法制審議会刑事法 (自動車運転過失致死傷事犯関係)部会 第3回会議 議事録 第1 日 時  平成19年2月21日(水)  自 午後1時29分                        至 午後4時59分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  自動車運転による過失致死傷事犯等に対処するための刑法の一部改正について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ● 大変お待たせいたしました。予定の時刻になりましたので,ただいまから法制審議会刑事法(自動車運転過失致死傷事犯関係)部会の第3回会議を開催いたします。 ● それでは,早速審議に入りたいと思います。   前々回,要綱(骨子)の全体にわたり,一通り御質問や御意見等をいただき,1巡目の議論をいたしました。そして,前回は関係各団体の方々から今回の要綱(骨子)について,御意見をお伺いいたしました。本日は,前回伺いました御意見も踏まえ,前々回に引き続き要綱(骨子)につき,2巡目の議論をいたしたいと存じます。   2巡目の議論の方法といたしましては,より充実した審議を行うという観点から,前々回の審議や前回の関係各団体の方々の御意見などを踏まえまして,要綱(骨子)に関し,御議論いただく必要があると考えられる論点を,まず私の方でお示しして,その論点ごとに審議を進めていくのが適当であろうと,このように考えております。   その論点としましては,「第1回会議・第2回会議を踏まえた諮問事項に関連する論点項目」という表題の資料を卓上に配布しておりますので,これを御覧いただきたいと存じます。そして,このお示ししました論点を御議論いただいた上で,更に御議論いただくべき論点がございましたら,委員,幹事の皆様に御指摘いただいて,それについても議論を進めていくという進行が適当かと考えております。   このような進行でよろしゅうございましょうか。 特に御異論もございませんようですので,よろしく御協力のほどお願い申し上げます。   まず,事務当局の方から追加の資料が配布されております。これにつきまして御説明をお願いいたします。 ● 前々回の第1回会議において資料等のお求めがあり,事務当局において検討することとしておりました事項が何点かございました。 そこで,本日,配布資料を追加いたしましたので,これらの配布資料につきまして,御説明させていただきたいと思います。 なお,第1回会議で配布資料として6点をお配りしましたので,本日,席上に配布いたしましたものにつきましては,配布資料の資料番号7から9としてあります。   第1回会議で,7年以下の懲役・禁錮を法定刑とする罪が分かるような資料があれば,出してもらいたいとのお求めがございました。 そこで,配布資料の資料番号7は,7年以下の懲役・禁錮を法定刑とする刑法の罪について,まとめたものでございます。   次に,やはり第1回会議におきまして,過失により人を死傷させた罪につき,その法定刑等が分かるような資料があれば,出してもらいたいとのお求めがございました。 そこで,配布資料の資料番号8は,過失により人を死傷させた場合について定める罪につき,まとめたものでございます。   続いて,第1回会議でお配りした配布資料の資料番号4の6ページのとおり,二輪車が第1当事者となっている交通事故発生件数及び死亡事故発生件数の資料を配布させていただいたところでございますが,自動車についても,同様に信号無視,最高速度,酒酔いの各法令違反を伴う事故の内数を示したデータを出してもらいたいとのお求めがございました。 配布資料の資料番号9は,乗用車・貨物車が第1当事者となっている交通事故発生件数・死亡事故発生件数について,信号無視,最高速度,酒酔いの各法令違反を伴う事故の内数とともに一覧表にまとめたものでございます。   また,第1回会議でお配りしました配布資料の資料番号5の「自動車運転による悪質・重大過失致死傷事犯事例集等」の1つ目と2つ目の事例集につき,自動車の運転を職業としている者が被告人となっているものを明らかにしてほしいとのお求めがございました。   判決書により,犯行時,トラックやバスの運転手など,自動車の運転を職業としていたことが認められるものは,番号を申し上げますと,1つ目の事例集のうち,4,5,6,7,9及び10,2つ目の事例集のうち,5及び9であり,それ以外のものにつきましては,必ずしも明らかではありませんでした。   また,配布資料とは別に,要綱(骨子)「第二」に関連し,参考資料として新聞記事の写しを配布させていただきました。   以上,簡単ではございますが,追加配布資料の説明をさせていただきました。 ● ただいまの御説明につきまして,御意見の類は後ほどの審議の際にしていただくこととして,まず御質問はありますでしょうか。   次に,前々回,道路交通法の改正の検討状況について教えてほしいとのお話がございましたが,この段階で,この点につきまして,委員又は幹事の方から御説明をお願いすることはできますでしょうか。いかがでしょうか。 ● それでは,道路交通法の改正案の御説明をさせていただきます。今回の改正の内容でございますが,大きく悪質・危険運転者対策,高齢運転者対策等,自転車利用者対策,被害軽減対策に分かれております。今回の部会と関係いたしますのは,悪質・危険運転者対策でございますので,この件に絞って説明をさせていただきたいと思います。   まず,悪質・危険運転者対策に係る部分の改正の背景でございます。 これは御承知のとおり,昨年8月に福岡で痛ましい事故が発生しましたことを契機に,飲酒運転に対する世論の目が大変厳しくなっていること,また,飲酒運転事故件数についても,依然として厳しい状態が続いていること,ひき逃げ事件が増加していることなどを踏まえまして,飲酒運転等に係る罰則の引上げ,運転免許の欠格期間の延長等を行うことといたしたものでございます。   では,内容に関しまして,特に罰則に関する点に絞って簡単に御説明をさせていただきます。   まず,第1が,飲酒運転に対する制裁の強化でございます。 今回,酒酔い運転の罰則につきましては,現行の3年以下の懲役・50万円以下の罰金から,5年以下の懲役・100万円以下の罰金に,それから酒気帯び運転の罰則につきましても,現行の1年以下の懲役・30万円以下の罰金から,3年以下の懲役・50万円以下の罰金に,それぞれ引き上げることとしております。 これらの罰則に関しましては平成13年にも引き上げられまして,それにより,飲酒運転による事故は大きく減少いたしたところでございますが,昨年の上半期の状況を見ますと,飲酒の死亡事故が364件と前年の同じ時期に比べまして13件,3.7パーセント増加するなどの状況が見られましたことから,罰則の感銘力を担保し,悪質かつ危険な飲酒運転の根絶を図るため,再度引き上げることといたしたものでございます。   第2が,救護義務違反,いわゆるひき逃げに対する罰則の引上げでございます。 救護義務違反事件,いわゆるひき逃げ事件の発生件数でございますが,平成13年に1万6,503件でございましたが,平成17年には1万9,660件となるなど,増加傾向が続いておりまして,死亡事故に占めるひき逃げ死亡事故の割合も,平成13年に3.62パーセントでございましたが,平成17年には3.79パーセントと増加しているほか,悲惨な結果を生じさせている事案も後を絶たず,早急にひき逃げ事件の発生防止対策を講ずるということが必要となっております。そこで,今回,ひき逃げという行為に対する国民の厳しい評価を反映させるため,ひき逃げ事件を起こした者の中でも,当該交通事故の発生に帰責性のあるものにつきまして,罰則については思い切った重罰化を図り,10年以下の懲役・100万円以下の罰金といたすこととしたところでございます。   以上が道路交通法の改正案の罰則の引上げに係る部分の説明でございます。今回の諮問に関する審議の御参考にしていただければ幸いでございます。 ● ただ今の御説明に対して御質問がございましたらお願いいたします。 ● 今の御説明の中に昨年の上半期のデータということだったんですが,後から警察庁の方で昨年1年間の飲酒運転による死亡事故というのは,その前年度に比べて13.6パーセント,96件少ない611件だったという報道があったんですが,それはそのとおりなんですか。 ● 昨年8月に福岡における痛ましい交通死亡事故が発生をした後,飲酒運転に対する取締りを全国的に強化をいたしました。また,社会的にも大変飲酒運転の防止に向けた取組が強化をされたということもございまして,9月以降につきましては飲酒に絡む事故は減少を見ておりまして,最終的に昨年1年間の飲酒による死亡事故は611件でございました。 ● ただ今の御説明の中で,ひき逃げ事犯のうち帰責性のあるものについて,法定刑を引き上げるというお話だったと思いますが,これはひき逃げ全般ではなく,構成要件的に何らかの形で絞り込まれたものについてのみ法定刑を引き上げるという御趣旨ですか。 ● そういう趣旨でございます。 ● 具体的に,どのような形で絞り込むのか,教えていただけないでしょうか。 ● 今,まだ検討中でございますけれども,運転に起因する交通事故の発生という帰責性の観点から,絞り込みをかけたいと考えております。 ● 従前,業務上過失致死傷罪とひき逃げとの法定刑は,業務上過失致死傷罪の方が重いか,あるいは前回の道路交通法改正によって同等になっていたと思うのですけれども,それが今度の道路交通法の改正により,自動車運転過失致死傷罪よりもむしろひき逃げの方が重い部分が出てくるということになるのだろうと思うのです。   そのことについて特に反対しているというわけではないのですけれども,そのかなり重い部分については,どういう事案を念頭に置いて,このくらいの法定刑が相当であるということを考えていらっしゃるのでしょうか。例えば,今,帰責性というお話がございましたけれども,例えばひき逃げ行為そのものが致死傷の結果に重大な影響を及ぼした場合とか,そういう具体的に念頭に置いていらっしゃる事案があるのでしょうか。あるいは,そういう法定刑に決められた理由がどのようなものなのでしょうか。このあたりについて,教えていただけないでしょうか。 ● ひき逃げの事案につきましては,いろいろな形態のものがあろうかと思いますが,ひき逃げ事件というのは,やはり当該原因となる交通事故を発生させた運転者について見ますと,自らの運転行為によりまして,人の死傷という状態を発生させたことを認識しているにもかかわらず,被害者の救護等の措置を講じないという,いわゆる故意行為でございまして,被害者の生命・身体の保護,そして道路交通法上は道路交通の安全の確保及び道路交通秩序の維持という観点もございますし,そういう観点から見まして悪質性の高い犯罪であると考えております。こういう悪質性の高い犯罪が近年増加傾向にもございますし,文字どおり被害者の生命の安全にもかかわるという状況がございますことから,これらの観点等を踏まえまして,ひき逃げ発生防止の必要性,救護義務違反の持つそういう悪質性の大きさ,さらには他の犯罪の法定刑とのバランスも考慮しつつ,関係機関と協議をした上,今回,法定刑を引き上げるということで考えているものでございます。 ● 今の御質問に補足いたしますと,あらかじめこういう類型のものについて,特にこうなるということを想定しているわけではありませんが,ただ,議論の趣旨としまして,1つは,今申し上げましたが,自分で事故を起こして原因を作り出したような,運転者に帰責性のあるケースについて重罰化を図るということでございます。   それから,もう一つは,今回,量刑のバランスを考えるに当たって,いろいろな方面からの御示唆をいただきましたけれども,刑法の保護責任者遺棄の場合ですが,これは5年ですけれども,致傷になりますと傷害の罪と比較して重い刑により処断するということになるわけです。そうしますと,救護義務違反は,この保護責任者遺棄と非常に類似する罪質のものですから,事故の被害者の傷害ですとかあるいは致死の結果というのは,基本的には交通事故の業過に由来するもので,その相当因果関係の範囲内ということになるわけですけれども,ひき逃げをして救護義務を果たさなかった場合には,そのことが結果に寄与するというようなことも,事実関係としてはあり得るわけです。   今回,ひき逃げ,救護義務違反の罪の法定刑を引き上げるに当たって,そのところを正面から評価するというわけではないのですけれども,具体的な量刑判断の場面においては,救護義務違反の結果,どのようなことになっていったのかということは,一つの要素として,判断されていくことになると予想しております。 ● ありがとうございます。要するに特定の類型に限定して想定しているものだけではないけれども,もともとの事故に対する帰責性の大きさの問題と,救護義務違反を行ったことによる実質的な影響が考慮されていくのではないかという御趣旨でございますね。ありがとうございます。 ● 飲酒運転あるいはひき逃げというのが今問題になっているわけですけれども,飲酒運転をして重大な事故を起こし,かつそれをきちんとした処理をしないで逃げてしまうということは,非常に悪質な犯罪である,重大な処罰に値すると思います。ただ,それに対して刑法と道路交通法との双方で対応するわけですけれども,今お話しのように道路交通法の法定刑が引上げの方向にある,刑法についても目下,その引上げの問題を検討しているということになりますと,両者の関係ということについて,素朴な疑問を感ずるのでありますが,今日は幸い有力な刑法学者の方がおられますので,その辺の感触を伺いたいのでありますけれども,酒に酔ったというファクターが道路交通法で厳しく処罰される。一方,刑法で過失の内容として,おそらく飲酒時の状態で運転したということが把握される。そうしますと,いわゆる二重評価ということにはなりませんでしょうか。 ● 私なりの考えを述べさせていただきますと,刑法の過失によって人を死傷させる罪は,あくまでも死傷という結果自体についての評価の問題であって,それについての過失の評価だと考えられます。飲酒運転等の場合には過失の程度が実際上,重いという評価が可能になる。それに対して,道交法上の酒酔い運転の罪等は,酒酔い運転自体の持つ一種の危険性というようなものが,考慮されると思われるわけでございますけれども,その意味では,やはり捕捉しようとしている局面が違うので,二重評価の問題は生じないのではないかというように思えます。両方の考え方,両方の対応が相まって,全体としてより一層事故対策が推進されるという関係にあるのではないかと考えています。 ● 私はよりペシミスティックに感じております。先ほど,原因の帰責性の大きさが1つの量刑のファクターになり,それからまた,救護義務違反行為が傷害ないしは死亡という結果につながっていく,その行為によって被害の程度が強まるという面がもう1つのファクターとして評価されるとおっしゃったと思います。しかし,それらはいずれも業過の量刑の中で評価されるべき事柄であるとしますと,それらが,併合罪の関係に立つ救護違反の罪の側面からも評価されるのであれば,やはり実質的な二重の評価に当たるとする批判は,当然出てくるんではないかと思います。その点をどのように説明できるかというのは,そう簡単な問題ではない訳で,先程来の御指摘はもっともな面があると思います。 ● 念のための発言ですが,結果のところにつきましてはおっしゃるとおり,業過で一応尽くすという整理でございます。ただ,実際のところ,いろいろな社会的な評価で,救護義務違反の罪の法定刑を引き上げるべきであるという御意見がありましたので,どういうようなところまで引き上げるべきかというところでバランスを考えていったときに,さっき申し上げましたような保護責任者遺棄罪などを念頭に置きながらバランスを考えたところでございますが,そこのところを救護義務違反の中の違法性の要素として,カウントすべきではないという整理がされるのであれば,それはそれでこだわるものではありません。 ● ほかに御質問はいかがでしょうか。ほかに御質問がございませんようですので,本日の審議に移りたいと存じます。   まず,要綱(骨子)「第一」から議論をしたいと思います。   要綱(骨子)「第一」に関する1つ目の論点といたしましては,自動車運転による過失致死傷事犯につき,業務上過失致死傷罪とは別個に,要綱(骨子)「第一」のような形で新しい構成要件を設け,その懲役・禁錮の法定刑の上限を業務上過失致死傷・重過失致死傷罪より重くすることについて御議論いただきたいと思います。   この点につきましては,前回のヒアリングにおいて,交通事故の被害者団体の方々は,その被害の実態等から見て大変意義があるとの御意見など,御賛同されていたところでございます。 反面,職業ドライバー関係の団体の方々からは,近時,交通事故による死亡者数が急速に減少していること,過失犯である本罪の罰則を強化しても,自動車運転の安全を確保するのに必要な注意力,集中力の向上に必ずしもつながるとは考えられないこと,自動車運転による過失致死傷事犯のみ重く処罰することは,他の危険を伴う職業との均衡を失することなどから,慎重な検討を要するのではないかとの御意見がございました。   