再犯防止推進白書ロゴ

第2節 広報・啓発活動の推進等

1 再犯防止に関する広報・啓発活動の推進

(1)啓発事業等の実施【施策番号101】

 法務省は、国民の間に広く再犯の防止等についての関心と理解を深めるため、再犯防止啓発月間である7月を中心に、積極的な広報・啓発活動を展開している。2019年度(令和元年度)は、再犯防止啓発月間のメインイベントとして、中央(東京都内)及び全国8ブロックにおいてシンポジウムを開催したものの、2020年度(令和2年度)は、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、シンポジウムは中止し、ポスター等の広報媒体やSNSを活用しての広報啓発を行った。2021年(令和3年)1月には、オンラインによる再犯防止広報・啓発イベント「再犯防止ってなに?~誰ひとり取り残さないまち、そこでは~」をYouTube法務省チャンネルで生配信し、「国と地方が連携した再犯防止・更生支援の取組」をテーマとして取り上げた。番組では、山本舞衣子氏(フリーアナウンサー)がコーディネーターを務め、奈良県、愛知県、宮城県の各県で行われている再犯防止の取組をVTRで紹介しながら、トラウデン直美氏(モデル・タレント)、鈴木健一氏(伊勢市長)、野口義弘氏(協力雇用主)らコメンテーターによるクロストークを行った(写真6-101-1参照)。

写真6-101-1 オンラインによる広報・啓発イベントの様子
写真6-101-1 オンラインによる広報・啓発イベントの様子

 また、法務省は、「“社会を明るくする運動”~犯罪や非行を防止し、立ち直りを支える地域のチカラ~」を主唱している。この運動は、全ての国民が、犯罪や非行の防止と罪を犯した人たちの更生について理解を深め、それぞれの立場において力を合わせ、犯罪や非行のない安全で安心な明るい地域社会を築くための全国的な運動である。2014年(平成26年)12月に犯罪対策閣僚会議において決定した「宣言:犯罪に戻らない・戻さない」において、全ての省庁を本運動の中央推進委員会の構成員にするとともに、2015年(平成27年)からは、毎年、国民の理解を求める内閣総理大臣メッセージを発出する等、政府全体の取組としてその重要性が高まっている。再犯防止啓発月間である7月は、本運動の強調月間でもあり、全国各地において、運動の推進に当たっての内閣総理大臣メッセージや、ポスター等の広報啓発資材を活用し、地方公共団体や関係機関・団体と連携して、国民に対して広く広報啓発を行っている。

 2020年に実施した第70回“社会を明るくする運動”では、全国で2万7,256回の行事が実施され、延べ57万7,047人が参加した。同運動では、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、デジタルサイネージ等を活用した非接触型の広報や、ソーシャルネットワーキングサービス等の多様な媒体を用いた広報等が行われた。また、若年層を始めとする幅広い年齢層の方々にとって身近で親しみの持てるような広報を展開するため、更生保護マスコットキャラクターである「ホゴちゃん」の活用、吉本興業株式会社と連携した広報・啓発活動が行われた(資6-101-1参照)。

資6-101-1 第70回“社会を明るくする運動”ポスター
資6-101-1 第70回“社会を明るくする運動”ポスター

 法務省の人権擁護機関では、刑を終えて出所した人に対する偏見・差別をなくし、社会復帰に資するよう、「刑を終えて出所した人に対する偏見や差別をなくそう」を強調事項の一つとして掲げ、人権啓発冊子等の配布等、各種人権啓発活動を実施している。

 なお、法務局・地方法務局又はその支局や特設の人権相談所において人権相談に応じている。人権相談等を通じて、刑を終えた人に対する差別等の人権侵害の疑いのある事案を認知した場合は、人権侵犯事件として調査を行い、事案に応じた適切な措置を講じている。2020年における刑を終えた人に対する差別待遇に関する人権侵犯事件の件数は5件であった。

 検察庁において、学生や一般の方々を対象に実施する広報活動等において、検察庁における再犯防止・社会復帰支援に関する取組を説明するなど、再犯防止に関する広報・啓発活動を推進している。

COLUMN10 第71回“社会を明るくする運動”が推進する「生きづらさを包み込むコミュニティづくり」

法務省保護局

 法務省が主唱する“社会を明るくする運動”(以下、このコラムにおいて“社明(しゃめい)”といいます。)は、犯罪や非行のない安全で安心な明るい地域社会を築くための全国的な運動です。この“社明(しゃめい)”は、2021年(令和3年)に第71回を迎え、“生きづらさを、生きていく”をテーマに、全国各地で展開されています。

1 コロナ禍が露わにした“生きづらさ”

 “社明(しゃめい)”は、戦後の荒廃した社会の中で非行少年の増加を憂えた東京・銀座の商店街の有志によって開催された「銀座フェア―」が起源です。当時の商店街有志の方たちが、不幸な少年たちの将来をどうにか希望のあるものにしたい、暗く困難な社会を明るく照らし出したい、という願いを自然と抱くようになったことは、想像に難くありません。

