法制審議会 第157回会議 議事録 第1 日 時  平成20年9月3日(水)    自 午後1時32分                         至 午後2時27分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題   1 主権免除法制の整備に関する諮問第85号について   2 国際裁判管轄法制の整備に関する諮問第86号について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 (開会宣言の後,法務大臣から次のようにあいさつがあった。) ○保岡大臣 法制審議会第157回会議の開催に当たり,一言ごあいさつを申し上げます。   委員及び幹事の皆様方におかれましては,公私ともに御多用中のところ御出席をいただき,誠にありがとうございます。また,この機会に皆様方の日ごろの御尽力に対し,厚く御礼を申し上げます。   さて,本日新たに御検討をお願いしたい議題の第1は,主権免除法制の整備に関する諮問第85号についてでございます。   我が国においては,現在,外国及びその財産がいかなる場合に我が国の裁判権に服するかという点について定めた法律はございませんが,これについて国内法を整備している国なども少なくございません。また,平成16年12月に国連総会において,国及びその財産の裁判権からの免除に関する国際連合条約が採択され,我が国も平成19年1月に署名をいたしているところでございます。   そこで,外国を当事者とする裁判手続及び外国の財産に対する保全処分又は民事執行に関する裁判権からの免除の範囲等についての法制を整備することについて,締結に向けた作業が進められております前述の条約を踏まえて,御検討をお願いするものでございます。   続きまして,議題の第2は,国際裁判管轄法制の整備に関する諮問第86号についてでございます。   社会経済の国際化に伴い,国際的な民事紛争が増えており,このような紛争においては,いずれの国が裁判管轄権を有するかという国際裁判管轄の問題が生じることがございます。ところが,我が国の民事訴訟法には,国際裁判管轄について明確に定めた規定がなく,実務は最高裁判所の判例が示した準則に沿って運用されていることから,従前より国際裁判管轄に関するルールの明確化が求められているところでございます。   そこで,経済取引の国際化等に対応するとの観点から,国際裁判管轄に関する法制を整備することについて,御検討をお願いするものでございます。   それでは,これらの議題についての御審議をよろしくお願い申し上げます。 (法務大臣の退席後,委員の異動紹介があり,引き続き,本日の議題につき次のように審議が進められた。) ○青山会長 審議に入ります前に,本日の会議における議事録の作成方法につきましてお諮りしたいと存じます。   まず,現在の法制審議会における議事録の作成方法につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○深山関係官 法制審議会における議事録の作成方法について御説明申し上げます。   法制審議会における議事録の作成方法につきましては,平成10年7月の法制審議会第124回会議におきまして,発言者名及びプライバシーを侵害するおそれのある事項を除いた議事録を作成して,これを公開するということが決定されましたが,本年3月に開催されました前回の会議におきまして,原則として発言者名を明らかにした議事録を作成することとし,会長において,委員の意見を聴いた上で,審議事項の内容,部会の検討状況や報告内容にかんがみて,発言者名を明らかにすることにより自由な議論が妨げられるおそれがあると認める場合には,発言者名を明らかにしない議事録を作成することができること,また,議事録の作成方法に関する議論につきましては非顕名として取り扱うことがそれぞれ決定されました。   したがいまして,皆様には,本日の会議の議事録につきまして,原則どおり発言者名を明らかにしたものとすることでよいかどうかを御決定いただく必要があるものと存じます。   私からの説明は以上でございます。 ○青山会長 ありがとうございました。   今の御説明にございましたように,前回の会議でかなり時間をかけて議事録の作成方法,特に顕名にするかどうかについて御議論をいただいたところでございます。   ただいまの御説明につきまして,何か御質問等がございましたら御発言をいただきたいと思いますが,いかがでございますでしょうか。   質問がないようでしたら,議事録の作成方法についてお諮りいたしますが,本日の会議につきまして考えますと,会長の私といたしましては,諮問事項の内容等にかんがみまして,発言者名を明らかにした議事録を作成することで差し支えないのではないかと思いますが,いかがでございますでしょうか。 (異議なしという声あり) ○青山会長 それでは,本日の会議につきましては,発言者名を明らかにした議事録を作成するということにいたしたいと思います。   