称の定めがきちんとなされないと,こういう仕掛けになるわけであります。   したがって,そこはある意味プラクティスというか行動原理としては,やってもらいたい人が十分情報を提供をして,こういうふうにお願いしますということになるのは当然ではないか。何らか法律なり規定でこうしなさいという規定を設ける必要があるのは,放っておくとそうならないから,あるいはそうしないとその人の権利が保障されないからという,そういう側面があるわけでありますけれども,少なくとも本件についてはそうしてもらいたい人が情報提供を十分しないと,裁判所に協力しないとやってもらえないと,こういう仕組みになるわけなので,そこは検察官にしろ,それから被害企業にしろ,十分情報提供をすることになるのではないかとは考えております。   それから,同じようなプラクティスの問題になるのかもしれませんが,先ほど山下先生あるいは林先生の御指摘の問題も若干同じようなところがあるのではないかと思いました。規定振りをどうするかという問題は今後更に検討しなければいけないところであって,林先生なり山下先生の御指摘もかなりの真実を突いているところはあるんだろうと思います。   ただ,「必要と認めるとき」という規定ですべて解決するのかという問題は,必ずしもそうではないのが現実であろうかと思います。それは,前回の御議論で河本委員からも御指摘がありましたけれども,刑事訴訟法の281条で期日外証人尋問の規定がございます。これは裁判所外ではなくて裁判所構内で期日外をやると,こういう手続で,この要件としては「必要と認めるときに限り」と,こういうフラットな要件になっているわけです。では,必要と認めたらどんどんやっているのかと言われれば,現実にはそうなっていないわけで,かなり厳しい運用になっていると思われるわけです。   他方で,ビデオリンクの証人尋問でありますとか,付添いあるいは遮蔽という規定が157条辺りに規定されているわけです。ここでは「精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合」というような規定振りになっているわけで,ちょっと読むと,林先生がおっしゃったようにかなり限定的に書いてある,むしろ期日外尋問よりはよほど限定的な表現振りになっているように読めるわけでございますが,では現実の運用はどうかというと,これは御承知のようにかなり裁判所において柔軟に運用をされているように私としては思っております。当初想定していたのは性犯罪を専ら考えていたわけですが,それ以外の犯罪にも相当柔軟に適用されていると思いますので,条文の規定どおり運用はなっていないんだということを言いたいわけではなくて,それは物事の実質にかんがみて適切な運用が実際にはされているということを申し上げたいということでございます。   ですから,今回導入しようとするものは,営業秘密を保護するためにどういう手続をとる必要があるかと,こういう問題でございますので,そこは被害企業あるいは検察官において十分協議をした上で,裁判所に適切に情報提供をする。それが納得のいく状況であれば,当然そういった措置は適切にとっていただけるであろうとは考えているということでございます。 ○山口座長 ほかにいかがでございましょうか。 ○宮城委員 先ほど,河本委員のお話と甲斐委員からのお話の前半部分のことについてですが,企業側の方,侵害された側の方が裁判で訴える場合に,当然裁判所や検察に対して秘匿すべき事項についてきちんと説明をし,あるいは呼称についても,必要な協力を行うであろうと私どもとしては思うし,そうするというつもりでおりますというのがまず第1点。これは第2回目の会合でも申し上げた点でございます。   このプラクティスの問題については,例えば裁判所の方あるいは検察の方と,法のレベルではなくて具体的なレベルでのいろいろな協力について更に検討が必要だというのであれば,私どもとしては具体的な協力についていろいろな協力をするつもりは幾らでもありますので,これについては第2回で申し上げたとおり,この秘匿すべき事項の秘匿する範囲の確定の問題ですとか,その技術的な事項についてですとか,そういうことについては私どもとしては組織としてきちんと協力をする。そして更なる具体的な検討が必要であれば,それについても協力する用意は幾らでもございますのでということは,申し述べておきたいと思っております。 ○山口座長 ほかにいかがでしょうか。 ○高松委員 せっかくのいい発言の機会を与えられましたので,産業界の気持ちを少しお伝えしておきたいと思っています。   こういう案が出てきたことというのは非常に歓迎しています。今まで手の打ちようがなかったというのが我々の実情で,結構困っていらっしゃる会社は多いんだと思います。また,それを皆さんに御披露できないというのもなかなか今の悩みの状況なんだと思っています。   恐らく各企業,我々のように非常に古い会社ですが,昔はなかったような事件がいっぱいやはり起こっているというのが実情で,社内の管理ルールというのも相当厳しくなってきました。社内でも必ずしもそのままの言葉で使えないような,この法廷で今考えているようなことを実施しているような事項までございます。