みんなのヒーロー
松山陽奈さん
宮城県・仙台市立仙台青陵中等教育学校
法務省と全国人権擁護委員連合会では、次代を担う中学生の皆さんに、日常の家庭生活や学校生活等の中で得た体験に基づく作文を書くことを通して、人権尊重の大切さや基本的人権についての理解を深め、豊かな人権感覚を身に付けてもらうことを目的として、昭和56年度から「全国中学生人権作文コンテスト」を実施しています。
本大会では、6,388校の学校から、792,451名の応募がありました。
いずれの作品も、中学生らしい感性に富み、純粋な感覚で人権問題をとらえたものばかりです。
その中から上位9作品についてご紹介します。
また、上位4作品については朗読動画及び英訳もご覧いただけます。
※再生ボタンをクリックすると動画が再生されます。
松山陽奈さん
宮城県・仙台市立仙台青陵中等教育学校
野尻夕珠さん
岐阜県・高山市立東山中学校
須田琴菜さん
福島県・須賀川市立第二中学校
小西祥生さん
岡山県・岡山学芸館清秀中学校
中央大会審査員長
執筆と並行して、東京青山、大阪江坂にクレヨンハウスを主宰。主な著書 『明るい覚悟』、『母に歌う子守唄』、『泣きかたをわすれていた』他多数。
審査講評
たくさんの優れた作品を遺された作家・井上ひさしさんは、「100年後の皆さんへ」に呼びかける「僕からのメッセージ」という一文を遺されておられる。(『井上ひさしと考える 日本の農業』井上ひさし(著) 山下惣一(編))
……100年後の皆さんへ、お元気ですか?
この100年の間に、戦争はあったでしょうか?
それから、地球が駄目になるのではなく、地球の上で暮らしている人間が、駄目になってはいないでしょうか?
僕たちの世代は、それなりに一所懸命に頑張ってきたつもりですし、これからも頑張るつもりですが、できたら100年後の皆さんに、とてもいい地球をお渡しできるように100年前の我々も必死でがんばります。
どうぞお幸せに……。
幸運なことにさまざまな場面でこの類稀なる才能に恵まれた……ということはそれだけ努力をされた……作家と活動を共にさせていただいてきた。井上ひさしさんの前述のこの言葉はそのままわたしの中で、アメリカ合衆国の教育者、ダイアン・モントーヤさんの言葉と重なります。「7世代先の子どもたち」。
ネィティヴアメリカンである彼女が来日して、クレヨンハウスというわたしがやっている、子どもやヤングアダルトの本の専門店を訪ねてくださったのは10数年前のこと。長い間、白人優位の米国の歴史の中で「インディアン」と呼ばれ、差別されてきた側にある自分たちが祖父母の世代から伝えられてきたことを、彼女は次のように紹介してくれました。
「わたしたちはお祖母ちゃんやお祖父ちゃんや、そのまた祖父母の世代から、こう教えられてきました。それがどんなに便利で、どんなに一見トクなことのように思えても、7世代先の子どもたちにとってマイナスを生むものを決して選んではいけない、と」
そして、おかしいと思ったことはおかしいと言う権利をわたしたちがもっていること、それを磨かなければならないことを、彼女は穏やかな口調で話してくれました。
確かにそうです。そして人権とは、そういう文化という土壌に花開くものであり、そのためには日々の水やりや日差しにあてることを忘れてはならない、とわたしは考えます。
それが、わたしが自分の人生……というとなんだか大げさですが……や仕事のテーマに人権を選んだ理由のひとつです。
わたしはわたしの人権を誰にも奪われたくないし、踏みにじられたくはない。それは私にとって、「いのち」とほぼイコールで結ばれるものです。
わたしにとってわたしの人権がかけがえのないものであるのと同じように、ほかの誰かの人権が奪われることを、わたしは決して許容することはできません。
わたしがわたしであるためにも、わたしの人権がかけがえのないものであるのと同時に、わたしの人権はわたし以外のひとの「すべてのそれぞれ」の人権と結ばれるものでもあるからです。
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誰かが国籍や人種、セクシュアリティや職業、年代や身体的状態(いわゆる「健常者」か「障がい」と呼ばれるものがあるかどうか。同じく精神的状態がどうか等)。はたまた、お金をたくさん持っているか、少ししか持っていないか。「学歴」などで、選別や差別をされたり、優劣などの等級付けがされない社会。それを基本とした瑞々しい社会と人間関係をわたしは夢見てきました。当然ながら、戦争のない社会もまたその条件に加わります。
40回にあたるこの全国中学生人権作文コンテストで、それぞれの賞を受賞された作品には、より具体的に、より鮮やかに、より自分に引き寄せた人権をテーマにした作品が並んでいます。まずは読んでください。わたしの解説などどうでもいいのです。あなたが感じ取ること、感じ取ったことをより深め、広げ、実践することがなによりも大事なのですから、
