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2.再犯防止推進計画(平成29年12月15日閣議決定)

2.再犯防止推進計画(平成29年12月15日閣議決定)
I 再犯防止推進計画策定の目的

第1 再犯防止のための諸施策における再犯防止推進計画の位置付け

〔再犯の現状と再犯防止対策の必要性・重要性〕

 我が国の刑法犯の認知件数は平成8年以降毎年戦後最多を記録し、平成14年にピークを迎えた。これを受け、政府は国民の安全・安心な暮らしを守るべく、平成15年に犯罪対策閣僚会議を設置し、主に犯罪の抑止を喫緊の課題として様々な取組を進めた。その結果、平成15年以降刑法犯の認知件数は14年連続で減少し、平成28年は戦後最少となった。

 他方で、刑法犯により検挙された再犯者については、平成18年をピークとして、その後は漸減状態にあるものの、それを上回るペースで初犯者の人員も減少し続けているため、検挙人員に占める再犯者の人員の比率(以下「再犯者率」という。)は一貫して上昇し続け、平成28年には現在と同様の統計を取り始めた昭和47年以降最も高い48.7パーセントとなった。

 平成19年版犯罪白書は、戦後約60年間にわたる犯歴記録の分析結果等を基に、全検挙者のうちの約3割に当たる再犯者によって約6割の犯罪が行われていること、再犯者による罪は窃盗、傷害及び覚せい剤取締法違反が多いこと、刑事司法関係機関がそれぞれ再犯防止という刑事政策上の目的を強く意識し、相互に連携して職務を遂行することはもとより、就労、教育、保健医療・福祉等関係機関や民間団体等とも密接に連携する必要があること、犯罪者の更生に対する国民や地域社会の理解を促進していく必要があることを示し、国民が安全・安心に暮らすことができる社会の実現の観点から、再犯防止対策を推進する必要性と重要性を指摘した。

〔政府におけるこれまでの再犯防止に向けた取組〕

 再犯防止対策の必要性・重要性が認識されるようになったことを受け、平成24年7月には、再犯の防止は政府一丸となって取り組むべき喫緊の課題という認識の下、犯罪対策閣僚会議において、我が国の刑事政策に初めて数値目標を盛り込んだ「再犯防止に向けた総合対策」(以下「総合対策」という。)を決定した。総合対策においては、「出所等した年を含む2年間における刑務所等に再入所する者の割合(以下「2年以内再入率」という。)を平成33年までに20パーセント以上減少させる。」という数値目標を設定した。

 平成25年12月には、平成32年(2020年)のオリンピック・パラリンピック東京大会の開催に向け、犯罪の繰り返しを食い止める再犯防止対策の推進も盛り込んだ「「世界一安全な日本」創造戦略」を閣議決定した。

 平成26年12月には、犯罪対策閣僚会議において、「宣言:犯罪に戻らない・戻さない~立ち直りをみんなで支える明るい社会へ~」(以下「宣言」という。)を決定した。宣言においては、「平成32年(2020年)までに、犯罪や非行をした者の事情を理解した上で雇用している企業の数を現在(平成26年)の3倍にする。」、「平成32年(2020年)までに、帰るべき場所がないまま刑務所から社会に戻る者の数を3割以上減少させる。」という数値目標を設定した。

 平成28年7月には、犯罪対策閣僚会議において、薬物依存者や犯罪をした高齢者又は障害のある者等に対して刑事司法のあらゆる段階のみならず、刑事司法手続終了後を含めた「息の長い」支援の実施を盛り込んだ「薬物依存者・高齢犯罪者等の再犯防止緊急対策~立ち直りに向けた“息の長い”支援につながるネットワーク構築~」(以下「緊急対策」という。)を決定した。

 さらに、国民の安全と安心を確保することは、我が国の経済活性化の基盤であるとの観点から、平成17年6月に閣議決定した「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005」(いわゆる「骨太の方針」)に、初めて「再犯の防止」を盛り込んで以降、「骨太の方針2017」まで継続して「再犯防止対策」を盛り込んできた。

 こうした取組により、「総合対策」及び「宣言」において設定された各数値目標の達成は道半ばではあるものの、2年以内再入率が減少するなど、相当の成果が認められた。

〔再犯防止に向けた取組の課題〕

 再犯の防止等のためには、犯罪等を未然に防止する取組を着実に実施することに加え、捜査・公判を適切に運用することを通じて適正な科刑を実現することはもとより、犯罪をした者等が、犯罪の責任等を自覚すること及び犯罪被害者の心情等を理解すること並びに自ら社会復帰のために努力することが重要であることはいうまでもない。刑事司法関係機関はこれらを支える取組を実施してきたが、刑事司法関係機関による取組のみではその内容や範囲に限界が生じている。こうした中、貧困や疾病、嗜癖、障害、厳しい生育環境、不十分な学歴など様々な生きづらさを抱える犯罪をした者等が地域社会で孤立しないための「息の長い」支援等刑事司法関係機関のみによる取組を超えた政府・地方公共団体・民間協力者が一丸となった取組を実施する必要性が指摘されるようになった。これを受け、最良の刑事政策としての最良の社会政策を実施すべく、これまでの刑事司法関係機関による取組を真摯に見直すことはもとより、国、地方公共団体、再犯の防止等に関する活動を行う民間の団体その他の関係者が緊密に連携協力して総合的に施策を講じることが課題として認識されるようになった。また、再犯の防止等に関する取組は、平成32年(2020年)に我が国において開催される第14回国際連合犯罪防止刑事司法会議(コングレス)の重要論点の一つとして位置付けられるなど、国際社会においても重要な課題として認識されている。

〔再犯の防止等の推進に関する法律の制定と再犯防止推進計画の策定〕

 そのような中、平成28年12月、再犯の防止等に関する国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに、再犯の防止等に関する施策を総合的かつ計画的に推進していく基本事項を示した「再犯の防止等の推進に関する法律」(平成28年法律第104号、以下「推進法」という。)が制定され、同月に施行された。推進法において、政府は、再犯の防止等に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、再犯防止推進計画(以下「推進計画」という。)を策定するとされた。

 政府は、推進法の施行を受け、平成28年12月に犯罪対策閣僚会議の下に新たに法務大臣が議長を務め、関係省庁の局長等を構成員とする「再犯防止対策推進会議」を閣議口頭了解により設置した。また、平成29年2月には、推進計画案の具体的内容を検討する場として、法務副大臣を議長とし、関係省庁の課長等や外部有識者を構成員とする「再犯防止推進計画等検討会」(以下「検討会」という。)を設置し、検討会における計9回にわたる議論等を経て、推進計画の案を取りまとめ、ここに推進計画を定めるに至った。

第2 基本方針

 基本方針は、犯罪をした者等が、円滑に社会の一員として復帰することができるようにすることで、国民が犯罪による被害を受けることを防止し、安全で安心して暮らせる社会の実現に寄与するという目的を達成するために、個々の施策の策定・実施や連携に際し、実施者が目指すべき方向・視点を示すものである。

 推進法は、第3条において「基本理念」を掲げているところであり、施策の実施者が目指すべき方向・視点は、この基本理念を踏まえて設定すべきである。

 そこで、推進法第3条に掲げられた基本理念を基に、以下の5つの基本方針を設定する。

〔5つの基本方針〕

① 犯罪をした者等が、多様化が進む社会において孤立することなく、再び社会を構成する一員となることができるよう、あらゆる者と共に歩む「誰一人取り残さない」社会の実現に向け、関係行政機関が相互に緊密な連携をしつつ、地方公共団体・民間の団体その他の関係者との緊密な連携協力をも確保し、再犯の防止等に関する施策を総合的に推進すること。

② 犯罪をした者等が、その特性に応じ、刑事司法手続のあらゆる段階において、切れ目なく、再犯を防止するために必要な指導及び支援を受けられるようにすること。

③ 再犯の防止等に関する施策は、生命を奪われる、身体的・精神的苦痛を負わされる、あるいは財産的被害を負わされるといった被害に加え、それらに劣らぬ事後的な精神的苦痛・不安にさいなまれる犯罪被害者等が存在することを十分に認識して行うとともに、犯罪をした者等が、犯罪の責任等を自覚し、犯罪被害者の心情等を理解し、自ら社会復帰のために努力することの重要性を踏まえて行うこと。

④ 再犯の防止等に関する施策は、犯罪及び非行の実態、効果検証及び調査研究の成果等を踏まえ、必要に応じて再犯の防止等に関する活動を行う民間の団体その他の関係者から意見聴取するなどして見直しを行い、社会情勢等に応じた効果的なものとすること。

⑤ 国民にとって再犯の防止等に関する施策は身近なものではないという現状を十分に認識し、更生の意欲を有する犯罪をした者等が、責任ある社会の構成員として受け入れられるよう、再犯の防止等に関する取組を、分かりやすく効果的に広報するなどして、広く国民の関心と理解が得られるものとしていくこと。

第3 重点課題

 再犯防止施策は、極めて多岐にわたるが、推進法第2章が規定する基本的施策に基づき、以下に掲げる7つの課題に整理した。これらの課題は相互に密接に関係していることから、関係府省庁が施策を実施するに当たっては、各課題に対する当該施策の位置付けを明確に認識することはもとより、施策間の有機的関連を意識しつつ総合的な視点で取り組んでいく必要がある。

〔7つの重点課題〕

① 就労・住居の確保等
② 保健医療・福祉サービスの利用の促進等
③ 学校等と連携した修学支援の実施等
④ 犯罪をした者等の特性に応じた効果的な指導の実施等
⑤ 民間協力者の活動の促進等、広報・啓発活動の推進等
⑥ 地方公共団体との連携強化等
⑦ 関係機関の人的・物的体制の整備等

第4 計画期間と迅速な実施

 推進法第7条第6項が、少なくとも5年ごとに、再犯防止推進計画に検討を加えることとしていることから、計画期間は、平成30年度から平成34年度末までの5年間とする。

 推進計画に盛り込まれた個々の施策のうち、実施可能なものは速やかに実施することとする。これらの施策のうち、実施のための検討を要するものについては、本推進計画において検討の方向性を明示しているので、単独の省庁で行うものについては原則1年以内に、複数省庁にまたがるものや大きな制度改正を必要とするものは原則2年以内に結論を出し、それぞれ、その結論に基づき施策を実施することとする。

 推進計画に盛り込まれた施策については、犯罪対策閣僚会議の下に設置された再犯防止対策推進会議において、定期的に施策の進捗状況を確認するとともに、施策の実施の推進を図ることとする。

 また、「総合対策」及び「宣言」において設定された各数値目標については、推進計画に盛り込まれた施策の速やかな実施により、その確実な達成を図る。

II 今後取り組んでいく施策

第1 再犯の防止等に関する施策の指標

1.再犯の防止等に関する施策の成果指標

 ○ 刑法犯検挙者中の再犯者数及び再犯者率【指標番号1】

(出典:警察庁・犯罪統計)
基準値 110,306人・48.7%(平成28年)

 ○ 新受刑者中の再入者数及び再入者率【指標番号2】

(出典:法務省・矯正統計年報)
基準値 12,179人・59.5%(平成28年)