したがって,これは前回も申しましたが,著しいだとか非常に影響が大きいというのは我々は当たり前だと思って出しているわけで,まずそこは御理解をいただきたいんだろうと。   また,恐らく御理解をいただくのが非常に難しい事項であるというのも我々は十分承知しています。お二人から今出た,こちらは十分協力させていただくつもりでいるというのがその意思の現れで,営業秘密を特定しても,それを特定して分かってもらうためには,相当多くの営業秘密を明かさなければいけない可能性があると思っています。被告側の反論というのは我々も想定がつきますから,それを証明できるだけのことを開示しないと分かっていただけないと思っていますので,それでもきちんと条件を整えていただければ,やりたいという意思がこの文章の中に現れているんだろうと我々は考えていますので,考えの一端だけ御披露してですね。   それから,もう一つ言えば,鉄鋼業なんていうのはお金がないと参入できない産業だったんです。非常に掛かりますからね。だから,大体国の企業から始まっているんですけれども,最近はファンドマネーが非常に多いものですから,だれでも参加できるようになってきてしまった。技術だけが最後のとりでになっているというのが,先ほど社内のルールを非常に厳しくしたとか,一歩でも前にこういうルールを進めたいという思いですので,その辺はちょっと御披露させてもらって,御意見とさせていただきたいと思います。 ○山口座長 ありがとうございました。   ほかにいかがでございましょうか。 ○中戸川委員 今,産業界,他の経済団体の代表の方から意見がございましたけれども,私自身も経団連の立場で出席させていただいており,今回,この要綱案について産業界として基本的にどう受け止めているかということについて,他の経済団体,産業界の委員の方々とも意見交換をさせていただいた結果を御説明させていただきます。刑事訴訟手続の中において営業秘密の適正な保護を図る仕組みを早急に導入いただきたい,そういう検討をお願いしたいというのは,従前から産業界として強い要望として申し上げてきたところでございます。そういう意味において,今回,関係者の御尽力によってこういう要綱案という形で成案をまとめていただいたことについては大変画期的なことであり,具体的な保護の仕組みの実現ということに向けて状況を大きく前進させるものと受け止め,評価しております。そういう意味で,この要綱案に基本的に賛成するものであり,是非,この要綱案に沿った形で営業秘密保護の仕組みの早期実現という,法制化に向けた対応を進めていただきたいというのが,産業界としての基本的な認識であり要望でございます。 ○山口座長 ほかにいかがでございましょうか。 ○宮城委員 では,今の中戸川委員の発言に続いてでございますけれども,全く同じ意見でございます。とりわけ,私は商工会議所の立場,中小企業の立場から意見・発言をずっとさせていただいております。営業秘密は,大企業,大きな産業分野の問題だけではなくて,中小企業にとっては死活問題でございます。なぜなら中小企業はたくさんの営業秘密を持っているわけではなくて,幾つかの営業秘密で自分の会社を維持しているという企業も多いのが実態でございます。要綱(骨子)案についても,先ほど中戸川委員からお話がありましたけれども,この要綱(骨子)案で私どもは違和感なくバランスのとれた表現であると思っておりますし,先ほど申し上げたとおり必要な協力はするということでございます。中小企業は,なかなか自分で自分の身を守ることの術を持たない企業群ではありますけれども,これができると非常に私どもとして大きな武器という言い方はちょっと語弊があるかもしれませんけれども,心強い措置がとられると高く評価をしておりますので,是非ともこの要綱(骨子)案で御実現いただいたらと思っております。 ○山口座長 要綱(骨子)案についてほかに何か意見ございますでしょうか。 ○土肥委員 本日の各関係の方々の御意見を伺っておりますと,今回の要綱案で是非と,こういうことでございますし,それから先ほど御回答があった,要するに刑事手続における規定というよりも,物事の実質にかんがみて適切に運用されることが重要であると。そのとおりだろうと思います。そういうふうにいたしました場合でも,私は依然としてなお文言については若干の疑念を持っておりますけれども,それを起きました場合に重要になるのは,やはり被害者と検察官の間,ここは恐らくきちんと適切な情報の提供がなされて,検察官に対して説得的な形での場ができるんだろうと思うんですけれども,問題は,検察官から裁判官と,そこが重要なんだろうと思います。したがいまして,検察官意見というものを裁判所のほうで十分受けていただくということが今回のこの仕組みの中で非常に肝要になってくるところであろうと思いますので,この検察官意見というものについての規定の仕方も含めて,適切な運用が行われるような,そういう配慮をしていただきたいと,こうお願いをしたいと思います。 ○山口座長 ほかには何かございませんでしょうか。 ○山下委員 では,全体についての意見,どちらかというと反対的な意見でございますが。