この論点につきましては,自動車運転による過失致死傷事犯につき,現行よりも法定刑を引き上げる必要性があるのかという問題と,要綱(骨子)「第一」の罪を新設し,自動車運転による過失致死傷事犯のみについて,他の過失致死傷事犯よりも重い法定刑とすることが合理的なのかという問題とを分けて議論する方が,効率的と思われます。 そこで,前者のまず必要性の点から御議論いただきたいと存じます。   この点について,まずは事務当局の方から,御意見がございましたらどうぞ。 ● ただ今部会長からお示しのございました論点つきまして,第1回会議でも述べさせていただいたところと重なる部分もございますが,事務当局としての考えを述べさせていただきます。   近時の自動車運転による過失致死傷事犯には,飲酒運転などの悪質かつ危険なものや多数の死傷者が出るものなどの重大な結果が生じるものがなお少なからず発生しおり,そのような死傷事故に対する業務上過失致死傷罪による処罰について,量刑や法定刑が国民の規範意識に合致していないとして,罰則の整備を求める意見が見られるようになっているところでございます。この点は前回のヒアリングで,多くの被害者団体の方々が述べられたところであります。 また,平成14年以降のその科刑状況を見ますと,法定刑や処断刑の上限近くで量刑される事案が増加しております。   このような状況にかんがみますと,自動車運転による過失致死傷事犯については,その事案の実態に即した適正な科刑を可能とするため,法定刑の上限を現行よりも引き上げる必要性が認められると考えております。 この点,今,部会長からも御紹介がございましたけれども,前回のヒアリングにおいて,近時,交通事故による死亡者数が急速に減少していることから,本罪の新設に慎重な検討が必要であるとの御意見がございました。 第1回会議でも御説明させていただきましたように,確かに,交通事故の死亡者数は,最近では,平成4年以降減少に転じ,平成18年には,昭和30年以来51年ぶりに6,000人台前半まで減少するに至っております。   しかしながら,近時の自動車による死傷事故の現状は,先ほども述べましたように,悪質・重大なものが少なからず発生している状況にございますほか,交通事故の死亡者数が減少しております一方で,重度後遺障害者数は,年々増加し,平成14年以降も,依然として高い数値で推移しております。また,前回のヒアリングにおきましても,交通事故により重度後遺障害を負われた被害者や御家族の団体などから,自動車運転による過失致死傷事犯について,従来より厳しい処罰を求める御意見もございました。   これらの点から致しますと,近時の交通事故の死亡者数の推移を考慮いたしましても,自動車運転による過失致死傷事犯に対する法定刑を引き上げる必要性が認められるものと考えております。 ● ただ今1つ目の論点のうち,自動車運転による過失致死傷事犯について,現行よりも法定刑を重くすることの必要性について,事務当局からの御意見がございました。 前回のヒアリングにおいて示されました御意見も踏まえまして,この論点についての委員,幹事の皆様の御意見を賜りたいと存じます。重要な問題でございまして,時間をかけて議論したいと思いますので,じっくり御議論いただきたいと思います。 ● ちょっと前提としてお伺いしたいのですが,今の御説明でも前回の説明でもあったんですが,飲酒運転などの悪質かつ危険な事犯と,あるいは結果の重大な多数の死傷者を出す事犯があるということがあったんですが,今回,重くしようという根本の中にあるのは,当該運転者の過失行為をとらえておっしゃるのか,結果の重大性をとらえておっしゃるのか,ちょっとよく理解できないので御説明いただきたいと思います。   前回御提示いただいた,例えば道交法を除いた業過のみの事例を見てみますと,簡単に申し上げますと,居眠り運転が3,それから,何かほかのものに気をとられたものも含めたわき見運転が3,スピード違反が3,てんかんの事例が1つ,それから前方不注視が1つという形で,必ずしもその行為だけをとらえると,悪質極まりないとか危険だというふうな形,確かに危険性はあるとは思いますけれども,悪質と言えるかどうかについては若干疑問があると思います。ですから,今回は結果責任を問うのか,行為責任を問うのかという根本問題がやはり重要ではないかと思うので,お考えをお聞かせいただきたいと思います。 ● 一般的に処罰の在り方を考える上で,共通する問題と思いますが,やはり行為の悪性,それと結果の大きさ,その両面を見て処罰の在り方を検討していくのが基本と考えております。その意味で,今回の交通事故事犯に関しましても,行為の危険性・悪質性や,過失の重大性といったの面と,それによって生じた結果の大きさの両面を考慮し,法定刑の在り方というものも考えていく必要があろうかと考えているところでございます。 ● 今,行為の悪性というふうなお話があったんですが,行為の悪性とあるいは結果の重大性といった場合について,前回のヒアリングの中でトラック業界の方だと思うのですけれども,実際にほかの列車あるいは船舶,飛行機といったような場合,例えば具体的な例でいいますと,一昨年の福知山線の例の列車の大脱線事故で多数の死傷者が亡くなった。それとの比較でもっても,あるいはイの問題かもしれませんけれども,そことのバランスも考える必要があると思うのですが,いかがでしょうか。 ● その点についてはイの合理性の論点で,御議論いただければと考えております。 ● 今の委員の御指摘については,少々ひっかかるところがありまして,居眠り運転,あるいはわき見運転,わき見運転は状況にもよりますが,これらは私ども刑事の裁判官にとってみると,結構,悪質な過失と考えるものでございまして,これらの過失が必ずしも悪質でないという評価には,若干違和感を感じるところであります。 その点はおきまして,今回の諮問がありまして,私どもの方で下級裁判所の裁判官の意見を聞いてみました。全体として見ますと,特に意見を出さなかった裁判官が多数でございますので,今から御紹介しますのも,いずれも全体から見ると少数意見にはとどまっていますが,主なものをちょっと紹介させていただいて,御議論の参考にしていただきたいと思っております。   まず,今の論点に関連する部分ですけれども,自動車の運転に限って刑を重くすることを説明するのは困難ではないかという観点からの意見が複数ございました。この中には,刑の加重類型の新設に消極的な意見,要するに,アについて必要性がないという意見なのだろうと思うのですけれども,そういう意見と,逆に法定刑を引き上げるのであれば,業務上過失致死傷罪全体の法定刑を引き上げるべきであるという意見の双方がございました。後者は,アの必要性は肯定した上で,むしろイの切り分けの合理性があるんだろうかという意見だろうと思います。どちらかといいますと,後者の意見の方が数としては多かったという状況でございます。   後者の意見につきましては,自動車運転以外の業務上過失致死傷罪につきましても,極めて悪質で危険性の高い過失行為によって,多数の者を死に至らせる事件があることから,全体として法定刑を引き上げて対応できるようにすべきとする,そういう趣旨のものでございます。この点については,第1回の部会等で御説明があったところですけれども,今のような意見が出たということも踏まえて,改めてもう一度御議論いただければと考えております。   これと関連いたしまして,今回の自動車運転過失致死傷罪で法定刑を加重する部分が,どのような事案を想定しているのかを明確にしてほしいという要望が出ております。これは前々回,第1回部会の御説明内容等からすると,おそらく自動車運転による過失致死傷事案のうち,特に悪質な飲酒運転を伴う事犯や複数の死亡被害者がいるような事案を主として念頭に置き,こうした事案で適正な量刑を図ることができるようにするために,法定刑の上限を引き上げるという御趣旨と私としては理解しているところでございます。だからこそ逆に法定刑を上げながら,傷害が軽く情状が良い事案を念頭に置いた場合の免除の規定そのものは維持することをお考えになっていると理解しているのですが,そのような理解でよいかという点について,教えていただければと思います。 ● ただ今の幹事の御指摘のとおりでございまして,免除の規定の関係はまた後ほど御議論いただくところでございますが,例えば,今回,法定刑の上限について引き上げるという御提案をさせていただいておりますけれども,その一方で,これもまた御議論いただくところですが,下限についてはそのままでございます。その点からも明らかなように,今回の改正は,自動車運転による過失致死傷事犯全体の可罰的評価を上げるということではなく,正にただ今幹事御指摘のとおり,悪質あるいは重大な結果を伴っているようなものについて事案の実態に即した適正な科刑の実現を可能にしようという観点からの御提案でございます。 ● 今,幹事の方から話があった件です。私はあくまでも居眠り運転がそんな過失が少ないなどと思っているわけではございません。ただ,居眠り運転の場合についていうと,やはり人によってといいますか職業的な運転手といいますか,このような場合については前回のヒアリングにあったように,かなり長時間の労働を強いられて,単調な運転の中で居眠りを感じる人はかなりの数いるというような話もあったんですね。そうすると,それはやはり単に同じ業過と切り分けるについて,ほかの業過ではシステム的なものがあると言いましたけれども,おそらく職業運転手等については,労働条件を含めたシステム的な問題がやはりあるんだろうと思うのですね。その中でやはり居眠り運転もとらえる必要があるのかなという感じは持っています。 ● 私は大阪の方で弁護士をしておりまして,10年ほど前から被害者の団体の協力弁護士というのですか,支援弁護士としてかかわってきておりまして,被害者の団体との接触は非常に密にしておる弁護士でございます。   そういう立場からいいますと,まず,どうしてこれだけ軽く扱われるのかという声が非常に強いことが一つありまして,私の方でも相談のたびに法務省が出しているデータとか,あるいは検察が出しているデータをその都度調べてきております。そういう中で,例えば昭和43年の改正,3年から5年に引き上げたときというのは,40年当時の被害者数が45年当時に倍増するような勢いで,被害者数だけでいいますと100万人を突破しようという勢いのときに,一つの目標として100万人を突破してはいけないというような政府目標があったと私は思っておるんですね。それで,昭和43年に改正になって,ではその効果がどれぐらいあったかといいますと,55年,約10年かけて99万人の被害者数は実に60万人まで減ったんですね。4割減っているんです。   その一方で,運転免許者数とかあるいは自動車保有台数とか,これはやはり増加しておりまして,かなり増加しております。そういう中で4割の効果があったということは,1つはドライバーに対するモラルに対して著しい効果があったんじゃないかと,被害者の目から見たら,このときの厳罰化の意味というのは非常に大きかったんじゃないかと。まさに,自動車の歴史,自動車をめぐる法律の世界において画期的な出来事がひとつあったんだろうと私は思っておるんですね。   ただ,その後,55年以降あるいは60年以降,どういうふうな運用がなされているのかというのがもう一つのポイントでありまして,実は昭和61年から検察庁の方で起訴基準を割とハードルを高くするようにしまして,例えば3週間以内の傷害は起訴しないとか,飲酒運転をしても3週間以内の傷害が生じなければ起訴しないのだとか,どちらかというと,違法性の実質にかかわる議論を一応おきまして,形式的な基準だけで適用するということをとったために,非常に起訴率が著しく減少していっています。60年当時,73パーセントの起訴率が,例えば去年は11パーセントから10パーセント,7割から1割に減ってきていると。そういうすう勢がずっと見られております。例えば厳罰化が平成13年でしたかね,危険運転致死傷ができて施行されましたけれども,その効果が検察庁の運用に及んでいるかというと一切ありません。要するに起訴率が非常に緩和している。   どういうことかといいますと,分かりやすくいいますと,人身事案を起こしても10人中9人が不起訴となっている,つまり無罪扱いという処理を運用の面でされてきているんですね。そういったことで非常に死亡遺族の中でも,不起訴となったりあるいは罰金となったりする人たちの不平不満は,検察庁に向けられている面が非常に強いのです,現実には。だから,被害者の声の中でも今回の法案の内容とは別に,いろいろな不平不満が出るというのは,そういった一つの背景があるんですね。データでいいますと,1,000人中,人身事犯を起こしても1人だけが実刑になるというのが現状の状態です。   法務省の方では平成5年犯罪白書におきまして,検察の起訴率緩和政策につきまして,一応容認するような姿勢をとりまして,4つの理由を挙げております。例えば,被害者が死亡して死傷しても,保険制度が普及しているから被害者は満足するんだとか,あるいはほとんどが罰金に処理されているので刑の感銘力がない,したがって不起訴にしてもいいのだと,こういうような議論を平成5年版犯罪白書で4つの理由を挙げて指摘して,その後,平成12年版犯罪白書でも同じような理由を言っておられます。   世界的に見ると,交通犯罪の軽微なものについてはあまり処罰しない方向にあるということは,犯罪白書でも指摘されておりまして,それ自体は基本的には私は間違っているとは思いませんけれども,7割の起訴率が1割というのはあまりにも過ぎたるものじゃないかということで,いろいろな文献を調べておりましたら,検察幹部の中には今の1割の起訴率というのはあまりにもひどいと,例えば3割ぐらいに引き上げるべきだと,こういう意見も中にいる検察官にあると本の中で書いてありました。ですから,こういう議論をするときに,どこまで法の運用の面を加味していいのかどうかわかりませんけれども,そういう実態が明らかにあるんだということは認識していただきたいと思います。   そういう中で,片や被害者数が116万人から118万人に今なってきているというのは,かつての政府の方針目標だった100万人の被害者数,これを超えてもう危機的な状況に私はあると思っています。危機的な状況にあるというのはどういうことかというと,例えば被害者が1人いましても,その後ろには家族がいます,会社があります。そういう甚大な経済的な被害が及んでいる。今回,法務省の方で出された資料の中に,被害者の中に1級から3級と,重度の障害を負っている人たちのデータってありましたけれども,実は高次脳機能障害でも5級,7級の家族を持つ人は,ほとんど閉じこもった生活をしておりまして,家の中で引きこもりの状況が続いて,その面倒を見なければいけないと。ところが,経済的なカバーというのはほとんどされていない。つまり,どういうことかといいますと,重度障害の1級,2級の人たちには介護費というが支援されますけれども,それ以下の被害者の人たちには,介護費は実際は支出されていませんから家族だけが泣いていると,こういう状況なんです。ですから,平成5年版犯罪白書で法務省が指摘されております保険制度で補完されているとか,経済的損失が補完される,これは全然違っておりまして,わずかの一部の損害しか回復されていないと,こういう事情ではないかと思う。そういう私の方の立場を明らかにした上で言いますと,そういった必要性については非常に今緊急性があると思っております。   平成5年版の犯罪白書で,もう一つ法務省の方で指摘されている重要な事実がありまして,欧米各国では悪質な運転については厳罰をもって臨んでいるという指摘がありました。これは正に今回出されている,欧米各国において14年以下の懲役とかいうことを指摘されていると思うのです。当時,平成5年版白書で指摘されていたということを,私の方でも非常にいいことだったと思うのですけれども,実際にこの法律が危険運転としてできたのは2001年12月,非常に遅れているんですね。ですから,平成5年当時実施されていれば,もうちょっと被害者も減ったんじゃないかと,こういうのが私の感想でありまして,何も法務省が今考えていることじゃなくて,平成5年当時から考えておられたんだと。   ただ,危険運転致死傷罪の適用件数が非常に少ないのが実態なんですね,全体の90万件ぐらいの業過件数でいいますとわずか280件ほど。それは条文自体に非常に問題がありまして,非常に抽象的過ぎる,それから主観的な要件を要件にしている。そういうことで適用を現場がしない。そういうことが問題でありまして,今,業過全般を引き上げるという方向しかないんじゃないかと,こういう結論が本音の中にあるんじゃないかと,私の方では思っております。 ● 資料5ということでいただいた事例集,これを見た場合に,特に業過のみというところを見ますと,この過失態様が悪質かどうかという評価の問題はともかくとして,こういう過労でかなり居眠りをするとか,あるいはちょっとわきに何か地図のようなのがあるんで,ちょっと手を伸ばすとか,そういうことを日常的に私の見るところでも,運転手の方はやっておられるようなことなんですね。   そうした場合に,そういう意味ではよくある,大多数の運転手が絶対ないとは言えないような過失態様なわけだと思うのですが,それについてかなり懲役5年だとか4年6か月だとか,こういうような刑期がされているのは,やはり過失態様自体が非常に危険性を強く評価されたというよりは,結果がかなり重視されたというのではないかと,ちょっと私は思うのですが,それはもちろん過失態様いかんにかかわらず重大な結果を生じたら,それ相応の罰を受けるべきだと,そう思うのですが,ただ,やはりあくまでも過失,不注意ということによる犯罪だとすると,あまりに結果を重視し過ぎてはいけないのではないかと,こういう気がいたします。   