法制審議会           第159回会議 議事録 第1 日 時  平成21年9月17日(木)   自 午後2時00分                         至 午後4時17分 第2 場 所  東京高等検察庁第2会議室 第3 議 題  成年年齢の引下げに関する諮問第84号について 第4 議 事 (次のとおり)               議     事 (開会宣言の後,法務大臣から次のようにあいさつがあった。) ○千葉大臣 委員・幹事の皆様,本日は御苦労さまでございます。私は,今日が初仕事ということになるのでしょうか,昨日法務大臣を拝命いたしました千葉景子でございます。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。   本日は第159回の法制審議会総会ということになっておりますが,委員の皆様方,本当に各界で御多忙の,そしてまた御活躍の皆様方でございますが,お集まりをいただき,そして貴重な御審議をいただいておりますことに改めまして私からも心から御礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございます。   実は,この度私も法務大臣を拝命いたしまして,これが新しく政権が交代いたしましての最初の役割ということになりました。今回の政権の交代,そして新しい政権のスタートというのは,多くの市民の皆さん,有権者の皆さんが,これからの新しい時代にいろいろな改革,そしてまた新しい一歩を踏み出したらどうかと,こういう御意思のもとに私どもにお託しいただいたものだと受け止めさせていただいております。特にその中でも,これからは国民の皆さんが本当の意味で主体となる社会,そしてそれをしっかりと受ける政治をということが私どもの大きな理念でございます。そういう意味で,法制審議会は,各界の市民の皆さん,それぞれの専門の皆さんの総意を結集をいただくという,私たちの新しい政権にとりましてもその意義にかなった大変貴重な審議の場であろうかと私は受け止めさせていただいております。どうぞそのような意味で皆様方の本当に闊達な御意見,御議論をいただきまして,これからの社会,そして法制に対して皆様の貴重な御意見をおまとめいただくことを心からお願いする次第でございます。   今回は,特に成人年齢の引下げという,これも本当に大きくの皆さんの関心と,そしてまた多様な御意見がある課題であろうと思っております。その意味で,これからは政府の中でも横断的にいろいろな分野からの英知を結集してこの問題に対処していかなければならないと思っておりますが,皆様方の多様な御意見をいただけるということも,正にこれは成人年齢の問題には大変適切な議論の場であろうと思っております。いよいよ成年年齢部会においてのおまとめができ,総会にお諮りいただくという段階に至っております。是非総会におきましても御議論をいただきまして,答申を出していただければ有り難いと思っております。   私も,政治主導という形ではございますが,政治主導というのは,最初に申し上げましたように,多くの国民の皆さんこそが主体で,それを受けた政治家が先頭に立って,そして省庁の皆さんと英知を寄せ合い,皆さんからの御意見を生かしていこうと,こういう趣旨でございますので,私も先頭に立ちまして汗をかかせていただきたいと思っております。   今日はこのような場で私も初仕事といいましょうか,ごあいさつすることができましたことを心から光栄に存じ,そしてこれからも皆様方の御指導を賜りますことを心からお願いさせていただいてごあいさつにさせていただく次第でございます。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。 (法務大臣の退出後,委員・幹事の異動紹介があり,引き続き,本日の議題につき次のように審議が進められた。) ○青山会長 本日の会議における議事録の作成方法についてお諮りしたいと存じます。   法制審議会における議事録の作成方法につきましては,こういうことになっております。原則として発言者名を明らかにした議事録を作成することとし,会長において,委員の意見を聴いた上で,審議事項の内容,部会の検討状況や報告内容にかんがみて,発言者名を明らかにすることにより自由な議論が妨げられるおそれがあると認められる場合には,発言者名を明らかにしない議事録を作成することができるというものであります。   会長の私といたしましては,本日の会議につきましては,審議の内容等にかんがみまして,原則どおり発言者名を明らかにした議事録を作成することにしたいと存じますが,いかがでございますでしょうか。―それでは,異議がないということでございますので,本日はそのように議事録を作成することにしたいと思います。   次に,本日の会議における審議の順序についてお諮りしたいと存じます。   本日の会議は,既に御案内のとおり,民法の成年年齢の引下げに関する諮問第84号のほかに,国際裁判管轄法制部会における審議経過に関する中間報告を予定しております。そこで,本日の会議における審議の順序でございますが,まず第1に国際裁判管轄法制部会からの審議経過に関する報告をしていただき,二番目に民法の成年年齢の引下げに関する諮問第84号についての御審議をいただくことにしたいと存じますが,いかがでございますでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。―特に御意見がないようですので,本日はそういう順序で進行させていただきます。   それでは,本日の審議に入りたいと存じます。   まず,現在,調査審議中の部会から,その審議状況等について御報告をしていただきたいと思います。本日は,今申しましたように国際裁判管轄法制部会の髙橋宏志部会長にお越しいただいておりますので,同部会における審議状況等を御報告していただき,その後,委員の皆様から御意見等をお伺いしたいと存じます。   髙橋部会長,どうぞよろしくお願いいたします。 ○髙橋部会長 国際裁判管轄法制部会の審議状況について御報告申し上げます。   国際裁判管轄法制の整備につきましては,昨年9月,法制審議会第157回会議において諮問が行われ,国際裁判管轄法制部会が設置されました。部会は,昨年10月から本年7月までの間,約1か月に1回のペースで合計10回の会議を開催し,国際裁判管轄に関するルールの明確化に努めてまいりました。   国際裁判管轄と申しますのは,御承知のように,例えば日本人がフィリピンでインドネシア人が運転している車にはねられてけがをした,損害賠償請求の訴えをどこの国に出すかという問題です。日本,フィリピン,インドネシアと考えられるわけでございますが,通常の考え方ですと,事故が起きたフィリピン,被告が住んでいるインドネシアで訴えを提起することができるけれども,原告が住んでいる日本では訴えを提起することができないということでございます。典型例はそういうものでございますが,それをいろいろな類型の事件ごとに考えていこうというものでございます。また,日本の国内法で規律しようというものでございますから,どういう場合に日本の裁判所に訴えを提起することができるかという角度から検討を重ねてまいりました。   そして,本年7月10日の第10回会議におきまして,国際裁判管轄法制に関する中間試案の取りまとめを行い,これにつきまして,7月28日から先月末を期限といたしまして,事務当局においてパブリック・コメントの手続を行っております。部会そのものはこのパブリック・コメントが終わった後も1回開いておりますが,パブリック・コメントの結果を踏まえて本格的に議論するのは次回以降という予定でございます。   それでは,お手元の中間試案の概要について御紹介申し上げます。   そのポイントを申しますと四つほどございますが,まず第1に,被告の住所が国内にある場合に日本の裁判所に国際裁判管轄があるものとした上で,不法行為,契約上の債務の履行に関する訴えなど,訴えの類型ごとに国際裁判管轄の有無の判断基準となる規律を設けることとしております。中間試案で申しますと,第1,第2がこれに当たります。   2番目のポイントでございますが,消費者契約に関する訴え,労働関係に関する訴えにつきましては,消費者,労働者の権利保護に配慮するための特則を設けております。これは中間試案の第4になります。例えば消費者で申しますと,日本にいる消費者は日本で訴えを提起することができるという特別の規則をつくろうということがここに書かれております。   3番目のポイントでございますが,裁判所が,被告の応訴の負担,証拠の所在などの個々の事案ごとの具体的な事情を考慮した上で,一定の場合には日本の裁判所の国際裁判管轄を否定することができるという規律を設けることとしております。これは中間試案の第6に当たります。   4番目のポイントでございますが,日本の裁判所に係属する事件と同一の事件が外国の裁判所に係属する場合を国際訴訟競合と申しますが,この場合にこれらの裁判の調整に関する規律を設けるか否かを検討しております。これは中間試案の第8に当たります。例えば,アメリカで訴訟が起きた後に,アメリカの訴訟で被告になった人が,日本で,アメリカの訴訟で原告である人を被告として訴えを提起いたしますと,アメリカと日本で同じ事件が審理されることになるわけでございますが,こういう場合にどうするかという規律を設けるか否かを検討しているということでございます。   最後に今後の予定でございますが,10月2日に第12回の会議を予定しております。今後は,パブリック・コメントの結果を踏まえまして,意見の対立のある論点を中心に鋭意審議を行っていきたいと考えております。   以上でございます。 ○青山会長 どうもありがとうございました。   それでは,ただいまの髙橋部会長からの審議経過報告につきまして,御質問あるいは御意見がございましたら御発言をお願いしたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○西田委員 この試案の要点はよく分かりましたけれども,保全処分とか強制執行等の管轄については御議論があるのでしょうか。 ○髙橋部会長 一番最後が第9,保全事件,仮差押え,仮処分でございますが,ここまでは私どもが担当しております。しかし,身分関係などは私どもの部会では担当しておりません。 ○青山会長 ほかに何か御質問ございますでしょうか。―よろしゅうございますか。   それでは,今,髙橋部会長から御説明がありましたように,この試案を含めて更に今後検討していかれるということですから,その最終取りまとめを報告していただきまして,この総会でまた御議論・御審議をお願いしたいと思います。今日はこのくらいにさせていただきたいと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。   髙橋部会長,御苦労さまでございました。   それでは,次に,民法の成年年齢の引下げに関する諮問第84号について御審議をお願いしたいと存じます。   まず,民法成年年齢部会における審議の経過及び結果につきまして,鎌田薫部会長から御報告をお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 民法成年年齢部会部会長の鎌田でございます。   民法の成年年齢の引下げに関する諮問第84号につき,本年7月29日に開催されました民法成年年齢部会第15回会議におきまして,「民法の成年年齢の引下げについての最終報告書」を決定いたしましたので,その審議の経過及び最終報告書の概要につきまして御報告いたします。   まず,最終報告書の決定に至る審議の経過につきまして御報告いたします。   諮問第84号は,平成20年2月13日に開催されました法制審議会第155回会議において発せられたもので,その内容は,「若年者の精神的成熟度及び若年者の保護の在り方の観点から,民法の定める成年年齢を引き下げるべきか否か等について御意見を承りたい」というものでございます。   民法は成年年齢を20歳と定めておりますが,平成19年5月に成立した日本国憲法の改正手続に関する法律,いわゆる国民投票法の附則第3条第1項において,「満18歳以上20歳未満の者が国政選挙に参加することができること等となるよう,公職選挙法上の選挙年齢,民法の成年年齢その他の法令の規定について検討を加え,必要な法制上の措置を講ずるものとする」と定められました。そこで,先ほど御説明しましたとおり民法の成年年齢の引下げに関する諮問第84号が発せられ,これを受けて設置されました民法成年年齢部会では平成20年3月に審議を開始し,合計15回の調査審議の結果,本年7月,民法の成年年齢の引下げについての最終報告書の取りまとめを行いました。   なお,部会におきましては,合計6回にわたり,教育関係者,消費者関係者,労働関係者,若年者の研究をしている社会学者,発達心理学者,精神科医師,親権問題の関係者等から,民法の成年年齢を引き下げた場合に生ずる問題点及びその解決策等について意見を聴取する機会を設けました。また,部会では,15回の調査審議以外にも,部会のメンバーが高校や大学に赴き,高校生,外国人留学生を含む大学生と民法の成年年齢の引下げについて意見交換を行いました。さらに,昨年12月には,それまでの審議結果を取りまとめた「民法の成年年齢の引下げについての中間報告書」をパブリック・コメントの手続に付し,その結果も踏まえて検討を行うなど,できる限り幅広い国民の意見を聴取しながら検討を行ってまいりました。   以上が最終報告書の取りまとめに至る審議の経過でございます。   次に,最終報告書の内容につきまして,要点に絞ってその概要を御説明いたします。お手元の最終報告書の目次を御覧いただきたいと思います。   最終報告書の構成は,第1として「検討の経緯等」を記載した後,第2で,今回の検討のきっかけとなりました国民投票年齢及び選挙年齢との関係について論じております。その後,第3として,民法の成年年齢を引き下げた場合のメリットということで引下げの意義を論じた後,第4で,引き下げた場合の問題点及びその解決策を論じております。そして最後に,第5として,民法の成年年齢を引き下げた場合の成年に達する日をいつにすべきか,養子をとることができる年齢及び婚姻適齢はどうすべきかについて論じております。   それでは,順に御説明申し上げます。   まず,報告書2ページの「第1 検討の経緯等」についてですが,こちらは冒頭に御説明申し上げたことと重複いたしますので,説明は割愛させていただきます。   なお,報告書3ページの注2にも記載しておりますが,部会では民法の成年年齢の引下げについてのみ検討を行いました。飲酒や喫煙あるいは少年法等の年齢の引下げにつきましては,それらの法令を所管する府省庁・部局で検討が行われるものと考えますので,本部会の検討の対象とはいたしておりません。   次に,報告書3ページの「第2 国民投票の投票年齢,選挙年齢等との関係」についてですが,先ほども御説明いたしましたとおり,国民投票法附則第3条第1項において,満18歳以上20歳未満の者が国政選挙に参加することができること等となるよう,選挙年齢及び民法の成年年齢について検討を加えることが求められています。国民投票法附則第3条第1項の趣旨については,同法の国会審議の際に法案提出者から,報告書の4ページに記載しております①から③までの理由の説明が行われております。そこで,①の理由付けと関連いたしますが,民法の成年年齢と選挙年齢が一致する必要があるかについて検討を行ったところ,民法の成年年齢を引き下げることなく選挙年齢を引き下げることは理論的には可能であり,選挙年齢と民法の成年年齢とは必ずしも一致する必要はないが,両者を一致させることは政治への参加意欲を高めることにつながり,また,若年者に社会的・経済的に大人となることの意味を理解してもらいやすいことなどから,特段の弊害のない限り,両者は一致していることが望ましいという結論に達しました。   続きまして,報告書7ページの「第3 民法の成年年齢の引下げの意義」におきましては,民法の成年年齢はどのような意義を有しているのか,また引き下げることによってどのようなメリットがあるのかについて論じております。   まず,「1 民法の成年年齢の意義」についてですが,民法の成年年齢は,第1に,契約年齢,すなわち親の同意なく一人で契約することができる年齢及び親権の対象となる年齢を定めているとともに,第2に,民法以外の多数の法令において各種行為の基準年齢とされていることや,我が国において成人式が20歳に達した年にとり行われているという慣行等にかんがみれば,法律の世界のみならず一般国民の意識においても大人と子供の範囲を画する基準となっているということができます。そうしますと,民法の成年年齢を18歳に引き下げることは,18歳をもって大人として扱うことを意味することになります。   2の「将来の国づくりの中心となるべき若年者に対する期待」において記載しておりますように,現在の日本社会は急速に少子高齢化が進行しており,我が国の将来を担う若年者には社会・経済において積極的な役割を果たすことが期待されています。民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げることは,18歳,19歳の者を大人として扱い,社会への参加時期を早めることを意味しますが,これらの者に対し早期に社会・経済における様々な責任を伴った体験をさせ,社会の構成員として重要な役割を果たさせることは若年者の大人としての自覚を高めることにつながり,個人及び社会に大きな活力をもたらすことになるものと考えられます。我が国の将来を支えていくのは若年者であり,将来の我が国を活力あるものとするためにも,若年者が将来の国づくりの中心であるという強い決意を示す必要があるものと考えられます。   一方,部会において実施したヒアリングによりますと,近年の若年者の特徴として精神的・社会的自立が遅れているなどの指摘があり,これらの問題については民法の成年年齢を引き下げるだけでは自然に解決するとは考えられません。社会全体が若年者の自立を支えていくような仕組みを採用し,若年者の自立を援助する様々な施策も併せて実行していく必要があります。その具体的な内容につきましては,所管府省庁において詰められるべきものではありますが,部会における調査審議の過程においては,報告書9ページに記載しておりますように,若年者がキャリアを形成できるような施策の充実,シティズンシップ教育の導入・充実,若年者のためのワン・ストップ・サービスセンターの設置,社会参画プログラムの提供等が必要であるとの意見が出されました。   続きまして,報告書10ページの「3 契約年齢の引下げの意義」では,契約年齢を引き下げた場合のメリットを記載しております。契約年齢を引き下げると,18歳,19歳の者でも親の同意なく一人で契約をすることができるようになりますが,現在の日本社会においては,18歳に達した者の大多数が何らかの形で就労しており,自ら就労して得た金銭については法律上も自らの判断で費消することができるようにしてもよいものと考えられます。   一方,報告書11ページに記載しておりますとおり,親権の対象となる年齢につきましては,これを引き下げることによって親から不当な親権行使を受けている子を解放することができるという意見もあります。しかしながら,児童虐待の対象となっているのは主に低年齢児であり,また児童虐待の問題はそれ自体で別途早急に対応策を検討すべきであり,民法の成年年齢を引き下げた場合のメリットとして位置づけることはできません。   報告書12ページの「5 まとめ」では,第2及び第3で検討してきたことのまとめをいたしております。民法の成年年齢を引き下げることには一定のメリットがあり,国民投票年齢が18歳と定められたことに伴い,選挙年齢が18歳に引き下げられることになるのであれば,特段の弊害のない限り,民法の成年年齢を18歳に引き下げるのが相当であるとまとめております。   続きまして,同じく報告書12ページの「第4 民法の成年年齢を引き下げた場合の問題点及びその解決策」におきましては,1及び2で引き下げた場合の問題点について,3で問題点を解決するための施策について,4でそれらの施策の進捗状況を前提にいつ民法の成年年齢を引き下げるべきかについてそれぞれ論じております。   まず,「1 契約年齢を引き下げた場合の問題点」におきましては,契約年齢を引き下げると,18歳,19歳の者の消費者被害が拡大するおそれがあることを論じております。