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「イラクのアルカイダ」(AQI)
Al-Qaida in Iraq

イラクなどで活動するスンニ派過激組織。イラク政府,シーア派住民などを標的としたテロを実行。各種声明の発出を始めとして,「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)名などで活動。

別称 :
@AQI, Aal-Tawhid, BThe Monotheism and Jihad Group, CQaida of the Jihad in the Land of the Two Rivers(注1), DAl-Qaida of Jihad in the Land of the Two Rivers, EThe Organization of Jihad's Base in the Country of the Two Rivers, FThe Organization Base of Jihad/Country of the Two Rivers, GThe Organization Base of Jihad/Mesopotamia, HTanzim Qa'idat Al-Jihad fi Bilad al-Rafidayn, ITanzeem Qa'idat al Jihad/Bilad al Raafidaini, JJama'at Al-Tawhid Wa'al-Jihad, KJTJ, LIslamic State of Iraq, MISI, Nal-Zarqawi network, OAl-Qaida Organization of Jihad in Iraq,PIslamic State of (又はin)Iraq and the Levant(注2),QISIL,RIslamic State of (又はin) Iraq and the Sham(注3),SISIS

1 設立時期

2004年10月

2 組織・機構

(1) 最高指導者,幹部等

ア アブ・バクル・アル・バグダディ・アル・フッセイニ・アル・クレシ(Abu Bakr al-Baghdadi al-Husseini al-Quraishi)

本名:
イブラヒーム・アッワード・イブラヒーム・アリー・アル・バドリー・アル・サマッライ(Ibrahim Awwad Ibrahim Ali Al-Badri Al-Samarrai)

AQI最高指導者(ISIL最高指導者)。1971年生まれ。イラク人。2010年5月15日,AQI最高指導者であったマスリ及びAQI幹部(「イラク・イスラム国」〈ISI〉最高指導者)であったバグダディの死亡後,AQI最高指導者(ISI最高指導者)に就任した(注4)

国連安保理「アルカイダ」及び「タリバン」制裁委員会は,2010年10月,同人をAQI最高指導者として制裁対象に指定した(注5)

AQIは,2013年4月,ISIからISILへと名称の変更を宣言したが,バグダディは,引き続き,ISILにおいても最高指導者の地位にあるとみられる。

イ アブ・ムサブ・アル・ザルカウィ(Abu Musab al-Zarqawi)(死亡)
本名:アフマド・ファディル・ナザル・アル・ハレイレ(Ahmad Fadil Nazal al-Khalayleh)

「イラクのアルカイダ」(AQI)の設立者で元最高指導者。ヨルダン生まれ。2003年3月に米軍主導の「イラクの自由作戦」が開始された後,イラクへ入国し,2004年10月に「アルカイダ」のオサマ・ビン・ラディンに対して忠誠を誓い,イラク国内外で数々のテロに関与した。2006年6月,米軍の空爆で死亡した。

ウ アブ・アイユーブ・アル・マスリ(Abu Ayub al-Masri)(死亡)
別名:アブ・ハムザ・アル・ムハージル(Abu Hamza al-Muhajir)

AQI前最高指導者(「イラク・イスラム国」〈ISI〉前「首相」でISI元「戦争相」〈War Minister〉)。エジプト人。2006年6月,AQI最高指導者であったザルカウィの死亡後,最高指導者に就任し,ISI「建国」を主導した。2010年4月18日,駐留米軍及びイラク軍による合同作戦で死亡した。

エ アブ・ウマル・アル・バグダディ(Abu Omar al-Baghdadi)(死亡)
別名:アブ・アブドラ・アル・ラシッド・アル・バグダディ(Abu Abdullah al-Rashid al-Baghdadi)

AQI元幹部(ISI前最高指導者)。イラク人。2006年1月に設立されたスンニ派連合組織「ムジャヒディン諮問評議会」(MSC)(注6)において最高指導者を務めていた。2006年10月,ISI「建国」時に最高指導者に就任した。2010年4月18日,駐留米軍及びイラク軍による合同作戦で死亡した。

オ アブ・アブドラ・アル・ハッサニ・アル・クレシ(Abu Abdullah al-Hassani al-Quraishi)

AQI幹部(ISI「首相」兼ISI最高指導者代理)。2010年5月15日,AQI最高指導者(ISI「首相」兼「戦争相」)であったマスリの死亡後,ISI「首相」に就任した。

