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最近の国際テロ情勢

1 概況

2020年は,「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)が,新最高指導者アブ・イブラヒム・アル・ハシミ・アル・クラシの指導下においても,シリア及びイラクでのテロ及び宣伝活動を継続し,世界各地で関連組織等によるテロが発生するなど,ISILによるテロの脅威が続いた。

ISILは,3月,新型コロナウイルス感染症の感染拡大に関して,西側諸国等は感染症対策に追われているとの認識を示した上で,同諸国等に対するテロの準備を行うよう戦闘員,支持者等に呼び掛けるなど,感染の拡大を宣伝活動等に利用する動きを見せた。

世界各地のテロ情勢を見ると,東南アジアでは,8月,ISIL関連組織が,前年に続いてフィリピン南部で連続自爆テロを実行し,同国において自爆がテロの手法の一つとして浸透しつつある可能性がうかがわれた。欧州では,11月,オーストリア首都ウィーンで,同国では初とみられるISIL関連テロが発生するなど,ISILに関連するテロや摘発事案が相次いだ。アフリカでは,同年8月,ISIL関連組織が,モザンビーク北部で,日系及び欧米の企業が権益を有する天然ガス開発事業の対象地域に近い拠点港を占拠するなどした。

ISIL以外のテロ組織では,「アルカイダ」が,声明の発出件数を減少させながらも,西側諸国,特に米国を批判する宣伝活動を継続した。

2020年の主なテロ発生状況

2 最近の国際テロ情勢の注目点

(1) 「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)の動向

ISILは,新最高指導者アブ・イブラヒム・アル・ハシミ・アル・クラシの指導下においても,一定の勢力を維持しながら,テロ及び宣伝活動を継続した。

ISILは,シリア及びイラクにおける支配地を喪失し,最高指導者が交代した後も,両国に約1万人の戦闘員を擁しているとされるほか,約1億ドルの資金を保持しているとされる。また,同組織は,両国において不安定な政治,治安情勢が続いていることを背景に勢力を維持しているとされ,同組織に対する継続的な軍事圧力がなくなれば,比較的短期間のうちに両国で支配地を再び獲得する可能性があるとの指摘もなされた。

ISILは,同組織戦闘員がシリア及びイラク両国の間を行き来しながら,広範囲にわたってテロを継続し,特に3~5月にかけては,両国の治安部隊が新型コロナウイルス感染症対策への対応に追われ,治安対策が緩んだタイミングを好機と捉え,テロの件数を増加させた。

宣伝活動においては,新最高指導者アル・クラシによる声明は発出しなかったものの,新広報担当アブ・ハムザとされる者の声明を散発的に発出したほか,3月には,西側諸国等は新型コロナウイルス感染症対策に追われているとの認識を示した上で,同諸国等に対するテロの準備を行うよう戦闘員,支持者等に呼び掛けるなど,同感染症を宣伝活動等に利用する動きを見せた。また,7月には,西側諸国等に居住する支持者らに対し,「一匹狼」型テロの実行を呼び掛け,その手法として放火を推奨する動画を配信した。

世界各地で活動するISIL関連組織は,活発なテロ活動を継続した。アジアでは,8月,フィリピン南部において,「ISIL東アジア」(ISEA)が,前年に続いて連続自爆テロを実行した。アフリカでは,同月,モザンビーク北部において,「中央アフリカ州」が,活動地域を拡大する中,日系及び欧米の企業が権益を有する天然ガス開発事業の対象地域に近い拠点港を占拠するテロが発生した。

「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)の動向

(2) 「アルカイダ」の動向

「アルカイダ」は,2020年,前年に引き続き声明の発出件数を減少させながらも,宣伝活動を継続し,米国等でのテロを呼び掛けた。

「アルカイダ」は,3月,新型コロナウイルス感染症の感染拡大に関して,西側諸国に対する「神の罰」であると強調し,イスラム教徒に対し,同感染症の感染拡大下においても,「ジハード」を実行するよう呼び掛けた。また,同組織の最高指導者ザワヒリは,9月,米国同時多発テロ事件19周年に合わせて動画を発出し,改めて,米国を標的の筆頭に挙げた。

他方,2021年1月,ポンペオ米国国務長官(当時)は,「アルカイダ」のナンバー2ともされるアブ・ムハンマド・アル・マスリが2020年8月に死亡した旨発表した。同人の死亡は,同組織による関連組織等に対する指導力に一定の影響を及ぼすとの指摘がなされた一方,同組織はこれまで,設立者オサマ・ビン・ラディンの死亡,ISILの台頭等の危機を乗り越えてきたことから,アル・マスリの死亡は組織存続には大きく影響しない旨の指摘もなされた。

このほか,アフガニスタンで「アルカイダ」を支援しているとされる「タリバン」は,2月,米国との間で和平合意に署名した。同合意では,米国側は米軍の段階的撤退,「タリバン」側は「アルカイダ」等に米国及びその同盟国の安全を脅かすことを目的にアフガニスタンの領土を活用させないこと等が規定された。しかし,「タリバン」と「アルカイダ」は依然として緊密な関係にあるとも指摘されるなど,同合意が「アルカイダ」に及ぼす影響については不透明なまま推移した。

世界各地で活動する「アルカイダ」関連組織は,活発なテロ活動を継続した。イエメンで活動する「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)は,2月,2019年12月に米国で発生したペンサコラ海軍航空基地銃撃テロについて,全責任を負う旨宣言するなど,欧米諸国へのテロを志向する姿勢を維持した。アフリカのサヘル地域を主な活動地とする「ジャマーア・ヌスラ・アル・イスラーム・ワル・ムスリミーン」(JNIM)は,マリ,ブルキナファソ等でテロを続発させた。

「アルカイダ」の動向

(3) アジア地域における国際テロ関連動向

アジア地域では,各地でISIL関連組織によるテロが続発するなど,引き続き,ISILを中心にテロの脅威が継続した。

フィリピンでは,同国南部を拠点とするISIL関連組織「ISIL東アジア」(ISEA)が,軍等を標的としたテロを継続した。8月には,スールー州ホロ島の市街地において,女性2人による連続自爆テロを実行したところ,前年6月及び9月の国軍への自爆テロに続き,同国において自爆がテロ手法の一つとして浸透しつつある可能性が指摘された。同組織をめぐっては,同国に潜伏する複数の外国人戦闘員(FTF)と連携しているとも指摘されている。

インドネシアでは,治安当局が,ISIL関連組織等に対する摘発を強化しており,多くのテロが阻止された。ただし,そうした中でも,農民殺害テロ,警察官刺殺テロ等,小規模なテロは継続した。

アフガニスタンでは,駐留外国軍,アフガニスタン軍等の掃討作戦強化により,ISIL関連組織「ホラサン州」の戦闘員が,同国東部・クナール州に追い込まれる状況となり,勢力を2019年の最大規模4,000人から2,000人規模へと減退させたとされるものの,同組織は,首都カブールで多数の死者を出すテロを繰り返し実行するなど,高いテロ実行能力を保持していることを誇示した。このほかにも,犯行主体は不明ながら,カブールにおいて,国立総合病院を標的とした襲撃テロ(5月),サーレ第一副大統領の車列近くでの爆弾テロ(9月)等が発生するなど,同国では不安定な治安情勢が継続した。

モルディブでは,4月,南アリ環礁・マヒバッドホー島で,警察船舶等が放火されるテロが発生し,ISILが,アラビア語週刊誌「アル・ナバア」を通じ,同国での最初の攻撃として犯行を主張した。

アジア地域における国際テロ関連動向

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