それでは,本日の審議に入りたいと存じます。   先ほどの法務大臣のごあいさつにもございましたように,本日の議題は二つでございます。一つは,主権免除法制の整備に関する諮問第85号について,もう一つは,国際裁判管轄法制の整備に関する諮問第86号についてでございます。これらの二つの審議事項は内容が若干関連しておりますから,一括して御審議をいただきたいと存じます。   まず初めに,事務当局から諮問事項の朗読をお願いいたします。 ○飛澤参事官 それでは,諮問第85号を朗読させていただきます。   諮問第85号   外国を当事者とする裁判手続及び外国の財産に対する保全処分又は民事執行に関する裁判権からの免除の範囲等について法制を整備する必要があると思われるので,締結に向けた作業が進められている「国及びその財産の裁判権からの免除に関する国際連合条約(仮称)」を踏まえて検討の上,その要綱を示されたい。 ○佐藤参事官 諮問第86号を朗読させていただきたいと存じます。   諮問第86号   経済取引の国際化等に対応する観点から,国際裁判管轄を規律するための法整備を行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい。 ○青山会長 ただいま諮問の朗読をしていただきましたが,この諮問の内容,諮問に至る経緯及びその理由等につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○倉吉幹事 それでは,この提案に至りました経緯及び諮問の趣旨等を御説明申し上げます。   諮問第85号及び第86号は,いずれも国際的な民事紛争に関する規律を明確化しようとするものでありまして,諮問第85号は,外国及びその財産がいかなる場合に我が国の裁判権に服するかについて,それから,諮問第86号は,いかなる場合に我が国の裁判所に国際裁判管轄権が認められるかについて,それぞれ御審議をお願いするものです。   このように諮問第85号と第86号は,内容的に関連しておりますので,併せて御説明させていただきます。   初めに,主権免除法制の整備に関する諮問第85号について御説明申し上げます。   我が国においては,現在,外国及びその財産がいかなる場合に我が国の裁判権に服するのかという点について定めた法律はありませんが,これについて国内法を整備している国等も少なくありません。最高裁判所は,平成18年7月21日判決において,外国がその私法的ないし業務管理的な行為については,原則的に我が国の民事裁判権から免除されないという,いわゆる制限免除主義を採用することを明らかにしましたが,外国及びその財産が我が国の裁判権に服する範囲については,なお不明確な点が残っているところであります。   そうした中で,平成16年12月に国連総会において,「国及びその財産の裁判権からの免除に関する国際連合条約(仮称)」が採択されまして,我が国も平成19年1月に署名をしております。   ところで,本条約の締結のみを行い,国内法を制定しないということにいたしますと,非締約国との関係では,我が国には依然として裁判権に服するか否かについての明文の規律がないということになってしまいます。   そこで,まず,本条約の非締約国との関係においても,我が国の主権免除法制についての明文の規律を設けるために国内法を整備する必要があると考えているわけであります。   また,本条約には内容に分かりにくい点もございますので,本条約を締結するに当たり,内容を明確化した国内法を整備することにより,関係する外国や私人にとって,外国がいかなる場合に我が国の裁判権に服するのかということについての不確実性が解消され,法的安定性が高められるものと考えられるわけであります。   なお,本条約は,現時点では発効しておらず,その発効には30か国の締結が必要とされておりますので,我が国が本条約を締結しましても,その発効までに相当の時間を要すると見込まれ,それまでの間,今申し上げました不確実性が継続することになってしまいます。そこで,整備を予定する国内法は,本条約に内容は準拠いたしますけれども,この条約の発効前でも施行可能なものとしたいと考えております。   したがいまして,外国を当事者とする裁判手続及び外国の財産に対する保全処分又は民事執行に関する裁判権からの免除の範囲等についての法制を整備することについて,締結に向けた作業が進められております本条約を踏まえまして,法制審議会で御検討いただく必要があると考え,今回の諮問をさせていただいたものでございます。   次に,今回の主権免除法制の整備について,先ほど申し上げました本条約に則して,御検討をいただく際のポイントとして考えられる点について御説明申し上げます。   第1に,我が国の裁判権から免除される主体の範囲を定める必要があると考えられます。   第2に,外国が原則として外国に対する裁判手続について裁判権から免除されるということをまず定めるとともに,外国が我が国の裁判権から免除されない場合を明示する必要があると考えられます。