カ アル・ナセル・リディーン・イッラ・アブ・スレイマン(Al-Nasser Lideen Illah Abu Suleiman)(死亡)

ISI前「戦争相」。2010年5月14日,AQI最高指導者(ISI「首相」兼「戦争相」)であったマスリの死亡後,ISI「戦争相」に就任した。2011年2月25日,イラク治安部隊にアジトを急襲され死亡。

(2) 組織形態,意思決定機構

ア 「イラクのアルカイダ」(AQI)と「イラク・イスラム国」(ISI)や「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)との関係

AQIは,2006年10月,「MSCを始めとする複数のスンニ派組織を統合してISIを建国した」と宣言し,イラク人のアブ・ウマル・アル・バグダディが最高指導者に就任した。以後,AQIは,声明発出を始めとして,対外的にISIの名称を使用して活動してきたほか,「アルカイダ」も,声明において,AQIをISIとして呼び掛けなどを行っている(注7)

しかし,AQIは,ISI「建国」時に,ISIの攻撃方針はAQIのものと変わらない旨宣言したことなどから,AQIとISIは,ほぼ一体の存在として認識されてきた(注8)(注9)

AQIは,ISI「建国」に際して,組織名称に「イラク」及び「国(State)」を使用するとともに,「首相」,「戦争相」,「情報相」などの閣僚ポストを設置し,国家を模した組織形態を採用した。AQIは,一連の声明において,「『首長』(emir)であるアブ・ウマル・アル・バグダディを頂点とするISIを建国した」として,ISIを「国家」であると主張してきた。

AQIは,2013年4月,ISIから「イラク・レバントのイスラム」(ISIL)へと名称の変更を宣言し,以降,同組織は,声明発出を始めとして,対外的にISILの名称を使用して活動している。

イ 「イラクのアルカイダ」(AQI)内の外国人戦闘員の状況

AQIは,ISI「建国」に際し,「イラク」及び「国家(State)」を使用したが,この理由としては,「ISIはイラク人主導の政治組織」との印象を前面に出すことにより,外国人戦闘員に統制されるAQIの実態を隠した上で,スンニ派イスラム教徒内での反発を和らげ,同教徒間の支持拡大に加え,イラク人の取り込みを企図したものとみられている(注10)

米軍発表などによれば,AQIは,ISI「建国」後しばらく,組織内での比率が10パーセント以下とされる外国人戦闘員に幹部として指揮を執らせていたとされる。しかし,その後数年で,AQIはイラク人主導の組織に変化した(注11)とされるが,2011年12月に駐留米軍がイラクから撤退した後,刑務所から脱獄又は釈放された外国人戦闘員が増えたとの指摘もある(注12)

3 勢力

イラク国内に1,000人から2,000人程度(注13),シリア国内に約4,000人(注14)とも指摘されている。

4 活動地域

イラク国内では,バグダッドを中心として自爆を含むテロを継続しているほか,北部ニーナワー県及び中央部ディヤーラー県で影響力を強めつつあり,西部アンバール県でも自組織のネットワークを有している。

イラク国外でも,中東,北アフリカ及び欧州に広範な支援ネットワークを維持している。2005年8月にはイスラエル・アカバ湾で米軍艦に対してロケット弾を発射し,同年11月にヨルダンの首都アンマンのホテル3か所に対して自爆テロを実行したほか,同年12月には,レバノンで,イスラエルに向けて複数のロケット弾を発射した。

また,AQIは,2013年半ば以降,混迷を深めるシリアへも活動を拡大させている。

5 活動目的・攻撃対象

(1) 活動目的

スンニ派イスラム教徒の保護,イラク政府及びイスラエル政府の打倒を目標とするとともに,イスラム法に基づくカリフ制国家の建国を目指す(注15)ほか,欧米権益に対する攻撃も主張している(注16)。また,2013年半ば以降は,シリア・アサド政権の打倒をもその活動目標に掲げているとみられる。

(2) 攻撃対象

「十字軍」として「ジハード」の対象と位置付けるイラク駐留米軍(2011年12月の完全撤退までの間),主に軍・警察で構成されるイラク治安部隊,イラク政府,イラク政府と連携する「覚醒評議会」(注17)などのスンニ派民兵組織,シーア派住民を標的としている。また,2013年半ば以降は,シリア国内で,同国政府軍や親政府系民兵組織なども標的とした攻撃を実行している。

