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第1節 特性に応じた効果的な指導の実施等

7 発達上の課題を有する犯罪をした者等に対する指導等【施策番号82】

 法務省は、少年院において、在院者の年齢や犯罪的傾向の程度等に着目し、一定の共通する類型ごとに矯正教育課程※8を定め、発達上の課題を有する者については、その特性に応じて、支援教育課程※9I~Vのいずれかを履修するよう指定しており、2019年(令和元年)、支援教育課程I~Vのいずれかを指定された在院者は384人であった。また、発達上の課題を有する在院者の処遇に当たっては、2016年(平成28年)に策定した「発達上の課題を有する在院者に対する処遇プログラム実施ガイドライン」(資5-82-1参照)を活用しているほか、2018年度(平成30年度)からは、身体機能の向上に着目した指導を導入し、その充実に努めている。

資5-82-1 発達上の課題を有する在院者に対する処遇プログラム実施ガイドラインの概要
資5-82-1 発達上の課題を有する在院者に対する処遇プログラム実施ガイドラインの概要

 さらに、2015年度(平成27年度)からは、支援教育課程を置く少年院の職員に対する集合研修を実施しており、2018年度からは、その研修期間を延長し、指導体制の更なる充実・強化を図っている。

 保護観察所において、発達上の課題を有し、指導等の内容の理解に時間を要したり、理解するために特別な配慮を必要とする保護観察対象者について、必要に応じて、児童相談所や発達障害者支援センター等と連携するなどして、個別の課題や特性に応じた指導等を実施している。また、更生保護官署職員及び保護司に対し、発達障害に関する理解を深め、障害特性を理解した上で的確な支援を行うための研修や教材の整備を実施している。

Column7 性的問題行動を示す知的障害・発達障害を有する保護観察対象者等に対する支援
(性的問題行動のある知的・発達障害者向け問題修復プログラム)の取組

白梅学園大学 子ども学部 教授 堀江 まゆみ

1.地域で支える『人垣』支援のために―トラブル・シューター(TS)ネットワーク

 私たち特定非営利活動法人PandA-J(代表堀江まゆみ)は、トラブルや触法行為等の問題行動のある知的障害・発達障害のある人たちを地域で支えるために、全国各地に「トラブル・シューター(TS)ネットワーク」(支援基盤)を構築してきた(資料参照)。生きづらさを抱えた当事者を各分野の支援者が手を携えて取り囲むことで孤立させない『人垣』支援である。TSネットワークとは、障害福祉、教育、医療、司法など多職種の関係者ネットワークであり、これまで全国30地区で4,000人を超えるTS支援者を養成してきた。各地のTSネットでは、それぞれの専門性を生かし、様々な危機介入支援を協働して実践している(全国TSネット事務局:info-zenkoku-ts@shiraume.ac.jp)。

地域トラブルシューター(TS)ネットワークのイメージ 出典:特定非営利活動法人PandA-J資料による。
2.性問題行動を繰り返す人たちのための社会内問題回復プログラムの実践

 知的障害や発達障害のある人の中には、対人関係のとりにくさのために、不適切な性行動と誤解される行動をとったり、社会的に逸脱した加害行為や触法に至る場合も少なくない。支援者にとっても、繰り返される行為の対応に困難さを感じるのが性問題行動への対応である。

 そこで、各地のTSネットでは「性問題行動をもつ当事者に向けたセルフ・アドボカシー(自分の権利を理解し調整する力)支援に向けた学習プログラム」に取り組んでいる。具体的には、①性犯罪に高いリスクのある成人の知的・発達障害者向けの認知行動療法「SOTSEC-ID(ソトセック-アイディー)」、②性問題行動のある思春期・青年期の知的・発達障害者への問題修復グループ学習プログラム「Keep Safe(キープセーフ)」及び③中・低リスク向け汎用問題プログラム「キープセーフforチェンジ(FC)」である。知的・発達障害者でも分かりやすいビジュアル教材やロールプレイ、チル・アクティビティ(自分を落ち着かせるためのスキルを学習する活動)を多用し、個人の理解レベルに応じた学習スタイルを導入している。

 「SOTSEC-ID」や「Keep Safe」は、性犯罪等を犯した保護観察対象者やその保護者に対する半年から1年をかけた高密度で長期的なプログラムである。一方、「キープセーフFC」は性問題行動以外でも多様なトラブルリスクのある当事者や、リスクのない当事者向けの予防的学習であり、数回で完結することもできる。一人一人のリスクやニーズに合わせて、適切なプログラムを選択できるようになっている(各地で実践されているので詳しくは上記の全国TSネット事務局まで)。

キープセーフFCプログラムの様子 【写真提供:特定非営利活動法人PandA-J】
3.一番大事なことは『信頼の人垣』を改めて体験しなおすこと

 これらはいずれも、英国のケント大学との共同研究で開発した社会内問題回復プログラムであり、受講者は各地のTS支援者たちと一緒にわいわいと楽しくプログラムを体験する。人生の岐路(犯罪の入り口)に立った時に、自分にとっての「グッドウェイ(安心した生活につながる道と選択)」は何か、「バッドウェイ」に進まないためにどう行動すればいいかを学び、改めて自分にとっての「グッドライブズ(良い人生)モデル」を得る機会になる。

 各地でプログラムを実践していると、どんな人たちでもあっても「必ず良い変わり方」を見せてくれる。今まで彼らに必要なことが適切に伝えられてこなかったのであり、セルフ・アドボカシー(自分の権利を理解し調整する力)は皆が持っている。再犯しないだけでなく、人と真摯に向き合う、嫌なことに対しても切り替えがうまくなる。

 一番大事なことは、彼らを変えていくのは『信頼の人垣』であるということである。TS支援者たちに密に囲まれながら、自尊感情を育み、改めて人を信頼することを体験すること、これが有効に働くことを強調したい。生きづらさを抱えて孤立している人に、是非身近な地域TSネットとつながっていただきたい。

  1. ※8 矯正教育課程
    在院者の年齢、心身の障害の状況及び犯罪的傾向の程度、社会生活への適応に必要な能力等の特性について、一定の類型に分け、その類型ごとに在院者に対して行う矯正教育の重点的な内容及び標準的な期間を定めたもの。
  2. ※9 支援教育課程
    障害又はその疑い等のため処遇上の配慮が必要な者に対して指定する矯正教育課程をいう。支援教育課程のうち、Iは知的障害、IIは情緒障害若しくは発達障害、IIIは義務教育終了者で知的能力の制約や非社会的行動傾向のある者等に対して指定する。また、IVは知的障害、Vは情緒障害若しくは発達障害のある者等で、犯罪的傾向が進んだ者に対して指定する。