法制審議会非訟事件手続法・家事審判法部会           第5回会議 議事録 第1 日 時  平成21年7月31日(金)  自 午後1時30分                        至 午後5時53分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  非訟事件手続法・家事審判法の改正について 第4 議 事 (次のとおり)          議    事 ○伊藤部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会非訟事件手続法・家事審判法部会の第5回を開会いたします。暑い中,また御多忙の中御出席いただきましてありがとうございます。    (委員の異動紹介につき省略) ○伊藤部会長 本日の審議に入りたいと思います。   本日は,部会資料5の「非訟事件手続に関する検討事項(2)」の「第16 審理手続」,「2 期日及び期間」から審議を行いたいと存じます。   そこで,事務当局から説明をお願いいたします。 ○脇村関係官 それでは,説明させていただきます。   まず,2の「期日及び期間」でございますが,期日,期間につきましては,現行非訟事件手続法第10条の規律を維持するものとすることを提案させていただいております。   なお,民事訴訟法第93条第1項が「申立てにより又は職権で」としておりますが,本文(1)①では「職権で」としております。これは,民事訴訟では,民事訴訟法第263条が規定する訴えの取下擬制が問題となるような場合に,期日の指定の申立てが法律上重要な意味を有しておりますが,非訟事件ではそういった場面が今のところ考えられないことから,そういった点を考慮したものでございます。   また,民事訴訟法第93条第3項及び第4項には,弁論準備手続に関する規律がございますが,非訟事件では弁論準備手続を設ける予定はございませんので,その点に関する規律は除いております。   (注)では,本文③にあるとおり,期日の変更は,顕著な事由がある場合に限り行うことができるとした場合であっても,最初の期日の変更については,相手方がある事件において,当事者の合意がある場合にも行うことができるものとすることについて検討することを提案しております。これは,相手方がある事件において,相手方の都合を聴かずに最初の期日を指定したようなケースについて,顕著な事由がなくても期日の変更をすることができるようにすることを念頭に置いております。   3の「手続の公開」は,手続の公開について,現行非訟事件手続法第13条の規律を維持するものとすることを提案しております。具体的には,審問期日や証拠調べ期日について手続を公開しないものとすることを念頭に置いております。   4は審問期日について検討するものでございます。なお,本資料では,裁判所が口頭により当事者その他の者から陳述を聴くという意味で「審問」という用例を,審問するための期日という意味で「審問期日」という用例をそれぞれ用いているところでございます。   (1)の「裁判長の手続指揮権」では,審問期日における手続指揮権について,民事訴訟における口頭弁論期日と同様,審問期日では,当事者の発言等に対し臨機応変に対応するためには,裁判所ではなく裁判長が手続指揮権を行使するのが相当であると思われますので,民事訴訟法第148条,150条と同様に,審問期日は裁判長が指揮するものとすること等を提案させていただいております。   (2)の「必要的審問」ですが,非訟事件のうち相手方がある事件においては,対審的な手続をとり,当事者に攻撃防御を尽くさせるのが相当であり,そのためには,当事者が裁判所に対し直接口頭により自らの主張を述べる機会を与える必要があるとも考えることができるのではないかということで,それを実現するために,裁判所は,審問期日を開いて当事者の陳述を聴かなければならないものとすることについて検討することを提案しております。   なお,(参照条文)にありますとおり,当事者の利害が対立する典型的な非訟事件である借地非訟事件では,裁判所が審問期日を開き,当事者の陳述を聴かなければならないということになっているところでございます。   そのほか,(参照条文)には挙げておりませんが,非訟事件手続法第153条第1項においても,除権決定の取消しの申立てがあったときには,審問期日を指定するものとされております。   このように,非訟事件においても,当事者の利害が対立する事件においては,当事者に攻撃防御を十分尽くさせるために必ず1度は審問期日を開くものとされているところでございます。もっとも,この点については,そもそも相手方がある事件に関する特別の規律を特則のような形で設けることはできないのではないかとの御意見が従前からございましたので,慎重な検討が必要であると思われます。   (注)の1は,審問期日を開いて当事者の陳述を聴かなければならないとしても,本文にあるように,不適法として当該申立てを却下する場合のほか,申立てに理由がないことが明らかな場合にも,審問期日を開いて当事者の陳述を聴かなくてもよいものとすることについて検討することを提案しております。申立てに理由がないことが明らかな場合まで審問期日を開く必要はないように思われますが,前回でも議論がございましたように,具体的にどのような場合に「理由がないことが明らか」と言えるか,また,相手側の話を聴かずに,理由がないということが言えるのかという疑問はあるところでございます。   (注)の2は,非訟事件の裁判の効果を直接受ける者の陳述を聴かなければならないものとすることについて検討することを提案しております。   (3)の「相手方の立会権」は,相手方がある事件については,対審的手続をとり,当事者に攻撃防御を尽くさせるのが妥当であるが,そのためには,裁判所が当事者を審問し,その心証を形成する際に,他の当事者がその審問に立ち会う権利を認めることが相当とも考えられることから,相手方がある事件において,裁判所が当事者を審問する場合には,他の当事者は,その審問に立ち会うことができるものとすることについて検討することを提案するものでございます。   なお,この問題を考えていただく際には,仮に相手方の立会権を認めた場合には,裁判所が,審問期日以外で,相手方の立会いがないもとで当事者から陳述を聴くことが許されるのかについても,併せて御検討いただく必要があると存じます。例えば,相手方の立会権を認めた場合でも,期日の進行等を検討するためには,申立時に申立人から事情を聴くことを許すべき必要があるのではないかという点も問題になると思います。   こういった問題に関しまして,家事事件に関する最高裁平成20年5月8日の決定において,田原裁判官が,補足意見として,審尋における当事者等の立会権を認めている民事訴訟法第187条が非訟事件手続法第10条において準用される旨述べていることから,(参考)ではこの点を引用しております。これまでは,民事訴訟法第187条が非訟事件において準用されるかどうか,十分な議論がなされている状況ではなかったかと思います。   続きまして,(4)の「電話会議システム及びテレビ会議システム」ですが,当事者が遠隔地に居住しているような場合に,当事者の負担を軽減するために,電話会議システム及びテレビ会議システムを利用して審問期日における手続を行うことができるものとすることを提案しております。   (5)の「その他」の(注)では,簡易に処理すべき場合もあるのではないかと考え,受命裁判官に審問させることができるようにすることについて検討することを提案しております。   5の「手続の分離・併合」ですが,数個の事件の内容が互いに関連し,同一手続で審理することが手続経済上望ましい場合など,手続を併合する必要があると認められることがある一方,数個の事件が併合されている場合に,その後の審理の経過等により,各事件について同一手続で審理するのが事件の能率的処理のために適当でないと認められることもあると思いますので,裁判所は,手続の分離若しくは併合を命じ,又はその命令を取り消すことができるものとすることを提案しております。   なお,手続の併合がどの範囲で可能かについては,前回,申立ての併合においても議論されていたと思いますが,更に御検討いただければと存じます。   6の「検察官の関与」は,前回終わりましたので,次は,7の「審理の終結」ですが,審理の終結では,(参照条文)にもありますとおり,当事者に攻撃防御を十分尽くさせることが相当である非訟事件においては,審理の終結に関する規律が既に設けられていることから,相手方がある事件において,当事者に対し裁判資料の提出時期及び裁判資料の範囲を明らかにし,攻撃防御を十分尽くさせるために,審理の終結日を定めるものとすることについて検討することを提案しております。   なお,そもそも相手方がある事件に関する特別の規律を特則のような形で設けることはできないのではないかという意見もあったところでございますので,種々の検討が必要であると考えております。   (注)では,審理を終結せずに終局裁判をすることができる場合について検討することを提案するものでございます。   以上でございます。 ○伊藤部会長 ありがとうございました。   それでは,順次,ただいま説明があった事項について御審議をいただきたいと存じます。   まず,資料5の13ページから始まる「期日及び期間」ですが,「期日の指定」に関してはいかがでしょうか。若干14ページから15ページにかけての補足の説明がございますが,そういったことを含めて,御意見,御質問があればお願いいたします。 ○増田幹事 「期日の指定」のところで,民訴法と異なり,「申立てにより」という文言が抜けておりまして,その理由として,民事訴訟法第93条1項も,一般的な期日指定の申立てを認めるものではなく,その他の規定により期日指定の申立権が認められている場合を想定したものであるということが書かれているのですけれども,これは民事訴訟法の解釈として一般的な見解なのでしょうか。民訴学者の方に是非お伺いしたいと思うのですが。 ○伊藤部会長 分かりました。その前に事務当局から趣旨を御説明いただけますか。 ○脇村関係官 資料は,コンメンタール等を参考に書かせていただいたものです。別の見解もあるのかもしれませんが,民訴学者の方でその点補足というか御説明いただけるところがあれば是非お願いしたいと考えております。 ○伊藤部会長 それでは,ただいまのやり取りについて,学者の委員の方で民訴法第93条第1項の趣旨などについての補足的な御意見をお願いできますでしょうか。高田裕成委員いかがでしょうか。 ○高田(裕)委員 申立権の趣旨次第だと思いますが,一般に申立権というのは応答義務を課すという趣旨であり,恐らくその意味では,研究者は一般に応答義務はあることを認めているような印象でございます。ただ,申立てがあれば期日が開かなければいけないかという点に着目しますと,それは否定されることになるのではないか。そこで,従来,申立権というものが重要な意味を持ってくるのは,資料の記載にもありますように,申立権があるということによって,一定の不利益を回避する機会を保障すべき場合であり,この場合に着目して議論していたということではないかと思います。 ○伊藤部会長 民事訴訟法第93条第1項については,15ページの補足説明に書かれているとおりの解釈が広く受け入れられているという御趣旨の説明と承ってよろしいですか。 ○高田(裕)委員 広くと言えるかどうか分かりませんが,そう申し上げてよろしいのではないでしょうか。 ○伊藤部会長 ありがとうございます。増田幹事,どうぞ。 ○増田幹事 申立権があるということになれば,その応答義務がある。「申立てにより」があるかないかの違いは,申し立てたときに,裁判所がそれを認めるなり却下するなりということを決定しなければならないかどうかの違いであると理解しているのですが,そういう意味では,今の高田裕成委員のお話では,申立権はあるということなのですよね。 ○伊藤部会長 今の点について,ほかの学者の委員の方はいかがでしょうか。 ○三木委員 結論的には高田裕成委員がおっしゃったことと同じですが,応答義務という意味での申立権はあるし,何か裁判所の職権進行主義について実質的な制約を加えるような意味での申立権ということであれば,それはない。申立権というのが前者の意味であることは,例えば,若干局面は違いますけれども,和解の瑕疵の主張の期日申立て説とか,そういうのを見れば明らかなとおりではないかと思います。 ○伊藤部会長 申立権一般についての御説明はおっしゃるとおりだと思うのですが,ここで増田幹事が問題にされているのは,民事訴訟法第93条第1項の考え方の問題かと思いますので,なお山本和彦幹事,いかがでしょうか。 ○山本幹事 私は,今,両委員が言われたこと以上のことを追加する知見はございません。 ○伊藤部会長 ということで,では,増田幹事,御質問についてはそういうことですが,それを踏まえて,いかがでしょう。 ○増田幹事 ということであれば,ここの補足説明の記載とはちょっと意味合いが違って,民訴法第93条第1項は一般的な期日指定の申立権を認めたものであるという理解であろうかと思うのです。それを踏まえて,非訟事件につきましても,今回,手続の透明化あるいは手続保障の実質化という観点で改正を検討しているわけですから,ここは申立権を認めていただきたいと考えております。 ○伊藤部会長 ただいま増田幹事から実質にわたる御提案がございまして,ここに書かれている原案のような,職権に限定することなく,もちろん民訴法の解釈との関係もございますが,実質を言えば当事者の申立権も併せて認めるべきではないかという御趣旨の発言がございましたが,他の委員・幹事の方は,この点に関してはいかがでしょうか。 ○脇村関係官 先ほど高田裕成委員がおっしゃった関係もあって,お伺いしたいのですが,今日この後,証拠調べに関しては証拠申出権をどうするかという議論があると思うのですけれども,証拠調べ期日に限って考えますと,仮に,証拠申出権がないということになったときに,ただ期日の指定についてだけは申出権があるというとき,そういうことは別に何か問題などはないのでしょうか。 ○伊藤部会長 今の脇村関係官の御発言の趣旨からしますと,仮に期日の指定についての申立権というものを増田幹事の御意見のように認めるという前提に立った場合でも,なお個別の種類の期日との関係がどうなのか,そういう問題かと思いますが,この点はどなたか御発言がございますか。 ○鈴木委員 例えば訴訟ですと,弁論を終結した後に再開申立てがあっても,再開申立権はありませんので,まともな申立てならば,きちんと応答をいたしますけれども,訴訟マニアのような方が際限なく申し出るというような場合には,申立権がないからということで,そのまま言い渡すということができるのです。ところが,こういう手続で期日申立権を認めて,必ず応答しなければいけないとなると,そろそろ結論を出そうとしているときに,際限なく期日指定を申し立ててくると,一々応答した上でないと結論を出せないのかという問題が出てくるかなと思います。どうしても我々日ごろやっておりますと,病理現象と言ったら言い過ぎかもしれませんけれども,かなりそういう事件がございますので,若干その点が気になるところでございます。 ○伊藤部会長 ありがとうございます。   ほかにはいかがでしょうか。 ○高田(裕)委員 結論として現在のところ定見はないわけですけれども,よろしければ,増田幹事に御質問させていただきたいのですが,期日の申立権を認めるとおっしゃる場合に,いかなる期日を想定されていらっしゃるのか。まず考えつくのは審問期日なのですが,審問期日の申立権というものを想定して考えさせていただければよろしいのでしょうか。 ○増田幹事 審問期日が中心だと思いますけれども,そのほかに例えば進行協議のようなものは想定できないのかどうか。従前の非訟の考え方だとそういうものはないのでしょうけれども,今回は新しい手続を考えるわけですから,臨機応変に対応できる期日も想定してもよいのではないかと考えております。 ○伊藤部会長 よろしいですか,高田裕成委員。   それでは,菅野委員,お願いします。 ○菅野委員 申立権の定義とか効果という点で難しい話が出ておりますので,御議論についていけているのかどうか分からないところなのですけれども,実際上のことで考えますと,3点気になることがございます。   一つは,「申立てにより又は職権で」というようなことになりますと,やはり条文を読んだときに,申立てで動くのだということが一つ最初に頭に入ってしまうような気がするのです。そういう受け取られ方でいいのだろうかという点が気になります。全体の非訟事件の枠組みというのが,職権進行主義というのでしょうか,そういうものが残っているのですが,当事者の防御権等をよく考えてというのは,それはそのとおりですけれども,非訟事件の進行のさせ方の全体の枠組みと整合するのだろうかということが1点です。   もう1点は,非訟事件というのは,御承知のとおり,訴訟とはかなり内容,種類が異なりまして,バラエティーに富んでおります。非常に対立的なものもありますし,株価の買取価格の決定のように,標準的な訴訟以上に審理が重く行われるものもあります。ただ,それは数で申し上げたら本当に何分の1ではなくて何十分の1なのです。大多数のものは審問期日等を開かないで行われているという実態と合わせますと,「申立てにより」というふうに一般的に定めますと,普通ですと審問期日等を開かれないものについても申立てが出ることが予想されます。そうしますと,先ほど鈴木委員が言われましたとおり,普通ですとここでもう迅速に決定が出てしまうところで,そういう期日申立てが出るということもあり得,混乱を招くような感じがいたします。   3番目に,そういう規定を設けたとして,法的効果がどれだけあるのだろうかという点です。実際上,現在でも,期日を入れてほしいと電話があれば,やはりそれは職権で考えたりするわけで,先ほどの再開申立てのときと同じことでいろいろ考えはするわけですから,そうだとすると,効果の面でもどうかということも思います。そういうわけで,今資料に出ているとおりでよろしいのではないかと現場からは考える次第でございます。 ○金子幹事 ここは民訴以上には手続保障として当事者の申立権を認める必要はないという前提で考えています。民訴では,ここで言う期日の申立てが実質的には取下擬制との関係で意味を持っているということから,脇村関係官が説明したとおり,非訟事件ではそこの部分を落としているのですが,民訴の議論ももう一度検討させていただきたいと思います。なお,もし増田幹事の御意見が,民訴以上に更に一歩進めるべきというようなお考えでないのであれば,取下擬制あるいは進行協議期日―進行協議期日というものを観念するかどうかも今後の課題かと思うので,その辺も踏まえて,申立てということを入れる意味があるかどうかを考えてみたいと思うのですが,いかがでしょう。 ○伊藤部会長 増田幹事,いかがですか。 ○増田幹事 民訴以上ということまでは考えておりません。要するに,応答義務があることが明確になるということと,間違って却下決定が出た場合にそれは上級審の審理の対象になるというところが実質的な意味であると考えております。もちろん,その却下決定自体に対する不服申立てなどということも考えていないし,最後に続々と申立てが出たら終われないではないかというのは,終結という観念を入れることで対処すればよいのではないかと思っております。 ○伊藤部会長 分かりました。   今の金子幹事と増田幹事の御発言にありましたように,民事訴訟における期日の申立権ないしそれに関する規律以上のことを考えているということはないと。