6 沿革

(1) 「アル・タウヒード・ワル・ジハード」としての活動

AQIの前身組織は,ザルカウィが設立及び主導した「アル・タウヒード・ワル・ジハード」(al-Tawhid wal-Jihad)である(注18)。ザルカウィは,1999年,パキスタンを経由し,アフガニスタンへ入国し,2000年頃,同国西部に訓練キャンプを設立した。同人は,欧州に亡命したヨルダン人,パレスチナ人,シリア人らを戦闘員として同キャンプに呼び寄せ(注19),「アル・タウヒード・ワル・ジハード」の勢力を拡大した。

2003年3月,イラクに対して米軍主導の「イラクの自由作戦」が開始された後,ザルカウィは当時滞在していたシリアから「アル・タウヒード・ワル・ジハード」戦闘員を率いて再びイラクに向かい,同年8月,バグダッドのヨルダン大使館に対する大規模なテロを実行したほか,バグダッドの国連事務所に対し,自動車爆弾を用いた自爆テロを実行し,セルジオ・デ・メロ国連事務総長特別代表(イラク担当)ら22人を殺害した。ザルカウィは,欧州の人的ネットワークを通じて,イラクでの「ジハード」に志願する者を数多く集め,同国に外国人戦闘員を流入させる上で大きな役割を果たしていたとされる。

2004年に入ると,駐留米軍に対し,自動車爆弾による自爆テロを頻発させたほか,同年5月に米国民間人らを殺害したことを始め,数々の外国人誘拐・殺人事件に関与した。一方,シーア派主導の政府や米軍に反発するアンバール県のスンニ派の部族長から支持を得ることにも成功し,同県を拠点として活動を拡大した。

(2) 「イラクのアルカイダ」(AQI)としての活動

ザルカウィは,2004年10月17日,「アルカイダ」のオサマ・ビン・ラディンに忠誠を誓う声明を発出し,「イラクのアルカイダ聖戦機構」(注20)の名称を使用したテロを開始した。このため,「アル・タウヒード・ワル・ジハード」は,AQIなどと称されるようになった。米国国務長官は,同年10月,イラク国内の混乱を扇動することで自由かつ多元的なイラクの存立を脅かすことを目的としているとして,AQIを「外国テロ組織」(FTO)に指定した。また,国連安保理「アルカイダ」及び「タリバン」制裁委員会は,同年10月,AQIを制裁対象に指定した。

AQIは,2004年10月26日,邦人1人を誘拐(同月30日,遺体で発見)し,当時イラクに派遣されていた我が国自衛隊の撤収を要求したほか,同年12月にはシーア派巡礼者が多数訪問するナジャフ県ナジャフやカルバラー県カルバラーでの爆弾テロ,2005年には北部モスルで,IEDなどを利用し,1か月間に約570回の攻撃を実行した。しかし,AQIは,米軍や治安部隊を攻撃するに際し民間人に被害が及ぶことを全く意に介せず,そのために無関係な民間人にも犠牲が広がったことから,従前までAQIを支持していた部族長や地元住民の反発を招いた。「アルカイダ」ナンバー2(当時)のアイマン・アル・ザワヒリは,同年7月,ザルカウィに宛てた書簡の中で,シーア派住民に対する無差別テロなどに苦言を呈したとされる。

AQIは,2006年1月,MSCの設立を宣言し,スンニ派勢力の結集に努める一方,同年2月,シーア派の聖地とされる中部サマラのアル・アスカリ・モスク(注21)を爆破し,シーア派とスンニ派の宗派対立をあおった。AQIは,同テロを自認する声明をMSCの名で発出し,MSCの活動を通じてスンニ派勢力の影響力拡大を図ったが,これは,AQIの無差別テロを際立たせることにもなり,元々AQIを支持していたアンバール県でもAQIに対する地元部族の反発が高まった。

イラク国外でも2005年8月には,イスラエル・アカバ湾で米軍艦に対してロケット弾を発射し,同年11月にヨルダンの首都アンマンのホテル3か所に対する連続爆弾テロを実行したほか,同年12月には,レバノンからイスラエルに向けて複数のロケット弾を発射した。

