再犯防止推進白書ロゴ

第1節 民間協力者の活動の促進等

5 民間協力者との連携の強化

(1)適切な役割分担による効果的な連携体制の構築【施策番号98】

 法務省は、矯正施設では、在所者と面接し、専門的知識や経験に基づいて相談、助言及び指導等を行う篤志面接委員※12や在所者の希望に基づいて宗教上の儀式行事及び教誨を行う教誨師※13、保護観察所では、保護観察官と協働で保護観察及び生活環境の調整を行う保護司等、多くの民間協力者(コラム8参照)の協力を得て、犯罪をした者等の処遇を行っている。

 矯正施設において、篤志面接委員及び教誨師と連携し、2019年(令和元年)は、篤志面接委員が1万8,492件の面接・指導を、教誨師が1万7,699件の教誨を実施した。

 保護観察所において、保護観察及び生活環境の調整を行うに当たり、保護観察官及び保護司の協働態勢を基本とし、保護司に過度な負担がかからないよう、保護観察官は医学、心理学、教育学、社会学、その他の更生保護に関する専門的知識をいかし、保護観察の実施計画の策定、保護観察対象者の動機付け、処遇困難な保護観察対象者に対する直接的な指導監督や専門的処遇プログラム等を実施し、保護司は地域事情に通じているといった特色をいかし保護観察対象者と定期的に面接し、生活状況の把握や日常的な指導・助言を行うなど適切な役割分担を行っている。また、保護司の負担を軽減するため、保護観察又は生活環境の調整の実施上特に必要な場合には、複数の保護司で事件を担当する保護司の複数担当制を導入している。2019年度は、保護観察で645件、生活環境の調整で552件の複数担当を実施した。

 検察庁において、地域の実情に応じて、弁護士会との間で協議会等を開催するなどし、再犯の防止等のための連携体制を強化している。

(2)犯罪をした者等に関する情報提供【施策番号99】

 法務省及び検察庁は、民間協力者に対して、地域の実情に応じ、犯罪をした者等に対して実施した指導・支援等に関する情報その他民間協力者が行う支援等に有益と思われる情報について、個人情報等の適切な取扱いに十分配慮しつつ、適切に情報提供を行っている。

 保護観察所において、継続的に保護観察対象者等の指導や支援を行う保護司や更生保護施設職員、自立準備ホームの職員等に対し、生活環境の調整の段階から保護観察期間を通して、個人情報の適切な取扱いに十分配慮しつつ、保護観察対象者等に関する必要な情報を提供している。

 また、BBS会員に保護観察対象者に対する「ともだち活動」を依頼するなど、民間協力者に一時的な支援を依頼するときも、保護観察対象者等の情報を提供することが必要と認められる場合には、当該情報の取扱いに十分配慮しつつ、必要かつ相当な範囲で適切に提供している。さらに、民間協力者に対する研修等を通じて、保護観察対象者等の個人情報が適切に取り扱われるよう周知徹底を図っている。

(3)犯罪をした者等の支援に関する知見等の提供・共有【施策番号100】

 法務省及び検察庁は、民間協力者を対象に実施する研修等(【施策番号114】参照)において、犯罪をした者等の支援に関する知見等を提供している。

 矯正施設職員は、全国篤志面接委員連盟や全国教誨師連盟が主催する研修会等で講話等を行い、矯正施設在所者の処遇に関する知見等を提供している。また、教育委員会等からの依頼に基づき、学校教員等に対して、少年院職員による児童・生徒の行動理解及び指導方法に関する内容の講演、研修講義等を実施している。

 少年鑑別所において、2015年(平成27年)の少年鑑別所法施行後、地域援助として、地域における関係機関・団体からの依頼に応じて、臨床心理学等の専門的な知識を有する職員を学校、各種機関・団体の主催する研修会、講演会等に派遣し、非行や子育てについての講話や、青少年に対する教育・指導方法についての助言を行っている。主な内容としては、「最近の少年非行の特徴」、「思春期の子どもの心理と接し方」、「非行防止のための家庭の役割」等で、2019年(令和元年)は1,512件の講演・研修会を実施した。

 更生保護官署職員は、保護司、更生保護女性会員及びBBS会員等の更生保護ボランティアを対象とする研修において、犯罪をした者等の支援に関する知見を提供し、民間協力者による効果的な支援が行われるよう働き掛けている。2019年度においては、2018年度(平成30年度)に引き続き刑の一部の執行を猶予された薬物依存を有する保護観察対象者が増加傾向にあるため、保護司に対する研修等の機会を通じて、薬物依存を有する保護観察対象者等の処遇に関する知見等を提供した。