すなわち,部会において実施したヒアリングの結果によりますと,20歳になると消費者センターに寄せられる相談件数が急増するという特徴があること,悪質な業者が20歳の誕生日の翌日をねらって取引を誘いかける事例も多いことなどが報告されており,契約年齢が引き下げられると,18歳,19歳の者が悪質業者のターゲットとされ,不必要に高額な契約をさせられたりマルチ商法などの被害が高校内で広まるおそれがあるなど,18歳,19歳の者の消費者被害が拡大する危険があるものと考えられます。   また,親権の対象となる年齢が引き下げられますと,報告書13ページの「2 親権の対象となる年齢を引き下げた場合の問題点」の(1),(2)に記載しておりますように,ニートや引きこもりなど,自立に困難を抱える18歳,19歳の者が親の保護を受けられにくくなり,ますます困窮するおそれがあること,高校教育における生徒指導が困難になるおそれもあることなどが指摘されました。そこで,これらの問題点を解決するためにはどうしたらよいのか検討を行いました。   まず,消費者被害の拡大のおそれに対しては,消費者保護施策の充実と消費者関係教育の充実が必要であると考えられます。そして,消費者保護施策の中身については,報告書16ページから17ページまでに記載しておりますとおり,若年者の社会的経験の乏しさにつけ込んで取引等が行われないよう,取引の類型や若年者の特性に応じて事業者に重い説明義務を課したり,事業者による取引の勧誘を制限することや,若年者の社会的経験の乏しさによる判断力の不足に乗じて取引が行われた場合には契約を取り消すことができるようにするなどの意見が出されました。この点,今月1日に消費者庁が発足したところですが,消費者庁による消費者行政の一元化が軌道に乗れば,若年者の消費者被害に関する対策も含め,消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現に向けた関係施策の充実を期待することができます。また,消費者関係教育につきましては,若年者が消費者被害から身を守るために必要な知識等を習得できるよう,法教育,消費者教育,金融経済教育の充実が必要となります。この点,先般,小中高校の学習指導要領が改訂され,これらの教育の充実が図られたところですが,今後は改訂された学習指導要領の趣旨が学校現場で着実に実施されるよう,教科書の充実,教材の開発,教員の研修等の一層の充実が期待されます。   そして,自立に困難を抱える若年者がますます困窮するおそれがあるとの問題点につきましては,報告書19ページの下段にあるとおり,若年者の自立を援助する施策を充実させる必要があるものと考えられます。この点につきましては,昨年12月に新しい「青少年育成施策大綱」が策定され,本年7月に「子ども・若者育成支援推進法」が成立するなど,一定の取組が行われていますが,今後とも若年者の総合的な支援に向けた一層の取組が期待されます。   その他,関係施策といたしましては,報告書20ページにあるとおり,高校教育におけるルール作りや一般国民への周知徹底が必要になるものと考えられます。   以上を踏まえまして,報告書21ページの「4 民法の成年年齢を引き下げる時期」におきましては,民法の成年年齢引下げの法整備の時期について論じております。   民法の成年年齢の引下げを行う場合の問題点の解決に資する施策は,先ほど御説明申し上げましたとおり,関係府省庁において一定の取組が行われていますが,これらの施策はその性質上直ちに効果が現れるというものではなく,現時点で直ちに民法の成年年齢の引下げの法整備を行うことは相当ではありません。法整備を行う具体的時期は,関係府省庁が行う各施策の効果の若年者を中心とする国民への浸透の程度を見極める必要があり,また,この問題に関する国民の意識を踏まえて判断する必要があります。このように考えることは,昨年7月に実施されました民法の成年年齢に関する世論調査の結果,すなわち,契約年齢を18歳に引き下げることに約8割の国民が反対している一方,一定の条件整備を行えば引下げに賛成という者が6割を超えているという結果とも整合的であります。そして,国民の意識を最も適切に判断できるのは国民の代表者からなる国会であるということができますから,法整備の具体的時期につきましては,国会での判断にゆだねるのが相当であるとまとめております。   続いて,報告書22ページの「第5 その他の問題点」について御説明申し上げます。   民法の成年年齢を引き下げる場合,いつをもって成年に達する日とすべきかについては,満18歳になる日とする案,満18歳に達した直後の3月の一定の日に一斉に成年とする案,満19歳になる日とする案の三つの考え方が部会において示されました。検討の結果,選挙年齢と民法の成年年齢は特段の弊害のない限り一致させることが適当であり,選挙年齢が国民投票年齢と一致するよう「満18歳以上」に引き下げられるとすれば,民法の成年年齢についても満18歳になる日を成年に達する日とすべきであるという結論に達しました。   次に,養親年齢については,現行の民法におきましては契約年齢及び親権の対象となる年齢と一致させておりますが,理論的には必ずしもそれらを一致させる必要がないことや,養子をとるということは他人の子を法律上自分の子として育てるという相当の責任を伴うことであることからすると,民法の成年年齢を引き下げる場合でも現状維持,すなわち20歳をもって養親年齢とすべきであるという結論に達しました。   そして,婚姻適齢につきましては,現行の民法におきましては,婚姻適齢は男子は18歳,女子は16歳とされておりますが,民法の成年年齢が18歳に引き下げられますと,男子は成年にならなければ婚姻することができないのに対し,女子は未成年である16歳,17歳でも親の同意を得れば婚姻することができるようになります。そこで,民法の成年年齢を引き下げる場合に婚姻適齢をどのようにすべきか議論を行いました。婚姻適齢については男女とも18歳とすべきであるという平成8年の法制審議会の答申があり,これを今変更すべき特段の事情もないことから,男女とも18歳とすべきであるという結論に達しました。   最後に,報告書24ページの「第6 結論」ですが,ここではこれまで検討したことの総括をいたしております。具体的には,民法の成年年齢の引下げには一定のメリットがあり,国民投票年齢が18歳と定められたことに伴い,選挙年齢が18歳に引き下げられることになるのであれば,民法の成年年齢を18歳に引き下げるのが適当である。ただし,現時点で民法の成年年齢を18歳に引き下げると消費者被害の拡大などの問題が生じるおそれがあることから,教育の充実や消費者保護施策の充実など一定の環境整備が必要である。現在,関係府省庁においてこれらの施策の実現に向けた取組が進められていますが,これらの施策の効果が十分に発揮され,それが国民の意識として現れた段階において速やかに民法改正の法整備を行うのが相当である。そして,国民の意識を最も適切に判断できるのは国民の代表者からなる国会であるから,法整備の具体的時期については国会の判断にゆだねるべきである。このように結論付けております。   なお,審議の過程におきまして有識者・専門家の先生方からヒアリングを実施したこと及び高校や大学に赴き意見交換を行ったことを冒頭で御説明申し上げました。本日は,時間の関係上,これらの結果についての説明を割愛させていただきましたが,報告書の26ページ以下にそれらの結果概要を掲載しておりますので,併せて御参照いただければと存じます。   最後になりますが,部会の最終回におきまして,委員のお一人から,民法の成年年齢の引下げのような国民的関心が高いテーマについては,報道関係者がリアルタイムに審議状況を傍聴できるよう会議を公開して審議を行うべきではないかとの意見も出されましたので,このことを併せて御報告させていただきます。   以上,簡単ではございますが,民法成年年齢部会の審議経過及び同部会が取りまとめました最終報告書の概要につきまして御説明させていただきました。よろしく御審議のほどをお願い申し上げます。 ○青山会長 どうもありがとうございました。   それでは,ただいまの鎌田部会長の御報告につきまして御質問と御意見をお伺いいたしますが,まず最初に,御質問がございましたら御発言をお願いしたいと思います。 ○水野委員 結論の部分で,「選挙年齢が18歳に引き下げられることになるのであれば」というのが条件になっているように読めるのですが,選挙年齢の引下げについては現在どこかで検討されているのでしょうか。 ○團藤関係官 事務当局から御説明申し上げます。   年齢条項をどう見直していくかということは,政府全体としての取組として行っております。内閣に「年齢条項の見直しに関する検討委員会」というものが設置されております。その構成員は各府省の事務次官等となっておりますが,そこで平成19年11月に,各府省において必要に応じて審議会等で審議を行い法制上の措置について対応方針を決定することができるよう検討を進めるということが決定されております。   選挙年齢でございますが,これは御案内のとおり公職選挙法によって定められておりまして,所管は総務省になります。私ども,現在総務省においてどういう具体的な検討がなされているかということにつきましては,つまびらかにいたしませんが,先ほど申し上げましたように,内閣に設置されました年齢条項の見直しに関する検討委員会の決定に基づいて,総務省におかれてしかるべき御検討をされておられるものと推察いたしております。 ○水野委員 今の内閣に置かれている検討委員会というのは,いろいろな府省にまたがっていて,民法も含めて検討しておられるわけですね。最終的には政府の方針はそこで決まることになるのですか。 ○團藤関係官 年齢条項の見直しに関する検討委員会が設置された経緯を申し上げますと,同委員会が司令塔として政府全体の方針を検討し,決定するということで設けられたものと理解しております。 ○青山会長 ほかに御質問ございますでしょうか。   御質問がないようでございましたら,次に御意見を伺いたいと存じます。どなたからでも結構ですので,御意見を賜りたいと思います。 ○徳永委員 この最終報告書は非常に簡潔によくできていると思いました。問題点も一通り整理されているのではないかと思います。   私個人としては,国民投票法の要請にかかわらず,こういうものは議論を始めるべきテーマではないかと思っています。