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最近の国際テロ情勢

2016年は,中東以外でも欧米諸国など各地で,「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)(注1)に関連したテロ事件が相次いで発生した。こうしたテロは,対ISIL有志連合による空爆などにより,ISILが領域支配を行うシリア,イラクにおいて軍事的劣勢に追いやられたことにも関連しているとみられている。すなわち,ISILは,軍事的劣勢を前提としつつ,その脅威の維持・拡大を図るべく,欧米など各地のISIL支持者らに対し,その居住地などでテロを実行するよう呼び掛けを強めたためである。その結果,これに呼応したとみられるテロ事件が多発し,ISILの影響力の拡散・浸透が強く印象付けられることとなった。

特に,欧米においては,3月にベルギー首都ブリュッセルで,ISIL戦闘員らによる大規模な連続テロ事件,さらに,6月には,米国・フロリダ州のナイトクラブでの銃乱射事件,7月及び12月にはそれぞれ,フランス南部・ニース及びドイツ首都ベルリンで大型トラックによる突入事件が発生するなど,ISILの影響を受けたとみられる者による様々な形態のテロ事件が発生した。また,欧米以外の地域においても,バングラデシュでは,首都ダッカで襲撃事件が発生したほか,インドネシア,フィリピンなどでも初めてISILに関連したテロ事件が発生した。

こうしたテロ事件の多くは,都市部においてソフトターゲットが標的となったこともあり,改めて,テロの脅威を浮き彫りにすると同時に,邦人が被害に遭う危険性も高めるものとなった。

また,ISIL以外のテロ組織も,「アルカイダ」が宣伝活動を活発化させ,求心力の回復に向けた動きを見せているほか,各地の「アルカイダ」関連組織やアフガニスタンの「タリバン」なども,依然として多くのテロ事件を引き起こしている。

本項では,最近の国際テロ情勢における主な注目点について概観する。

1 2016年に発生した主なテロ事件

2016年に発生した主なテロ事件

2 最近の国際テロ情勢の注目点

(1) 「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)の動向

「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)は,シリア北・東部及びイラク北・西部の広域を支配下に置くとともに,その周辺国などに「州」と称する関連組織を設立するなど,勢力を拡大させてきた。しかし,2015年以降,諸外国からの支援を受けたシリア,イラクの政府軍等による軍事作戦などにより,その支配地域が縮小したほか,米国が主導する有志連合の空爆などにより,対外作戦において中心的な役割を担っていたとされるアブ・ムハンマド・アル・アドナニ(注2)ら幹部が相次いで死亡した。こうした中,2016年10月には,イラク最大の拠点モスルに対する大規模な奪還作戦が,翌11月にはISILが「首都」とするシリア北部・ラッカへの軍事作戦が開始されたことにより,ISILの劣勢が一層強調される形となった。

こうした動きに対し,ISILは,シリアのアサド政権支配地域やイラク各地において,大規模な自爆テロを相次いで実行し,依然として高いテロ実行能力を誇示した。また,最高指導者アブ・バクル・アル・バグダディによるとされる声明を約1年ぶりに発出したり,機関誌等で欧米における「一匹狼」型テロ(注3)の実行を繰り返し呼び掛けたりするなど,その存在感や脅威を維持・拡大させる姿勢を見せている。

「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)の動向

(2) 「アルカイダ」の動向

「アルカイダ」は,近年,ISILの勢力拡大も相まって,求心力を低下させていたが,2016年に入り,最高指導者アイマン・アル・ザワヒリによる声明の発出が大幅に増加するなど,宣伝活動を強化するとともに,複数の古参幹部を拠点とされるアフガニスタンとパキスタンの国境地域からシリアに移動させるなど,求心力の回復や組織の生き残りを企図する動きが見られた。

また,各地に存在する「アルカイダ」関連組織は,これまで同様,拠点国の不安定な国内情勢などに乗じ,テロを継続している。特に,アルジェリア及びマリ北部を拠点とする「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」(AQIM)は,マリ南部やブルキナファソなど,その活動範囲を南方へも拡大させている。また,シリア北西部のイドリブ県を拠点としていた「ヌスラ戦線」は,2016年7月,同国で活動する他の反体制派勢力との連携を進めるためなどとして,「アルカイダ」から離脱し,新たに「ファテフ・アル・シャーム戦線」(JFS)を結成した。しかし,JFSに関しては,「アルカイダ」傘下のテロ組織としての危険性に本質的な変化はない旨指摘されている(注4)

「アルカイダ」の動向

(3) 欧米におけるISIL関連動向

欧米諸国では,ISILが,声明や機関誌を通じて,襲撃方法や標的の選定方法などを具体的に指南するなど,欧米諸国に居住するイスラム教徒に対してテロの実行に向けた呼び掛けを強めてきたことから,こうした呼び掛けに呼応するなどISILの影響を受けた者らによって引き起こされるテロが大きな脅威となっており,テロの発生地域・国も拡大傾向にある。

2016年には,年初からISILの影響を受けたとされる者らによる「一匹狼」型のテロ事件が相次いで発生し,7月には,フランス南部・ニースで,12月には,ドイツ首都ベルリンにおいて,それぞれ,大型トラックが群衆へ突入し,多くの犠牲者が出る結果となった。加えて,同年3月には,ISILの戦闘員らによる組織的テロにより,32人が死亡,邦人2人を含む340人が負傷する「ベルギー・ブリュッセルにおける連続テロ事案」(注5)が発生したほか,国外のISILの戦闘員から一定程度の指示を受けて実行されたテロ事件も発生するなどしている。

なお,欧米におけるテロ事件の詳細については,本要覧第Ⅰ部 特集「欧米諸国におけるテロの傾向と今後の展望」を参照されたい。

欧米におけるISIL関連テロ

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