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4.再犯防止推進計画加速化プラン ~満期釈放者対策を始めとした“息の長い”支援の充実に向けて~

4.再犯防止推進計画加速化プラン ~満期釈放者対策を始めとした“息の長い”支援の充実に向けて~

令和元年12月23日
犯罪対策閣僚会議決定

第1 本プランについて

 政府においては、「再犯防止推進計画」(平成29年12月15日閣議決定)の策定以降、同計画に基づき、関係省庁が連携協力して再犯防止施策を推進しているところ、政府目標である出所後2年以内に再び刑事施設に入所する者の割合(2年以内再入率)が、直近の平成29年出所者において初めて17%を下回るなど、着実な成果を上げつつある。

 その一方で、刑事施設内で刑期を終えて社会に復帰する満期釈放者は、出所受刑者の約4割に上るところ、その2年以内再入率は、直近の平成29年出所者において25.4%となっており、刑期終了前に社会に戻り、社会内で保護観察を受ける仮釈放者(10.7%)と比較すると、2倍以上高くなっている。「令和3年度までに2年以内再入率を16%以下にする」という政府目標を確実に達成するとともに、同目標を達成した後も更に2年以内再入率を低下させるためには、満期釈放者の再犯をいかに防ぐかが極めて重要である。

 また、満期釈放者はもとより、刑事司法手続の入口段階にある起訴猶予者等を含む犯罪をした者等の再犯・再非行を防ぐためには、刑事司法関係機関における取組のみでは十分でなく、それぞれの地域社会において、住民に身近な各種サービスを提供している地方公共団体による取組が不可欠である。現在、再犯防止の取組を積極的に進める地方公共団体も増えつつあり、こうした動きを更に促進するためにも、推進計画に掲げられている地方公共団体との連携強化をより一層推進していく必要がある。

 さらに、刑事司法手続終了後を含めた“息の長い”支援を実現していくためには、国・地方公共団体との連携はもとより、民間協力者との連携協力が不可欠である。しかしながら、民間協力者の財政基盤は脆弱であることが多く、財政上の問題から、本来、有意義な再犯防止活動が限定的な効果にとどまっている例も少なくないのが実情である。

 そのため、「再犯防止推進計画加速化プラン」として、現下の課題に対応するため、①満期釈放者対策の充実強化、②地方公共団体との連携強化、③民間協力者の活動の促進について、政府一丸となって、効果的な取組を積極的に進めていくこととする。

第2 再犯防止推進計画加速化プランの内容

1 満期釈放者対策の充実強化

(1)現状と課題の解決に向けた方向性

 満期釈放者の2年以内再入率が仮釈放者のそれと比較して高い背景として、刑事施設釈放後、仮釈放者は、保護観察を通じて、保護観察官等の指導監督を受けながら、個々の実情に応じた必要な支援に結びつける様々な援助を受ける機会があるのに対し、満期釈放者は、支援を受ける機会がより限定されていることが挙げられる。

 また、受刑者が満期釈放となる背景として最も多いのは、社会復帰後の適当な帰住先が確保されないことであり、刑事施設において仮釈放の申出がなされなかった理由の約4割を住居調整不良が占めている。そして、満期釈放者の約4割が出所後、ネットカフェやビジネスホテルなど不安定な居住環境に身を置かざるを得ない状況にある。

 さらに、満期釈放者の再犯率が高い背景としては、社会復帰後の安定した生活を送るために必要な支援を社会内で継続的に受けられていないことが挙げられる。

 こうした課題を解決するため、刑事施設と保護観察所が緊密な連携を図りながら、刑事施設入所早期に行うニーズ把握から出所後の各種支援に至るまで、切れ目のない“息の長い”支援体制を構築することで、社会での適当な帰住先を確保した状態で社会復帰させるための施策の強化を図るとともに、満期釈放となった場合であっても、地域の支援につなげる仕組みを構築することが必要である。

(2)成果目標

 令和4年までに、満期釈放者の2年以内再入者数を2割以上減少させる※1

(3)成果目標の達成に向けた具体的な取組

 ア 刑事施設入所早期からのニーズの把握と意欲の喚起

 刑執行開始時調査等により刑事施設入所早期から受刑者個々の社会復帰に向けたニーズを把握するだけでなく、刑事施設在所期間中の様々な機会において、働き掛けや指導等を行い、社会復帰に向けた意欲を高める。

 また、警察及び暴力追放運動推進センターにおいては、矯正施設と連携し、暴力団員の離脱に係る情報を適切に共有するとともに、矯正施設に職員が出向いて、暴力団員の離脱意志を喚起するための講演を実施するなど、暴力団員の離脱に向けた働き掛けを行う。【法務省、警察庁、文部科学省】

 イ 生活環境の調整の充実強化と仮釈放の積極的な運用

 刑事施設と更生保護官署の連携の下、生活環境の調整を充実強化することにより、受刑者の帰住先の確保を促進するとともに、改善指導等の矯正処遇や就労支援を始めとする社会復帰支援を充実させ、悔悟の情や改善更生の意欲のある受刑者については、仮釈放を積極的に運用する。【法務省】