しかし,そのことを前提にして,やはり手続保障という点から,ここで期日についての申立権を明記すべきだというお考えと,しかし,それに対して,非訟事件手続の持っている本来の職権進行主義といいますか,それとの関係をやはりもう少し検討する必要があるのではないかということ,あるいは,先ほどの民訴法の規定の解釈との関係もありますけれども,一般的な期日指定の申立権という形で規定することがいいのか,それとも個別的な証拠調べ等についての非訟行為についての当事者の申立てあるいは申出権という形での規律を設けるのが実質的な意味での手続保障に合致するのか,そのあたりのことをもう少し研究してみたいと思いますが,それでよろしいですか。その上で,もう一度お諮りする機会があろうかと思います。ありがとうございました。   ほかに,期日及び期間の全体について,何か御意見がございますでしょうか。 ○菅野委員 「期日の呼出し」の規定なのですけれども,この規定振り自体というか,資料で書かれていることについて格別異論があるわけではないのですが,「期日の呼出し」の②には,「不遵守による不利益を帰することができないものとする」というくだりがございます。この後,審理の終結という概念が出されております。それ自体についても若干意見はあるのですけれども,審理の終結という仕組みができた場合に,この不利益というのは,民訴の関係で言うと,確か弁論終結というのは含まれないように理解しているのですが,非訟の場合も同じような理解でよろしいのかどうか,教えていただければ幸いと思います。 ○脇村関係官 正直言いますと,非常に現行法の解釈としても難しいところはあると思っておりまして,非訟事件の場合にも弁論終結というのが幾つか入っているところですけれども,正式呼出しをかけずに,しかも呼んだ人が,簡易な呼出しをしているだけで,当事者が来なかったときに,そこで終結できると書いている文献も当然なく,できないとも書いていなくて,今,当局としてもいろいろ考えているところなのです。既に出させていただいている資料の関係でいきますと,後で出てくる「審理の終結」において,審問期日においては審理を終結できるというふうな提案をしておりますのは,当事者が来ていればそこで対応できるはずだし,来なかった場合には,来なかったのだから,その人が悪いから終結できると考えているのですけれども,そういうふうに考える以上は,やはり正式な呼出しをかけていないと駄目なのではないかと考えていたところですが,審理の終結を検討していただく際に併せて御検討いただければと考えていたところでございます。   また,この点は,今は審理の終結で問題になっていたところでございますが,後で出てくる必要的審問の規律を入れた場合に,審問しないといけない人に対して,正式な呼出しをかけずに,簡易な手続だけやって,来なかったときに,そのまま裁判していいのかという点も同じように問題になると考えているところでございます。 ○伊藤部会長 ということで,必ずしもこういう考え方ですということではないのですが,菅野委員,いかがでしょうか。 ○菅野委員 難しい話なのですね。実際上では,例えば借地非訟で考えてみますと,和解のような話をすることが多いのです。借地非訟は必ず期日を入れ,必ず当事者も呼び出すということでやっているので,ある意味で一番相手方のいる非訟ということの典型だろうと思うので例にとらせていただきますけれども,その場合でも,判断に熟しているから,そこで審理をやめて決定するわけであって,相手が出てくるとか出てこないとかで終結の可否を考えているわけではないわけです。実は1回目,2回目でもう判断に熟していることもあるわけです。ただ,それでも借地非訟ですと,係争物件は,場合によっては金額も大きいですし,当事者にとって非常に重大なこともありますので,任意に話し合いできませんかとか,いろいろ裁判所で提案をして円満解決を図るとかして,そのために続行していることも多いのです。そのときに,正式の呼出しをしていない場合が普通です。第1回目は正式にしているわけですけれども,それ以降についてやっていない場合がある。そのときに,終結できないというふうになると,何か不合理な感じがいたします。   それと同時に,資料自体をそのまま法令の文言として解釈しますと,「不遵守による不利益」という文言からすると,先ほど申しましたように,終結というのは,不遵守によって終結しているわけではなく,やはり判断に熟しているから終結だろうと思いますので,この文理に当たらないような気がいたします。それから,「不利益」というのも,終結とか決定が不利益に当然になるのかというと,やはりそれは普通,こういうときに考えている不利益,例えば過料の制裁とか,そういう事柄とはひどく異質な気がいたします。それに,決定することによって利益になるのか不利益になるのか,それ自体決まっていることではないわけですし。そうすると,実際上の都合からも,文理解釈からも,終結は「不遵守による不利益」に入らないのではないかなと思いましたが,念のため確認の趣旨で実は先ほど質問したのです。 ○金子幹事 正式に呼出しをしていない当事者が出頭しない場合に終結をするときに,終結したことを告知もしないものなのでしょうか。私は,それであれば告知はすべきだと考えていて,そういう運用であれば,ここの不遵守に含めてもさして影響がないのではないかと思っていました。 ○菅野委員 むしろ民訴の学者委員の方に教えていただきたい気がするのですけれども,ここの不利益というのに終結が入らないというのは,今まで非訟事件ではなく,民訴のこととして考えていた際にも,入らないというふうになっていたのではないかなぐらいの気がありまして,そこら辺はどう学説上なっているのかというのもお尋ねしたいような気がいたします。 ○伊藤部会長 民訴では,おっしゃるとおり解釈問題ではあるのですが,今回,「審理の終結」ということを非訟手続の中に新たに設けるということになりますと,それは単に解釈問題ですよと言うわけにはいかなくて,やはりある程度の考え方を固めた上で「審理の終結」という概念そのものを取り入れるか取り入れないかということにも関係してくると思います。ということで,それを踏まえて,従来の民事訴訟における「審理の終結」と,期日の不遵守あるいは不遵守に基づく不利益との関係についてのお尋ねがございましたが,この点は,学者委員の方々はいかがでしょうか。 ○脇村関係官 終結については,どういったときに終結してもいいのかという点を御議論いただくことになると思いますので,そこで併せて今の点も御議論いただければと思いますが,それでよろしいでしょうか。 ○伊藤部会長 それでは,そこは是非,学者委員・幹事の方には更に御研究いただいて,しかるべきときにまた補充をしていただくことにいたしましょう。とりあえずは,ちょっとそこが十分固まってはいないのですが,言わばそこはオープンにしておいて,もう一度別の形での議論をするということにさせていただければと思います。   「審理の終結」についてはまた後ほど取り上げますので,そのほか,「期日及び期間」に関してはいかがでしょう。   特に御意見ございませんようでしたら,15ページの(注)にございますが,期日の変更について,相手方がある事件においては,最初の期日の変更は,当事者の合意がある場合にも許すものとすることについて,現行非訟事件手続法の解釈としては否定する見解が有力だけれども,どのように考えるかという問いかけがございます。これについて委員・幹事の方々の御意見を伺えればと存じます。実務的な視点あるいは理論的な視点,いずれからでも御意見をちょうだいできればと存じます。 ○杉井委員 最初の期日というのは,相手方の都合を聴いて決めるわけではないですよね。そうしたときに,相手方の立場で代理人についたときに,都合がつかないということが間々あります。そのときに,変更せずにそのまま進行ということになりますと―例えば,申立人の側からまずそれだけ聴いておきますということで進められることが多いわけですが,でも,それは結局また次回の期日で,相手方の意見はそこでまた……,事実上第1回というような感じになりますね。そういうことを考えますと,特に相手方がある事件というふうに限定するならば,最初の期日の変更については許すというのが,実際の実務の進行上からもいいのではないかと私は考えます。 ○伊藤部会長 ありがとうございます。   裁判所の委員・幹事の方,ただいまの点について何か御意見ございますか。 ○小田幹事 ここでも,最初の期日が何の期日かというのは問題になると思うのですが,多分,審問期日ということだろうと思います。そうしますと,13ページの2の(1)の③,審問と証拠調べ期日の変更は,顕著な事由がある場合に限り許すと。顕著な事由がある場合というのが,ちょっとその理解が不正確かもしれませんけれども,例えば,当事者の都合を聴いていないから,正に片方の当事者が対応できないということであれば,むしろこちらで読めるのではないか。そういうことであれば,実質上は,今,杉井委員が言ったようなことはカバーはできている。他方で,期日の指定については専ら職権だということとの整合性を考えると,こちらで読むということで十分ではないかという気がいたしております。 ○伊藤部会長 分かりました。   ということで,実質においてそれほど認識が対立しているというわけではないかと思いますが,この点,相手方がある事件において,当事者の合意をもとにして変更を許すという考え方と,期日の変更についての顕著な事由に関する判断で十分そういった需要は吸収できるのではないかというような御意見がございましたが,ほかの委員・幹事の方,いかがでしょうか。 ○三木委員 実質においては,これを否定する理由はないように思われます。明文規定を置くかどうかという点ですが,結論から言うと,置いた方がいいかなと思います。もちろん,期日を「審問期日」というふうに特定的に書く必要があるかとか,そういう問題はあるかもしれませんが。   先ほど小田幹事がおっしゃった「顕著な事由」の解釈に含められるかという話で,私は「顕著な事由」を本気で勉強したのが20年ぐらい前でして,よく覚えていないのですが,当時のおぼろな記憶で言うと,そのようなものは入らないという解釈が有力であったように思うのですけれども。違っていたら申し訳ありませんが。 ○脇村関係官 コンメンタール等を見ますと,現行の民訴の解釈としては,当事者の合意がある場合でも,顕著な事由がない限り変更は認められないという前提で,その「顕著な事由」としては相当厳格に解していまして,出頭困難な事由があっても訴訟遅延を目的とするときは期日の変更を許す必要はないというのは当然としても,病気で出頭できないという陳述だけでは足りないとか,本人の妻から病気である旨の届出が出ても,これを無視しても差し支えないとか,出張のためという記載だけでは駄目とか,民事訴訟法第93条の解釈の問題なのですけれども,厳格に解釈されてきたというのは,三木委員のおっしゃるとおりだと思われます。 ○伊藤部会長 という解釈が,広くか,それとも有力かは別にいたしまして行われているようですが,それを前提にしたときに,いかがでしょう。やはりこういう形で,合意がある場合にも許すという規定を置く合理性があるかどうかについて,ほかの方はいかがでしょう。 ○長委員 許すかどうかについての結論は,私もなかなか出しにくいところなのですけれども,現実の運用といたしまして,遺産分割審判では,そういう申出があった場合でも,私の考え方としては,第1回期日を行うのを原則としています。その場合に,相手方の方が十分準備できていないという点はあろうかとは思うのですが,申立人の言い分をそこで1回よくお聴きして,その上で御準備していただいた方が御準備も十分できるのではないかと私自身は考えているところがございまして,まずおいでください,そこで申立人の方の情報をよくお聴きしましょうと,そういう進め方を考えております。ただ,確かに相手方の防御ということを考えたときに,相手方が十分準備できていないということになりますと,そこでの実質的な議論というのはできないのかもしれないのですけれども,どちらがいいのかというのは,にわかに私も判断がつき難いのですけれども,私の実務的な感覚ですと,そんなことを考えております。 ○菅野委員 私の意見も実際上の運用の問題なのですけれども,期日の変更につきましては,弁護士の委員の方は御承知と思いますけれども,従前かなり柔軟に認められていたところがございます。特に,20年とか15年ぐらい前を考えますと,期日変更が出てくると,逆に言えば,濫用に当たらないようなものは認めるような感じさえございました。ただ,民訴改正の機運あるいは迅速化という議論が出てきたころから少し風向きは変わってきております。以前に,ある弁護士グループとのプライベートな勉強会をやっていたことがあるのですけれども,その中で,弁護士側の発表のときに,結局,裁判所は変更を認め過ぎると。各係,裁判所書記官ごとに統計を半年くらいとられたようで,ある係はほぼ100%認めていると。ここは50%だ,ここは7割方ぐらい認めていると。いずれにせよ物すごい割合で期日変更を認めていると。これでは審理遅延につながるという話が出たこともございます。   ただ,では今も全くそれと同じかといいますと,先ほど長委員から御紹介がありましたように,私も,あるいは訴訟のときでも,あるいは借地非訟をやっているときでも,相手方欠席予定でもとりあえず第1回期日を開かせていただくことがかなりの割合であります。半分ぐらいはそうです。それはなぜかというと,最初にとにかく,逆に言えば,この申立てだけでは足りないのではないかとか,いろいろ準備を指示したいというのもございますし,電話でやることもできましょうけれども,その場で説明した方が早いと。そのために呼ぶ。これは相手方にとって特に不利益なことではなくて,相手方の方はもう一回きちんとそのために期日をとりますから,一回目は開かせてほしいと連絡してやる場合もかなりあります。一方で,既に申立書の段階できちっとできている,あるいは訴状の段階できちっとできていて,あとは被告側でどう防御するか,認否するかだけだとすると,相手方が出てこないと意味がないですから,その場合は延ばします。やはり,実際の運用は,前よりは少し厳しくなったとはいえ,今でも事案に合わせてかなり柔軟な運用がされているような気がいたします。そういうものを前提とすると,あえて同意すればというようなことを入れると,申立てをして,それで一律にとまってしまうみたいなことがあって,簡易迅速を旨としている非訟の仕組みと若干合わないのではないかというような危惧を感じるところです。 ○伊藤部会長 もちろん,ここで問題にしているのは,当事者が合意をしている場合を前提にしているわけですが,合意をしている場合でも,言わば期日についての当事者の処分権のようなものを認めると,必ずしも裁判所による適切な非訟手続の進行が図れないという問題,そういう懸念があるという御趣旨かと思いますが,ほかにいかがでしょうか。大きく分けると,そういう見地から,このような点については否定的に考えるべきだというお考えと,当事者の意向をこの限りでは尊重して,合意がある場合にも最初の期日に限って変更を認めるべきだというお考え,二つがあるように承りましたが。 ○杉井委員 今,部会長がおっしゃったように,あくまでもこれは当事者の合意がある場合に限り許すということなので,先ほどおっしゃったような濫用ということがそれほどあるのかなという感じがいたします。   それと,これは私の体験ですが,確かに現在の運用は,特に家事については,私が相手方代理人についたときに,第1回期日の変更というのはほとんど許されない,とりあえず申立人の側だけ聴きます,こういうことで進行されることが多いのです。その際,こちらは,代理人は出ていけないということで申し上げるのですが,ある事件で,相手方本人も,先生と一緒でないと不安だから行けないということで行かなかったわけです。そうしたら,調停委員の方から,なぜ前回来なかったんですかと責められて,また,申立人本人から,この前来なかったじゃないかというようなことで責められたというようなケースもありました。この場合は,合意がなかった事件なので,合意がない場合は仕方ありませんけれども,合意があるとすれば,やはりそこは柔軟に認めていただいていいのではないかと思います。 ○伊藤部会長 当事者間あるいは代理人の間で話合いがあって,合意ができたような場合については,その方が適切である,そういうお考えですよね。   ほかにいかがでしょうか。 ○鈴木委員 必要的審問になるかどうかというのはまた別の話だと思いますが,むしろ,先ほど長委員が例に出された遺産分割のような例ですと,1回ではとても終わらないのが普通で,訴訟も,相手方がいて争っている場合は1回では終わりません。ですから,むしろ,原告あるいは申立人だけでもまず聴いてみて,釈明すべきところは聴いてと,その方が順調にいくというケースもあると思うのです。一方で,審問をやるにしても1回で終わってしまうだろう,それなら両方がきちんと出てこられる日にやった方がいいだろうということがあると思うのです。ですから,いろいろな状況に応じていろいろなバリエーションがあっていいと思うのですけれども,合意があった場合に必ず変更するということになってしまいますと,この事案はどっちみち何回かやらざるを得ない,とりあえず申立人の方だけからでも事情を聴いて方針を立てる,あるいは釈明という言葉が適当かどうか知りませんが,釈明すべきは釈明し,不足した資料は準備しなさいということで,結果的には全体的に早く進行するということが期待できるケースも多いと思うのです。それを一概に封じてしまっていいのかなという気がいたします。 ○伊藤部会長 学者の委員・幹事の方でほかに御発言はございませんか。 ○三木委員 ただいまの御発言とか長委員の御発言を伺っていると,この後議論する立会権とかかわっているようにも思われます。立会権をどうするかというのは,これから議論することですが,仮に相手方のある事件において審問期日への立会権を認めるという方向で考えるとすれば,むしろこのような規定を置く方に振れるのだろうと思います。今の御発言は,余り立会権というものを重視しないということを前提とした御発言のように伺いました。 ○伊藤部会長 委員・幹事の方々の御意見の大体の動向は明らかになっているかと思いますので,ただいま三木委員の発言にございましたように,他の点とも関係いたしますので,とりあえずこの点はこの程度にいたしまして,また全体の議論をした上で,どういう方向に進むべきかを御検討いただきたいと思います。   次に,16ページの3の「手続の公開」でございますが,内容はこのとおりで,公開しないものとするという原則をここで維持する,こういう形になっておりますが,この点に関してはいかがでしょうか。   この原則で特段問題はないというふうに承ってよろしいですか。基本原則にかかわるところでもありますので,御意見があれば御遠慮なくおっしゃってください。 ○長谷部委員 この点は,現行法が手続を非公開にしている趣旨がどういうところにあるかということとも本当はかかわってくるかと思いますが,判例によれば,非訟事件には憲法第82条の公開の要請が及ばないとされています。非訟事件の手続を公開するまでの必要は必ずしもないという趣旨であればそうなのかもしれないのですけれども,手続を非公開にしないと非常に不都合が生ずるかというと,そういう事件ばかりではないように思います。むしろ,手続を公開にするべき要請がある事件もあるように思われます。例えば,従来,判例でも問題になっております過料の裁判ですとか,裁判官の分限裁判ですとか,そういったものは,裁判所が行う行政処分としての性格を持っているといわれていますので,少なくとも不服申立ての段階では公開の必要があるという議論もあり得るところです。そういったことも踏まえた上で,このただし書の中で,裁判所が傍聴を許可するとか,あるいは,場合によってはかなり広く傍聴を認めるという扱いがあってもよろしいのかなと思います。 ○伊藤部会長 非訟一般ということになれば,長谷部委員も,この原則が妥当するであろうと。