そういう意味で,やはり過失犯である以上,その結果をも加味して考えるにしても,やはり上限に限度はあるんだろうと。その場合に,本日いただいた他の過失犯等の関係で見ましても,健康・公害犯罪の場合で人を死傷させた場合,あるいは消防法上の危険物の漏出等によって,結果的にまた人を死傷させた場合,これはいずれも5年以下となっているわけでして,かなり重大な結果が生ずる可能性のあるこういったものについて,やはり5年という限度が設けられているというのは,やはり過失犯というのはそのぐらいまでというような考え方というのが,背景にあるんではないかと思うわけです。   そういう意味で,ここでもちろんほかに載っている理由もありますけれども,ただ,そういう点からだけ見ても,自動車だけを取り出して引き上げるという考え方は,疑問を感じざるを得ないというのが私の意見といいますか,感想といいますか,そういったものです。 ● 今まで私ども日弁連は,刑を上げることに対してはかなり慎重に反対の意見を述べてきた経過があるんですが,とりわけ過失犯について刑を上げるということが,犯罪被害者の方々の声を聞いていると,刑を上げることによって,再び犯罪が起こらないような形の抑止力が働くというようなことの御意見があったんですが,これは全く素人の考え方だろうと思うのですね。ですから,そこら辺のところを法律家として果たして抑止力があるのかないのか,それから過失犯について,例えば一度ある種の交通違反で死傷の事件を起こした人間が再び再犯に陥っているのかどうか,そのあたりのところはどうなんでしょうか。そこら辺のデータをもとにして,抑止力があるかどうかを考えていく必要があるんじゃないかと思うのですが。 ● 再犯率につきましては調査が可能かどうか,また次回までに答えしたいと思います。 ● 今,理論的な観点で過失犯について法定刑を上げるという前提として,行為の危険なのか,結果の重大性なのかという点が指摘されてきておりますが,この点に関していかがでしょうか。 ● 処罰規定の威嚇力ということについていえば,もし,それがあるかないか,どれだけあるか,経験的に解明できるのであれば,こんな楽な話はないのですが,なかなかそうはいかない。ないものねだりという面があります。もし1つ言えることがあるとすると,前回のヒアリングでも出てきた御意見なのですが,「業務上過失致死傷罪」という犯罪が普通の人には分かりにくい面があるということです。自動車事故を起こすことが業務上過失致死傷罪にあたるということを一般の方が聞くと,「何,それ。」と不可解な思いをすると思うのですね。   そういう意味で,今回の規定が自動車運転という形ではっきりと言葉を出して,独立の構成要件を立てたということ自体は,大きな意味があると思います。業過のほとんどが自動車関係の交通事犯だということも含めて考えれば,それをはっきりと正面に出して,自動車運転に起因する,そこに落ち度があった場合についての処罰規定だということを明記することは大きな意味を持つと思うのです。一般の人に対する,あるいはドライバーに対する警告的な機能をある程度期待できるのではないかという気がします。   その上で,現在,量刑の水準が上がっていることの理由は何かを考えてみますと,それが,今回のような形で切り分けた中で,自動車運転過失致死傷だけ重く処罰することの理由とも関係するのですが,やはり一番大きいのは被害者が複数にわたるという部分なのではないかと思うのです。   裁判所の量刑について見ても,1人が亡くなった場合と複数の方が亡くなった場合とでは,やはりある程度の差をつけるのは当然だということからすれば,量刑がだんだん法定刑の上限の方に近づいてきて,法定刑の上限が窮屈になってくるという傾向が出てきているのは,ある程度理解できることです。いろいろな過失犯の類型を見たとき,自動車運転というものが複数の人に結果を及ぼしやすいということは明らかであり,自動車の運転は,類型的に,あるいは一般的にいって,複数の人に重大な結果を発生させやすい類型だということから,自動車運転を切り分けることには理由があるのだろうと考える訳です。   他方,自動車の運転以外にも,電車,あるいは航空機といったものも含めて,より一般化した形での類型を作り,複数の人に結果が出る可能性の大きいものを捕捉すべきであるという意見は当然出てくると思います。ただ,逆にそれは立法の完全主義につながりかねないという面があり,やはり代表的には自動車運転だということになれば,立法としては,とにかくその代表的なものをつかまえて類型化するというのは,それなりに理由があることです。確かに,航空機もそうだ,電車もそうだとやっていけば,網羅的に捕捉できるかもしれませんが,それだけインパクトの弱いものにもなるのであって,自動車の運転は気を付けてくださいよという形での告知機能ないし警告機能を強調するのであれば,代表的なものである自動車について類型化するというのは理由があることではないかと考えます。その限りで,事務局のご提案は支持できると思うのです。 ● 刑法208条の2ができたところで,いわば自動車運転については切り出されてしまったのに近い状況が発生しているんだと思うのです。御批判もあるのかもしれませんけれども,208条の2はかなり限定的ですし,法定刑の重さからいってやっぱり限定的にならざるを得ない。そうすると,逆にそれ以外はすべて211条に落ちるわけですから,そのギャップがあまりにも大きいというのが現状なのだと思うのです。とすると,やはりその開きを何らかの形で埋めなければいけないということで,やはりある程度埋めていく努力,今回は7年ということなのだと思いますけれども,それが必要なのかなと思います。 ● 根本的な問題として,被害者の方々の御意見を伺っていると,本当にもうこんな私と同じような悲惨な環境のもとに家族を置きたくないと,もう二度とこういうことを起こしてほしくないということが強く言われたと思うのですね。私はそれは全くそのとおりだと思うのです。   ところが,今度,過失犯を法定刑を引き上げることで解消できるのかといったら,実は私はそうではないのではないか。むしろ,それ以外にやることがいっぱいあるのではないか。おそらく例えばどなたかにあったかと思いますけれども,例えば車道と歩道を明確に区別して,簡単な形では飛び越えられないようにするとか,あるいは中央の対向車線とぶつからないようにするとか,あるいは信号機を車が流れるように適正に配置するとか,そういったことが,道路行政がきちっとされるということと,それから,やはり交通モラルが徹底されるという意味で,ある意味で事故に至らない交通違反については徹底的に取り締まっていただいて,昨年9月以降に減ったように,減らしていく努力をしていくということがまず第一であって,ここで過失犯を重くするということについては,いかにもちょっと私は性急ではないかと思っています。もうちょっといろんな議論が必要ではないかと思います。   ちなみに,国際民間航空機関というところがありまして,これはICAOというのですが,この安全管理規定というのがありまして,ここではいわゆるヒューマンエラーは,人間の行動における自然的な副産物であって,そのことでもって個人を追及することはしないということを,各航空会社がやっているということが言われています,欧米で。つい最近,日航でもそれをとるという形の見解がとられていると聞いています。ですから,人為的なミスというのがあり得るという前提でやっていかなと,危険だからこれを重くするということを,もし事故を減らそうとするならば,車に乗るなということを言わなければならないというぐらいまで,極論を言わざるを得ないのではないかと思うので,私としてはちょっと引き上げることに対しては,反対をせざるを得ないと思っています。 ● 現行のほかの犯罪の刑で例えばいいますと,窃盗罪とか詐欺罪とか故意犯ですけれども,物を盗んだりだまし取ったりするということについては,10年を上限をするというふうな犯罪になっております。例えば,それで現実の刑がどうかというと,そこまでいくのはほとんどありませんで,1年とか重くても1年,2年で済んでいるのが現状です。なぜ業過だけが上限が議論されるのかということだと思うのですね。昔,例えば100年前から200年前からあった犯罪ではありません。最近,急激にモータリゼーションで非常に増えてきていると,そういうことで事故が起こったときにどう対処するかという犯罪で,非常に私は新しい犯罪だと思うのですね。ですから,例えばひき逃げについても,かつては1年だった。それが3年あるいは5年,今度,10年になろうとしているというのは,そういう自動車にまつわる犯罪をどう対処していくかという問題だと思うのですよ。   例えば,違法性の議論の中でも,許された危険の法理というのがありまして,自動車というのは非常に便利だから,その分,ある面は目をつぶらなければいけないという許された危険の法理ということが,これまで通用してきたと思うのですけれども,ある程度車の社会というのが蔓延してきますと,それに乗じる人たちも非常に多い。例えば加害者側の人権でいいますと,それで非常に問題だと議論されているところは,自動車事故がいったん発生しますと,どちらかというと非常に事故件数が多いもんですから,現実の警察の対応は加害者の供述だけを中心にした捜査がなされているのが実態です。ほとんど目撃者とか客観的な証拠で固めるということはあまりしておりません。   例えば警察官の人員でもこの20年間,1割ぐらいしか増加しておりませんけれども,事故件数は2倍以上に増加しております。ですから,対処能力についても問題がありまして,非常にたくさんの交通事故犯罪が起こるときに運転者の刑事責任を厳しく追及しているかというと,私はそうではないと思っております。例えば,平成10年ぐらいをポイントとしますと,それ以前の刑としては,例えば日本の刑でも2年を上回るというのはほとんどなかったんです。東名高速で2人のお子さんが死亡されたという事件でも,刑としては4年だったんですね。2人死亡して4年。それから比べると,今の日本の裁判というのは,非常にそれから進んでいるという言い方はちょっと語弊がありますけれども,非常に重くなってきている。同じ行為でありながら,危険運転致死傷罪になると15年あるいは20年となって,例えば,先ほど述べた4年の刑の事故と比べても非常に重くなってきているのが現実だと思うのですよ。   ですから,違法性ということについても,非常に時代とともに考えなければいけないし,日本においてあるいは世界各国において,非常に自動車犯罪にまつわる悪質な事犯,悪質な事犯というのは行為だけじゃなくて結果も非常に重大で,まさにおっしゃられたように,自動車にまつわって被害が起こると1人じゃ済まない。運転者も含めて複数生じる。それが非常に大きな回復し難い損害となる。こういうことだと思うのですよ。ですから,違法性の議論とか過失という抽象的な形じゃなくて,具体的な現実の被害者の人たちの声を直視していただいて判断していただければ,私の方では,この要綱(骨子)の案には,10年とまではいかなくても,少なくとも7年には賛成していただきたいと,こう思っています。 ● 確かに,先ほど委員がおっしゃったように,刑罰を加重したからということで,ただちに過失犯の発生が避けられるわけではないでしょうし,,あまり屋上屋を架すような規定の仕方が望ましいかについては,若干の疑問は持っております。ただ,それでは,今おっしゃったような対策が実際に実行されて,現実に過失犯の発生件数が減るのはいつになるかといったら,多分,相当先になるのでしょう。そうした場合,一般の市民は,自動車事故の危険性を日常的に感じながら,こうした事故に遭うのを避けようとすれば,むしろ,外を歩くなということになってしまうのではないでしょうか。   先ほども,いわゆる許された危険というお話がありましたけれども,まさしく自動車の利用に伴う危険は,市民が生活する上で避けて通れない危険というだけでなく,これは行為と結果の切り分け方にもよると思うのですが,発生した結果の重大性という部分にも着目して,重く処罰するということはありうると思うのです。ただし,単純に行為と結果を完全に分離できるかというと,むしろ、重大な結果を発生させるような客観的な行為状況下で,あまりにもずさんな運転をしていれば,当然,運転行為の悪質性にもつながるわけですから,仮にそれが結果的に多数の死傷者を出したのであれば,両面を考慮して重く処罰するというのは,それはそれで何の不思議もないのではないかと思います。両者を完全に切り分けられるかというと,むしろ,そうではないと考えております。   それに加えて,これまで過失犯だから重く処罰するべきでないという御説明が度々あったかと思うのですが,実際に経験した例で申しますと,業務上の過失に当たるような職業的運転手の例ではそれほど多くないとしても,むしろ統計の数値にも現れていしたように,通常のドライバー中には、極端な例で申し上げますと,携帯のメールをやりながら運転しているものがあります。時々裏道を散歩していて,そういうドライバーに遭遇して驚くことが少なからずございます。   これは、どのような場合を悪質運転と見るかによっても違うのかもしれませんが,この種のずさんなケースというのは,多分,どれだけ道路状況等を整備しても減らないのではないかと思います。むしろ,これはドライバーのモラルの問題だと思うのですね。悪質な運転行為というのは,自動車を運転することに対しての責任を自覚することもなく,正に人命の危険を伴う行為が許された危険として,日常生活で自由に運転することが認められた前提を忘れた行為でしかないと私は思います。そういう意味では,その種の悪質な運転行為を,危険運転致死傷では処罰できないが,自動車運転過失致死傷罪により重く処罰するということには,実際上の意義や効果も見込めるのではないかなとは考えております。 ● 私も,いろいろやらなければいけないことはたくさんあるだろうと思います。道路の問題とかあるいは自動車の問題,事故が物理的に起きない自動車を作るということが一番望ましいことだとは思いますけれども,しかしながら,そういうものがもしできることがあるとしても,それまでやはり最終的には運転する人間のモラルというか注意に,事故の発生の有無は結局,帰着せざるを得ないということになろうかと思います。技術的な安全性を高めるという意味では,航空機の事故調査などにおいては個人責任を追及せずに,いろいろな情報を出させて安全性を高めるということは重要だと思いますけれども,ここの自動車による交通事故という局面では,必ずしもそういう議論はあてはまらないのではないかと,少なくとも現段階では考えおります。   そうしますと,最終的には注意義務をどれだけ運転者に守ってもらうかということになるわけで,先ほど法定刑を引き上げることが,一体どの程度抑止効果があるのかという議論がございました。それと関係すると思います。確かに故意犯の場合には比較的わかりやすいのだけれども,過失犯の場合には法定刑が引き上げられたからといって,だれも人をひき殺したりするつもりがないのだから,効果がないのではないかという議論もあろうかと思いますが,しかしながら,やはり運転する際に,どれだけの注意をしなければならないのかという注意義務の重さというものは,やはり法定刑を引き上げることによって,強調されるという効果はあろうかと思います。   刑を上げることの根拠は,既に事務当局あるいは他の委員などが御指摘されたようなことに尽きていると思いますけれども,仮に法定刑の引上げが適切な科刑を可能とするためということとしても,最終的に法定刑が引き上げられれば,犯罪としての重さの評価がそれによって変わる,法律的に変わるということは,そういうことになると思われますので,それが注意義務の強化というところに結び付いていくということが期待されるということではないかと思っております。 ● 今日,資料の9で乗用車・貨物車が第1当事者となっている交通事故の発生件数・死亡事故発生件数ということでいろんな内訳が書いてあるんですが,これを見てみますと,最も交通事故によって家族を亡くされたり,大けがをさせられた人たちの声として,酒酔い運転やいわゆるひき逃げはもう許せないということを言っておられたんですが,これを見ますと意外と事業用の運転者というのは,酒を控えている部分がかなりあるように思われます。   これに対して,自家用車の関係では結構酒酔い運転も多いですし,それから最高速度違反も結構あるという形で考えますと,交通モラルがかなり一般のドライバーの中で低下していることは,事実としてあるのかなという感じをしています。だけれども,それだから,ここで刑の重さを国民に示すことによって,これはある意味で重い罪なのだよということで,皆さんにそれをインプットさせて,抑止させるということがどの程度あるか,やはり私はちょっと疑問に思っています。   私が思うに,先ほど警察庁の方が今度の道交法改正でシルバー運転,年齢のいった方について,いろんな手当を講じているということがあったと思うのですが,ある意味で単に3年なり5年ですか,5年ごとに免許の更新をするということではなくて,きちっとそこで徹底的な形で,ある種の交通モラルの向上されるような方策というのが必要じゃないか。