(3) 「イラク・イスラム国」(ISI)としての活動

AQIは,2006年6月,最高指導者ザルカウィが米軍の空爆で死亡した後,同人の死亡を発表した上で,最高指導者にアブ・アイユーブ・アル・マスリを指名した。また,AQIは,同年10月,ISIの建国を宣言し,イラク人のアブ・ウマル・アル・バグダディが最高指導者に就任することを明らかにした。

2009年には,バグダッドにおいて,シーア派住民地区における連続爆弾テロ(同年4月),司法省や県政府施設などを狙った連続自爆テロ(同年10月)及び財務省や内務省などの政府施設を狙った連続爆弾テロ(同年12月)などを実行し,400人以上を殺害し,約1,400人を負傷させたほか,シーア派住民に対する攻撃も継続した。

AQIは,2010年3月の国民議会選挙に際し,バグダッド近郊に位置するアラブ・ジャボール及びワシットで,民間の集合住宅を狙った大規模な爆弾テロを実行するなどして民間人に対する攻勢を強め,同選挙を妨害した。さらに,AQI最高指導者マスリ及び同幹部(ISI最高指導者)バグダディの死亡(2010年4月)後も,バグダッドにおいて,シーア派巡礼者を標的とした自爆テロ(同年7月),イラク軍の新兵募集事務所を標的とした自爆テロ(同年8月),キリスト教会に対する襲撃及び占拠(同年10月)などを実行した。

また,AQIは,シリアで反政府運動が発生した2011年,同国における関連組織として,「ヌスラ戦線」の結成を支援した。

(4) 「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)としての活動

AQIは,2013年4月,@ISIから「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)(注22)への名称変更,A「ヌスラ戦線」との統合,Bシリアへの活動拡大,などを発表した。「ヌスラ戦線」は,同統合を拒否したが,AQIは,以降,声明発出を始めとして,対外的にISILの名称を用いている。

7 最近の主な活動状況

(1) 概況

AQIは,近年,イラク駐留米軍の大規模な掃討作戦を受け幹部を失うとともに,支持基盤としていたイラク西部のスンニ派部族が相次いで離反したことなどから,その勢力が衰退しつつあるとの見方が大勢を占めていた。しかし,2011年10月頃からテロを頻繁に実行し,イラク駐留米軍の撤退(2011年12月18日)の4日後の同月22日には,バグダッドにおいて約60人を死亡させる大規模テロを実行し,以後,ほぼ月1回の頻度で大規模テロを実行してきた。

特に,2013年4月には,北部のハウィージャでイラク治安部隊とスンニ派との衝突が発生し,以降,宗派間の緊張が高まる中,AQIは,バグダッドでシーア派居住地区などを標的とした同時多発型の爆弾テロを継続的に実行したほか,同年7月には,刑務所を襲撃し,同組織のメンバー多数を脱走させた。さらには,イラク西部の砂漠地域に訓練キャンプを設営するなどして,テロ実行能力をイラク内外に示している。

AQIは,2013年半ば以降,シリア国内にも活動を拡大させ(注23),同国政府軍などに対する攻撃を活発化させた。同組織は,自爆を伴う襲撃を実行するなど,その戦闘力から,他の反体制派組織との共闘では主導的な役割を担うまでに至ったとされるほか,同国北部などで,一部地域を支配下に置き,生活物資の配給などを通じて地元民からの支持獲得を図っている。その一方で,シャリーアの極端な解釈による施行を進めることで,地元民からの反発も招いているほか,共闘する他の反体制派組織との間でも,支配地をめぐる衝突を繰り返している。

(2) 他勢力との連携

ア 「アルカイダ」

「アル・タウヒード・ワル・ジハード」最高指導者であったザルカウィは,2004年10月,「アルカイダ」最高指導者(当時)のオサマ・ビン・ラディンに忠誠を誓う声明を発出した。一方,同年12月,オサマ・ビン・ラディンが,同声明を受け,ザルカウィに対し「二つの河の地におけるアルカイダの指導者」という称号を授けた。この結果,「アル・タウヒード・ワル・ジハード」はAQIなどと称されるとともに,イラクにおける「アルカイダ」関連組織として認識されるようになった。

