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欧州でイスラム過激思想に感化されたテロが多発する要因

欧州においては,近年,何らかの形でイスラム過激思想の影響を受けた「一匹狼」によるテロが多発している。こうしたテロの実行犯の多くは,欧州域内に居住している移民やその背景を持つ者であった。欧州人口の4.9%(約2,500万人)がムスリムとされ,特に,2017年にテロが多発したフランス(8.8%),ベルギー(7.6%),英国(6.3%)は,欧州内でもムスリム人口の割合が高いとされる(注1)。それぞれのテロ実行犯には様々な背景が見られるが,欧州における過激化の要因やテロ実行を容易にしている背景については,以下のような指摘がされている。

世俗主義社会との不統合

欧州では,イスラム教徒の女性が顔や全身を覆うブルカやニカブなどに関し,宗教的中立性に反するとして公共の場で着用することを禁止する国や地域がある。特に,フランスは,政教分離(ライシテ)の原則から,例えば,イスラム教徒の女性が公共の場でこそ着用する必要のあるブルカなどを公共の場で着用できないといったように,国家の基本原則とイスラム社会の習慣が相容れない状況が発生しており,こうしたことが意図せず,ムスリムに被差別意識を抱かせる要因の一つとなっているとの見方もある。

高い失業率や犯罪率

フランクランド刑務所の画像

フランクランド刑務所
(英国法務省プレスリリース)

移民の若者の失業率は各国の国内平均よりも概して高く,将来への希望を持てず,中には,麻薬取引などの犯罪に関与する者も多い。例えば,多数のテロリストを生み出したベルギー首都ブリュッセルのモレンベーク地区の若者の失業率は約40%とのデータもある。また,犯罪への関与については,フランスでは,受刑者の40~50%がムスリムで,都市部の刑務所では60%を超えているものもあるとの指摘(注2)もあるなど,欧州における受刑者に占めるムスリムの割合は高いとされる。

刑務所における過激化

欧州では,テロ関連犯罪の受刑者が,他の犯罪による受刑者から隔離されることなく収監されることが珍しくない。収監前はイスラム過激思想に無関心だった人物が,収監中に過激主義者と接触し,短期間のうちに過激化する事例が複数確認されている。例えば,2017年8月にスペインで発生したテロの首謀者とされる人物は,2004年に同国で発生した列車の同時爆弾テロで服役中の受刑者と刑務所内で接触し,過激化したとされる。また,英国の著名な過激主義者アンジェム・チョウダリーは,2016年9月に反テロ法違反で有罪判決を受け収監された後,過激主義者を隔離するために新設されたフランクランド刑務所に移送される2017年9月までの間,一般の服役囚と接触し,過激な思想を広めることができる状態に置かれていた。

さらに,ムスリム受刑者が,収監中に過激思想に感化されやすい背景として,礼拝用の絨(じゆう)毯(たん)の持込みを禁じられたことやハラール食品の提供がなされないことなどにより,刑務所内で差別的な待遇を受けたと思い込み,不満を抱えることも指摘されている(注3)。加えて,刑務所内で,過激思想に触れた者に脱過激化を促す役割を果たすはずのイマーム(導師)の人員不足も,刑務所における過激化を抑制できない要因の一つとされる。

武器の「闇市場」

欧州には,ベルギーの主要都市やオランダ・アムステルダム,フランス・パリなど各地に武器の「闇市場」が存在しているとされ,1990年代には,紛争地となったバルカン半島から大量の銃が流入するなどした。そのため,欧州では,武器の入手が容易となっており,週刊紙「シャルリー・エブド」社襲撃事件(2015年1月)やフランス・パリ連続テロ事件(2015年11月)の実行犯は,ベルギー・ブリュッセルのモレンベーク地区の「闇市場」で武器を調達したとされる。

「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)は,こうした状況を巧みに利用し,プロパガンダ等を通じて欧州への攻撃を呼び掛けるなどした結果,「一匹狼」型のテロを多発させることに成功し,ISIL等イスラム過激組織に影響を受けた者によるテロは今後も引き続き発生するものとみられる。このため,欧州各国では,治安・情報機関の強化に加え,宗教関係者などの協力を得ながらイスラム教の正しい知識の習得等を通じた過激化防止及び脱過激化に向けた取組が進められている。

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