ただ,今おっしゃった過料ですとか分限ですとか,そういう特別な類型のものについては広く傍聴を許可する,ないしは公開をするというものにふさわしい事件類型があるのではないか,そういう御指摘ですね。   いかがでしょう。ほかに,今の長谷部委員の御発言に関して何か御意見ございますか。 ○菅野委員 今,過料というお話が出ました。ちょうど東京地裁民事第8部で過料を担当しておりまして,その関係でお話しますけれども,例えば過料事件というのは当部だけで年間大体5,000とか6,000件台なのです。そうすると,毎日やるというわけではないですから。そういう事件ですから。この日は言わば過料の日ということで多数処理するわけです。そうすると,人的,物理的な意味でも,公開するようなところで何かやるというような形には非常になじみにくいような気がいたします。   非訟は,繰り返し申し上げているのですけれども,確かに相手方との非常に利害対立があるタイプのものもありますけれども,そうでないタイプのものもたくさんあります。例えば現在別な法令で期日を開くことになっている労働審判とか借地非訟などは非常に利害が対立するタイプです。ただ,そのようなタイプのものでさえ公開することにはなっていないわけです。何でかということですけれども,一つには,先ほど長谷部委員がおっしゃったとおり,憲法上非訟はというところが一つ,昭和30年代,40年ぐらいまででしょうか,議論の一つの区切りがついてしまっているので,非訟について公開しないというのが一つあるのだと思います。   ただ,ここから先は本当に個人的な考えですけれども,いろいろな外国で見せていただいたりしたのですけれども,そのときの議論とか,あるいは行政訴訟をやっているときの感覚からして,公開の要請というのは,刑事とか行政訴訟とか民事訴訟とか,いろいろな差がやはりあるのだと思うのです。そういう中で,公開の要求が,重要な例えば刑事裁判とか,そういうものについては,それを限定することを最小限にする,そういうふうに動くでしょうが,そうでないタイプもあるはずです。裁判官というのは,実は公開に物すごくなれているわけで,本当のことを言うと,それこそできるだけ大きい法廷で,高いところの法壇とかに座って,全部公開にして,いろいろな人を入れて,弁護士の方々をこっち側に並べてやっている方が楽なのですね。これは御推測がつくと思いますけれども。特に若い裁判官なら絶対楽です。本当は非公開で,平場の席で顔を突き合わせながら議論するというのは,私のように年をとって面の皮が厚くなってきますと大丈夫なのですけれども,若い裁判官にとっては,それは非常に大変なことなのです。そういう意味で,決して裁判所が公開に消極だとか嫌だということではなくて,現実には当事者が,特に民事の場合あるいは家事の場合とかに,他人に見られる,あるいは内部資料とかそういうものが出てしまうということが非常に気になるわけです。特に会社非訟の場合は,訴訟ならば通常出てこないような内部資料,財務資料あるいは資金繰り等が普通にぽんと出てきて,議論したりします。それはやはり,非公開でやっているということで,運用というか,そういうものが積み重なってきたところであります。   話が飛びますけれども,調停部にいたときに,調停申立事件というのが思ったより多くございまして,月によりましては,他の部から訴訟が調停に付されて来るより直接調停申立てで来る事件というのが多いという月もあるぐらいなのです。その理由を聴いてみると,非公開であるために調停を選んだというタイプのものがかなりあります。そういう意味で,当事者は結構意識しているようです。また,最近は,修習生の傍聴とか,あるいは外国の裁判官がいらっしゃったときに,非訟とか調停とか,本来非公開なものについては同席の可否を当事者に聴くのですが,私は,これは形式的に聴くと思っていたのですけれども,現実にはノーと言われることは結構ございます。東京地裁民事第8部の場合ですと,特に調停部より更にノーというのが増えます。外国の裁判官でもノーと言われて,裁判官だからいいではないかと,直接説得してみても,駄目なときがあります。裁判所側ということよりは当事者側でいろいろな面があります。   何か取りとめがない話になって申し訳ありませんが,現場的な感想を言わせていただきました。 ○伊藤部会長 どうもありがとうございます。   そういたしますと,長谷部委員も,一般的な意味での原則としては資料に掲げてあるとおりで,それについては更に菅野委員からの御説明がございましたが,恐らく余り認識の違いはないと思います。ただ,特別な類型のものについてはなお検討する必要があるのではないか,そういう御趣旨の発言かと思いますので,それを受けとめて先に進ませていただきたいと思います。   次に「審問期日」についてですが,まず,(1)の「裁判長の手続指揮権」に関しては,ここに掲げてある内容に関して特に御意見等はございますか。   それほどこれについて何か異なった御意見が予想されるというわけでもないかと思いますので,よろしければ(2)の方に進ませていただきます。「必要的審問」で,相手方がある事件においては,不適法としてその申立てを却下する場合を除いて,審問期日を開いて当事者の陳述を聴かなければならないものとすること,これについてどうかということですが,(注)の方は後から伺いますので,まず本文の方に関してはいかがでしょうか。 ○中東幹事 この間から問題になっていた,相手方がある事件とは何かということに関係してお伺いしたいのですが,審問が必要的になるようなものは,要するにこれは相手方がある事件だということなのでしょうか。 ○脇村関係官 なかなか難しいというか,恐らく必要的審問をするぐらいだから,それぐらい利害対立がある事件を相手方がある事件にすべきだというふうな発想も当然できると思いますので,両方からアプローチできると思っています。理論的にはリンクはしないと思うのですけれども,実際上としてはリンクしてくると理解しております。   あと,答えになっているかどうか分かりませんけれども,相手方がない事件でも必要的審問をとっている例はあります。例えば,家事審判のうち,特別養子縁組成立については,相手方がない事件ではあるけれども,一部必要的審問をとっています。 ○高田(裕)委員 これも研究者的関心からの書生論的発言になるのかもしれませんが,今,脇村関係官もおっしゃいましたように,必要的審問を相手方の有無によって画することが妥当かどうかということについて,意見を申し上げさせていただきます。   必要的審問を何のためにするかということがかかわってくるのだろうと思います。資料の記述にしたがいますと,口頭での意見陳述の機会を保障することに着目しますと,恐らく相手方のない事件であっても,裁判所に口頭で意見を言う機会を保障すべき場合というのが考えられるわけで,それが先ほどの例につながってきたのではないかと思います。もう一つの見方は,次に出てまいります立会権と関連してくるのだろうと思いますが,相手方当事者が存在する場でのみ情報を流通させるという意味において,情報の流通過程の透明化をねらいとした必要的審問という規律があり得るのだろうと思います。この二つの観点をどう組み合わせるかによって,相手方のある事件に限定するかどうかというのが決まってくるだろうという印象を持っております。   結論としては,それぞれの観点から特則があり得るわけでして,相手方のない事件であっても,この事件の類型におきましては,必要的審問を設けるという選択があり得るかと思いますし,相手方のある事件においても,事件に応じては審問をなしですませる事件というのもあり得ると思いますので,最終的にはそうした規定をつくることになるかとも思いますが,相手方のある事件に限定することについては若干留保が必要かなという印象を持ちましたので,発言させていただきました。 ○伊藤部会長 そういたしますと,仮にこういう一般原則を非訟事件手続の中で確立したとしても,なお特別の手続に関しては必要的審問という形での規定を設けることを検討する必要が出てこざるを得ないであろう,そういうことで承ってよろしいですか。   はい。それを別にここで,相手方がある事件についてだけ必要的審問,審問をしなければならないという規律を確立してしまう,そういう趣旨ではないということで御理解いただければと思います。 ○菅野委員 相手方の範囲の問題とまたリンクしてしまうのかもしれませんが,審問するというのは,前にもお話しましたように,実際に現在も会社非訟でも行われていることはありますし,一定の類型のものについては必ず審問するという運用もあります。借地非訟については必ず審問が行われます。ただ,手続をきちっとする,重くする,それはよい面もありますけれども,当然メリット,デメリットがあるわけでございます。手続的保障をきちんとする,立会権を保障する,あるいは口頭で主張,防御する機会を与える,そういうよい面もある。一方で,裁判所に出てくるということ自体,当事者にとってはすごく負担になるわけです。場合によっては相手方は―場合によってはというよりも,非訟でしたら,むしろ書面だけ出して,それでやってほしいと考える相手方の方が,事件数で考えてみれば多分圧倒的に多いのではないかという気もいたします。   また,審問をするということ自体,期日を決め,呼び出し,審問廷を用意し,物理的,人的なものを考える。そうすると,当然,少し先ということで時期は延びていくことになります。でも,訴訟でしたら,そういうデメリットがあったとしても,大きな権利義務について動かすのだから,そういうデメリットは目をつぶって,当然メリットの方に目を向けて口頭弁論を行うということになってきますでしょうし,非訟の中でも特殊なものについて,やはりメリットの方をむしろ優先させるべきものがあると思うのです。ただ,これは非訟としての総則として規定を設けるというところですから,そうすると,むしろ簡易とか迅速とかということを考えている非訟の場合に,総則で原則という形で規定を置くということ自体は大丈夫なのだろうかと思うところです。あるいは,先ほど,この規定があったとしても,また別な規定がというお話がございましたけれども,審問を開くこととする,ただし必要により開かないことがあるとか,何か付け加えるべきなのだろうかとかも思います。相手方のある事件においては審問期日を開かなければいけないと,ストレートに規定されてしまうと,今申したような,非訟における全体の制度としてのメリット,デメリットのバランス,あるいは制度自体の合理性ということに果たしてそぐうのだろうか,そういう疑問を感じた次第でございます。 ○伊藤部会長 ただいま菅野委員からは,相手方のある,言わば係争利益があるようなものであっても,訴訟に比べれば,その係争利益というのは比較的簡易なものであって,かつ,迅速に手続を進行せしめる必要があると。そういう非訟の手続の特質を考えた場合に,これを言わば一般原則として打ち立ててしまう,こういう必要的審問ということが果たして非訟事件の解決という点から見て適切かどうかという疑問が提起されましたが,いかがでしょうか。これも根本的な考え方にさかのぼるような問題でございますけれども。 ○菅野委員 1点だけ補足なのですけれども,当然ですが,簡易迅速のために審理しないと言っている意味ではございません。書面審理でもやれる,要するに相手方に対して質問書を出したり,主張書面を出させたり,資料を出させることで足りる場合もあるのではと,そういう意味合いで申し上げたところでございます。 ○伊藤部会長 よく分かっております。期日において直接口頭で必ずしなければいけないというのがやや硬直的ではないかという御趣旨かと思いますが,その点はいかがでしょうか。 ○栗林委員 この「必要的審問」の内容なのですけれども,本文の意味は,必ず1回は開かなければいけないという意味なのか,それとも,口頭とか意見を述べる場合は,審問の形をとって意見を述べなければいけないというところにウエートがあるのか,どちらの方を意図されているのかを教えていただければと思います。 ○脇村関係官 (2)の「必要的審問」につきましては,必ず1回は聴かないといけないというところにウエートが置いてあります。   今,栗林委員からお話が出ました,必ず審問でしないといけないかどうかというところなのですけれども,これはむしろ後に出てくる立会権のところで問題になると理解しております。仮に相手方の立会権を認めたとすると,立会権がないもとで聴いていいのかという問題がありまして,そうすると,翻って審問以外で聴いていいのかどうかということになるのではないかと考えております。ですので,そういう点で二つの問題があるのかなと思っていましたので,資料上は必要的審問と立会権を一応分離して書いてあるところでございます。 ○伊藤部会長 栗林委員,いかがでしょう。 ○栗林委員 立会権については認めるべきだし,立会いのないところで,相手方の反証の機会のないところで手続が進む,審問をされることについては問題があるというのは私どもの考えだと思います。ただ,1回は審問しなければいけないという条文を定めることの合理性があるのかどうか。反対に言えば,立会権のところの方向から考え方を決めればいいだけであって,審問という形式にこだわる意味が本当にあるのかどうかということを思っております。 ○長委員 必ず審問期日を開かなければいけないかという点なのですけれども,家裁の実務の中で,乙類については調停が先行することになります。乙類調停の場合には,事実の調査であれ,証拠調べであれ,必要なものはかなり尽くされることが多いと思うのです。当事者の主張にもよりますけれども,調停の中で審理が尽くされるということもそれなりの数ございます。そういうものについて審判に移行したときに,必ず審問期日を1度開かなければいけないかということなのですけれども,現在の実務でも,主張が尽くされ,事実の調べも尽くされているようなものについては,審問期日が開かれない場合もございます。それほど数が多いとは思いませんけれども,そういうこともありますので,例外がないということになりますと,かえって当事者の方たちにも要らぬ負担を負わせてしまう面も出てくるのではないかという気がいたします。 ○伊藤部会長 ということで,必要的審問という形での原則をここで立ててしまうことが,かえって審理の手続の柔軟な運用と矛盾するのではないかという趣旨の御発言がございましたが,いかがでしょう。 ○増田幹事 今の長委員の御発言にはちょっと異論があるのですけれども,それはまた調停と審判との関係にわたりますので,家事審判法の方でお話しようと思います。   その前に,審理が重くなるのではないかという御意見がございましたが,後の電話会議システムやテレビ会議システムの利用という点も含めて考えますと,出頭の手間についてそれほど神経質に考える必要はなく,必要的審問は書面以外の口頭で当事者が意見を述べる機会を保障するという程度の意味にとらえることができると思います。必ずしも裁判所でみんなが集まるというイメージでとらえなくてはならないものでもないと思います。裁判所においても書面だけでは分からないこともおありでしょうから,その点を当事者の意見を聴いて補充するとか,争点について共通認識をつくるとかいった意味で,審問期日を設けるということはやはり積極的に考えていいのではないかと考えております。 ○山本幹事 私もどちらかといえば積極的に考えるべきではないかと思っているのですが,先ほど訴訟手続との比較のお話が出ましたが,私自身は,もう一つ,行政処分との比較というのも考えるべきではないかと思っております。周知のように,非訟事件手続というのは,一種の行政的な作用を司法権にゆだねたものであるという理解が一般的なのではないかと思いますが,行政処分を行う前提の手続として行政手続法という法律ができて,私の理解している限りでは,重要な行政処分については聴聞手続を経るということになっていると思います。聴聞手続は,口頭によって処分対象者の意見を述べる機会を付与するということで,重要でない処分については弁明の機会の付与という手続で,これは書面手続が原則だとされていると思うのですが,そうだとすれば,通常の行政処分において,重要なものについては口頭での審理の機会を相手方に付与するという形になっているとすれば,それが司法にゆだねられる趣旨としては,司法権による慎重な審理に期待して本来的な行政作用を司法にゆだねるという部分があるのではないかと思っておりまして,そうだとすれば,非訟事件手続における原則は,どちらかといえば,行政手続法であれば聴聞的なものが原則になってしかるべきではないかと考えております。そうであるとすれば,1度は裁判をする前提として当事者の陳述を聴く機会を与えるという規定が原則として置かれるということは相当なものなのかなと思っています。ただ,もちろん,実務上それによって様々な問題が生じることがあると思いますので,その例外については,個別法等で必要的審問でなくするという場面があり得るだろうと思いますし,逆に,先ほど高田裕成委員が言われたように,相手方がない事件についても審問を必要的とするべき場面というのはあるのではないかと思っていますが,原則として相手方がある事件,争訟性のある,当事者の利害に重要な影響を与えるような事件について,原則として必要的審問とするというのは,私は十分制度として筋が通っている話ではないかと考えております。 ○中東幹事 私自身も皆様と実質的な意見が違っているわけではないと思うのですが,理念の確認をお願いできればと思っています。(補足説明)にありますように,相手方がある事件では,当事者に攻撃防御を十分尽くさせるのが妥当だ,この理念のもとにこの現代化の審議が始まっているわけですので,ここはやはり出発点として確認していただきたいと思います。   さて,そのときに,審問という話が出るので,手続が重いのではないかという話が出ているわけなので,例えば会社法ですと陳述の聴取をしているわけで,実際に審問の期日を入れていらっしゃる場合もありますし,書面等で意見を聴かれて終わりということもあろうかと思います。そこら辺はフレキシブルにするとしても,出発点といいますか,理念については是非共有した上で審議を進めていただきたいと存じます。 ○髙田(昌)委員 先ほどの山本幹事の御発言とも関連するのですけれども,必要的審問を原則化するということが重要だということは,全く異論はありません。ただ,先ほど山本幹事の御指摘にもありましたとおり,ここでは口頭によって陳述をするという,口頭によるというところも非常に重要なのですが,一方で,裁判結果に影響を及ぼす機会を与えるということで,陳述をする機会を与えるということも重要であり,その点については,相手方がない事件といったようなものにおいても,そういう意味での陳述をする機会を与えることが必ず必要であると考えております。ですから,口頭による審問を原則とすることによって,要するに必要的審問があるかないかといった極端な形で手続が構成されてしまうと,今申し上げたような,もう一方の意味での陳述の機会が奪われてしまう可能性がありますので,そのあたりは,書面による陳述の機会を与えるなどの可能性も考慮していただきたいと思います。 ○伊藤部会長 そういたしますと,皆さんの御意見を伺っていますと,まず,これはむしろ趣旨の確認ですが,ここで言う必要的審問というのは,必ず当事者の主張については審問期日で聴かなければいけないという意味での必要的審問ではなくて,1回といいますか,当事者が自らの主張を口頭で述べる機会を与えなければいけない,そういう意味での必要的審問であるということは共通の前提になっていると思います。その上で,そういう意味での必要的審問を基本原則として立てるか,それに関連して,その例外は,不適法として申立てを却下する場合ないし(注)のところにございますが,そういったことだけでいいのか,そこはもう少し手続の柔軟な運用を可能にするために,個別法の問題は別といたしましても,一般原則としても,もう少し広く裁判所の合理的裁量の余地を認めるような形での規律がいいのではないか,こういうような御意見の分かれ方かと私は理解しておりますが,そんなことでよろしいでしょうか。   