再犯防止推進白書ロゴ

第2節 薬物依存を有する者への支援等

2 治療・支援等を提供する保健・医療機関等の充実

(1)薬物依存症治療の専門医療機関の拡大【施策番号48】

 厚生労働省は、2017年度(平成29年度)から、依存症対策全国拠点機関として独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターを指定している。同センターでは、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターと連携して薬物依存症を含む依存症治療の指導者養成研修を実施するとともに、都道府県及び指定都市の医療従事者を対象とした依存症治療の研修を実施している。

 また、厚生労働省は、都道府県及び指定都市が薬物依存症の専門医療機関及び治療拠点機関の選定を進めていくに当たり、財政的、技術的支援を行っている。2020年(令和2年)3月時点では、39の地方公共団体で専門医療機関の選定を行っている。これら取組の全体像については資3-48-1を参照。

資3-48-1 依存症対策の概要
資3-48-1 依存症対策の概要

(2)薬物依存症に関する相談支援窓口の充実【施策番号49】

 厚生労働省は、依存症対策全国拠点機関の独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターにおいて、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターと連携して、薬物依存症者本人及びその家族等を対象とした相談支援に関して指導的役割を果たす指導者養成研修を実施するとともに、都道府県及び指定都市の相談支援を行う者を対象とした研修を実施している。

 また、厚生労働省は、2017年度(平成29年度)から、都道府県及び指定都市において、依存症相談員を配置した依存症相談拠点の設置を進めていくに当たり、財政的、技術的支援を行っている。2020年(令和2年)3月時点では、46の地方公共団体で依存症相談拠点の設置を行っている。

(3)自助グループを含めた民間団体の活動の促進【施策番号50】

 厚生労働省は、2017年度(平成29年度)から、地域で薬物依存症に関する問題に取り組む自助グループ等民間団体の活動を地方公共団体が支援する「薬物依存症に関する問題に取り組む民間団体支援事業(地域生活支援促進事業)」を実施しており、2018年度(平成30年度)からは、全国規模で活動する民間団体の活動を支援する「依存症民間団体支援事業」を実施している。

(4)薬物依存症者の親族等の知識等の向上【施策番号51】

 厚生労働省は、2007 年(平成19年)から、地域の薬物相談を担う保健所や精神保健福祉センターの職員等に加えて、一般国民にも公開して実施する「再乱用防止対策講習会」を、毎年全国6ブロック(北海道・東北地区、関東信越地区、東海北陸地区、近畿地区、中国・四国地区、九州・沖縄地区)において開催しており、2019年度(令和元年度)は青森県、千葉県、富山県、兵庫県、高知県、長崎県で開催した。同講習会では、薬物依存症治療の専門医、地域の薬物依存症者支援に取り組む家族会からの講演を行うなど、薬物依存症に対する意識・知識の向上を図っている。

 このほか、2007年から、薬物依存症者を抱える親族等に向けた、薬物再乱用防止啓発冊子「ご家族の薬物問題でお困りの方へ」(資3-51-1参照)を作成し、各都道府県の薬務課や精神保健福祉センター、保護観察所、矯正施設、民間支援団体などを通じて配布し、薬物依存等に対する正しい知識と相談窓口の周知を図っている。また、依存症に対する誤解や偏見をなくし、依存症に関する正しい知識と理解を深めるため、普及啓発イベントの実施やリーフレットの作成・配布等、広く一般国民を対象とした普及啓発事業を行っている(資3-51-2参照)。

資3-51-1 薬物再乱用防止啓発冊子
資3-51-1 薬物再乱用防止啓発冊子
資3-51-2 依存症の理解を深めるための普及啓発リーフレット
資3-51-2 依存症の理解を深めるための普及啓発リーフレット

column4 薬物依存症者をもつ家族に対する相談支援薬物依存症者をもつ家族に対する相談支援qr


国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所
薬物依存研究部 診断治療開発研究室長

近藤 あゆみ

 家族は薬物依存症者本人の回復の責任を担うべき存在では決してありませんが、本人の回復の役に立ちたいと願う家族は多く、実際に、家族が本人の回復に対して大きな良い影響を与え得るということは多くの研究によって実証されてもいますから、家族に対する働き掛けはとても重要です。

 当センターでは、個別相談と家族心理教育プログラムによる家族支援を行っています。個別相談は、最初のインテーク面接でこれまでの経過を聞き取り、今後の支援目標を設定するところから始まります。支援目標としては、「本人との会話を増やす」、「本人との言い争いを減らす」など家族が良き回復支援者として関わる力を向上することや、「未治療の本人に治療の提案をする」ことなどが多いですが、中には、本人から安全に避難・分離を図ることが支援の目標になる場合もあり、ケースバイケースです。家族心理教育プログラムは3つの目標に沿ったワークブックを用いて毎月第3土曜日に開催しており、毎回20名程度の家族が参加しています(資料参照)。

 個別と集団を組み合わせてた支援を継続する中で、家族は様々に変化していきます。多くの家族に共通してみられる変化をいくつか挙げると、まず、薬物依存症からの回復を長期的なプロセスとして理解できるようになり、回復途上で起き得る薬物使用や治療からのドロップアウトをそのプロセスの一環とみなせるようになるということがあります。家族が本人の治療や回復を単一のエピソードとしてみていると、治療の中断や再使用は治療の失敗としか捉えることができず、とりわけ再使用は、家族に激しい動揺と大きな失望感をもたらします。しかし、回復に至る長い一連のプロセスについて実感をもって理解できるようになってくると、再使用時の動揺や失望感などは減少し、代わりに、このピンチの時期をどう次の回復の波につなげることができるか前向きに考えることができるようになってくるのです。また、家族と本人との間に心理的な境界線を引けるようになるというのも、家族に起こる重要な変化です。依存症は家族関係や家族間のコミュニケーションにもネガティブな影響を与えることが知られており、境界線の破壊もそのひとつですが、家族がそのことを学び、行動を変えるための試行錯誤を繰り返す中で、健康的な家族関係を維持するために必要とされている心理的境界線を引き直すことができるようになってきます。