 ○ 出所受刑者の2年以内再入者数及び2年以内再入率【指標番号3】

(出典:法務省調査)
基準値 4,225人・18.0%(平成27年出所受刑者)

 ○ 主な罪名(覚せい剤取締法違反、性犯罪(強制性交等・強姦・強制わいせつ)、傷害・暴行、窃盗)・特性(高齢(65歳以上)、女性、少年)別2年以内再入率【指標番号4】

(出典:法務省調査)
基準値(覚せい剤取締法違反、性犯罪、傷害・暴行、窃盗)
19.2%・6.3%・16.2%・23.2%(平成27年出所受刑者)
基準値(高齢、女性)
23.2%・12.6%(平成27年出所受刑者)
基準値(少年)
11.0%(平成27年少年院出院者)

2.再犯の防止等に関する施策の動向を把握するための参考指標

(1) 就労・住居の確保等関係

 ○ 刑務所出所者等総合的就労支援対策の対象者のうち、就職した者の数及びその割合【指標番号5】

(出典:厚生労働省調査)
基準値 2,790人・37.4%(平成28年度)

 ○ 協力雇用主数、実際に雇用している協力雇用主数及び協力雇用主に雇用されている刑務所出所者等数【指標番号6】

(出典:法務省調査)
基準値 18,555社・774社・1,204人(平成29年4月1日現在)

 ○ 保護観察終了時に無職である者の数及びその割合【指標番号7】

(出典:法務省・保護統計年報)
基準値 6,866人・22.1%(平成28年)

 ○ 刑務所出所時に帰住先がない者の数及びその割合【指標番号8】

(出典:法務省・矯正統計年報)
基準値 4,739人・20.7%(平成28年)

 ○ 更生保護施設及び自立準備ホームにおいて一時的に居場所を確保した者の数【指標番号9】

(出典:法務省調査)
基準値 11,132人(平成28年)

(2) 保健医療・福祉サービスの利用の促進等関係

 ○ 特別調整により福祉サービス等の利用に向けた調整を行った者の数【指標番号10】

(出典:法務省調査)
基準値 704人(平成28年度)

 ○ 薬物事犯保護観察対象者のうち、保健医療機関等による治療・支援を受けた者の数及びその割合【指標番号11】

(出典:法務省調査)
基準値 333人・4.4%(平成28年度)

(3) 学校等と連携した修学支援の実施等関係

 ○ 少年院において修学支援を実施し、出院時点で復学・進学を希望する者のうち、出院時又は保護観察中に復学・進学決定した者の数及び復学・進学決定率【指標番号12】

(出典:法務省調査)
基準値 -

 ○ 上記により復学・進学決定した者のうち、保護観察期間中に高等学校等を卒業した者又は保護観察終了時に高等学校等に在学している者の数及びその割合【指標番号13】

(出典:法務省調査)
基準値 -

 ○ 矯正施設における高等学校卒業程度認定試験の受験者数、合格者数及び合格率【指標番号14】

(出典:文部科学省調査)
基準値(受験者数・合格者数・合格率)
1,049人・375人・35.7%(平成28年度)
基準値(受験者数・1以上の科目に合格した者の数・合格率)
1,049人・990人・94.4%(平成28年度)

(4) 民間協力者の活動の促進等、広報・啓発活動の推進等関係

 ○ 保護司数及び保護司充足率【指標番号15】

(出典:法務省調査)
基準値 47,909人・91.3%(平成29年1月1日)

 ○ “社会を明るくする運動”行事参加人数【指標番号16】

(出典:法務省調査)
基準値 2,833,914人(平成28年)

(5) 地方公共団体との連携強化等関係

 ○ 地方再犯防止推進計画を策定している地方公共団体の数及びその割合【指標番号17】

(出典:法務省調査)
基準値 -

第2 就労・住居の確保等のための取組(推進法第12条、第14条、第15条、第16条、第21条関係)

1.就労の確保等

(1) 現状認識と課題等

 刑務所に再び入所した者のうち約7割が、再犯時に無職であった者となっている。また、仕事に就いていない者の再犯率は、仕事に就いている者の再犯率と比べて約3倍と高く、不安定な就労が再犯リスクとなっていることが明らかになっている。

 政府においては、「宣言」に基づき、矯正施設における社会のニーズに合った職業訓練・指導の実施、矯正就労支援情報センター室(通称「コレワーク」)の設置を始めとする矯正施設・保護観察所・ハローワークが連携した求人・求職のマッチングの強化、協力雇用主の開拓・拡大、刑務所出所者等就労奨励金制度の導入、国による保護観察対象者の雇用等の様々な施策に取り組んできた。

 しかしながら、前科等があることに加え、求職活動を行う上で必要な知識・資格等を有していないなどのために求職活動が円滑に進まない場合があること、社会人としてのマナーや対人関係の形成や維持のために必要な能力を身に付けていないなどのために職場での人間関係を十分に構築できない、あるいは自らの能力に応じた適切な職業選択ができないなどにより、一旦就職しても離職してしまう場合があること、協力雇用主となりながらも実際の雇用に結びついていない企業等が多いこと、犯罪をした者等の中には、障害の程度が福祉的支援を受けられる程度ではないものの、一般就労をすることも難しい者が少なからず存在することなどの課題がある。

(2) 具体的施策

 ① 職業適性の把握と就労につながる知識・技能等の習得

  ア 職業適性等の把握【施策番号1】

 法務省は、厚生労働省の協力を得て、就労意欲や職業適性等を把握するためのアセスメントを適切に実施する。【法務省、厚生労働省】

  イ 就労に必要な基礎的能力等の習得に向けた指導・支援【施策番号2】

 法務省は、厚生労働省の協力を得て、矯正施設における協力雇用主、生活困窮者自立支援法における就労準備支援事業や認定就労訓練事業を行う者等と連携した職業講話、社会貢献作業等を実施する。また、矯正施設及び保護観察所において、コミュニケーションスキルの付与やビジネスマナーの体得を目的とした指導・訓練を行うなど、犯罪をした者等の勤労意欲の喚起及び就職に必要な知識・技能等の習得を図るための指導及び支援の充実を図る。【法務省、厚生労働省】

  ウ 矯正施設における職業訓練等の充実【施策番号3】

 法務省は、各矯正施設において、需要が見込まれる分野に必要な技能の習得を意識した効果的な職業訓練等を行うため、総務省及び厚生労働省の協力を得て、矯正施設、保護観察所のほか、地方公共団体、都道府県労働局、地域の経済団体、協力雇用主、各種職業能力開発施設、専門教育機関等が参画する協議会等を開催し、各矯正施設における職業訓練等の方針、訓練科目、訓練方法等について検討する。その結論を踏まえ、矯正施設職員に対する研修を充実させること、矯正施設における職業訓練等に上記の関係機関等が参画することを推進すること等を通じて、矯正施設における職業訓練等の実施体制の強化を図るとともに、矯正施設が所在する地域の理解・支援を得て、外部通勤制度や外出・外泊等を積極的に活用し、受刑者等に矯正施設の外で実施される職業訓練を受講させたり、協力雇用主等を訪問させたりすることを可能とする取組を推進する。【総務省、法務省、厚生労働省】

  エ 資格制限等の見直し【施策番号4】

 法務省は、犯罪をした者等の就労の促進の観点から需要が見込まれる業種に関し、前科があることによる就業や資格取得の制限の在り方について検討を行い、2年以内を目途に結論を出し、その結論に基づき、各府省は、所管の該当する資格制限等について、当該制限の見直しの要否を検討し、必要に応じた措置を実施する。【各府省】

 ② 就職に向けた相談・支援等の充実

  ア 刑務所出所者等総合的就労支援を中心とした就労支援の充実【施策番号5】

 法務省及び厚生労働省は、適切な就労先の確保に向けた生活環境の調整、ハローワーク相談員の矯正施設への駐在や更生保護施設への協力の拡大、更生保護就労支援事業の活用など、矯正施設、保護観察所及びハローワークの連携による一貫した就労支援対策の一層の充実を図る。また、法務省及び国土交通省は、矯正施設及び地方運輸局等の連携による就労支援対策についても、一層の充実を図る。【法務省、厚生労働省、国土交通省】

  イ 非行少年に対する就労支援【施策番号6】

 警察庁は、非行少年を生まない社会づくりの活動の一環として少年サポートセンター(都道府県警察に設置し、少年補導職員を中心に非行防止に向けた取組を実施)等が行う就労を希望する少年に対する立ち直り支援について、都道府県警察に対する指導や好事例の紹介等を通じ、少年の就職や就労継続に向けた支援の充実を図る。【警察庁】

 ③ 新たな協力雇用主の開拓・確保

  ア 企業等に対する働き掛けの強化【施策番号7】

 法務省は、警察庁及び厚生労働省の協力を得て、協力雇用主の要件や登録の在り方を整理するとともに、矯正施設及び保護観察所において、企業等に対し、協力雇用主の意義や、コレワークの機能、刑務所出所者等就労奨励金制度等の協力雇用主に対する支援制度に関する説明を行うなど、適切な協力雇用主の確保に向けた企業等への働き掛けを強化する。【警察庁、法務省、厚生労働省】

  イ 各種事業者団体に対する広報・啓発【施策番号8】

 総務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省及び国土交通省は、法務省の協力を得て、関係する各種事業者団体に対し、所属する企業等に対する広報・啓発を依頼するなどして、協力雇用主の拡大に向け、協力雇用主の活動の意義や協力雇用主に対する支援制度についての積極的な広報・啓発活動を推進する。【総務省、法務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省】

  ウ 多様な業種の協力雇用主の確保【施策番号9】

 法務省は、総務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省及び国土交通省の協力を得て、協力雇用主として活動している企業等の業種に大きな偏りがあることを踏まえ、これまで協力雇用主のいない業種を含め多様な業種の協力雇用主の確保に努める。また、刑務所出所者等を農業の担い手に育成する就業支援センター等の取組が成果を挙げていることを踏まえ、農業を始め刑務所出所者等の改善更生に有用と考えられる業種の協力雇用主の確保に向けた取組の強化を図る。【総務省、法務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省】

 ④ 協力雇用主の活動に対する支援の充実

  ア 協力雇用主等に対する情報提供【施策番号10】

 法務省は、コレワークにおいて、協力雇用主等に対して、受刑者等が矯正施設在所中に習得・取得可能な技能・資格を紹介するとともに、協力雇用主等の雇用ニーズに合う受刑者等が在所する矯正施設の紹介や、職業訓練等の見学会の案内をするほか、総務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省及び国土交通省の協力を得て、協力雇用主の活動を支援する施策の周知を図るなど、協力雇用主等に対する情報提供の充実を図る。また、個人情報等の適切な取扱いに十分配慮しつつ、犯罪をした者等の就労に必要な個人情報を適切に提供していく。【総務省、法務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省】

  イ 協力雇用主の不安・負担の軽減【施策番号11】

 法務省は、身元保証制度や刑務所出所者等就労奨励金制度の活用、協力雇用主に対する助言など、犯罪をした者等を雇用しようとする協力雇用主の不安や負担を軽減するための支援の充実を図る。【法務省】