 さらに、経験豊かな保護観察官等が講師となって、比較的経験年数の少ない更生保護施設の職員を対象に、犯罪をした者等の処遇に関する基礎的知識の習得等を目的とした研修を実施している。加えて、更生保護施設の新任施設長を対象に、業務の管理、入所者の自立に向けた処遇の企画、職員の統括及び地域社会との調整に必要な知識等を得ること等を目的とした研修をそれぞれ実施している。犯罪をした者等の就労支援を行っている就労支援事業者機構(【施策番号7】参照)が行う協議会の参加者や社会福祉法人等の民間協力者に対しては、更生保護官署職員や検察庁職員が、最近の施策や就労支援を始めとする再犯防止・社会復帰支援に関する取組を説明するなどし、犯罪をした者等の支援に関する知見等を提供・共有している。

 なお、法務総合研究所は、毎年の犯罪白書において、再犯・再非行の概況を基礎的データとして示すとともに、2017年(平成29年)版犯罪白書においては、「更生を支援する地域のネットワーク」を特集し、再犯防止に向け、官民一体となった地域のネットワークを構築するための基礎資料を提供した。また、同白書全文を法務省ウェブサイト(http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/64/nfm/mokuji.html)で公開し、広く知見等の共有を図った。

Column9 トップアスリートたちが少年院に訪問!~HEROs更生支援プロジェクト~トップアスリートたちが少年院に訪問qr


日本財団 HEROsプロジェクト
経営企画広報部 部長

長谷川 隆治

 2019年(令和元年)9月、ボクシングWBAミドル級チャンピオンでロンドンオリンピック金メダリストの村田諒太選手が千葉県にある八街少年院を訪問し、世界王者になるまでの自身の経験について、挫折経験等を交えながら講演した。

 「ボクシングは負けてもリ・マッチに勝てばひっくり返せる。人生も長く続いていく。自分次第でいくらでもリ・マッチはできる。みんなも人生のリ・マッチに勝ってほしい。」講演の中で、村田選手は自身の経験から、院生たちの再チャレンジを鼓舞した。

 アスリートによる少年院の訪問は、日本財団によるプロジェクト「HEROs ~Sportsmanship for the future~(以下HEROs)」の一環として進められている。日本財団はモーターボートレースの収益金の一部や、多くの方からの寄付を原資に様々な社会問題の改善に取り組んでいるが、HEROsはアスリートが社会貢献活動を行うことで、スポーツでつながる多くのファンの関心や行動を生み出し、社会課題解決の輪を広げていくために2017年(平成29年)から始まったプロジェクトである。

 日本財団と法務省とは2013年(平成25年)から再犯防止を目的とした「職親プロジェクト」で協働してきたが、「少年院生の再非行を防ぐため、アスリートの力を貸してもらいたい」という法務省矯正局の依頼に、HEROsのアンバサダーを務める村田諒太選手が応じる形で、2018年(平成30年)に多摩少年院で講演したことがきっかけとなり活動がスタートした。

 村田選手は継続的な活動を約束し、先の八街少年院の訪問を行った。それだけにとどまらず、村田選手はHEROsでつながる他のアスリートたちにも協力を呼びかけ、元ハンドボール日本代表キャプテンの東俊介さんは出身地である石川県の湖南学院を2019年10月に訪問、そしてプロサーファーのアンジェラ・磨紀・バーノンさんも同年8月と同年10月の2回にわたり群馬県の榛名女子学園を訪問するなど、活動の広がりを見せている。東さんは院生と夢を語り合い、アンジェラさんは院生と一緒にヨガを行うなど、アスリートごとに個性を生かした関わりを通じて、院生たちの立ち直りを応援した。

 トップアスリートたちはスポーツに夢中になり、努力を重ねた経験を持っている。成績が伸び悩んだり、敗北を経験したり、大きな怪我をしたりといった挫折を乗り越えてきている。その上、選手生命は短く、若いうちに引退と向き合い、次なる人生に挑戦していく。こうした特別な経験を持つアスリートの力が発揮されるのは、競技場の中だけではない。いまやアスリートたちはスタジアムやアリーナを飛び出して、社会の中でその力を発揮し始めている。

 我が国では社会貢献は特別な人がやること、といったイメージがまだまだ強いが、社会課題が山積する中、一人一人ができることで助け合う必要があることは言うまでもない。日本財団HEROsはアスリートたちの経験やアイデアを生かした、新しい、楽しい社会貢献活動を実践していくことで、ファンやメディアを巻き込んで、社会課題への関心や行動を広げていくことを目指している。

 始まったばかりの少年院訪問だが、アスリートたちのモチベーションは非常に高い。今後も法務省の御協力を得ながら、少年院の若者たちの再チャレンジに役立てるよう継続していきたい。

少年と村田選手がボクシングで交流【写真提供:日本財団】
村田選手による講話【写真提供:日本財団】
  1. ※12 篤志面接委員
    矯正施設在所者と面接し、専門的知識や経験に基づいて相談、助言及び指導等を行うボランティアであり、2019年12月現在の篤志面接委員数は1,452人である。
  2. ※13 教誨師
    矯正施設在所者の希望に基づき宗教上の儀式行事及び教誨を行うボランティアであり、2019年12月現在の教誨師数は1,953人である。