 そして、今はこのコロナ禍という困難な時代です。“生きづらさ”を抱えながらも、人と人との絆を失わず、支え合いながら暮らしていきたい、社会をよりよいものにしていきたいという現代の切実な願いは、“社明(しゃめい)”がその始まりから持つ理念と共鳴するのではないだろうか。そのような考えから、今年の“社明(しゃめい)”のキーワードを「生きづらさ」に据えました。

2 “生きづらさ”と持続可能性

 SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」社会を目指すという目標は、この令和の時代において、いまだ取り残されている人たちは誰なのか、という問題意識を照らします。犯罪や非行が起きた背景を考えると、経済的・社会的貧困、虐待やいじめの問題、孤独や孤立の問題、様々な依存の問題等、犯罪や非行をした人たちは、それぞれ“生きづらさ”を抱えていることが少なからずあります。

 しかし、“社明(しゃめい)”は、“生きづらさ”を一つの背景として犯罪や非行に至った人が、自らの罪としっかり向き合って立ち直ろうとするとき、例えその“生きづらさ”が消えることはなくとも、絆と支え合いにより、再び罪を犯すことなく「生きづらさを、生きていく」ことができると考えます。その先に、安全・安心な社会があり、そして、そのような社会こそが、サステナブル、持続可能なものではないかと思うのです。

3 “生きづらさ”とコミュニティ

 現在、立ち直りを献身的に支援してくださっているのは、更生保護に携わる多くの民間協力者の方々です。そして、私たちは、より多くの方々に、地域や立場等を越えて、立ち直りを支援するコミュニティの輪に参加していただきたいと考えています。どのような参加の在り方であっても、それぞれの支援が重層的に組み合わさることによって、層の厚い豊かなコミュニティが育っていくのです。また、そのようなコミュニティは、“社明(しゃめい)”のもう1つの目標である「そもそも犯罪や非行の起こらない社会づくり」にも寄与するものです。SNSで、「#社明71」「#生きづらさを、生きていく」を発信いただくことは、“社明(しゃめい)”の考え方への共感と応援の声となります。ぜひ、御協力ください。

リーフレット
QRコード

(2)法教育の充実【施策番号102】

 法教育とは、法律専門家ではない一般の人々が、法や司法制度、これらの基礎となっている価値を理解し、法的なものの考え方を身に付けるための教育であり、法教育の実践は自他の権利・自由の相互尊重のルールである法の意義やこれを守る重要性を理解させ、規範意識をかん養することを通じて再犯防止に寄与するものである。

 法務省は、法教育の普及・啓発を進めるため、法教育推進協議会を開催し、学校における学習指導要領を踏まえた法教育の実践の在り方や教育関係者と法曹関係者による連携・協働の在り方等について多角的な視点から検討を行っている(2020年度(令和2年度)は、成年年齢引下げに向けた法教育施策の検討を含め、8回開催。)。

 なお、2020年度は、2022年(令和4年)4月に成年年齢が18歳に引き下げられることを踏まえて、契約や私法の基本的な考え方を学ぶことができる高校生向けのリーフレット(資6-102-1参照)を作成し、全国の高等学校、教育委員会等に配布した。

 また、法教育の具体的内容やその実践方法をより分かりやすくするため、発達段階に応じた法教育教材を作成し、全国の小中学校、高等学校、教育委員会等に配布するとともに、これらの教材の利用促進を図るため、同教材を活用したモデル授業例を法務省ウェブサイトで公開している。

 このほか、法教育の担い手である教員に法教育の具体的な実践方法を習得してもらうため、教員向け法教育セミナーを実施している。

 さらに、学校現場等に法教育情報を提供することによって、法教育の積極的な実践を後押しするため、法教育に関するリーフレット(資6-102-2参照)を作成し、全国の教育委員会等に配布しているほか、学校や各種団体からの要請に応じて、法務省の職員を講師として派遣し、教員、児童・生徒や、一般の人々に対して法的なものの考え方等について説明する法教育授業を実施している。

 矯正施設では主に少年鑑別所が実施しており、2015年(平成27年)の少年鑑別所法施行後、地域援助として、教員研修において少年院・少年鑑別所に関する内容を始めとする少年保護手続等について講義を行うほか、参観の機会等を利用して少年鑑別所の業務等について説明を行うなどの法教育を行っている。主な内容としては、「少年保護手続の仕組み」、「特定の非行・犯罪の防止(薬物・窃盗・暴力等)」、「生活態度・友達づきあい」、「児童・生徒の行動理解及び指導方法」等であり、2020年度には、約400回、延べ約2万4,200人に対して法教育を実施した。

 保護観察所において、学校との連携を進める中で又は広報の一環として、保護観察官や保護司が学校等に赴いて、更生保護制度等に関する説明を行うなどの法教育を実施しており、2020年度中には、約140回、延べ約8,000人に対して法教育を実施した。

 検察庁において、学生や一般の方々に対し、刑事司法制度等に関する講義や説明等を実施するなどし、法教育を推進している。

資6-102-1 成年年齢引下げに向けた高校生向けリーフレット(抜粋)
資6-102-1 成年年齢引下げに向けた高校生向けリーフレット(抜粋)
資6-102-2 法教育に関するリーフレット
資6-102-2 法教育に関するリーフレット