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第2節 広報・啓発活動の推進等

第2節 広報・啓発活動の推進等
1 再犯防止に関する広報・啓発活動の推進

(1)啓発事業等の実施【施策番号101】

 法務省は、国民の間に広く再犯の防止等についての関心と理解を深めるため、再犯防止啓発月間である7月を中心に、積極的な広報・啓発活動を展開している。2019年度(令和元年度)は、そのメインイベントとして、「依存の問題を抱える犯罪をした者等への支援の在り方」をテーマに、中央(東京都内)で再犯防止シンポジウムを開催し、依存症からの回復を支える上での課題等について、依存症当事者を支える活動を行っている保健医療・福祉関係の専門家等によるパネルディスカッション等を行った(写真6-101-1参照)。また、全国8ブロックにおいても、同テーマで、それぞれの地域の課題等を踏まえたシンポジウムを開催し、中央での開催分も含め、合計で約4,800人の参加を得た。

写真6-101-1 令和元年度再犯防止シンポジウムの様子
写真6-101-1 令和元年度再犯防止シンポジウムの様子

 また、法務省は、「“社会を明るくする運動”~犯罪や非行を防止し、立ち直りを支える地域のチカラ~」を主唱している。この運動は、全ての国民が、犯罪や非行の防止と罪を犯した人たちの更生について理解を深め、それぞれの立場において力を合わせ、犯罪や非行のない安全で安心な明るい地域社会を築くための全国的な運動である。2014年(平成26年)12月に犯罪対策閣僚会議において決定した「宣言:犯罪に戻らない・戻さない」において、全ての省庁を本運動の中央推進委員会の構成員にするとともに、2015年(平成27年)からは、毎年、国民の理解を求める内閣総理大臣メッセージを発出する等、政府全体の取組としてその重要性が高まっている。再犯防止啓発月間である7月は、本運動の強調月間でもあり、全国各地において、運動の推進に当たっての内閣総理大臣メッセージや、ポスター等の広報啓発資材を活用し、地方公共団体や関係機関・団体と連携して、国民に対して広く広報啓発を行っている。

 2019年に実施した第69回“社会を明るくする運動”では、全国で7万3,880回の行事が実施され、延べ296万9,544人が参加した。同運動では、地域の実情に応じて、特色ある広報・啓発活動が行われ、若年層を始めとする幅広い年齢層の方々にとって身近で親しみの持てるような広報を展開するため、更生保護マスコットキャラクターである「ホゴちゃん」の活用、吉本興業株式会社と連携した広報・啓発活動、ソーシャルネットワーキングサービス等の多様な媒体を用いた広報等が行われた(資6-101-1参照)。

資6-101-1 第69回“社会を明るくする運動”ポスター
資6-101-1 第69回“社会を明るくする運動”ポスター

 法務省の人権擁護機関では、刑を終えて出所した人に対する偏見・差別をなくし、社会復帰に資するよう、「刑を終えて出所した人に対する偏見や差別をなくそう」を強調事項の一つとして掲げ、人権啓発冊子等の配布等、各種人権啓発活動を実施している。

 なお、法務局・地方法務局又はその支局や特設の人権相談所において人権相談に応じている。人権相談等で、刑を終えた人に対する差別等の人権侵害の疑いのある事案を認知した場合は、人権侵犯事件として調査を行い、事案に応じた適切な措置を講じている。

 検察庁において、学生や一般の方々を対象に実施する広報活動等において、検察庁における再犯防止・社会復帰支援に関する取組を説明するなど、再犯防止に関する広報・啓発活動を推進している。

Column10 歴史ある“社会を明るくする運動” ・・・これからも地域社会とともに・・・

 法務省が主唱する“社会を明るくする運動”~犯罪や非行を防止し、立ち直りを支える地域のチカラ~の起源は、戦後間もない1949年(昭和24年)にまで遡ります。本運動は、戦後の荒廃した社会の中で犯罪や非行の増加を憂いた東京・銀座の商店街有志が、同年7月1日に施行された犯罪者予防更生法(更生保護制度の当時の基本的な法律)の理念に賛同し、自発的に同月13日から1週間にわたって「犯罪者予防更生法実施記念フェアー(銀座フェアー)」を実施したことが始まりと言われています。翌1950年(昭和25年)には、犯罪者予防更生法施行1周年記念として、「矯正保護キャンペーン」が同年7月1日から10日間全国的に実施されました。犯罪や非行の防止と犯罪や非行をした人たちの立ち直り支援には、一般市民の理解と協力が不可欠であるとして、法務府(現法務省)は、1951年(昭和26年)にこれらの活動を「社会を明るくする運動」と名付け、全国に広めることとしました。

法務省前を出発する“社会を明るくする運動”バスパレードの様子(昭和32年7月31日)【写真提供:法務省】

 その後、1954年(昭和29年)からは1951年(昭和26年)の運動を第1回目として回数を表示するようになり、1963年(昭和38年)からは重点目標を設定(2019年(平成31年)まで)、1971年(昭和46年)からは「ひまわり」を本運動のシンボルマークとし、さらに、1993年(平成5年)からは小中学生を対象とした作文コンテストを実施するなど、時代の移り変わりに応じて広報活動の手法を変えながら現在に至るまで展開されてきました。本運動は、まさに戦後の日本の歩みとともに歴史を重ねてきたと言えます。