特に,選挙年齢との関係とか,養子をとることができる年齢,婚姻適齢,あと成年年齢を18歳とする,こういう結論はそれぞれもっともなものではないかという気が私個人としてはします。   特に個人的な感想を言わせていただきますと,今は20歳が成年年齢となっているわけですけれども,一般的に今就職は18歳で,大学へ行くと2年とか3年とか,非常に節目としてあいまいで,20歳というのは非常にマンネリ化しているような気がします。18歳とすれば,多くの人は高校3年で18歳を迎えて,その後大学に進学するなり,就職をする。あわせて,民法の成年年齢が18歳になれば,当然喫煙とか飲酒関係もそれにそろえる方が混乱がないと思うのですが,現実問題として,そういうものも18歳でそろえる方がいいのではないか。20歳としているものが何か意味があるのか。大学1年生は飲めなくて3年生は飲めるみたいな,そういう現状はどうなのかというような気もするわけです。   それから,報告書に若者の自立が遅れているという記述があるのですが,私に言わせますと,家庭教育なり学校教育が若者の自立を非常に遅らせているのではないかという気がします。学校教育も学力,学力とは言うのですけれども,20歳になったら自立して自分で生きていくのだという風潮というか意識が非常に社会に欠けているような気がしまして,18歳にすることによって,家庭も含め,学校も含め,18歳になったら,経済的にはともかく,自分で歩んでいくのだという意識を社会全体に植え付けるというのが非常に大事なような気がします。ここにもあるのですが,これから猛烈な勢いで少子高齢化が進んでいって,若者一人一人の役割が非常に重要になってくる。そういう意味で,18歳にして意識改革といいますか全体の社会の活力を高めるというのは非常に意味があるのではないかと思います。その点で,当然ここに触れているように消費者教育などはきちんと整備する必要はあるのだろうと思います。   もう1点気になったのは,施行の関係なのですが,対策が浸透したらとか,非常にあいまいなものになっていまして,では何をもって浸透と言うのか,法整備が終われば浸透と言うのか,消費者被害が減ったら浸透と言うのか,非常に尺度があいまいでして,何でしたら,18歳にすることによって何が変わるかというのを国民に周知徹底していくとともに,例えば施行日を5年後に設定するとか,そういう明確な起点がないと対策がずるずる引き延ばしになってしまうのではないかというような印象を持ちました。 ○青山会長 どうもありがとうございました。   佐藤委員,どうぞ。 ○佐藤委員 今,徳永委員がおっしゃったように,いい点,悪い点というか,問題点も含めて書いていただいて,非常に分かりやすいし,これから後も参考になるものになっていると思いました。ただ,課題もたくさんありまして,若い人に関係する人たちがマイナスというか,これに対して懐疑的な意見が多いのと,若い人自身が必ずしも納得していないというか,自分たちの立場が変われることを肯定していない。ただ,全体のトーンとしては若い人たちに未来を託すのだという希望的なものになっていますので,そのギャップをどう埋めるかというところで,対症療法的な政策だけでいけるのだろうかというところは若干不安がございます。国民みんなが,何となく変わってきたなとか,若い人たちにこれから任せていきたいなと思うには,もっとムーブメントといいますか国民運動的な盛り上がりをつくる必要があると思うのです。   ただ,そういう中でちょっと気になりましたのが,8ページですけれども,「具体的内容は所管府省庁において詰められる」という,そういう感覚ですよね。大人としての成熟という問題は,各省庁の施策でできる問題では全然なくて,もっと横断的な視点がないと駄目だと思うのです。そういうのが,一つ一つの施策ができた,できないというよりは,もっと変わりにくい一番大事なところだと思います。法務省でできることは限られているのかもしれませんけれども,民法を預かっているわけですから,生活で一番近いところにいるので,もっと横断的にやっていくのだ,垣根を越えてやっていくのだというようなことを示さないと,若い人たちに未来を期待するということにはならないのではないかと思うのです。そういう意味では,我々も今までのやり方と変えてやっていくという意気込みというか姿勢というものをこの中にも何か出していただけないだろうかと思いました。 ○青山会長 ありがとうございました。   どうぞ,八丁地委員。 ○八丁地委員 大変分かりやすい報告書を書いていただいたことに関してまず感謝申し上げますが,企業の活動という点で見ますと,幾つか影響はあろうかと思います。まずは,先ほど議論がありましたけれども,成年年齢の引下げに関して,確か前回の審議会でも,これに関係する法令が約300本あるという話をうかがったのですけれども,それらの法令の検討のこれからの枠組みでありますとか,プロセスでありますとか,具体的にそういうものが,例えば企業の活動,もちろん社会全体の活動に対する影響だとか,具体的な改正の方向だとかいうことのイメージが分かってくると,もう少し実感のある判断ができるのではないかなと思います。先ほど,全体の取りまとめを内閣の検討委員会でされているという話が出たと思うのですけれども,そうした状況を更にディスクローズされるなり,ムーブメントにされるなりしていただければと思います。   2点目は,全体的に消費者保護というイメージが大変強く出ているように拝察しているのですけれども,消費者保護と同時に,自立した消費者の育成という点をもう少し両輪のように政策的な運営をすべきではないのかなと思います。保護のイメージでいくと,今や小学生でも高額な取引を実際にやっているという例も随分ありますので,どこまで保護するとか,具体的にどうするかというイメージはなかなか現実には出にくいのではないかという感じがするのと,自立した消費者の育成といいましても,教育には今やるべきことが山ほど満載しているというところで,自立した消費者ということをどうやって位置づけるかというのも実際にはなかなか難しいのではないかということもございます。そういう問題もあろうかと思いますが,いずれにしても,保護という問題と,そこで自立性とか成熟性をどう担保するかという問題の両面で取り組むということを出していただけることを期待するところであります。 ○青山会長 ありがとうございました。   どうぞ,戸松委員。 ○戸松委員 私も部会の議事録を読ませていただきまして,大変な審議をされて,感銘を受けて,いろいろ教わっていますが,1点は,法制審議会の基本理念としてはこうなのだということをもう少し出してもいいのではないか。いろいろなところに判断をゆだねるとか,そういうことではなくて,なぜ18歳に引き下げるか,それによってどうするかということを強く出してもいいのではないかという気もいたしております。というのは,部会でも恐らく出ていないような気がするのですけれども,私が大学で教育をしていますと,親の子離れができていない。これが大変問題で,子供の方がしっかりしている例がある。つまり,18歳で大学に入ってきて,親にとやかく言われてうるさい,それで自分で判断できない。本当に少々精神的におかしくなる例も私は何人かの学生から相談を受けておりまして,これは親の方が問題である。18歳は大人だということを早く社会的に浸透させて,もう少し親の方の自立ということも考えていいのではないかと思います。そっちではない面からの御検討が非常に多いですけれども,そちらの方も考えてよかったのではないかという気がするのと同時に,理念ということでは,最終的に国会の判断にゆだねるのが相当であるというのですけれども,議会制民主主義のもとでは最終的に法制度は議会がつくるのが当たり前ですから,この当たり前のことに逃げなくて,法制審としては,この基本理念を,徳永委員もおっしゃいましたように,5年以内にとか一定の時限でつくって方向性をもう少しはっきりしてもよかったのではないかという気がしております。大変だということは重々承知しておりますけれども,そういう気がいたしました。 ○青山会長 どうぞ,猪口委員。 ○猪口委員 特に10ページに関係して意見を述べさせていただきます。   既に指摘されているように,法務省的観点からはよくできているというか,非常に明解に議論されていると思います。成年の年齢を引き下げることの意味というのが,生産・消費活動とか,新しいアイデアを入れて何か新しいことをやるという観点が余り出ていないみたいで,ちょっと残念だなと思うのです。人口が減るということは大変だというのは分かるけれども,それは産めばいいとか,産みやすい環境という点もあるけれども,生まれた人がぼーっとしているのでは駄目なのです。それから,法律でいろいろな制限を持っていくというのが,きちんとやれる人はきちんと元気よくやりなさいと,新しいアイデアでやりたいことをやれるような環境をつくることが必要で,それが成年ということです。生産・消費とか,あるいはいろいろな形の新機軸を打ち出す人の年齢層を拡大するという観点がもうちょっと出てもいいかなと思うのです。産めといったって,人口が多くてもぼーっとしている人が多いと駄目なので,出てきた人が活動の濃度といいますか活発度を増すということが,生産とか消費というものを,あるいは科学技術の発展でも,あるいはの面でも頭の回転とか足腰がよく動くとかいうのがあるので,そこら辺のために成年はあるのだと思います。教育もある,人間関係もよくできる,いろいろな形であのとてつもない科学技術の発展に貢献する,そういう人。成年というと基本的にそういうことの制限がなくなるわけですね。だから,そういう観点をもうちょっと,法務省はほかの省庁よりも一段高いと言っては悪いのかもしれませんが,そのぐらいの意気込みでどこかの箇所でお書きになった方がすごくアピールすると思いますし,日本の市民の多くの方々に,これはいいことを言っているという感じになるのではないかなと私は思いました。 ○青山会長 ほかに,いかがでしょうか。   野村委員,どうぞ。 ○野村委員 報告書全体としては大変よくできていると私も思いました。この中に養親の年齢とか婚姻適齢の問題が触れられております。これはここに書かれているとおりですけれども,養子制度あるいは婚姻制度を考えると,もう少し深い議論が必要ではないかと思います。