 ウ 満期釈放者に対する受け皿等の確保

 釈放後の支援の必要性が高い満期釈放者について、生活環境の調整の結果に基づき、刑事施設、保護観察所、公共職業安定所、更生保護就労支援事業所、地域生活定着支援センター及び地方公共団体が、就労支援、職場への定着支援及び福祉サービスの利用支援等の面での連携を強化し、更生保護施設、自立準備ホーム、住込み就労が可能な協力雇用主、福祉施設、公営住宅等の居場所の確保に努める。また、居住支援法人と連携した新たな支援の在り方を検討する。さらに、暴力団離脱者については、警察のほか、暴力追放運動推進センター、職業安定機関、矯正施設、保護観察所、協賛企業等で構成される社会復帰対策協議会の枠組みを活用して、暴力団離脱者のための安定した雇用の場の確保に努める。【法務省、警察庁、厚生労働省、国土交通省】

 エ 満期釈放者の相談支援等の充実

 更生保護施設を退所した者に対する継続的な相談支援によるフォローアップを強化するとともに、就労支援又は居住支援と連携した満期釈放者に対する生活相談の在り方を検討する。また、暴力団からの離脱に向けた指導等を担当する警察職員等に対し、実務に必要な専門的知識を習得させるための教育・研修の充実を図る。【法務省、警察庁、厚生労働省、国土交通省】

 オ 満期釈放者対策の充実に向けた体制の整備

 満期釈放者対策の充実を図るため、刑事施設、地方更生保護委員会、保護観察所、地域生活定着支援センター等の体制を強化する。【法務省、厚生労働省】

2 地方公共団体との連携強化の推進

(1)現状と課題の解決に向けた方向性

 高齢、障害、生活困窮等の様々な生きづらさを抱える犯罪をした者等の再犯を防止し、その立ち直りを実現するためには、従来の刑務所等からの円滑な社会復帰を目的とした支援だけでは不十分であり、地方公共団体や民間団体等と刑事司法関係機関が分野を越えて連携する、切れ目のない“息の長い”支援が必要である。

 政府においては、地域における再犯防止施策を促進するため、これまで地域再犯防止推進モデル事業を通じた地方公共団体における先進的な取組の創出・共有や、地方公共団体による再犯防止推進計画策定の参考となる各種統計データ・手引き等の基礎的資料の作成、様々な機会を捉えた説明の実施などの取組を進めてきた。

 こうした中、一部の地方公共団体では、犯罪をした者等の円滑な社会復帰や再犯防止にとどまらず、誰一人取り残さない「共生のまちづくり」の一環として、住民が犯罪の被害者とならない安全・安心で活力ある共生社会を実現する「更生支援」という理念の下、条例や地方再犯防止推進計画(以下「地方計画」という。)を策定し、地方公共団体、関係機関、住民、民間団体等が主体となった取組が進められている。

 また、矯正施設が所在する地方公共団体においては、矯正施設が有する人的・物的資源等を「地域の資源・強み」と捉えて、例えば、地域で担い手が減少している伝統工芸品の制作や災害発生時に地元の地方公共団体等との連絡体制の構築や避難場所の提供といった地域と連携した防災対策を推進するなど、再犯防止と地方創生を連携させながら、地域における取組を進めているところもある。

 その一方で、本年10月1日現在、地方計画を策定した地方公共団体は、全国で22団体にとどまっており、再犯防止に向けた取組が全国で進んでいるとは必ずしもいいがたい状況にある。

 また、地方公共団体からは、地域の取組が進みにくい事情として、複合的な課題を抱える犯罪をした者等を必要な支援につなぐコーディネーターとなる人材や必要な支援を提供できる民間団体等が地域にないこと、地域での受入れについて住民の理解を得られないなどの課題があることに加えて、再犯防止・更生支援の取組を地域で進めようとする地方公共団体に対する国からの支援が十分でないことなどが指摘されている。

 犯罪をした者等の再犯防止・更生支援に不可欠な“息の長い”支援を、地域で実現するためには、国、地方公共団体、民間団体が互いの本来の役割を踏まえつつ、それぞれの分野を越えて連携するための取組が不可欠である。

 この点、再犯防止推進法においては、地方公共団体は、国との適切な役割分担を踏まえて、再犯防止施策を講ずることとされている。国は、原則として刑事司法手続の範囲で、各種の社会復帰支援を実施する役割を有している。一方、地方公共団体は、刑事司法手続終了後も含め、犯罪をした者等のうち、保健医療・福祉サービスといった各種の行政サービスを必要とするもの、特に、こうしたサービスへのアクセスが困難であるものに対して適切にサービスを提供することはもとより、複合的な課題を抱えるものについては適当な行政サービスにつなげ、地域移行を図るなど、国と連携して“息の長い”支援を実施する役割を有している。