それをなくして刑罰だけでいくのはどうかなという感じで,ここら辺は今後考えてみる必要があるんじゃないかなと思いますんで,意見として述べます。 ● 第1の論点としては,既に議論に入っているかもしれませんけれども,今般,道交法改正によって酒酔い運転,酒気帯び運転,いずれについても上限が引き上げられるということと,救護義務違反が新たにまた引き上げられるということと,この本罪との関係でまで,この比較においても引き上げる必要があるかという議論が必要だと思うのです。私が前回いただいた資料を分析をして見てみますと,例えばいわゆる業過のみの事案であっても,場合によってはスピード違反という形で6月以下の懲役を,道交法違反で追加するようなことが可能だったにもかかわらずしていなかったもので,なおかつ,これはリミットにあるという形で言われているものがあったり,それから,もう一つの第2の業過と道交法を含めた犯罪として挙げられている例について見ますと,今回の道交法改正がもし成立すれば,かなりの面で上限が引き上げられます。そうすると,必ずしもこの自動車運転過失致死傷罪を設けなくても,上限に張りつく状態にはならないと思うのですが,このあたりはどうなんでしょうか。 ● これは第2の議論とまとめてやった方が説明しやすいのかなと思いますが,いかがですか。 ● 第1の論点につきまして,今までほかの方の意見を伺っていたことの感想的なことですけれども,私がさっき過失犯だからと申し上げていたのは,故意犯の場合には一定の行為を行えば,どういう結果が生ずるであろうかというのは,ある程度予測しながらやれる。しかし,過失犯の場合,その結果については,けがをする方が1人なのか2人なのか3人なのかというようなこと,あるいはそもそも発生事態も含めて,偶然性に左右される点が非常に大きいという問題がやっぱりあると思うのですよね。だから,そういう面からすると,私が結果を重視するにしても限度があるんじゃないかと申し上げたのは,そういう要素を考慮にするべきではないかという意味で申し上げました。   そういうようなことからしますと,法定刑を上げるということは,その犯罪の質的な評価を変えるということになるんで,そこまでの必要性というのが,現在の出し示された資料で果たしてあるんだろうかという疑問があると,そういう意味なんでございます。そういう意味から,どうも今の示された資料からはちょっと納得はできないと,こういうことを言いたいわけです。 ● 故意犯と過失犯との関連は,先ほど複数の委員からお話がありましたように,類型的に差がありますので,この点は第1の議論としては終えたいと思います。それで,具体的にまた第2の議論とも重なりますので,そのときにまた改めて過失犯としての処罰の適正という観点から御意見いただければと存じます。   次に,自動車運転による過失致死傷事犯について,その法定刑を引き上げる方法として,業務上過失致死傷罪等とは別個に,要綱(骨子)「第一」のような形で新しい構成要件を設け,他の過失致死傷事犯よりも重い法定刑とすることの合理性について御議論いただきたいと存じます。   この論点につきまして,事務当局の方で何か御意見がございましたらどうぞ。 ● ただ今部会長からお示しのございました論点につきまして,これも第1回会議で述べたところと重なる部分もございますけれども,事務当局としての考えを述べさせていただきたいと思います。   他の車両,歩行者等が往来する道路等におきまして自動車を運転することは,自動車の形状,性状等からしますと,他の業務に比べ,特に人の生命・身体を侵害する危険性がより高い行為といえます。また,自動車運転による過失致死傷事犯は,その発生を防止するためには,基本的に運転者個人の注意力に依存するところが大きいところであります。このようなことから,自動車の運転手には,他の業務者より,特に重い注意義務が課されているということができると考えられます。 したがって,自動車運転による過失致死傷事犯について,他の業務上過失致死傷事犯等よりも重い法定刑により処罰されるものとすることは,合理性があるものと考えております。   なお,前回のヒアリングにおきまして,罰則の強化は,自動車運転の安全を確保するのに必要な注意力,集中力の向上に必ずしもつながるとは考えられないとの御意見がございました。本日の会議でも,それと同様の御意見があったところでございます。 もちろん,自動車運転による過失致死傷事犯をなくすために,単に罰則の整備だけで十分であると考えているわけではなく,道路や交通安全設備の整備等,政府全体としての調和のとれた取組が必要であると考えております。   ただ,先ほど述べましたように,一般的に自動車運転による過失致死傷事犯は,その発生を防止するためには,基本的に運転者個人の注意力に依存するところが大きいと考えられますが,要綱(骨子)「第一」は,自動車運転による過失致死傷事犯に対し,これまで適用していた業務上過失致死傷罪より重い法定刑により処罰するものでございますから,飲酒運転等の悪質な運転者に対し,そのような悪質な運転を避止するよう,覚せいを促す効果を期待できるのみならず,一般の運転者にも,一層の安全運転に留意するように促す効果も期待できるものと考えております。   さらに,前回のヒアリングにおきまして,自動車運転による過失致死傷事犯のみを重く処罰することは,他の危険を伴う職業との均衡を失するとの御意見がございました。本日も同様の御意見がございました。 確かに,電車や航空機や船舶など,多数人が乗車等する乗り物の運転又は操縦は,人の身体・生命に対し,相応の危険性を伴うものでございます。 しかしながら,これらの公共交通機関につきましては,運転者個人の注意力に依存して事故防止を図るのではなく,機械化・組織化された安全確保システムの整備等によって事故防止を図ることが必要とされ,かつ期待できる分野であり,事故の原因となるミスを犯した個人の責任追及の在り方については,そのような安全確保システムの在り方を踏まえて,慎重な検討が必要であると考えております。   また,先ほど述べましたように,自動車運転による過失致死傷事犯につきましては,その科刑状況等から法定刑を引き上げる必要性が認められる状況にございますが,電車や航空機や船舶など,多数人が乗車等する公共交通機関の運転又は操縦による過失致死傷事犯につきましては,その科刑状況等から法定刑の引上げが必要とされる状況にはなく,現時点で緊急に法整備を行う必要性が認められないと考えたものであります。 ● ただ今事務当局から意見が示されましたが,それも踏まえてさらに御意見を賜りたいと存じます。 ● 私が現実に扱っている事例でいいますと,例えば居眠り運転というのは道交法で処罰されていないのですよね。実は過労運転は処罰されていまして,過労という一言を言ったがために会社ごと調査に入ると。職業ドライバーの人たちはそれは承知しておりますから,絶対に過労運転じゃありませんということを必死に弁解するんですよね。要するに,居眠り運転という言葉自体もあまり出てこない。単にわき見でしたとかよそ見していましたとか,そういうのが現実は実態で,居眠り運転というのは例えば先日起こりましたバス運転者の非常に長時間の労働で,結局,居眠りするということなんでしょうけれども,起こった事故はやっぱり一般の人から見ても非常に悪質なんですよね,居眠りというだけでもね。   ですから,普通の自動車の運転者についても,反対車線に飛び込んだりすることで,人を複数死傷させるということは当然伴いますから,大型であるとかトラックであるから違うんだとか,そういうことは言えないと思うのですよ。一般に自動車である限りは反対車線に飛び込む可能性もあるし,沿道にいた歩行者を残らずひいてしまうのも先日,川口でありました。10人以上ですからね。非常にそういった危険性があるのが,自動車の運行に伴う危険性が常にあるということなんですよ。バスであるからあるいは小さい車であるからということじゃないのですよね。常に不注意によって多数の人命を失う可能性があって,それは非常に内在するもんだと私は思っております。最近,この2年ぐらいで頻発している事故は,それを象徴する事件がたまたま起こっているもので,今まで起こらなかったのが不思議なぐらいだと,こう思っております。 ● 先ほど委員から,例えば,業過だけで処理している事例集を見て,非常に高速度のスピード違反が事実として含まれているのであり,速度違反についても起訴すれば,併合罪加重になるのだから,業過については刑の引上げは必要ないという趣旨の御意見がございました。ただ,実際のところ,事例集でお示しした事案もおそらくそうだと思うのですが,このスピード違反の事実についての証拠は,被告人の供述だけしかない事例であると思われます。被告人の供述だけで,スピード違反を立件して起訴するということは,およそできない話でして,そういう意味で,ここでは,ぎりぎり起訴できるものを選んで起訴し,それでやはりここまで量刑が上限に詰まってきているというのが現状であると思っております。   それから,今般,確かに,道路交通法はいろいろ法定刑を上げるというような改正が予定されておりますが,例えば,酒酔い運転の罪は現在3年以下の懲役ですけれども,これと5年以下の懲役・禁錮の業過とを併合罪加重しますと,その処断刑は7年6か月以下ということになります。この酒酔い運転の罪を,今警察庁のお考えでは5年以下の懲役に引き上げるとのことですが,そのように改正しても,もし業過を現行の5年以下の懲役・禁錮のままにしておきますと,併合罪加重しても,やっぱり7年6か月以下ということになってしまいます。 飲酒の上で事故を起こした場合について適切に対処する必要があるのではないかということが今回の法改正の大きな契機であったわけですけれども,現行の刑法のままでは,刑法がいわばボトルネックというか,足かせになってしまい,法改正の効果が十分に現れないこととなるように思われます。このようなことを考えますと,道路交通法を引き上げるから,刑法をそのまま改正しなくていいのではないかというのは,私はどうかなと思います。 ● 自動車による過失致死傷事犯について,独立の構成要件を作るべきかという点について,先ほど自動車という概念をはっきり表に出すこと自体に意味があるという趣旨の御賛成の意見がございました。私もその点では同じように感ずるものでありますが,あわせて自動車は,やはり先ほど飛行機とか船舶という例も出ましたけれども,少し違うのではないか。自動車についてだけは「走る凶器」というふうなネーミングがあるわけで,飛行機のことは飛ぶ凶器とは言わないと思いますが,自動車は,しかも走る凶器を1人が運転して,その人の技術に依存して事故を防いでいるという状況にあります。航空機,船舶等は非常に多くの人の協力の下に,様々な安全設備を持ちながら動いているものであり,それとは,どうも性格を異にするのではないかという気がするわけです。   しかし,その点で,先ほどヒューマンエラーということを申された委員がいらっしゃいましたけれども,確かに,ヒューマンエラーは人間として全面的に防ぐことは,到底できない性質のものであります。現に,自動車運転によって多数の事故が起こっておりますが,社会はだからといって運転を中止せよとは言っていないので,少なくとも民事的な責任については保険制度が非常に発達して,保険会社は人身事故については賠償額無制限という保険を提案してまいります。その意味で,いわば運転者が安心して運転しているわけで,逆に言えば,その面からは抑止力というものは全くなくなっているように思われますが,その分の抑止力は結局,刑事が引き受けざるを得ないと思います。   ところで,普通の犯罪については,前もって今度刑が重くなったからどうしようかと考えるような犯罪はまずないと思われます。近年,傷害罪の刑が10年から15年に上がりましたけれども,それであいつを傷つけるのをやめようということは,おそらくないと思います。しかしながら,交通事犯については運転者はもし事故を起こしたらどうなるかということは,少し誇張して言えば常に意識しているはずで,友人との話題にもなるでしょうし,一人で考えることもあるでしょうし,今日は疲れているから運転をやめようというような判断にもなるでしょうし,そういう意味で,私は一定の抑止力があると考えいいのではないかと思います。その点で,先ほど抑止力の議論も出たわけですけれども,自動車運転を独立させ,法定刑を引き上げるということについて,やはり積極的な意味を認めてよいのではなかろうかと考える次第です。 ● 抑止力の点を最後におっしゃいましたけれども,業過の引き上げ,昭和43年の引上げのときの抑止力の検証ということは必要だと思うのですよね。ですから,私自身は10年間で4割減ったという意味は,非常に重要だと思うのですよ。一つの証拠だと私は思っております。抽象的な議論で抑止力があるかどうかという議論をするよりも,かつてどうだったかということを議論した方がはるかに実効的だと私は思っております。 ● あまり出なかった局面でちょっと関連して意見を申させていただきますと,先ほど裁判官の方の中の御意見として紹介されました,業過自体の法定刑を上げるというアイデアですね,それはなぜ自動車運転だけ重くするのかということとも,関係するだろうと思われるわけですけれども,その局面もかなり重要な問題だというように思います。   日本の業過の規定というのは非常に広いのでありまして,要するにほとんど全領域をカバーするということになっております。お隣の国のように領域別に細分化されている処罰規定を持つところもございますが,そこまでいくかどうかは別としても,やはり同じ規定で全領域をカバーしようというのには多少の無理があるように思われます。やはり,ほかの類型との均衡も考えなければならないということもあるかもしれませんし,実際上,同じにやれるかという問題もあろうかというように思いますので,私はとにかく業過の規定から独立させていくという方向は,議論として正しい方向,行き方として正しい方向ではないかというように考えております。   そうすると,なぜ自動車だけなのかという議論に次にはなっているわけですが,その点については先ほどの関係官の御意見にもありましたし,他の委員も先ほどおっしゃった,あるいは事務当局からも御説明されたようなことになるのではないかというように思っております。 ● 今関係官が走る凶器ということをおっしゃいまして,正に私もそのことを申し上げようと思ったわけございまして,それに尽きております。それで,あわせて道路の場は非常に交通関係が錯綜する場でございまして,動線がぶつかる極めて危険な場所であるということを御留意いただいたと思うのです。それから,確かに交通事故はヒューマンファクターが大きいということで,9割方はヒューマンファクターという説もありますが,確かに多くはうっかりして起こす事故でございます。   したがって,うっかりしないように,あるいはうっかりしても事故にならないようにということで,いろいろな対策をもちろん打つわけです。例えば,信号機を付けますと,その交差点の事故は大体7割減ります。標識を夜見えるような標識にしますと,大体事故が7割から8割減りますね。それから,子どもたちに教育しまして,乱横断がほとんどなくなりましたから,子どもの事故が随分減っております。また,取締りをやりまして減ります。 しかし,それでもなおまだ事故はあるということなんですね。   他の委員から御指摘がありましたように,居眠りとかあるいはわき見ですけれども,単純に言葉で言えば一言ですけれども,本当に明け方まで遊び歩いてきて,明け方,若者が居眠りで大きな事故を起こすことがございます。わき見でも交差点が連続しているのがわかっておりながら運転操作しつつわき見をする,そういうことでございます。これはそういう行動をやっておっても,事故にならない場合が多いわけです,ほとんどは。ところが,あるとき事故になるわけです。   つまり,行動の基になる意識がありまして,それが行動パターン化されておりまして,それがいつか事故になる,大きな事故になる,こういうことでございまして,したがって,そこのところの事故の重大性なり責任の大きさというものを強く認識させることというのは,非常に重要なことだと思うのですね。事故を防ぐために対策はいろいろ打っていくわけですけれども,それでもまだ事故は起きる。それをどうするのかと,そういう観点からお考えいただきたいと,こう思います。 ● ちょっと今までの議論に関連してということですが,1つは抑止力の関係で先ほど別の委員の方から過去昭和43年ころの状況を見ていると,それはかなり抑止力として意味があったという話があったんですが,43年ごろの段階での場合には,危険運転致死傷罪のようなものがなかったという時代であるということと,危険運転致死傷罪が創設されて,その後,どういう運用状況なのかというデータがやはり警察庁は特にありまして,それを分析された学者もおられるようなんですが,やはり飲酒運転という自分が自ら止めようと思えばできること,その部分はかなりの部分で減っているというデータは出ているけれども,それ以外の部分では必ずしもいわゆるミスの部分,いわゆる故意的な要素の入らない部分については,データとしては抑止力が働いたとは見られないんじゃないかという意見もありますので,過去のデータとして抑止力があるからやっていいというのは,ちょっとあまりにも暴論ではないかなということで意見を述べたいと思います。   