例えば女性の婚姻年齢を18歳に事実上引き上げることになるわけですけれども,こうすると,もしかしたら,例えばフランスのような年齢の要件の例外を認めて婚姻を認めるような仕組みを入れるというような例外を認める制度が必要になってくるのではないかと考えます。いずれにしろ,養子なり婚姻という観点からすると,もう少し違った観点からの議論が必要で,できれば今後は,この年齢の問題は年齢の問題として処理することはよいのですが,それとは別に,平成8年の総会決定を再検討することも含めて,広い視野に立って,家族法の改正についても検討を進めていただければと思います。 ○青山会長 まだ委員の方々からたくさんの御意見を承りたいと思いますけれども,ここで休憩を挟みたいと思います。           (休     憩) ○青山会長 それでは,再開いたします。   引き続き,民法成年年齢部会からの結果報告に対する御意見を各委員からお伺いしたいと存じます。   どうぞ,萩原委員。 ○萩原委員 これは意見ではありませんが,法務省当局の考え方を聞かせていただきたい点がございます。先ほど部会長から,この部会の審議の過程でも,大変国民の関心の深い事項であるから場合によっては審議の内容を公開しては,という意見もあったようにお聞きしました。確かに大変関心の深い事項であるし,今後ほかの法律に対しても大変影響の大きい問題だということを前提に考えますと,この部会の最終報告が出た後でメディアにこの中身について発表されて,それが報道されておりました。実は,あの報道があったときには,これは私だけではないと思うのですが,審議会の委員としては少なくともこの部会の報告書を正式にまだ読んでいない段階でした。今日の審議の中身をお伺いしていても,例えば施行時期一つについても,審議会中には様々な御意見があります。そういうことを踏まえると,法制審議会の諮問事項にかかわる広報について,一体どのタイミングでどういう広報活動をすべきなのか。世間の人たちは,テレビなどで大きく報道されたり,新聞の活字の大きい部分だけで,詳細なことまで理解せず,固定的な印象をもってしまう傾向があります。そうすると,部会の最終報告が,あたかも法制審議会の最終報告であるというような誤解を招きかねません。注意深く見ると新聞は総会にかけると書いてある部分もありましたが,この件に限らず,法制審議会の諮問を受けた事項の広報について,どういうタイミングでどういう広報をすることを基本的な考え方にされているのか,これは中身ではないのですけれども,お伺いしたい。   最終報告書の中身については,私は方向としては基本的に賛成いたします。ただ,今の点について,もし方針等があればお聞かせください。 ○深山関係官 部会,それからこの総会という形でいつも大体審議していて,そのときのマスコミ等々への広報の仕方については,私の知る限り,この総会で何か議論してこうしようと決めたというよりは,ある種の慣例として一定のやり方でやってきたのだと思います。正直申し上げて,部会の審議事項によってマスコミ等々の関心の度合いは著しく違います。関心を引かない地味なテーマもあれば,この成年年齢問題のようにものすごくマスコミからの取材要請が多いものもあります。ただ,一般的に,多くの諮問事項については,部会の意見がまとまった段階でレクチャーをお願いしたいという記者クラブからの申入れがあって,それに応じて,それならば部会が終わった後にこういう形で部会の審議の内容について説明する機会を設けましょうということで,そのやり方も固定はしていませんが,部会長と担当の参事官,あるいは本当に技術的なことだけ教えてくださいというのであれば参事官だけということもあったように記憶していますが,マスコミ,特に記者クラブからの申入れを受けてレクチャーの機会を設ける。そのときには,注意深く読めばと言われれば正にそのとおりなのですけれども,これは総会から付託を受けて第一次的な調査審議をする部会での結論であって,これが更に総会でもう一回議論されて,そこで結論なり内容が変わることは十分あるのですということは必ず説明しているはずなのです。しかし,そこはマスコミの方の書きよう,どこに重点を置くかというときに,本当に端の方にチョロっと書いてあるだけということが現実問題としては多いような気がいたしますけれども,そういう形で要請に応じてレクチャーをして,部会での議論の状況はこうであった,こういう部会の結論であったということを説明する。総会で最終的に答申に至った場合も同じようなことで,多くの場合,あるいは,ほとんど全部の場合に,マスコミから,説明をしてくださいということで,総会でどういう議論があり,部会の内容が一部変更になった,それはこんな議論でと,あるいは,ならなかった場合には,こういう議論はあったけれども結論はこうだというような説明を担当者からするというのが一般的な取扱いです。   最初に申し上げたとおり,これについて特に法制審議会の議事規則等々のルール化したものがあるわけではなくて,これまでの長い間の慣例としてそうしてきているというのが現状でございます。しかし,広報の在り方についてそれでいいのか,あるいはもっと別なやり方があるのではないかというようなことをここで議論になり,ここで以前に,議事録の顕名・非顕名問題でやったように,議事進行に関係する審議の在り方の周辺的な問題として,総会の委員の皆さんが一定のルールを決めたい,あるいはこういう議論をして決めたらどうだということであれば,それはまた機会を設けて議論をしていただいて,そこで決まったルールで広報するということは十分考えられますが,少なくとも今までのところはそのようなやり方でございます。 ○萩原委員 段階的に,部会があって,場合によるとこの総会で一部修正があるかもしれないという部分を幾ら言っても,お答えのとおり,メディアはその部分は削除して報道するというようなことが多いものですから,その部分を誤解がないようにどう伝えていくかというのが非常に大事な点だなと思います。特に国民的な関心事項になってくると,ますます誤解を与えないように,後々の修正ができ得る状況なのだということの説明をもっとしつこくする必要があるのではないのかなという感じがしたものですから,検討していただきたい。 ○青山会長 萩原委員の御意見は,法制審議会の総会と部会との関係にもわたりますので,私からも補足的に御説明させていただきたいと思います。   私もあの新聞を見まして,萩原委員と同じような,おやっという気持ちを抱いたことは事実でございます。しかし,法律ができる長い過程の中で,最終的には国会で法律が制定されて,そこで初めて本格的になるわけでございますけれども,その前のいろいろな長い段階で,知る権利を求めてマスコミが様々な節目節目に報道する。その節目のどこで報道してほしいかということをこちらが注文することはなかなか難しく,マスコミの自主的な判断にゆだねられているところだろうと思います。ただ,部会で審議された結果が,そのまま総会で了承されるというものではございません。総会においても十分な審議をし,更に直すべきところは直して答申することになるだろうと思います。第155回の総会において,民法の成年年齢の引下げの問題について諮問がされましたときに,この問題は,機動的・集中的に審議する必要があるので,部会をつくってそこで審議してもらって,その報告を聞いた上でまたこの総会で十分な審議をするということで発足したのが2年前のことでございます。今日,部会長から部会の審議結果の御報告をいただきましたので,総会委員の皆様の御意見を十分にお聞きして,法務大臣にどういう形で答申するかということを決めていきたいと思っております。どうぞ御自由に活発な御議論を続けていただければと思います。   よろしゅうございますか。 ○萩原委員 はい,分かりました。 ○青山会長 それでは,どうぞ,西田委員。 ○西田委員 2点ございます。   一つは,最終報告書の内容が,本日これで了承されれば,この線に従って答申がなされることになると思いますが,先ほど八丁地委員からも御指摘があったように,300近い関連法があるわけで,民法だけの問題ではないわけです。国民に対する情報開示としては,どのような法律で問題になるのか,それから今どういう機関でどういう審議が行われているのか,それも併せて国民に対して開示すべきであると,答申の際に,法務大臣に対する要望として,国民に対してその他の情報を開示することを要求するという要望書を付けるべきではないかということが1点です。   それから,民法の改正は当然閣法として国会に提出されることになると思いますけれども,そこに至るプロセスとして,関連法令の主務官庁がそれぞれの所管する法律の年齢について実質的な議論をして,最終結論を出すまで,民法改正法案についても国会に出ない,要するに一蓮托生の関係にあるのか,それとも民法が一歩先んじて政府提出法案として国会に出る可能性があるのか,その部分も法制審の答申としては一歩先んじてやるべきであるのか,それともそれを待ってやるべきであるのか,その点も態度を明確にすべきではないかという気がいたします。 ○青山会長 それぞれの御意見に対する若干のお答えはすべきかと思いますけれども,後でまとめて事務当局なり関係の方からお話しさせていただくということで,御意見を先に承りたいと思います。   どうぞ,水野委員。 ○水野委員 私は新入りでございまして,これまでの議論の経過を十分承知しているわけではございません。この報告書を十分読ませていただきましたが,この報告書は,先ほど何人かの委員の方から御指摘がありましたように,いろいろな角度から詳細に論じておられまして,よく問題の所在が理解できました。   ただ,この報告書を読ませていただいて,どうしても違和感をぬぐえないのです。結論の部分が,12ページの「まとめ」と,一番最後の24ページの第6の「結論」に出ていると思うのですが,要するに,民法の成年年齢を引き下げるということがあって,そのためには,例えば公職選挙法の選挙権年齢の引下げ,それから消費者教育だとか,様々な諸条件がある,その諸条件をクリアした上で引き下げるというトーンになっていると思うのです。そうすると,まず民法上の成年年齢を引き下げるための根拠といいますか立法事実が一体どこにあるのかということなのです。つまり,どういう説明がされているのか。これは7ページの第3がその箇所だと思います。まず1で,「どのような意義を有するかについて検討を行った」と書いてあります。