  ウ 住居を確保できない者を雇用しようとする協力雇用主に対する支援【施策番号12】

 法務省は、住込就労が可能な協力雇用主に対する支援の充実を図るとともに、犯罪をした者等を雇用しようとする協力雇用主がいても、犯罪をした者等が、その通勤圏内に住居を確保できず、就職できない場合があることを踏まえ、就労・住居の確保等のための取組を一体的に実施するなど、通勤圏内に住居を確保できない犯罪をした者等を雇用しようとする協力雇用主に対する支援の充実を図る。【法務省】

  エ 協力雇用主に関する情報の適切な共有【施策番号13】

 法務省は、各府省における協力雇用主に対する支援の円滑かつ適切な実施に資するよう、各府省に対して、協力雇用主に関する情報を適時適切に提供する。【法務省】

 ⑤ 犯罪をした者等を雇用する企業等の社会的評価の向上等

  ア 国による雇用等【施策番号14】

 法務省は、保護観察対象者を非常勤職員として雇用する取組事例を踏まえ、犯罪をした者等の国による雇用等を更に推進するための指針について検討を行い、2年以内を目途に結論を出し、その結論に基づき、各府省は、各府省における業務の特性や実情等を勘案し、その雇用等に努める。【各府省】

  イ 協力雇用主の受注の機会の増大【施策番号15】

 法務省は、公共調達において、協力雇用主の受注の機会の増大を図る指針について検討を行い、2年以内を目途に結論を出し、その結論に基づき、各府省は、対象となる公共調達の本来達成すべき目的が阻害されないよう留意しつつ、協力雇用主の受注の機会の増大を図るための取組の推進に配慮する。【各府省】

  ウ 補助金の活用【施策番号16】

 法務省は、補助金の本来達成すべき目的を阻害しない範囲内で、協力雇用主の活動に資する補助金の活用指針について検討を行い、2年以内を目途に結論を出し、各府省は、その結論に基づく取組の推進に配慮する。【各府省】

  エ 協力雇用主に対する栄典【施策番号17】

 内閣府は、協力雇用主に対する栄典の授与に係る検討を行い、1年以内を目途に結論を出し、その結論に基づき施策を実施する。【内閣府】

 ⑥ 就職後の職場定着に向けたフォローアップの充実

  ア 就労した者の離職の防止【施策番号18】

 法務省及び厚生労働省は、矯正施設、保護観察所、更生保護施設、ハローワーク等において、就職した犯罪をした者等に対し、仕事や職場の人間関係の悩みなどを細かに把握し、適切な助言を行うなど、離職を防止するための支援の充実を図る。【法務省、厚生労働省】

  イ 雇用した協力雇用主に対する継続的支援【施策番号19】

 法務省及び厚生労働省は、犯罪をした者等を雇用した協力雇用主の雇用に伴う不安や負担を細かに把握し、その協力雇用主に対し、雇用継続に向けた助言を行うなど、継続的な支援の充実を図る。【法務省、厚生労働省】

  ウ 離職した者の再就職支援【施策番号20】

 法務省は、離職した犯罪をした者等を、積極的に雇用する協力雇用主のネットワークの構築を図る。また、法務省及び厚生労働省は、上記協力雇用主のネットワークとハローワークが連携するなどし、離職後の速やかな再就職に向けた犯罪をした者等と協力雇用主との円滑なマッチングを推進する。【法務省、厚生労働省】

 ⑦ 一般就労と福祉的支援の狭間にある者の就労の確保

  ア 受刑者等の特性に応じた刑務作業等の充実【施策番号21】

 法務省は、障害の程度が福祉的支援を受けられる程度ではないものの、一般就労をすることも難しい者や、就労に向けた訓練等が必要な者など、一般就労と福祉的支援の狭間にある者への対応が課題となっていることを踏まえ、受刑者等の特性に応じて刑務作業等の内容の一層の充実を図る。【法務省】

  イ 障害者・生活困窮者等に対する就労支援の活用【施策番号22】

 法務省及び厚生労働省は、障害を有している犯罪をした者等が、その就労意欲や障害の程度等に応じて、障害者支援施策も活用しながら、一般の企業等への就労や、就労継続支援A型(雇用契約に基づく就労が可能である者に対して、雇用契約の締結等による就労の機会の提供等を行うもの)又は同B型(雇用契約に基づく就労が困難である者に対して、就労の機会の提供等を行うもの)事業における就労を実現できるよう取り組んでいく。また、生活が困窮していたり、軽度の障害を有しているなど、一般の企業等への就労が困難な犯罪をした者等に対しては、生活困窮者自立支援法(平成25年法律第105号)に基づく生活困窮者就労準備支援事業や生活困窮者就労訓練事業の積極的活用を図る。【法務省、厚生労働省】

  ウ ソーシャルビジネスとの連携【施策番号23】

 法務省は、障害者雇用における農福連携の取組等を参考に、厚生労働省、農林水産省及び経済産業省の協力を得て、高齢者・障害者の介護・福祉やホームレス支援、ニート等の若者支援といった社会的・地域的課題の解消に取り組む企業・団体等に、犯罪をした者等の雇用を働き掛けるなど、ソーシャルビジネスとの連携を推進する。【法務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省】

2.住居の確保等

(1) 現状認識と課題等

 刑務所満期出所者のうち約5割が適当な帰住先が確保されないまま刑務所を出所していること、これらの者の再犯に至るまでの期間が帰住先の確保されている者と比較して短くなっていることが明らかとなっている。適切な帰住先の確保は、地域社会において安定した生活を送るための大前提であって、再犯防止の上で最も重要であるといっても過言ではない。

 政府においては、「宣言」に基づき、受刑者等の釈放後の生活環境の調整の充実や、親族等のもとに帰住することができない者の一時的な居場所となる更生保護施設の受入れ機能の強化、自立準備ホーム(あらかじめ保護観察所に登録した民間法人・団体等の事業者に、保護観察所が、宿泊場所の供与と自立のための生活指導のほか、必要に応じて食事の給与を委託する際の宿泊場所)の確保など、矯正施設出所後の帰住先の確保に向けた取組を進めてきた。

 しかしながら、親族等のもとへ帰住できない者の割合も増加傾向にあることから、引き続き更生保護施設や自立準備ホームでの受入れを進める必要がある。また、更生保護施設には、かつての宿泊提供支援だけでなく、薬物依存症者その他の処遇困難者に対する処遇及び地域生活への移行支援が求められるなど、その役割が急激に拡大しており、更生保護施設における受入れ・処遇機能の強化の必要性が指摘されている。

 加えて、更生保護施設や自立準備ホームはあくまで一時的な居場所であり、更生保護施設等退所後は地域に生活基盤を確保する必要があるが、身元保証人を得ることが困難であったり、家賃滞納歴等により民間家賃保証会社が利用できなかったりすることなどにより、適切な定住先を確保できないまま更生保護施設等から退所し、再犯等に至る者が存在することなどの課題がある。

(2) 具体的施策

 ① 矯正施設在所中の生活環境の調整の充実

  ア 帰住先確保に向けた迅速な調整【施策番号24】

 法務省は、平成28年6月に施行された更生保護法(平成19年法律第88号)の一部改正に基づき、保護観察所が実施する受刑者等の釈放後の生活環境の調整における地方更生保護委員会の関与を強化し、受刑者等が必要とする保健医療・福祉サービスを受けることができる地域への帰住を調整するなど、適切な帰住先を迅速に確保するための取組の充実を図る。【法務省】

  イ 受刑者等の親族等に対する支援【施策番号25】

 法務省は、受刑者等とその親族等の交流において、必要のある者については、その関係の改善という点についても配慮するとともに、受刑者等の親族等に対して、受刑者等の出所に向けた相談支援等を実施する引受人会・保護者会を開催するなど、受刑者等の親族等に対する支援の充実を図る。【法務省】

 ② 更生保護施設等の一時的な居場所の充実

  ア 更生保護施設における受入れ・処遇機能の充実【施策番号26】

 法務省は、社会福祉法人等といった更生保護法人以外の者による整備を含め、更生保護施設の整備及び受入れ定員の拡大を着実に推進するほか、罪名、嗜癖等本人が抱える問題性や地域との関係により特に受入れが進みにくい者や処遇困難な者を更生保護施設で受け入れて、それぞれの問題に応じた処遇を行うための体制の整備を推進し、更生保護施設における受入れ及び処遇機能の充実を図る。【法務省】

  イ 更生保護施設における処遇の基準等の見直し【施策番号27】

 法務省は、高齢者又は障害のある者や薬物依存症者等を含めた更生保護施設入所者の自立を促進するため、更生保護事業の在り方の見直し(II第6.1(2)③イ)と併せ、更生保護施設における処遇の基準等の見直しに向けた検討を行い、2年以内を目途に結論を出し、その結論に基づき所要の措置を講じる。【法務省】

  ウ 自立準備ホームの確保と活用【施策番号28】

 法務省は、厚生労働省及び国土交通省の協力を得て、専門性を有する社会福祉法人やNPO法人などに対する委託により一時的な居場所の確保等を推進するほか、空き家等の既存の住宅ストック等を活用するなどして多様な居場所である自立準備ホームの更なる確保を進めるとともに、各施設の特色に応じた活用を図る。【法務省、厚生労働省、国土交通省】

 ③ 地域社会における定住先の確保

  ア 住居の確保を困難にしている要因の調査等【施策番号29】

 法務省は、犯罪をした者等の住居の確保を困難にしている要因について調査を行い、1年以内を目途に結論を出し、その調査結果に基づき、身元保証制度の在り方の見直しを含め、必要に応じ、所要の施策を実施する。【法務省】

  イ 住居の提供者に対する継続的支援の実施【施策番号30】

 法務省は、保護観察対象者等であることを承知して住居を提供する者に対し、住居の提供に伴う不安や負担を細かに把握した上で、身元保証制度の活用を含めた必要な助言等を行うとともに、個人情報等の適切な取扱いに十分配慮しつつ、保護観察対象者等についての必要な個人情報を提供する。併せて、保護観察対象者等に対し、必要な指導等を行うなど、保護観察対象者等であることを承知して住居を提供する者に対する継続的支援を実施する。【法務省】

  ウ 公営住宅への入居における特別な配慮【施策番号31】

 国土交通省は、保護観察対象者等であることを承知して住居を提供する場合は、上記イの法務省による継続的支援が受けられることを踏まえ、保護観察対象者等が住居に困窮している状況や、地域の実情等に応じて、保護観察対象者等の公営住宅への入居を困難としている要件を緩和すること等について検討を行うよう、地方公共団体に要請する。また、矯正施設出所者については、通常、著しく所得の低い者として、公営住宅への優先入居の取扱いの対象に該当する旨を地方公共団体に周知・徹底する。【国土交通省】