前回もお話ししたんですが,一応,第1から第3につきまして,反対する立場で意見を述べさせていただきたいと思います。   要綱の第1ですけれども,これについては前回もお話ししましたが,刑事訴訟法290条の2を流用する形で今回は営業秘密にそれを適用しようとしているわけでございますが,やはり前提となる保護法益といいますか,もともと被害者の名誉,プライバシーについてそれを守るために被害者特定事項を秘匿するという制度を,営業秘密という財産権に利用するというのは,私は前提が違っていると思います。また,前回も出ましたが,このやり方でやった場合にどうしても被告人本人が,決められた呼称ではない,本当に営業秘密に関わる部分を話してしまうおそれがあると,それを防ぐことができない制度になっているということであるという点で,やはり不十分な点があると思います。営業秘密というのは,いったんそれがオープンになってしまいますと,それ自体で大変な被害が出るわけでございますので,制度設計として不十分なものがあると考えております。   第2の公判期日外の証人尋問等につきましては,これも前回何度もお話ししましたが,やはり憲法が保障する被告人の公開裁判を受ける権利との関係で,基本的にはこの第2の規定というのは営業秘密自体を争う場合に適用されると考えられるところ,それが基本的にはすべて証人,鑑定人,そして被告人,すべての手続が非公開の手続で行われ,後でそれを調書で調べるという形はとっておりますけれども,法廷は基本的に非公開で行われるということでございまして,基本的にはそういう意味では営業秘密に係る裁判で,営業秘密自体が争われる裁判はほとんど非公開の手続で行われるということになり,これはやはり憲法37条1項が規定する公開裁判を受ける被告人の権利を侵害するものであると考えます。   また,第1と第2の関係については,先ほどから要件の議論がございましたけれども,本来第1というのは営業秘密自体は争わない場合,第2というのは営業秘密自体を争う場合に適用されるべきと考えられるところ,現在のこの規定振りはそういうふうになっていないように思いますので,そういう意味で,第1と第2の関係において,やはり非常に実務において使いづらい規定となっているという問題もございます。   それから,第3の点でございますが,これも前回指摘したんですが,ただし書につきまして,営業秘密の内容のうち起訴状に記載された事項以外のものに限るという点は,やはり今現在のこの書き振りからすると,ほとんどこれでは適用できない,要するに営業秘密を抽象的に起訴状に書いてしまいますと,このただし書に当たる場合が出てこないということになりますので,ただし書の書き振りについては,このままでは不十分であると考えられます。   以上から,私としてはこの第1から第3のすべてにつきまして反対の意見を述べておきたいと思います。 ○山口座長 ありがとうございました。   ただいま賛成の御意見,反対の御意見,いろいろお述べいただきまして,ほぼ御議論は出尽くしたのではないかというように考えておりますが,そのように理解してよろしゅうございましょうか。   そのように理解してよろしいということであれば,当研究会としての意見の取りまとめをしたいと考えておりますので,よろしゅうございましょうか。   その意見の取りまとめの方法でございますが,まず,修正案があれば,これについての御意見を集約した上で,その後,要綱(骨子)案本体の御意見を集約したいと。このように進めたいと考えておりますが,これでよろしゅうございましょうか。   それでは,そのように進めさせていただきたいと思います。   まず,要綱(骨子)案についてでございますが,これまでの研究会の御議論におきましてもこのような修正を施したらどうかというような御意見があったところでございます。とは申しましても,本日までの御議論をお伺いしておりますと,特段,修正案として御提案になり,そのように取り扱うことを求めておられるのではないように考えられたところでございますが,そのように理解してよろしゅうございましょうか。 ○林委員 林も文言について意見を述べましたが,先ほど申し上げましたように,実際の法律の文言については刑事法制度全体のバランスを考慮して調整していただくという必要を理解しておりますので,特段,要綱案に対する修正案として扱っていただかなくても結構でございます。ただ,実際の運用においては,是非,実効性のある営業秘密の保護ができますよう,冒頭で申し上げた趣旨をお酌み取りいただきたいと存じております。 ○山口座長 ほかに何かこの段階で修正の御提案があれば,お聞かせいただきたいと思いますが,よろしゅうございましょうか。   それでは,要綱(骨子)案についての御意見を集約したいと思います。   先ほど山下委員は反対であるという旨の御意見を述べられましたので,必ずしも要綱(骨子)案につきましては委員全員が御賛成であるわけではないということが明らかになったわけでございます。まず,要綱(骨子)案に対して反対であるという方がおられましたら御意見をお伺いしたいと思いますが,山下委員におかれましては既にお述べいただいておりますので,ほかにそのような御意見があれば是非お述べいただきたいと思いますが,いかがでございましょうか。   