もう1点は,職業運転手の場合について,ある意味で航空機会社,鉄道会社とはちょっと若干は違いますけれども,労働条件等の関係の中でかなり過酷な労働を強いられて,深夜労働とか休暇もとらずに,この間の吹田のバス事故なんかもそうですけれども,そういったものが影響して居眠り運転をするという場合もあるので,それらが今回引き上げられることによって,どのように扱われるかということも考えてみなくてはいけない。それもやっぱり一緒にほかのものと一緒だという形になるのか,それらについてはそれなりの配慮をされて,ある種の労働条件なり,いろんなもろもろの状況があるから,どんなにいっても5年はいかないというような判断がされるのかされないのか,そこら辺がちょっとわからないと思っていますね。 ● 今の委員の意見に対して,私は何も昭和43年の改正で効果が上がったから,それが決定的な証拠だという,そういうつもりで言っているつもりはありません。やっぱり引き上げるべき時期に来ているんじゃないかと。それは例えば被害者数からいっても,限界に達してきているんじゃないかということです。昭和43年に厳罰化されてから,いったん60万人まで減った被害者が約2倍に今なっています。   そういった一つのこと,それから先ほど言われました例えば道交法の罰則強化,飲酒・ひき逃げの罰則強化,これはあくまで過失犯の延長での処罰なんでしょうけれども,例えば飲酒運転中の事故とかいうのは過失行為の一つなんですよね。例えばメールをしたり,携帯をしたり,最近は携帯も罰則の対象になってきていますけれども,道交法の罰則の対象になっていない過失ある行為というのは非常に多いのです。それは過失としてとらえると過失でしょうけれども,前提にある行為自体は故意なんですよ。   例えば過労で運転するとか信号無視をするとか,暴走行為をするとかいうこと自体は,非常に故意に近い。例えばアメリカでは飲酒して人を殺した場合,殺傷させた場合に,私がびっくりしたのは5年ほど前にハワイへ行って,大ジョッキ1杯で殺人罪として懲役20年という。それは日本にはあり得ない。だから,日本では過失,過失と言っていますけれども,実は非常に故意に近い犯罪というのは交通事犯では非常に多い。この認識はまずないんじゃないかなと私は思っております。正直言って,過失,過失として簡単に言われていますけれども,実は非常に極限状況で運転している人たちが非常に多い。例えば今言われましたバスの運転手にしても,運転手である以上,職業的な運転手である以上,やはり居眠りをしてはいけない。居眠りをするような労働でしてはいけない。   例えば8時間労働というのが一つのめどですけれども,例えばこれはほかの施策ももちろん必要です。ヨーロッパのように8時間以上運転したら免許をとり上げるとか,そういった強硬論も一つの方法だと私は思います。でも,やはり今の状況では自動車を運転するのはその運転手ですから,その人に対して注意義務を重くするのは当然のことだと思います。今の5年というのはもう一つなれ切っているという部分もありますけれども,悪質な運転というのはやっぱり故意に近い部分が非常に多いということなんです。だから,これを過失として非常にとらえられ過ぎている嫌いが私はあると思います。 ● それでは若干休憩をとりたいと存じます。           (休     憩) ● 再開させていただきたいと思います。   次は,前々回の審議で御指摘のありました点ですが,自動車運転過失致死傷罪は,業務上過失致死傷罪の成立要件とされているような「業務性」を成立要件としていないことの当否について御議論をいただきたいと思います。   この論点につきまして,事務当局の方で御意見がございましたらどうぞ。 ● ただ今部会長からお話がございましたように,要綱(骨子)「第一」の自動車運転過失致死傷罪は,業務上過失致死罪の成立要件とされております「業務性」を,その成立要件とはしておりません。 その当否ということでございますが,これを要件とするか否かで違いが出てまいりますのは,いわゆる自動車運転についての反復継続性,これは少なくとも反復継続の意思が必要と解されていますが,そういった反復継続性を有していない者が自動車を運転して人を死傷させた場合を本罪の対象とするか否かであると考えられます。   先ほど述べましたように,本罪が業務上過失致死傷罪よりも重い法定刑で処罰されるのは,自動車の運転は,他の業務に比べ,特に人の生命・身体を侵害する危険性がより高く,また,自動車運転による過失致死傷事犯は,その発生を防止をするためには,基本的に運転者個人の注意力に依存するところが大きいことから,自動車の運転者には,特に重い注意義務が課されていると考えられることを理由としております。このことは,自動車の運転につき反復継続性を有していない者の事故と,反復継続性を有している者の事故とで何ら変わるところはなく,両者を同様に取り扱うのが相当と考えられますことから,本罪において「業務性」を要件とすべきではないと考えました。 ● ただ今事務当局から御意見が示されましたが,この論点について御意見がございましたらお願いいたします。 ● 質問です。今,業務性について反復継続要件がなくてもいいという事務当局の説明がありましたけれども,そうしますと,従来,業務上過失傷害にはならないけれども,重過失になったものというのが取り込まれてくると思うのですが,そうした場合,それから外れるものはあるんでしょうか。要するに,全部,それで網羅できちゃっているんでしょうか。従来の適用としては業務上過失傷害,過失致死傷という形になっていて,もし,それに当たらなくても重過失に当たると処理されていたもの以外で,外れるものが出てくるんでしょうか,それとも全部,これは網羅されちゃうのでしょうか。 ● 少なくとも自動車の運転に必要な注意義務を怠って,人を死傷させた者は,すべて本罪に入ってくるということでございます。 ● 今の委員の質問の御趣旨が今一つよくわからなかったのですが,要するに,今回の自動車運転過失致死傷罪に取り込まれるものというのは,従前の自動車運転による業務上過失致死傷罪と自動車運転による重過失致死傷罪のみであって,それ以外のものはないのかという御質問でしょうか。そういう理解だとすると,おそらくお答えが変わるのではないかという気がしますが。 ● 重過失致死傷罪にいう重過失とは,そもそも個別具体的に注意義務違反の程度が著しいかどうかを見ていく必要がございますので,そういう意味では事実認定の問題になってこようかと思います。したがって,自動車を運転して,過失によって人を死傷させた場合に,それが重過失でないという場合も観点的にはあり得るかもしれません。そういう意味で観念的な話になるかもしれませんけれども,いずれにしても自動車の運転に必要な注意を怠った場合に,その過失が単純過失ということになる場合もあり得るかもしれませんが,そういったものも含めて,本罪の対象になってくるということで理解しております。 ● 今の問題に関連してですが,従来,自動車運転で業務上過失ではなくて重過失に入った事件というのは,私の理解では例えば1回限りの無免許運転だとか,そういう事例と理解していますが,そういうものが主な対象ということになるんでしょうか。 ● 事実認定の問題になってくるかもしれませんけれども,自動車運転で重過失致死傷罪が適用されていた主な事案は,おそらく御指摘のとおりだろうと思います。 ● 自動車を運転して,いわゆる単純過失として209条,210条で処罰されたという例は,ずっとさかのぼると別として,最近ではおよそないのだろうと思います。まれに重過失で処理されるという例があるかもしれませんけれども,私も40年近く裁判をやっていて,自動車の運転を業務上過失じゃなくて重過失で処罰したというのも,経験したことは一度もないくらい全部業務上過失で扱われていますよね。   実務上,業務概念というのはかなり判例,実務上であれ,学説上も広げられていますから,これで全部カバーできるようになっています。なっていますけれども,実際問題,こういう自動車運転による過失致死傷事犯の特別類型を作れば,「業務として普通乗用自動車を運転し」なんていうのは,無用の用語だったようなものをいちいち書かなくてもよくなる。そんな点は全然問題にする必要がなくなるという意味では,私は「業務性」を必要としないというのは,すっきりしていい方向に向かうだろうと思いますし,もともと過失犯の中に業務上過失,重過失,単純過失,こう3つの区別を設けること自体,私はあまり必要性は本当はなかったんじゃないかと考えております。いろんな立法の経過がありますけれども,過失犯として最も多い自動車運転の関係でも,過失の種類,その3種類を完全に議論しなくていいということにすることは,個人的な意見ですけれども,大賛成でございます。 ● 現在でも軽過失を業務上過失の規定で処罰するのかという問題がございます。業務というものを本罪の構成要件に取り込むと,やはりその問題を依然として引きずることになるのでありまして,業務という日常用語と現在の自動車運転の業務というものとは,多少乖離しているということもございますので,この際,業務という概念は取り払った方がよいのではないかと考えております。 ● 基本的に私は賛成なのは,被害者の人たちの多くに「業務上過失って,先生,何ですか」という素直な意見,疑問があり,それが非常に分かりやすくなったということですね。それと,今,委員の意見についてなんですけれども,現実の運用として非常に軽い過失,例えば2週間以内の傷害とかは,警察段階で一部の警察は既に送検しないという扱いをしているという記事を私は読んでおります,新聞とかで。3週間以内の傷害は検察が昭和61年から基準として設けておりまして,起訴しないという方針をそのときからとっておりまして,表になっていないだけで,単純に過失で傷害があまり生じないと,ここで議論することじゃないのでしょうけれども,行為の悪質性を除いて結果だけで判断しておりまして,非常に多くの過失事案が漏れているというのが現実だと思っております。   ですから,そこら辺は運用の面でも,今回の法改正とは別にやはり運用の指針とかでちょっと変えるべきじゃないかと。例えば飲酒して,3週間以内の傷害だったら業過は起訴しなくてもいいのだというのは,基準として通用しているみたいですから,そこら辺の問題は残るんじゃないかなと思っております。ですから,構成要件該当の問題と運用の問題と,全然別だと言われたら言いようがないのですけれども,現実に被害者側で私が動いていて感じるのは,そこら辺に問題があるので,それはやっぱり頭のどこかに置いてもらいたいと思っておるところでございます。 ● 構成要件ということで,若干解釈に関して伺います。自動車の「運転に必要な注意」という限定がされていて,。その範囲は運転の開始から終了までということですが,具体例でお聞きします。例えば,車を駐車してその場を離れたが,サイドブレーキの引きが甘く,かなり時間が経ってから車が動き出して事故が起こった場合などは含まないということなのか,未成年の子が夜な夜な親に内緒で車を運転していて事故を起こしたケースで,自動車のキーの管理等について親に過失がある場合,親の責任というのは新しい規定では問われないことになるのかを質問します。 ● 2点ございましたけれども,まず,第1点目の駐停車関係,それについての考え方を御説明させていただきます。もちろん,この自動車運転過失致死傷の罪が成立するか否かというのは,最終的には具体的な事案ごとに,証拠に基づいて判断されるべきことではございますけれども,今御指摘のあったような駐停車関係の事案におきましては,自動車を駐停車した場所付近道路の傾斜,他の車両の通行状況等の具体的状況によっては,十分にブレーキを引くことなく自動車を駐停車させた行為に過失が認められるという場合があろうかと考えられます。   この自動車運転過失致死傷罪の「運転」というのは,各種の装置を操作して,運転者のコントロールの下において自動車を動かす行為のことでございまして,発進に始まって停止で終わると考えております。このような意味からすると,自動車の駐停車行為というのも自動車の運転に含まれる行為であると言えますことから,駐停車行為に過失が認められる場合においては,自動車の運転に必要な注意を怠ったことによって人を死傷させたということで,この自動車運転過失致傷罪が成立し得ると考えております。   2つ目の点でございますけれども,御質問は親の方に本罪が成立する余地があるかどうかという点だったかと思うのですけれども,これにつきましては,「自動車の運転に必要な注意を怠り」という意義は,自動車の運転者が自動車の各種装置を操作して,そのコントロール下において,自動車を動かすのに必要とされる注意義務を怠ることと考えておりますので,親が自動車の管理を怠ったところに過失があるというような場合においては,一般的には,親の方にはこの自動車運転過失致死傷罪が成立するというものではないと考えております。 ● 例えば,ある荷物をA地点からB地点にトラックで運ぶというときに,荷物を載せる係の人と,それから運転する係の人がいた。荷物をきちっとトラックに積まなければいけない係の人が非常にぞんざいなやり方でやってしまった。同時に,運転者も乱暴な運転をした。そこで,荷物が落ち,死傷事故が起こったという事例のように,自動車の運転自体というより,自動車の運転を予定して行われるような整備や荷物の積載方法に過失があるような場合についてはどう考えればよろしいのでしょうか。 ● 一般論として申し上げますと,私どもが「自動車の運転に必要な注意義務を怠り」ということで考えておりますのは,正に運転者が自動車を運転して走行させるに当たっての注意義務ということで考えておりますので,その前提として運転者以外の者がきちんと整備をしていたかどうか,あるいは運転者以外の者がきちんとと荷物を積載をしたかどうか,そういったところの過失を問うものではないと考えております。 ● それは業過の問題に過ぎないということになってくるのでしょうか。 ● はい,一般的にはそのようになるものと考えております。もちろん,運転者が整備が不良であるという状態であることを認識していたり,あるいは積荷の積載が不十分だということを認識して,そのまま自動車を走行させた場合は,整備不良な状態で自動車を走行させた点,あるいは,積荷の積載が不適切な状態で自動車を走行させた点で,運転者の自動車を走行させる行為に過失があることとなると思いますので,その場合は本罪の対象になってくるという解釈でございます。 ● 今,委員の挙げられた設例では乱暴な運転をしたという要素があったようですが,数年前に具体的に起こった事件で,高速道路を運転中のトラックからタイヤが脱落して下へ落ちて,死傷事故を起こしたというのがありましたが,これはごく普通に運転していても起こった事故なんですけれども,その点はいかがでしょうか。 ● 運転方法に落ち度があるという前提でございましょうか。 ● 運転行為自体には問題はなく,もともとタイヤの締めつけ方に,あるいはどこかタイヤ自体に問題があったという前提ではいかがでしょうか。 ● 具体的な事案によると思われますが,今の御指摘を前提といたしますと,一般的には,自動車の運転に必要な注意義務を怠ったということではなく,整備あるいは製造に当たる業務者がその業務に必要な注意を怠ったということになろうかと思いますので,本罪の対象にはならないと考えております。 ● これは質問ですが,ただいま,運転者と業務者が別にいる場合,業務者にあたる,その雇い主またはその車両の持ち主などが十分な整備をしなかったから,普通に運転していても事故が起きたような場合には,運転者による運転上の不注意ではないとおっしゃったと思います。その際.もし,それが同一人の場合も結論は同じですか。 ● 先ほども,運転者が整備不良等の状態であることの認識がある場合には運転者に本罪が成立し得るということを申し上げましたけれども,もとより運転者がそういう状態であることを認識し得る状況で走行させた場合も同様であります。その意味で,運転者自身が十分な整備を行わなかったという場合には,運転者は自動車の運転に必要な注意を怠ったと認定される場合もあろうかと考えております。 ● 基本的には事実関係がどうなっているかによるところがかなりあるので,こういう場合はこう,こういう場合はこうと,一義的に決まるものではないと思いますし,特に整備の問題ですとか,あるいは積荷の問題というのは,要するに運転者が運転をするに当たって,どこまで何をしなければならないかという問題がまず前提として議論されなければいけないので,そこを細かくやり出すと多分尽きないとは思います。 ただ一般論として申し上げれば,そういう運転者の注意義務として,走るに当たってどういうところまで義務として負うかということを考え,その運転に当たっての注意義務に違反する部分は本罪の対象となり得るということだろうと考えております。 ● 今の委員と同じ意見なのですが,ここで提案されている自動車運転過失致死傷罪というものが,自動車運転によって人の致死傷という重大な結果が生じる危険が高いことを理由にして,7年以下の懲役・禁錮という法定刑で対処しようとされていることを考えますと,幾つか挙げられた事案のうち,整備不良だけに起因するようなものは,本罪の射程範囲外であるという理解が,事実関係にもよりますが,基本的にはあってしかるべきではないか,と思います。   