  エ 賃貸住宅の供給の促進【施策番号32】

 法務省は、国土交通省の協力を得て、住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(平成19年法律第112号)に基づき、犯罪をした者等のうち、同法第2条第1項が規定する住宅確保要配慮者に該当する者に対して、賃貸住宅に関する情報の提供及び相談の実施に努めるとともに、保護観察対象者等であることを承知して住居を提供する場合は、上記イの法務省による継続的支援が受けられることを周知するなどして、その入居を拒まない賃貸人の開拓・確保に努める。【法務省、国土交通省】

  オ 満期出所者に対する支援情報の提供等の充実【施策番号33】

 法務省は、帰住先を確保できないまま満期出所となる受刑者の再犯を防止するため、刑事施設において、受刑者に対し、更生緊急保護の制度や希望する地域の相談機関に関する情報を提供するとともに、保護観察所においては、更生緊急保護対象者に対し、地域の支援機関等についての適切かつ充実した情報の提供を行うとともに、必要に応じ、更生保護施設等の一時的な居場所の提供や定住先確保のための支援を行う。【法務省】

第3 保健医療・福祉サービスの利用の促進等のための取組(推進法第17条、第21条関係)

1.高齢者又は障害のある者等への支援等

(1) 現状認識と課題等

 高齢者(65歳以上の者)が、出所後2年以内に刑務所に再び入所する割合は、全世代の中で最も高いほか、出所後5年以内に再び刑務所に入所した高齢者のうち、約4割の者が出所後6か月未満という極めて短期間で再犯に至っている。また、知的障害のある受刑者についても、全般的に再犯に至るまでの期間が短いことが明らかとなっている。

 政府においては、矯正施設出所者等に対する支援(出口支援)の一つとして、受刑者等のうち、適当な帰住先が確保されていない高齢者又は障害のある者等が、矯正施設出所後に、社会福祉施設への入所等の福祉サービスを円滑に利用できるようにするため、地域生活定着支援センターの設置や、矯正施設及び更生保護施設への社会福祉士等の配置を進め、矯正施設や保護観察所、更生保護施設、地域生活定着支援センターその他の福祉関係機関が連携して必要な調整を行う取組(特別調整)を実施してきた。

 また、犯罪をした高齢者又は障害のある者等の再犯防止のためには、出口支援だけでなく、起訴猶予者等についても、必要な福祉的支援に結び付けることなどが、犯罪等の常習化を防ぐために重要である場合があることを踏まえ、検察庁において、知的障害のある被疑者や高齢の被疑者等福祉的支援を必要とする者について、弁護士や福祉専門職、保護観察所等関係機関・団体等と連携し、身柄釈放時等に福祉サービスに橋渡しするなどの取組(入口支援)を実施してきた。

 しかしながら、「緊急対策」で指摘された事項に加えて、福祉的支援が必要であるにもかかわらず、本人が希望しないなどの理由から特別調整の対象とならない場合があること、地方公共団体や社会福祉施設等の取組状況等に差があり、必要な協力が得られない場合があること、刑事司法手続の各段階を通じた高齢又は障害の状況の把握とそれを踏まえたきめ細かな支援を実施するための体制が不十分であることなどの課題がある。

(2) 具体的施策

 ① 関係機関における福祉的支援の実施体制等の充実

  ア 刑事司法関係機関におけるアセスメント機能等の強化【施策番号34】

 法務省は、犯罪をした者等について、これまで見落とされがちであった福祉サービスのニーズを早期に把握して福祉サービスの利用に向けた支援等を実施することにより円滑に福祉サービスを利用できるようにするため、少年鑑別所におけるアセスメント機能の充実を図るとともに、矯正施設における社会福祉士等の活用や、保護観察所における福祉サービス利用に向けた調査・調整機能の強化を図る。【法務省】

  イ 高齢者又は障害のある者等である受刑者等に対する指導【施策番号35】

 法務省は、歩行や食事等の日常的な動作全般にわたって介助やリハビリを必要とする受刑者等が増加していることを踏まえ、高齢者又は障害のある者等である受刑者等の円滑な社会復帰のため、体力の維持・向上のための健康運動指導や福祉サービスに関する知識及び社会適応能力等の習得を図るための指導について、福祉関係機関等の協力を得ながら、その指導内容や実施体制等の充実を図る。【法務省】

  ウ 矯正施設、保護観察所及び地域生活定着支援センター等の多機関連携の強化等【施策番号36】

 法務省及び厚生労働省は、矯正施設、保護観察所及び地域生活定着支援センター等の多機関連携により、釈放後速やかに適切な福祉サービスに結び付ける特別調整の取組について、その運用状況等を踏まえ、一層着実な実施を図る。また、高齢者又は障害のある者等であって自立した生活を営む上での困難を有する者等に必要な保健医療・福祉サービスが提供されるようにするため、矯正施設、保護観察所及び地域の保健医療・福祉関係機関等との連携が重要であることを踏まえ、矯正施設、保護観察所及び地域生活定着支援センターなどの関係機関との連携機能の充実強化を図る。【法務省、厚生労働省】

  エ 更生保護施設における支援の充実【施策番号37】

 法務省は、「宣言」において設定された目標を踏まえつつ、犯罪をした高齢者又は障害のある者等の更生保護施設における受入れやその特性に応じた必要な支援の実施を充実させるための施設・体制の整備を図る。【法務省】

  オ 刑事司法関係機関の職員に対する研修の実施【施策番号38】

 法務省は、刑事司法の各段階において、犯罪をした者等の福祉的支援の必要性を的確に把握することができるよう、刑事司法関係機関の職員に対して、高齢者及び障害のある者等の特性等について必要な研修を実施する。【法務省】

 ② 保健医療・福祉サービスの利用に関する地方公共団体等との連携の強化

  ア 地域福祉計画・地域医療計画における位置付け【施策番号39】

 厚生労働省は、地方公共団体が、地域福祉計画や地域医療計画を策定するに当たり、再犯防止の観点から、高齢者又は障害のある者等を始め、保健医療・福祉等の支援を必要とする犯罪をした者等に対し、保健医療・福祉サービス、住まい、就労、その他生活困窮への支援などの地域での生活を可能とするための施策を総合的に推進するよう、必要な助言を行う。法務省及び厚生労働省は、地方公共団体が地方再犯防止推進計画を策定するに当たり、地域福祉計画を積極的に活用していくことも考えられることから、関係部局と連携を図るよう、必要な周知を行う。【法務省、厚生労働省】

  イ 社会福祉施設等の協力の促進【施策番号40】

 厚生労働省は、高齢者又は障害のある者等に福祉サービスを提供する社会福祉施設等に支給する委託費等の加算措置の充実を含め、社会福祉施設等全体の取組に対する評価について更に検討を行うなど、社会福祉施設等による高齢者又は障害のある者等への福祉サービスの提供の促進を図る。【厚生労働省】

  ウ 保健医療・福祉サービスの利用に向けた手続の円滑化【施策番号41】

 法務省及び厚生労働省は、犯罪をした高齢者又は障害のある者等が、速やかに、障害者手帳の交付、保健医療・福祉サービスの利用の必要性の認定等を受け、これを利用することができるよう、総務省の協力を得て実施責任を有する地方公共団体の明確化を含む指針等を作成し、地方公共団体に対してその周知徹底を図る。また、法務省は、住民票が消除されるなどした受刑者等が、矯正施設出所後速やかに保健医療・福祉サービスを利用することができるよう、総務省の協力を得て矯正施設・保護観察所の職員に対して住民票に関する手続等の周知徹底を図るなどし、矯正施設在所中から必要な支援を実施する。【総務省、法務省、厚生労働省】

 ③ 高齢者又は障害のある者等への効果的な入口支援の実施

  ア 刑事司法関係機関の体制整備【施策番号42】

 法務省は、検察庁において社会復帰支援を担当する検察事務官や社会福祉士の配置を充実させるなど、検察庁における社会復帰支援の実施体制の充実を図るとともに、保護観察所において福祉的支援や更生緊急保護を担当する保護観察官の配置を充実させるなど、保護観察所における実施体制の充実を図り、入口支援が必要な者に対する適切な支援が行われる体制を確保する。【法務省】

  イ 刑事司法関係機関と保健医療・福祉関係機関等との連携の在り方の検討【施策番号43】

 法務省及び厚生労働省は、II第7.1(2)①ウに記載の地域のネットワークにおける取組状況も参考としつつ、一層効果的な入口支援の実施方策を含む刑事司法関係機関と保健医療・福祉関係機関等との連携の在り方についての検討を行い、2年以内を目途に結論を出し、その結論に基づき施策を実施する。【法務省、厚生労働省】

2.薬物依存を有する者への支援等

(1) 現状認識と課題等

 覚せい剤取締法違反による検挙者数は毎年1万人を超え、引き続き高い水準にあるほか、新たに刑務所に入所する者の罪名の約3割が覚せい剤取締法違反となっている。また、平成27年に出所した者全体の2年以内再入率は18.0パーセントであるのと比較して、覚せい剤取締法違反により受刑した者の2年以内再入率は19.2パーセントと高くなっている。

 薬物事犯者は、犯罪をした者等であると同時に、薬物依存症の患者である場合もあるため、薬物を使用しないよう指導するだけではなく、薬物依存症は適切な治療・支援により回復することができる病気であるという認識を持たせ、薬物依存症からの回復に向けた治療・支援を継続的に受けさせることが必要である。

 政府においては、矯正施設・保護観察所における一貫した専門的プログラムの開発・実施、「薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドライン」の作成、地域において薬物依存症治療の拠点となる医療機関の整備等の施策に取り組むとともに、「緊急対策」に基づき、薬物依存からの回復に向けた矯正施設・保護観察所による指導と医療機関による治療、回復支援施設や民間団体等による支援等を一貫して行うための体制を整備するほか、平成28年6月から施行された刑の一部の執行猶予制度の適切な運用を図ることとしている。

 しかしながら、矯正施設、保護観察所、地域の保健医療・福祉関係機関、回復支援施設や民間団体等について効果的な支援等を行う体制が不十分であること、そもそも薬物依存症治療を施すことができる専門医療機関や薬物依存症からの回復支援を行う自助グループ等がない地域もあるなど一貫性のある支援等を行うための関係機関等の連携が不十分であること、海外において薬物依存症からの効果的な回復措置として実施されている刑事司法と保健医療・福祉との連携の在り方について調査研究する必要があること、薬物事犯者の再犯の防止等の重要性・緊急性に鑑み、刑事司法関係機関、保健医療・福祉関係機関、自助グループを含めた民間団体等各種関係機関・団体が、薬物依存からの回復を一貫して支援する新たな取組を試行的に実施する必要があることなどが指摘されている。

(2) 具体的施策

 ① 刑事司法関係機関等における効果的な指導の実施等

  ア 再犯リスクを踏まえた効果的な指導の実施【施策番号44】

 法務省は、厚生労働省の協力を得て、矯正施設及び保護観察所において、薬物事犯者ごとに、その再犯リスクを適切に把握した上で、そのリスクに応じた専門的指導プログラムを一貫して実施するとともに、そのための処遇情報の確実な引継ぎを図る。【法務省、厚生労働省】

