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最近の国際テロ情勢

1 概況

2017年は,新年早々,トルコ西部・イスタンブールのナイトクラブで,新年を祝うために集まっていた多数の人々が襲撃されるという事件で幕が開けた。同事件で犯行を自認した「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)は,その後,シリア,イラクの政府軍,クルド人勢力,有志連合軍などによる軍事作戦の強化・進展を受け,最大の拠点であったイラク北部・モスルや「首都」と称していたシリア北部・ラッカを喪失すると,同年12月までには,シリア及びイラクにおける主要な拠点を全て失うなど,急速にその勢力を減退させた。

しかし,その一方で,欧米では,ISILの主義主張に影響を受けたとみられる者らによる一般市民らのソフトターゲットを狙ったテロが多発したほか,東南アジアでも,フィリピン南部・マラウィにおいて,ISIL支持組織が統合された武装勢力による大規模な占拠事件が発生するなど,依然,ISILの影響力が広範囲に及んでいることを示した。

シリア,イラクでISILの退潮が顕著となるにつれ,両国の近隣地域や欧州諸国では,ISIL戦闘員及びその家族らの流入が新たな脅威として指摘され始めるなど,戦闘経験やテロの実行能力を有する者の拡散・流入が懸念されるようにもなった。

また,その他の国際テロ組織についても,「アルカイダ」は,2017年には,過去5年間で最多となる件数の声明を発出するなど,求心力の回復に向けた宣伝活動を活発化させている。さらに,比較的地元志向の強いアフリカの「アル・シャバーブ」や「ボコ・ハラム」,アフガニスタンで支配地域の拡大を目指す「タリバン」など各地のイスラム過激組織も活発な活動を継続し,多数のテロを引き起こしている。

本項では,こうした最近の国際テロ情勢における主な注目点を概観する。

2017年の主なテロ発生状況

2 最近の国際テロ情勢の注目点

(1) 「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)の動向

ISILは,2014年に「イスラム国」の建国を宣言して以降,その周辺地域に「州」と称する関連組織を設立したほか,欧米や東南アジアを始めとする世界各地でテロを引き起こすなど,各国に大きな脅威を与えてきた。しかし,同組織は,諸外国からの支援を受けたシリア,イラクの両政府軍やクルド人勢力などによる地上作戦や有志連合による空爆などが強化されたことを受け,2017年末までには,最大の拠点であったイラク北部・モスルや「イスラム国」の「首都」と称していたシリア北部・ラッカを始めとする全ての拠点都市を喪失し,最盛期とされる2015年初頭と比較すると,95%以上(注1)の支配地域を失うとともに,多くの戦闘員の死亡又は逃亡などによって,勢力も約3万3,000人から1,000人未満(注2)に減少したとされる。

しかし,ISILは,退潮が顕著となる中でも,組織の生き残りを企図し,身代金目的の誘拐を行ったり,市民に 独自通貨への交換を強要したりするなどして手持ち資金の拡充を図る一方で,シリア,イラク国内の主要都市で大規模な爆弾テロを繰り返すなど,組織の健在ぶりを示した。また,欧米諸国など「国外」に対しては,テロ実行の呼び掛けを継続するとともに,各地で発生した「一匹狼」型のテロ(注3)などに対して,ISIL名の犯行声明を発出することで,自らの存在感や脅威をアピールし続けた。

そのほか,中東,北アフリカなど各地に存在するISIL関連組織(「州」)もテロを継続しており,エジプト北東部・シナイ半島で,「シナイ州」が治安機関や地元部族への攻撃を頻発させたほか,アフガニスタンやパキスタンにおいても,「ホラサン州」がシーア派住民への攻撃を繰り返すなど,各地で多くの被害をもたらしている。