また,先程議論されました駐停車に関連する第2の事例というものは,おそらく第1の事例とは区別が可能でした,第1の事例では運転という行為がまだ完了していないという前提に立って,本罪の適用が可能だというお答えだったと思うのですが,第2の事例はいったん自分の運転行為は終わっていて,その後に他人が関与したという場合ですから,おそらく本罪の対象としては成立しないという解釈が可能ではないかなと,個人的には思いました。 ● それと多分関連してくると思うのですが,例えば欠陥車を製造メーカーが作っていて,それを分からずに運転して事故が起こったといっても,これは自動車の運転によりではないと理解していいと思うのですが,例えばリコールが出ているのに,それにうっかり気づかなかったということでやった場合はどうなるんでしょうか。 ● やはり自動車の運転に必要な注意を怠ったといえるかどうかというところの認定によるんだろうと思っております。 ● では,次の論点に入っていきたいと思います。   次は法定刑の問題ですが,自動車運転過失致死傷罪の法定刑について,前回のヒアリングにおいて,交通事故の被害者団体の方々から,懲役・禁錮の上限を10年以上にすべきとの御意見がございました。 反対に,職業ドライバー関係の団体の方々からは,自動車運転中の過失致死傷事犯はあくまでも過失犯であり,その法定刑を引き上げるのには慎重な検討を要するとの御意見がございました。 このような御意見を踏まえまして,この論点につき,委員・幹事の皆様の御意見をいただきたいと思いますが,まず,事務当局の方から,御意見がございましたらどうぞ。 ● 今部会長からお示しのございました論点につきまして,事務当局としての考え方を述べさせていただきたいと存じます。   自動車運転による過失致死傷事犯の法定刑につきましては,ただ今部会長からお話がございましたように,前回のヒアリングにおきまして,交通事故の被害者団体の方々から,懲役・禁錮の上限を10年以上にすべきであるとの御意見がありましたほか,それ以前にも,交通事故の被害者団体の方々から法務省に対しまして,そのような御意見が寄せられてきたところでございます。 そのような被害者,御遺族の方々の被害実態,御心情等をも踏まえながら,自動車運転過失致死傷罪の法定刑をどのようなものにすべきかということにつきまして,私ども事務当局といたしましても,様々な検討を致しました。   しかしながら,仮に自動車運転過失致死傷罪の法定刑を10年以下の懲役・禁錮又はそれ以上とした場合,業務上過失致死傷罪の法定刑が5年以下であることとの均衡が問題になるのではないかと考えております。つまり,本罪と同様,業務上過失致死傷罪も業務上必要な注意を怠り人を死傷させた者を処罰対象とする過失犯であり,自動車運転中以外の業務上過失致死傷事犯にも,非常に悪質な過失事犯や重大な結果が生じる事犯があることからすれば,両罪の法定刑に大きな差異を設ける合理的な理由があるかどうかということについては,慎重な検討を要すると考えたところでございます。   ただ,前回のヒアリングにおきまして,交通事故の被害者団体の方々は,法定刑の上限を10年以上にすべきであるとの御意見を述べられておられ,その根拠と致しまして大きく分けますと,3点あったかと承知しております。 1点目は,運転者に注意喚起をして交通事故を抑止するためには,法定刑の上限を10年以上とする方が効果が大きいとの御意見がございました。 2点目は,窃盗罪などの財産犯ですら法定刑の上限は10年とされているのであるから,人の死傷という結果の重大性を考えて法定刑を考えるべきであるとの御意見がございました。 3点目は,危険運転致死傷罪の法定刑とのバランスを考慮すべきであるとの御意見がございました。 これらの3点等を論拠といたしまして,法定刑の上限を10年以上にすべきであるという御意見が述べられたところであったと承知しております。   他方で,事業者団体の方々は,過失犯の法定刑の引上げには慎重であるべきであるという御意見を述べられておりますので,これらの御意見を踏まえて御議論いただきたいと考えております。 ● ただ今事務当局からの御意見が示されたわけですが,これも踏まえてさらに委員・幹事の皆様の御意見も伺いたいと存じます。よろしくお願いいたします。 ● 前回は被害者団体の方々及び事業者団体の方々から,いろいろな御意見を伺いまして,非常に参考になったところでございます。ただ,先ほど別の委員もおっしゃいましたように,やはり過失犯と故意犯の区別,違いというものがあると言わざるを得ないのではないかと考えております。事務当局の案は法定刑の上限を7年とするというものですが,法定刑を上げることの根拠はあるとしても,それを倍以上に上げる,10年以上にするということには,私はやはり,これも事務当局の御説明で均衡を失するというような御説明がございましたけれども,そういう感を抱かざるを得ないと思います。重過失は5年でとどまるわけでありますので,重過失が5年なのに対して自動車による過失致死傷がすべて10年以下というのは,やはりちょっと行き過ぎなのではないかと,率直に申しまして,そういう感を持たざるを得ないというように思います。 ● 今,事務当局の方から被害者団体の3つの理由ということを言われたことに関していいますと,危険運転致死罪はもともと15年以下だったのが,20年以下に引き上げられた刑法の改正の経過がありますね,一度ね。それとのバランスからいったら,悪質事犯に今回,対応するということであったら,5年が7年というのは,私自身は当然の引き上げじゃないかなと思っておるんです。どっちかというと故意的要素を含む事案を対象にするわけですから,そういう意味からいったら,10年というのもあながち否定できないのではないかということは言えると思います,1つは。   もう一つは,警察庁の道交法改正でひき逃げを10年以下とするというのは,非常にある意味では突飛的な部分であるような感じも受けますけれども,自動車に関する交通犯罪全体の認識というのは,国民一般の認識,変化ということをとらえて言いますと,5年を10年にするということのバランスからいったら,当然,あってしかるべきじゃないかという感じはいたします。特に危険運転致死傷罪ができて,国会の満場一致でできたと思っておりますが,非常にその刑とのバランスというのは,バランスからいったら10年に当然なるんでしょうけれども,そこら辺の問題はやっぱり被害者の声に少し耳を傾けてもいいんじゃないかなという気はしております。ちょっと暴論と言われるかもしれませんけれども,10年も妥当な感じはしますけれども。 ● 私は,どちらかというと慎重にあるべきだということで5年を維持すべき,もし作るとしても,5年を維持する形で作るという形の方がいいのかなと思っております。   1つは,ここにおられる委員の先生方は,ほとんどが実務家やあるいは刑法学者が多いと思うのですが,実際問題として交通事故の加害者というのは通常の一般の刑法犯と違って,普通の生活をしている普通の人たちが,事故が起こったことによって結局重大な結果が起これば,それなりの責任を問われて家族とばらばらになり,職業を失いという形で行っているのが現状だと思うのですね。そうなった場合,私が言いたいのは現状の最上限に近いところまで来ていると言っていますけれども,現実にかつてそういう重大な事故を起こして,刑務所に服役をして,その方が出るときもなおかつ,この人をもうちょっと矯正しなければだめだという実態があったんだろうかどうか。   極論を言うと,今後,これを上げるのは教育刑的な意味合いで上げるのか,応報刑的な意味で上げるのかというところがなかなか見えていない。むしろ,これは応報刑的なニュアンスの方がかなり強いと思う。そうだとするならば,彼らが社会復帰できるようにするためには,そこの部分はある程度考える必要があるんじゃないかなと思うので,私は5年のままの方がいいのではないか。そこら辺,もし矯正局の方から今のような形で過去の事例でもって,やはりもうちょっとこの人は刑務所にいたら,少しは直るのかというような人がいたのかいなかったのか。その辺がちょっと分かれば。 ● 交通刑務所は時々テレビでも放映されていまして,被害者の人たちの意見も聞くことが多いので,その点,率直に意見を申し上げますと,次の生活のことを考えている人が非常に多くて,犯した罪について贖罪するとか反省するという機会はほとんどなされていないというのが,現実の刑の現場だと私は思っております。正におっしゃったように,普通の生活をしていて,たまたまの事故だという認識は,矯正の現場においても認識を持っておられる。ただ,被害者側にしたら従来の生活が全く一変して,5年,10年の再生に,もとの社会生活をするに非常に時間がかかっているのが現実だと思うのですよね。   だから,たまたま普通の人ですよということで刑があまりにも重いというんじゃなくて,被害に遭った人たちは,もっとそれ以上の現実に,加害者の人たちが刑を終える,それ以上の期間,ほとんどの家族がこう思っておられる。特に,北海道の被害者の会の人が言っておられましたけれども,片や執行猶予で,自分たちはずっとそれで悩んでいるんだというのが現実なんですよ。だから,被害者の人たちの声ということは,やっぱり全然,そういう処遇の段階あるいは処罰の段階に関与していませんから,やはり耳を傾けてほしいと思っております。 ● 現実には,おそらく重大な致死傷事件を起こしていて,交通刑務所へ行くということはないと思うのですが,そこはどうなんですか。 ● 業務上過失致死傷で有罪になった者ということでしょうか。 ● 業務上過失致死傷で有罪になって,しかもそれが重大なことを起こしていた場合でも,交通刑務所へ行くんですか。別の刑務所へ行っているんじゃないでしょうか。 ● 委員がおっしゃったのに答えますと,重大な事犯を起こしても大体加古川刑務所,市原刑務所が主で,いっぱいだからほかの刑務所へ回されるというのは,最近,ちょっとずつ出てきておるという実態だと思います。 ● この点は,後日,資料で示していただくことにします。 ● 刑罰が応報あるいは改善かという一般的な議論は,ちょっとここでは措くとしまして,むしろ,被害者の方たちの声を伺っておりますと,確かに10年でも足りないくらいだという切実な訴えは非常によく理解できます。ただ,被害者の御意見の中にもば,危険運転致死傷罪が設けられたにもかかわらず,現場の方で,それが十分に運用されていないという不満がありました。仮に,法定刑を10年以下の懲役とする重い罰則を新たに設けたとしても,同じように,現場がその適用を抑制してしまうのではないかという懸念もあると思うのですね。その意味では,今回提案のあった7年以下で,しかも,道交法の併合罪があれば10年までは加重できるわけですから,悪質なケースであればそれで十分な効果も得られるのではないでしょうか。多分,このあたりが,運用の面も視野に入れて,適切な方策ではないかと考えます。 ● 先ほど来,運用のところでかなりいろいろお話があったんですけれども,私はここで運用の話をあまり申し上げるのは適切ではないと思います。ただ,先ほど各委員おっしゃったとおりで,私どもとしてはこれは事実認定の問題でありますが,できる限りの努力はしてきたつもりでおります。もちろん,御遺族の皆さんにとってみれば,いろんな御不満はあったんだろうと思いますが,ここで申し上げるまでもなく,やはり証拠の問題もございまして,なかなか難しいというところはございます。その意味では,今回,例えば業務性を外すとか,いろんな意味で配慮がなされておりますので,私ども現場の立場からすれば,このような形で立法がされてくれば,ある意味使いやすくなってくるのかなという意識はございます。 ● 法定刑の引上げという点は理論的にも重要な意味がありますので,学者の委員を始め,皆さんに積極的に御発言をお願いしたいと思います。いかがでしょうか。 ● 1つ質問なんですが,現行刑法における法定刑の上限の刻みが,5年,7年,10年となっているのは確かにそうですが,必ずしも必然的なものではないことでして,例えば8年以下にするとか,あるいは逆に6年以下だということも不可能ではないと思うのです。例えば強盗致傷は6年以上,これは下限ですけれども,そういう意味で例えば8年以下というような法定刑の規定の仕方は考慮に値しないのでしょうか。 ● なぜだめなのかと言われたら,それは多分なかなか難しいと思います。法定刑というのは今おっしゃったように,刑法では,刻みでいくと,1年,3年,5年,7年とあって,2年というのもありますけれども,5年の次は7年,7年の次は10年となっています。そこで,あえてその間の法定刑を作るというのは,また逆にその必要性をどう説明するのかという問題が出て来ると思います。 ● 刑法の中で,5年,7年,10年とされている。その理屈を説明するのは難しいわけですけれども,少なくともここで仮に8年というものを作るとすると,では,7年と8年は何が違うかという説明が逆にできるかという問題はあるんだろうと思います。ちょっと例に言われた6年の方は,下限として比較的最近作られたものですが,これは当時の議論として,酌量減軽によって執行猶予が可能になる数字ということで,まさに合理性があるということで6という数字を設定したわけで,今回,そういう意味で8という数字を選択するとすれば,7と比べて何が1年違うのかという説明を逆にする必要があるのではないかと考えております。 ● そういう前提に考えると,今,一番はっきりした立法事実は何かといえば,おそらく量刑水準が上がってきて,比較的5年に近いところの刑も出始めてきている。上のあたりが窮屈になり始めているということではないかと思われます。もし仮にほとんどの事件が5年のあたりの刑に上がっているというのであればまた別かもしれませんが,今の量刑の状況を前提として,その状況をいわば追認する形で,5年から7年に1ランク上げて,それで余裕を持たせるというのは立法論として穏当かなという感じがします。 ● 先ほど今回の法改正は応報ではないかというようなお話があったんですけれども,やはり刑罰に応報が伴うのは当然のことと言わざるを得なくて,応報の側面があるからといって,それで交通事故抑止の効果がないかといえば,そうじゃない訳で,やはり最終的には応報の側面を持ちつつ,効果があるかどうかというのが非常に重要であると思います。そうしますと,先ほどからお話があるように,刑が上がるということは,それだけ重い犯罪であると国民が認識するわけですから,それによってより注意しなければいけないという度合いが強くなるというのは当然のことで,私自身も運転はしますので非常に痛感しますけれども,本当にこれまで以上に気を付けなければいけないなと,思うのではないかとは思います。その意味で交通事故抑止の効果もあると考えています。 ● 確かに応報という要素を抜きにして刑罰は考えられないということは,私も思っております。ただ,今までのやり取りで,,主として議論になっていたのは,むしろ抑止力というか,この規定を設けることによって,どれだけ抑止効果が得られるかの問題であったと思います。こうした観点からしますと,刑法の一般予防的な部分が問われていると思います。もちろん,実際に犯罪を犯して交通刑務所へ収容された人たちの特別予防的な側面を無視するわけではありませんが,むしろ,そういう事故が起きてしまえば,被害者の人たちは一生,その傷に苦しむわけですから,そういう意味では,事前に抑止するという側面を重視して,皆さん議論されていたと思います。 ● 現在の業過の対象から自動車運転というものを切り出した場合,先ほどの第1の論点に戻るのですけれども,危険な運転か否かは別にして,重大な結果というものは,自動車以外でも起こり得るわけです。しかし,その結果発生の容易性というのでしょうか,大量かつ重大に事故が起こるということを考えて,かつ飛行機や船舶などは一般市民が容易に入手し運転するものではありませんけれども,多くの人がそのような危険に直面しているというところを考えた場合には,自動車運転の際の注意義務を高目に設定することが必要であり,そうすると,まず,現在の5年より法定刑を上げる理由は十分あろうかと思います。   他方で,危険運転致死傷罪の話も出ておりますが,そこは御案内のとおり基本犯として道交法の中でもまさに悪質・重大なもの,故意犯がベースになっておりますから,それと比較して10年までというのは,少し行き過ぎである気がいたします。先ほど来,故意犯と過失犯の区別ということが話題になっておりますが,この自動車運転過失致死傷罪の場合,道交法違反については未必の故意があるかもしれませんけれども,やはり人の死傷という結果との関係では過失しかないわけですので,それでも10年までいくというのは少し行き過ぎであって,7年というのが無難なところではないかと思っております。 ● ちょっと申し上げにくいことですけれども,被害者の方が非常に悲惨な生活を強いられ,加害者はのうのうとしているというようなご発言も第2回会議のときにもあったと思いますが,それは自動車運転の被害者の方に限られないわけで,犯罪の被害者の多くは,やはり同じように非常に苦しんでおられると思います。加害者にひどい者がいて,感情を逆なでするような発言をしたりするというのも,他の犯罪についても言えるわけですから,お気持ちはよく分かるんですが,自動車運転について加重する理由としては弱いのではないかという気がいたします。   