具体的には,外国が我が国の裁判権の行使に対して明示的に同意した場合や本案について異議なく応訴した場合,これはもちろんということになりますが,そのほかに,私法上の取引,雇用契約,人身若しくは財産の損害,知的財産又は日本国内にある不動産等に関する裁判手続のうち一定のものについては,外国が我が国の裁判権から免除されない場合として規定する必要があると考えられます。   第3に,外国がその財産に対する保全処分及び民事執行から原則として免除されることを定めるとともに,外国がその財産に対する保全処分又は民事執行から免除されない場合を明示する必要があると考えられます。具体的には,外国が保全処分又は民事執行を受けることについて明示的に同意した場合等のほか,私法的目的のために使用されている外国の財産等に対して民事執行が行われるという場合でございます。   第4に,そのほかの事項として,外国に対する裁判手続を開始する呼出状その他の文書の送達等の取扱いを定める必要があると考えられます。   諮問第85号については,以上のとおりでございます。   続きまして,国際裁判管轄法制の整備に関する諮問第86号について,提案に至りました経緯及び諮問の趣旨等を御説明申し上げます。   社会経済の国際化に伴い,国際的な民事紛争が増加しておりますが,現行の民事訴訟法には,いずれの国の裁判所に訴えを提起することができるかという国際裁判管轄について定めた規定がございません。このため,国際裁判管轄に関する規定を整備する必要性は,平成8年に制定された現行民事訴訟法の立案過程においても,実は指摘されておりました。   しかし,その当時は,ヘーグ国際私法会議において,民事及び商事に関する国際裁判管轄の一般的かつ広範なルールを定める新しい条約の作成作業が開始されることとなったため,その進展を見守るのがいいであろうということで,国際裁判管轄に関する規定は,この平成8年の民事訴訟法制定の際には設けなかったという経緯がございます。   ところが,その後のヘーグ国際私法会議における各国の交渉の結果,このような一般的かつ広範なルールを定める新条約の作成が断念されてしまいました。そして,平成17年6月30日に当事者が管轄裁判所の合意をした場合に,その対象を限定した極めて小規模な「管轄合意に関する条約」が採択されるにとどまりまして,管轄に関する全世界的なルールが近い将来に作成されるという見込みが失われてしまったわけでございます。   したがいまして,我が国の国内法において,国際裁判管轄に関する規定を整備するべき時期が到来したと考えられるわけであります。   そこで,国際裁判管轄に関しどのような規定を設けるべきかについて,法制審議会で御検討いただく必要があると考え,今回の諮問をさせていただいたものでございます。   次に,この国際裁判管轄の規定の整備に当たり,御検討いただく内容について御説明申し上げます。   第1に,御検討いただく国際的な民事訴訟の範囲についてであります。国際裁判管轄が問題となる訴えには,財産法に関連する民事訴訟以外にも,人事訴訟など身分法に関連する訴訟もございますが,財産法に関連する民事訴訟に関する国際裁判管轄については,ただいま申し上げましたとおり,平成8年の民事訴訟法改正の際に検討された時点から,既に規定の整備の必要性が指摘されておりました。こういう経緯がありますので,今回は財産法に関連する民事訴訟の国際裁判管轄に限りましての御検討をお願いしたいと思っているわけであります。   第2に,御検討いただく項目についてでありますが,国際的な民事訴訟における普通裁判籍及び特別裁判籍についての規律,当事者間の国際裁判管轄に関する合意の効力・方式等についての規律,知的財産権訴訟,労働関係訴訟,消費者契約訴訟などの類型ごとに特別な管轄の基準を設けることの当否及びその内容,それから事案の具体的事情を考慮して管轄を排除するための規律,そして国際訴訟競合,緊急管轄に関する規律を設けることの当否及びその内容などが考えられます。   主権免除法制の整備に関する諮問第85号及び国際裁判管轄法制の整備に関する諮問第86号につきましての御説明は以上のとおりでございます。十分御審議の上,御意見を賜りますようよろしくお願い申し上げます。 ○青山会長 ただいま倉吉幹事から,諮問第85号,諮問第86号につきまして,その諮問の内容,諮問をするに至った経緯,理由,それから検討すべき主たる内容等について,御説明がございましたけれども,ただいまの御説明につきまして御質問等がございましたら,御発言をお願いしたいと思います。   御質問がないようでしたら,諮問第85号及び第86号の審議の進め方につきまして御意見を伺いたいと思いますが,御意見がございましたら御発言をお願いしたいと思います。   野村委員,どうぞ。 ○野村委員 ただいまの御説明を伺っておりますと,諮問第85号及び諮問第86号は,いずれも専門的,技術的な内容を含んでおりますので,検討に当たって,機動的かつ集中的に審議をする必要があるのではないかというふうに考えますので,新たにそれぞれ専門の部会を設置して調査・審議をして,その結果の報告を受けて,更に総会で審議をするというのが適当ではないかというふうに思います。 ○青山会長 浜田委員,お願いいたします。 ○浜田委員 私も野村委員の御意見に賛成です。 ○青山会長 ただいま,野村委員及び浜田委員から,専門的事項にわたるので,それぞれにつきまして部会を設けて審議したらどうかという御提案がございました。   この点につきまして,何か御意見はございますでしょうか。   北村委員お願いいたします。 ○北村委員 既に担当者試案が公表されているということを伺ったのですが,既に審議が行われているわけではないのですか。 ○始関関係官 ただいま,北村委員から御指摘をいただきました担当者試案の公表,パブリックコメントの手続というのは,諮問第85号の主権免除に関する事項に限って行っているものでございます。   実は,主権免除につきましては,先ほど倉吉幹事からも御説明いたしましたように,昨年1月にこの条約を締結することを前提とした署名を既に日本政府はしているものですから,かなり急いで検討しなければいけないということで,研究会を学者の先生方に組織していただきまして,そこで研究していただいたその成果を踏まえまして,私どもの内部で担当者としての案というものをつくって,関係各界に意見照会をさせていただいた次第でございます。そのような関係各界からの意見も重要な参考資料としていただきながら,当審議会で詰めた議論をしていただければというふうに考えているところでございます。   ちなみに,諮問第86号の国際裁判管轄のほうにつきましては,これもまた研究会を相当長期間行っておりまして,その結果はNBLという雑誌に相当大部の研究会報告書を掲載していただいております。その報告書自体を御覧いただきますと,試案がつくれるほどの内容までには至っておらず,非常に多くの管轄原因につきまして,甲案,乙案というような形で先生方の御議論が分かれたということが書かれておりますので,そういうことも一つの資料にしていただきながら御審議をいただきたいというふうに考えているところでございます。   以上でございます。 ○北村委員 これはどうでもいいことなのかもしれませんが,諮問をするのが少し遅いのではないかと思うのです。初めのほうを急ぐのでしたらもう少し早くに諮問をし,手続的にきちんとおやりになったほうがいいのではないかと思うのです。 ○深山関係官 法制審議会は非常に長い歴史がありますけれども,随分昔は諮問から答申まで4年とか5年の時間を掛け,慎重にじっくり審議をした上で,新しい法制の提案とか改正の提案をするというのがごく普通のことでした。しかし,平成10年ころ,法制の内容を決める法制審議会での議論が3年とか5年とかかかるというのは,今の時代のスピードに全く合っていないので,原則として, 1年ぐらいで結論を出すべきであり,1年ではとてもその中身が複雑で足りないというのであれば,法務省の中で事前に十分な準備をして,それで最後の決めの議論はやはりこの各界の先生方に入っていただいた法制審議会を行うべきであるというような指摘がされました。そして,平成12年に法制審議会の在り方について見直しの議論がされ, 運用上の目標として,部会における審議期間については,原則として1年を超えないようするというふうに運用の改善をいたしました。   そのようなこともあって,従前であれば北村委員が言われるとおり,この問題を取り上げて立法しようというような意向が固まった段階で,法制審議会ですぐ諮問をして,部会を設けるなどして議論をするところですが,スピード感を重視すべきだという意見が強くなったこともあって,運用がそういうふうに大きく変わってきました。   そのことの反映として,今申し上げたように,もっと諮問が早ければという御指摘もそのとおりだと思わないでもないのですが,法制審議会自体の審議を長くならないようにするということから,事務当局限りでできる準備的な作業をして,法制審議会での議論を短くするということが最近の一般的なやり方なものですから,今回の二つの諮問事項につきましても,どちらも研究会なりがあって,法務省の内部での議論の整理や論点の整理などを済ませてから諮問に至っているということで,ルールを決める肝心な部分というのは,当然法制審議会でやっていただく。その前の議論の整理,あるいは準備のための研究会だというふうに御理解いただければと思います。 ○北村委員 おっしゃっていることはすごくよく分かるのですけれども,何か最近諮問してから答申するまでの間の期間が少し短いような気がするのです。もう少し余裕というか,ゆとりを持って議論ができるようにしていただければと思います。 ○佐々木委員 今,ディスカッションの仕方についての話が出たので,ここで発言するのが適切かどうか分かりませんが,続けて同じ観点でコメントをさせていただければ,私は審議の長さというよりも,私自身がこの委員にさせていただいて,貢献しているという感覚が今まで持てないのです。