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第1節 特性に応じた効果的な指導の実施等

5 少年・若年者に対する可塑性に着目した指導等

(1)刑事司法関係機関における指導体制の充実【施策番号75】

 法務省は、少年院において、適正な処遇(資5-75-1参照)を展開するとともに、きめ細かい指導等を実施し、矯正教育の充実を図るため、生活の場である集団寮における指導を複数職員で行う体制の充実を図っており、2019年度(令和元年度)は、15庁で複数指導体制を実施している。

資5-75-1 少年院における処遇の概要
資5-75-1 少年院における処遇の概要

(2)関係機関と連携したきめ細かな支援等【施策番号76】

 法務省は、少年院において、家庭裁判所や保護観察所、少年鑑別所、児童相談所等の関係機関の担当者が一堂に会して、少年院在院者を対象とした処遇ケース検討会を実施し、処遇の一層の充実を図るとともに、関係機関との実質的な連携・協力体制を強化しており、2019年度(令和元年度)は、全少年院において、合計195回の処遇ケース検討会を実施した。

 少年鑑別所において、2015年(平成27年)の少年鑑別所法施行後、地域援助を通じて、地域における関係機関との連携に係るネットワークの構築に努めている。特に、児童相談所や児童福祉施設、福祉事務所等を含む福祉・保健機関からの心理相談等の依頼は増加しており、依頼内容も、問題行動への対応や、その背景に知的な問題や発達障害等が疑われる者への支援等、幅広く寄せられている。2019年におけるこれら福祉・保健機関等からの心理相談等の依頼件数は、2,149件であった。また、少年鑑別所が、所在する地域の警察と少年の立ち直り支援活動に関する協定書を結ぶなど、県警少年サポートセンターとの連携を強化している。そのほか、2020年度(令和2年度)から、法務省児童虐待防止プランに基づき、全国の少年鑑別所が、法務省の児童虐待担当窓口の一つとして位置付けられたことを踏まえ、児童相談所等関係機関とより一層緊密に連携し、児童虐待の早期発見・早期対応に協力できる体制の維持・構築を推進している。

 保護観察所において、被虐待経験を有していたり、心身の障害を有しているなどして何らかの支援を必要とする保護観察対象者について、児童相談所等の関係機関の担当者との情報共有や協議を行うなど、必要性に応じて関係機関との連携を行い、きめ細やかな支援等を実施している。

(3)少年鑑別所における観護処遇の充実【施策番号77】

 法務省は、少年鑑別所において、在所者に対する健全な育成のための支援として、その自主性を尊重しつつ、職員が相談に応じたり助言を行ったりしている。また、在所者の情操を豊かにし、健全な社会生活を営むために必要な知識及び能力を向上させることができるよう、地域の関係機関や民間ボランティア等の協力を得ながら、在所者に対して、学習、文化活動その他の活動の機会を与えており、その活動の実施に関しても、在所者の自主性を尊重しつつ、必要な助言及び援助を行っている。

(4)非行少年に対する社会奉仕体験活動等への参加の促進【施策番号78】

 警察は、非行少年を生まない社会づくり(【施策番号60】参照)の一環として、少年サポートセンターが主体となって、少年警察ボランティア(少年補導員、少年警察協助員及び少年指導委員)や、少年と年齢が近く少年の心情や行動を理解しやすい大学生ボランティア、関係機関と連携して、非行少年の立ち直りを支援する活動(資5-78-1参照)に取り組んでいる。この活動においては、個々の少年の状況に応じた指導・助言のほか、周囲の人々とのつながりの中で少年に自己肯定感や達成感を感じさせ、また、他人から感謝される体験を通じてきずなを実感させることにより、少年の心の拠り所となる新たな「居場所」を作る社会奉仕体験活動、農業体験等の生産体験活動、スポーツ活動等への参加の促進を図っている。

資5-78-1 少年の立ち直り・健全育成を支援する大学生ボランティアの活動の概要
資5-78-1 少年の立ち直り・健全育成を支援する大学生ボランティアの活動の概要

(5)保護者との関係を踏まえた指導等の充実【施策番号79】

 法務省は、少年院において、在院者とその保護者との関係改善や在院者の処遇に対する保護者の理解・協力の促進、保護者の監護能力の向上等を図るため、保護者に対して、保護者ハンドブック(資5-79-1参照)の提供や面接等を実施している上、2015年(平成27年)からは、在院者が受ける矯正教育を共に体験してもらう保護者参加型プログラムを実施している(【施策番号25】参照)。また、保護者による適切な監護が得られない場合にも、処遇ケース検討会(【施策番号76】参照)等の場において関係機関等と連携し、在院者の状況に応じた指導・支援を行っている。

資5-79-1 少年院における「保護者ハンドブック」
資5-79-1 少年院における「保護者ハンドブック」

 保護観察所において、必要に応じて、保護観察対象少年に対し、保護者との関係改善に向けた指導・支援を行うとともに、保護者に対する措置として、対象者の処遇に対する理解・協力の促進や保護者の監護能力の向上を図るための指導・助言を行っている。具体的には、「保護者のためのハンドブック」(資5-79-2参照)の提供や、講習会、保護者会を実施しており、2019年度(令和元年度)の保護者会等の実施回数は42回であった。また、保護者による適切な監護が得られない場合には、児童相談所等の関係機関や民間団体等と連携し、本人の状況に応じて、社会での自立した生活に向けた指導・支援を行っている。