2が,早期に社会・経済における様々な責任を持った体験をさせるということで,社会の活力を生み出すということが書いてある。ただし,「しかしながら」ということで,現状はこうだということがいろいろ書いてあります。私は,例えば契約年齢とか民法上の年齢を引き下げることによって成人ということで自覚が生まれるというのは,これは否定しませんが,やはり一番大きいのは公職選挙法だと思うのです。つまり,選挙権を行使できるようになった,国政に参画できるようになった,これが若者の活力を引き出すということであって,民法上の成年年齢の引下げは,全く効果がないとは言いませんけれども,それほど大きな問題ではないのではないかという気がしてならないです。したがって,この2に書いてある「将来の国づくりの中心となるべき若年者に対する期待」という部分は,民法上の成年年齢を引き下げることの根拠としては極めて薄弱だと感じました。   その次に,「契約年齢の引下げの意義」が3に書いてあります。これについてもここに理由が書いてあるわけですけれども,これも余り説得力がないといいますか,なるほどという気がしないのです。今,契約は親の同意が要るということになっていまして,同意がなければ取消権が行使できる。しかし,実際には18歳から20歳まででも親の同意を得ないでたくさんの人が契約しているわけです。それはもう大学を終わっているわけです。中に,どうしても親が介入して保護を図らなければいかんというときに,親が出てきて取消権を行使するということで不当な契約については未成年者の保護を図る。現状のこういう制度の中で18歳から20歳の人が何か困っていることがあるのか。現状でこういうことだから大変困っている,いろいろな社会生活,経済生活をしていく上で支障があるのだ,したがって民法上の契約年齢を18歳に引き下げてほしいのだということがあるのであれば,これは当然考えなければいけない。しかし,そういった声は余り聞いたこともないような気がしますし,現状で特に何か問題があるということではないのではないか。もし問題があるとすれば,そのことをストレートに報告書の中に書いて述べるべきではないのかなという気がしました。   それから,その次の4はその結論として「メリットとは言い難い」と書いてありますから,これは外せますね。   そうすると,結局2と3の部分なのですね。その部分だけで民法上の成年年齢を引き下げる必要があるという立法事実があると説得できるのかということについては極めて疑問があると思いました。   それから,もう一つは,諸条件がありますね。一つは公職選挙法の改正が大きいと思いますけれども,これはどうも緒についているのか分かりませんが,具体的な方向はまだ出ていない。それから,そのほかの問題点がいろいろあって,その解決策が書いてある。消費者教育だとか,様々なことをやる。例えば,大きな問題は,9ページの①から⑤まで,これもやらなければいけないと書いてありますね。そういったことがいろいろ書いてあるのだけれども,それではそういったことが簡単に一,二年の間に実現できるのかというと,これは極めて疑問です。まず民法の成年年齢を引き下げろ,そのためには諸条件としてこれが要るのだと書いてあるのですけれども,諸条件が十分整わない現段階において民法の成年年齢の引下げを議論するのは時期尚早であるという結論であれば,理由と結論とがうまくマッチするのですけれども,今のこの理由と結論とは何かそごがあるような気がしてならないのです。 ○青山会長 戸松委員,どうぞ。 ○戸松委員 水野委員,これは最初のそもそもの発端に問題が含まれていたのです。憲法改正国民投票法が成立して,投票年齢を18歳にする,それで終わっておけば何も問題なかったと思うのですが,政治過程でいろいろな議論があって,公職選挙法も同じように18歳にしなければいけないではないか,成年というのは民法に書いてあるから民法もと,そこで憲法改正国民投票法に附則がついてしまったのですね。それをもとにしてここに諮問が来たものですから。私も諮問の際に発言申し上げたのだけれども,それは別個にやってもいいではないかと。法制審が先頭になって民法で18歳の年齢にする,だからほかは倣えというぐらいの権限があればいいのだけれども,およそいろいろなことにかかわるのだったら,そもそも諮問の発端がまずいのではないかと。いろいろ煮え切らないとおっしゃるのは正にここにあらわれている。御苦労されたことは本当に御苦労されたので,切り離してやって。憲法は何も言っていませんから,憲法上は全然問題ない。そういうことだと思われますけれども,よろしいでしょうか。 ○水野委員 今おっしゃったとおりだと思うのです。この報告書を読みますと,まず国民投票法から始まっているわけで,そうすると,公職選挙法の改正がまず先ではないのかなという気がしないでもないですね。公職選挙法の改正がされて,それでは民法の成年はどうなんだということで諮問が来たというのであれば分からないでもないのですけれども。 ○戸松委員 民法を改正しなくてもいいのですよ。公職選挙法は代表を選ぶものですけれども,国民投票は代表を選ぶのではないのですから,要するに国民全員の意思を聞く直接民主的なのが設けられている憲法の唯一の例外ですから,それはそれだけの特別の法律をつくって,それで実施すれば済むことです。 ○水野委員 私が申し上げているのは,若者や社会に活力を持たせようということで,公職選挙法上の選挙年齢が18歳に下がるのが先ではないかということです。そのような議論があって,その上で,それでは民法もそれに合わせようかというのが流れではないのかなという気がいたします。民法の成年というのは,民法に規定があるわけでありまして,それを受けて成年と言っている法律もある。そうすると,おっしゃるようにいろいろな影響があるわけです。今回のこの報告書は,そういった影響については,3ページの注2ですけれども,「部会においては,民法の成年年齢の引下げがその他の法令に及ぼす影響については検討の対象としておらず」と書いてあるのです。けれども,民法の成年年齢が引き下げられることによって他にどういう影響を及ぼすかということを抜きにしてここで答申するというのはちょっといかがかなという気がしないでもないですね。ですから,余りにもいろいろと問題が大きいのではないかなという気がいたします。 ○猪口委員 確かに水野委員御指摘のどういう角度から見るかというのは何か狭くなっているかなと思うのですが,法務省の観点というのはそうなのだろうし,法務省の関係で民法にかかわっている先生方もそう感じるから,引き下げることを必ずしも肯定するのではなくて,心配みたいなのがいっぱい出てきて,何か変な感じがしますけれども,これはしようがないのではないですか。それよりも,引き下げることによってどういういいことがあるかというと,法的に活動がやれる人口が増えるということですし,もう一つは,10ページに書いてあるのですが,グローバルスタンダードに合わせること。何か日本だけが法律的に活動する人がほかの国よりも何百万も少ないみたいなおかしな国になって,そうでなくても活動が鈍化して,低下して困っているというときに,今までの法律とか現状の法律が何だかんだというのではなくて,そうやったらそういういいことがある,生産とか消費が非常に活発になる,人口のポテンシャルが増えるという視点を強く出して欲しい,それからグローバルスタンダード。192ある国の1国だけ20歳から成人にするなんてとんでもないことをやっているわけで,それは名誉ある孤立かもしれないけれども,そんなどうでもいいようなところで意地を張ってもしようがないというので,この二つのグラウンドで,法務省としてこういうことを考えるというのは英断だと思うし,それはやるべきです。ほかの省庁がどうかというのは気にはなりますが,総合判断をする政権があるのですから,必要以上にこだわることは無いと思います。それで余りよくやらなかったら,市民の方からもいろいろ出てくると思います。何かこの法制審議会が日本を牛耳っているみたいな感じで考えない方がいいので,いいスラストといいますか大方向をはっきりする,変化を起こすきっかけをつくることが重要です。それは二つの大きな目標,とにかく活動を活発化する人口を増やす,それからもう一つは,グローバルスタンダードにどうしてこんな意地を張って離れても気にしていないかということに対しては異を唱えて,みんなと一緒にやりましょう,それはWTOの自由貿易の原則に賛成というのと同じ。ここにはちょっと違ってもいいですけれども,そういうところが抜けて,どうでもいいということもないのですが,かなり重要だけれども民法学者とか法務省の民事局みたいな方が一番雄弁なところがいっぱい書いてあるので,ちょっとバランスはないかなという気はするけれども,そういうことは重要ではない。一番重要なのは,活動する人口のポテンシャルを増す,それからグローバルスタンダードに合わせる,そのための突破口をまず民法でつくる。ほかのところは何かやっていけば変わっていくので,法律が日本国を牛耳るみたいな観点というのは余りよくないと思います。 ○青山会長 どうぞ,櫻田委員。 ○櫻田委員 ただいまグローバルスタンダードということをおっしゃったのですけれども,そもそも満20歳にした当時,これはグローバルスタンダードではなかったと思うのです。当時は欧米は大体21歳,諸外国ではもっと高いところがあった。それにもかかわらず日本がなぜ20歳にしたかという,そこの理由をまず伺いたいところです。   もう一つは,ただいまの御発言でいきますと,活動人口を増やすというのだったら18歳ではなくてもっと下げればいいではないかという議論も出てくるわけで,18歳にしたというのも,結局,諸外国が大体18歳になっているというところに理由があるのかなと思うのですが。 ○猪口委員 それははっきりしている。日本は識字率が20世紀初めだけではなく19世紀後半でも非常に高いんですよ。それはエマニュエル・トッドというフランス人の学者もきちんと書いていますけれども,19世紀とか20世紀の前半については日本は非常に高い識字率を誇っていた。それはもちろんその前もそうですけれども,それとかなり比例していると思います。成人というのは何歳ぐらいかというのは,それぞれの社会でそう考えて,フランスなどでは余り字が読めない人が数多くいたわけです。フランスでは,カトリック教会が19世紀とか20世紀前半ではまだまだ強く,大衆信者の識字率を上げることに反対の役割を果たしました。