 家族支援の立場からみると、薬物依存症からの回復は家族の再生でもあると感じます。家族と支援者の間にあるのは薬物問題ですが、その解決に向けて家族と支援者が協働して行っているのは、家族関係を見直し、こうありたいと願う家族像をもう一度発見し、そこに近づくために実際の行動を変えていくことです。時間がかかっても粘り強くそれを成し遂げようとする家族の傍らで、いつも多くの感動と希望を与えられています。

「薬物依存症者をもつ家族を対象とした心理教育プログラム(ファシリテーター用マニュアル)」及び到達目標 出典: 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部資料による。

(5)薬物依存症対策関係機関の連携強化【施策番号52】

 警察は、「第五次薬物乱用防止五か年戦略」(2018年(平成30年)8月薬物乱用対策推進会議策定。資3-52-1参照)等に基づき、各地域において薬物依存症対策を含めた総合的な薬物乱用対策を目的として開催される「薬物乱用対策推進本部会議」等に参加し、地方公共団体や刑事司法関係機関等の関係機関と情報交換を行っている。さらに、2010年度(平成22年度)からは、毎年度、執行猶予判決が見込まれる薬物乱用者やその家族への供覧・配布を目的とした再乱用防止のためのパンフレット(資3-52-2参照)を作成して、全国の精神保健福祉センターや家族会等の相談窓口を紹介するなどの情報提供を実施している。

資3-52-1 「第五次薬物乱用防止五か年戦略」の概要
資3-52-1 「第五次薬物乱用防止五か年戦略」の概要
資3-52-2 再乱用防止のためのパンフレット
資3-52-2 再乱用防止のためのパンフレット

 法務省及び厚生労働省は、2015年(平成27年)に策定された「薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドライン」(資3-52-3参照)に基づき、保護観察所と地方公共団体や保健所、精神保健福祉センター、医療機関その他関係機関とで定期的に連絡会議を開催するなどして、地域における支援体制の構築を図っている(資3-52-4参照)。

資3-52-3 薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドラインの概要
資3-52-3 薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドラインの概要
資3-52-4 ガイドラインを踏まえた薬物依存者に対する支援等の流れ
資3-52-4 ガイドラインを踏まえた薬物依存者に対する支援等の流れ

 法務省は、刑事施設及び保護観察所の指導担当職員等が、双方の処遇プログラムの実施状況等の情報を交換し、刑事施設と保護観察所との効果的な連携の在り方について共通の認識を得ることを目的に、2012年度(平成24年度)から、「薬物事犯者に対する処遇プログラム等に関する矯正・保護実務者連絡協議会」を開催している。同協議会では、大学教授や自助グループを含む民間団体等のスタッフを外部機関アドバイザーとして招へいして、地域社会における社会資源を活用した支援の在り方を検討しており、今後も、依存症専門医療機関の医師等を招へいして、薬物依存症者の支援及び関係機関との連携の在り方を検討していくこととしている。

 少年院において、在院者に対する薬物非行防止指導の実施に当たり、民間自助グループや医療関係者等の協力を受けることとしている。

 厚生労働省は、2004年(平成16年)から、全国6ブロック(北海道・東北地区、関東信越地区、東海北陸地区、近畿地区、中国・四国地区、九州・沖縄地区)において、「薬物中毒対策連絡会議」を主催している。同会議では、薬物依存症治療の専門医を始め、各地方公共団体の薬務担当課・障害福祉担当課・精神保健福祉センター・保健所、保護観察所、矯正施設等の薬物依存症者を支援する地域の関係機関職員間において、地域における各機関の薬物依存症対策に関する取組や課題等を共有するとともに、それらの課題に対する方策の検討を行い、関係機関の連携強化を図っている。さらに、厚生労働省は、2017年度(平成29年度)から、都道府県及び指定都市において、行政や医療、福祉、司法等の関係機関による連携会議(【施策番号48】参照)を開催するに当たり、財政的、技術的支援を行っている。同会議では、薬物依存症者やその家族に対する包括的な支援を行うために、地域における薬物依存症に関する情報や課題の共有を行っている。

(6)薬物依存症治療の充実に資する診療報酬の検討【施策番号53】

 厚生労働省は、診療報酬の中で、薬物依存症に対する治療を精神疾患に対する専門的な治療である精神科専門療法として評価している。

 2016年度(平成28年度)診療報酬改定において、薬物依存症の患者に対して、一定の治療プログラムに沿って集団で認知行動療法を実施した際に、治療効果があるとの研究結果を踏まえ、薬物依存症の患者に、集団療法を実施した場合の評価として「依存症集団療法」を新設した。さらに、2018年度(平成30年度)診療報酬改定において、診療報酬の対象となる精神疾患の定義を最新の国際疾病分類に則して見直し、薬物依存症についても精神科専門療法の対象疾患に含まれることを明確化するとともに、薬物依存症の患者等に対し、計画的に実施される専門的な精神科ショート・ケアに対する加算として、「疾患別等専門プログラム加算」を新設した。