自立更生促進センター構想の現状について
自立更生促進センター構想の現状について

刑務所を出ても,頼るべき親族がなく,仕事もない中で,すぐに自分一人の力で生活しながら更生することは,決して簡単なことではありません。こうした人たちを確実に更生できるようにするためには,刑務所からの釈放と同時に国が手を離し,いきなり社会に戻すのではなく,出所後も一定期間,国の専門機関により,犯罪とは縁のない健全な社会生活を送れるよう,指導や援助をしていくことが必要です。

自立更生促進センター構想とは,親族のもとや民間の更生保護施設では受入れが困難な刑務所出所者等を,保護観察所に整備した宿泊施設で受け入れ,保護観察官による直接かつ濃密な指導監督と手厚い就労支援を行うというものです。これにより,これまでの運用では十分な社会内処遇を受けることができなかった刑務所出所者等の改善更生を助け,再犯を防止し,安全・安心な国づくりを推進しようというものです。

このうち,入所者の特定の問題性に応じた重点的・専門的な社会内処遇を実施するものを「自立更生促進センター」と呼び,主として農業等の職業訓練を行うものを「就業支援センター」と呼んでいます。


北九州自立更生促進センター
北九州自立更生促進センター

平成21年6月29日,国内初の自立更生促進センターとして,「北九州自立更生促進センター」が開所しました。

北九州自立更生促進センター(以下「北九州センター」といいます。)は,福岡保護観察所北九州支部に附設される宿泊施設として,福岡県北九州市小倉北区の小倉港湾合同庁舎に整備されました。

施設には食堂,浴室,教室,休憩室等を完備しており,保護観察官が24時間365日体制で常駐して,入所者の指導に当たっています。入所者の定員は,成人男性14名となっています。

北九州センターには,福岡保護観察所北九州支部管内の保護司活動の拠点として,「北九州ブロック保護司センター」が併設されています。北九州ブロック保護司センターでは,犯罪予防活動や非行相談などの保護司会活動を行うほか,北九州センター入所者に対する生活指導やアドバイスなど,入所者の処遇に保護司としての立場から御協力いただいています。


北九州センターにはどんな人が入所するの?

受刑者のうち,刑務所での成績が比較的良好であるものの,現状では適切な帰住先を確保できないため仮釈放されず,満期釈放となっていた者を対象として,仮釈放の上入所させます。

具体的には,民間の更生保護施設に帰住できるよう調整を行ったものの,受け入れられなかった者の中から,集団生活への適応が見込まれること,十分な就労意欲があり稼働能力が備わっていることなどの事情を考慮して,入所させることになります。

北九州センターに入所することとなった場合は,特別遵守事項によって,「北九州自立更生促進センターに宿泊して指導監督を受けること」が義務付けられ,これに違反した場合は仮釈放が取り消されることがあります。


北九州センターにはどのくらいの期間入所するの?

入所期間は,原則として3か月です。

北九州センター入所中は,入所者に応じて,特定の犯罪的傾向を改善するためのプログラムを行ったり,生活指導や他人とのコミュニケーションをスムーズに行う方法などについての指導を集中的に実施するなど,濃密な指導監督を行います。また,北九州センター近隣の協力雇用主やハローワークの協力を得て,充実した就労支援を実施します。休日には,地域での清掃活動等を積極的に実施します。


北九州センターを出た後はどうなるの?

北九州センター入所者が退所した後に帰る場所を確保できるようにするため,入所直後から,親族との関係を調整したり,アパートを借りられるよう調整するとともに,転居先のハローワーク等と連携しながら退所先での仕事を確保します。入所期間経過後は,調整した転居先に転居して,保護観察を受けながら残りの刑期を過ごすことになります。


茨城就業支援センター
茨城就業支援センター

茨城就業支援センター(以下「茨城センター」といいます。)は,茨城県ひたちなか市にある水戸保護観察所ひたちなか駐在官事務所に整備された宿泊施設で,平成21年9月に運営を開始しました。


茨城センターができるまで

犯罪者の改善更生のためには安定した職を得ることが重要となります。就労に失敗してしまうと,生活資金を失うと同時に,誇りを失い,ヤケを起こしたりするので,再犯の危険性が高まることになります。しかし,現実問題として,職を得ることは簡単ではありません。犯罪の前歴が足かせになったり,資格や職業経験の少なさが壁になることもあります。また,成長する過程で自分を適切にコントロールするすべを身に付けてこなかったため,ちょっとしたきっかけで仕事をやめてしまったりもします。

他方,従来,更生保護では,農業の分野にあまり注目してきませんでした。しかし,昨今,会社形態で農業を行う農業法人が増加し,就業先としての農業が注目されており,また,農作業による精神的安定などの効果も語られるようになりました。

そこで,法務省が刑務所出所者等を宿泊させる施設を整備,運営し,厚生労働省と農林水産省が農業の職業訓練や就労支援を行うかたちで,三省が連携して刑務所出所者等の円滑な社会復帰に取り組むことになりました。


茨城センターにはどんな特徴があるの?

茨城センターでは,@職業訓練により農業の技能や知識を習得させることで職業能力の向上を図り,A退所後の農業法人等への就業の支援を行うことで具体的な就労の道筋を確保し,B保護観察官による直接処遇を通じて考え方や行動の変容を図ることによって,改善更生・再犯防止を促進することを目的としています。

単に衣食住の提供や仕事の紹介をするというだけではなく,職業訓練という形で具体的な技能等の向上を目指すという特徴があり,その実効性が期待されるところです。

茨城センター入所定員は,成人男子12名です。

施設には保護観察官5名と非常勤職員を配置し,24時間365日体制で執務しています。


茨城センターにはどんな人が入所するの?

入所の対象は刑務所からの仮釈放者や満期釈放者が主です。

入所者の選定に当たっては,農業の職業訓練をやり遂げ,将来,農業に就く意欲があるかどうか,集団生活になじめるかどうかなどを検討し入所者として選定します。


茨城センターではどんな生活をするの?

入所した人には,門限,禁酒,就寝起床時間といった規則を守ってもらいます。

入所中の職業訓練については,厚生労働省から,茨城県内の農業者に実習を中心とした訓練を委託することにより実施します。期間は6か月間で,その間は茨城センターから訓練先まで週5日間程度通うことになります。訓練先では,職員が入所者の様子を見守り,委託先との連絡調整等にあたります。農業に関する知識を学ぶため,いわゆる座学による講義を行う際は,茨城センター内の教室を使用することもあります。


茨城センターを出た後はどうなるの?

職業訓練を修了し,茨城センターを退所するときには,退所後の住居を調整するとともに,厚生労働省,農林水産省と連携して,農業生産法人等への就労などを支援します。現在,自立先の農業者の開拓・確保が重要な課題となっており,農業関係団体等を回って,協力のお願いをしているところです。


自立更生促進センター構想は,刑務所出所者等の自立更生を支援し再犯を防止することを目的としており,安全・安心な地域社会を構築するため不可欠なものです。今後とも自立更生促進センターや就業支援センターの着実な運営に努めてまいりたいと考えておりますので,皆様の御理解,御協力をお願い申し上げます。