  イ 矯正施設・保護観察所における薬物指導等体制の整備【施策番号45】

 法務省は、厚生労働省の協力を得て、指導に当たる職員の知識・技能の向上や、保護観察所における薬物処遇の専門性を有する管理職員の育成・配置など、薬物事犯者に対する指導体制の充実を図る。【法務省、厚生労働省】

  ウ 更生保護施設による薬物依存回復処遇の充実【施策番号46】

 法務省は、薬物事犯者の中には、地域において薬物乱用を繰り返していたことにより、あるいは、薬物密売者等からの接触を避けるため、従前の住居に戻ることが適当でない者が多く存在することを踏まえ、更生保護施設における薬物事犯者の受入れ、薬物依存からの回復に資する処遇を可能とする施設や体制の整備を推進し、更生保護施設による薬物依存回復処遇の充実を図る。【法務省】

  エ 薬物事犯者の再犯防止対策の在り方の検討【施策番号47】

 法務省及び厚生労働省は、薬物事犯者の再犯の防止等に向け、刑の一部の執行猶予制度の運用状況や、薬物依存症の治療を施すことのできる医療機関や相談支援等を行う関係機関の整備、連携の状況、自助グループ等の活動状況等を踏まえ、海外において薬物依存症からの効果的な回復措置として実施されている各種拘禁刑に代わる措置も参考にしつつ、新たな取組を試行的に実施することを含め、我が国における薬物事犯者の再犯の防止等において効果的な方策について検討を行う。【法務省、厚生労働省】

 ② 治療・支援等を提供する保健・医療機関等の充実

  ア 薬物依存症治療の専門医療機関の拡大【施策番号48】

 厚生労働省は、薬物依存症の治療を提供できる医療機関が限られており、薬物依存症者の中には、遠方の医療機関への通院が困難であるため、治療を受けない者や治療を中断してしまう者が存在することを踏まえ、薬物依存症を含む依存症治療の専門医療機関の更なる充実を図るとともに、一般の医療機関における薬物依存症者に対する適切な対応を促進する。【厚生労働省】

  イ 薬物依存症に関する相談支援窓口の充実【施策番号49】

 厚生労働省は、薬物依存症からの回復には、薬物依存症者本人が地域において相談支援を受けられることに加え、その親族等が薬物依存症者の対応方法等について相談支援を受けられることが重要であることを踏まえ、全国の精神保健福祉センター等に、薬物依存症を含む依存症対策の専門員である依存症相談員を配置するなど、保健行政機関における薬物依存症に関する相談支援窓口の充実を図る。【厚生労働省】

  ウ 自助グループを含めた民間団体の活動の促進【施策番号50】

 厚生労働省は、薬物依存症者に対して、薬物依存症からの回復に向けた就労と住居の一体的支援活動を行う民間団体の活動の援助など、自助グループを含めた民間団体の活動を促進するための支援の充実を図る。【厚生労働省】

  エ 薬物依存症者の親族等の知識等の向上【施策番号51】

 厚生労働省は、一般国民に向けた講習会の開催や、冊子の配布等を通じ、薬物依存症についての一般国民、取り分け、薬物依存症者の親族等の意識・知識の向上を図る。【厚生労働省】

  オ 薬物依存症対策関係機関の連携強化【施策番号52】

 警察庁、法務省及び厚生労働省は、薬物依存症者の回復には、医療機関による治療だけでなく、自助グループを含めた民間団体等と連携した継続的な支援が重要であることを踏まえ、各地域において、薬物依存症者の治療・支援等を行うこれらの関係機関の職員等による連絡協議会等を開催し、地域における薬物依存症に関する課題を共有し、協働してその課題に対応するための方法を検討するなど、薬物依存症の対策に当たる各関係機関の連携強化を図る。【警察庁、法務省、厚生労働省】

  カ 薬物依存症治療の充実に資する診療報酬の検討【施策番号53】

 厚生労働省は、次回の診療報酬改定に向けて、薬物依存症治療の診療報酬上の評価の在り方について、関係者の意見も踏まえて検討する。【厚生労働省】

 ③ 薬物依存症の治療・支援等ができる人材の育成

  ア 薬物依存症に関する知見を有する医療関係者の育成【施策番号54】

 厚生労働省は、薬物依存症の回復に向けた保健医療・福祉サービスの実施体制を充実させるために、薬物依存症者の治療・支援等に知識を有する医療関係者が必要であることを踏まえ、医師の臨床研修の内容や、保健師、助産師、看護師の国家試験出題基準の見直しに向けた検討を行う。【厚生労働省】

  イ 薬物依存症に関する知見を有する福祉専門職の育成【施策番号55】

 厚生労働省は、薬物依存症者への相談支援体制を充実させるために、薬物依存症に関する専門的知識を有し、薬物依存症者が抱える支援ニーズを適切に把握し、関係機関につなげるなどの相談援助を実施する福祉専門職が必要であることを踏まえ、精神保健福祉士及び社会福祉士の養成カリキュラムの見直しに向けた検討を行う。【厚生労働省】

  ウ 薬物依存症に関する知見を有する心理専門職の育成【施策番号56】

 厚生労働省は、薬物依存症からの回復に向けて効果が認められている治療・支援が、認知行動療法に基づくものであり、薬物依存症に関する知識と経験を有する心理学の専門職が必要となることを踏まえ、新たに創設される公認心理師の国家資格の養成カリキュラムや国家試験の出題基準について、薬物依存症を含む依存症対策への対応という観点からも検討を行う。【厚生労働省】

  エ 薬物依存症に関する知見を有する支援者の育成【施策番号57】

 法務省は、薬物依存症のある保護観察対象者については、その症状や治療の状況に応じた支援が重要であることを踏まえ、その指導・支援に当たる者に対する研修等の充実を図る。また、厚生労働省は、薬物依存症からの回復に向けて、地域における継続した支援が必要であることを踏まえ、薬物依存症者への生活支援を担う支援者に対する研修の充実を図る。【法務省、厚生労働省】

第4 学校等と連携した修学支援の実施等のための取組(推進法第11条、第13条関係)

1.学校等と連携した修学支援の実施等

(1) 現状認識と課題等

 我が国の高等学校進学率は、98.5パーセントであり、ほとんどの者が高等学校に進学する状況にあるが、その一方で、少年院入院者の28.9パーセント、入所受刑者の37.4パーセントが、中学校卒業後に高等学校に進学していない。また、非行等に至る過程で、又は非行等を原因として、高等学校を中退する者も多く、少年院入院者の36.8パーセント、入所受刑者の24.6パーセントが高等学校を中退している状況にある。

 政府においては、高等学校の中退防止のための取組や、中学校卒業後に高等学校等へ進学しない者及び高等学校等を中退する者に対する就労等支援を実施するとともに、矯正施設内における高等学校卒業程度認定試験の実施、少年院における教科指導の充実、少年院出院後の修学に向けた相談支援・情報提供、少年院在院中の高等学校等の受験に係る調整、BBS会(Big Brothers and Sistersの略であり、非行少年の自立を支援するとともに、非行防止活動を行う青年ボランティア団体)等の民間ボランティアの協力による学習支援等を実施してきた。

 しかしながら、学校や地域における非行の未然防止に向けた取組が十分でないこと、犯罪をした者等の継続した学びや進学・復学のための支援等が十分でないことなどの課題がある。

(2) 具体的施策

 ① 児童生徒の非行の未然防止等

  ア 学校における適切な指導等の実施【施策番号58】

 文部科学省は、警察庁及び法務省の協力を得て、弁護士会等の民間団体にも協力を求めるなどし、いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号)等の趣旨を踏まえたいじめ防止のための教育や、人権啓発のための教育と併せ、再非行の防止の観点も含め、学校における非行防止のための教育、薬物乱用未然防止のための教育及び薬物再乱用防止のための相談・指導体制の充実を図る。また、厚生労働省の協力を得て、学校生活を継続させるための本人及び家族等に対する支援や、やむを得ず中退する場合の就労等の支援の充実を図る。【警察庁、法務省、文部科学省、厚生労働省】

  イ 地域における非行の未然防止等のための支援【施策番号59】

 内閣府、警察庁、法務省、文部科学省及び厚生労働省は、非行等を理由とする児童生徒の修学の中断を防ぐため、貧困や虐待等の被害体験などが非行等の一因になることも踏まえ、地域社会における子供の居場所作りや子供、保護者及び学校関係者等に対する相談支援の充実、民間ボランティア等による犯罪予防活動の促進、高等学校卒業程度資格の取得を目指す者への学習相談・学習支援など、児童生徒の非行の未然防止や深刻化の防止に向けた取組を推進する。また、同取組を効果的に実施するために、子ども・若者育成支援推進法に基づき、社会生活を円滑に営む上での困難を有する子供・若者の支援を行うことを目的として、地方公共団体に「子ども・若者支援地域協議会」の設置及び「子ども・若者総合相談センター」としての機能を担う体制の確保について努力義務が課されていることなどについて、非行の未然防止等の観点も踏まえ、関係機関等に周知し、連携の強化を図る。【内閣府、警察庁、法務省、文部科学省、厚生労働省】

  ウ 警察における非行少年に対する支援【施策番号60】

 警察庁は、非行少年を生まない社会づくり活動の一環として、少年サポートセンター等が少年警察ボランティア等(少年指導委員、少年補導員、少年警察協助員及び大学生ボランティア)の民間ボランティアや関係機関と連携して行う、修学に課題を抱えた少年に対する立ち直り支援について、都道府県警察に対する指導や好事例の紹介等を通じ、その充実を図る。【警察庁】

 ② 非行等による学校教育の中断の防止等

  ア 学校等と保護観察所が連携した支援等【施策番号61】

 法務省及び文部科学省は、保護司による非行防止教室の実施等保護司と学校等が連携して行う犯罪予防活動を促進し、保護司と学校等の日常的な連携・協力体制の構築を図るとともに、保護観察所、保護司、学校関係者等に対し、連携事例を周知するなどして、学校に在籍している保護観察対象者に対する生活支援等の充実を図る。【法務省、文部科学省】

  イ 矯正施設と学校との連携による円滑な学びの継続に向けた取組の充実【施策番号62】

 法務省は、矯正施設において、民間の学力試験の活用や適切な教材の整備を進めるなどして、対象者の能力に応じた教科指導が実施できるようにする。また、法務省及び文部科学省は、矯正施設や学校関係者に対し、相互の連携事例を周知することに加え、矯正施設や学校関係者への職員研修等の実施に当たっては、相互に職員を講師として派遣するなど、矯正施設と学校関係者との相互理解・協力の促進を図る。さらに、法務省は、通信制高校に在籍し、又は入学を希望する矯正施設在所者が、在所中も学習を継続しやすくなるよう、文部科学省の協力を得て、在所中の面接指導(高等学校通信教育規程(昭和37年文部省令32号)第2条に定める面接指導をいう。)の実施手続等を関係者に周知するなど、通信制高校からの中退を防止し、又は在所中の入学を促進するための取組の充実を図る。【法務省、文部科学省】