そうではなくて,皆が自動車運転をして事故が多発していて,悲惨な事故が起こっているという自動車運転のもつ一般的な危険性に着目して法定刑を上げるというのがメインになるとすれば,やはり業務上過失致死傷罪と比較して,自動車の一般的危険性をどの程度に評価するかという判断をしていかざるを得ないのではないかと思います。やはり2年程度上げるというのが全体のバランスから見て妥当で,そういうところに落ち着くかなと思っております。 ● 先ほど7年か8年かというお話がございましたけれども,法定刑というのは絶対的に何年でなければならないということはないと思うのですね。結局,究極的にはバランスの問題ではないかと私は思います。そうしますと,現在,業過,それから重過失は5年で,私はこれ自体を上げるということは,現時点では必要がないと考えておりまして,業過,重過失を5年にとどめておきながら,その前提で,自動車運転過失致死傷罪についての法定刑を考えるとしますと,これを引き上げる理由はあるのではないかと個人的には考えておりますが,そうすれば,やはり7年というのが穏当なところであって,一挙にやはり倍にするは,先ほども申しましたように,業過,重過失を5年としながら10年までいくというのは,やはりちょっとバランスを欠いていると見ざるを得ないと私は思います。 ● 法定刑の引上げについては慎重でありたいという委員の御意見に私も共感いたします。様々な御意見がある中ですけれども,やはり法定刑の引上げ,素朴な言葉で言えば重罰化ということについては慎重でありたいと思います。   ただ,現行法の制定された明治末期,それから大正,昭和の初めというような古い時代と現在とを比較しますと,いろんな点で大きな違いを生じていると思いますが,その一つは人間の生命に対する評価が非常に今高まってきている点です。それは家庭の事情が大きく働いているわけで,昔は一つの家族に子どもが5人,6人と生まれて,そのうち1人が疫痢で死ぬ,もう1人はジフテリアで死ぬというようなのがごく当たり前のことでありましたが,現在は子どもが1人かせいぜい2人,そして,その子どもたちが大事にされて成人していく,乳幼児の死亡率は極めて低くなっているというようなのが現状でありますので,そこで,おのずから育ちつつある生命に対して高い評価が与えられるというのは,自然の流れであろうかと思います。そういう点が法定刑の考慮にある程度反映してくるのは,やむを得ないところかなという気がするわけです。 ● 幾つか申し上げたいのですが,1つはいろいろ委員・幹事の皆様のお話を伺っておりまして,故意犯と過失犯の区別でありますとか,あるいはいろいろな法定刑のバランスの問題は,私どもも非常に大きな問題であると考えて,そういうことを踏まえて,7年ということでいかがかということで提案をした部分があるわけですが,今の関係官のお話にもあったように命の重さといいますか,そういうものについての評価あるいは国民の考え方,意識というのが大分変わってきた部分もあります。かつて,凶悪・重大犯罪ということで,故意の生命・身体犯に対する法定刑を引き上げたというのも,そういった国民の意識を反映していたところであります。   今回の被害者・遺族の皆さんの御意見を伺うと,やはり,そういう生命を奪われた,あるいは重大な傷害を負わされた,そういうことについての評価があまりに低過ぎるではないか,それが7年ではなお低いのではないかということが,基本なのだろうと思っております。これを踏まえまして,なお故意犯と過失犯の区別でありますとか,いろいろな法定刑のバランスというものを一方で考えざるを得ないというところが,非常に悩ましいところでありまして,私どもとしてもどういう解決策があるのかということを,いろいろ考えたところでございます。   なかなか正解が最終的にはすぐに出ないところかもしれませんが,一方で過失犯に対する処罰というのは,どうあるべきなのかというのがやはり非常に大きな問題であり,これは,自動車の問題にとどまらない問題でして,過失犯に対する刑罰というのは何のためにあって,これをどういう重さとすべきなのかということを根本的に考えないと,最終的な結論が出にくいところではないのかなというのが非常に率直なところでございます。   今回の法整備は,自動車運転ということについて,最近のいろいろな事犯の実情ですとか,あるいは量刑というものを踏まえて,当面,いろいろなバランスの中で,こういう法定刑が相当ではないかと考えているところでありまして,より根本的にはやはり,その過失犯全体をどう取り扱うべきかということを,私どもとしてももう少し時間をかけて考え,また議論をさせていただきたいと考えているというのが1点目でございます。   それから,もう一つは先ほど被害者・遺族の方々の御意見として,10年以上にすべきだということの理由を幾つか説明をしたわけですが,それに含まれているといえば含まれているんですが,ややちょっと違う指摘として,危険運転致死傷罪が作られた以降,ひき逃げが増加しているが,これは危険運転致死傷罪を免れるために逃げているんであって,そういう逃げ得を許すのはけしからんから,それを抑止するために,10年,さらには15年という法定刑が必要ではないかという議論がございます。   それも非常になるほどという面がありますし,お気持ちはよく分かるところではありますが,その論点は必ずしもこの場で議論がされなかったので,もし御意見があれば是非議論をしていただければと思いますが,やはりひき逃げはもちろん許されないし,それが増えるということに対しては,何らか抑止の方策をとる必要があるということは当然でありまして,今回,道路交通法の中でも,その点をかなり重視して改正を計画されているということでございます。   また,運用の面でも,そういったひき逃げ事犯に対して,厳しく真相を解明して,危険運転致死傷の事案であれば,その立証に努めるべく捜査をするというような運用がとられているところであります。 それにもかかわらず,なお,ひき逃げを抑止するという観点から,逆に自動車運転過失致死傷罪の法定刑を引き上げるというのは,なかなか理屈としては難しいのだろうということを考えております。そういった御意見を再三私どもも伺っているわけですが,なお,そこまで踏み切ることについては,理論的にも難しいところがあるかなと考えたところでございます。 ● 今の点に関して何かございますか。なければ,次の論点に移っていきたいと思います。   法定刑に関する(2),(3)の問題でございます。自動車運転過失致死傷罪の法定刑につきましては前回のヒアリングにおいて,交通事故の被害者団体の方々から,致死事件や重傷害事件については,法定刑の下限を設けるべきとの御意見や罰金刑を選択刑として設けるべきではないとの御意見がございました。 この論点につきましても御議論いただきたいと思いますが,事務当局の方で,この点について御意見がございましたらどうぞ。 ● ただ今部会長からお示しのありました論点につきまして,事務当局としての考えを述べさせていただきます。   平成18年には,自動車運転による過失致死傷事犯を含め,業務上過失致死傷罪等のうち,特に死亡や重大な傷害が生じた事案についても罰金相当の事案があることを前提として,そのような事案に対し,その事案に応じた適正な科刑を実現するために,その罰金刑の上限額を50万円から100万円に引き上げたところであります。このような経緯からしますと,これまで,業務上過失致死傷罪等とされてきた事犯のうち,自動車運転によるものについて別途罰則を設けようとする自動車運転過失致死傷罪についても,平成18年に引き上げられた業務上過失致死傷罪等のそれと同様の罰金刑を設けるべきと考えたところでございます。   実際のところ,死亡や重傷害の結果が生じた過失事犯の場合でございましても,例えば加害者の過失は認められるものの,被害者自身の行為も結果発生に大きく影響を与えているような事案で,円満な示談が成立し,被害者側も宥恕している事案などが考えられますことからしますと,それぞれの事案に応じた処分を実現するためには,選択刑として罰金刑を設ける必要があり,同様に懲役刑・禁錮刑につきましても,1年以上とするなどの下限を設けるのは相当ではないと考えております。   なお,致死・重傷害とそれ以外の傷害の法定刑を分けることについても,重傷害の意義をどのようにとらえるのかなどの問題がございまして,致死・重傷害とそれ以外の傷害との法定刑に一律に差異を設けることには慎重な検討を要すると考えております。 ● ただ今事務当局から御意見が示されましたけれども,それを踏まえてさらに委員・幹事の皆様方の御意見をお伺いしたいと思います。よろしくお願いいたします。 ● 被害者の遺族の人たちの声が十分に伝わっていなかった部分もあるので,私の方からちょっと説明させていただきますと,交通事犯を起こして逮捕・拘束される割合というのは,1割からせいぜい2割ぐらい,まず,普通の犯罪扱いをされていないところから始まります。現実に処罰される,処理ですね,処罰というよりも処断される段階でいくと,不起訴が9割で1割起訴されても,そのうちの9割が罰金,つまり100人中1人だけが正式裁判となって,そのうち9割が執行猶予なんですね。今,現実に執行されている人たちは,業過だけでいくと1,000人ぐらいいますけれども,現実にはほとんどの1,000人中999人が従来と変わらない生活,つまり執行猶予も従来と変わりませんし,罰金もお金さえ払ったら終わりと。次に事故を起こすんじゃないかと,こういう思いでおられる。   特に死亡事故の遺族は何の刑罰が意味があるんだと,立法論的な部分まで含めますと,例えば今の交通事犯について,現行の懲役・禁錮あるいは罰金というのが果たして処断刑として適切なのかと,別の方法もあるんじゃないかと。例えば罰金で刑を反省するとかいうことは一切考えられないと。例えば9割が不起訴となっている現実がありますけれども,この運用自体は是認するとしましても,モラルが回復するとは思えない。こういう声が非常に多いのです。モラルが回復するとは思えない。だから,現実の交通事犯については別の方法も考えてもいいんじゃない。こういう場で私が言うこと自体,不適切かもしれませんけれども,そういう声が裏にあると,そういうことです。 ● 私は法定刑の上限の問題と下限の問題は,かなり問題が異なるという感じがしています。上限は確かにお示しいただいた統計資料なんかでも,特に被害者が複数の場合について,量刑水準が上がってきて,ちょっと窮屈になりつつあるということは言えるので,上限を引き上げることについてはそれなりの理由があると思います。また,理論的にも我が国の刑法は多くの国と同じように,同一の行為で複数の被害者に結果が生じても,観念的競合になって刑が吸収されてしまいますので処断刑は上がらないようになっています。この点はドイツ刑法でも同じで,ドイツの量刑法の教科書を見ると,法定刑の最上限の部分というのは基本的には観念的競合になり刑が吸収される場合を予定しているのだという趣旨の記述があり,それもある程度納得できることかなと思うのですね。ということで,上限については確かに今量刑水準が上がってきて,きつくなってきているので,それを少し上に上げてやって,裁判所に対し余裕を持たせてやるというのは立法事実からも支持できるんではないかと思います。   しかし,法定刑の下限について見ると,そういう立法事実があるようには見えません。上限について上げるのと下限を設けるのとでは,実務に対し非常に違ったメッセージとなります。上限を上げるときには,裁判所に対して,立法者としてはもっと量刑水準を上げなさいよというメッセージとしては必ずしも働きません。立法者の側からの,今の量刑水準は低過ぎる,もう少し重く処罰しなさいというメッセージになるかといえば,必ずしもそうではないのです。最近,学界においては,法定刑が量刑のスケールなのか,量刑の枠なのかという議論があったところですが,一般的には量刑枠論がとられていて,法定刑の引上げはダイレクトに量刑水準の引上げに直結しないと考えられている。現状を追認する形で少し余裕をもたせておいて,それをどう使うかについては,裁判所が個々の事例ごとに判断していただければいい。裁量の枠を広げておいて,実務に任せるというのが法定刑引上げの意味なのだという考え方が文献においては強いと思うのですね。   ところが,法定刑の下限をもし設けるとなると,これはそれ以上低い刑を科すなとという話になります。裁判所又は実務に対して,今の実務を変えることを強制することになってくるのです。追認ではなくて積極的に変更しろということになりますので,そうなりますと,かなり強い立法事実が必要になってくるかなと思います。少なくともいただいた資料あるいはヒアリングあるいは今日の議論を聞いていても,下限を設けなければいけない立法事実が私には見えてこない。そのような意味で,下限の引上げについては,かなり慎重でなければいけないのではないかと思います。 ● あともう一つ,過失犯というものの特殊性があるのではないかという気がしております。故意犯の場合には故意があるかないかという部分がありまして,これ以上はやはり軽い評価はできないという法定刑の下限というものは,故意犯の場合にはなじむ。しかしながら,過失犯というのは究極的には注意義務違反で程度問題に結局,最終的には帰着するのではないかというように思います。そうすると,非常に重大・悪質な重い類型もあれば,軽い類型もあるということになるはずであって,軽い類型は軽いものとして扱うべきだというように私は思います。その意味では,やはり軽い類型もそれなりの処遇は可能なような形で,現状どおりの罰金刑まで維持した法定刑を設定するのが適当ではないかと考えています。 ● かつて,50万から100万に上げたのは貨幣価値の問題とか,そういうことで上げたわけじゃないのですよね。 ● 貨幣価値の問題というわけではございません。 ● それで,私はこれは場合によっては200万円の罰金という形にして,もうちょっと公判手続にいかずに,200万だと公判手続になるかもしれないけれども,いわゆる社会内でできるような形の道を作るということが,考えられないのかなと思っているもんで,ちょっとそういう質問をしたんです。   かつて,例の公務執行妨害といわゆる威力業務妨害との関係で,30万,50万の議論があったときに,30万は,原則はあくまでも要するに実刑なのだけれども,例外的にという意味で30万という案が最初出てきたと思うのですけれども,今回のこれについていくと,100万というのは恐らくそれなりの処理をする必要があるから,原則・例外と関係なく,場合によってはこういう処理があり得るということで作られたものだと理解しているんですね。そうだとすると,さらにそれを広げて,枠を広げるということは考えられないかなということで,ちょっと議論の素材を提供するという意味でお話したんです。 ● 今の委員のお話は,おそらく100万円を200万円にすることによって,現在,執行猶予を含めて懲役が科されている事案のうち軽い部分のものについて,罰金を科すという形の処理というものを想定して,罰金を引き上げることとすべきではないかということかと思いますけれども,もちろん,それは御議論をいただければいいわけでありますけれども,私どもとしてはやはり,そういった形で量刑を引き下げる方向で,法定刑を変更するということについては,先ほど来議論に出ておりますような生命・身体の価値についての評価,国民の意識といったことからすると,逆の方向になるのではないかと考えております。 ● 今の論点につきまして,何かほかにございますでしょうか。 よろしいでしょうか。   次は,刑の免除規定に関する論点でございます。この点につきましては,前回のヒアリングにおいて,交通事故の被害者団体の方々から,この規定を廃止すべきであるとの御意見がございました。 このような御意見を踏まえまして,この論点につき,委員・幹事の皆様の御意見をお伺いしたいと思いますが,まず,事務当局の方から御意見がございましたらどうぞ。 ● 今,部会長からお示しがございました論点につきまして,事務当局としての考えを述べさせていただきます。   現行の刑法第211条第2項は,自動車運転による過失傷害事犯の中には,軽傷で,情状もよく,明らかに形の言渡しを要しない軽微なものが少ないことを踏まえ,そのような軽微な事案については,法律上,刑の言渡しをしないことができるということを明らかにすることが適当と考えられたことから,法制審議会の御審議・答申を経た上,平成13年の刑法の一部改正により,自動車運転による過失傷害事犯のうち事案軽微なものに対する刑の裁量的免除規定として新設されたものでございます。 そして,そのような免除規定を置く必要性は,自動車運転による過失傷害事犯を対象とする自動車運転過失致死傷罪の新設後においても,変わるところではございませんので,現行制度と同様に,本罪のうち事案軽微なものに対する刑の裁量的免除規定を設けておく必要があると考えているところでございます。 ● ただ今事務当局の意見が示されましたけれども,この点を踏まえてさらに委員・幹事の御意見を伺いたいと思います。 ● まず,軽微な事案というのは何をもって判断するのかという点で,1つ大きな疑問があります。こういう規定をわざわざ作る必要があったのか,例えば運用で現実に不起訴の事案が非常に多い中であったのか。