日本の徳川時代には武士の識字率は非常に高かったことはロナルド・ドーアなどが明白としていることです。さらに寺子屋の普及などで,大衆の識字率もフランスなどと比べても幕末明治においても高かったことが実証されています。そういうことがあるけれども,そういうのは昔のことで,これからのことを考えると,おくれる人たちの群れに断固死守しているというのもおかしい話で,経緯はどうでもいいけれども,日本だけぼーっと生きている少年少女たちが多いみたいな,だから怖くて成年にできないみたいな感じにしておくのも……。むしろ,あなたは今日から成人だと言ったら元気が出て頑張るかもしれないというぐらいに考えればどうということもないことを気にしてもしようがないのではないのかなという感じがします。 ○櫻田委員 私は反対しているわけではなくて,おっしゃったことで,立法事実といいますか,要するに理由をもう少し違う角度からはっきり書いた方がいいのではないかという,そういう趣旨ですよね。 ○猪口委員 日本と欧米あるいはメキシコなどと比較しても,識字率が成年の定義に非常に強い影響を与える。19世紀,20世紀を見ただけでもかなりはっきりしています。 ○青山会長 ほかに御意見ございますでしょうか。   どうぞ,北村委員。 ○北村委員 私は基本的に今のままでいいのではないかと思っているのです。グローバルスタンダードがあるかもしれませんけれども。ただ,18歳に引き下げるのだったら18歳に引き下げてもいい。要するに,20歳なのか18歳なのかという根拠はそれほどないだろうと思っているのです。そのときに,引き下げるのだったら,18歳の子に大人として権利だとか義務だとかを与える部分があるのですから,やはり責任を持って行動できるような形で,余り法律によって年齢を違えてしまうというのは,もうややこしく感じます。ですから,なるべく同じような性格のものについては同じような形にする努力をやるべきなのではないかなと思うのです。法務省から外れてしまう部分があるのだったら,やはり話合いによってきちんとやるべきではないかなと思っているのです。18歳,要するに今まで未成年だった人を教育しなければならないという形らしいのですが,私は,教育は,その人たちの教育も大事ですし,やはり大人が余りにも子供にべったり過ぎるのがこの国の特徴だと思っているのです。これは自戒の念もあるのですけれども。ですから,そこのところの教育をきちんとやらない限り,子供はいつまでたっても自立できないという部分があるのではないかなと思うのです。   もう一つは,裁判員制度が導入されるときに,非常に時間をかけて導入しましたよね。ですから,成年年齢も18歳に引き下げるというのでしたら,時間をかけて,教育その他のことも含めていろいろとやっていかなければならない。ところが,ここでは,確かにそれは時間をかけてやらなければならないというようなことを書きながら,国会に全部ゆだねましょうなんていう,割と無責任な形になっているのではないか。そこのところをもう少しきちんと書いてくださるといいなというのが希望です。 ○青山会長 まだ更に意見をお伺いいたしますけれども,今まで出された御意見の中で,部会長又は法務省から,ある程度お答えできる部分もあるかと思います。まず,部会における審議の経過でこの問題はこういう議論があったというようなことを,鎌田部会長から差し支えない範囲でお話しいただきたいと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。 ○鎌田部会長 少しまとまらないかもしれませんが,まず直近に出てきた話題に関連して言えば,民法の成年年齢を引き下げるべき立法事実はあるかという点は一番大きな問題ではあるのですけれども,立法事実をどういう視角からどういうレベルでとらえるのかというのも多様であります。水野委員御指摘のように,現実に法制度が非常に桎梏になっている部分があるので,そこを打破しなければいけないというように直接的に覚知されるものもありますけれども,この問題はむしろ,社会の在り方を今後どう変えていくのか,どのように展開させていくのかという性質のものでありますので,今これが18歳でないからこういう困ったことがあるということを並べていくことで立法事実が説明できるというのとは少し違うのではないかという認識で我々は議論してきたところでございます。この辺りは,政策判断の大もとでございますので,むしろ総会の場でしっかりと御議論いただいて全体の方針をお決めいただくことがふさわしいのかなと考えているところでございます。   その他,記憶に残っているところについて,アトランダムになるかもしれませんが,幾つか発言をさせていただきます。野村委員からの御指摘は,主として家族法全体をもう一度見直した方がいいという趣旨だと思いますが,その中で,婚姻適齢について例外的に18歳未満の者にも婚姻を認める必要がある場合があるのではという御指摘がありました。確かにそのような立法例も外国にあるわけでございますので,そういった問題についても部会では議論いたしました。しかし,この問題については,平成8年の法制審議会において,男女とも婚姻適齢を一律に18歳にすべきという答申を出しており,これを変更すべき特段の事情はないと部会では判断いたしましたけれども,これもまた総会で御議論いただければと思っております。   それから,猪口委員から,成年年齢を引き下げることで社会に活力をという大変心強い御支援をいただいたと受け止めております。少し猪口委員の御発言を誤解したようなことになるのかもしれませんけれども,現在でも,20歳未満の若者で非常に優れた能力を持って起業していこうというような人は,営業の許可を得ることによって一人前の取引人として活躍できるという仕組みはできているわけで,そういった先端的な人に対してどうそれをエンカレッジしていくかということよりも,むしろ若者全体について,判断能力が一定の水準に達しているものとして取引社会で一人前に責任を持って行動していただく年齢をどこに引くかということを問題にしているわけですから,そういう突出した若者だけではなくて,若者全体について活力をということで,もっとダイナミックな提案だということになるのかもしれません。   多くの御意見をちょうだいしたのが,国会に判断を任せるというのは不明確ではないか,国会の判断にゆだねると,場合によってはずるずると何年もほったらかしにされる懸念もあるのかもしれないというような御指摘だったと思います。部会の中でもそういった意見はかなり強く出されたところでありまして,3年とか5年といっためどをしっかりと書き込むべきであるとか,諮問を受けてもう一度ボールを投げ返すようなことは法制審として見識のない姿勢であるというような御指摘もいただいたところでございます。   この点について我々が考えましたことは,大きくは二つの側面があると思います。先ほど来指摘されているところでございますけれども,現在,成年年齢を20歳から18歳に引き下げるだけの社会的な基盤があるかというと,そこには多くの方が御懸念を抱いていらっしゃるわけでありまして,それを十分に受け入れられるような前提条件を整えるということと一対になってでなければこの提言はできない。しかし,それをどのように実現していくかということについては,総会の御意見の中でも二つのものが必要だということだったと思うのです。一つは,それを支えていくだけの様々な制度的な基盤が必要であるということで,もう一つは,それ以上に,若者と親の意識あるいは社会の意識が,18歳以上の者は大人だというものに変わっていかなければいけない,それにふさわしいものに変わっていかなければいけないという,その二つの側面があったと考えております。   制度の側面で申し上げれば,教育であったり,消費者対応であったり,それらはすべて法務省の所管以外の部分でございますので,関係府省庁は3年以内に制度をつくれというようなことを一部会が言えるのだろうかという障害が一つあるということでございます。それから,法律を制定した上で施行日だけを環境整備ができたときまで延ばすというのも,法律はつくったけれども施行日はいつになるか分からないというような法律のつくり方も多分できないだろうと思います。こういった技術的といいますか制度的な側面が一つであります。   それ以上に部会として重視いたしましたのは,先生方から御指摘がありましたように,親の意識でありますとか,若者自身の意識が,取引社会で,あるいは政治の社会でもということになるかと思いますけれども,一人前の大人として行動していくという自覚を形成する段階に現時点ではまだ至っていない。そういう意味で,親,若者,社会全体が,18歳の者を一人前の大人,あるいは少なくとも大人の入口にしっかり立っている者として取り扱うという意識が醸成されることが最も重要であると考えました。だとすると,これは何年何月までに制度をつくりなさいというのとはかなり性格が違ったものなので,そちらの側面を重視していくと,どうしても年限を限ることは難しい。かといって,何か機運ができればやりますというような話にもならないということで,ある種苦肉の策でもありますが,しかし,実際の必要性に最も適合的なものとしてこういった報告書にしたわけでありますけれども,しかし,少なくとも一つの向かっていく方向を明示することによって,関係府省庁だけではなくて,社会全体がそういった方向に向かって努力していただくようにしたいというのが部会としての全員一致でまとまった考え方だということでございます。   多少過もあるかと思いますけれども,不足もあろうかと思いますので,事務当局から発言を補っていただければと思います。 ○團藤関係官 それでは,事務当局からも,これまでお出しいただきました御意見に関して若干補足的な御説明をさせていただきたいと思います。   まず,これもアトランダムになるのですが,先ほど,民法の成年年齢がなぜ20歳となっているのかというお話がございました。現民法は明治29年法律第89号ですから,明治29年以来ずっと20歳であります。さかのぼれば,施行されずに廃止されました旧民法,更にはその前の明治9年太政官布告で成年年齢が定められているわけですが,そこでも20歳ということのようでございます。