その後,「アルカイダ」のアイマン・アル・ザワヒリが,2005年9月,イラクのスンニ派組織の統一を求める声明を発出した後,AQIは,2006年1月,MSCの設立を宣言した。

また,ザワヒリは,2005年7月,ザルカウィに宛てた書簡の中で,@イラクから米国人を排除し,Aイスラム国家を樹立し,Bイラク近隣の世俗国家に紛争を拡大し,Cイスラエルと戦う,という4段階の「ジハード」戦略を示している。

ザワヒリは,2006年6月,AQI最高指導者ザルカウィが米軍の空爆により死亡した後,同人の「殉教」を称賛し,復讐を宣言する声明を発出したほか,オサマ・ビン・ラディンも翌7月にアブ・アイユーブ・アル・マスリをザルカウィの後継者として認め,「ジハード」の継続を求める声明を発出した。

さらに,ザワヒリは,2006年12月,ISI「建国」に関するAQIの声明(同年10月に「ムタイヤビーン同盟」「ムタイヤビーン同盟」の名で発出)を歓迎した上で,イラク国内のスンニ派組織に対し,ISIの名の下に合流するよう呼び掛け,AQIによるISI「建国」を支持する姿勢を示した。

AQIの最高指導者アブ・バクル・アル・バグダディは,2011年5月9日,オサマ・ビン・ラディンの死に伴い,同人への哀悼の意を表するとともに,「アルカイダ」との連帯を表明した(注24)。その後,同年8月19日には同人殺害に対する報復を行う旨を宣言した(注25)。しかし,AQIは,後継指導者となったザワヒリに対して祝福は表明したものの,同人への忠誠を示す声明は発出していない。他方,「アルカイダ」のザワヒリは,2012年9月12日に発出した声明において,ISIを「アルカイダ」の「支部」組織として名指しした(注26)

AQIは,2013年4月,@ISIから「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)への名称変更,AシリアにおけるAQI関連組織「ヌスラ戦線」との統合,Bシリアへの活動拡大,などを発表した。しかし,ザワヒリは,同年5月,これら発表の撤回を求め,AQIの活動をイラクに,「ヌスラ戦線」の活動をシリアに限定する「裁定」を両組織指導者に出したとされる。これに対して,AQIは,その後の声明で,ザワヒリの「裁定」を「罪悪」などと非難し,それに従わない意向を表明した(注27)

イ イラク国外勢力

(ア) 「ヌスラ戦線」

AQIは,2011年,シリアにおける関連組織として,同国人,アブ・ムハンマド・アル・ジャラニ(又はゴラニ)(Abu Muhammad al-Jawlani〈又はGolani〉)を指導者とする「ヌスラ戦線」の結成を支援した。「ヌスラ戦線」は,以降,首都ダマスカスなどにおいて,爆弾テロを実行したほか,2012年12月,アレッポ市西方に位置するシリア軍のシェイフ・スレイマン基地を制圧するなどして,その活動を活発化させた。米国国務省は,同月,「ヌスラ戦線」をAQIの別称として「外国テロ組織」(FTO)に指定した。

AQIは,2013年4月,「ヌスラ戦線」との統合を一方的に宣言したが,独自組織としての形態維持を求める「ヌスラ戦線」は,同統合を拒否した上で,「アルカイダ」指導者ザワヒリに対する忠誠を表明した。「ヌスラ戦線」は,シリア国内において,事実上,AQIとは並立する形で活動しているとみられる。

(イ) 「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」(AQIM)

AQIは,アルジェリアなど北アフリカの出身者を戦闘員としているほか,北アフリカ地域に支援ネットワークを有しているとされる。AQIは,2006年12月,「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」(AQIM)の前身組織「宣教と戦闘のためのサラフィスト・グループ」(GSPC)によるアルジェリア国内でのテロを称賛した。

また,AQIMは,2010年4月,殺害されたAQI最高指導者アブ・アイユーブ・アル・マスリ及びAQI幹部(ISI最高指導者)アブ・ウマル・アル・バグダディに対し,哀悼の意を表する声明を発出した。このほかAQIは,近年,AQIMとの連携を進め,AQIMから自爆テロ要員や戦闘員の派遣を受けているとされる。

(ウ) その他

このほか,AQIは,2012年10月にヨルダンの首都アンマンで西側諸国大使館や大型ショッピングセンターに対するテロを計画していたとして同国当局に逮捕された11人に対し,電子メールなどで詳細な指示及び支援を行っていたとされる(注28)

