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欧米の車両テロ対策

車両テロを推奨(「ルーミヤ」〈第3号〉

車両テロを推奨
(「ルーミヤ」〈第3号〉

欧米では,2016年7月のフランス・ニースにおける花火見物客に対するトラック突入テロ事件を皮切りに,車両を用いたテロが多発しており,各国は,イベント会場や広場入口などの警備を強化するようになっている。

車両を用いたテロが多発する背景には,これまでのテロで車両の殺傷能力の高さが証明されるなど,社会に対するインパクトが大きいことに加え,「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)が強く推奨したことがあるとみられる。ISILは,2016年11月に発刊した機関誌「ルーミヤ」(第3号)の中で,ニースで発生したトラック突入テロを称揚した上で,車両は「多くの犠牲者を出す能力がある」,「容易に入手できるが,ナイフと違って所有していても疑惑を抱かせない」等と車両によるテロを推奨した。

欧米における主な車両テロ事件
年月日 場所 概要
2016年7月14日 フランス南部・ニース 革命記念日を祝う花火を見物するために集まっていた群衆にトラックが突入(86人死亡、434人負傷)
12月19日 ドイツ首都ベルリン クリスマスマーケットに大型トラックが突入(12人死亡,48人負傷)
2017年3月22日 英国首都ロンドン ウエストミンスター橋の歩行者に自動車が突入した後,議事堂敷地内に侵入し,刃物で警察官1人を刺殺(5人死亡,約50人負傷)
4月7日 スウェーデン首都ストックホルム 中心部の目抜き通りで,歩行者にトラックが突入(5人死亡,15人負傷)
6月3日 英国首都ロンドン ロンドン橋の歩行者にバンが突入した後,乗っていた3人組が,付近のレストランやバーなどを襲撃(8人死亡,約50人負傷)
6月19日 フランス首都パリ シャンゼリゼ通りで,警察車両に自動車が突入(実行犯のみ死亡)
8月17~18日 スペイン北東部・バルセロナ,カンブリス バルセロナ中心部の目抜き通り(17日)及びカンブリス(18日)で,人混みに車両が突入(16人死亡,130人以上負傷)
10月31日 米国東部・ニューヨーク 自転車専用レーンにピックアップトラックが突入(8人死亡,11人負傷)

こうした度重なる車両テロに対して,欧米では,歩道と車道を分離する支柱を設置した例があるほか,ハロウィン・パレードなどのイベントに際しては,会場付近にコンクリートブロックを設置したり,砂を満載して重量を増したトラックを駐車したりするなどして,その都度車両の侵入を防ぐ対策を講じてきた。

さらに,テロで使用された車両は,その多くがレンタカーや盗難車であったことから,米運輸保安庁は2017年5月,車両テロを防ぐためのガイドラインを作成し,配送業者やレンタル会社等に対し,車両のフロント部分の補強や改造といったテロの兆候を例示するとともに,レンタル時や盗難防止の注意点だけでなく,遠隔操作で車両を停車させるシステムの導入といったカージャックや内部犯行への対策を教示し,テロリストによる大型車両の入手阻止に努めるよう求めている。

しかしながら,パレード会場自体ではなく,会場付近の警備の手薄な場所を攻撃したり,ホームセンターが大型商品の持ち帰り用に貸し出すトラックを使用することで,レンタカーを借りるときに通常行われる審査を回避したりするなど,当局による対策をくぐり抜ける事例も発生している。

欧米各国は,今後,車両テロ防止対策を更に強化していくものとみられるが,抜けのない万全の対策を講じることは難しく,各国の共通した課題となっている。

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