「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)の動向

(2) 「アルカイダ」の動向

「アルカイダ」は,最高指導者アイマン・アル・ザワヒリや前最高指導者オサマ・ビン・ラディンの息子で将来の最高指導者候補と目されるハムザ・ビン・ラディンらの声明を相次いで発出した。こうした声明の発出は,「アルカイダ」が,「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)の弱体化を捉え,存在感を誇示するためのものとみられ,2017年は過去5年で最多の声明発出件数となった。これらの声明において,ザワヒリは,米国とその同盟国を最優先の標的として攻撃するよう呼び掛けたほか,ハムザも,欧米諸国などにおける「殉教志願者」への助言として,①イスラムの信仰を攻撃する全ての者,②ユダヤ人の権益,③米軍,④北大西洋条約機構(NATO)加盟国の権益,⑤ロシア,の順に攻撃対象を列挙した。

また,「アルカイダ」は,「グローバル・ジハード」の橋頭堡(ほ)とすべく,シリアを重視してきたが,同国における「アルカイダ」関連組織「ヌスラ戦線」は,2016年7月,「ファテフ・アル・シャーム戦線」(JFS)と改称の上,「アルカイダ」からの離脱を宣言した後,2017年1月には,自組織を発展的に解消し,「タハリール・アル・シャーム機構」(HTS)を結成した。ザワヒリは,「ヌスラ戦線」の「アルカイダ」からの離脱を拒絶しているものの,HTSは,シリアに滞在する「アルカイダ」古参メンバーらを拘束するなどの対立も生じさせており,シリアにおける「アルカイダ」の拠点作りは進展していない。

他方,イエメンを拠点とする「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)やソマリアを拠点とする「アル・シャバーブ」など「アルカイダ」関連組織は,拠点国の不安定な国内情勢に乗じ,活発な活動を続けているほか,アルジェリアを主な拠点とする「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」(AQIM)は,アフリカ中部のサヘル・サハラ地域で活動する複数の傘下組織などが「ジャマーア・ヌスラ・アル・イスラーム・ワル・ムスリミーン」(JNIM)を結成するなど,同地域への影響力を拡大させている。

「アルカイダ」及び関連組織の動向

(3) 欧米における国際テロ関連動向

欧米では,ISILが,同地域に居住する支持者らに対し,声明や機関誌などでテロの手段や標的の選定方法などを具体的に指南するなど,テロの実行に向けた呼び掛けを強めたことから,こうした呼び掛けに応じるなど,ISILの影響を受けた者らによるとみられる「一匹狼」型テロが多発した。欧米では,2017年に英国やスペインで初めてISILに関連したテロ事件が発生するなど,ISILがシリア,イラクにおいて退潮が顕著となったにもかかわらず,テロの発生国が拡大しているほか,発生件数も増加が続いており,欧米におけるISILの脅威が依然深刻な状況であることをうかがわせている。

また,テロの手法については,爆発物を用いた事例も散見されたものの,大半が刃物や車両など手近なものを用いた事件であった。特に,車両を用いたテロは増加傾向にあり,2016年7月にフランス南部・ニースで発生した花火見物客へのトラック突入事件(86人死亡,434人負傷)を機に,車両は大量の犠牲者を生み出す有用なテロの道具であるとの認識が広まっていることも示唆される。

2017年は,フランス・パリにおける連続テロ事件(2015年11月)やベルギー・ブリュッセルにおける連続テロ事件(2016年3月)のようなISIL中枢が関与し,ISILの戦闘員らが組織的に実行するテロは発生しなかった。これは,ISILの弱体化によって,ISIL中枢のテロ指揮能力が低下しているためとされるが,組織の弱体化は同時に,「外国人戦闘員」(FTF)としてシリア,イラクに渡航した者らの欧米への帰還・転入が増加する可能性も秘めている。これまでのところ,欧米への流入は大きな流れにはなっていないものの,こうした者がシリアへの渡航を果たせなかった者と結び付くなどしたテロに対する懸念が指摘され始めている。

欧米における国際テロ関連動向

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