ウ イラク国内勢力

国内のスンニ派組織の結集を図るAQIは,クルド系スンニ派武装組織「アンサール・アル・イスラム」「アンサール・アル・イスラム」(AI)や武装組織「イラク・イスラム軍」(IAI)と連携している旨主張しているが,AI及びIAIは,シーア派住民に対する無差別テロを繰り返すAQIとの思想上の違いなどから,AQIとの連携を否定している。

(3) 資金獲得活動

以前は,中東諸国や,生前ザルカウィが人的ネットワークを有していた欧州のほか,イラク国内支援者からの寄附などが獲得資金の大部分であったが,最近の調達資金の中心は,イラク国内における誘拐や密輸など犯罪活動によるものとされる。このほか,ウェブサイト上で,死亡したAQIメンバーの未亡人や遺児を養うための資金の提供などを旧来の支援者に要請している(注29)

(4) リクルート活動

AQIは,2011年8月に発出した声明の中で,「もし,あなたたち(「覚醒評議会」メンバー)が後悔の念とともに我々の下に来るならば,我々はあなたたちが100万人を殺害していたとしても受け入れるであろう」などと,イラク政府と連携する「覚醒評議会」のメンバーに対し,AQIに再加入するように呼び掛けている(注30)

また,AQIは,2013年以降,インターネットを通じて,シリアで活動する欧州や中央アジア出身のメンバーを紹介するなどして,中東域外からの自組織への参加も呼び掛けている。シリアには,反体制派への参加を目的に,多数の外国人(注31)が流入しているとされるが,とりわけ,AQIなどのイスラム過激組織がこれら外国人戦闘員の受け皿になっているとの指摘もある。

