「犯罪問題を考える」(法務総合研究所の研究官に聞く)
「犯罪問題を考える」(法務総合研究所の研究官に聞く)

犯罪白書

昨年も,11月に「平成21年版犯罪白書」(挿絵参照)が刊行されましたね。

研究官

犯罪を少なくするための対策を考えるためには,どのような犯罪がどの程度発生しているのかという実態を把握し,犯罪の原因も探らなければなりません。また,例えば,刑務所で受刑者がどのような処遇を受け,それが犯罪者の更生にどのように役立っているかを分析することも必要です。

そのため,法務総合研究所では,多くの統計データを利用して,様々な視点から,我が国の犯罪の実態を把握するための資料を提供する目的で,犯罪白書を刊行しています。昭和35年から,毎年,刊行され,平成21年版で50回目を数えることとなりました。


我が国でも,近年は,治安の問題に大きな関心が集まっていますね。

研究官

戦後の高度成長期以降,我が国は,世界で一番安全な国であることを誇ってきました。

しかし,平成に入ったころから,犯罪状況は,悪化し続けました。毎年,犯罪白書の最初に出てくるグラフ(次表参照)は,刑法犯の認知件数(警察が被害届などを受けて犯罪の発生を把握した件数)などの推移を表したものです。この件数は,平成14年に約369万件を記録し,我が国の安全神話は大きく崩れたのです。そのため,刑務所収容人員も,平成18年には,8万人を超え,過剰収容の状態になりました。


その後,犯罪情勢は落ち着いてきているのですか。

研究官

刑法犯の認知件数は,平成15年以降,毎年,減少し続け,平成20年には約253万件まで減りました。刑務所収容人員も,7万人台の半ば程度まで減っています。

これらの数字だけを見れば,治安は,改善しつつあるといえるでしょうが,昭和の時代と比較すると,まだまだ,安心できるような状態ではありません。しかも,最近は,景気が非常に悪化しています。過去を見ますと,失業者が増えると,少し遅れて犯罪が増加していますので,また,犯罪は増加するかもしれません。


再犯も大きな問題であるといわれていますね。

研究官

犯罪を犯した者が二度と犯罪を繰り返さないようにすることは,犯罪を少なくするためにも,重要なテーマです。しかし,残念ながら,例えば,刑務所を出所した者のうち,約4割は,出所から5年以内に,再び,刑務所に戻ってきています。


刑務所などの処遇で犯罪者を改善更生させることが重要なのですね。

研究官

そのとおりです。刑務所では,犯罪者を改善更生させるために,指導を充実させるなど,努力を重ねていますし,受刑者も,努力をしています。

しかし,刑務所を出所した者の中には,家族に見放され,仕事もない者も少なくなく,また,犯罪を重ねることもあるのです。そのため,法務省では,平成18年から,出所者などが仕事に就けるように支援するという対策なども行っています。


裁判員制度が始まり,国民は,刑事司法にもこれまで以上に大きな関心をもつようになっていると思います。私も,犯罪白書で,犯罪について考えてみたいと思います。

研究官

宣伝させていただくと,最近の犯罪白書は,CD−ROM付きのものが,政府刊行物サービス・センターなどで購入することができます。全国の主要な図書館でも閲覧できますし,法務省のホームページでも,過去のすべての犯罪白書の内容を閲覧できます。

犯罪対策も,国民の税金で行われています。皆さんに,犯罪対策の重要性を理解していただくためにも,是非,犯罪白書にも関心をもっていただければと思います。

刑法犯 認知件数の推移


お答えします 「法教育」について

お答えします


Q:法教育って何?

:法教育とは,法律の専門家ではない人々が,法や司法制度,これらの基礎になっている価値を理解し,法的なものの考え方を身につけるための教育です。私たちが安心して暮らせる自由で公正な社会をつくるためには,国民一人ひとりが,法的なものの考え方を理解し,身につけることが必要ですから,法教育はとても重要なものです。
学習指導要領の改訂により,平成23年から,学校の授業でも法教育が取り上げられます。


Q:法教育では,どんな勉強をするの?

:法律の条文や知識を暗記することは法教育の目的ではありません。法教育では,例えば,クラスのルールづくりを通じて,争いごとが起こった場合の解決方法を考えたり,模擬裁判を行うことなどを通じて,法やルールの目的はなにか,司法や裁判が社会の中でどんな役割を果たしているかなどを学びます。


Q:法務省は,法教育に関してどんなことをしてるの?

:法務省では,これまで,学校の先生向けに法教育のテキストなどを作ってきましたが,平成21年から,法務省の職員が学校で法教育の授業を行うという取組みも始めました。詳しくは,法務省ホームページの法教育に関するコーナーを見てください。