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第1節 特性に応じた効果的な指導の実施等

第5章 犯罪をした者等の特性に応じた効果的な指導の実施等のための取組
第1節 特性に応じた効果的な指導の実施等
1 適切なアセスメントの実施

(1)刑事司法関係機関におけるアセスメント機能の強化【施策番号66】

 法務省は、刑事施設において、犯罪者処遇の基本理念となっている「RNR原則※1」にのっとった処遇を実施するため、2012年度(平成24年度)から「受刑者用一般リスクアセスメントツール」(以下「Gツール」という。)(資5-66-1参照)の開発を進めており、2017年(平成29年)11月からGツールのうち一部の機能によって得られる結果や情報を処遇決定の参考とする運用を開始している。現段階におけるGツールは、原則として、受刑者の入所時等に実施する刑執行開始時調査において犯罪傾向の進度を判定する全受刑者を対象としており、これまでの受刑回数や犯罪の内容等、主に処遇によって変化しない要因(静的リスク要因)から、出所後2年以内に再び刑務所に入所する確率を推定するものである。Gツールの実施結果については、犯罪傾向の進度の判定や各種改善指導プログラム(【施策番号83】参照)の対象者の選定の際の基礎資料として活用している。

資5-66-1 受刑者用一般リスクアセスメントツール(Gツール)の概要
資5-66-1 受刑者用一般リスクアセスメントツール(Gツール)の概要

 少年鑑別所において、2013年度(平成25年度)から法務省式ケースアセスメントツール(以下「MJCA」という。)(資5-66-2参照)の運用を開始し、MJCAを用いて、鑑別対象少年の再非行の可能性及び教育上の必要性を定量的に把握し、その情報を少年院や保護観察所等の関係機関へと引き継ぐことができる体制を構築した。2015年度(平成27年度)からは、性非行に特化した法務省式ケースアセスメントツール(性非行)(MJCA(S))の運用を開始している。

資5-66-2 法務省式ケースアセスメントツール(MJCA)の概要
資5-66-2 法務省式ケースアセスメントツール(MJCA)の概要

 また、2014年度(平成26年度)から、少年院在院者のうち薬物非行を防止するための指導等、特定のプログラムを受講する在院者には、原則として、処遇鑑別を行い、面接や各種心理検査、行動観察等によって、少年院における教育や指導等に必要な情報を得たり、その変化を把握したりして、少年院送致後の処遇による変化等を把握・分析し、その後の処遇指針を提案している。その他、2015年の少年院法施行後、少年院在院者を、1週間程度、一時的に少年鑑別所に移して生活させ、集中的にアセスメントを行う収容処遇鑑別を実施しており、少年院在院者に対するアセスメントの充実を図っている。さらに、2015年の少年鑑別所法施行後、児童自立支援施設※2や児童養護施設※3の求めによりアセスメントを実施することができるようになるなど、これら新たな制度を活用して、少年保護手続のあらゆる場面・段階において、必要なアセスメントを行う取組を推進している。

 保護観察所において、保護観察対象者に対して再犯防止のためのより効果的な指導・支援を行うためのアセスメントツール(CFP:Case Formulation in Probation/Parole)(資5-66-3参照)を開発し、2018年度(平成30年度)から試行している。本アセスメントツールは、保護観察対象者の特性等の情報について、再犯を誘発する要因に焦点を当てて網羅的に検討し、再犯リスクを踏まえた適切な処遇方針の決定に活用するものである。今後は、保護観察所における実践事例の分析を重ね、刑事司法関係機関や医療・保健・福祉機関等との連携にも資するよう改良していくこととしている。

資5-66-3 CFP:Case Formulation in Probation/Paroleの概要
資5-66-3 CFP:Case Formulation in Probation/Paroleの概要

(2)関係機関等が保有する処遇に資する情報の適切な活用【施策番号67】

 法務省は、多角的な視点から適切にアセスメントを行い、それに基づく効果的な指導等を実施するため、必要に応じて、更生支援計画書等の処遇に資する情報を活用するための取組(試行)を2018年度(平成30年度)から開始している。

 更生支援計画書は、弁護人が社会福祉士等に依頼して作成する、個々の被疑者・被告人に必要な福祉的支援策等について取りまとめた書面であるが、実刑が確定した場合や、保護観察付執行猶予となった場合等においても、処遇上有用な情報が含まれ得るものと考えられる。そのため、一部の刑事施設及び保護観察所において、弁護人から更生支援計画書の提供を受け、処遇協議を実施するなどして処遇に活用する試行を行っている。今後は、受刑者等に対する社会復帰支援の実施において、更生支援計画書の活用の有用性等を検討することとしている。

 また、少年院や保護観察所において、少年を処遇するに当たっては、家庭裁判所の少年調査記録や少年鑑別所の少年簿に記載された情報を引き継ぎ、必要に応じて、在籍していた学校や、児童相談所等の福祉関係機関等からも情報を収集し、これらの情報を踏まえた処遇を実施している。

  1. ※1 RNR原則
    リスク原則(Risk)、ニーズ原則(Needs)、レスポンシビティ原則(Responsivity)から成り立っており、再犯防止に寄与する処遇をするためには、対象者の再犯リスクの高低に応じて、改善が可能な部分について、対象者に合った方法によって実施する必要があるという考え方のこと。
  2. ※2 児童自立支援施設
    非行問題を始めとした子供の行動上の問題や、家庭環境等の理由により生活指導等を要する児童に対応する児童福祉法に基づく施設。
  3. ※3 児童養護施設
    保護者のない児童や保護者に監護させることが適当でない児童に対し、安定した生活環境を整えるとともに、生活指導、学習指導、家庭環境の調整等を行いつつ養育を行い、児童の心身の健やかな成長とその自立を支援する児童福祉法に基づく施設。