資5-79-2 保護観察所における「保護者のためのハンドブック」
資5-79-2 保護観察所における「保護者のためのハンドブック」

(6)非行少年を含む犯罪者に対する処遇を充実させるための刑事法の整備等【施策番号80】

 少年法における「少年」の上限年齢の在り方及び非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事法の整備の在り方については、2017年(平成29年)2月から、法制審議会において、調査審議が行われている。法務省においては、法制審議会の答申が得られたときには、それを踏まえて所要の措置を講ずることとしている。

Column6 被虐待経験等を有する少年院在院者の処遇の充実に向けた取組被虐待経験等を有する少年院在院者の処遇の充実に向けた取組qr


NPO法人レジリエンス 代表 中島 幸子

 NPO法人 レジリエンス(www.resilience.jp)での活動の一環として、全国各地にある少年院で少年たちに話をし始めて7年目に入る。私自身が暴力被害者であることから、被害者として話すという形で当初始まったように思うが、少年たちの多くが家族からの虐待や学校でのいじめに遭い、トラウマの影響を受けていることに気付いたため、私自身の経験も踏まえ、トラウマの影響や発達障害について話をしている。疑うような表情で聞く子ももちろんいるが、食い入るような目線を感じることは多い。虐待やいじめの話をすると、かすかにうなずきながら聞いている子がいたり、泣き始める子がいたりもする。泣き続ける子の中には退室を希望する子もいれば、退室を提案されても首を振り泣きながら最後まで聞こうとする子もいる。

 発達障害による生きづらさを感じている子が多いと気付いてからは、私自身の発達障害の話も含めながら、発達が凸凹であることは欠点ではない、といった話もするようになった。それぞれが、自分自身の特性を認識し、周りにいる安全な人たちにサポートしてもらえれば、生きづらさは減る、と伝えたい。トラウマの影響に関しても同じことが言える。

 少年たちには年齢の幅だけでなく、発達の凸凹さにも差が広くあるため、資料にはUD(ユニバーサルデザイン)フォントを使い、文字数は極力少なくし、紙芝居のように見えるよう工夫をしている。話す内容が伝わることはもちろん願うが、「大切にされる」、「安全なつながり」を少しでも感覚として感じてもらいたい、という思いがある。知識や情報は重要だが、感覚も同じように大事だと思うからだ。

 講演の前半はパワーポイントを使うが、後半は質疑応答に充てている。大概の場合、最初に一人の子が手を挙げてくれると、手が挙がっていく。まずは他の子の質問に私がどう答えるのかを見てから手を挙げる子は多い。答えに窮する鋭い質問やよく考えていることが分かる質問、答えが出せない深い問いも多い。そんな時には「『正解』となる答えは分からないけど、あなたの質問を聞きながら私が感じたことを言ってもいい?」などと答えることもよくある。少年たちにとっては、私がどのような返事をするか、という内容よりも彼らが投げかけた質問を私がどのように受け止めるか、というところの方が重視されているように感じる。どのような質問であっても誠実に答える姿勢を徹底するようにしている。

 会話をキャッチボールと例え、まず質問をしっかり受け止めることによって「投げてくれたボールはちゃんと受け止めたよ」ということが伝わることを願っている。質問してくれた少年には「ありがとう」と伝えることにしているが、それもボールを受け取ったことを意味している。以前、私が「ありがとう」と言った途端、泣き始めた少年のことが心に残っている。まれに、挑戦的な質問(イメージ的にはドッジボール系かもしれない)があったときには会場がざわついたが、「そっか…なるほど」とまず質問を穏やかに受け止め、「例えば〇〇の場合はどう思うか聞いてもよい?」とキャッチボール形式への切り替えを目指しながらも『意見の違いがあっても安全でいられる』ということを全員に感じ取ってもらいたいと強く願う。

 「人の命の価値は皆同じ」と話した後、「人を殺した人も殺された人も、命の価値は同じですか?」と聞かれた時は衝撃を受け、戸惑った。とっさではあったが「昔、何度も殺されかけた経験がある人としての意見となるけど、私はどちらの人の命の価値も同じと思っている。ただ、人生の価値は変わってしまったとも思う。一人は生き続けることができ、もう一人は生き続けられなくなったわけだから。でも、もし私が昔殺されていたとして、その後、お墓の中からの願い事を叶えてもらえるとなれば、私は私を殺した人に本当の意味で生き方を変えてもらいたいと願う。もし変わってくれれば、その人の人生の価値はもちろん、短くなってしまった私の人生の価値も変わると思う。」という答えが自分の中から出てきた。私は被害者ではあるが、少年たちが希望を失わず変わるための努力をしてくれることを心から信じている。その思いを今後も伝え続けたいと思っている。

少年院での講演の様子【写真提供:法務省】