Q3~Q15 「法定後見制度について」

Q3:法定後見制度とは、どんな制度ですか?

本人の判断能力の程度に応じて、「後見」、「保佐」、「補助」の3つの制度が用意されています。「後見」、「保佐」、「補助」の主な違いは、次の表のとおりです。

  後見 保佐 補助
対象となる方 判断能力が欠けているのが通常の状態の方 判断能力が著しく不十分な方 判断能力が不十分な方
申立てをすることができる方 本人、配偶者、四親等内の親族、検察官、市町村長など(注1)
成年後見人等の同意が必要な行為 (注2) 民法13条1項所定の行為(注3)(注4)(注5) 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」(民法13条1項所定の行為の一部)(注1)(注3)(注5)
取消しが可能な行為 日常生活に関する行為以外の行為(注2) 同上(注3)(注4)(注5) 同上(注3)(注5)
成年後見人等に与えられる代理権の範囲 財産に関するすべての法律行為 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」(注3) 同左(注3)
(注1)
本人以外の方の申立てにより、保佐人に代理権を与える審判をする場合、本人の同意が必要になります。補助開始の審判や補助人に同意権・代理権を与える審判をする場合も同じです。
(注2)
成年被後見人が契約等の法律行為(日常生活に関する行為を除きます。)をした場合には、仮に成年後見人の同意があったとしても、後で取り消すことができます。
(注3)
民法13条1項では、借金、訴訟行為、相続の承認・放棄、新築・改築・増築などの行為が挙げられています。
(注4)
家庭裁判所の審判により、民法13条1項所定の行為以外についても、同意権・取消権の範囲とすることができます。
(注5)
日用品の購入など日常生活に関する行為は除かれます。

Q4:「後見」制度とは、どんな制度ですか?

精神上の障害(認知症・知的障害・精神障害など)により、判断能力が欠けているのが通常の状態にある方を保護・支援するための制度です。この制度を利用すると、家庭裁判所が選任した成年後見人が、本人の利益を考えながら、本人を代理して契約などの法律行為をしたり、本人または成年後見人が、本人がした不利益な法律行為を後から取り消すことができます。ただし、自己決定の尊重の観点から、日用品(食料品や衣料品等)の購入など「日常生活に関する行為」については、取消しの対象になりません(Q3をご参照下さい。)。

Q5:「後見」制度を利用した事例を教えてください。

次のような事例があります。

○後見開始事例
ア 本人の状況:統合失調症
イ 申立人:叔母
ウ 成年後見人:司法書士

エ 概要

本人は2年前に統合失調症を発症し、半年前から幻覚や妄想等の症状が悪化したため、入院しています。本人の家族構成は母一人子一人であったところ、その母が2か月前に死亡しました。唯一の親族である叔母は、引き続き本人が生活に必要な医療や福祉サービスを受けられるようにしたり、本人が亡母から相続した自宅の登記手続や自動車の処分等を行えるようにしたりするため、後見開始の審判の申立てをしました。

家庭裁判所の審理を経て、本人について後見が開始されました。そして、叔母は遠方に居住していることから成年後見人になることは困難であり、後見事務として、不動産の登記手続等が想定されたことから、司法書士が成年後見人に選任されました。

本人は、退院後は住み慣れた自宅で引き続き生活をしたいという意向を有していたため、成年後見人は、その意向を尊重し、自宅は売却せずに、維持費のかかる自動車だけを売却することにしました。

Q6:「保佐」制度とは、どんな制度ですか?

精神上の障害(認知症・知的障害・精神障害など)により、判断能力が著しく不十分な方を保護・支援するための制度です。この制度を利用すると、お金を借りたり、保証人となったり、不動産を売買するなど法律で定められた一定の行為について、家庭裁判所が選任した保佐人の同意を得ることが必要になります。保佐人の同意を得ないでした行為については、本人または保佐人が後から取り消すことができます。ただし、自己決定の尊重の観点から、日用品(食料品や衣料品等)の購入など「日常生活に関する行為」については、保佐人の同意は必要なく、取消しの対象にもなりません。また、家庭裁判所の審判によって、保佐人の同意権・取消権の範囲を広げたり、特定の法律行為について保佐人に代理権を与えることもできます(※)。

 保佐人の同意権・取消権の範囲を広げたり、保佐人に代理権を与えるためには、自己決定の尊重から、当事者が、同意権等や代理権による保護が必要な行為の範囲を特定して、審判の申立てをしなければなりません。また、保佐人に代理権を与えることについては、本人も同意している必要があります。この申立ては、保佐開始の審判の申立てとは別のものです。

