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第1節 就労の確保等

第2章 就労・住居の確保等のための取組
第1節 就労の確保等
1 職業適性の把握と就労につながる知識・技能等の習得

(1)職業適性等の把握【施策番号1※1

(2)就労に必要な基礎的能力等の習得に向けた指導・支援【施策番号2】

 法務省は、矯正施設※2において、就労支援体制の充実のため2006年度(平成18年度)からキャリアコンサルティング等の専門性を有する非常勤職員である就労支援スタッフを配置しており、2020年(令和2年)4月現在、刑事施設※376庁、少年院43庁に配置している。就労支援スタッフは、個別面接等により就労意欲や職業適性等を把握するためのアセスメントを実施するなど、受刑者等に対するキャリアカウンセリング、ハローワークや企業との連絡調整業務等に当たっている。また、2019年度(令和元年度)からは就労支援を推進する就労支援専門官を配置しており、2020年4月現在、刑事施設13庁、少年院2庁に配置し、就労支援体制の一層の充実を図っている。さらに、2020年度からは、就労の確保及び職場定着に困難が伴う受刑者に対して、矯正官署(ここでは矯正管区及び刑事施設をいう。)及び更生保護官署(地方更生保護委員会及び保護観察所をいう。以下同じ。)が連携して、アセスメントに基づく矯正処遇、生活環境の調整及び就労の確保に向けた支援等を一体的に行う包括的な就労支援を、刑事施設3庁で実施することとしている。

 刑事施設において、受刑者に対して、特別改善指導(資2-2-1参照)として、就労に必要な基本的スキルやマナーを習得させるとともに、出所後の就労に向けての取組を具体化させる就労支援指導(資2-2-2参照)を実施しており、2019年度の受講開始人員は3,664人であった。また、受刑者に社会に貢献していることを実感させることで、その改善更生、社会復帰を図ることを目的として、2011年度(平成23年度)から公園の清掃作業を行うなどの社会貢献作業を実施しており、2019年度は、刑事施設37庁46か所において社会貢献作業を実施した。

資2-2-1 刑事施設入所から出所までの矯正指導の流れ
資2-2-1 刑事施設入所から出所までの矯正指導の流れ
資2-2-2 就労支援指導の概要
資2-2-2 就労支援指導の概要

 さらに、刑事施設及び少年院において、受刑者等の職業意識をかん養し、就労意欲を喚起することを目的として、協力雇用主※4等の出所者等の雇用経験のある事業主等による職業に関する講話を実施しており、2019年度においては、41施設において延べ53回の講話が行われ、延べ3,557名の受刑者等が受講した。

 少年院において、在院者に対し、職業指導(資2-2-3参照)の一環として、有為な職業人としての一般的な知識及び態度並びに職業選択能力及び職場適応能力の習得を目的とした指導をする職業生活設計指導科を設けている。職業生活設計指導科では、原則として全在院者を対象に、社会人としての基礎マナー、事務処理能力及びパソコン操作能力について108単位時間(1単位時間は50分)をかけて指導することとしている。少年院における処遇の概要については【施策番号75】を参照。

資2-2-3 少年院における職業指導の概要
資2-2-3 少年院における職業指導の概要

 保護観察所において、ハローワークと連携して、保護観察対象者等のうち、就労体験の乏しい者、就労に必要な知識・技能が身に付いていない者等に対して、刑務所出所者等総合的就労支援対策(【施策番号5ア】参照)におけるトライアル雇用、職場体験講習及びセミナー・事業所見学会の支援メニュー等を活用して就労支援を行っている。また、保護観察対象少年に対しては、必要に応じて少年鑑別所で実施しているアセスメントを活用して就労意欲や職業適性の把握に努めている。

(3)矯正施設における職業訓練等の充実【施策番号3】

 法務省は、刑事施設において、刑務作業の一つとして、受刑者に職業に関する免許や資格を取得させ、又は職業上有用な知識や技能を習得させるために、職業訓練を実施している。2019年度(令和元年度)には、建設機械科、介護福祉科、溶接科、ビジネススキル科等の合計50科目の職業訓練が実施され、1万3,378人が受講した。そのうち、溶接技能者、自動車整備士、介護職員実務者研修修了証等の資格又は免許を取得した者は、延べ7,572人であった。また、現行の職業訓練を出所後の就労により資するものとするため、有効求人倍率や企業からの受刑者雇用に係る相談件数、内定率、充足率等を考慮しながら、社会ニーズに沿った訓練科目等への見直しを行っており、2020年度(令和2年度)には、複数の施設で実施している類似の訓練を集約させて、建設・土木、農業、介護の各コースを3庁に開設し、訓練内容の更なる充実化を図っている。