  ウ 矯正施設における高等学校卒業程度認定試験の指導体制の充実【施策番号63】

 法務省及び文部科学省は、矯正施設における高等学校卒業程度認定試験を引き続き実施する。また、法務省は、同試験の受験コースを設け、外部講師の招へい、教材の整備等を集中的に実施している施設の取組状況を踏まえ、他施設についても指導体制の充実を図る。【法務省、文部科学省】

 ③ 学校や地域社会において再び学ぶための支援

  ア 矯正施設からの進学・復学の支援【施策番号64】

 法務省は、矯正施設において、個々の対象者の希望や事情を踏まえつつ、就労や資格取得と関連付けた修学の意義を理解させるとともに、学校の種類、就学援助や高等学校等就学支援金制度等の教育費負担軽減策に関する情報の提供を行うなどして、修学に対する動機付けを図る。また、法務省及び文部科学省は、矯正施設における復学手続等の円滑化や高等学校等入学者選抜・編入学における配慮を促進するため、矯正施設・保護観察所、学校関係者に対し、相互の連携事例を周知する。加えて、法務省及び文部科学省は、矯正施設・保護観察所の職員と学校関係者との相互理解を深めるため、矯正施設・保護観察所における研修や学校関係者への研修等の実施に当たって相互に職員を講師として派遣するなどの取組を推進する。【法務省、文部科学省】

  イ 高等学校中退者等に対する地域社会における支援【施策番号65】

 法務省は、保護司、更生保護女性会、BBS会、少年友の会等の民間ボランティアや協力雇用主と連携して、学校に在籍していない非行少年等が安心して修学することができる場所の確保を含めた修学支援を実施する。特に、矯正施設において修学支援等を受けた者については、施設内処遇の内容を踏まえ、矯正施設、保護観察所及び民間ボランティアが協働して、本人の状況に応じた学びの継続に向けた効果的な支援を実施する。また、法務省及び文部科学省は、矯正施設在所者・保護観察対象者のうち、高等学校卒業程度資格の取得を目指す者に対し、地方公共団体における学習相談・学習支援の取組の利用を促す。【法務省、文部科学省】

第5 犯罪をした者等の特性に応じた効果的な指導の実施等のための取組(推進法第11条、第13条、第21条関係)

1.特性に応じた効果的な指導の実施等

(1) 現状認識と課題等

 再犯防止のための指導等を効果的に行うためには、犯罪や非行の内容はもとより、対象者一人一人の経歴、性別、性格、年齢、心身の状況、家庭環境、交友関係、経済的な状況等の特性を適切に把握した上で、その者にとって適切な指導等を選択し、一貫性を持って継続的に働き掛けることが重要である。また、指導等の効果を検証し、より効果的な取組につなげる必要がある。

 政府においては、「総合対策」に基づき、性犯罪者、暴力団関係者等再犯リスクが高い者、可塑性に富む少年・若年者、被虐待体験や摂食障害等の問題を抱える女性など、それぞれの対象者の特性に応じた指導及び支援の充実を図るとともに、犯罪被害者の視点を取り入れた指導及び支援等の実施を図ってきた。

 しかしながら、対象者の特性や処遇ニーズを的確に把握するためのアセスメント機能や、刑事司法関係機関や民間団体等における指導・支援の一貫性・継続性が不十分であるなどの課題があり、これらを強化するとともに、指導・支援の効果の検証を更に推進していく必要がある。

(2) 具体的施策

 ① 適切なアセスメントの実施

  ア 刑事司法関係機関におけるアセスメント機能の強化【施策番号66】

 法務省は、少年鑑別所において、「法務省式ケースアセスメントツール(MJCA)」の活用等により、鑑別の精度の一層の向上を図るとともに、処遇過程においてもそのアセスメント機能を発揮し、少年保護手続を縦貫した継続的な鑑別の実施を推進する。また、刑事施設・保護観察所において、再犯リスクや処遇指針の決定に資する情報を的確に把握し、受刑者や保護観察対象者に対する効果的な処遇を実施するため、アセスメント機能の強化を図る。【法務省】

  イ 関係機関等が保有する処遇に資する情報の適切な活用【施策番号67】

 法務省は、多角的な視点から適切にアセスメントを行い、それに基づく効果的な指導等を実施するため、必要に応じ、更生支援計画(主として弁護人が社会福祉士などの協力を得て作成する、個々の被疑者・被告人に必要な福祉的支援策等について取りまとめた書面)等の処遇に資する情報を活用した処遇協議を実施するなど、刑事司法関係機関を始めとする公的機関や再犯の防止等に関する活動を行う民間団体等が保有する処遇に資する情報の活用を推進する。【法務省】

 ② 特性に応じた指導等の充実

  i 性犯罪者・性非行少年に対する指導等

   ア 性犯罪者等に対する専門的処遇【施策番号68】

 法務省は、厚生労働省の協力を得て、海外における取組などを参考にしつつ、刑事施設における性犯罪再犯防止指導や少年院における性非行防止指導、保護観察所における性犯罪者処遇プログラム等の性犯罪者等に対する指導等について、効果検証の結果を踏まえた指導内容・方法の見直しや指導者育成を進めるなどして、一層の充実を図るとともに、医療・福祉関係機関等との連携を強化し、性犯罪者等に対する矯正施設収容中から出所後まで一貫性のある効果的な指導の実施を図る。【法務省、厚生労働省】

   イ 子供を対象とする暴力的性犯罪をした者の再犯防止【施策番号69】

 警察庁は、法務省の協力を得て、子供を対象とする暴力的性犯罪をした者について、刑事施設出所後の所在確認を実施するとともに、その者の同意を得て面談を実施し、必要に応じて、関係機関・団体等による支援等に結び付けるなど、再犯の防止に向けた措置の充実を図る。【警察庁、法務省】

  ii ストーカー加害者に対する指導等

   ア 被害者への接触防止のための措置【施策番号70】

 警察庁及び法務省は、ストーカー加害者による重大な事案が発生していることを踏まえ、当該加害者の保護観察実施上の特別遵守事項や問題行動等の情報を共有し、被害者への接触の防止のための指導等を徹底するとともに、必要に応じ、仮釈放の取消しの申出又は刑の執行猶予の言渡しの取消しの申出を行うなど、ストーカー加害者に対する適切な措置を実施する。【警察庁、法務省】

   イ ストーカー加害者に対するカウンセリング等【施策番号71】

 警察庁は、ストーカー加害者への対応を担当する警察職員について、研修の受講を促進するなどして、精神医学的・心理学的アプローチに関する技能や知識の向上を図るとともに、ストーカー加害者に対し、医療機関等の協力を得て、医療機関等によるカウンセリング等の受診に向けた働き掛けを行うなど、ストーカー加害者に対する精神医学的・心理学的なアプローチを推進する。【警察庁】

   ウ ストーカー加害者に対する指導等に係る調査研究【施策番号72】

 警察庁及び法務省は、ストーカー加害者が抱える問題等や、効果的な指導方策等について調査研究を行い、2年以内を目途に結論を出し、その調査結果に基づき、必要な施策を実施する。【警察庁、法務省】

  iii 暴力団関係者等再犯リスクが高い者に対する指導等

   ア 暴力団からの離脱に向けた指導等【施策番号73】

 警察庁及び法務省は、警察・暴力追放運動推進センターと矯正施設・保護観察所との連携を強化するなどして、暴力団関係者に対する暴力団離脱に向けた働き掛けの充実を図るとともに、離脱に係る情報を適切に共有する。【警察庁、法務省】

   イ 暴力団員の社会復帰対策の推進【施策番号74】

 警察庁は、暴力団からの離脱及び暴力団離脱者の社会への復帰・定着を促進するため、離脱・就労や社会復帰に必要な社会環境・フォローアップ体制の充実に関する効果的な施策を検討の上、可能なものから順次実施する。【警察庁】

  iv 少年・若年者に対する可塑性に着目した指導等

   ア 刑事司法関係機関における指導体制の充実【施策番号75】

 法務省は、少年院において複数職員で指導を行う体制の充実を図るなどして、少年・若年者の特性に応じたきめ細かな指導等を実施するための体制の充実を図る。【法務省】

   イ 関係機関と連携したきめ細かな支援等【施策番号76】

 法務省は、支援が必要な少年・若年者については、児童福祉関係機関に係属歴がある者や発達障害等の障害を有している者が少なくないなどの実情を踏まえ、少年院・保護観察所におけるケース検討会を適時適切に実施するなど、学校、児童相談所、児童福祉施設、福祉事務所、少年サポートセンター、子ども・若者総合支援センター(地方公共団体が子ども・若者育成支援に関する相談窓口の拠点として設置するもの)等関係機関との連携を強化し、きめ細かな支援等を実施する。【法務省】

   ウ 少年鑑別所における観護処遇の充実【施策番号77】

 法務省は、少年鑑別所在所中の少年に対し、学校等の関係機関や民間ボランティアの協力を得て、学習や文化活動等に触れる機会を付与するなど、少年の健全育成のために必要な知識及び能力の向上を図る。【法務省】

   エ 非行少年に対する社会奉仕体験活動等への参加の促進【施策番号78】

 警察庁は、非行少年を生まない社会づくり活動の一環として、少年サポートセンター等が民間ボランティアや関係機関と連携して行う、非行少年の状況に応じた社会奉仕体験活動等への参加の促進等の立ち直り支援について、都道府県警察に対する指導や好事例の紹介等を通じ、その充実を図る。【警察庁】

   オ 保護者との関係を踏まえた指導等の充実【施策番号79】

 法務省は、保護観察対象少年及び少年院在院者に対し、その保護者との関係改善に向けた指導・支援の充実を図るとともに、保護者に対し、対象者の処遇に対する理解・協力の促進や保護者の監護能力の向上を図るための指導・助言、保護者会への参加依頼、保護者自身が福祉的支援等を要する場合の助言等を行うなど、保護者に対する働き掛けの充実を図る。また、保護者による適切な監護が得られない場合には、地方公共団体を始めとする関係機関や民間団体等と連携し、本人の状況に応じて、社会での自立した生活や未成年後見制度の利用等に向けた指導・支援を行う。【法務省】

   カ 非行少年を含む犯罪者に対する処遇を充実させるための刑事法の整備等【施策番号80】

 法務省は、少年法における「少年」の上限年齢の在り方及び非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事法の整備の在り方についての法制審議会の答申が得られたときには、それを踏まえて所要の措置を講じる。【法務省】

  v 女性の抱える問題に応じた指導等【施策番号81】

 法務省は、女性受刑者や女子少年等について、虐待等の被害体験や性被害による心的外傷、摂食障害等の精神的な問題を抱えている場合が多いこと、妊娠・出産等の事情を抱えている場合があることなどを踏まえ、矯正施設において、このような特性に配慮した指導・支援の実施及び実施状況に基づく指導内容等の見直し、指導者の確保・育成を行うとともに、厚生労働省の協力を得て、女性の抱える問題の解決に資する社会資源を把握し、矯正施設出所後に地域の保健医療・福祉関係機関等に相談できるようにするなど、関係機関等と連携した社会復帰支援等を行う。また、法務省は、更生保護施設においても、女性の特性に配慮した指導・支援を推進するなど、社会生活への適応のための指導・支援の充実を図る。【法務省、厚生労働省】

  vi 発達上の課題を有する犯罪をした者等に対する指導等【施策番号82】

 法務省は、犯罪をした者等の中には、発達上の課題を有し、指導等の内容の理解に時間を要したり、理解するために特別な配慮を必要とする者が存在することを踏まえ、発達上の課題を有する者のための教材の整備を図るとともに、厚生労働省の協力を得て、発達上の課題を有する者に対する指導等に関する研修等の充実、関係機関との連携強化等を図る。【法務省、厚生労働省】

  vii その他の効果的な指導等の実施に向けた取組の充実

   ア 各種指導プログラムの充実【施策番号83】

 法務省は、刑事施設における、アルコール依存を含む問題飲酒、ドメスティック・バイオレンス(DV)を含む対人暴力等の再犯要因を抱える者に対する改善指導プログラムの実施や、少年院における特殊詐欺等近年の非行態様に対応した指導内容の整備、保護観察所における飲酒や暴力などに関する専門的処遇プログラムの実施など、対象者の問題性に応じた指導の一層の充実を図る。【法務省】