 国と地方公共団体には、こうした本来の役割を踏まえ、垣根を越えて連携し、取組を進めることが求められている。

(2)成果目標

 令和3年度末までに、100以上の地方公共団体で地方計画が策定されるよう支援する。

(3)成果目標の達成に向けた具体的な取組

ア 地方公共団体が地方計画の策定や再犯防止施策を推進するために必要な各種統計情報を整備し、提供する。【法務省】

イ 地方公共団体や民間団体の好事例など、地域において再犯防止に取り組む上で参考となる情報を集約し、閲覧するなど、取組の横展開を図る仕組みを整備する。【法務省】

ウ 地方公共団体が効果的な再犯防止の実施体制を構築できるよう、必要な支援を実施する。【法務省、総務省】

3 民間協力者の活動の促進

(1)現状と課題の解決に向けた方向性

 “息の長い”支援を実現するためには、更生保護ボランティアや少年警察ボランティア、更生保護法人、協力雇用主、教誨師や篤志面接委員といった、これまで長年に渡って犯罪をした者等の立ち直りを支援してきた民間協力者に加え、ダルク等の自助グループ、医療・保健・福祉関係等の民間団体、企業等は不可欠な存在であり、その活動を支援する必要がある。

 取り分け、犯罪をした者等の立ち直りを支える保護司については、その活動を支援するため、地域の活動拠点である「更生保護サポートセンター」が令和元年度末までに、全ての保護司会(886か所)で設置される予定であるとともに、平成31年3月には、平成26年に全国保護司連盟と共同して策定した「保護司の安定的確保に関する基本的指針」を改訂し、保護司活動インターンシップ(地域住民等に対する保護司活動を体験する機会の提供)や保護司候補者検討協議会(地域の関係団体等が参加し、保護司候補者に関する必要な情報の収集及び交換を行うもの)を積極的に運用することとしている。

 また、更生保護施設においては、被保護者の特性等を理解し信頼関係が構築されている更生保護施設職員が、退所後に生活相談等のため自ら更生保護施設を訪れて来る者に対して、その相談に応じる等の継続的な指導や援助を行うことにより、退所者の再犯を防止するフォローアップ事業を実施しているほか、更生保護女性会員、BBS会員等の更生保護ボランティアは、地域の関係団体と連携しながら、保護観察処遇への協力や矯正施設への支援はもとより、近年は、子育て中の親子や高齢者、児童生徒等の支援として、「サロン」や「子ども食堂」の運営、「学習支援」などの取組を実施している。

 このように、近年、民間協力者の求められる役割や活動範囲は大きく広がっており、それに伴い、国による一層効果的な支援が強く求められている。また、民間協力者の財政基盤は脆弱であることが多く、財政上の問題から、地域における再犯防止活動が限定的な効果にとどまっていることも少なくないのが実情である。

 こうした課題を解決するため、“息の長い”支援に取り組む民間協力者に対する継続的支援を強化するとともに、民間資金を活用して、民間協力者による活動のための財政基盤を整備していくことが必要である。

(2)具体的な取組

ア 幅広い年齢層や多様な職業など様々な立場にある国民から保護司の適任者を得られるよう、保護司活動インターンシップ及び保護司候補者検討協議会の取組を推進するとともに、保護司適任者確保に関する調査研究を踏まえた実効性のある対策を実施する。【法務省】

イ 更生保護就労支援事業や身元保証制度、刑務所出所者等就労奨励金等を活用した協力雇用主への継続的支援の強化や、犯罪をした者等を受け入れる農福連携等による立ち直りの取組を推進するとともに、刑務所出所者等が地域社会に定着できるまでの間の最も身近かつ有効な支援者である更生保護施設の体制整備を図り、更生保護施設の地域拠点機能を強化する。【法務省、農林水産省、厚生労働省】

ウ ソーシャル・インパクト・ボンド等の成果連動型民間委託契約方式(PFS)の仕組みを通じ、社会的課題に取り組むNPO、民間企業・団体等と連携した効果的な再犯防止・立ち直りに向けた活動を推進する。【法務省、内閣府】

エ 少年を見守る社会気運を一層高めるため、自治会、企業、各種地域の保護者の会等に対して幅広く情報発信するとともに、少年警察ボランティア等の協力を得て、社会奉仕体験活動等を通じて大人と触れ合う機会の確保に努めるほか、少年警察ボランティア等の活動を促進するため、研修の実施等支援の充実を図る。【警察庁】

オ 保護司、更生保護女性会員、BBS会員、協力雇用主及び少年警察ボランティア等民間協力者の活動について、国民の理解と協力を得られるよう、新聞・テレビを始め、関係機関のウェブサイトやSNS等様々な媒体を通じた広報を充実強化するとともに、民間協力者によるクラウドファンディングや基金等の活用を促進する。【法務省、警察庁】

  1. ※1 直近の5年間(平成25年から平成29年まで)に出所した満期釈放者の2年以内再入者数の平均は2,726人であることを踏まえ、これを基準として、令和4年までに、その2割以上を減少させ、2,000人以下とするものである。