 職業訓練以外の新たな制度として、2018年度(平成30年度)から、刑事施設在所中に内定企業や就労を希望する業種における就労体験を通じて、イメージと実際の就労環境のかい離を解消させることで、出所後の就職先への定着を図ることを目的として職場体験制度を導入しており、2019年度は、13庁の施設で35人が外部の事業所における職場体験を実施した。

 また、一定の要件を備えている受刑者について、釈放後の住居又は就業先の確保等のために引受人※5や雇用主等を訪問するなどの必要があるときに、外出又は外泊を許すことがある。刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成17年法律第50号)の施行(2006年(平成18年)5月)から2019年末までに、外出503件、外泊26件を実施した。さらに、円滑な社会復帰を図るため必要があるときに、刑事施設の外の事業所に通勤させて作業を行わせており、2019年度末現在、17庁において21か所の外部事業所がある。

 少年院において、在院者の勤労意欲を高め、職業上有用な知識及び技能を習得させるために、原則として全ての在院者に職業指導を実施している。2019年には、情報処理科、介護福祉科、溶接科、土木・建築科等の合計8種目の職業指導を実施し、2019年にコンピューターサービス技能評価試験、介護職員初任者研修、大型特殊自動車(I種)運転免許等、何らかの資格を取得した在院者は、延べ3,885人であった。

 保護観察所において、刑務所出所者等に対する就労支援を推進するとともに矯正施設における職業訓練の充実にも資するよう、地元経済団体・業界団体、主要企業、産業・雇用に関わる行政機関、矯正施設、更生保護関係団体等が参集する刑務所出所者等就労支援推進協議会を毎年主催し、刑務所出所者等を各産業分野の雇用に結び付けるための方策や人手不足等の産業分野に刑務所出所者等を送り出すための方策等について情報交換や協議を行っている。

(4)資格制限等の見直し【施策番号4】

 法務省は、2018年度(平成30年度)に実施した、全国約1,000社の協力雇用主に対するアンケート調査※6において、犯罪をした者等を雇用したことがある協力雇用主の2.7%が、雇用において資格制限が問題になったことがあると回答したことを踏まえ、2019年度(令和元年度)に各府省庁に対して、刑務所出所者等に対する国家資格等の制限の見直しに関するニーズの有無について調査を実施したところ、各府省が所管する団体も含めて具体的なニーズの把握に至らなかった。そこで、引き続き、実務において刑務所出所者等の職業適性や能力を適切に把握しつつ、取得が特に有用と考えられる資格とその制限等の見直しの必要性について検討することとしている。

  1. ※1 再犯防止推進計画(基礎資料の2参照)との対応状況を明らかにするために付したもの。
  2. ※2 矯正施設
    刑務所、少年刑務所、拘置所、少年院、少年鑑別所及び婦人補導院をいう。
  3. ※3 刑事施設
    刑務所、少年刑務所及び拘置所をいう。
  4. ※4 協力雇用主
    保護観察所において登録し、犯罪をした者等の自立及び社会復帰に協力することを目的として、犯罪をした者等を雇用し、又は雇用しようとする事業主をいう。
  5. ※5 引受人
    引受人とは、刑事施設、少年院に収容されている者が釈放された後に同居するなどしてその生活の状況に配慮し、その改善更生のために特に協力をする者をいう。
  6. ※6 協力雇用主に対するアンケート調査
    協力雇用主の実情、ニーズ等を把握し、協力雇用主に必要な支援策等を検討するために実施したもの。調査内容は、雇用経験の有無、協力雇用主に対する支援として望むもの、協力雇用主に対する各種支援制度がどの程度周知されているか、雇用に当たっての問題点(資格制限、住居確保)等多岐にわたっている。