   イ 社会貢献活動等の充実【施策番号84】

 法務省は、犯罪をした者等の善良な社会の一員としての意識の涵養や規範意識の向上を図るため、社会貢献活動などの取組について、実施状況に基づいて取組内容等を見直し、一層の充実を図る。【法務省】

   ウ 関係機関や地域の社会資源の一層の活用【施策番号85】

 法務省は、矯正施設において、地方公共団体を始めとする関係機関及び自助グループや当事者団体を含む民間団体等の改善指導等への参画の推進、外部通勤制度・院外委嘱指導等の活用による社会内での指導機会の拡大を図るとともに、保護観察所において、地方公共団体を始めとする関係機関及び自助グループや当事者団体を含む民間団体等の協力を得ながら効果的な指導等の充実を図るなど、広く関係機関や地域社会と連携した指導等を推進する。【法務省】

 ③ 犯罪被害者等の視点を取り入れた指導等【施策番号86】

 法務省は、犯罪をした者等が社会復帰する上で、自らのした犯罪等の責任を自覚し、犯罪被害者等が置かれた状況やその心情を理解することが不可欠であることを踏まえ、矯正施設において、被害者の視点を取り入れた教育を効果的に実施するほか、保護観察所において、犯罪被害者等の心情等伝達制度の一層効果的な運用に努めるとともに、しょく罪指導プログラムを実施するなど、犯罪被害者等の視点を取り入れた指導等の充実を図る。【法務省】

 ④ 再犯の実態把握や指導等の効果検証及び効果的な処遇の在り方等に関する調査研究【施策番号87】

 法務省は、検察庁・矯正施設・保護観察所等がそれぞれ保有する情報を機動的に連携するデータベースを、再犯防止対策の実施状況等を踏まえ、効果的に運用することにより、指導の一貫性・継続性を確保し、再犯の実態把握や指導等の効果検証を適切に実施するとともに、警察庁、文部科学省及び厚生労働省の協力を得て、犯罪をした者等の再犯の防止等を図る上で効果的な処遇の在り方等に関する調査研究を推進する。【警察庁、法務省、文部科学省、厚生労働省】

第6 民間協力者の活動の促進等、広報・啓発活動の推進等のための取組(推進法第5条、第22条、第23条、第24条関係)

1.民間協力者の活動の促進等

(1) 現状認識と課題等

 我が国における再犯の防止等に関する施策の実施は、地域において犯罪をした者等の指導・支援に当たる保護司、犯罪をした者等の社会復帰を支援するための幅広い活動を行う更生保護女性会、BBS会等の更生保護ボランティアや、矯正施設を訪問して矯正施設在所者の悩みや問題について助言・指導する篤志面接委員、矯正施設在所者の希望に応じて宗教教誨を行う教誨師、非行少年等の居場所作りを通じた立ち直り支援に取り組む少年警察ボランティアなど、多くの民間ボランティアの協力により支えられてきた。また、更生保護法人を始めとする様々な民間団体等による、犯罪をした者等の社会復帰に向けた自発的な支援活動も行われており、こうした活動により、地域社会における「息の長い」支援が少しずつ形作られてきている。

 こうした再犯の防止等に関する活動を行う民間ボランティアや民間団体等の民間協力者は、再犯の防止等に関する施策を推進する上で、欠くことのできない存在であり、まさに全国津々浦々において、「世界一安全な日本」の実現に向けて陰に陽に地道な取組を積み重ねて来た方々である。

 しかしながら、保護司の高齢化が進んでいること、保護司を始めとする民間ボランティアが減少傾向となっていること、地域社会の人間関係が希薄化するなど社会環境が変化したことにより従前のような民間ボランティアの活動が難しくなっていること、民間団体等が再犯の防止等に関する活動を行おうとしても必要な体制等の確保が困難であること、刑事司法関係機関と民間協力者との連携がなお不十分であることなど、民間協力者による再犯の防止等に関する活動を促進するに当たっての課題がある。

(2) 具体的施策

 ① 民間ボランティアの確保

  ア 民間ボランティアの活動に関する広報の充実【施策番号88】

 警察庁及び法務省は、国民の間に、再犯の防止等に協力する気持ちを醸成するため、少年警察ボランティアや更生保護ボランティア等の活動に関する広報の充実を図る。【警察庁、法務省】

  イ 更生保護ボランティアの活動を体験する機会の提供【施策番号89】

 法務省は、若年層を含む幅広い年齢層や多様な職業など様々な立場にある国民が、実際に民間協力者として活動するようになることを促進するため、保護司活動を体験する保護司活動インターンシップ制度など、更生保護ボランティアの活動を体験する機会の提供を推進する。【法務省】

  ウ 保護司候補者検討協議会の効果的な実施等【施策番号90】

 法務省は、保護司候補者を確保するため、総務省、文部科学省、厚生労働省及び経済産業省の協力を得て、地方公共団体、自治会、福祉・教育・経済等の各種団体と連携して、保護司候補者検討協議会における協議を効果的に実施し、若年層を含む幅広い年齢層や多様な職業分野から地域の保護司適任者に関する情報収集を促進する。また、法務省は、同協議会で得られた情報等を踏まえて、保護司適任者に対して、実際に保護司として活動してもらえるよう、積極的な働き掛けを実施する。【総務省、法務省、文部科学省、厚生労働省、経済産業省】

 ② 民間ボランティアの活動に対する支援の充実

  ア 少年警察ボランティア等の活動に対する支援の充実【施策番号91】

 警察庁は、少年警察ボランティアの活動を促進するため、少年警察ボランティアの活動に対して都道府県警察が支給する謝金等の補助や、都道府県警察や民間団体が実施する少年警察ボランティア等に対する研修への協力を推進するなどして、少年警察ボランティア等の活動に対する支援の充実を図る。【警察庁】

  イ 更生保護ボランティアの活動に対する支援の充実【施策番号92】

 法務省は、更生保護ボランティアの活動を促進するため、更生保護ボランティアに対する研修の充実を図るとともに、BBS会による学習支援などの更生保護ボランティア活動に対する支援の充実を図る。また、法務省は、保護観察対象者等の指導・支援を担当している保護司が、保護司相互の相談・研修等の機会が得られるようにするとともに、保護司会の活動である保護司の適任者確保、“社会を明るくする運動”等の広報・啓発活動、地域の関係機関等と連携した再犯防止のための取組等を促進するため、保護司経験者や専門的知見を有する者からの助言等を受けられるようにすることを含めた保護司会の活動に対する支援の充実を図る。【法務省】

  ウ 更生保護サポートセンターの設置の推進【施策番号93】

 法務省は、保護司と保護観察対象者等との面接場所や保護司組織の活動拠点を確保するとともに、更生保護ボランティアと地域の関係機関等との連携を促進するため、総務省の協力を得て、地方公共団体等と連携して、地域における更生保護ボランティアの活動の拠点となる更生保護サポートセンターの設置を着実に推進する。【総務省、法務省】

 ③ 更生保護施設による再犯防止活動の促進等

  ア 更生保護施設の地域拠点機能の強化【施策番号94】

 法務省は、更生保護施設が、更生保護施設等を退所した者にとって、地域社会に定着できるまでの間の最も身近かつ有効な支援者であることを踏まえ、更生保護施設が地域で生活する刑務所出所者等に対する支援や処遇を実施するための体制整備を図る。【法務省】

  イ 更生保護事業の在り方の見直し【施策番号95】

 法務省は、更生保護施設が、一時的な居場所の提供だけではなく、犯罪をした者等の処遇の専門施設として、高齢者又は障害のある者、薬物依存症者に対する専門的支援や地域における刑務所出所者等の支援の中核的存在としての機能が求められるなど、現行の更生保護施設の枠組が構築された頃と比較して、多様かつ高度な役割が求められるようになり、その活動は難しさを増していることを踏まえ、これまでの再犯防止に向けた取組の中で定められた目標の達成に向け、更生保護事業の在り方について検討を行い、2年以内を目途に結論を出し、その結論に基づき所要の措置を講じる。【法務省】

 ④ 民間の団体等の創意と工夫による再犯防止活動の促進

  ア 再犯防止活動への民間資金の活用の検討【施策番号96】

 法務省は、更生保護法人のほか、NPO法人、社団法人、財団法人その他各種の団体等が、再犯の防止等に関する活動を行うための民間資金を活用した支援の在り方について検討を行い、2年以内を目途に結論を出し、その結論に基づき施策を実施する。【法務省】

  イ 社会的成果(インパクト)評価に関する調査研究【施策番号97】

 法務省は、関係府省の協力を得て、民間の団体等が行う再犯の防止等に関する活動における社会的成果(インパクト)評価に関する調査研究を行い、2年以内を目途に結論を出し、再犯の防止等に関する活動を行う民間団体等に対してその調査結果を提供し、共有を図る。【法務省】

 ⑤ 民間協力者との連携の強化

  ア 適切な役割分担による効果的な連携体制の構築【施策番号98】

 法務省は、保護司、篤志面接委員、教誨師等民間協力者が有する特性を踏まえつつ、民間協力者の負担が大きくならないよう留意しながら民間協力者との適切な役割分担を図り、効果的な連携体制を構築する。また、法務省は、再犯の防止等において、弁護士が果たしている役割に鑑み、弁護士との連携を強化していく。【法務省】

  イ 犯罪をした者等に関する情報提供【施策番号99】

 法務省は、警察庁、文部科学省及び厚生労働省の協力を得て、犯罪をした者等に対して国や地方公共団体が実施した指導・支援等に関する情報その他民間協力者が行う支援等に有益と思われる情報について、個人情報等の適切な取扱いに十分配慮しつつ、民間協力者に対して適切に情報提供を行う。【警察庁、法務省、文部科学省、厚生労働省】

  ウ 犯罪をした者等の支援に関する知見等の提供・共有【施策番号100】

 法務省は、警察庁、文部科学省及び厚生労働省の協力を得て、民間協力者に対し、犯罪をした者等に対する指導・支援に関する調査研究の成果を提供するほか、矯正施設、保護観察所等の刑事司法関係機関の職員を民間協力者の実施する研修等へ講師として派遣するなどし、民間協力者に対して犯罪をした者等の支援に関する知見等を提供し、共有を図る。【警察庁、法務省、文部科学省、厚生労働省】

