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第1節 学校等と連携した修学支援の実施等

第4章 学校等と連携した修学支援の実施等のための取組
第1節 学校等と連携した修学支援の実施等
1 児童生徒の非行の未然防止等

(1)学校における適切な指導等の実施 【施策番号58】

ア いじめの防止

 文部科学省は、いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号)等の趣旨を踏まえ、道徳教育等を通したいじめ防止のための取組を推進している。また、2017年度(平成29年度)から2019年度(令和元年度)にかけて、法律の専門家である弁護士が、その専門的知識・経験に基づき、学校において法的側面からのいじめ予防教育を行うとともに、いじめ等の諸課題の効率的な解決にも資する、学校における相談体制の整備に関する調査研究を実施した。また、2020年度(令和2年度)からは、本調査研究を踏まえ、都道府県及び指定都市教育委員会における弁護士等への法務相談経費について、普通交付税措置を講じている。

イ 人権教育

 文部科学省は、日本国憲法及び教育基本法(平成18年法律第120号)の精神にのっとり、人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(平成12年法律第147号)及び「人権教育・啓発に関する基本計画」(平成14年3月15日閣議決定、23年4月1日一部変更)に基づく、人権尊重の意識を高める教育を推進している。

ウ 非行の防止

 文部科学省は、再非行の防止の観点も含めた学校における非行防止のための取組を推進しており、2019年度は、全国の生徒指導担当者等が出席する会議において、再犯防止推進計画の趣旨や非行防止に関する具体的な取組について周知した。

 また、警察官等を外部講師として招き、非行事例等について児童生徒に直接語ることにより、犯罪についての正しい理解を図る「非行防止教室」や、中学生・高校生を対象に、犯罪被害者等への配慮や協力への意識のかん養を図る犯罪被害者等による講演会「命の大切さを学ぶ教室」について、関係機関等と連携しながら各学校においての実施を促した。

 さらに、警察庁との共催で、教育委員会、警察、保護観察所等の関係機関が参加する「問題行動に関する連携ブロック協議会」を中部地方と中国・四国地方で実施した。

エ 薬物乱用の防止

 文部科学省は、「第五次薬物乱用防止五か年戦略」(【施策番号52】参照)を踏まえ、薬物乱用防止教育の充実に努めている。

 学校における薬物乱用防止教育は、小学校の体育科、中学校及び高等学校の保健体育科、特別活動の時間はもとより、道徳、総合的な学習の時間等の学校の教育活動全体を通じて指導が行われるよう周知を図っている。

 また、全ての中学校及び高等学校において、年に1回は薬物乱用防止教室を開催するとともに、地域の実情に応じて小学校においても薬物乱用防止教室の開催に努めるなど、薬物乱用防止に関する指導の一層の徹底を図るよう都道府県教育委員会等に対して指導している(資4-58-1参照)。

資4-58-1 薬物乱用防止教室の開催状況
資4-58-1 薬物乱用防止教室の開催状況

 さらに、大学生等を対象とした薬物乱用防止のためのパンフレット(資4-58-2参照)の作成・配布等を通して、薬物乱用防止に関する啓発の強化を図っている。

資4-58-2 薬物乱用防止パンフレット
資4-58-2 薬物乱用防止パンフレット

オ 中途退学者への就労支援

 文部科学省及び厚生労働省は、高等学校中途退学者等への就労支援に関し、2016年(平成28年)6月に高等学校等と地域若者サポートステーション※1との連携強化による中途退学者等への切れ目のない支援の実施について、各都道府県教育委員会教育長等に対する通知を発出するなど、その取組を促している。

(2)地域における非行の未然防止等のための支援【施策番号59】

 内閣府は、子ども・若者育成支援推進法により地方公共団体に努力義務が課されている「子ども・若者支援地域協議会」※2の設置及び「子ども・若者総合相談センター」※3としての機能を担う体制の確保が、非行の未然防止等にも有効であるとの観点に立ち、研修会や連絡会議の開催等を内容とした「子供・若者支援地域ネットワーク強化推進事業」を実施しているほか、2019年度(令和元年度)から、SNS相談の試行や会合等の開催を内容とした「子ども・若者総合相談センター強化推進事業」を実施している。2020年(令和2年)3月現在、126の地域に「子ども・若者支援地域協議会」が、92の地域に「子ども・若者総合相談センター」がそれぞれ設置されている(資4-59-1参照)。

資4-59-1 「子ども・若者支援地域協議会」・「子ども・若者総合相談センター」の概要
資4-59-1 「子ども・若者支援地域協議会」・「子ども・若者総合相談センター」の概要