それはなぜかと言うと,大切な諮問がここでなされると,これは専門的なので専門会をつくりましょうということで専門会にて議論がされる。そして,半年ほどたつと,専門会ではこうなりました,賛成ですか反対ですかと言われて,ここで意見を言っても,実は余り反映されないという感覚が私はあります。   ですから,私のような法律の素人まで入れて審議会を開こうという志であれば,是非途中の時点で,その議事録がたまに送られてくるとか,ウェブページを見るだけでなくて,今回であれば研究会でパブリックコメントを求めているわけですから,同じようなスタンスで言うと,この審議会で一回途中報告がされて,ここの委員の人たちの意見,多様な意見がまたその専門会,ワークグループに持ち越まれて,そして上がってくると最後にイエス,ノーの貢献がしやすいなというふうに感じているので,是非初めと終わりだけでなく,途中の何か審議に交えていただける機会を物理的にとっていただけると有り難いと思います。   多分,ウェブにも出ているし,議事録も送っているというのが実態ではないかと思いますが,それに全部目を通して,理解してコメントをするということはなかなかできないので,是非皆さんのディスカッションに入れていただける機会があればうれしいと思います。 ○深山関係官 これは諮問事項の大きさとか重要さとかにもよることだと思いますが,今の佐々木委員,北村委員の御意見は,誠にごもっともだと思いますので,今後の法制審議会の運用の在り方として,特に審議が少し長くかかりそうなものなどについては,例えば中間報告を活用することなどを事務当局として検討したいと思います。 ○青山会長 そういうことでよろしゅうございますか。   それでは,先ほどのこの二つの諮問の審議の進め方につきまして,先ほど野村委員と浜田委員から,それぞれについて部会を設けて調査,審議をし,その結果の報告を受けて更に総会で審議するという御提案がございましたけれども,そういうことでよろしゅうございますでしょうか。 (異議なしという声あり) ○青山会長 御異議がないようでございますので,諮問第85号及び第86号につきましては,新たにそれぞれ部会を設けまして,調査,審議をするということにいたします。   次に,新たに設置する部会に属すべき総会委員,臨時委員及び幹事に関してでございますが,これらにつきましては,会長に御一任を願いたいと存じますが,よろしゅうございますでしょうか。 (異議なしという声あり) ○青山会長 どうもありがとうございました。   それでは,この点は会長に御一任を願うことといたします。   次に,部会の名称でございますが,諮問事項との関連から,諮問第85号につきましては,「主権免除法制部会」,諮問第86号につきましては「国際裁判管轄法制部会」という名称にしたいと存じますが,よろしゅうございますでしょうか。 (異議なしという声あり) ○青山会長 それでは,特に御異議がないようでございますので,そのように取り計らわせていただきます。   せっかくの機会ですので,諮問事項の中身につきまして,特に新しく設けられた部会では,例えばこういう点に注意して審議を進めてほしいというような御意見があればここで承りたいと思いますが,いかがでしょうか。   どうぞ,岡田委員。 ○岡田委員 昨年の1月でしたか,法の適用に関する通則法が施行になったかと思うのですが,あの法律により消費者保護という部分がかなりきめ細かに入って,よかったというふうに思ったのですが,具体的に機能しているという感じがなかったのですけれども,この国際裁判管轄というのが整備されれば,もっと機能するのかなというふうに思っておりますので,是非とも分かりやすくて,なおかつ使い勝手のいいような,そういう検討をしていただきたいというふうに思っています。   消費者紛争も近年国際的になっておりまして,大変困っておりますので,いずれは国際裁判というふうになっていくと思いますので,よろしくお願いします。 ○青山会長 事務当局から何かありますか。 ○始関関係官 今の岡田委員の御指摘は,誠にごもっともな御指摘でございまして,実は先ほど倉吉幹事から御報告いたしました過去の経緯でございますが,ヘーグ国際私法会議で,結局は失敗に終わった条約におきましても,消費者保護関係の規定を設けるということが条約の内容として随分議論がされたところでございますし,EUはEUの規則というものをつくっているのでございますが,そこでも消費者保護の規定がございますので,そういう規定を参考にしながら部会で慎重に御議論いただいて,どのような規定を設けるべきかということを御検討いただきたいと思っております。 ○青山会長 よろしゅうございますか。   それでは,ほかに何か部会に対する御注文なり御意見なりがございましたらお伺いしたいと思いますが,いかがでございますでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。   