2.広報・啓発活動の推進等

(1) 現状認識と課題等

 犯罪をした者等の社会復帰のためには、犯罪をした者等の自らの努力を促すだけでなく、犯罪をした者等が社会において孤立することのないよう、国民の理解と協力を得て、犯罪をした者等が再び社会を構成する一員となることを支援することが重要である。

 政府においては、これまでも、全ての国民が、犯罪や非行の防止と罪を犯した人の更生について、理解を深め、それぞれの立場において力を合わせ、犯罪のない地域社会を築こうとする全国的な運動である“社会を明るくする運動”を推進するとともに、再犯の防止等に関する広報・啓発活動や法教育などを実施し、再犯の防止等について国民の関心と理解を深めるよう努めてきた。

 しかしながら、再犯の防止等に関する施策は、国民にとって必ずしも身近でないため、国民の関心と理解を得にくく、“社会を明るくする運動”が十分に認知されていないなど、国民の関心と理解が十分に深まっているとは言えないこと、民間協力者による再犯の防止等に関する活動についても国民に十分に認知されているとはいえないことなどの課題がある。

(2) 具体的施策

 ① 再犯防止に関する広報・啓発活動の推進

  ア 啓発事業等の実施【施策番号101】

 法務省は、各府省、地方公共団体、民間協力者と連携して、推進法第6条に規定されている再犯防止啓発月間において、国民の間に広く犯罪をした者等の再犯の防止等についての関心と理解を深めるための事業の実施を推進するとともに、検察庁、矯正施設、保護観察所等の関係機関における再犯の防止等に関する施策や、その効果についての積極的な情報発信に努める。また、“社会を明るくする運動”においても、推進法の趣旨を踏まえて、再犯の防止等についてより一層充実した広報・啓発活動が行われるよう推進するとともに、広く国民各層に関心をもってもらうきっかけとするため、効果検証を踏まえて、広報媒体や広報手法の多様化に努める。【各府省】

  イ 法教育の充実【施策番号102】

 法務省は、文部科学省の協力を得て、再犯の防止等に資するための基礎的な教育として、法や司法制度及びこれらの基礎となっている価値を理解し、法的なものの考え方を身に付けるための教育を推進する。加えて、法務省は、再犯の防止等を含めた刑事司法制度に関する教育を推進し国民の理解を深める。【法務省、文部科学省】

 ② 民間協力者に対する表彰【施策番号103】

 内閣官房及び法務省は、民間協力者による優れた再犯の防止等に関する活動を広く普及し、民間の個人・団体等による再犯の防止等に関する活動を促進するため、再犯を防止する社会づくりについて功績・功労があった民間協力者に対する表彰を実施する。【内閣官房、法務省】

第7 地方公共団体との連携強化等のための取組(推進法第5条、第8条、第24条関係)

1.地方公共団体との連携強化等

(1) 現状認識と課題等

 犯罪をした者等の中には、安定した仕事や住居がない者、薬物やアルコール等の依存のある者、高齢で身寄りがない者など地域社会で生活する上での様々な課題を抱えている者が多く存在する。政府においては、犯罪をした者等の抱えている課題の解消に向けて、各種の社会復帰支援のための取組を実施してきたところであるが、その範囲は原則として刑事司法手続の中に限られるため、刑事司法手続を離れた者に対する支援は、地方公共団体が主体となって一般市民を対象として提供している各種サービスを通じて行われることが想定されている。

 この点について、推進法においては、地方公共団体は、基本理念にのっとり、再犯の防止等に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の地域の状況に応じた施策を策定し、実施する責務があることや、地方公共団体における再犯の防止等に関する施策の推進に関する計画(以下「地方再犯防止推進計画」という。)を定めるように努めなければならないことが明記された。

 こうした中、一部の地方公共団体においては、自らがコーディネーターとなって、継続的な支援等を実施するためのネットワークを構築するなどソーシャル・インクルージョン(全ての人々を孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、健康で文化的な生活の実現につなげるよう、社会の構成員として包み支え合う)のための取組が実施されつつある。

 しかしながら、地方公共団体には、犯罪をした者等が抱える様々な課題を踏まえた対応といった支援のノウハウや知見が十分でないこと、支援を必要としている対象者に関する情報の収集が容易でないことなどの課題があり、これらのことが、地方公共団体が主体的に、再犯の防止等に関する施策を進めていく上での課題となっている。

(2) 具体的施策

 ① 地方公共団体による再犯の防止等の推進に向けた取組の支援

  ア 再犯防止担当部署の明確化【施策番号104】

 法務省は、総務省の協力を得て、全ての地方公共団体に再犯の防止等を担当する部署を明確にするよう、必要な働き掛けを実施する。【総務省、法務省】

  イ 地域社会における再犯の防止等に関する実態把握のための支援【施策番号105】

 法務省は、地域における犯罪をした者等の実情や支援の担い手となり得る機関・団体の有無等といった、地域において再犯の防止等に関する取組を進める上で必要な実態把握に向けた調査等を行う地方公共団体の取組を支援する。【法務省】

  ウ 地域のネットワークにおける取組の支援【施策番号106】

 法務省は、刑事司法手続を離れた者を含むあらゆる犯罪をした者等が、地域において必要な支援を受けられるようにするため、警察庁、総務省、文部科学省、厚生労働省及び国土交通省の協力を得て、地域の実情に応じて、刑事司法関係機関、地方公共団体等の公的機関や保健医療・福祉関係機関、各種の民間団体等の地域の多様な機関・団体が連携した支援等の実施に向けたネットワークにおける地方公共団体の取組を支援する。【警察庁、総務省、法務省、文部科学省、厚生労働省、国土交通省】

  エ 資金調達手段の検討の促進【施策番号107】

 法務省は、関係府省の協力を得て、地方公共団体に対して、地域における再犯の防止等に関する施策や民間の団体等の活動を推進するための資金を調達する手段の検討を働き掛けていく。【法務省】

 ② 地方再犯防止推進計画の策定等の促進【施策番号108】

 法務省は、地方公共団体において、再犯の防止等に関する施策の検討の場が設けられるよう、また、地域の実情を踏まえた地方再犯防止推進計画が早期に策定されるよう働き掛ける。法務省は、警察庁、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省及び国土交通省の協力を得て、再犯の現状や動向、推進計画に基づく施策の実施状況等に関する情報を提供するなど、地方公共団体が地方再犯防止推進計画や再犯防止に関する条例等、地域の実情に応じて再犯の防止等に関する施策を検討・実施するために必要な支援を実施する。【警察庁、総務省、法務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省】

 ③ 地方公共団体との連携の強化

  ア 犯罪をした者等の支援等に必要な情報の提供【施策番号109】

 法務省は、警察庁、文部科学省、厚生労働省及び国土交通省の協力を得て、地方公共団体に対し、国が犯罪をした者等に対して実施した指導・支援等に関する情報その他地方公共団体が支援等を行うために必要な情報について、個人情報等の適切な取扱いに十分配慮しつつ、適切に情報を提供する。【警察庁、法務省、文部科学省、厚生労働省、国土交通省】

  イ 犯罪をした者等の支援に関する知見等の提供・共有【施策番号110】

 法務省は、警察庁、文部科学省及び厚生労働省の協力を得て、犯罪をした者等に対する指導・支援に関する調査研究等の成果を提供するほか、矯正施設、保護観察所等の刑事司法関係機関の職員を地方公共団体の職員研修等へ講師として派遣するなどし、地方公共団体に対して犯罪をした者等の支援に関する知見等を提供し、共有を図る。【警察庁、法務省、文部科学省、厚生労働省】

  ウ 国・地方協働による施策の推進【施策番号111】

 法務省は、警察庁、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省及び国土交通省の協力を得て、国と地方公共団体における再犯の防止等に関する施策を有機的に連携させ、総合的かつ効果的な再犯の防止等に関する対策を実施するため、国と地方公共団体の協働による再犯の防止等に関する施策の実施を推進する。【警察庁、総務省、法務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省】

  エ 国の施策に対する理解・協力の促進【施策番号112】

 警察庁、法務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省及び国土交通省は、必要に応じ総務省の協力を得て、国が実施する再犯の防止等に関する施策について、地方公共団体に対して周知を図り、必要な協力が得られるよう働き掛けていくとともに、地方公共団体においても、地域の状況に応じつつ、国が実施する再犯の防止等に関する施策と同様の取組を実施するよう働き掛けていく。【警察庁、総務省、法務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省】

第8 関係機関の人的・物的体制の整備等のための取組(推進法第18条、第19条関係)

1.関係機関の人的・物的体制の整備等

(1) 現状認識と課題等

 犯罪をした者等が円滑に社会に復帰することができるようにするためには、犯罪をした者等が犯罪の責任等を自覚して自ら社会復帰のために努力することはもとより、社会において孤立しないよう、犯罪をした者等に対して適切な指導及び支援を行い得る人材を確保・養成し、資質の向上を図っていくことが求められている。また、矯正施設を始めとする再犯防止関係施設は、再犯の防止等に関する施策を実施するための重要な基盤であり、その整備を推進していくことが求められている。

 しかしながら、刑事司法関係機関や保健医療・福祉関係機関等は、それぞれ十分とはいえない体制の中で業務を遂行している現状にあり、様々な課題を抱えた犯罪をした者等に対して十分な指導・支援を行うことが困難な状況にあること、例えば、矯正施設については、地域住民の避難場所等災害対策の役割をも担っているにもかかわらず、現行の耐震基準制定以前に築造されたものが多く、高齢受刑者が増加している中でバリアフリー化に対応できていない施設、あるいは医療設備が十分でない施設も存在することなど、再犯の防止等に関する施策を担う人的・物的体制の整備が急務である。

(2) 具体的施策

 ① 関係機関における人的体制の整備【施策番号113】

 警察庁、法務省及び厚生労働省は、関係機関において、本計画に掲げる具体的施策を適切かつ効果的に実施するために必要な人的体制の整備を着実に推進する。【警察庁、法務省、厚生労働省】

 ② 関係機関の職員等に対する研修の充実等【施策番号114】

 警察庁、法務省、文部科学省及び厚生労働省は、再犯の防止等に関する施策が、犯罪をした者等の円滑な社会復帰を促進するだけでなく、犯罪予防対策としても重要であり、安全で安心して暮らせる社会の実現に寄与するものであることを踏まえ、刑事司法関係機関の職員のみならず、警察、ハローワーク、福祉事務所等関係機関の職員、学校関係者等に対する教育・研修等の充実を図る。【警察庁、法務省、文部科学省、厚生労働省】

 ③ 矯正施設の環境整備【施策番号115】

 法務省は、矯正施設について、耐震対策を行うとともに、医療体制の充実、バリアフリー化、特性に応じた効果的な指導・支援の充実等のための環境整備を着実に推進する。【法務省】

再犯防止推進計画