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最近の国際テロ情勢

1 概況

2019年は,「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)が,3月にシリア及びイラクにおける全ての支配地を喪失しながらも,スリランカ同時爆破テロ事件(4月)を始め,各地でISIL関連テロが引き続き発生するなど,ISILによるテロの脅威が続いた。

ISILは,3月,最後の支配地であったシリア東部・バグズを喪失したが,その後も一定の勢力を維持し,シリア及びイラクでのテロを継続するとともに,世界各地におけるテロ実行を呼び掛けるプロパガンダの発信を継続した。10月には,最高指導者アブ・バクル・アル・バグダディが死亡したものの,米国国防総省が11月に発表した報告書では,同人の死亡による組織への打撃は限定的である旨指摘された。

世界各地のテロ情勢を見ると,東南アジアでは,フィリピン南部で活動するISIL関連組織が,従来同国では見られなかった自爆テロを相次いで実行するなど,よりインパクトのあるテロ手法を取り入れつつあることを示唆した。また,欧州や中東,アフリカなどでも,引き続きISIL関連テロが発生するなど,ISILの脅威が続いた。

ISIL以外のテロ組織では,「アルカイダ」が,求心力回復のため引き続き活発な宣伝活動を行った。こうした中,米国は,9月,「アルカイダ」初代最高指導者オサマ・ビン・ラディンの息子であり,将来の最高指導者候補と目されていたハムザ・ビン・ラディンの死亡を発表した。ただし,ハムザは組織の主要幹部でなかったとされることなどから,同人の死亡による組織への打撃は限定的との見方も一部でなされた。

2019年の主なテロ発生状況

2 最近の国際テロ情勢の注目点

(1) 「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)の動向

ISILは,米国や同国の支援を受ける「シリア民主軍」(SDF)などによる掃討作戦を受け,3月,最後の支配地であったシリア東部・バグズを喪失したものの,その後も地下に潜行するなどして一定の勢力を保持し,宣伝活動を継続した。

ISILは,支配地を喪失しながらも,シリア及びイラクに1万4,000~1万8,000人の戦闘員らを擁するほか,5,000万~3億米ドルとされる資金を所持していると指摘されている。また,ISILは,シリア及びイラクにおいて不安定な情勢が続いていることを背景に,徐々に勢力を回復させているとされ,米国国防総省が8月に発表した報告書によると,シリアでは復活の兆しを見せ,イラクでは戦闘能力を強化したとされる。

ISIL最高指導者(当時)アブ・バクル・アル・バグダディは,4月,2014年以来約5年ぶりに動画声明を発出し,ジハード継続などを主張したものの,10月,シリア北西部・イドリブにおける米軍特殊部隊の作戦で死亡した。これに関し,ISILは声明を発出してバグダディの死亡を認め,アブ・イブラヒム・アル・ハシミ・アル・クラシなる人物が新たな最高指導者に就任したことを発表するとともに,全ての関連組織に対して報復テロを呼び掛けた。なお,バグダディの死亡について,米国国防総省は,組織への打撃は限定的である旨指摘した。

アジアや中東,アフリカなどで活動するISIL関連組織は,ISILが支配地を完全に喪失する中にあっても,活発なテロ活動を継続した。アジアでは,フィリピン南部において,従来同国では見られなかった自爆テロが相次いで発生するなど,よりインパクトのあるテロ手法を取り入れつつあることが示唆された。また,アフガニスタンで活動する「ホラサン州」が同国の首都カブールなどでテロを続発させたほか,パキスタンにおいて新たなISIL関連組織とみられる「パキスタン州」の存在が確認された。アフリカでは,4月,コンゴ民主共和国において新たなISIL関連組織とみられる「中央アフリカ州」の存在が確認され,その後,同関連組織によるモザンビークへの活動地域の拡大が見られた。