それでは,先ほど申しましたように,諮問第85号及び第86号につきましてはそれぞれ部会で御審議いただくこととし,部会の審議に基づきまして,その中間的な審議をするかどうかはともかくとして,総会に出していただきまして,更に御審議を願うということにしたいと思います。   これで,本日の議題に関する審議は終了となりますが,最後に民事局から「国籍法の一部を改正する法律案について」の報告がございますので,お願いいたします。 ○倉吉幹事 それでは,国籍法の改正に関しまして,御報告を申し上げます。   委員の方々も御承知のとおりと思いますが,本年6月4日,国籍法第3条第1項が違憲であるという最高裁判所大法廷判決が言い渡されました。これは,国籍法第3条第1項が,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した後に父から認知された子について,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した場合に限り,届出による日本国籍の取得を認めていることにより ,国籍の取得について,嫡出子と非嫡出子に関する区別を生じさせていることは,憲法第14条第1項に違反するというものでございました。これを受けまして,現在,法改正を行う準備を進めているところでございます。   国籍法は,言うまでもなく国家の構成員としての資格を規定する重要な基本法でありますので,その改正をするに当たっては,本来であれば,法制審議会で十分に御審議いただき,その御意見を賜るべきところでありますが,今回の改正は,最高裁判所判決で違憲とされた条文を改正するというものですので,法制審議会での御議論を賜ることなく改正法案を国会に提出させていただきたく,この場をお借りいたしまして,改正法案の概要について,御報告させていただきたいと存じます。   お手元の配付資料3を御覧いただきたいと思いますが,今回の改正法案は大きく分けて3つの柱からなっております。   まず,1点目は,国籍法第3条第1項が,出生後に日本国民から認知された子が届出によって国籍を取得することができる場合について,父母が婚姻し嫡出子たる身分を取得した場合に限っている点につきまして,「父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した」という要件を削除し,出生後に日本国民から認知された子は,父母が婚姻していなくても,他の要件を満たす限り,届出により日本国籍を取得できることとするというものでございます。   2点目は,国籍法第3条第1項による届出につき,虚偽の届出をした者について,罰則を新設するというものです。これは,認知が届出によって容易にできるものであって,子に日本国籍を取得させる目的で虚偽の認知をするというケースが増加することが懸念されますので,虚偽の届出をした者を罰する規定を新設しようというものであります。   最後に,必要な経過規定を設けるというものです。具体的には,日本人に認知された方のうち,これまでに届出をしていた訴訟の原告と同じような立場の方が国籍を取得できるようにするというものと,これまでに届出をしていなかった方が20歳を超えてしまった後であっても,一定期間は届出期間の猶予を認めるというものでございます。   施行期日については,公布の日から20日を経過した日とすることとしております。   以上が改正法案の骨子になります。   なお,御承知のとおり早期解散という声も出ておりますが,我々事務当局といたしましては,この改正法案をできるだけこの臨時国会の早い時期に提出させていただきまして,早期の成立を目指して努力したいと考えておりますので,御理解をいただきたく存じます。   よろしくお願いいたします。 ○青山会長 国籍法という日本国民たる資格を定めた大変重大な法律ですけれども,最高裁において違憲とされた部分だけを改正するという内容でございますので,法制審議会に今のような形で御報告をして,御了承を賜って,速やかに法律改正したいというのが法務省のお考えでありますので,今の点について御了解をいただければと思いますが,何か質問はございますでしょうか。 ○川端委員 改正法案の骨子の中で,罰則の新設ということが挙げられておりますので,刑事法の観点から意見を述べさせていただきたいと存じます。   新設する犯罪行為は形式犯ということになろうかと思いますが,実質的には,国籍を違法に取得して不法滞在を行う場合の脱法行為的な要素も入ってくると思われますので,そこの当罰性の内容をどういう場合にお考えか御説明いただいた上で,ほかの刑罰との法定刑との関連でバランスをどうとるのかという点についてお教えいただきたいと存じます。 ○倉吉幹事 現行法の刑事罰の枠組みについてでございますが,御承知のとおり,まず認知届を出しますと,認知者である日本人男性の戸籍に,子を認知した旨の記載がされます。実は父親でも何でもないのに認知をしたとの届出をし,これが戸籍に記載されると,公正証書原本不実記載罪に該当し,5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。   