これも今ここで決着がつくような性質の話ではないかと思いますので,一応現在の段階での委員・幹事の御意見の分かれ方としてはそのような状況であるということを確認させていただいた上で(注)のところについて御意見を承りたいと思います。(注)の1で,申立てに理由がないことが明らかな場合には,そういう意味での必要的審問をしなくてもいい,こういうことについてどう考えるかという問いかけがございますが,この点はいかがでしょうか。 ○杉井委員 「申立てに理由がないことが明らかな場合」というのは,具体的に言うとどういう場合なのでしょうか。 ○脇村関係官 当局として,具体的な例が何かあるというわけではなくて,不適法ではなくても外していいものがあれば,是非教えていただきたいと考えているところです。 ○伊藤部会長 むしろそういうような例があるか,あれば,それについて更にどう考えるかという趣旨の問いかけということでございますけれども,いかがでしょうか。これはまず実務家の委員・幹事の方にお伺いした方がよろしいかと思いますが。 ○菅野委員 先ほどお話したところの流れからしますと,必要的審問という規定を入れるならば,どこか抜くところがあった方がいいという話になるのだろうとは思うのですけれども,では,こういう規定をいただいた場合にどう活用していいのかというのは非常に難しいように思います。これは民訴横並びの解釈とか,そういうことができない分野になってしまうと思いますので,先例の蓄積もないということになります。   一方で,実際の運用としては,会社非訟系というのは,不適式とまでは言わなくても,こういう申立書では絶対通らないよというのは幾らでもあるわけなのです。慣れておられない場合があるのと,それから,実際は本人で申し立てる場合というのが幾らでもあるのです,非訟というのは。弁護士率というのを調べてみたことはないのですけれども,類型によっては,むしろ本人がいらっしゃるのが当たり前というのもあります。そうすると,結局実際は窓口で,申立てについて,こんなの全然駄目だよ,やめたらという場合もあるし,あるいは,こういう資料がほかにあるのかとか,こういうふうな申立てにすればレールに乗るよとか,いろいろなこういう議論をやっているのです。ですから,こういう規定があると,逆に余りそういうことをしないで,はねていいのかなとか,あるいは逆に,先ほどもちょっと,もし必要的審問だったら抜く規定がと言いましたけれども,堂々めぐりで変なのかもしれませんけれども,審問が不相当と認める場合は審問を省くことができるとか何か工夫できないでしょうか。それは全然駄目でしょうか。あるいは,当事者に照会して書面で足りるときは省くとするかとか,何かそういう形で抜いた方がいいような気もいたします。ただ,「申立てに理由がないことが明らかな場合」というのを結構広めに,何か類型別に定義していただければ,それはそれで,言わば無駄な審問をしなくていいということで,意味はあるのかもしれません。   審問というのは,繰り返しますけれども,当事者にとって必ずしもサービスになるとは限らないわけです。言ってみれば,呼び出されてしまう。呼出しという言葉自体でよく当事者は怒るわけですね。借地非訟を例にとると,割合相手方が御本人でいらっしゃることが多いのです。そうすると,まず,何で呼び出したのだというところから話が始まることが多く,それでもめることがあるのです。あるいは,来てくれなかったり,いろいろなことはありますけれども,そういう意味で,工夫をしていただいたり,更に検討していただけると有り難いなという気がいたしております。 ○脇村関係官 この点ですけれども,私もいろいろ考えたりしたのですが,必要的審問の意味合いとしては,当然相手方からの意見聴取もそうなのですけれども,これは口頭による聴取ということで,申立人もある程度想定して考えているところです。ですので,最初は,理由がなければ聴かなくてもいいのかなとかいろいろ考えたのですけれども,恐らく必要的審問ということになりますと,却下するときについても申立人に口頭による陳述の機会を与えないといけないのではないかということも考えつつ,そうだとすると,外すということについては,よほどの理由がないといけないのではないかということで,原則不適法のときだけと。プラス,明々白々なときについてはいけるのかなと。ただ,前回もお話しましたとおり,訴訟でいう主張自体失当のものが,非訟の場合は恐らく不適法の方に流れてしまうこともあって,大体不適法で吸収してしまうのかなということもあるようなないような気もしたりして,当局としても今は定見はないのですけれども,ただ,この点については,今,菅野委員からお話もありましたので,ないのかあるのかもう少し考えさせていただければと思います。その上で,もしあれば是非御提示させていただいて,御検討いただければと思います。 ○伊藤部会長 ということですが,(注)に掲げられております「申立てに理由がないことが明らかな場合」というのを除外することについては余り積極的な御意見はございませんか。菅野委員からは,余り有効性が期待できないのではないかという趣旨の御発言がございましたが。 ○長委員 先ほど御説明がございました,訴権の濫用のような場合に,不適法として処理できるので,不適法の場合のみを例外とすれば足りるのではないかという御指摘があったのですが,実務では,これが不適法になるのか,理由がないということになるのかというのは,実は悩むことがあるのです。理由がないというのは,実体法の定めているところの要件を満たすような事実がない場合です。それが明白である場合が,必ずしもすべて不適法に流れるとはいえないようにも思えます。そうすると,(注)の1のような意味を含めたような何かその例外をお考えいただきますと大変助かるという感じがいたしました。 ○菅野委員 私も先ほど消極的な感じで話してしまったみたいですけれども,消極的だったのは,必要的審問を原則とすることに消極的だったわけでありまして,抜く方について必ずしも消極ではないのです。ただ,どういうふうに運用していけばよいのかなという形でお話したわけで,何らかの形で抜いていく規定というのは必要になるであろう,そういう意味で話しているわけです。 ○伊藤部会長 分かりました。   今の菅野委員,それから長委員の御発言を承っていますと,非訟という,訴訟と違った特質を持つ手続においては,不適法あるいは理由がないという形で截然と分けるのが難しい。しかし,申立てが排斥されるべきことが明らかで―そういうことを書くかどうかは別として,実質で言うと,そういうことが明らかなような場合に,やはり必要的審問の例外を設けるということには合理性があるという趣旨の御発言かと思いましたが,ほかにいかがでしょうか。何か更にこの点に関して御意見ございますか。   それでは,先ほど脇村関係官からも発言がございましたので,更にどういう形での例外を設けるのが適切なのか検討してもらいたいと思います。   (注)の2の「裁判所は,非訟事件の裁判の効果を直接受ける者の陳述を聴かなければならないものとすること」,これについてはいかがでしょうか。御質問でも,あるいは御意見でも結構ですが。 ○菅野委員 前に,裁判の効果を直接受ける者に対する通知のところの論点でもお話したかもしれませんが,商事非訟の場合,会社とか株主とかを考えますと,大概の場合に,効果を直接受ける者というものが出てくるわけです。特に株主の場合には非常に数が多い可能性もあるわけです。そうすると,今の会社法の中で,それぞれ例えば何か陳述を聴かなければいけないとか,いろいろな規定があるものについてはもちろん聴くように考えていきますし,さらに,その趣旨を敷衍するような形での運用ということを考えるわけですけれども,会社法上,例えば特定の類型の株主について,意見を聴かないで処理することができるものについてまで聴くということになると,裁判所にとっても負担が大きいだけではなくて,場合によっては申立人にとっても,あるいは先ほどからのように,聴かれる相手方等にとっても負担になることもあるように思います。これも,こういうことが必要なときがあるということを否定するものでは全然ないのですけれども,総則規定として置いてしまうのはどうなのだろうか。一定のものについて,それなりの各則を置く,あるいは規則等で何かを定めるとか,そういうことで進められないのかという気がいたします。 ○伊藤部会長 菅野委員からは,そういったものは具体的な手続あるいは事件の類型に応じて各則で合理的な規律を設けることがいいのではないか,こういう形で一般的に総則規定の中に置くことは必ずしも適切な効果を生じないという御趣旨の御発言がございましたが,それに対して御意見はございますか。 ○三木委員 陳述を聴くというのが,審問期日に出頭して口頭でということであれば,それは菅野委員のおっしゃるように,すべてにそれを要求することは難しいと思いますが,意見を述べる機会とか,反論の機会とか,表現振りはいろいろとありましょうが,そういったものは与える必要があるという規定を総則に置く意義はあると思います。 ○山本幹事 前にも申し上げましたが,裁判で直接権利義務に影響を与える者については,申立てがあったことを通知すべきであると考えていますが,その後は,その通知を受けた人が参加してくれば,参加人として取り扱う。恐らく参加人として取り扱われれば,当事者と同視されることになるのだろうと思いますので,この(2)の規定でカバーされることになる。ただ,参加してこないのであれば,私は,その者の陳述を特に聴く必要はないのではないかと考えていまして,そうだとすれば,(注)2のような規定は,私自身は,必要はないのではないかと思っております。 ○伊藤部会長 ありがとうございました。   この点も意見が分かれているようでございますが,他の委員・幹事の方はいかがでしょうか。 ○中東幹事 私は基本的に入れた方がよいという意見で現在のところおりますけれども,菅野委員がおっしゃいました会社非訟との関係では,直接影響を受ける者の「直接」の範囲をどう考えるかということだと思います。つまり,株主みんなにということになれば,これは大変になるというのは委員おっしゃるとおりだと思いますが,会社代表者が会社を代表しているということであれば,その会社の株主は間接的な影響しか受けないわけですので,その点はそう心配しなくてもよいのかなと思っております。 ○伊藤部会長 そういたしましたら,この点もそれぞれ異なる御意見が出されておりますので,それを踏まえて事務当局において整理の上で更に検討をしてもらうことにいたします。   ちょっと中途ですけれども,ここで休憩をとりたいと思います。           (休     憩) ○伊藤部会長 それでは,再開いたします。   次は,18ページの「(3)相手方の立会権」でございます。相手方のある事件において,当事者の審問に際して他の当事者の立会権を認めるということでございますが,これもいろいろな場面に関して,進行協議のための規律はどうかとかいうこともございますが,まず基本的な考え方としてはいかがでしょうか,御意見を承れればと存じます。それぞれの事件類型に応じた手当てはまた別に考えるとしても,基本原則として総則規定にこういう趣旨の規定を置くということでよろしいのでしょうか。 ○菅野委員 例えば昔から,和解のときに双方を対席させるのがいいのか,対席させないでやる和解というのはまずいのではないかとか,いろいろな議論がございます。調停の場合にも,対席調停が原則なのか,交互入室が原則なのかとかいうのは昔から議論がございます。結局,裁判所的,現場的に見れば,両方が一緒に座っていなくても,そちらにも話す機会を与えていますし,相手方にも話す機会を与えています,論点は伝えますし,それぞれ質問する機会もありますというふうにしておくと,それは立会いとは言わないのでしょうけれども,手続的な保障はしているのではないかという意識があるのです。申立人を審問するときは必ず相手方がいなければいけないとすると,本当は当該期日で相手方に聴くべきものは何にもない,申立人は例えば10必要な疎明レベルで3か5しかないから,さらに,何かあるのかどうか確認しようとして審問しているということが結構ございますが,そのときに相手方を呼び出すことの負担ということがあるかもしれません。あるいは実際に双方来ているときでも,必ずしも片方がいるところでは,先ほどのプライバシーとか営業秘密ではないですけれども,話しにくいということがあります。物によっては,双方いるときにしゃべると,いわゆる感情的にけんかになってしまっては困るときというのがございます。これは当事者が多い非訟の場合にはなおさらなのです。弁護士でしたら,そこら辺はいろいろなことが当然分かっていてやっていくことができるわけですけれども,片方本人のときにそれでいいのかとか,いろいろなことがございます。あるいは,片方が本人のとき,借地非訟でも言われたことがあるのですけれども,他方は弁護士が3人も4人もいる。自分は一人で来ていて,こんなところでまともにしゃべられるかと,借地非訟はミニ法廷のようなかなりきっちりした部屋で,普通の口頭弁論に近いような形でやっているのですね。そうすると,そういうことを言われることもあります。借地非訟については当事者は常に対席というのを原則としてやっているのですけれども,そこでもクレームが出ることがあるぐらいです。ましてそれよりも対立性が弱いものとか,いろいろな事案が非訟にはあります。そうすると,これも一種の,どちらが原則で,どちらが例外かということなのですけれども,常に対席させるかどうかというのは,やはり一種の訴訟指揮の一つとしてゆだねていただいた方が運用はしやすいように思うところです。仮に立会いという形で規定が原則として設けられるならば,何らかの形で,「相当な場合は」とか何かで抜く形の規定も設けておいていただいた方がよろしいのではないか,そのようなことを思っています。   そうではなく非常に重い規定だけになってしまうと,物理的にそれほど多数の審問廷もないですし,逆に審問まで進めないようにしようとか運用が変わってしまうかもしれないようにも危惧します。そういうのも,かえって期待したところというか所期したところと違うことになってしまうような気もいたします。 ○伊藤部会長 ありがとうございました。   これも繰り返し出てくる非訟の特質と手続保障という考え方の調和をどこに求めるかという問題かと思いますが,ただいまの菅野委員の御発言を踏まえまして他の委員・幹事の方からの御発言を伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○長委員 家事の関係で例えばDV絡みの事件というのもあるのですが,そういう場合には当事者の方が対席することを拒否されます。今は遺産分割の担当をやっているのですが,私は,遺産分割の事件のような場合には対席でやるのを原則にしているのですが,そういう事件でも当事者から対席,同席は拒否したい,こういうふうに言われることがあります。それは,やはり今までの生活歴の中でいろいろな感情をお持ちになる方がおられまして,同席が適当でないと。そういたしますと,それぞれ別々に聴きまして,前の人からポイントになるようなことについてこんなことが出ましたよ,それについてあなたはどういうふうに考えますかというような実は二度手間のようなことやりながら審問をやったりいたしております。そうしますと,例外なしの形でなく,どこか例外をつくっていただきますと実務的には運用しやすい,こう思います。 ○増田幹事 和解や調停の場で対席か交互面接かという議論があるというのは周知のとおりなのですけれども,審問というのは,裁判の基礎となる主張を提出し,あるいは証拠を提出し証拠調べをする,そういった場であると考えますので,ここで対席でない交互面接というのはちょっと考えられない議論であると思います。当事者が同席を拒否する場合という話がございましたが,そういう場合には電話会議システムなりテレビ会議システムなりといった別の対処方法もあるわけですから,主張や証拠を出す場は,やはりお互いのやりとりが見える場として設定していただきたいと思います。 ○伊藤部会長 ただいまの増田幹事の御発言は,何らかの例外を設ける必要もないという趣旨ですね。 ○増田幹事 設けるべきではないという考え方です。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○杉井委員 私も増田幹事の意見に賛成です。これもあくまでも当事者を審問する場合,その場合の問題ですし,それから,それぞれの話を裁判所が聴いて,また相手方に伝えてというようなことになりますと,むしろ逆に二度手間ということにもなります。やはり直接に相手がどういう主張立証しているのかというのを,当事者としてはきちっと見聞できるということ,これが審問のポイントだと思いますので,立会権があるというのは当然だろうと思います。   それに「審問に立ち会うことができるもの」ということで,権利として認めているわけで,もし実際立ち会わなくてもいいと本人が言うのであれば,その拒否は認めればいいわけで,そういう意味で,原則的にはこの規定でよろしいのではないかと思います。 ○伊藤部会長 恐らく実質的な意見の相違点は,何らかの例外を設けるべきなのか,そうではなくて,例外を設けないでこういう形での原則を確立すべきなのか,そういうあたりが相違点かと思いますが,他の委員・幹事の方はいかがでしょうか。 ○菅野委員 2点ございまして,一つには,訴訟と非訟で大きく違いますのは,訴訟の方は弁論主義なわけですね。ですから,当然,期日において陳述された主張及び証拠によって判断する。したがって,口頭弁論において交互入室の口頭弁論というのはあり得ない。これは御指摘のとおりです。   非訟の場合は,これも全体のイメージというか,ほかの事柄との枠組みでまた変わってくるのかもしれませんけれども,審問期日を開いたとしても,主張においても資料においても,その審問で出たものに限るという発想はないのですね,裁判所の方は。むしろ,実際に必要的審問期日制度を設けたとしても,やはりいろいろな手間を,当事者の負担とかを考えれば,書面での主張とか資料を出し尽くしてもらった上で,補充すべき点なり,あるいは例えば片方が本人で十分な対応ができないようなときに,ほとんど資料が出てこないけれども,御本人を呼び出して口頭で聴いてみれば何かあるかもしれない,そういうことでやるというのがむしろ従前の考え方で,ほかにも事実の調査等のいろいろなパターンというのがあるわけです。そうすると,そういう中における立会権という問題というのは,一般的な訴訟の場におけるものとはやはり違うのではないかという気がしたのです。確かに御指摘のとおり,先ほど調停ではという話をしたのは的外れな議論であったかもしれませんが,そういう意味もあって,訴訟とはちょっと違うというような意味合いで,そっちに引っ張って申し上げてしまいました。   もう一つは,やはり商事非訟等の場合に,もともと相手方の陳述を聴くということを前提としていないタイプのものもやはりあるのではないかという気がするわけです。ただ,これは相手方の範囲の問題というところで,循環論法になってしまうので今議論しても始まらないと思うのですけれども,そういう意味で,完全に原則規定,例外なしというようなことにするのは,いろいろな意味でいかがかなという気がした次第です。 ○伊藤部会長 先ほどの必要的審問との関係もございますけれども,もちろん菅野委員がおっしゃるように,必要的審問という考え方を取り入れるにしても,すべてのものが審問の場に出されたものでなければならないという意味ではありませんので,今おっしゃったようなことが当然あり得るかと思いますが,それを前提にした上で,しかしやはり審問をする際には必ず例外なしに立会権を認めるというのと,そこには合理的な例外を設ける余地を認めるべきだという点について,これも非常に根本的な問題でございますので,是非委員・幹事の方から更に御意見をちょうだいしたいと思います。 ○鶴岡委員 当事者の支援にかかわっている者という立場ですけれども,長委員がおっしゃいましたように,確かにDVの被害者などは,相手の声を聴くだけでも体が震えるというような深刻なPTSDや重篤な抑うつ状態に陥っている当事者も少なくないわけでありまして,真実の究明というような審問の性格の場であっても,相手方が立ち会うことによって事実や真実の究明という点で不十分になってくるということは十分考えられるのではないかと思います。調停と審問は違いますけれども,家裁というところは大変危険がいっぱいなところでございまして,不測の事態が今まででも数多く起きておりまして,審問の場というのは高度なリスクマネジメントが求められるという性格もあるわけです。   ただ,例えば面接交渉の援助をやっておりましても,それでは,そういう拒否している者をできるだけ会わせないようにするのが本当にいいのかということを考えますと,一定の条件の中で,守られた構造の中であれば,むしろ当事者を励まして会わせるようにする,相対するということが必要になることがありますし,一定の条件があればそれが可能になることがある。紛争の解決というのは新しい関係の創設というような側面がありますので,例えば認知行動療法とか家族療法とかの立場から見ても,できるだけ対面,相対することによって問題解決が促進されるということがあります。したがって,法的にも対面させるということを,審問の場でも促進するという原則を置くという方向でいいと思いますが,やはり例外となるべきものは必ずあると考えております。 ○伊藤部会長 分かりました。ありがとうございます。 ○山本幹事 今の鶴岡委員の御発言は誠にごもっともと思いました。私の認識は,人事訴訟法の第33条第4項の規定で,他の当事者が当該期日に立ち会うことによって,事実の調査に支障を生ずるおそれがあると認められるようなときには,立会いが除外されるということになっていると思いますが,これは恐らく非訟で立会権を認める場合も,この限度での例外は少なくともやはり入るのだろうと思っています。問題はこれを広げるかどうかというところかなと思っていまして,そこはまだ必ずしも定見はないのですが,最低限はこの範囲の例外は入って,恐らく鶴岡委員の今の例とか,あるいは長委員の先ほどの御指摘のDVはこれでカバーできるのだろうと思っています。   ほかにもあるいは例外を認める場合としてこういう場合があるという御指摘があれば更に考える必要があるのかなと思っていますが,ですから例外は認める必要はあると思っているのですが,ただ,原則はやはり,相手方があるという争訟性のある事件については,対審というのがやはり基本的な原則になるのではないか。相手方がどういうことを裁判官の面前で発言して,それを十分に知った上でそれに対する反論等をしていくというのが対審の基本なのかなと思っています。確かに訴訟と非訟は違いますけれども,例えばフランスなどでは,私が承知している限りでは,対審原則というのは,訴訟だけではなくていわゆる非訟にも適用がある原則であるというふうに一般に理解されているように思います。そういう意味では,やはり国家権力を持って裁判をする場合の基本として対審というものがあって,それは審問をする場合には立会権として現れてくるものではないか思っていますので,やはり原則としてはこの立会権というのは認めるべきではないかと思っております。 ○山田幹事 私もここの点で,今のDVの関係でありますとか,そのほか私自身は調停なり和解なりでも対席が原則ではないかと思っておりますが,しかし先ほど言われたような危険性が多いにあるということは確かでございまして,そういう意味では,個別法で例外を設けるということについては私も賛成をしております。ただ,原則は,今,山本幹事も言われましたように,対審手続等においては,相手方が何を言っているのかということを直接見聞きするということが,裁判所にとってはというよりも当事者にとって重要な権利なのではないかと考えております。とりわけ職権探知主義なのでその点はカバーできるという御意見もおありでしたけれども,むしろ職権探知のような,どこの範囲までが審判,裁判の基礎となるのかということが必ずしも明らかではない。これは後ほどまた告知の部分で出てくる話かと思いますが,そういった問題,あるいは裁判所の裁量性が大きいというところ,それから,先ほども御紹介がありましたように,書面では必ずしも明らかではないところをむしろ口頭でいろいろと聴いていくという構造がある中においては,一層むしろ立会いを認めるという権利が重要になるのではないかと考えております。 ○三木委員 この書き振りですが,「裁判所が当事者を審問する」という言い方をしているのは,審問には,截然と区別できるわけではないですけれども,主張的審問と証拠調べ的審問があるのですけれども,わざわざこういう書き方をしているのは,これは証拠調べ的審問を意識しているという理解なのか,それとも余り意味はないのか,どちらなのでしょうか。 ○脇村関係官 資料につきましては,証拠的なもの,主張的なものについては区別しないという前提で書いております。非訟事件の中では主張と証拠を区別できないだろうということを前提にしておりますので,当事者から聴くとき一般という意味で書いているところでございます。 ○三木委員 書き振りの問題ですから,主張的審問を含めた場合に「裁判所が当事者を審問する」という言い方がいいのかどうかはやや違和感もありますが,いずれにしましても,どちらの意味の審問であれ,立会権が手続保障の根幹だという点については,ほかの研究者委員と全く同じ意見です。先ほど弁論主義をとっていないうんぬんというような御発言もありましたが,ここで問題になっているのは,弁論主義よりも高次の権利としての弁論権あるいは審問請求権とかの問題で,それは,弁論主義であれ,職権探知主義であれ,両者をカバーする,より高次の権利だろうと思います。自分が反論する機会がないところで言いたい放題言われるというのは,これは手続保障の根幹にかかわる問題で,ここを保護せずに手続保障というのはないと思います。もちろん,DVの事件等の御指摘がありましたけれども,これは今我々がやっているのとは別の法制審議会で証人の保護等の規定を議論したこともありますが,それは遠隔での尋問とか遮へいとか,その他もろもろの証人―この場合は当事者ですが,証人や当事者を保護する措置の方の充実ということをむしろ考えるべきであって,だから立会いを認めないということと必ずつながるわけではないと思います。 ○金子幹事 今の三木委員の御発言,それから先ほど栗林委員からいただいた御質問とも関係するのですが,審問といっても,主張的なものと裁判の資料になる部分と,なかなか截然と区別できないというところもあります。ただ,当事者から出された書面が何を言っているのか分からないので,口頭で主張の中身を聴きたいという場合もあろうかと思います。そういう場合に他方の当事者を立ち合わせなければできないということになると,呼ばれたほうは,何だ,そんなことのためにおれを呼んだのかという印象をもたれる場面もあるのではないかと思います。そこで,およそ裁判資料としないという前提で当事者から主張の内容を聴くという機会,それをあるいは,審問だけれども立会権はないと言うか,又はそれは審問ではないと言うかは別にして,もう少しフレキシブルに一方からだけ主張の中身を聴く機会を設けることの相当性についても御意見をいただければと思います。 ○伊藤部会長 御意見の趣旨の確認をまずさせていただきたいと思いますが,先ほど山本和彦幹事から人訴法の規定についての言及がございましたが,御発言の趣旨は,例えば人訴に対応するような形での,家事審判にそういう特則を設けるということではなくて,それをこのままか,あるいはもう少し広い形にするかは別にして,総則規定の立会権についての言わば例外として置く,そういう御発言ですね。 ○山本幹事 私自身はそう思っています。 ○伊藤部会長 それで,先ほど増田幹事から,例外は認めるべきではないということについての御趣旨をもう一度確認させていただきたいのですが,今の議論との関係で言うとどういうことになりますでしょうか。およそ家事審判であっても,相手方のある事件であって,かつそれが審問としての内容を持つものであれば,人訴の規定にあるような例外もやはり設けるべきではない,そういう理解をしてよろしいのでしょうか。 ○増田幹事 人訴より重くするとなると,若干バランスに欠けるという意味ですよね。しかし,私の意見は,例外は設けるべきではないというものです。危険を伴う場合には電話会議システムやテレビ会議システムでカバーすべきだという意見です。 ○伊藤部会長 ただ,それは総則としてはそうであるけれども,各則のときにはまたその段階で設けるべきかどうかを議論すればいい,そういうことですね。 ○増田幹事 はい。 ○伊藤部会長 分かりました。   それから,今,金子幹事からの問題提起がございましたが,確かに当事者の主張や陳述を聴くという意味での実質的な審問についてはこういう原則を立てるとしても,そうではないようなものについてまで何か例外を設ける。例外を設けるというのは,立会権について例外を設けるという形もあり得るかもしれないけれども,別に審問といいますか,陳述を聴く機会の種類という視点から見て,例えば進行に関する協議の機会とか,そういうものに関してはこういう立会権の規定は必ずしも適用がないのだ,そういう方面からの例外を設けることは考えられないだろうか,そんな形での問題提起かと思いますが,そちらに関してはいかがでしょうか。 ○菅野委員 実はこの立会権の問題は,問題設定を見ましたときに,これはきっと何か申し上げても学者委員の方からは絶対許していただけないだろうなという気がしたのです。その理由といいますのは,昔,弁論兼和解という実務がいろいろありまして,民訴改正に先立って強く批判されまして,実際に見ていただきたいといって学者の方に来ていただいて同席していただいたりとかしたことがあるのですが,そのときやはり議論しても,理念としての議論と僕ら実際にやっていて現場でこうなのですよというところでかみ合わないという気がしたのです。理念として立会権が非常に大事である,あるいは口頭主義というのが大事である,それは理念としては本当によく分かるのです。ただ,実際上にそれを一律に運用してみた場合にどういう結果がでるかという点なのです。双方が一緒に立ち会ってしまうと,強く言うことがむしろ多いのです。相手がいる以上は,自分も一部非があるのだけれどもうんぬんかんぬんとかいうのではなく,目いっぱいでどうしても主張することになり,強く物を言う。したがって,相手方もなおさら腹を立てますし,強くなる。それで先ほどちょっと感情的ということを言ったのです。   一方で,先ほど言いましたけれども,商事非訟の場合ですと,場合によっては,しゃべることを差し控えるべきような事柄とか,いろいろな微妙な事柄があります。それを口頭でやっていいのか,書面で資料として残せばよいのでは―要するに,書面で資料にならないと基本的には判断の材料にはしないわけなのですから。そういう意味で,抜くときにやはりいろいろなパターンで本当は例外というのがあってしかるべきではないかという気がするのです。それは一つにはそういう感情的な問題あるいはリスクの問題,危険の問題,書面審理になじむ問題等がありますし,もう一つは,その審問の目的自体が,例えば相手方の防御権を全うしていただくために審問をしているのでしたら双方立会いということは当たり前になるでしょうけれども,書面審理がもともとかなり中心となっている非訟の場合には,必ずしも審問というのはそう目的でもないのです。単純に申立書のレベルでは,あるいは申立人の資料レベルではいかがなものだけれども,一度だけ口頭補充の機会を申立人に与えておこうという,その程度で呼んでいるときもあります。そのときに相手方まで来てもらう必要はあるのか,来てもらっていいのか。かえって何かただそこで腹を立てて帰るだけのことになりかねないのではないかとか,いろいろなことを思うわけです。理念としては否定するわけではないのですけれども,口頭主義あるいは立会権,二つ意味はあると思うのですが,実際の現場で見ていますと,それがどのような局面でもすごくよい価値があってよい効果があるということが言えるものではないのではないかと思います。それが原則であるというのは十分分かるのですが,それだけではないし,それもまた訴訟と非訟でも違いますしと,そういう意味でございます。 ○伊藤部会長 ありがとうございました。 ○髙田(昌)委員 これは確認でもあるのですが,ここで審問を原則にするということになったときに,結局,当事者からいろいろな事情を聴取する場合は,審問によらなければならないということになってしまうのか。そうなってしまうと,非常に硬直的で,訴訟手続に非常に近い重たい手続になってしまうということで,非訟の融通性とか簡易性という特徴が失われてしまうと思います。そうすると,審問以外の方法で当事者からいろいろな事情を聴くということも当然あり得るのではないか。それがなくなってしまったら,事実の調査というものには一体ほかに何が含まれるのかというところにも関係してくるような気がします。研究者の立場で手続保障ということを強く言いたいのですが,一方で,審理の在り方として,審問という形に余りにこだわり,審問だけに重きを置き過ぎていいのかどうか,ここでの審問でどこまでを射程に入れているのかというあたりをお伺いしたいと思います。 ○金子幹事 私の質問と関係することかと思うので私の方からお答えしますが,ここでは当事者から直接裁判の資料の収集を目的として事情聴取する場合には,少なくとも相手方は同席するのを原則とすべきでないかというのが,最低限のここでの提案のラインです。それ以外に,では一切当事者から事情を聴けないのかという問題があり,先ほど皆さんに是非意見をお聴きしたいと申し上げました。話を元に戻しますと,審問以外にも書面で出していただくとか書面で,審尋するということは当然あり得るわけですが,情報収集の手段として当事者から裁判官が直接聴く場合には,そこに相手方が同席するのが原則ではないかというのが,ここでの提案です。調書化すれば閲覧謄写の形で,当事者が何を言ったかというのは後である程度はフォローできるにしても,当事者の身振り手振りとか表情なりはその場にいないと分からないので,その場にいることに価値があるだろうという問題意識で御提案しているものです。 ○伊藤部会長 髙田昌宏委員,よろしいですか。ここで申し上げている趣旨はそういうことですが。 ○髙田(昌)委員 ただ,当事者から聴くときに,書面によるか例えば口頭によるかというところの決め手はどこにあるのでしょうか。 ○金子幹事 そこは言わば裁判所に任されているわけです。必要的審問の規律を入れれば1回はその機会を設けなければならないという話になりますし,そこが必要的でなければすべてを書面でしても構わない。しかし,立会権を認めるのであれば,裁判所が必要と思って当事者から直接事情を聴くような場合であれば立ち会わせなければいけない。こういうふうに考えてつくっています。 ○伊藤部会長 よろしいですか。 ○脇村関係官 髙田昌宏委員の先ほどの御意見をもう少し教えていただきたいのですけれども,ここにある資料の提案としては,今,金子幹事から話がありましたように,聴くときには当然立会いをさせないといけないということについてどうか検討することを提案させていただいているのですけれども,髙田昌宏委員から今,本当にそれで非訟であるのかどうかという点についてというお話があったのですが,そこをもう少しお伺いさせていただいてもよろしいですか。 ○髙田(昌)委員 私自身ちょっとよく分からないところがあって,確かに,適正な手続という観点からすると,相手方がある場合はその者を立ち会わせて事実を聴取するという手続が望ましいということはよく承知しているのですが,それしかないのかと言われると,いかがなものか。そういう疑問が頭の片隅にありましたので,それで先ほどの質問をさせていただいた次第です。私自身よく分からないので,また引き続いて考えさせていただきます。 ○高田(裕)委員 立会権を保障する以上,当事者から直接口頭で意見陳述を聴く場合には常に審問手続を経ざるを得ないということになるというのは金子幹事のおっしゃるとおりではないかと思うわけでして,先ほど出てまいりました人事訴訟法第33条第4項もその趣旨でできていると理解しております。ただ,私の理解ですと,人事訴訟法のときにも立会権をどうするか議論がございましたが,離婚訴訟と密接に結びついている附帯処分については少なくともそうした地位は保障すべきであろうという考えのもとに規定が設けられたものと考えておりまして,そういう意味で,非訟事件全部にこうした規律をすべきかどうかということについては,当時は留保されたものと理解しております。   その上でですが,この規律を非訟一般に広げることについては,私も髙田昌宏委員と同じように若干ちゅうちょする点がないわけではございません。もちろん,立会権の保障というところからそう簡単には撤退すべきではないとは思いますが,ただ,先ほど来出てまいりました,フランスの対審原則にしましても,ドイツ法の審尋請求権にしましても,不利な裁判を受ける場合には,相手方の資料の提出に対して反論の機会を与えられるべきであるというのがミニマムの要請だろうと私は理解しております。それを確実に保障するためにどういう方法があり得るのかということで,後に出てまいります記録閲覧権を含めまして様々な仕掛けの組合せを考えていくのだろうと思いますが,そのなかで立会権をどう位置づけることになるのか。   既に御指摘がありましたように,立会権は,相手方と裁判所との間の流通の透明性を確保するための,そして,先ほど長委員でしたか,おっしゃいましたように,多くの場合には,情報の流通の透明性を確保するためのコストの低い方法の一つだということができようかと思うのです。また,立会権はあくまで権能でありまして,自ら放棄することは可能だということは杉井委員もおっしゃったとおりと思いますので,当事者が納得すれば一方が退席する,あるいは欠席するということはあり得てよかろうかとは思います。そうだとしますと,少なくとも当事者が立ち会いたいという場合においては,特段の事情がない限り立ち会う権能を保障しなければいけないというルールを守るかどうかというのが現在の議論の焦点でありまして,そこに集中した議論をすることになるのではないかということになりますが,そこで悩んでおりますのは,常に立会権を保障することが適切なのか,反論の機会を与える,相手方から裁判所に情報が提供された場合にはそれに対して意見を陳述する機会を与えることが必要だとしても,金子幹事もおっしゃいましたように,反論の機会を与えるまでもないような場合はどうするのかという問題がありえようかと思います。とはいえ,そもそも反論の機会が与える必要があるかどうかを事前にどうやって確知するのかという点も問題となるような気もいたします。   そのようなことを考えますと,その他の様々な手続保障の仕掛けとのバランスの中で立会権というのはどういう意味を持つのかということを考えて最終的に決めざるを得ないのかなという感想を今のところ持っております。 ○伊藤部会長 分かりました。   ほかにいかがでしょうか。 ○三木委員 難しいところが多々あることは確かで,抽象的に申しますと,審問といっても,先ほどの金子幹事の整理も併せて3通りぐらいの審問が分類できると思います。一つ目は当事者尋問的審問,二つ目が弁論的審問ですね,主張,そして,三つ目が,その他の手続進行とか,手続にかかわる審問。今述べた順番に手続保障の要請が弱くなるということがある。