 この10年を振り返ると、2010年(平成22年)の第60回運動から、本運動の趣旨をより分かりやすくするため、副題「犯罪や非行を防止し、立ち直りを支える地域のチカラ」を設定するとともに、音楽家である谷村新司さんに本運動の「フラッグアーティスト」に就任していただき、現在に至るまで本運動の推進に御協力をいただいています(谷村新司さんの活動については、令和元年版本白書のコラム9(P124)を御参照ください。)。

 また、地域においては、犯罪や非行のない明るい地域社会の実現を目指し、その実情に応じて、住民集会、非行防止教室、親子の触れ合いを目的としたワークショップの開催など、地域の方々が参加できる様々な活動が展開されています。

 このような歴史を積み重ねて本運動は、2020年(令和2年)、第70回の節目を迎えました。2019年(令和元年)に開催された更生保護制度施行70周年記念全国大会において「広がり、つながる更生保護」が理念とされた趣旨を踏まえ、今回の運動からは、より広く国民の皆様に参加していただけるよう、実施要綱において、「この運動が目指すこと」及び「この運動において力を入れて取り組むこと」を明らかにしました。どなたにも主体となって関わっていただくことができるよう、一人一人にとって、身近なことからどのような関わりの方法があるのか、より分かりやすい表現で示しています。

 今回の運動は、新型コロナウイルス感染症をめぐる状況を踏まえ、SNSやマスメディア等を積極的に活用するなどし、「広がり、つながる未来の輪」をキャッチコピーに、全国各地で展開されています。SNS等による情報の発信、閲覧、拡散によって、立ち直ろうとする人、立ち直りを支える人、そして地域の人とのつながりを深める、新たな運動の形を目指していきます。法務省は、犯罪や非行のない安全安心で誰もが住みやすい地域社会を築き、それを次世代にもつなげていくため、引き続き、時代の変化に合わせて本運動を一層推進してまいります。皆様におかれましても、犯罪や非行をした人たちへの立ち直り支援について、今できることから始めてみませんか。

法務省保護局公式Instagram、法務省保護局公式Twitter、法務省ホームページqr

(2)法教育の充実【施策番号102】

 法務省は、法律専門家ではない一般の人々が、法や司法制度、これらの基礎となっている価値を理解し、法的なものの考え方を身に付けるための教育(法教育)を推進している。法教育の実践は自他の権利・自由の相互尊重のルールである法の意義やこれを守る重要性を理解させ、規範意識をかん養することを通じて再犯防止に寄与するものである。

 法教育の普及・啓発に向けた取組としては、学習指導要領を踏まえた、学校教育における法教育の実践の在り方や教育関係者と法曹関係者による連携・協働の在り方等について多角的な視点から検討を行うため、法教育推進協議会を開催している(2019年度(令和元年度)は18回開催。教材作成部会を含む。)。

 また、法教育の具体的内容及びその実践方法をより分かりやすくするため、発達段階に応じた法教育教材を作成している。2017年度(平成29年度)には小学生向け法教育視聴覚教材を、2018年度(平成30年度)には中学生向け法教育視聴覚教材及び高校生向け法教育教材を作成し、全国の小中学校、高等学校、教育委員会等に配布したほか、これらの教材の利用促進を図るため、教材を活用したモデル授業例を法務省ウェブサイトで公開している。

 このほか、法教育の担い手である教員が法教育の具体的な実践方法を習得することを通じて法教育の推進を図るため、2019年度には、教員向け法教育セミナーを実施した。

 さらに、学校現場等に法教育情報を提供することによって、法教育の積極的な実践を後押しするため、法教育に関するリーフレット(資6-102-1 参照)を作成し、全国の教育委員会等に配布しているほか、学校や各種団体からの要請に応じて、法務省の職員を講師として派遣し、教員、児童・生徒や、一般の人々に対して法的なものの考え方等について説明する法教育授業を実施している。

資6-102-1 法教育に関するリーフレット
資6-102-1 法教育に関するリーフレット

 具体的には、少年鑑別所において、2015年(平成27年)の少年鑑別所法施行後、地域援助として、教員研修において少年院・少年鑑別所に関する内容を始めとする少年保護手続等について講義を行うほか、参観の機会等を利用して少年鑑別所の業務等について説明を行うなどの法教育を行っている。主な内容としては、「少年保護手続の仕組み」、「特定の非行・犯罪の防止(薬物・窃盗・暴力等)」、「生活態度・友達づきあい」、「児童・生徒の行動理解及び指導方法」等であり、2019年度には、約930回、延べ約5万8,000人に対して法教育を実施した。

 保護観察所において、学校との連携を進める中で又は広報の一環として、保護観察官や保護司が学校等に赴いて、更生保護制度等に関する説明を行うなどの法教育を実施しており、2019年度中には、約200回、延べ約1万7,000人に対して法教育を実施した。

 検察庁において、学生や一般の方々に対し、刑事司法制度等に関する講義や説明等を実施するなどし、法教育を推進している。