ございませんでしょうか。   そうしますと,残りの委員の皆様は要綱(骨子)案に賛成という理解でよろしゅうございましょうか。   これまでもいろいろ御意見を伺ってきているところでございますが,特に何かこの段階で御発言されたいという方があればお願いしたいと思いますが,いかがでしょうか。特にございませんか。よろしゅうございますか。   ということですと,委員の皆様から今までいろいろ御意見をお伺いいたしましたところ,1名の委員を除きまして要綱(骨子)案に皆様賛成であるということでございますので,当研究会としては要綱(骨子)案のとおり結論を取りまとめることにしたいというように思いますが,それでよろしゅうございましょうか。   それでは,当研究会としては,今後の法整備の方向性を示すものとして要綱(骨子)案どおり結論を取りまとめたこととさせていただきます。   この要綱(骨子)案の取扱いを含めた今後の予定等につきましては,事務局から御説明をお願いいたします。 ○事務局(経産省・中原室長) 本日お取りまとめをいただきました要綱(骨子)案に従いまして,私どもの方で法務省とも協力しながら立案作業を行いまして,来年,通常国会に法案の提出を目指すべく最大限の努力をしてまいりたいと考えております。どうもありがとうございました。 ○山口座長 既に当研究会としては先ほどのような形で結論を取りまとめたところでございますが,この際特に御発言がございましたら,お願いしたいと思います。いかがでございましょうか。 ○山下委員 今日,河本委員からも出ましたが,この営業秘密の方の刑事手続上の保護という問題と,それから刑事手続で当然求められる公開の原則,それから被告人の権利,防御権。この問題については大変難しい問題があって,今回はその調整をどうするかということで,苦肉の策というか,非常に御検討された要綱案を出されたと思います。ただ,今後もこの種の問題というんですか,この営業秘密にかかわる問題については実際の運用状況とかそういうことも踏まえて,この要綱案が法律となった場合であっても,その後更に実際より望ましい制度というんですか,それについて是非ともまた御検討を続けていただきたいと思うところでございます。 ○山口座長 ほかに何か御発言ございませんでしょうか。   では,最後に事務局より発言を求められておりますので,お願いいたします。 ○井内委員 経済産業省の井内でございます。   本日の取りまとめに当たりまして一言ごあいさつを申し上げたいと思います。   本研究会におきましては,営業秘密を保護するための刑事訴訟手続の整備という重要な課題につきまして,委員の皆様方に活発な御議論あるいは多大な御協力をいただきまして,本研究会の結論をお取りまとめいただきました。議事の進行や意見の取りまとめに御尽力をいただきました山口先生を始め,委員の皆様には改めて厚く御礼を申し上げます。   本研究会の取りまとめを受けまして,経済産業省といたしましては,今後,法務省と密に協力をしながら,次期通常国会における不正競争防止法の改正,営業秘密管理指針の改定や周知・普及など,営業秘密が適切に保護されるための更なる環境整備に向けまして全力で取り組んでまいりたいと思っております。   最後に,本日お集まりいただいております関係の皆様との連携・協力を通じまして,我が国の経済活動を支える営業秘密が適切に保護される環境づくりが円滑に進んでいくことを願いまして,ごあいさつとさせていただきたいと思います。ありがとうございました。 ○甲斐委員 法務省の方からもごあいさつを申し上げたいと思います。   委員の皆様方には,御多用のところ,毎回長時間にわたり大変御熱心な議論をいただき,厚く御礼申し上げます。また,山口座長には議事の進行,意見の取りまとめに御尽力を賜り,誠にありがとうございました。   本研究会の冒頭で刑事局長の西川の方から申し上げましたけれども,営業秘密侵害罪に係ります営業秘密の刑事訴訟手続における保護につきましては,その必要性が主に産業界を中心として強く指摘されている一方で,裁判の公開の要請に十分留意し,円滑な訴訟手続に支障を来たさないか,あるいは被告人の防御権の行使に対する制約が生じないかといった点についても十分配慮しなければならないものでございます。こういった難しい課題につきまして,深い学識,経験に基づいて活発な御議論をいただいたということに重ねて御礼申し上げます。   法務省といたしましても,本日お取りまとめいただいた結論を踏まえて,経済産業省とも協力しながら準備を進めたいと考えております。委員の皆様方には今後とも引き続き御支援,御協力のほどよろしくお願い申し上げます。どうもありがとうございました。 ○山口座長 皆様のおかげをもちまして,当研究会の議事も滞りなく済みまして,結論を取りまとめることができました。この際,委員の皆様の御協力に改めて感謝申し上げたいと思います。   では,これをもちまして当研究会は終了とさせていただきます。   どうも誠にありがとうございました。 ─了─