この田原裁判官の意見にせよ,あるいは先ほどの金子幹事の御発言にせよ,やはり主としてそこで念頭に置いておられるのは,私が最初に述べた当事者尋問的審問を念頭に置いておられると思うのです。私が先ほど発言の冒頭にその区別を聞いたのも,そこの問題意識がやはりあるからで,当事者尋問的審問については,その例外を置くかどうかは別として,少なくとも原則が立会権であることは恐らく研究者的には争いが少ないのかなという気がするわけです。ただ,弁論的審問とか期日進行的審問になってくると,いろいろと違う考え方もある。もちろん,それをどうやって仕分けるのかとか,何をもって区別するのかということは言うまでもないことで,そこの問題があるのですけれども,その辺を立法という形でどこまで押さえられるか。私個人は,核になるところは条文で押さえるけれども,核になるところの仕分け自体が難しいので,具体的な条文案ということではなかなか示せないのですけれども,そういう感想を持っております。   それから,それと裏腹の関係に立ちますが,先ほど髙田昌宏委員がおっしゃったこととも関係しますけれども,同じ資料を収集するにしても,当事者尋問的審問だけ押さえればいいのか。やはり事実の調査が自由にできて,かつ,そこに何の反論の機会も与えられない―与えられないというか,実際には与えておられるでしょうけれども,条文上そういう規定を置かないということでいいのかということで,結局,立会権というのは,口頭審問が行われる場合の反論の機会を与えるための最善かつ最安価の方法であるということで,そこが技術的に抽出されているだけですから,ここに意味があるのではなくて,やはり各種の事実資料収集の過程における反論の機会の確保がそもそもの眼目ですから,そちらの方についても抽象的な規定が置けるのかどうか難しい面もあると思いますけれども,そちらをおろそかにして,場合によっては,それほど面倒だったら多くの場合事実の調査でやってしまうということになっては,それは目的にそぐわないというか,立法の趣旨にそぐわないということになろうかと思います。 ○伊藤部会長 道垣内委員,先ほど手を挙げられましたか。 ○道垣内委員 いま一歩私は議論が見えてこないところがありまして,研究者の委員・幹事の方がおっしゃっている理念からの発想,これは聞いていて分かるのですけれども,菅野委員がおっしゃったことに対して弁護士の委員や幹事の方が反対されたことにすごく私は興味を持っております。と申しますのは,弁護士をやられていて,こういう手続を実際に受任されてやっていらっしゃって,裁判所の現在の運用はよくないという認識をお持ちで,したがって,こういう条文を置いて裁判所の運用を変えなければならないということで御発言になっているのか,それとも,現在の裁判所の運用が悪いわけではないのだが,やはりここは理念の問題として立会いというものを認めるべきであるとおっしゃっているのか。現実で何が問題になっているのかというのが議論の中で見えてこないところがありますので,もし可能でしたらお教えいただければと思った次第です。 ○伊藤部会長 道垣内委員からの御要望がございますが,弁護士会の委員・幹事の方で何か補足していただければ大変有り難いと思います。 ○杉井委員 両面だと思うのです。一つは,現実の家裁の運用において,相手方がどういう主張をしているのか,どういうことを事実の調査で言ったのか全然分からない形で手続が進行するということを体験しています。そうなると,どうしてもまともな反論がなかなかできづらいというのがありまして,そういう意味で,今回のこの法改正の理念である対審構造で手続的な保障をするということについては,弁護士会としては積極的に賛成という立場でもあります。   また,これは児童福祉法第28条の児童福祉施設への入所の承認の申立ての事件の体験なのですけれども,私は親の代理人で,児童福祉所長が入所の承認を求めるという案件でした。私が受任したときには既に第1回の審問期日は終わり,2回目の審問期日が迫っていたので,私はその期日には出られないということで裁判所にも御連絡をしたのですが,結局はその期日は進められてしまって,こちらが全然立会いもすることなく進行しました。そして最後,3回目私が行ったときには,もうこれで審問は終わりということになり,審判が出たということがあります。このように,裁判所のペースで全部進められて,当事者が十分に反論する機会,防御する機会というのがなかなか実際の実務では保障されていないというのが一つの実感です。   その意味で今の実務を変えてほしいという気持ちと,先ほど来学者の先生方がおっしゃっている理念として,対審構造での当事者の手続保障,それを十分法で確保して,実務が改まってほしいというのが私の意見です。 ○栗林委員 裁判所の方は現状を前提にお話されていて,学者の方は理念のところからお話されている。弁護士の私どもの立場はどちらかというとその中間というか,理念は尊重しなければいけないということはあるのですけれども,ただ,現実と乖離があったときに本当にそこが大丈夫なのだろうかみたいなところがちゅうちょするところだと思います。例えば立会権を認めるということはもちろんやらなければいけないし,それが正義にも合致するということはあると思うのですけれども,本当にそうしてしまったら実務がワークするのかというようなところも非常に思うところがあります。 ○伊藤部会長 道垣内委員,よろしいですか。 ○道垣内委員 はい。 ○伊藤部会長 ありがとうございました。 ○二本松委員 専ら家裁に関して少しは実情を御説明をしないといけないと思うのです。家裁に来る当事者の中にPTSDあるいは抑うつ的な症状とか,そのほか精神的ないろいろな問題を抱えた方が多いのは,先ほど鶴岡委員が述べられたとおりなのです。家裁としては,そういった人たちがきちんと権利主張をすることができ,家裁の方も後見的にきちんと処理をしたいということで非常に神経を使っているわけです。事件によっては,まず,申立人が例えば妻であったような場合に,相手方を呼び出す日を別にしたり,あるいは同じ日にやるにしても時間を別にする,それから待合室もフロアを別にするとか,そういう配慮をしてやっている事件が結構あるわけです。それを必要的審問かつ立会権という形でやったときに,本当にそういった人たちの権利救済の面で支障は生じないのだろうか。むしろ女性側の代理人は,別々にやってくれ,立会いをさせないでくれということをおっしゃっている代理人が多い。むしろ,多分女性の権利を一生懸命守ろうとする弁護士さん方はそういうことをしているのではないか。典型的なのは,今,民法第772条の嫡出推定の問題で,離婚後300日以内の子の父親を戸籍上の記載をどうするのかということで,現在の夫,つまり前の夫以外の男性を父親とする認知でやってくれという申立てが非常に多くなっているわけです。これは,前夫と顔を合わせたくない,それから,親子関係不存在確認でやると必然的に手続がある意味で対審的な構造になるので,それを避けたいから認知の申立てをした上で,その手続には前の夫を関与させないでほしいという事例もあるわけです。ですから,そういうことを考えると,必ずしもすべての弁護士さんが全部必要的審問で,なおかつ立会権の保障を望んでおられるのでしょうか。そこはちょっと反論させていただきたいと思います。 ○杉井委員 女性弁護士というのが出てきましたので。私ももちろんDV事案を結構やりますし,そういうときにできるだけ顔を合わせないようにフロアは別にしてほしいといったことを裁判所にお願いして,いつもそこで配慮していただいて,それは感謝しております。ただ,それはあくまでも例外でありまして,私も各則で,あるいは家事審判法の中でまたDV事案について人訴的な例外規定等を置くということ自体は私も賛成です。しかし,やはり例外と原則とを逆にしてはいけないと思います。   それと,先ほどの認知の請求で,できるだけ対審構造でない,相手と顔を合わせないようにというのは,これも私,実際体験しているところです。わざわざ親子関係不存在ではなくて認知という形をとったこともあります。やはりそのときはそういう対審構造的なものではないという前提での選択でありまして,ただ,対審構造で攻撃防御をやはりきちっとしたいというふうな案件で,しかもあくまでも―私も,いわゆる事実の調査についても全部審問期日にしなければいけないというふうには思っていません。しかし,やはり重要な場面で,裁判所の判断で審問期日を開くとした場合に,その審問期日にはやはり当事者の立会権というのは当然原則として認められてしかるべきではないか,そういうふうに思います。 ○菅野委員 今までのお話と少し違う方向なのですけれども,多分,弁護士から見た場合の審理の充実とか,あるいは打ち切られているとか,あるいは立会いの問題と裁判官から見た場合はやはり違うと思うのです。弁護士としてみれば十分な防御を尽くし,相手方の主張もすべて分かった上できちっとした審理を尽くさないといけない,当然それが職責である,そういう立場から考えますし,裁判所の方は,判断に熟しているかどうかということも含めて,多数ある事件の中で限られた物的施設,人的施設を使って各当事者に公平に―各当事者というのはその事件だけに限りません。何百件なら何百件あるものについて,それを横並びできちっと処理していこう,そういうことを考えるわけです。   御理解いただきたいと思いましたのは,理想的な審理形態あるいはきちっとした防御権とか,そういう価値ももちろんあるわけで,立会権という価値を否定するものでも全然ありません。ただ,そういう価値とそれ以外のいろいろな価値とのバランスの中で,要するに,手続規定を変えたことによってそれだけ例えばハードウエアとか人的なものが今補充されるというような,そんな御時世には全然なっていないわけですから,その中で,どれかの価値だけを非常に強く言われると現場として非常に難しくなってしまうので,何かいろいろな例外というか抜けられるところもあるようにしていただかないとやはり難しいのではないかなという意味合いです。 ○伊藤部会長 先ほどの道垣内委員の御質問がきっかけになりまして,裁判所側から見た状況,代理人の側から見た状況がよく御理解いただけたのではないかと思います。今までの御意見を拝見してまいりますと,若干整理的なことを申し上げますが,一つは,手続保障の視点から,少なくとも総則規定には例外を設けないで立会権を認めるべきであると。先ほど来出ています一定の類型の家事審判などに関して,特則として例外を設けるべきかどうか,あるいはどういう要件のもとでの例外を設けるかを検討すべきであるという御意見が一方にあり,他方,総則規定においても例外を設けるべきである。その例外の設け方については,人訴法の規定などを踏まえて,言わば適正な審理を実現するために立会権を認めることが支障があるような場合に関しては例外を設ける,あるいは更にそれを広げるという考え方があったように思いますし,また,先ほど金子幹事からの問題提起を踏まえる形で,紛争の実態に関する判断に直接結びつかないような事項に関しては,たとえそれが審問という形で行われる場合であっても立会権についての例外を設けてもいいのではないかという趣旨の御意見もあったように思います。   私の理解では大体そんな形での御意見の分布になるのではないかと思いますが,それを踏まえて検討するということでよろしゅうございますか。―はい。では,そういたしましょう。   次に,19ページの(4)「電話会議システム及びテレビ会議システム」に関してですが,これに関してはいかがでしょうか。 ○山本幹事 1点確認と1点質問なのですが,一つは,民事訴訟法の第170条第3項ただし書に相当するところがないことについてなのですが,これは,そうすると,裁判所だけが出てくる場合であっても,それは期日であるという立場を採用するということでこの原案ができているというふうに理解してよろしいかどうか。これはむしろどちらかというと民事訴訟法第170条第3項の将来にかかわる問題のように思いますが,ちょっと確認をしていただきたい。   もう一つは質問ですが,これは基本的には当事者の審問の場合が念頭に置かれているような気がするのですが,第三者を審問するような場合に,その第三者との関係で電話会議システムとかテレビ会議システムを使うということは考えられているのかどうかということをお伺いできればと思います。 ○脇村関係官 まず1点目でございますが,民訴の際には,期日には裁判所だけでは駄目だという理解のもとこのただし書が入ったと承知しているのですが,おっしゃるとおり,ここではその理念を非訟には外そうということでただし書を外しております。理念としてはよく分かるところですけれども,そこまでこだわる必要があるのかなというのが正直なところでして,そういう実際上の観点から外しているというところです。   次に,第三者の審問についてどうするかというお話なのですけれども,結論を申せば,第三者についても利用できることを想定しているところです。ただ,それを条文にどのように書くのか,また,書く必要があるのかについては,もう少し深く考えさせていただければと思います。 ○伊藤部会長 山本幹事,いかがでしょう。 ○山本幹事 第1点は大歓迎です。 ○伊藤部会長 それでは,他に特段の御意見がなければ,今御質問ややり取りがあった点については更に検討をするということですが,基本的にはここに掲げられているような内容で今後のここでの審議の基礎にさせていただきたいと思います。   それでは,(5)の「その他」は特になければ,20ページの5の「手続の分離・併合」に関して御質問,御意見ございますでしょうか。(注)のところで,当事者を異にする事件について手続の併合をした場合の尋問の機会の保障について問題の提起がございますが,これも含めて御意見を承れればと存じます。 ○三木委員 (注)に関しては,そのような規定が必要かと考えます。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○小田幹事 この問題点については,次の資料の最初に出てくる証拠調べの申出権の関係と切り離せないと思っております。そこでもし認められるという方向であれば比較的つながりやすいところはありますが,申出権が仮にないとした場合に,それでもたまたま併合した場合には,申出権を更に強く認めるというような結果になりますので,もう少し申出権についての議論が必要ではないかと思っております。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○脇村関係官 当局といたしましては,この問題は,今,小田幹事がおっしゃったように申出権の問題もあるのですけれども,どちらかといいますと尋問権の方とリンクするのかなと強く思っています。尋問権を保障するとした場合にあって,その尋問権を侵害されたということになった場合には,仮に証拠調べ一般について申出権がなかったとしても,場合によっては認めることがあるのではないかと考えています。ただ,おっしゃるように,申出権とリンクしないかと言われると,それはリンクすると思います。ただ,申出権の方だけかと言われると,尋問権の方も当局としては考えているというところでございます。 ○三木委員 私が先ほど申し上げた趣旨は,申出権には直接はリンクせずに,尋問権なり反論の機会の権利とリンクする問題だと考えております。 ○伊藤部会長 分かりました。   今の件に関しては,他に御意見のある方はいらっしゃいますか。   それでは,ただいまの御指摘の申出権や尋問権の関係を踏まえまして,この点は更に検討したいと思いますが,手続の分離・併合自体に関しては,ここに掲げられているようなことで今後の審議の基礎にさせていただきたいと思います。   次に,7の「審理の終結」ですが,資料に掲げられているとおり,相手方がある事件においては,相当の猶予期間をおいて,審理を終結する日を定めなければならないものとする,こういう原則を立てるということですが,この点に関しての御意見を承りたいと思います。先ほど出た議論との関係もございますが,改めていかがでしょうか。 ○菅野委員 「相当の猶予期間をおいて,審理を終結する日を定めなければならない」というくだりは,もしかしたら必要的審問期日制というか,そういうふうにしなかった場合にはこうなるという趣旨であって,審問をするときには,次のただし書の方がという意味なのかなと当初思ったのです。ただ,それですとただし書という規定の仕方にはならないわけなので,そうだとすると,この「相当の猶予期間」ということは一体どこから数えて相当の期間という御趣旨なのかとか,教えていただければと思います。 ○脇村関係官 まず,必要的審問の議論もあったのですけれども,前提として,当局としては,すべての証拠とか陳述,すべての証拠資料の提出を審問でやらないといけないとは考えているわけではございません。必要的審問といっても,1回だけ少なくともすればいいと考えています。ですので,1回した後は普通に書面のやり取りだけでやっていく場合も当然ある。そこでそういったやり取りをしているときに,必ず審問期日で審理を終結しないといけないということは考えておりませんで,そういったやり取りの中で,裁判所の方でこの辺でいいかなということであれば,双方にいついつ終結するのでそれまでに出してくださいという通知をして,その通知期間が終われば終結して裁判してもらうということを考えています。ただ,中には,審問期日の形でずっとやっていく場合もあると思いますので,審問期日をやっているときについて,そこで終わったなというときに,その審問期日で,もう当事者は原則いるわけですから,そこで終結しても構いませんよということを念頭に置いているというところです。 ○菅野委員 そういう一般的な意味合いで原則規定として設けられるのだといたしますと,先ほどちょっと手続というのはどこまできちっと手厚くやるべきかどうかとかいう話をしましたけれども,それぞれの当事者の立場からすると切りがないところというのもあるのではないでしょうか。相手方がこう言えば,やはりこう言い返してみたいし,そちらがそう言うならばさらに再反論したい。それをどこで終結するか。実はよく先輩の裁判官からも言われましたけれども,裁判官が一番難しいのは,終結をどういうタイミングでするか,あるいは当事者に終結をどう納得させるかだと言われました。訴訟の場合ですが,なかなか難しいところなのです。そうすると,特に書面での資料提出とかがあるタイプの非訟事件について,ここでぽんと切って決定するということができないということになりますと,猶予期間,例えば3週間後とか何かすると,必ずその間にまた片方の書面が出てきて,それに対して相手方がまた何か主張が必要と考えてと,きりがないことにならないでしょうか。それぞれの立場があるわけですから,その立場から見ると更に反論の必要があるけれども,裁判所から見れば,こういう事件についてはこの段階で判断に熟する。それが終結という概念だとすると,この相当の猶予期間を置いて終結する日を定めなければならないというのは,場合によっては民訴より重いような感じさえするわけです。一律原則規定としてかぶせられてしまうのはやはり気になるなという気がいたします。 ○金子幹事 補足させていただきます。この後に,事実の調査をしたことの指摘義務を設けるかとか,そういうところとも関係してくるのですが,民訴の場合は基本的に裁判所に出ている資料は両当事者から出た資料で,その資料の交換が行われています。それからもちろん対席で審理しています。したがって,裁判所が裁判する資料にどういうものがあるかが分かっています。しかし,非訟事件の場合には,必ずしも関連する当事者が裁判の資料について分かっているかというと,常に分かっている状況に置かれていることが保障されていないと思うのです。そのために,どこかのタイミングで閲覧謄写をすることが必要になってくるので,閲覧謄写のきっかけをどういうことで与えるのかというのが問題になってくると思います。