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学校等に対するテロ

母校を焼き討ちした「マウテ・グループ」幹部故オマル・マウテ(フェイスブックから抜粋)

母校を焼き討ちした
「マウテ・グループ」幹部
故オマル・マウテ
(フェイスブックから抜粋)

学校や児童・教師を対象としたテロは,毎年世界各地で発生している。2017年には,フィリピン南部・マラウィ占拠(5~10月)で,「マウテ・グループ」を主力とする「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)支持武装勢力が学校を焼き討ちし,教師らを誘拐するなどしたほか,10月末に米国ニューヨーク市で発生した車両突入事件では,犯人がスクールバスに自動車を衝突させるなどした。

以下では,近年に学校等の教育施設や教育関係者が標的とされ,又はこれらが被害を受けたテロ事案(以下「学校等に対するテロ」という。)に関し,組織・地域横断的に概観し,その特徴を検討した。

1 学校等に対するテロの主な実行主体とその手法

(1) アジア

フィリピン南部では,テロ組織が,当局との交戦などに際し,学校内で,児童らを「人間の盾」として立て籠もる事件を引き起こしているほか,校内で誘拐や放火を行うなどしている。「マウテ・グループ」も,意図は不明ながら,小学生を人質に学校に立て籠もることを計画していたとされる。また,タイ南部では,同地域の分離独立を掲げる反政府武装勢力が,学校や教師を国家権力の象徴として敵視しているとされ,地元学校を標的に爆破や放火を行っているほか,インドネシアでは,首都ジャカルタに隣接するブカシを拠点とするグループが,インターナショナルスクールに対するテロを計画し,2016年3月頃にISILから資金を得ていたとされる。

また,アフガニスタンやパキスタンでは,欧米流の教育への反対を唱える武装組織等が学校の爆破や女生徒を狙った襲撃などを実行している。2016年8月,カブールのアメリカン大学が武装勢力に襲撃され,19人が死亡したほか,2017年6月には,パキスタンで中国人教師が殺害され,後者の事件については,ISILの「ホラサン州」が犯行を自認した。

(2) 欧米

欧米では,ユダヤ人学校を狙った事件が繰り返し発生してきた(注1)ほか,最近ではISIL支持者によるテロも発生した(注2)。ロシア南部・北オセチア共和国では,2004年9月,チェチェン武装勢力による学校人質立て籠もり事件で,児童・保護者ら300人以上が死亡した。

(3) 中東・アフリカ

イラク首都バグダッドや中部・ディヤーラ県では,ISILが,学校に対する爆弾攻撃を実行している。また,2014年10月には,中東などのアメリカンスクールやインターナショナルスクールの教員を攻撃するよう促す投稿が過激派系ウェブサイトに掲載されたとして,米国大使館などが自国民に注意喚起した。

一方,ナイジェリア北部では,「ボコ・ハラム」が,学校から多数の生徒を誘拐しているほか,教師の殺害,イスラム神学校以外の学校の焼き討ちを公言している。また,「アル・シャバーブ」は,2015年4月,ケニア東部・ガリッサで大学を襲撃して立て籠もるなどし,学生ら200人以上が死傷した。

2 特徴

(1)上記1から,学校等に対するテロは,①校舎の破壊を企図するもの,②児童・生徒等の人質立て籠もりを企図するもの,③殺傷を企図するもの,④誘拐を企図するもの-に大別できる。また,これらのうち複数の要素が含まれる場合もある。

(2) 上記①は,地域によっても異なるが,夜間・早朝などに校内に侵入して爆破や放火を行うものが多く,人的被害は必ずしも多くない。これは,一般的に,学校は周囲が外壁で囲まれるなど,日中の侵入は人目に付きやすいためとみられる。

(3) しかし,一旦侵入に成功すれば,諸々の防御策が裏目となり,②のように,学校はテロリストの立て籠もりの場と化す。その際には,力の弱い児童・生徒等がしばしば人質とされ,制圧作戦の実施は更に困難となる。

(4) ③は,テロ組織が敵視する特定の民族や集団が標的とされることが多く,欧米人学校が狙われる場合もある。特定の生徒等を狙った標的殺害の形を取ることもある。

(5) ④は,学校への侵入及び学校からの逃走が容易であるなどの条件が重なったときに実行されているとみられる。

3 今後警戒されるタイプのテロ

○ 現在のテロ情勢から,引き続き学校等はテロリストの標的になるおそれが高く,特に,上記③のような児童・生徒等の殺傷を企図したテロの発生が懸念される。2012年にフランス南部・トゥールーズで発生したユダヤ人学校襲撃事件は,残虐な処刑等を含むテロに反対していた「アルカイダ」からは称賛を受けなかったが,その後同組織から「グローバル・ジハード」の主導権を奪うこととなったISILは,学校への攻撃を繰り返すとともに,「敵国」の学校をテロの標的の一つとして例示すらしている(注3)

○ 特に,ISIL等が車両を用いたテロを奨励し,実際にISIL支持者らが学校を含む標的に車両を用いたテロを実行していることに鑑みれば,テロリストによる学校への車両侵入には改めて注意が必要である。通常であれば校内への出入りを1か所に絞り,校門を常時閉じているような学校でも,学校行事等の際は,複数の門を開放していることがある。テロリストがこうした「隙」を突いてトラック等で侵入し,多数の人々を殺傷したり,人質立て籠もりを行ったりすることへの警戒が必要である。

別表 最近3か年の学校等に対するテロ発生状況(未遂含む。IHS Markit社のデータに基づく)
国名 2015年 2016年 2017年
イラク 60 30 20 110
アフガニスタン 44 22 9 75
パキスタン 30 16 19 65
シリア 25 18 20 63
インド 27 25 10 62
イエメン 10 12 13 35
スーダン 17 11 4 32
リビア 10 3 11 24
トルコ 4 17 0 21
フィリピン 6 5 9 20
エジプト 10 4 4 18
ナイジェリア 5 0 12 17
タイ 6 9 2 17
ウクライナ 6 4 5 15
コロンビア 4 2 7 13
ネパール 2 7 3 12
ソマリア 5 2 3 10
コンゴ民主 2 4 3 9
カメルーン 1 2 5 8
米国 1 3 4 8
バングラデシュ 4 3 0 7
サウジアラビア 0 1 5 6
ギリシャ 0 2 4 6
フランス 4 0 2 6
ケニア 2 1 2 5
ミャンマー 1 2 2 5
ロシア 0 3 2 5
パレスチナ 5 0 0 5
ベネズエラ 0 1 3 4
スウェーデン 3 1 0 4
南スーダン 2 0 1 3
英国 0 2 1 3
中央アフリカ 2 1 0 3
ブルンジ 0 0 2 2
ブルキナファソ 0 0 2 2
マリ 0 0 2 2
エチオピア 1 0 1 2
メキシコ 0 2 0 2
チュニジア 0 2 0 2
イスラエル 2 0 0 2
コンゴ 0 0 1 1
コソボ 0 0 1 1
ニジェール 0 0 1 1
タンザニア 0 0 1 1
アルジェリア 0 1 0 1
ボリビア 0 1 0 1
南アフリカ 0 1 0 1
カナダ 1 0 0 1
ドイツ 1 0 0 1
ハンガリー 1 0 0 1
イラン 1 0 0 1
アイルランド 1 0 0 1
レバノン 1 0 0 1
307 220 196 723

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