それと,現実の運用がどうなされているかということをいいますと,例えば頭部外傷を負って2週間の診断書で,5年ほどの間に神戸のある女性が高次脳機能障害になって,ほとんど1級事案なんですけれども,後日,検察が不起訴をやり直したという事件もありました。   軽微な事案というのは,初期の診断書で医者が見込み診断をできないと現実は言っているのに,見込み診断書を警察とかがどちらかというと出させて,診察用じゃなくて捜査用に出させて,それで通用しているというのが現実の今の捜査体制です。ですから,例えば被害の実情について,後日,すべてチェックしているかというとそうじゃなくて,事故が発生して間もなくの期間に,見込み診断書で2週間とかいうのがすべて切り捨てられると。ところが,後日,そうじゃなかったという事案は,非常に私の方では多いと思っておりますけれども,そこら辺の判断基準をどう考えておらえるのかを質問したい。 ● 正に御指摘の点は事案によるというところになろうかと思いますけれども,現行の刑法211条2項は,傷害が軽いとき,情状によりとなっておりますが,結局,その傷害の程度や当該事案の犯情,そういったものを総合的に考慮して,判断されるべきものだろうと考えております。 ● 検察批判をするわけじゃないのですけれども,非常に運用の実情において業過事案のほとんどが不起訴になっている,9割が不起訴になっている実情のもとでこういう法律ができたために,正にもっと増えるんじゃないかという部分は,非常に被害者側で思っておるところであります。だから,現実にそれを作る必要があったのかというのが非常に大に疑問なんですね。ですから,運用に任せるといっても,現実の基準というのを条文に書いていませんから,例えば3週間以内の基準が4週間以内になるかもしれませんし,警察でやっている2週間というのが3週間になるかもしれない。非常に現場の運用に任せるといっても,手を抜く捜査というのが現実にまかり通るんじゃないかなと,私の方では思っております。   現実に,初期の診断書だけで済ませている実例が非常に多いのです。だから,それは捜査の問題だといえば済む話なんですけれども,実は立法に問題があって現場に任せていると。例えば危険運転の適用要件に関しても,現場に任せるんだということなんです。今回の軽微な事案についても,現場に任せるということだと現実には思うのですよ。そこら辺はどうなのか。現実の運用を是認するような話以上に問題だと思うのですけれども。 ● 平成13年当時,どのような理由で,この免除規定を設けたのかについて,事務当局の方から説明させていただきますと,今日,自動車が広く普及して国民の日常生活に不可欠なものとなり,自動車運転による業務上過失傷害事犯を多くの国民が日常生活の過程で犯しかねない状況になっており,近時,年間90万件近い自動車運転による業務上過失傷害事犯が,刑事事件として捜査・処理されております。   特に交通事故につきましては,警察官への届出が法律上義務付けられまた,保険金支払の手続上も事故の届出が必要とされているため,一般の犯罪であれば届出もなされないような軽微な事案であっても,刑事事件として捜査処理がなされるものが多数含まれているという特殊性がございます。そういったことから,自動車運転による軽傷事犯の中には,その情状に照らし,明らかに処罰の必要がなく,刑の言渡しを要しない軽微なものも少なくないことから,そのような軽微な事案については,法律上,刑の言渡しをしないことができる旨を明らかにすることが適当であろうと考えられました。そこで,この免除規定が設けられたものでございます。 ● この免除規定を当時作ったときにも,やはりそのような規定を設けることによって,安易に軽傷事犯について不起訴にされるということになってはいけないのではないか,あるいは,そういうことが心配だから設けるべきではないのではないかという議論があったと理解しております。   当時の議論もそうでありますけれども,やはり,その傷害が軽いときはと規定しているのは,別にその傷害が軽いときという認定をいい加減にやっていいということでは決してないわけでありまして,傷害が軽いということの認定,あるいはその情状によりというその情状の認定というものは,当然のことながらきちんとされなければ,この規定の意味はは失われるといいますか,逆に弊害をもたらすことになるわけであります。ですから,当然,そこは警察なり検察において,きちんと捜査をした結果の証拠に基づいて処理がされるべきであると考えているわけであります。   ただ,御指摘のような事案について,もちろん,その詳細を理解しているところではございませんけれども,検察の方でも当然のことながら,こういった軽傷事犯についてどういう捜査をすべきか,病状の照会についてどういう点に留意して,どういう確認をするのかといったことについてもいろいろと吟味し,あるいは必要に応じて指示を出しているところだと思いますので,そのあたりの運用の実情につきまして,次回までに分かるところがあれば,御紹介をさせていただければと思いますし,また,検察実務につき御紹介を願える委員の方で御紹介をいただけましたらと思います。 ● 刑の免除規定につきましては,実体法的な効果を伴った別の要素もございます。運用の問題と,それから実体法上,それを規定することの持つ意味というのは,一応区別しなければいけない問題だと思いますので,そういった点も当時の立法の段階で議論されております。この点につきまして,御意見がございますでしょうか。 ● 私が言いたいのは,現実にはほとんどの傷害事犯,軽い事犯は不起訴になっているのが現実の上で,なぜ,こういう規定を設ける必要があったのかということなんですね。必要ないんじゃないかと。だから,どういう場面でこの条文が生きるのかということは,私はないんじゃないかなと今でも思っているんですけれども。 ● 実体法上の話に限定させて頂きますが,現行法上は,第211条第2項で規定されている刑の免除規定は「自動車を運転して」となっておりますが,今回,新たに自動車運転者過失致死傷罪として自動車運転に伴う過失犯を切り出して別個の規定を設けるとすれば,これらを自動車運転ということで一くくりにして,新たに作る条文の中には一括して規定することは十分に考えられるところだと思います。ただ,そのような形で,自動車運転過失致死傷罪と旧来の免除規定をセットにした新しい条文を設けてしまうと,ひょっとしたら,あまり抑止効果が得られないのではないか,むしろ,減殺されてしまうのではないかというあたりはいかがでしょうか。   つまり,自動車運転過失致死傷罪として,自動車運転を切り出した場合,刑の免除規定もそれとセットになるのか,それとも,従前どおりの状態で,別途211条2項に置かれる形になるのかということを伺いたいのですが。 ● そこはどのような形で法律を作るかということですけれども,おそらく,今,業務上過失致死傷から自動車を運転する場合の不注意によるものを切り出すということでございますが,正に今ある免除の規定というのは,自動車運転に特化したものですから,おそらく,立法的にはそちらとセットにするという形になるのかなと思います。ただ,そうなった場合に,今ある規定の意味が失われるのかというと,そうではないと思われますけれども。 ● この点は,実務上の影響という話になってしまうのであえて触れなかったのですが,新しく条文を設けたにもかかわらず,その中にまた刑の免除規定が入ってしまうと,あまりインパクトがないのではないかといった懸念です。ただ,これはあくまでも事実上の話なので,特にお答えいただく必要はございません。 ● 現行の刑法211条2項の規定は表面的に見ますと,名宛人は裁判所でありますが,裁判所で刑の免除を言い渡されたというケースは,ほとんど聞いたことがありません。実質的にどこで働いているかといえば,おそらく検察庁で公訴を提起するかどうかの判断に際して,考慮の一つになっているのかと思いますけれども,それがどの程度のものであるかというのは,部外からは全くわかりませんのですが,211条2項の存在は現在の検察庁の公訴提起の基準の一つとして働いているんでしょうか。 ● 実務的には御案内のとおり検察官には起訴裁量権がございますので,様々な事情を考慮してやっておりますから,当然のことながら,これも踏まえて結論を出しているというところでございます。 ● この自動車運転による過失傷害事犯というのは,もちろん,検察,警察も含めた捜査機関の事件の中でも,相当のボリュームを占めているという面がございます。他方において国民の側から見れば,一方で被害者になることもあれば,一方で加害者になることもあるというものでござますので,非常に国民に近いところで起きる犯罪という面もございます。   そういう中で,今回のように例えば自動車運転について法定刑を引き上げるということで,重いものについてはきちんと重く処罰をするということが必要な反面,やはり軽微なものについては,それに応じた適切な処理,処分というものも必要だと考えられることであります。その意味で,検察の運用の在り方の当否について御議論があるかもしれませんが,軽傷の事犯でかつ情状が必ずしも悪いとは言えないような事犯について,起訴をしない形で処理をするというのも,あながち不合理な話ではないと考えられますが,そういう処理をすることについては,もともとそういう軽微な事犯について,そのような形の捜査処理をすることに一定の合理性があるということを,少なくともこの免除規定は,指し示している部分があるんだろうと考えております。そして,この規定が,検察の運用の中でどう生かされているかといえば,やはり重いものについては厳正に対処し,まさに軽微な事犯については,それに応じた処理をするという中で機能しているということではないかと思います。 ● ほかにいかがでしょうか。 要綱(骨子)「第一」に関しまして,御議論いただきました論点につき言い落とされたことや,今御議論いただきました論点以外の点につき御意見等ございましたら,お願い致します。 特にございませんようようでしたら,要綱(骨子)「第一」については終えさせていただきます。なお,言い残した点があったり,また別に後日議論したいということであれば,次回,この部分についてまた改めてお伺いいたします。   続きまして,要綱(骨子)「第二」の危険運転致死傷罪関係を議論していきたいと思います。要綱(骨子)「第二」の論点といたしましては,危険運転致死傷罪の対象を「自動車」と改め,二輪車もその対象に含めることでございますが,この点につきましては,前回のヒアリングにおいて,交通事故の被害者団体の方々は,おおむね御賛同されていたところでございます。 この論点につきまして委員・幹事の皆様の御意見をお伺いしたいと思いますが,まず,事務当局の方から御意見がございましたらどうぞ。 ● 今,部会長からお示しのありました点につきまして,これも第1回会議で述べましたところと重なる部分もございますけれども,事務当局としての考え方を述べさせていただきます。   危険運転致死傷罪が新設された後に発生した二輪車の運転者による業務上過失致死傷事犯を個別具体的に見てまいりますと,酒酔い運転によるもの,赤信号無視によるもの,著しい速度超過によるものなど,危険かつ悪質な運転行為によって,被害者を死亡させ,あるいは被害者に加療期間1か月以上の重傷を負わせるなどの重大な結果を生じる死傷事犯が少なからず発生している状況にございます。 また,前回の交通事故の被害者団体の方々の御意見や,本日お配りしました参考資料にもございますように,二輪車による事故の被害者・御遺族の方々などから,危険運転致死傷罪の対象が四輪以上に限定されていることを疑問とし,その対象を二輪車にも拡大することを求める声が見られるようになっております。 そこで,二輪車の悪質かつ危険な運転行為による重大な死傷事故の事案の実態に即した適正な処罰を行うため,危険運転致死傷罪の対象を「自動車」と改め,二輪車もその対象に含める必要があると考えたところでございます。   なお,前回のヒアリングで,「自動車」の定義に含まれる二輪車に原動機付自転車も含めるべきであるという御意見がございましたけれども,これは第1回会議の際に御説明させていただきしたように,「自動車」には原動機付自転車が当然に含まれると考えているところでございます。 ● ただ今事務当局からの意見が示されたわけですが,それを踏まえまして,更に委員・幹事の皆様方の御意見をお伺いしたいと思います。 ● 質問なんですけれども,二輪車が第1当事者となっている死亡事故の中には,二輪車の運転者の方が死亡するというケースが結構多いのではないかと思うのですが,配布資料4の6ページの資料の死亡事故発生件数は運転者が死亡した件数も含めたものなのでしょうか。 ● これは運転者が死亡した場合も含む数字でございます。 ● その場合に,運転者が死亡した場合と相手側が死亡した場合の率か何か分かりませんでしょうか。もちろん,運転者が死んだんだから,人命という観点から見れば重大な事故かもしれませんけれども,処罰という観点からいう場合には,ちょっとその辺は関係がありそうな気がするんですが。 ● 今,私どもで,この統計の中にどれぐらいの割合で運転者の方が含まれているのかというところの統計的な数字は,持ち合わせておりません。  ただ,同じく第1回会議で配布させていただきました配布資料5の事例集の3つ目,これは「二輪車の危険・悪質な運転による死傷事犯について」という表題のものでございますが,これは,二輪車の運転者が,危険・悪質な運転による死傷事犯を犯した上,自身は生き残り,公判請求されているという事案について分析させていただいたものでございますので,そういう意味で運転者が生存して,それで重大な結果を生じさせるような事案は少なからず発生しているところでございます。 ● そうしますと,この事例というところでは平成13年以降ということですけれども,数としては統計資料の数よりずっと少ないですよね,二輪。この辺のこの資料の具体な事例というのが平成13年以降,最近までの事例を網羅したものだとすると,そういう二輪車によって他傷行為といいますか,死傷させたというケースはあまり多くないと見えるんですけれども,そう考えていいのでしょうか。 ● おそらくこれは単純な数の多い少ないというのではないと考えております。 お示しした事例集は,飲酒運転中,赤信号無視,高速度走行中の死亡重傷事故という形で,二輪車の危険・悪質な運転による死傷事犯を類型的に分けておりますが,,これは危険運転致死傷として設けられている構成要件を念頭に置いて,それに見合うようなものということで分析したものでございます。 ただ御理解いただきたいのは,現行法上,二輪車は危険運転致死傷罪の対象から外れておりますから,二輪車による死傷事犯について危険運転致死傷罪が成立するかどうかという観点からの捜査は一切やっておらず,もちろん同罪による起訴もされていない中で,二輪車の運転による死傷事犯のうち業務上過失致死傷罪で公判請求されたものを分析し,危険運転致死傷罪に匹敵し得るのではないのかと考えられるものをお示ししたものでございます。 このような前提で考えますと,我々としましては,この数自体が,少ないと評価されるものであろうかと考えるところでございます。 むしろ,この発生状況を見ますと,危険運転致死傷罪に匹敵するような態様の事故をたまたま四輪車の運転者が犯したら,同罪で処罰されるのに,それが二輪車になったら同罪で処罰されないのだというのは,やはり不合理なのだろうと思っております。 ● 念のためですが,こちらの事例集の3つ目の方の資料は上に書いてあるように,公判請求がされて,裁判所の認定事実から危険・悪質と伺われるものを拾ったということでありますので,その前の方の統計資料とは,そもそもそのとり方が違うということがございます。 ● ただ今の論点に関しまして,ほかにいかがでしょうか。 ございませんようでしたら,要綱(骨子)「第二」についてはこれで終えさせていただきます。 よろしいでしょうか。   当初,論点項目の第3の「その他」につきましても御議論いただく予定でしたが,今日,議論が非常に活発でございまして,とてもここまでいくゆとりがございませんでしたので,これは次回に回したいと思いますが,よろしいでしょうか。 それでは,この第3につきましては,次回,御議論させていただきたいと思います。   なお,委員・幹事の皆様方には,この要綱(骨子)の修正案,あるいはそのような堅苦しいものでなくても,良い法律を作るための御協力としての御意見等がございましたら,できる限り,次回の会議より前に,事務当局の方に御提出いただければと存じます。御意見がございましたら,是非お寄せいただきたいと思います。 ● 1点,事務当局の方から発言させていただきたいと存じます。 前回のヒアリングにおきまして,交通事故の被害者団体の方々からこの要綱(骨子)に関する御意見のほかにも,諸制度の運用の在り方等について,様々な有益な御意見を賜ったところでございます。 これらの御意見につきましては,法務省の関係部署に伝えましたことを申し添えさせていただきたいと存じます。 ● それでは,次回は2月26日月曜日に,法務省地下1階の大会議室において,会議を行うことといたします。開始時刻につきましては午後2時からということにさせていただきますので,よろしくお願いいたします。 次回は,まず第3の論点につき御審議をいただいた上で,本日の議論も踏まえまして,3巡目の御議論として詰めの御議論をお願いできればと存じます。   それでは,本日はこれで散会といたします。 どうもありがとうございました。 -了-