 また、若者支援に当たる人材の養成が、非行の未然防止等にもつながるとの観点に立ち、2010年度(平成22年度)から、困難を有する子供・若者に対する相談業務に従事する公的相談機関の職員や、特定非営利活動法人等の職員を対象として、適切な支援に必要な知見等の習得を目的とする研修等を実施しているほか、2017年度(平成29年度)からは、各地域において伴走型の支援を行うに当たって必要となる専門的な知識や技能を分野横断的に整理・共有して習得することを目的とする研修を新たに実施している。

 警察は、少年警察ボランティア(少年補導員※4、少年警察協助員※5及び少年指導委員※6)等と連携して、社会奉仕体験活動等を通じた問題を抱えた少年の居場所づくりのほか、非行の未然防止等を図るための街頭補導活動や学校における非行防止教室を行っている。また、少年や保護者等の悩みや困りごとについて、専門的知識を有する警察職員が面接や電話等で相談に応じ、指導・助言を行っている。

 法務省は、2015年(平成27年)の少年鑑別所法施行後、地域援助として、少年鑑別所が地域の小学校、中学校、高等学校、特別支援学校等からの心理相談等を受け付けている。2019年の小学校、中学校、高等学校、教育委員会等を含む教育関係機関からの相談件数は、2,879件であった。支援の内容は、問題行動への対応から発達上の課題を有する児童生徒本人の学校適応に関する相談、進路相談等に至るまで幅広く、知能検査や性格検査、職業適性検査のほか、暴力や性的な問題行動に係るワークブック等を用いた心理的支援等も行っている。さらに、2019年度からは、各地の少年鑑別所を主催者とした「地域援助推進協議会」を開催しており、学校や自治体等の関係機関とのより一層の連携強化を図り、地域における非行の未然防止等を推進している。また、保護司※7、更生保護女性会※8、BBS会※9がそれぞれの特性をいかして行う犯罪予防活動、「子ども食堂」等の地域社会における子供等の居場所作り、非行をした少年等に対する学習支援等の取組が円滑に行われるよう、必要な支援を行っている。

 文部科学省は、地域と学校が連携・協働し、幅広い地域住民の参画を得て行う「地域学校協働活動」(資4-59-2参照)の一環として、放課後の居場所づくりを始めとする子供たちの学びや成長を支える取組を推進している。

資4-59-2 地域学校協働活動の概要
資4-59-2 地域学校協働活動の概要

 また、高校中退者等を対象に、高等学校卒業程度の学力を身に付けさせるための学習相談及び学習支援のモデルを構築するなどの事業を実施している(【 施策番号65】参照)。

 さらに、2016年度(平成28年度)から、薬物、飲酒、喫煙、インターネット、ギャンブル等に関する依存症が社会的な問題となっていることを踏まえ、将来的な依存症患者数の逓減や青少年の健全育成を図る観点から、依存症予防教育の推進のため、依存症予防教育推進事業を実施している。同事業において、2019年度には、各地域において社会教育施設等を活用した児童生徒、学生、保護者、地域住民向けの依存症予防に関する啓発を行う「依存症予防教室」等の取組を支援した。

 厚生労働省は、ひとり親家庭の子供を対象として、基本的な生活習慣の習得支援や学習支援を行う地域の居場所づくりの取組を支援しているほか、高等学校卒業程度認定試験合格のための講座の受講費用の一部を支給するなどの支援を実施している。また、生活困窮世帯の子供に対しては、生活困窮者等の自立を促進するための生活困窮者自立支援法等の一部を改正する法律(平成30年法律第44号)による改正後の生活困窮者自立支援法に基づく「子どもの学習・生活支援事業」(資4-59-3参照)により、学習支援、子供や保護者に対する生活習慣・育成環境の改善に向けた助言等、子供の将来の自立に向けたきめ細かい支援を行っている。

資4-59-3 子どもの学習・生活支援事業の概要
資4-59-3 子どもの学習・生活支援事業の概要

Column5 鳥取地区BBS会における修学支援

鳥取地区BBS会  山本 美穂

 鳥取地区BBS会では、2018年(平成30年)3月から、鳥取法務少年支援センター(鳥取少年鑑別支所、以下「同センター」といいます。)に相談のため来所する小学生から高校生までの幅広い世代を対象とした修学支援を行っています。

 この活動を行う私自身は、もともとボランティア活動に興味があり、仕事を通して偶然BBS会員と知り合いました。その方にBBS活動の魅力を教えてもらい、その活動趣旨等に賛同し、また会員相互の意見交換を通して人と人とのつながりを感じることができると思い、BBS活動に携わることとなりました。

 同センターで修学支援を受ける児童や生徒は、様々な事情を抱えています。そのため、支援活動は相談者の状態に応じて行うとともに、活動を行う私自身は、「健全な大人の一人として、支援を行う相手に真摯に向き合うこと」のみが求められていると思っています。相談者に対する対応に明確な正解がない中で、支援の結果として、相談者に修学はもとより日常生活に前向きになるなど良い変化が現れるためには、時間の積み重ねや相手との相性もあると思いますが、「自分自身も楽しむこと」が大切ではないかと考えています。

