
第1節 はじめに
政府は、令和5年3月、「第二次再犯防止推進計画」(以下「第二次計画」という。)を閣議決定した。第二次計画は、7つの重点課題と96の具体的施策により構成されており、昨年度刊行した「令和5年版再犯防止推進白書」(以下「令和5年版白書」という。)の特集では、第二次計画から新たに盛り込まれた以下の施策に注目し、かつて犯罪や非行をして処分を受けたものの、社会の構成員として安定した生活を送り、社会復帰を果たした状態にあることを「離脱」と捉え、4名の当事者の離脱までの過程に関する語りを掲載し、そこから見えてくる犯罪や非行から離脱することができた要因の分析を試みた。
再犯防止施策の効果検証の充実と検証結果等を踏まえた施策の推進【施策番号93】
法務省は、就労支援を受けた者のその後の就労継続の状況や薬物依存のある者を地域における治療・支援につなげることによる効果を把握する方法を検討するなど、再犯の防止等に関する施策についての効果検証の一層の充実を図る。また、効果検証の結果や、社会復帰を果たした者等が犯罪や非行から離脱することができた要因を踏まえ、施策の見直しを含め、再犯の防止等に関する施策の一層の推進を図る。
令和5年版白書では、上記分析の結果、犯罪や非行からの離脱の要因として、
1.立ち直りへの動機
2.衣食住の確保と仕事・学業の安定
3.良好な人間関係の構築
4.自己肯定感及び自己有用感の形成
が共通項として浮かび上がってきたと結論付けた。しかし、令和5年版白書で取り上げたのは、少年時に非行があったものの、人生の早期に立ち直った当事者、刑務所に入所した後、再入所せずに立ち直った当事者であって、生活困窮、疾病、孤独・孤立等の様々な生きづらさを抱え、犯罪を繰り返した末に社会復帰を果たした当事者の語りを掲載できなかったという課題も残った。
こうした当事者の語りを取り上げることは、刑事司法手続の段階における指導や支援のみならず、その手続が終わった後の地域における支援の在り方を含め、再犯防止施策の一層の推進を図る上で、意義があると考えられる。また、第二次計画に盛り込まれている施策の多くは、行政等によるサービス提供の仕組みであり、そのサービスの質を向上させたり、真に必要なサービスを提供したりするためには、社会復帰を果たした当事者の語りだけでなく、それらの当事者の社会復帰に向けた支援を実施してきた支援者の語りも重要である。
そこで、本特集では、令和5年版白書の「離脱」の定義を踏襲しつつ、犯罪を繰り返したものの、地域において社会復帰に向けた支援につながり、自立した社会の構成員として安定した生活を送っている3名の当事者、及びそれぞれの当事者に関わる支援者から、犯罪を繰り返した要因や離脱までの過程等に関する語りを聴取し、令和5年版白書の分析も踏まえながら、離脱の要因を改めて分析することとした。