松山陽奈さんの『みんなのヒーロー』。バスの乗客全員の意識、「したほうがいいけど、なんとなくいいカッコしいと思われたくないし、億劫という後ずさりする」思いを見事に変えてくれた見知らぬ「おじさん」。素敵です。考えることと、それを実際に行動に移すこととの間には、意外に大きな溝があるものですから。
法務大臣賞の野尻夕珠さんの『かけがえのないもの』。……顔や名前のない感情は暴力になりうるということを伝えてくれる真っすぐなまなざしこそ、社会の重たいドアを拓く鍵です。
ようやく光が当たり始めた選択的夫婦別姓、そしてパートナーとの対等な関係性について言及した『名前』。伝統文化の中にも当然ながらそういった決めつけが残存することを描いた権藤佐和さんの作品。その他、いろいろな角度から人権に光を当てた作品に接して、いま心から思います。大人こそむしろ「あなた」から学びたい、と。
そうです、人の数だけ、「普通」はあるのです。
法務大臣
古川禎久
各賞を受賞された皆さん、おめでとうございます。
また、今回のコンテストに応募してくれた全国の中学生の皆さん、 ありがとうございました。
本作文コンテストは、今回で40回目という節目を迎えました。これまでの応募者の数は、のべ約3千万人に上ります。今回も、約79万2千人の方から応募をいただきました。
御協力をいただきました関係者の皆様にも、心より感謝申し上げます。
入賞作品は、豊かな感性で身の回りの様々な体験を受け止め、それぞれに人権尊重の志をもって真摯に考え抜いたことが表現されており、一つ一つが問題の本質に迫り、読者の心を動かす、すばらしい作品でした。
人類社会は、「人の尊厳」がより重視され、より尊重される社会へと、一歩ずつではありますが、着実に進歩してきました。
「基本的人権の尊重」は、そうした社会を実現するアプローチとして、人類が獲得してきた普遍的な価値の一つです。
こうした普遍的な価値に基づいて、目指すべきは、全ての人が互いに尊重し合い、助け合っていくことのできる「共生」社会の実現です。
次代を担う皆さんが、人権尊重の高い志をもって、この歩みを更に進めてくれるものと確信しています。
昭和56年度から続いてきた全国中学生人権作文コンテストは、中学生の皆さん、御指導いただいた先生方を始め、多くの皆様の御協力を得て、ついに第40回を迎えました。改めて、全ての方々に感謝を申し上げます。
作文を書くことを通じて、中学生の皆さんに人権について深く考えてもらいたい、そしてその作品を読む人たちにも、自分ならどうするかを考えるきっかけにしてもらいたいという関係者の思いが、この大会を支えてきました。
第40回大会の応募作品も、審査ということを忘れて引き込まれてしまうような、素晴らしい作品が多く寄せられました。
作品を読めばきっと、障害のある人と共に生きること、恐怖や不安から生じる差別や偏見の感情を乗り越える心の持ち方、いじめの恐ろしさや被害者の健気さ、何気ない日常に潜む人権問題など、若く瑞々しい感性で描き出された世界に心を動かされずにはいられないと思います。
これまで応募してくれた皆さんがこれからも思索を続け、更に発展させていってくれること、そして、一人でも多くの方に作品をお読みいただけることを願い、全国中学生人権作文コンテストは続いていきます。これからもよろしくお願いいたします。
法務省人権擁護局長
松下裕子
主 催 | 法務省、全国人権擁護委員連合会 |
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後 援 | 文部科学省、一般社団法人日本新聞協会、NHK、公益財団法人日本サッカー協会 |
協賛・協力 | 公益財団法人人権擁護協力会、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 |
上記入賞作品を含む12作品を作文集にまとめました。
入賞作文集や、入賞作品を題材にしたコンテンツを掲載しています。
作文集やコンテンツを通じて、作品に触れてみてください。
入賞作品の中から3作品をアニメーション化して、日常生活の中で「人権」について理解を深めていった気付きのプロセスを描いた映像作品です。アニメーションのほか、本コンテスト中央大会審査員長で作家の落合恵子先生からのメッセージも収録されています。
入賞作品の中から5作品を、俳優の濱田龍臣さんとAKB48の大和田南那さんによる朗読に、アニメーションやイラストを組み合わせて映像化したものです。朗読のほか、本コンテスト中央大会審査員長で作家の落合恵子先生からのメッセージも収録されています。
入賞作品の中から3作品を原案として、作者の中学生が人権について考えを深めていく過程をドラマ化した映像作品です。