一つは,事実の探知をしたことを告知すれば,どういう資料が集まっているのかを検討する一つのきっかけになるとは思いますが,それはそれで後ほど議論していただくとしても,少なくともあと2週間後,3週間後に終結するということにしますと,その間にどういう資料が相手方から出ているのか,あるいは裁判所が職権でどういう資料を集めたかというのが記録化されているところを見て,その間に必要な反論をしていただく。そういうきっかけになるという意味もあって猶予期間を定めているということです。いきなり終結ということになりますと,そういう機会が必ずしも十分に保障されないのではないかということで,民事訴訟と異なって猶予期間というのを考えているところです。 ○伊藤部会長 菅野委員,いかがでしょうか。 ○菅野委員 それ以降のいろいろな手続保障との兼ね合いというのは非常にあるのだと思います。要するに例外がどうかというような話をしたり,総則規定に置くのがどうかという話をしておりまして,理念として反対と言っているわけではないのです。ですから,今,金子幹事の言われたようなそういう問題点があるということは理解できますし,同時に,もう判断に熟していると考えたときに,なぜ直ちに終結できないのか,あるいは終結という概念自体を設けて処理をするということ自体がどうなのだと。いろいろな定め方というのは本当はこれはあるのだろうとは思うのですけれども,それによる実際の効果が,簡易迅速に進めていくべき非訟事件,場合によっては大量処理も必要なものについてどういう結果になるのだろうかということにやはり危惧を感じる,そういうレベルでお話をいたしました。 ○高田(裕)委員 これも他の手続保障の仕掛けとの関係で論じるべきだというのは菅野委員のおっしゃるとおりだろうと思いますが,研究者から見ますと,他の手続保障に比べた場合,この審理の終結という制度に魅力を感じているところですので,御感触を賜ればと思います。と申しますのは,金子幹事もおっしゃいましたように,一番安価なと申しますか,コストの少ない手続保障の仕掛けは,当事者に記録閲覧の実質的に保障する,もちろん記録をしっかりつくっていただくというのが前提ですが,記録閲覧の機会を保障するということにあろうかと思いまして,この審理の終結という制度は,記録閲覧の機会を保障するという意味で,手続保障の仕掛けとして機能するのではないかとも考えられます。ただ,これが一部の研究者の思い込みかもしれませんので,こうした手続はかえってコストがかかるという御心配がもしあるとすれば,実務の方からでも是非お聞かせいただければと思います。 ○小田幹事 今,高田委員からの御指摘の点でございます。むしろこういった懸念がということではなくて,金子幹事の発言にもありましたとおり,一律に入れることがどうかという,まだ検討し切れていないところはありますけれども,最低限の手続保障といいますか,安価な手続保障という点では正にそのとおりだろうと思っております。この点に関しては,少なくともどういった資料に基づいてこの自分の関与している裁判がされるのかということは,何らかの形で当事者が分かるようになるべきという方向性についてはそのとおりだろうと思っております。検討し切れていないところはございますが,基本的な方向としては,その点に関する大きな支障はないのではないかと思っております。   それで,制度として,現在の家事審判法に対して,正に全部裁判官の裁量だから,それがどうかといった指摘もあるところでございます。そういったときに,制度をどういうふうにつくっていくかというと,先ほどの必要的審問,それから立会権といった方向と,この審理の終結とはかなり性質が違うものではないかと思っております。裁量が広過ぎるから最低限これをしてくれと,どのような裁判官であっても最低限これをすべきだというのは,正に制度のつくり方としてそうあるべきだろうと思っております。それに対して,理念としてはいいかもしれないけれども,支障があるものは,家事審判法を改正して新しい姿をつくっていくに当たっては,導入するのはなかなか難しい。それに対して,最低限こういったものはすべきだという方向性のものは極力検討して,入れていくべきではないかと思っております。 ○山本幹事 今,裁判所の方でそれで結構であればもう結構なのですが,高田裕成委員の御発言との関係で,恐らくこれは,モデルになっているのは民事保全の保全異議あるいは保全取消しの審理の終結だと思いますので,あるいは何かそちらの方で終結日を定めるというので実務上実際に支障が生じているというようなことがあれば,何か実務上のお話をお伺いしたいと思います。 ○伊藤部会長 今の山本和彦幹事からの質問について,実務家の委員・幹事の方で何かお答えいただくことはございますか。 ○菅野委員 今の御質問に対して実は知見を持っていませんので,お話できないのですけれども,一番安価な手続的保障と言えば,裁判所から見ると,むしろ非訟資料,主張資料については,相手方がある事件については相手方に直送してもらうというのが一番本来あるべき姿ではないかと思っています。ただし,これは商事非訟やそういうことで考えていることでありまして,家事の場合についてそれがどうかというと,これはまた全然別なことと思います。あくまで会社非訟や借地非訟で考えた場合はそういうふうに思います。閲覧謄写の点は,閲覧謄写するとすれば,そもそも記録というものについてどこまできちっと整理しておくのか,今までですと全部つづってあるところを,謄写していいものとよくないものとを分けるのかとか,あるいは訴訟記録のようにきちっとみんな分類してつづらなければいけないのか,そういうことが裁判所書記官の事務として更に加わるのかとか,いろいろなことがあるのです。裁判所から見れば,この終結の制度を整備して,閲覧謄写の機会を与えるというシステムが,果たしてそれほどトータルコストとして安価なものになるかとか,あるいは迅速なものになるかとかというと,必ずしもそうも思えないというところがあります。 ○竹下関係官 先ほど山本幹事から,この規定のもとになっているのは民事保全法第31条ではないかという御指摘がありました。私もそうなのではないかと思っていました。民事保全法第31条が置かれた理由ですけれども,民事保全法ができる前の旧法時代には,仮差押・仮処分決定に対して異議があれば,必ず口頭弁論を開いて判決で裁判をすることになっておりましたから,いつ審理が終結するかは,口頭弁論の終結ということで一般の事件と同じように分かっていたわけです。ところが,民事保全法で異議後の手続も決定手続に改めて,決定で裁判するということにしましたから,保全異議があった後の審理がいつ終結になるのかが当事者に分からないことになります。そこで,突然当事者が分からないうちに裁判所がもうこれで締切りだということにしてしまうのでは,従来の仕組みと実質が変わってきてしまうので,こういう規定を置こうということになったわけです。ですから,そこでは裁判所の方からすれば,裁判をなすに熟しているという判断があるというのが前提で,その場合に,ただ裁判所が内部的にそう思っているだけではなく,当事者にも分からせるようにしようというのがもともとのねらいであったわけです。民事保全のことですから,記録の閲覧というようなことは余り問題にならないので,そのときにはそういう問題は議論しておりませんでした。だから,家事審判その他の非訟事件の方で記録の閲覧等のことが問題になるということになると,それは改めて考えていただかなければならない新しい問題ということになるのではないかと思います。 ○伊藤部会長 どうもありがとうございました。   そういたしますと,この考え方について合理性があるという御意見も多かったわけでございますが,他方,それが実際上どのような負担を生じているのかというあたりにつきましては,更に立ち入って検討をした上で一定の方向性を出すということが必要なように思いますので,それを踏まえまして検討をしてもらうということでよろしいでしょうか。 ○高田(裕)委員 落ち着きかけたところをひっかき回すようで恐縮ですが,申し上げたいのは,相手方のある事件という限定についてでございます。(注)にも関係するのかもしれませんが,(参照条文)で挙げられております非訟事件手続法の第147条第2項は相手方のある事件だと思いますが,同条第1項の方は,私の理解によりますと,相手方のない事件に当たるのではないか。もちろんこれは旧法の訴訟手続の規律を非訟化したときに,先ほどの竹下関係官の御発言のように,審理の終結という仕掛けによって期日の終結と実質的に同じことを保障しようとしたものだと思いますが,私の理解のように,この手続によって記録閲覧も含めて主張立証の機会,意見陳述の機会を保障するという観点に立ちますと,相手方のある事件において相手方のした主張立証に対する反論という面とともに,裁判所による裁判によって自己の法的地位が害される裁判を受ける当事者について,なお主張立証の機会を保障するという観点からの審理の終結という規律もあり得ないわけではないような気がいたします。ただ,すべてについてこれを設けるのは手続がかなり重たくなり,時機を失することなく裁判をするという非訟の理念に反すると思いますので,非訟事件手続法第147条第1項の場合と同様に審理の終結による手続保障を図るべき事件,相手方のない事件であり,かつ当事者の主張立証を尽くす機会を保障すべき事件がないかどうかなお御検討いただければと思います。 ○伊藤部会長 ありがとうございました。   総則としてはこういうことですが,高田委員御指摘のように,事件類型によっては,相手方のない事件であっても同様の考え方を採用すべきものがあるかどうかについて,これも検討してもらうということでよろしいですね。 ○増田幹事 終結に関しては異論がございませんが,終結の際に,終局裁判を行う日を定めなければならないというような規定を設けることについて御審議いただけないでしょうか。終結までいかに迅速な審理がなされましても,その後の決定が非常に遅れるということが現実には多々ございます。しかも,いつ決定がなされるか分からないということは,当事者にとって予測が全くできないので,非常に不安な気持ちになるということを本人からよく聞きます。民事訴訟法では第251条で言渡期日を定めなければならないということになっております。それも2か月以内にしなければならないということで,期間の部分は訓示規定でございますけれども,是非そういった規定を入れることを御検討いただきたいと思います。 ○伊藤部会長 ただいまの増田幹事の御意見に関してはどうでしょうか。 ○脇村関係官 増田幹事の御意見というのは,まず,終結する際に,いついつに審判をするという日を定めるというのと,それとは別に,実際審理を終結した日から3か月とか2か月以内にしないといけないというふうな訓示規定を置くというのもあると思うのですけれども,両者の意味なのでしょうか。それとも,片一方だけなのでしょうか。 ○増田幹事 両者の意味ですが,少なくとも裁判をする日を定めなければならないという規定は置いていただきたいということです。 ○伊藤部会長 よろしいですか。―はい。   その上で,ただいまの提言に関しては,委員・幹事の方,いかがでしょう。特にこれは裁判所の執務の在り方に影響があるかと思いますが。 ○菅野委員 反対ということでございます。 ○伊藤部会長 菅野委員,結論はよく分かったのですが,若干説明をお願いします。 ○菅野委員 確かにそういう形が本来望ましいのだろうと私も思います。裁判官が大勢おりまして,事件の数が少なくて,理想的な審理ができて,そうすると一つずつきちっとした審問をし,きちんとした手続を完全に踏んで,終結ということをして,その終結のときもきちんと何月何日に決定しますというふうにしてやっていく,それが理想だとは私も思うのです。その方が当事者も非常に安心できるというのも,全くそのとおりだと思うのです。けれども,実際には,東京地裁民事第8部のような専門部でさえ,非訟事件だけを担当している裁判官というのは一人もいないのです。会社更生と非訟と訴訟をやっている,あるいは訴訟と非訟と保全をやっている,あるいは私などは種類としては全部やる,そういう中でやっているわけで,終結も,本来迅速にタイミングで,やれるときにはぱっとやりましょうというような発想なのです。言葉が雑になって申し訳ございませんが,ぱっとというのは雑にやるという意味ではないのですが,タイミングでちょうど主張の行き来がおさまったときとか,他の担当事件との兼ね合いとかでそのときにこのタイミングでこう決定しようということなのです。終結という制度を整備して,更にそこで決定の期日も決めておかなければならないとなると,本当に仕事の上やいろいろなこと,あるいは裁判所書記官事務を含めて多数ある事件の中でどういうふうに組み合わせていくのかなどいろいろ検討を要することが生じます。また,訴訟と非訟とで違いますよという話を何度もして申し訳がないのですけれども,一つ一つの事件で考え,かつ重いものとして扱っている訴訟の判決と,数で考えることも多い非訟の決定では,程度の差というのはやはり出てきてしまうので,そういう規定を設けても果たして機能するのだろうかとか,いろいろなことを思います。 ○伊藤部会長 ありがとうございました。   他の委員・幹事の方,今,相対立する御意見がございますが。 ○中東幹事 菅野委員のおっしゃった現状は分かるのですが,民訴では入っているけれども非訟では入っていないというのは,非訟事件手続の迅速化という観点からはどうなのかなという気がいたします。非訟ではなぜ入れられないかという,もう少し積極的な理由をいただければと思いました。 ○菅野委員 期日を決めるというのは,逆に言えば,2か月後に決めたら2か月後までしなくていいということになってしまいますね。どうしても決定期日を決めるとなったら,当然裁判官はできるだけ守るようにと思うわけですから,一番長めの期日を決めておくということになると思います。それよりは,むしろ先ほどタイミングということを申し上げましたけれども,非訟では,判断できるときに判断し,できるだけ早く決定するという運用になじむものが多いように思います。裁判官流の目で言えば,やれる最短のときに非訟については決定していますし,それをあらかじめ決めるとなったら,いつの決定日かそれ自体検討する負担が生じるし,念のためということでやはり遅めに入れなければならないので,迅速化にもプラスにはならないのではないかと思うわけです。 ○長委員 家事の場合に,終結というのは,遺産分割などでそれに近いことはやるのですが,ただ,いろいろな類型の事件がありますけれども,終結をしてその後に主張とか証拠が出てきた場合には,どのような効果が結びつくことになるとお考えでしょうか。あるいはこれまでの議論の中で出てきているのかもしれませんが,例えば民訴であれば失権効の問題等があると思うのですが,職権探知で後見的な配慮のある事件について,どんなふうになるのかというのがすぐには思い浮かびません。ただ,そういうものが出てきたら,本当に考慮しなければいけないものはやはり考慮しなければいけないと思うのですけれども,その辺を柔軟に運用していこうとすると,できるものとできないものとがありそうだなという感じが今ちょっとしております。 ○金子幹事 職権探知のもとでの終結ということかと思うのですが,そこは政策的に,終結した以上は,そこから後に得られた資料は裁判の資料としないという意味で終結というのを考えています。したがって,どうしても判断に影響ができるような資料が出れば,それは再開という手続を踏んで,改めて終結をして決定審判をするということです。職権探知との関係で理論的には多少そぐわない部分はあるかもしれませんが,そこは政策的にそういうふうにするということで考えています。 ○伊藤部会長 それでは,先ほどの裁判を行うべき日を定めるという増田幹事からの御提案に関して,他に御意見はございますか。 ○杉井委員 私も是非いつまでに審判を出すという期日を決めてほしいと思います。菅野委員から,どうしてもそういう日にちを決めなければならないと,どうしても先の期日になってしまうという御意見がありましたけれども,しかし,全然決めなければもっともっと先になってしまうということも十分あります。このごろ東京家裁はそういうことは余りなくなりましたけれども,地方の裁判所などで,特に遺産分割事件については,いつ審判が出るか分からない,1年とか2年とか寝かされているとかという話も弁護士の間では言わば公然と語られていることでございますので,やはりきちんと裁判言渡期日というものを,仮に訓示規定であるにしても決めてもらいたいと思います。 ○平山関係官 杉井委員にお伺いしたいのですけれども,遺産分割事件以外で何か具体的にそういう支障が生じているような例はお聞きになっていますでしょうか。 ○杉井委員 その1年,2年なんていうのはほかの審判ではあまりないかと思うのですが,例えば,今は少なくなっていると思いますけれども,婚姻費用の分担の審判とか,これは算定表ができる前はかなり遅かったですよね。 ○平山関係官 算定表ができた後もそういうことがございますか。 ○杉井委員 それは比較的なくなったとは思います。いずれにしても,何しろ期日が決まっていないということは,いつその審判が出されるかが分からないわけで,先ほど増田幹事もおっしゃいましたけれども,当事者としては非常に不安な毎日なわけです。ですから,やはりそれは,一つのめどというのはきちっと出して決めていただきたいという意見です。 ○朝倉幹事 これは特定の論点についてではないのですが,今日ずっと聞いておりますと,皆さん想定しているものがいろいろ違っていて,特に家事審判のことを想定されて議論されていることが多いのです。今回,民事非訟ですとか会社非訟ですとかの関係では各則が改正されないわけですが,そうすると,非訟事件手続法を改正すると,そちらの方の実務というのは直撃を受けるのですね。例えば今の話でも,今後,家事審判法の議論に入っていくと,そこで幾らでも各則は検討できるという状況の中で,今この非訟事件手続法を改正すると直接に実務が変わるであろう,先ほどから菅野委員が御紹介しているような会社非訟等の事件に果たして本当に支障があるのかというところをやはり念頭に置く必要があるのではないかと思っています。特に会社非訟の関係ですと,先ほどの弁護士の委員の方のお話を聞いても,余り会社非訟で代理人をやった経験というのも,それで支障があった経験というのも出てまいりませんし,しかも迅速性を要求するという意味では,―別に遺産分割は遅くてもいいと言うつもりは全然ありませんが―例えば会社の清算人がいないとか,非常に急いでいるというような場合もあって,そういう場合に例えば相当猶予期間を設けて終結の期日を設け,かつそこから決定の期日を設けというふうにやっていくと必然的に相当の時間をとるというようなことになってきたときに,果たしてメリット,デメリットを家事審判と同じように想定していいのかどうかというあたりもちょっと考えなければいけないのではないかという感想を持ちました。 ○増田幹事 今おっしゃった会社非訟の関係の事案というのは,ほとんど終結即決定ができる事案なのですよ。だから,現実問題として比較的早く決定いただいていることは事実なのですけれども,迅速な処理がなされているからといって,決定期日を決めるということ自体がおかしいという理由にはならないと思うのです。通常の訴訟でも,欠席裁判だったら即日その日の昼に判決などということもよくある話ですから,裁判の期日を決めることにすると遅くなるという議論が私にはちょっと理解できないです。 ○朝倉幹事 例えば民事訴訟の欠席判決では,弁論終結の場に原告はいますから,判決期日をぱっと告知して,すぐに判決できるんですね。だけど,非訟事件で書面で審理している場合,通知の種類や方法は今後の議論にもなろうかと思いますけれども,仮に送達という手続をとった場合には,相手が受け取ってくれるまで試みなければいけないとか,その期間を見込んで決定の日にちを決めなければいけないとか,いろいろな考慮があり得るのではないかなというふうに―増田幹事の御提案は今日聞きましたので,まだ真剣に検討したことはないのですけれども―思っています。  