年 月 日 主要テロ事件,主要動向等
03. 3  アブ・ムサブ・アル・ザルカウィが「アル・タウヒード・ワル・ジハード」を率いてシリアからイラクに入国
03. 8. 7  首都バグダッドの在イラク・ヨルダン大使館を標的とした爆弾テロを実行し,19人が死亡
03. 8.19  バグダッドの国連事務所を標的とした自爆テロを実行,国連事務総長特別代表を含む22人が死亡,邦人1人を含む100人以上が負傷
04. 3. 2  シーア派の宗教行事が行われていたバグダッド及びカルバラー市で爆弾テロを実行し,合わせて約140人が死亡,数百人が負傷
04. 7.20  南部サマワ市に派遣中の自衛隊を撤収させるよう要求する声明を発出 
04.10.17  ザルカウィが「アルカイダ」最高指導者オサマ・ビン・ラディンに忠誠を誓い,「アル・タウヒード・ワル・ジハード」から「イラクのアルカイダ聖戦機構」(「イラクのアルカイダ」〈AQI〉)に名称変更
04.10.26  邦人男性を誘拐した上で48時間以内に自衛隊を撤収させるよう要求。同人は, 同月30日にバグダッドにおいて遺体で発見
05. 8.19  イスラエル・アカバ湾で米国艦船に向けてロケット弾を発射
05.11. 9  ヨルダン・アンマン市内のホテル3か所で連続爆弾テロを実行し,60人が死亡,100人以上が負傷(ヨルダン史上最大のテロ事件)
06. 1.15  スンニ派連合組織「ムジャヒディン諮問評議会」(MSC)の設立を宣言
06. 6. 7  米軍の空爆でザルカウィが死亡
06. 6. 8  ザルカウィの後継者としてアブ・アイユーブ・アル・マスリが就任
06.10.15  「イラク・イスラム国」(ISI)の「建国」を宣言し,最高指導者にアブ・ウマル・アル・バグダディが就任
07. 2. 3  バグダディが駐留米軍の掃討作戦に対抗するテロ攻勢の実施を表明
08. 3.27  北部モスル市近郊のタルアファルで自動車爆弾を用いた爆弾テロを実行し,152人が死亡,約150人が負傷
08. 5.13  北部アルビル市近郊のマハムールで「クルド民主党」(KDP)事務所を標的とした自爆テロを実行し,約50人が死亡,約70人が負傷
08. 8.14  北部モスル市近郊のカハターニーヤで自動車爆弾を用いた連続自爆テロを実行し,少なくとも400人が死亡,約1,500人が負傷
09. 4.24  バグダッドのシーア派居住地区で連続自爆テロを実行し,60人が死亡,120人以上が負傷
09. 8.19  バグダッド中心部で外務省や財務省などの政府施設を標的とした連続自爆テロを実行し,95人が死亡,約600人が負傷
09.10.25  バグダッド中心部で司法省や県知事事務所などの政府施設を標的とした連続爆弾テロを実行し,少なくとも140人が死亡,約700人が負傷
09.12. 8  バグダッド中心部で財務省や内務省などの政府施設を標的とした連続爆弾テロを実行し,127人が死亡,約450人が負傷
10. 1.25  バグダッド中心部のホテル3か所を標的とした連続爆弾テロを実行し,少なくとも36人が死亡,約70人が負傷 
10. 4. 4  バグダッド中心部のエジプト,ドイツ,スペイン及びシリアの各大使館を標的とした連続爆弾テロを実行し,30名が死亡,約220人が負傷
10. 4.18  駐留米軍及びイラク軍による合同作戦でバグダディ及びマスリが死亡 
10. 4.17  バグダッド中心部のイラク軍新兵募集事務所を標的とした自爆テロを実行し,少なくとも59人が死亡,100人以上が負傷 
10.11. 2  バグダッドのシーア派住民地区で連続爆弾・襲撃テロを実行し,約90人が死亡,約200人が負傷
11. 1.18  北部ティクリート市の警察官募集事務所に集まった志願者を標的とした自爆テロを実行し,少なくとも60人が死亡,約100人が負傷
11.11.28  バグダッドなどで刑務所などを標的とした連続爆弾テロを実行し,少なくとも24人が死亡,約30人が負傷
11.12.18  イラク駐留米軍の撤退完了
11.12.22  バグダッドのシーア派住民地区などで連続爆弾テロを実行し,約60人が死亡
12. 3.20  バグダッド,カルバラー市などで治安機関施設などを標的とした連続爆弾テロを実行し,約50人が死亡,約250人が負傷
12. 4.19  バグダッド,北部キルクーク市などで治安機関施設などを標的とした連続爆弾テロを実行し,約40人が死亡,約150人が負傷 
12. 6.13  バグダッド,中部ヒッラ市などで,シーア派の巡礼者などを標的とした連続爆弾・襲撃テロを実行し,少なくとも59人が死亡,約200人が負傷
12. 7.23  バグダッドなどでシーア派の巡礼者及びイラク軍などを標的とした連続爆弾・襲撃テロを実行し,少なくとも107人が死亡,約270人が負傷
12. 9. 9  バグダッド,南東部アマラ市などでシーア派の住民などを標的とした連続爆弾・襲撃テロを実行し,少なくとも100人が死亡,約360人が負傷  
12.10.27  バグダッドのシーア派住民地区などで連続爆弾・襲撃テロを実行し,少なくとも40人が死亡,約100人が負傷
12.12.16
 〜17
 バグダッド,北部キルクーク市などで治安機関施設などを標的とした連続爆弾テロを実行し,少なくとも67人が死亡
13. 3. 4  西部アンバール県の対シリア国境付近で,シリア側から避難していた同国軍部隊とそれに同行していたイラク軍部隊を襲撃し,両軍兵士合わせて49人が死亡
13. 7.21  バグダッドの2つの刑務所を襲撃し,看守など26人が死亡したほか,AQIメンバーを含む収監者少なくとも500人が脱走
13. 7.29  バグダッドを含む各地で,市場などを標的とした連続爆弾テロを実行し,少なくとも60人が死亡
13. 8.10  バグダッド,北部キルクーク県などで,シーア派居住地区などを標的とした連続爆弾テロを実行し,少なくとも74人が死亡,数百人が負傷
13. 8.28  バグダッドのシーア派居住地区などを標的とした連続爆弾テロを実行し,少なくとも82人が死亡,180人以上が負傷
13. 9. 3  バグダッドのシーア派居住地区などを標的とした連続爆弾テロを実行し,少なくとも40人が死亡,100人以上が負傷
13. 9.30  バグダッドのシーア派居住地区などを標的とした連続爆弾テロを実行し,少なくとも55人が死亡,120人以上が負傷

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