ではなぜ20歳とされたかということは,これは余りにも古い話でございまして,私どももつまびらかにはいたしませんというのが正直なところでございますが,制定当時の日本人の精神的成熟度及び平均寿命を総合考慮したものと言われております。ちなみに,これは明治の初期でございますが,その前の江戸時代までは武士は15歳で元服ということでございますから,当時の状況に我と我が身を置いて考えてみたら,20歳まで遅らせたという意識だったのかもしれないなと思われます。また,諸外国は当時はもっと高い年齢であったというお話がございました。平均寿命も,諸外国と比べまして,例えばアメリカ,イギリス,フランスなどと比べまして日本は若干低かった。今は長寿国でございますが,当時は低かったということも,一応ベクトルとしては諸外国よりも低めに設定されていることと合っているのではないかなと考えている次第でございます。   それから,立法事実のお話,あるいは内閣で検討されている300の関連法についてのお話などもございました。そもそも今回のこの諮問に至る直接の経緯が,先ほど部会長の御報告にございましたように,いわゆる国民投票法の制定とその附則第3条第1項で,公職選挙法と並んで民法も特出しされた上での検討が,言ってみれば立法府の意思として示されたということが大きなきっかけとなっているわけでございます。したがいまして,水野委員が御指摘のように,現在の20歳の成年年齢のままではこれだけ看過し難い問題点が存在しているという社会的な事実をもとにしてこの諮問に至ったわけではないという道行きであるところに今回のこの諮問の特質があるのではないかと事務当局としては考えております。ある意味立法府の意思が示された中で,ではどういう問題点がそこにあるのか,どういう方向で検討するのかということがこの部会における中心的な御議論であったと理解しているところでございます。   では民法が300ある関係法の先陣を切って走るべきなのか,あるいは公職選挙法が先陣を切って走るべきなのかというあたりの御議論もございました。私どもは,先ほど水野委員からの御質問にお答え申し上げましたとおり,現在,総務省における公職選挙法改正に向けての具体的な検討状況・内容等についてはつまびらかにいたしておりません。ただ,今回のこの諮問の直接の契機が,いわゆる国民投票法附則第3条第1項にあるわけでございまして,そこには明示的に公職選挙法と民法が挙げられているということからすれば,この民法成年年齢部会における御議論におきましても,その立法府の意思を受けて政府の各部署においてそれぞれしかるべき検討が進められているということを前提として,すなわち,国民投票法附則第3条第1項で言うところの「満18年以上満20年未満の者が国政選挙に参加することができること等となる」という部分は何らかの形で検討が進められているのだろうという前提で,議論が進んでいたことは間違いございません。部会の最終報告書にある「選挙年齢が18歳に引き下げられることになるのであれば」という表現はそのことを意味しているわけでございまして,部会における議論でも,民法の成年年齢と選挙年齢は一致する必要はないけれども,民法の成年年齢と選挙年齢はできる限り一致する方が望ましいという御議論がございました。したがって,成年年齢を18歳に引き下げるかどうかという民法での議論を行う前提としては,当然,公職選挙法が改正されて選挙年齢が18歳になるのであればということを頭に置いた議論ということになります。したがって,この部分の記載はそういう議論の経緯を反映したものと御理解いただければと思っております。   政府全体で300ある関連法との関係をどうするか,政府全体に対する要望書を付けるべきではないかという御意見を頂だいしましたが,鳩山内閣のもとでどういう内閣全体としての取組体制がとられるのかということが,新政権が誕生したばかりで必ずしも明らかではありませんが,まずはそこをしっかりと見定めた上での問題かなと考えている次第でございます。   事務当局から補足を申し上げる点は以上でございます。 ○青山会長 委員の方々の御意見,御質問に対しまして,今,部会長から,部会の審議の在り方,審議の内容や,なぜ部会がそういう結論に至ったかという理由,それから,團藤関係官から,他省庁との関係等について補足的な説明をいただきましたけれども,それを踏まえて更に御意見がある方は,どうぞ遠慮なくおっしゃっていただければと思います。 ○西田委員 今の團藤関係官からの御説明は,最後の部分は少しおかしいのではないかというふうに聞きました。内閣は確かに変わりましたけれども,法制審議会に対する諮問としては生きているわけで,それに対する答申を出す。その際に,現内閣に対しての要望書を答申と同時に出すことは何らおかしいことではないのではないか。その中に,国民に情報を与えるという意味で,どのような関連法案があって,それについて現在の審議状況はどうであるのかということも併せて,もちろん公選法は当然の前提であって,それとこれが一蓮托生であるのは当たり前のことですが,そのほかにどの範囲の国民生活に影響を及ぼすのか,それについて今どういう審議状況にあるのかということも,国民に情報を開示していただきたいという要望書を答申を出すときに付けるということは,現内閣が何も決めていないから要望しても仕方がないという理屈にはならないと思います。 ○團藤関係官 言葉が不十分で申し訳ございませんでした。私が申し上げたかったのは,西田委員がおっしゃっている要望書は,今の御発言にもにじみ出ておりますように,どうも内閣全体に対する要望書というニュアンスが強いと理解しておりますが,法制審議会の御答申は,法務大臣からの諮問に基づく,法務大臣に対する答申になりますので,今後の新しい内閣のもとでどういう体制がとられ,そこに法務大臣がどういう形でコミットされることになるのかというあたりをきちんと見定めた上で,どういう対応が適切なのかということを考える必要があるのではないかという思いから申し上げたわけでございます。通常,法務大臣からの諮問に対する答申に内閣あての要望書を付けるということは余り例のないことではないかなと思います。そういった意味で若干違和感を感じたところでございます。 ○青山会長 ほかに御意見ございますでしょうか。   かなり活発な議論をいただきましたけれども,時間もそろそろ参っておりますので,このようにさせていただきたいと思っております。   今日の審議で,委員の皆様から様々な御意見をいただきました。そこで,できればもう一回総会を開かせていただきまして,それまでに今日いただきました御意見を整理し,どういう形で法務大臣に答申することが最も適当かということを私の方で考えた上で,答申案を事務当局に作成させ,それを基に次回議論していただくということで今日は締めさせていただくということでいかがでございますでしょうか。―よろしゅうございますか。   それでは,本日の会議はこれで終了といたしますが,全体を通じて,特にこの点は言っておきたいということがあれば,今の諮問第84号に限らず,法制審議会総会としてこの場で言っておきたいということがあれば承りたいと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。 ○水野委員 できましたら,総務省で公職選挙法の問題がどうなっているのかということを調べていただいて,御報告いただければと思います。 ○青山会長 分かりました。   ほかに御意見ございませんでしょうか。   本日はたくさんの方から非常に内容の濃い議論をいただきましたが,本日の会議の内容につきましては,後日,御発言いただきました各委員の皆様に議事録案をメール等でお送りさせていただきますので,御自分の発言の趣旨がそうでないということであれば,それを正確に直していただいて,あるいはこういう発言はちょっとどうであったかというような点もあるかと思います。その辺も直していただきまして,なるべく早くお返しいただきたいと思います。会議体自身は公開ではありませんけれども,議事録は,こういう重要な問題についてはなるべく国民の方々に早く公開して,意見をまた反映したいと思っておりますので,どうぞその点は御協力をお願いしたいと思います。   最後に,事務当局から何か御連絡事項はございますでしょうか。 ○深山関係官 次回の総会の開催予定について説明いたしますけれども,今,会長からお話があったように,他の議題があるかどうかはともかく,この議題だけでも継続してもう一回やることになりました。今日の会議の結果を踏まえて,現在考えているのは,10月下旬を目途に開催させていただきたいと思っております。具体的な日時につきましては,会長と御相談の上,できるだけ速やかに各委員に御連絡したいと考えております。   それから,先ほど,広報の問題について,何となく私の説明の終わり方がおかしかったような気もしますが,とりあえず今日の萩原委員の御発言はもちろん議事録にきちんと残し,委員の皆様から特に御異論もなかったので,各部会が部会の案についてマスコミにレクチャーする際には,今までもやっていることだと先ほど言いましたけれども,ややマスコミから無視されがちな点でもあった,総会での議論こそが最終的な結論を決めるのだということをよりしっかりと伝えるようにするということは,今日の段階の御指摘として,事務当局としても今後気を付けたいと思います。   また,先ほど,法制審議会の答申で,附帯した要望書みたいなものがあるのかという話がありました。これは御存じの方もおられるかもしれませんが,過去何度か,諮問に対する直接の答申ではないのだけれども,それに関連することとして,法制審議会の総意でこういう要望を法務大臣にしたいということで,附帯要望事項を付けた答申をしたケースがございます。このケースでそれをするかしないかということ,あるいはする方がいいというつもりではないのですけれども,そういう例もありますので,諮問に対する答申が審議会の基本的な責務ですけれども,それに加えて,それに関連する事項を法務大臣に附帯要望事項という形で一緒に付けるということは過去に例がありますので,そのようなこともあり得るということで,また次回議論を深めていただいて,答申の内容をどうするか御決定いただければと思います。 ○青山会長 ありがとうございました。   本日は,お忙しいところをお集まりいただきまして,大変熱心な御議論をちょうだいいたしました。誠にありがとうございました。   それでは,これで本日の会議は終了いたします。 -了-