 そのため、支援を行うに当たっては、同センター職員(法務教官及び法務技官)による指導の下、勉強や音楽、絵を描くことなど様々なツールを利用して相談者に少しでも良い変化が現れるよう、創意工夫を凝らしています。支援の結果、良い変化が現れると嬉しく、活動にやりがいを感じますし、継続支援につながらなかったときは、次につなげるべく活動内容の反省をするとともに、新たな支援方法について同じ地区会に所属するBBS会員や同センター職員等と協議を重ねます。

 また、活動を通して、相談者の成長が見込まれることはもちろんのこと、私自身にとっても成長の糧になっています。

 ある事例を紹介します。その相談者は、最初は私と会話をすることを避けており、人間関係の構築が苦手なのかな、と感じていました。しかし、活動を重ねるうち、その子が私自身に興味を持ったのか、「髪切ったの?」と聞いてくれたことがありました。次第に、会話のキャッチボールをスムーズに行えるようになりました。

 このような相談者の良い変化を実感したときに、真摯に向き合えば人は変われると感じることができ、この活動をしていて良かったと思いました。

 このほかにも、保護司と協力して、小学6年生を対象とした夏休み等の長期休暇期間中、週3回程度小学校隣接の公民館で学習支援も実施しています。ここでは、長期休暇中の課題に取り組むことを中心に、自主的に課題をこなす子供たちの見守りを主に行っています。

 また、関係機関に協力していただき会員研修会を実施したり、法務省が主唱する“社会を明るくする運動”の広報活動等に協力したりしています。

 鳥取地区BBS会では、今後も鳥取法務少年支援センターや鳥取保護観察所等の関係機関に御協力いただきながら、修学支援等を実施していくこととしています。

小学6年生を対象とした学習支援の様子 【写真提供:鳥取地区BBS会】

(3)警察における非行少年に対する支援【施策番号60】

 警察は、非行少年を生まない社会づくり(資4-60-1参照)の一環として、非行少年の立ち直りを支援する活動に取り組んでおり、修学に課題を抱えた少年に対し、少年サポートセンターが主体となって、少年警察ボランティアや、少年と年齢が近く少年の心情や行動を理解しやすい大学生ボランティア、関係機関と連携して修学に向けた支援を行っている(写真4-60-1参照)。具体的な支援内容については【施策番号78】を参照。

資4-60-1 非行少年を生まない社会づくりの概要
資4-60-1 非行少年を生まない社会づくりの概要
写真4-60-1 修学支援の様子
写真4-60-1 修学支援の様子
  1. ※1 地域若者サポートステーション
    働くことに悩み・課題を抱えている15歳~49歳までの方に対し、キャリアコンサルタント等による専門的な相談支援、個々のニーズに即した職場体験、就職後の定着・ステップアップ相談等による職業的自立に向けた支援を行う就労支援機関のこと。通称「サポステ」。
  2. ※2 子ども・若者支援地域協議会
    関係機関等が行う支援を適切に組み合わせることにより、その効果的かつ円滑な実施を図るために地方公共団体が設けるもの。
  3. ※3 子ども・若者総合相談センター
    子供・若者育成支援に関する相談に応じ、関係機関の紹介その他の必要な情報の提供及び助言を行う拠点として地方公共団体が設けるもの。
  4. ※4 少年補導員
    街頭補導活動を始めとする幅広い非行防止活動に従事している。
  5. ※5 少年警察協助員
    非行集団に所属する少年を集団から離脱させ、非行を防止するための指導・相談に従事している。
  6. ※6 少年指導委員
    風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に基づき、都道府県公安委員会から委嘱を受け、少年を有害な風俗環境の影響から守るための少年補導活動や風俗営業者等への助言活動に従事している。
  7. ※7 保護司
    犯罪をした人や非行のある少年の立ち直りを地域で支えるボランティアである。その身分は法務大臣から委嘱を受けた非常勤の国家公務員であり、保護観察の実施、犯罪予防活動等の更生保護に関する活動を行っている。保護司の定数は、保護司法(昭和25年法律第204号)により5万2,500人を超えないものと定められているところ、2020年1月現在の保護司数は4万6,763人である。
  8. ※8 更生保護女性会
    地域の犯罪予防や青少年の健全育成、犯罪者・非行少年の改善更生に協力する女性のボランティア団体であり、2020年4月現在の会員数は14万7,686人である。
  9. ※9 BBS会
    Big Brothers and Sisters の略で、非行少年等の自立を支援するとともに、非行防止活動を行う青年ボランティア団体であり、2020年1月現在の会員数は4,935人である。