それから,今度は外国人の子のお母さんが,虚偽の認知の事実が記載された日本人男性の戸籍謄本を法務局に持って行き,国籍法第3条の国籍取得届を提出いたします。そうすると法務局のほうで,これに基づいて国籍取得証明書という紙を出します。   その国籍取得証明書を持って,今度はお母さんがまた役場のほうに参ります。そこで,今度はその子供が国籍を取得したとして,戸籍法に基づき届出をし,その子供の戸籍をつくりますが,その役場での虚偽の届出についても,戸籍に虚偽の記載をさせたということで公正証書原本不実記載罪に当たるわけでございます。   つまり,入口と出口はきちんと公正証書原本不実記載罪で処罰されることになります。そこで川端先生がおっしゃったとおり,真ん中の法務局から国籍取得証明書という紙をとる,嘘をついてとってしまうというところは,言わば形式犯ということになるわけでございますが,しかし,この今申し上げました真ん中の国籍法上の国籍取得届がされますと,それだけでは戸籍への記載はされませんけれども,法務局等の内部での事務の適正や信頼は害されることになります。そういうことから,前後の役場への届出とは別に固有の罰則を設ける必要はあるだろうと思っているわけでございます。   また,前の認知届を出して,戸籍に認知の記載がされたときに,公正証書原本不実記載罪で処罰されるから新たな罰則は不要ではないかという疑問もあろうかと思います。しかし,認知届の届出人は,これは父親でございます。今申し上げました国籍取得届の届出人というのは,原則として母親であり,子供が15歳以上であれば,子供が1人でやれるということになります。そういう父親と母親又は子供との間の共謀が立証できない場合には,公正証書原本等不実記載罪で母親や子供を処罰することができません。そうすると,後のほうしか手がないということになります。   それから,認知届について,これもまれなケースかもしれませんが,公訴時効が完成するという場合もございます。そういったことで,公正証書原本不実記載罪での処罰ができない場合というのもあるわけでございます。   さらに,これが実質的な理由でございますが,今回の法改正で,両親が婚姻していなくても,届出による国籍取得が可能となったことから,虚偽の認知等に基づく不正な国籍取得の届出がされる危険性は高まるだろうと思われます。   こういったことに対処するということも含めまして,今,申し上げた,独自にこの真ん中の場面について処罰する必要性があるということと,それから,一般的な抑止的効果の期待から,この新たな罰則を設けるということにいたしました。   今考えている法定刑の関係ですが,形式犯ということで,まだ最後の詰めを行っているところでございますけれども,1年以下の懲役又は20万円以下の罰金といった程度のものを考えております。   ちなみに,先ほど申し上げました公正証書原本不実記載の場合には,5年以下の懲役又は50万円以下の罰金となっております。   以上でございます。 ○青山会長 川端委員,いかがでございますか。 ○川端委員 懲役刑も入るとなると,かなり厳しい面もありますので,私はそれで賛成でございます。 ○青山会長 ほかに国籍法の一部を改正する法律案に関する先ほどの御報告につきまして,御質問,あるいは御意見はございますでしょうか。 ○佐々木委員 ちょっと分からないので教えていただきたいのですけれども,先ほどの御説明ですと,認知届の届出人が父親で,国籍取得届の届出人が母親であるという想定をされていましたが,一般的な想定はそれで問題ないのだと思いますが,文章になるときに,これが母でなくてはいけないというふうに書かれることがあるのでしょうか。   また,届出人というのは,書類を書く人のことを言うのでしょうか,それとも,実際に届けに行く人のことをいうのでしょうか。さらに,例えば母親が亡くなった場合はどうのようになるのでしょうか。   なぜ,このような質問をするかと申しますと,法律を変更した場合に,もしかするとこんなに悪いことが起きてしまうかもしれないということが目的で,先ほどの刑罰についても話されましたが,本当に実際正しくやっているのに,届出の何か新しくできた法律に,皆の思い込みで一般論で何か余計に書いてしまうことによって,本来なら届出ができる人なのにもかかわらず,届出ができなくなることを防ぎたいと思ったためなのです。 ○倉吉幹事 まず,今改正しようとしている国籍法第3条1項の条文ですが,これはどういうふうに書いているかといいますと,「父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子で二十歳未満のものは,」というふうに,主語が子供になっております。しかし,15歳未満の子の場合には,法定代理人がやるということになります。   その法定代理人が普通はまだ父親が認知しただけということになれば,産んだお母さんが法定代理人になることが多いわけです。 ○佐々木委員 私のポイントは「法定代理人」と書けばいいのではないかと思っているだけなのです。「母親」と書くということが,将来何か制限してしまうことになって,誤解を呼ぶのであれば,「法定代理人が」と書けばよいのに,「母」と書かれると,逆にそれが何か制限をしてしまって,申請がしにくくなるという家庭が生まれはしないかという懸念なのです。   ですから,法定代理人であることに全然問題ないのですけれども,「母」と書くことが何かの制限になる可能性がないかなという質問です。 ○倉吉幹事 一般論として御説明しているところでありまして,法律にはそのようなことは何も書いておりません。法定代理人になると書いてあるだけです。 ○青山会長 よろしゅうございますか。   どうぞ,佐藤委員。 ○佐藤委員 ヨーロッパでは結婚しないで子供を産むということがもう割と普通に行われていますけれども,日本の場合は,今そういうことではないですよね。そうなった場合に,ここは本当に差がないというのか,日本において海外のお子さんが,父親が日本人で,母親が外国人の場合,認知するしないで,結婚するしないで対応に差はないのでしょうか。認知したら扶養義務というのは生じるのでしょうか。 ○始関関係官 生じます。 ○佐藤委員 生じますか。そうしたら,現実的に考えて,たくさんの子を例えば認知するということはできないという理屈にきちんとなっているのでしょうか。 ○倉吉幹事 それは理屈の問題ではなくて,事実の問題だろうと思うのです。   今,おっしゃられたことは,とことん突き詰めていくと,この最高裁判決の判断が本当にこれで日本の社会風土に合っているのかという議論にもなってしまうのかなと思われます。この国籍法の規定というのは昭和59年にできた規定なのです。そもそも昔はお父さんが日本人である場合にのみその子供は日本人だと言っていたのが,お母さんが日本人であってもいいということになり,父母両系血統主義を採用いたしました。そのときに,それでは日本人の父親が認知した子も何とか簡単に国籍を認められるようにしようということで,それまで帰化によるしかなかったところ,届出により国籍を認めることとしたものです。   しかし,昭和59年当時は,父親が認知をしただけでは日本との結び付きが薄いため届出により国籍を認めるのは相当でないということで,両親が結婚した場合に限りこれを認めるというふうにしたわけであります。   立法当時はそれについて,余り問題にされることはなかったと思いますが,その後,これが嫡出子と非嫡出子を差別する,つまり憲法14条1項に違反するのではないかという議論が出まして,幾つか訴訟が起こりました。   その最高裁判決が6月4日に言い渡されたわけですけれども,この事件の原告たちのうち一番早い方は平成15年2月ころに国籍の届出をしていました。最高裁判決は,遅くとも本件の原告が届出をした当時においては,国籍法第3条の規定は ,憲法違反になっていたと。その根拠は,国民の意識が変わった,それから今先生がおっしゃったように,諸外国でも法制が変わり,最初は結婚を要件にしていたのを外して,認知さえすれば国籍の取得を認める法制をとる国も多数出てきた。そして,嫡出子・非嫡出子をめぐる伝統的な見方というのがだんだん変わってきて,国民の意識も変わってきたではないかと。最高裁判所はそういうことを根拠にいたしまして,この規定は憲法第14条第1項に違反するんだと,こういう結論を導いたわけでございます。   ですから,最高裁判所でそういう御判断が出た以上はそれに応じて法律の改正をすべきことになりますが,社会学的には非常に面白い問題だろうとは思います。 ○青山会長 ほかに何か御意見ございますでしょうか。   特になければ,本日予定しております議論は以上でございます。何か事務当局から御連絡事項がございますでしょうか。 ○深山関係官 それでは,次回の総会の開催予定について,御説明いたします。   次回の総会は,かなり先ではございますけれども,来年2月初旬の開催を予定しております。   具体的な日程調整はこれからでございますが,現時点で2月4日の水曜日から6日の金曜日にかけての3日間,あるいは予備日として,2月12日の木曜日,13日の金曜日,この5日ぐらいのうちから調整をして決めたいと思っています。   日程が決まり次第,御連絡させていただきますけれども,2月初旬の予定を今後入れられる際には,その5日間が候補であるということをお含み置きいただきたいと思います。 ○青山会長 先ほど,本日の会議につきましては,発言者名を明らかにした議事録を作成することを御決定いただきましたので,後日,御発言をいただきました委員の皆様には,議事録をお送りいたします。その際に,御発言の内容等を確認していただき,御了解をいただいた上で,法務省のホームページに公開したいと存じますので,どうぞよろしくお願いしたいと思います。   本日は大変お忙しいところをお集まりいただき,様々な御議論をしていただきました。どうもありがとうございました。本日の会議はこれにて終了いたします。 -了-