
第1節 学校等と連携した修学支援の実施等
(1)矯正施設からの進学・復学の支援【施策番号64】
法務省は、2018年度(平成30年度)から、少年鑑別所在所者が希望した場合には「修学支援ハンドブック」を配付し、自分の将来について考え、学ぶ意欲を持つことができるよう配意している。また、少年院では、出院後に中学校等への復学が見込まれる者や高等学校等への復学・進学を希望している者等を修学支援対象者として選定し、重点的に修学に向けた支援を行っている。特に、修学支援対象者等については、修学支援ハンドブック等を活用して、出院後の学びについて動機付けを図っているほか、少年院内で実施した修学に向けた支援に関する情報を保護観察所等と共有することで、出院後も本人の状況等に応じた学びが継続できるよう配意している。さらに、民間の事業者に委託して、修学支援対象者が希望する修学に関する情報の収集と提供を行っており(修学支援デスク)、2022年度(令和4年度)には、延べ265人(前年:235人)が利用した。加えて、2021年度(令和3年度)から、在院者が高等学校教育についての学びを継続するための方策として、少年院在院中から通信制高校に入学し、インターネット等を活用した学習を可能にするとともに、少年院の矯正教育で高等学校学習指導要領に準じて行うものを通信制高校での単位として認定するなどの措置を講じることを一部モデル施設において実施している。
法務省及び文部科学省は、2019年(令和元年)6月に、矯正施設における復学手続等の円滑化を図るため相互の連携事例を取りまとめ、矯正施設・保護観察所及び学校関係者に対して周知している(【施策番号61】参照)。併せて、文部科学省は、出院後の復学を円滑に行う観点から、学齢児童生徒が少年院及び少年鑑別所に入・出院(所)した際の保護者の就学義務や当該児童生徒の学籍、指導要録の取扱い等に関し、少年院における矯正教育や少年鑑別所における学習等の援助に係る日数について、学校は一定の要件下で指導要録上出席扱いにできることとするなど、適切な対応を行うよう各都道府県教育委員会等へ周知している。
また、法務省及び文部科学省は、矯正施設・保護観察所の職員と学校関係者との相互理解を深めるため、学校関係者に対し、矯正施設・保護観察所の職員を講師とした研修を積極的に実施するよう周知している。
(2)高等学校中退者等に対する地域社会における支援【施策番号65】
法務省は、保護観察対象者に対し、保護司やBBS会等の民間ボランティアと連携し、例えばBBS会員による「ともだち活動」※14としての学習支援、保護司による学習相談や進路に関する助言を実施している。また、類型別処遇(【施策番号83】参照)における「就学」類型に該当する中途退学者等の保護観察対象者に対しては、処遇指針である「類型別処遇ガイドライン」を踏まえ、就学意欲の喚起や就学に向けた学校等の関係機関との連携、学習支援等の処遇を実施している。さらに、保護観察所においては、2021年度(令和3年度)から試行した結果を踏まえて、2023年度(令和5年度)から、修学の継続のために支援が必要と認められる保護観察対象者に対し、個々の抱える課題や実情等に応じた様々な修学支援を複合的に実施する「修学支援パッケージ」を実施することとしている(資4-65-1参照)。
文部科学省は、2017年度(平成29年度)から、学力格差の解消及び中途退学者等の進学・就労に資するよう、中途退学者等を対象に、高等学校卒業程度の学力を身に付けさせるための学習相談及び学習支援のモデルとなる取組について実践研究を行うとともに、2020年度(令和2年度)からその研究成果の全国展開を図るための事業を実施しており、2022年度(令和4年度)においては、6つの地方公共団体(群馬県、愛知県、京都府、高知県、大分県、及び北海道札幌市)において同事業を実施した(資4-65-2参照)。


Column5 少年院在院者に対する高等学校教育機会の提供に関するモデル事業について
和泉学園 修学支援専門官 島浦 順介
新緑の芽がまぶしい爽やかな五月晴れの日に、A少年は本院が連携する通信制高校(八洲学園高等学校)第1期生として、和泉学園を巣立っていった。出院前の三者面談(八洲学園高等学校の先生、A少年と保護者及び執筆者)の席で、A少年は、社会に戻る不安を述べるととともに、謙遜しながら「でっかい夢を言ってもよいですか。○○大学(某私立大学)へ行きたいんです。」と力強く語っていたのが印象的だった。
本院では、2021年度(令和3年度)から少年院在院者に対する高等学校教育機会の提供に関するモデル事業を実施している(【施策番号64】参照)。これは、希望する在院者に対して、在院中の通信制高校への入学及び出院後の継続した学びに向けた調整等を行うことにより、高等学校の教育機会を提供し、出院後の安定した生活の基盤づくりにつなげるという事業である。
事業の対象となった在院者は、在院中に学校が定めた科目数の単位の修得に向けた学習を行うこととなる。本院では、「八洲部屋」と呼ばれるパソコンが設置された部屋を準備しており、在院者はその部屋を利用し、インターネットによる学習を行い、レポートを作成している。出院後は、レポートの作成、スクーリングを行い、単位認定試験を受けて、単位を修得することとなる。
在院者から時折、「高等学校卒業と高等学校卒業程度認定試験(以下「高認試験」という。)受験とどちらがよいですか。」と質問を受けることがあるが、私はどちらも併用するハイブリッド方式を勧めている。高認試験の合格科目は、申請をすれば通信制高校の単位として認定される上、何らかの事情で高等学校を卒業できなかったとしても、高認試験に合格していれば18歳以降に大学、専門学校、その他就職試験の受験が可能となる。将来、何が起こるかが分からない時代にあっては、保険も必要と考える。
アメリカの著名な心理学者マズローの人間の欲求五段階説の中に、「社会的欲求」、「所属の欲求」というものがある。人間は動物と違い、社会的生き物である。社会の中でどこかの組織や集団に属することで、心の安らぎを得ることができる。少年院入院前や在院中に高等学校を中退した在院者が、出院後、社会のどこにも属さないのは、出院後の生活の不安材料ともなることから、在院中に在籍校を持つことの意義は大きいと考える。在院者の中には、義務教育時代は教室に入れず、授業時間の50分間まともに机に座った経験を持たない者も多い。それが少年院という携帯電話にも触れない環境で過ごすことで、学ぶことの楽しさを見いだす者がいる。
私は修学支援専門官として勤務して、もうすぐ1年を迎える。日々、新しい業務に右往左往しているが、職場での自身の役割についても自覚できた。週末を利用してオープンハイスクールに参加し、この子にはこの学校が合っているのではないかと考えながら見学することを楽しみにしている今日である。
最後に、大阪府内にある3つの少年院のモデル事業の連携先として御尽力いただいている八洲学園高等学校様にこの場を借りて謝辞を述べたい。


- ※14 ともだち活動
BBS会員が、非行のある少年など生きづらさを抱えるこども・若者と「ともだち」になることを通して、それぞれの立ち直りや再チャレンジを支え、自分らしく前向きに生きていくことを促す活動。