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第3節 地域ごとの課題に対して地方公共団体が独自に行っている再犯防止施策

1 条例の策定及び同条例を踏まえた取組

 地方計画ではなく、条例という枠組みの中で、効果的な再犯防止施策を進めている団体として、兵庫県明石市と奈良県の取組を取り上げる。

明石市における更生支援の取組~やさしい社会を明石から~

 明石市は、市民の誰もが安全に安心して暮らすことができる共生のまちづくり「やさしいまち・明石」※2の推進のため、様々な取組を進めてきました。更生支援の取組も、何も特別なことではなく、「やさしい」まちづくりを総合的に進めていくための、一つの取組として実施してきたものです。

 明石市の更生支援の取組は、まだ再犯の防止等の推進に関する法律が施行される前の2016年(平成28年)1月、いわゆる入口支援を中心に、福祉的支援を要する方を適切な支援につなぐ「更生支援コーディネート事業」をモデル的に開始したことが始まりです。当時、認知症傾向のある受刑者の存在や、障害を持ちながら刑務所の入出所を繰り返している方の存在等が課題とされていたこともあり、「支援を必要としている人に、必要な支援を届ける」という行政の「あたりまえ」の取組を実践しようとしたのです。

 その後、2017年(平成29年)4月には、福祉局内に更生支援担当を設置し、「つなぐ・ささえる・ひろげる」をキーワードに、先述したコーディネート事業のほか、市内外37の関係機関が一堂に会する「明石市更生支援ネットワーク会議」の開催や、駅前のイベントスペースで著名人の講演や矯正展等を行う「あかし更生支援フェア」の開催などの取組を進めてきました。

 2018年(平成30年)1月、こうした取組を「あたりまえ化」し、関係機関を含む市民の方々とともに更に推進していくため、更生支援に関する条例を制定するための検討会を設置し、議論を開始しました。4回開催されたこの検討会では、更生支援の意義や目的、具体的な取組の内容などについて活発な議論が行われ、同年12月には、検討会で取りまとめた素案を基に「明石市更生支援及び再犯防止等に関する条例」が制定されました。この条例は、明石市における更生支援の基本理念を定めるとともに、地域社会における共生の配慮、地域における見守り、地域活動への参加促進など、基礎自治体特有の課題等に関する規定を盛り込んだものになっています。

 今後、この条例に基づいて、これまでの更生支援の取組を更に充実・発展させていくとともに、地域の方々の理解と参画を得ながら、やさしい社会の実現に向けた取組を進めていきたいと考えています。

あかし更生支援フェアの様子・更生支援に関する条例を制定するための検討会の様子【提供:兵庫県明石市】

奈良県における刑務所出所者等の更生支援について

 奈良県では、更生を志す者を含む全ての県民が安全で安心して暮らせる社会の実現を目指して、刑務所出所者等に対する社会復帰に向けた支援に取り組んでいます。

 2013年度(平成25年度)には、都道府県では全国で初めて保護観察対象者を県臨時職員として採用し、関係機関と連携して民間への就職に向けた支援を行いました。また、刑務所出所者等の雇用の重要性を県民や県内事業所に御理解いただくためのシンポジウムの開催や、保護観察対象者の雇用に取り組む民間事業者に対し、公契約条例に基づく総合評価入札時に加点する制度の導入なども行っています。

 2018年度(平成30年度)からは、有識者による「奈良県更生支援のあり方検討会」を開催し、「刑務所出所者等の更生にまず必要なことは、職場・住まいを提供すること」や「県が協力雇用主の一翼を担うなど、新たな仕組みの構築が求められる」などの意見をいただきました。

 これらの意見を基に、「出所者の就労の場づくり」の具体的な事業スキームや条例の検討を行い、2020年(令和2年)4月から「奈良県更生支援の推進に関する条例」※3を施行しています。

 この条例は、第13条で更生支援の具体的な施策の進め方を定めた点に特徴があります。同条第1項では、奈良県が法人を設立し、刑務所出所者等を直接雇用し、住居を貸与して、職業訓練及び社会的な教育を行った上で、企業などへの就職を支援すること、また、同条第2項では、刑務所出所者等が企業などに就職した後に、離職した場合においても、本人が希望すれば、再びこの法人で雇用して支援を行うことで、社会復帰につなげていくことを規定しています。このような枠組みは、国及び地方公共団体を通じて全国初の試みとなります。

 2020年7月には、この条例に基づき、奈良県が基本財産を全額出資する形で「一般財団法人かがやきホーム」を設立しました。この財団の名称には、「全ての困っている人を家族の一員として受け入れ、一人一人が、かがやくことができる家」にしたいという思いを込めています。

 財団では、法務省などの協力を得て、刑務所出所者を2名程度雇用し、まずは山林で木の伐採などに従事させます。また、勤務日は平日週4日を基本とし、残り1日は刑務所出所者の個別具体的な課題を解決するための社会的教育の研修日に充てることとしています。

 この取組は、先例のないまさにチャレンジングな取組であり、この先、必ずしも順風満帆に進むものではないかもしれませんが、雇用した刑務所出所者等に対して、「必ず更生させ自立につなげる、自立するまで何度でも支援をする」という強い意思をもって臨んでいきます。

 こうした取組を通じて、奈良県は、条例の基本理念である、更生を志す者を含む全ての県民が、社会的に孤立したり排除されることなく、地域の一員として包摂される社会を目指していきます。

奈良県の更生支援の推進に関するイメージ図【提供:奈良県】
  1. ※2 明石市「~やさしい社会を明石から~市が進める特色ある施策」ウェブサイト
    URL:https://www.city.akashi.lg.jp/seisaku/kouhou_ka/shise/koho/tokusyoku/index.html明石市「~やさしい社会を明石から~市が進める特色ある施策」ウェブサイトのqr
  2. ※3 「奈良県更生支援の推進に関する条例」ウェブサイト
    URL:http://www.pref.nara.jp/54165.htm「奈良県更生支援の推進に関する条例」ウェブサイトのqr