私が言いたかったのは,要するに家事審判の方だけを念頭に,会社非訟等にも一律に適用になる非訟事件手続法の問題に即置き換えてしまうのは,ちょっと危険がないだろうか。いったんよく考えてみないといけないのではないか,そういう問題提起です。 ○伊藤部会長 分かりました。   それでは,今,朝倉幹事がおっしゃったように,言わば新しい提案として出てまいりましたので,事務当局ももちろんですが,委員・幹事の方々におかれましても,もちろん今日の御意見は承りましたが,更に検討をされた上でしかるべき時期に再度御議論いただきたい,そういう扱いでよろしいでしょうか。   22ページの一番下のところに(注)がございます。非訟事件の申立てが不適法である場合又は申立てに理由がないことが明らかな場合については,審理を終結する日を定めなくてよいものとするということについては,仮にその審理の終結を本文の方の考え方を前提にしても,こういう場合には例外として扱ってもいいかという問題提起ですが,これはよろしゅうございますか。もちろんそもそもの話は一応おいておいて,定めるという前提に立った場合でもこういうことについては例外であると。これも,ただ,先ほどの話の繰り返しになりますが,結局,不適法である場合,理由がないことが明らかである場合というのをどういうふうに区別ができるのかできないのかというところに戻ってしまうのですけれども。 ○藤井委員 1点質問させていただきたいのですが,先ほどの終結の日を定めるタイミングともかかわるのですけれども,不適法であるというのはすぐに分かると思うのですけれども,理由がないということになると,若干の評価が必要になってくると思いますが,そうすると,終結の日を定めるのが一番最初だとすると,これは分かりやすいのですけれども,一方で,ある程度時間を置いて終結の日を定めるということになると,その間理由がないという判断をしているのか,それとも,まだ単に連絡が来ないだけなのかということが当事者にとって判明しづらいようなケースがないかどうかということなのですが,いかがでしょうか。 ○脇村関係官 今,藤井委員からお伺いして,その辺も確かに問題になるなという気もしますので,もう少し事務当局の方でその辺について更に検討させていただければと思います。 ○伊藤部会長 ありがとうございました。   それでは,これも,今の藤井委員からの御発言もございましたとおり,具体的な手続の進行を考えてみると,果たしてこういう考え方がうまく採用できるのかという問題があるかと思いますので,事務当局において更に検討してもらうことにいたします。   次に,資料6に進みまして,「第17 事実の探知及び証拠調べ」の1の「職権探知主義」について説明をお願いいたします。 ○川尻関係官 第17の1の「職権探知主義」ですけれども,これは,非訟事件手続における職権探知主義を維持することを前提としまして,証拠調べについて当事者からの証拠申出権を認めるか否かについて検討することを提案するものです。   A案は,当事者の証拠申出権は認めず,必要に応じて当事者が裁判所に職権発動を求めることにより対応しようとするもの,B案は,当事者に証拠申出権を認めることとするものです。なお,証拠調べについての裁判に対しては,民事訴訟法と同様に不服を申し立てることはできないものとすることを前提としております。したがいまして,両案の違いは,裁判所に応答義務があるか否かということになるものと思われます。   (注)の1ですが,これは,仮に相手方のある事件という類型を設けるとした場合に,そのような事件においては,人事訴訟法第20条後段が定めるような規律,すなわち当事者が主張しない事実を斟酌する場合や,職権による証拠調べをした場合に,その事実及び証拠調べの結果について当事者の意見を聴かなければならないものとする規律を設けるか否かについて検討することを提案しております。このような規律を設けますと,当事者の手続保障には厚くなりますが,他方で,簡易迅速な処理の必要性や,各種手続における手続保障の要請の差異といったことにかんがみれば,総則規定においては,一律に意見聴取を必要なものとする規律を設けるものとはしないとすることも考えられます。   次に(注)の2ですが,これは仮にB案をとるとした場合,すなわち当事者に証拠調べの申出権を認める場合ですけれども,この場合に更に進んで,当事者に証拠調べによることなく事実の探知という方法で裁判資料を収集することについても申出権を認めることとするか否かについて検討することを提案しております。この点について,申出権を認めた場合には,例えば当事者が第三者審問の申出をすることが考えられますが,もっとも,このような場合には証人尋問の申出をすれば足りるとも考えられるところです。   以上です。 ○伊藤部会長 それでは,まず本文から参りたいと思いますが,A案,B案とございまして,現在のとおりの職権ということを前提にして,当事者はその職権の発動を促すという考え方と,B案のように証拠調べの申出権を認めるという考え方の二つが掲げられておりますが,これについてまず御意見を伺いたいと存じます。 ○菅野委員 A案とB案ということでいいますと,A案の方が相当であるという気がいたします。B案ですと,「申出により必要があると認める証拠調べ」という全体の建前自体が,「裁判所は,職権で,事実の探知」をする,「かつ」として「職権で又は申出により」,そして「必要があると認める」,最後に「しなければならない」という,こういう規定立て自体でいろいろな価値がぱらぱらと混じっているような感じで,非訟事件で手続をどう進めるかという全体的な考えと比べてどうなのだろうかと思いました。   一方で,その申出の却下に対して不服申立てというのは,恐らく民訴でもそうですから認めないということになるのだとすれば,ここに「申出」を挙げておくことにどういうメリットがあるのだろうかという思いもあります。   さらに,A案の場合でも,本当のところで言いますと,A案は基本的に旧法とほとんど同じ文言ということになると思いますけれども,古い明治・大正時代の非訟という考え方ですと,本当に職権でしなければいけないという,文言どおりの意味合いだと思うのですが,現在,ある程度当事者主義的な考え方を入れて運用されている状態からしますと,今回新しい法律になったときにもまた「しなければならない」と規定してしまうのはどうかなという気もいたします。実は例えば過料系の事件とかいろいろなもので,「裁判所は職権探知ですよね,だから資料は出さなくていいですよね。」ということを言われることもあり,資料を出してもらうのになかなか苦慮しているというところもあるのです。そういう意味で,できればというようなことなのですけれども,「裁判所は,職権で,事実の探知及び必要があると認める証拠調べをすることができる」というふうに規定してくだされば,それで裁判所側としては足りてしまう。それによって,一方で,そうは言ってもまず第一次的には当事者の方に主張及び資料を出していただきたいのですよとお願いすることがやりやすくなる,そういうことを考えての意見でございます。 ○伊藤部会長 菅野委員からは,基本的にはA案の考え方に沿いながら,かつ,より合理的な運営という意味で今御提案のような考え方がいいのではないか,こういう具体的な御意見が述べられましたが,それも含めましていかがでしょうか。 ○畑幹事 今おっしゃった,当事者が裁判所に寄りかかるという問題については,後で出てきます当事者の事案解明協力義務の―この呼び名がいいかどうかは分かりませんが,この問題として解消するということも考えられるように思います。   それからもう一つ,これは通らない議論であることは承知しているのですが,私自身は,事件類型によってはそもそも職権探知というのが適当でない類型もあるのではないかという意見を個人的には持っております。 ○伊藤部会長 畑幹事,御意見はよく分かったのですが,A案,B案に関してはいかがでしょう。 ○畑幹事 表現の問題かなという気がいたします。「しなければならないものとする」という表現にしたとしても,やはり職権探知義務には合理的な限界があるはずでございますし,あるいはまた,職権でできるという規定を置いた場合であっても,場合によっては何かしなければいけない義務というのは想定され得る。例えば釈明できるという規定であっても釈明義務というものが観念される―今の例が適切かどうか分かりませんが―ので,表現としてどちらがいいかというのは定見を持たないところであります。 ○伊藤部会長 証拠の申出権はどうですか。 ○畑幹事 菅野委員の御発言との関係で言えば,申出権を認めるというのは,別なところでも議論になりましたように,不服申立てを認めない以上は応答義務を認めるかどうかという問題であるかと思います。結論としてどうかというのは,ちょっと悩ましいところがありまして,まだそれも定見は持っておりません。 ○伊藤部会長 分かりました。   いかがでしょう。これも重要な問題かと思いますが。 ○増田幹事 弁護士会としては当然B案を主張いたします。職権探知主義ということと証拠の提出を誰がするかということとは直接は結びつかないのではないか。職権探知主義というのは,主張立証責任に基づかずに裁判所が最終的な判断をすることができるということで,これは主張証拠が全部出た後の,要するに客観的な証明責任を論ずる上の議論ですので,当事者が証拠を提出する権利があるかないかというところに直接つながるものではないし,また,どのような案件であってもまずとにかく当事者が提出しなければ裁判所も判断できないというのも事実ですので,基本的に当事者が提出するという形にしていただいた方が,裁判所にとっても判断しやすいのではないかと思っております。それを必要性がないという形で却下された場合には,場合によっては上級審の判断の対象となるという仕組みの方がすぐれているのではないかと思います。 ○伊藤部会長 これも先ほど来の論点と同じように,裁判所側の委員・幹事の御意見と弁護士会の委員・幹事の御意見が対立しているような状況ですが,学者の委員・幹事の方の御意見はいかがでしょう。 ○三木委員 ここは規定振りをどちらをとろうと実務が変わるということはないという意味で,規定を整序するというような論点になるところかと思います。菅野委員がおっしゃった,表現振りとして義務規定のような表現振りをとっている,「ならないものとする」というのは,これは表現振りとしては維持せざるを得ないかなと思います。「できる」という規定にすると,事実の調査も証拠調べも何もしないでいいというふうに,実際そんなことはないですけれども,規定振りからはそういうことも可能だというふうに読めるような規定振りになってしまいますので,それは不適当だと思います。   ちなみに,職権探知主義のもとにおける職権探知義務というのは,私の理解では,これはもちろん人事訴訟を中心とした訴訟の世界ですけれども,近年かなり議論されておりまして,私も少し興味があって調べたりしたことがありますが,近年では,少なくとも理論の側では,職権探知義務は裁判所にあるということを言う人が増えております。他方で,職権探知義務に限界というか,無制限ではない,当然合理的な裁判所のやれることの範囲内でというような議論がされていると思いますので,その認識は恐らく規定振りがどうであろうと理論家も実務家も大きくは違わないのだろうと思いますので,その共通認識をあらわす規定振りとしては,現在のような,表現振りとして義務的な表現振りにするということかなと思います。   もう一点の,証拠の申出を入れるかどうかについても,私が申すまでもなく,現実には多くの場合に当事者の証拠申出資料が集められており,裁判所が一から十までやるというようなことはもちろんないわけですので,その現実が,申出が主であるということを規定にも表す。ただ,この場合は規定に表すだけではなくて,応答義務という,それがどのくらい重い義務かは,我々実務をやっていない者に負担として分かりかねるところもありますが,少なくとも,当然ですけれども上訴のようなことはないということで,私は,現実が証拠申出というのが主になっている非訟手続が多いだろうと思いますし,応答義務で答えるのは御負担かもしれませんが,そういった形を含めて申出というものを入れる方が規定の整序ということでは望ましいかなと思っております。 ○伊藤部会長 ありがとうございました。   そうしますと,このA案,B案に関しては,「することができる」というふうにするのかどうかという問題はちょっと別にしておきまして,その二つの考え方が,ここではそれぞれを支持する意見が述べられたという認識でよろしいでしょうか。 ○中東幹事 畑幹事がおっしゃった,事案によっても職権探知になじまない,あるいはそれに適さない類型があるのではないかということをもう少し考えて,規定振りがもし変わるようであれば変えていただきたいという趣旨で発言させていただきたいと思います。相手方のある事件については当事者主義的に組み直そうという話をしているわけで,少なくとも証拠については当事者に出させるというのは,これはあり得る話で,実際,会社非訟についてはもう事実上そうなっているところが多いと認識しています。その意味で,せっかく当事者主義的に組み直そうとしているのに,証拠については職権探知で裁判所にお任せと,こういうので本当にいいのかなという問題意識を持っておりますが,この点御検討いただければ幸いでございます。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○金子幹事 当事者主義的といっても,他方,公益性という問題もあって,手続の当事者以外に影響が及ぶ場合を公益と呼ぶのだと思うのですが,当事者のみに還元できない利害が絡む場合が非訟は多いと思うのです。そのときに,当事者から出ない場合に当該当事者が敗訴するというのは民事訴訟としてはそれでいいのですが,当事者から出ないからといってそれで判断してしまっていいのかという問題が非訟の場合はあるのだと思います。もちろん,今,非訟と言ってもいろいろな事件類型が非訟と言われていますので,バリエーションはあるのですが,そうするとあとは何を原則型といいますか,総則としてはどう置くのが本来の姿なのかなということを考えなければいけないと思っています。それで,現行法の規律は,ここの「しなければならないものとする」というところはなかなか動かし難いのではないかなと思っているところです。今,(参考条文)のところにありますが,借地借家法の第46条とか家事審判規則,このあたりが「しなければならない」という規定になっています。御意見を踏まえて検討はさせていただきますが,「することができる」と言ったときに,職権探知という大きな位置づけについてどういうメッセージになるのか。変わらなければ現状と同じという説明でいいと思うのですが,これを「できる」とした場合の影響についてはまだ必ずしも詰めていませんが,ちょっと懸念もあるところです。 ○伊藤部会長 では,その点は更に事務当局において検討して,またお諮りさせていただきたいと思います。   それから,(注)の関係ですが,まず(注)の1の,当事者が主張しない事実を裁判所が斟酌する場合,あるいは職権による証拠調べの結果について,当事者の意見を聴かなければいけない,そういう考え方も成り立ち得るのだけれども,これについてどう考えるか。ここはいかがでしょうか。 ○小田幹事 これは人事訴訟法の第20条後段を参考にしたものと思います。人事訴訟法と非訟事件との違いというのは,人事訴訟法も一定のところでこういう職権証拠調べが入っていますが,基本的には民事訴訟法のもとで当事者が主張立証して,大体の事件はそれで片づく。その例外として職権証拠調べの規定が入っていて,その場合には意見を聴けという構造だと思っております。そうすると,そもそも非訟事件とは前提が違う。非訟の場合には,家事も含めてですが,当事者の責任として行う主張立証というのがありません。この規定は,人訴の場合には今申し上げた枠組みを前提として,不意打ち防止として置かれたものですから,前提が異なり,これを非訟にそのまま導入するのは相当でないと思っております。 ○伊藤部会長 ただいまの小田幹事の,言わば人訴と非訟の手続構造の違いを前提にして,これに関しては消極に考えるべきだという御意見に関して,他の方はいかがでしょうか。―そういう御意見に特段の異なった意見はないと受けとめてよろしいですか。 ○山本幹事 その「主張しない事実」というのは,私も主張という概念がそもそも非訟事件になじんでいるのかどうかというのがよく分からなくて,これは,今,小田幹事が言われたとおり,非訟とは違うかなという感じもしております。   それから,職権証拠調べのところは,次に出てくる,証拠調べについての立会権が認められるかどうかということと関係しているように思えて,仮に立会権を認めるのであれば,そこで立ち会って自分で意見を言うという機会があるとすれば,あえてこういう規定は設けなくてもよろしいような感じがするのですが,仮に立会権を認めないということになると,やはり何かそれについて意見を言わせるという機会を与えるということは必要になってきそうな気もして,ちょっとそちらの方に私としてはまだかかっているといいますか,に寄るというふうに思っております。 ○増田幹事 山本幹事の御意見と余り変わらないのではないかと思いますが,基礎となる事実だとか証拠調べの結果というのが明らかになっている,要するに当事者からアクセスすることができるのであれば,特にこういう規定は要らないのかもしれない。ですから,その前提となるアクセスについてはきちんと決めていただきたいと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。   そうしますと,この考え方自体を切り離して判断するというよりは,むしろ今,増田幹事からの御発言もございましたし,山本幹事からの先ほどの御意見もありましたが,他の制度との関係で,当事者の実質的な意味での攻撃防御権を損なわない形での仕組みの一つとして考えるべきだ,そういうことかと思います。   それでは,(注)の2ですが,これはB案を採ることが前提になっておりますけれども,証拠調べの申出権に加えて,事実の探知についての申出権も認めるということも考え方としてはあり得ないではないが,この点についてはどうか。こちらに関してはいかがでしょうか。 ○三木委員 先ほどB案を支持する趣旨の発言をしましたので申し上げますけれども,こちらについては,私はそこまでのことを認める必要があるとは思っておりません。 ○伊藤部会長 分かりました。   ほかにいかがでしょう。 ○増田幹事 私も,職権発動を促す申出はできることが前提ですが,職権探知についてまで申出権を認めていただく必要までは考えておりません。 ○伊藤部会長 そういたしますと,事実の探知に関しては当事者の申出権という形で当事者の権能を保障するまでの必要はないというのがこの場での共通の認識と理解してよろしいですか。―それでは,この点はそのようにさせていただきます。   大変活発な御議論をいただきまして,やや当初の予定の目標に達しませんでしたが,次回は必ずと思っておりますので,よろしく御協力をお願いしたいと思っております。   それでは,事務当局から次回の日程等についての説明をお願いいたします。 ○金子幹事 次回の日程ですが,平成21年8月28日(金曜日)午後1時30分から,法務省第1会議室を予定しておりますので,よろしくお願いします。   検討する項目ですが,今日,資料6の1まで行きましたので,その次から始めまして,更に資料7がございます。資料7は,事前にお送りいたしますので,御確認いただければと思います。 ○伊藤部会長 それでは,これで部会を閉じさせていただきます。長時間ありがとうございました。 -了-