Q7:「保佐」制度を利用した事例を教えてください。

次のような事例があります。

○保佐開始事例
ア 本人の状況:中程度の認知症の症状
イ 申立人:長男
ウ 保佐人:申立人

エ 概要

本人は1年前に夫を亡くしてから一人暮らしをしていました。以前から物忘れが見られましたが、最近症状が進み、買物の際に1万円札を出したか5千円札を出したか、分からなくなることが多くなり、日常生活に支障が出てきたため、長男家族と同居することになりました。隣県に住む長男は、本人が住んでいた自宅が老朽化しているため、この際自宅の土地、建物を売りたいと考えて、保佐開始の審判の申立てをし、併せて土地、建物を売却することについて代理権付与の審判の申立てをしました。

家庭裁判所の審理を経て、本人について保佐が開始され、長男が保佐人に選任されました。長男は、家庭裁判所から居住用不動産の処分についての許可の審判を受け、本人の自宅を売却する手続を進めることができました。

Q8:「補助」制度とは、どんな制度ですか?

軽度の精神上の障害(認知症・知的障害・精神障害など)により、判断能力の不十分な方を保護・支援するための制度です。この制度を利用すると、家庭裁判所の審判によって、特定の法律行為について、家庭裁判所が選任した補助人に同意権・取消権や代理権を与えることができます(※)。ただし、自己決定の尊重の観点から、日用品(食料品や衣料品等)の購入など「日常生活に関する行為」については、補助人の同意は必要なく、取消しの対象にもなりません。

 補助人に同意権や代理権を与えるためには、自己決定の尊重の観点から、当事者が、同意権や代理権による保護が必要な行為の範囲を特定して、審判の申立てをしなければなりません。この申立ては、補助開始の審判とは別のものです。なお、補助に関するこれらの審判は、本人自らが申し立てるか、本人が同意している必要があります。

Q9:「補助」制度を利用した事例を教えてください。

次のような事例があります。

○補助開始事例
ア 本人の状況:軽度の認知症の症状
イ 申立人:長男
ウ 補助人:申立人

エ 概要

本人は、最近米を研がずに炊いてしまうなど、家事の失敗がみられるようになり、また、貸金業者からの借金を繰り返すようになりました。困った長男が家庭裁判所に補助開始の審判の申立てをし、併せて本人が他人からお金を借りたり、他人の借金の保証人となることについて同意権付与の審判の申立てをしました。

家庭裁判所の審理を経て、本人について補助が開始され、長男が補助人に選任されて同意権が与えられました。その結果、本人が長男に断りなく貸金業者から借金をしたような場合には、長男がその契約を取り消すことができるようになりました。

Q10:成年後見人等には、どのような人が選ばれるのでしょうか?

成年後見人等は、本人のためにどのような保護・支援が必要かなどの事情に応じて、家庭裁判所が選任することになります。本人の親族以外にも、法律・福祉の専門家その他の第三者や、福祉関係の公益法人その他の法人が選ばれる場合があります。成年後見人等を複数選ぶことも可能です。また、成年後見人等を監督する成年後見監督人などが選ばれることもあります。

なお、後見開始等の審判を申し立てた人において特定の人が成年後見人等に選ばれることを希望していた場合であっても、家庭裁判所が希望どおりの人を成年後見人等に選任するとは限りません。希望に沿わない人が成年後見人等に選任された場合であっても、そのことを理由に後見開始等の審判に対して不服申立てをすることはできませんので、ご注意ください。

Q11:成年後見人等の役割は何ですか?

成年後見人等は、本人の生活・医療・介護・福祉など、本人の身のまわりの事柄にも目を配りながら本人を保護・支援します。具体的には、本人の不動産や預貯金などの財産を管理したり、本人の希望や体の状態、生活の様子等を考慮して、必要な福祉サービスや医療が受けられるよう、介護契約の締結や医療費の支払などを行ったりします。もっとも、食事の世話や実際の介護などは、一般に成年後見人等の職務ではありません。

また、成年後見人等はその事務について家庭裁判所に報告するなどして、家庭裁判所の監督を受けることになります。

Q12:親族以外の第三者が成年後見人に選任された事例を教えてください。

次のような事例があります。

○親族以外の第三者が成年後見人に選任された事例
ア 本人の状況:統合失調症
イ 申立人:叔母
ウ 成年後見人:司法書士
エ 成年後見監督人:公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート

オ 概要

本人は20年前に統合失調症を発症し、15年前から入院していますが、徐々に知的能力が低下しています。また、障害認定1級を受け障害年金から医療費が支出されています。本人は母一人子一人でしたが、母が半年前に死亡したため、親族は母方叔母がいるのみです。亡母が残した自宅やアパートを相続し、その管理を行う必要があるため、母方叔母は後見開始の審判の申立てを行いました。

家庭裁判所の審理を経て、本人について後見が開始されました。そして、母方叔母は、遠方に居住していることから成年後見人になることは困難であり、主たる後見事務は、不動産の登記手続とその管理であることから、司法書士が成年後見人に選任され、併せて公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートが成年後見監督人に選任されました。


ア 本人の状況:重度の知的障害
イ 申立人 母
ウ 成年後見人:社会福祉士

エ 概要

本人は、一人っ子で生来の重度の知的障害があり、長年母と暮らしており、母は本人の障害年金を事実上受領し、本人の世話をしていました。ところが、母が脳卒中で倒れて半身不随となり回復する見込みがなくなったことから、本人を施設に入所させる必要が生じました。

そこで、本人の財産管理と身上監護に関する事務を第三者に委ねるために後見開始の審判を申し立てました。

家庭裁判所の審理を経て、本人について後見が開始されました。そして、本人の財産と将来相続すべき財産はわずかであり、主たる後見事務は、本人が今後どのような施設で生活することが適切かといった身上監護の面にあることから、社会福祉士が成年後見人に選任されました。

Q13:複数の成年後見人が選任された事例を教えてください。

次のような事例があります。

○複数の成年後見人が選任された事例
ア 本人の状況:重度の認知症の症状
イ 申立人:長男
ウ 成年後見人:申立人と本人の二女

エ 概要

本人は夫を亡くした後、一人暮らしをしてきましたが、約10年前から徐々に認知症の症状が現れ、3か月前から入院しています。最近では見舞いに訪れた申立人を亡夫と間違えるほど症状は重くなる一方です。本人の入院費用の支払に充てるため、本人の預貯金を払い戻す必要があり、後見開始の審判が申し立てられました。

家庭裁判所の審理の結果、本人について後見が開始されました。そして、近隣に住んでいる長男と二女が、本人が入院する前に共同して身のまわりの世話を行っていたことから、長男と二女が成年後見人に選任され、特に事務分担は定められませんでした。


ア 本人の状況:くも膜下出血による植物状態
イ 申立人:妻
ウ 成年後見人:申立人と弁護士

エ 概要

2年前に本人はくも膜下出血で倒れ意識が戻りません。妻は病弱ながら夫の治療費の支払いや身のまわりのことを何とかこなしていました。しかし、本人の父が亡くなり、遺産分割協議の必要が生じたため、後見開始の審判を申し立てました。

家庭裁判所の審理の結果、本人について後見が開始されました。そして、妻は、子どもと離れて暮らしており、親族にも頼る者がいないため、遺産分割協議や夫の財産管理を一人で行うことに不安があったことから、妻と弁護士が成年後見人に選任され、妻が夫の身上監護に関する事務を担当し、弁護士が遺産分割協議や財産管理に関する事務を担当することになりました。

Q14:成年後見の申立てをする方がいない場合は、どうすればよいのでしょうか?

身寄りがないなどの理由で、申立てをする方がいない認知症の高齢者、知的障害者、精神障害者の方の保護・支援を図るため、市町村長等に法定後見(後見・保佐・補助)の開始の審判の申立権が与えられています。

Q15:市町村長が後見開始の審判の申立てを行った事例を教えてください。

次のような事例があります。

○市町村長が後見開始の審判を申し立てた事例
ア 本人の状況:知的障害
イ 申立人:町長
ウ 成年後見人:司法書士

エ 概要

本人には重度の知的障害があり、現在は特別養護老人ホームに入所しています。本人は、長年障害年金を受け取ってきたことから多額の預貯金があり、その管理をする必要があるとともに、介護保険制度の施行にともない、特別養護老人ホームの入所手続を措置から契約へ変更する必要があります。本人にはすでに身寄りがなく、本人との契約締結が難しいことから、町長が知的障害者福祉法の規定に基づき、後見開始の審判の申立てをしました。

家庭裁判所の審理の結果、本人について後見が開始され、司法書士が成年後見人に選任されました。

その結果、成年後見人は介護保険契約を締結し、これに基づき、特別養護老人ホーム入所契約のほか、各種介護サービスについて契約を締結し、本人はさまざまなサービスを受けられるようになりました。
(注)最高裁判所「成年後見関係事件の概況」から

成年後見制度についてわからないことがありましたら、下記までお問い合わせください。

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