「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)の動向

(2) 「アルカイダ」の動向

「アルカイダ」声明発出件数

「アルカイダ」は,引き続き宣伝活動を中心に活動を継続し,求心力の回復を企図した。

「アルカイダ」最高指導者アイマン・アル・ザワヒリは,9月,米国同時多発テロ18周年に合わせ,西側諸国などに対する戦いを世界各地で実行するよう呼び掛けるなど,声明の発出を継続した。また,オサマ・ビン・ラディンの息子であり,将来の最高指導者候補と目されていたハムザ・ビン・ラディンも,2015年以降,声明を発出していたものの,2019年9月,米国はハムザが同国の対テロ作戦で死亡したことを発表した。ハムザの死亡による組織への打撃については,同人が主要幹部でなかったとされることなどから,限定的との見方も一部でなされた。

アジアや中東,アフリカで活動する「アルカイダ」関連組織は,活発なテロ活動を継続した。イエメンを拠点とする「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)は,米軍の空爆などで複数の幹部を喪失し,指示系統が途絶しているとの指摘がある中,イエメン軍やシーア派系武装勢力「フーシー派」などを標的とするテロを継続した。シリアを拠点とする「ヌスラ戦線」(「タハリール・アル・シャーム機構」〈HTS〉)は,シリア北西部などでテロを継続した。「ヌスラ戦線」から離脱した親「アルカイダ」メンバーらで構成される「フッラース・アル・ディーン」(HAD)については,ザワヒリの影響下にあり,国際テロへの関心を有していると指摘された。アルジェリアを拠点とする「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」(AQIM)の傘下組織などで構成される「ジャマーア・ヌスラ・アル・イスラーム・ワル・ムスリミーン」(JNIM)は,マリなどで,フランス軍などに対するテロ攻撃を継続した。ソマリアを拠点とする「アル・シャバーブ」は,同国南部を中心に支配地域を保持しつつ,首都モガディシュのみならず,隣国ケニア首都ナイロビにおいてもテロを実行した。

「アルカイダ」関連動向

(3) アジア諸国における国際テロ関連動向

アジア諸国では,近年治安が安定していたスリランカにおいて,4月,ISILを支持する者らによる同時爆破テロ事件が発生したほか,各地でISIL関連組織によるテロが続発するなど,引き続きISILを中心にテロの脅威が継続した。スリランカ同時爆破テロ事件では,邦人1人を含む250人以上が死亡,邦人4人を含む500人以上が負傷した。事件後,ISIL名の犯行声明が発出された。同テロ事件は,ISILを支持する地元過激説教師ザハラン・ハシムが首謀したとされる。

フィリピンでは,南部で活動するISIL関連組織「ISIL東アジア」がテロを継続した。このうち,スールー州ホロ島では,1月に発生したカトリック教会でのテロ,6月及び9月に発生した国軍施設でのテロにおいて,従来同国では見られなかった自爆がテロの手法として用いられるなど,同組織がよりインパクトのあるテロ手法を取り入れつつあることを示唆した。

インドネシアでは,引き続き,ISIL関連組織「ジャマー・アンシャルット・ダウラ」(JAD)によるテロが発生するとともに,同組織メンバー及びその家族らによる「家族テロ」も相次いだ。10月には,ジャワ島・バンテン州で,JADメンバーの夫婦が,治安関係の大臣や地元警察幹部らを刃物で刺す襲撃事件も発生した。

アフガニスタンでは,ISIL関連組織「ホラサン州」が,活動拠点を同国東部に限定されるまでに勢力を後退させながらも,東部及び首都カブールにおいてテロ攻撃を引き続き頻発させた。ISIL関連組織以外では,同国における主要武装組織である「タリバン」が,引き続き活発にテロ活動を展開し,支配地域を更に拡大した。「タリバン」の支配下とされる行政区域は,全国407郡中68郡(2020年1月現在)となり,2018年8月から20郡増加したとされる。

パキスタンでは,5月に初めて存在が確認されたISIL関連組織「パキスタン州」が,南西部・バルチスタン州クエッタ及び南部・シンド州カラチを中心に,シーア派の一般市民や政府関係者を標的とするテロを続発させた。

アジア諸国における国際テロ関連動向

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