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仏語圏アフリカ刑事司法研修について

国連アジア極東犯罪防止研修所教官 湯川 毅

1 はじめに

国連アジア極東犯罪防止研修所(アジ研)では,2014年から,コートジボワールを含む西アフリカの8か国を対象に,仏語圏アフリカ刑事司法研修を実施しています。今回は,研修の概要と,前回,2016年2月にコートジボワールで実施した第3回セミナーの紹介をします。

なお,この研修は,今後,2017年初頭に第4回のセミナーを,2018年に第5回のセミナーをいずれもコートジボワールで開催する予定となっています。

2 仏語圏アフリカと研修が始まった経緯について

アジ研が研修の対象としているのは,コートジボワールのほか,セネガル,ブルキナファソ,モーリタニア,マリ,チャド,ニジェール,コンゴ民主共和国の8か国です。これらの国ではいずれもフランス語が公用語として用いられている上,刑事司法制度についても,基本的にはフランスの制度が導入されています。例えば,これらの国では裁判官及び検察官はまとめて司法官(magistrat)と呼ばれ,弁護士とは別の試験により選抜され,司法官になった後は裁判所や検察局の間で異動するようになります。(※1)また,多くの国で予審判事の制度があり,警察及び検察局の捜査で重罪(crime)に該当するとされた事件については,予審判事が捜査を行い,訴追をするかどうかを決定しています。

他方で,これらの国の中には,近年でも,内戦や紛争を経験したり,イスラム系を含むテロ組織に悩まされたりしているところも多く,また,人員や設備の不足などの問題も抱えていて,刑事司法制度の実際の運用となると,なかなか効率的な運営がなされていないのが実情です。

そこで,2013年の第5回アフリカ開発会議(TICAD V)(※2)で平和構築・治安回復が主要な柱として位置付けられたことなどを踏まえ,アジ研が,JICA(※3)の要請を受けて,これらの国に対して,仏語圏アフリカ刑事司法研修を実施することになりました。

※1 日本では,裁判官,検察官,弁護士になるための司法試験は統一のもので,違いはありません。

※2 ティカッド・ファイブといいます。ティカッドは,日本政府が主導して開催しているアフリカの開発をテーマとする国際会議です。

※3 独立行政法人国際協力機構のことです。日本の政府開発援助(ODA)を一元的に行っている機関です。

3 第3回仏語圏アフリカ刑事司法研修(2016年2月)について

この仏語圏アフリカ刑事司法研修は,5年の計画で実施することとされています。最初の2年間は,これら8か国の刑事司法実務家を日本に招いて3週間のセミナーを実施し,3年目となる2016年2月には,セミナーの場所を日本からコートジボワールに移して,アジ研,JICA及びコートジボワール司法官等養成学校の共催で,コートジボワールの経済の中心地であるアビジャンで開催しました。

第3回のセミナーのテーマは,①捜査・訴追・公判の基礎,②テロ犯罪対策,③組織犯罪対策とされ,各国の警察官,検察官,予審判事及び公判判事合計31名を研修生として招いて,各国の実情に関する国別発表のほか,フランス人予審判事やUNODC(※4)セネガル事務所の専門家の講義,コートジボワール科学捜査研究所等の見学,アジ研教官による講義,ディスカッション等を実施しました。講義等は,西アフリカ地域の通常の業務時間に合わせて,毎日朝8時から開始して午後4時まで行い,さらに講義等の後に,コートジボワール参加者らが主導し,その日の講義等の内容を振り返り,補足的な議論などを行うラップアップセッションが行われました。

アジ研教官の講義の写真

アジ研教官の講義

国別発表の様子の写真

国別発表の様子

そして,セミナーの最終日には,各国の研修生が,今後の行動計画を発表し,それぞれの国において刑事司法制度の運用改善に努めていく決意を明らかにしました。

閉講式にての写真

閉講式にて

来る第4回のセミナー開催も実りのあるものとなるよう,現在,準備を着々と進めているところです。

※4 オーストリアのウィーンに本部を置く国連薬物・犯罪事務所のことです。薬物犯罪,人身売買やマネーロンダリングを含めた組織犯罪,汚職対応や司法担当官の研修などを目的に設立された機関です。