
第2節 住居の確保等
(1)住居の確保を困難にしている要因の調査等【施策番号29】
法務省は、2018年度(平成30年度)に更生保護施設職員等に対して、犯罪をした者等の住居の確保を困難にしている要因についてアンケートを行ったところ、賃貸契約時の連帯保証人の確保や経済基盤の問題等が挙げられた。また、「再犯防止推進計画加速化プラン」(令和元年12月23日犯罪対策閣僚会議決定)において、生活環境の調整等による受け皿の確保として「居住支援法人※34と連携した新たな支援の在り方を検討する」こととされた。そこで、2020年度(令和2年度)から、刑務所出所者等の住まいの確保やセーフティネット機能の強化に向けて、国土交通省、厚生労働省及び法務省が連携し、関係機関での情報共有や協議を行う「住まい支援の連携強化のための連絡協議会」を年に1回程度開催している。
また、2022年度(令和4年度)には、住まい支援の実務におけるより具体的な課題を把握・共有することを目的に、連絡協議会の下に「住まい支援における課題の把握に関するワーキンググループ」を設置し、関係省庁及び関係機関による実践的な報告や意見交換を実施した。
(2)住居の提供者に対する継続的支援の実施【施策番号30】
法務省は、保護観察対象者等の居住等について、公営住宅の事業主体である地方公共団体から相談を受けた際は、更生保護官署において、その相談内容を踏まえて当該保護観察対象者等に指導及び助言を行うとともに、身元保証制度(【施策番号11】参照)の活用事例について情報提供等を行うなど、保護観察対象者等であることを承知して住居を提供する者に対する継続的支援を行っている。
(3)公営住宅への入居における特別な配慮【施策番号31】
国土交通省は、2017年(平成29年)12月に、各地方公共団体に対して、保護観察対象者等が住宅に困窮している状況や地域の実情等に応じて、保護観察対象者等の公営住宅への入居を困難としている要件を緩和すること等について検討するよう要請を行い、併せて、矯正施設出所者について、「著しく所得の低い世帯」として優先入居の対象とすることについても適切な対応を要請するなど、公営住宅への入居における特別な配慮を行っている。
(4)賃貸住宅の供給の促進【施策番号32】
法務省は、住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(平成19年法律第112号)に基づき、犯罪をした者等のうち、同法第2条第1項が規定する住宅確保要配慮者※35に該当する者に対して、個別の事情を踏まえつつ、賃貸住宅に関する情報の提供及び相談を実施している。また、更生保護施設退所者の住居確保の観点から、保護観察対象者等の入居を拒まない住居の開拓・確保にも努めている。
(5)満期出所者に対する支援情報の提供等の充実【施策番号33】
法務省は、刑事施設において、出所後の社会生活で直ちに必要となる知識の付与等を目的として、講話や個別面接等による釈放前の指導を実施している。特に、適当な帰住先が確保できていないなど、釈放後の生活が不安定となることが見込まれる満期出所者に対しては、刑事施設に配置された福祉専門官や非常勤の社会福祉士等が個別面接を行うなどして、受刑者本人のニーズを把握しながら、更生緊急保護※36の制度や、社会保障等の社会における各種手続に関する知識を付与し、必要な支援につなぐための働き掛けを行っている。
地方更生保護委員会では、満期出所が見込まれる受刑者等について、継続的に保護観察官による面接を実施し、更生緊急保護の制度について説示し、申出への動機付けを行うとともに、更生緊急保護の申出見込みについて保護観察所に必要な情報提供を行っている。また、保護観察所において、帰住先を確保できないまま満期出所した更生緊急保護対象者に対して、更生保護施設等への委託をするほか、必要に応じて保健医療・福祉関係機関等の地域の支援機関等についての情報提供を行うなど、一時的な居場所の提供や定住先確保のための取組の充実を図っている。2022年(令和4年)は、更生保護施設及び自立準備ホームに対して、2,280人(前年:2,388人)の満期出所者等への宿泊場所の提供等を委託し、これらの者の一時的な居場所を確保した。
Column2 更生保護施設草牟田寮(そうむたりょう)における住居確保の取組
更生保護施設草牟田寮
鹿児島県内唯一の更生保護施設である草牟田寮は、西南戦争最後の激戦地である鹿児島市城山にほど近い住宅地にあります。職員は、常勤・非常勤(調理員含む)合わせて15人、日々、被保護者の社会復帰に向けて汗を流しています。
草牟田寮では、退所後の被保護者が社会内で同じような失敗、さらには再犯をしないためには、入所中からどのような支援や関わりをしていけばよいのかを、常に問題意識として職員間で共有しながら支援に当たっています。本コラムでは、草牟田寮で実施した高齢者や障害者への「住居の確保」(居場所づくり)の事例について紹介します。
【事例1】~80代男性の支援事例~
長期間にわたり保護観察を受けている被保護者。軽度知的障害、アルコール依存症を抱えており、草牟田寮退所後、生活保護を受給しながら単身生活を送っていたが、飲酒によるトラブルで再度草牟田寮に入所することになった。
同じようなトラブルを起こさないよう、草牟田寮の福祉担当職員が繰り返し面接を実施して信頼関係を構築した上で、アルコール依存症の治療継続を働き掛けること、単身生活は困難であるとの判断から福祉施設への入所調整を進めることを本人の処遇方針として定めた。
福祉担当職員による親身な対応等により、入所数か月後、本人の口から「一人暮らしで死にたくない。」との言葉が聞かれるとともに、アルコール依存症の治療に取り組み始めたことから、関係機関との協議調整を行い、候補となる福祉施設での体験入所を経て同施設へ移行した。
福祉施設入所後の本人は、飲酒によるトラブルや問題行動はなく、福祉施設職員の指示に従って安定した生活を継続している。また、事件後から疎遠であった親族とも数十年ぶりに再会を果たすことができ、本人の長年の希望も叶った。
【事例2】~70代男性の関係機関との連携事例~
高齢で知的障害があり、刑事施設入所中から地域生活定着支援センター等の関係機関が連携した特別調整が行われ、満期釈放後、一時的な居住先として草牟田寮に入所した。当寮から就労継続支援B型事業所に通いながら、グループホーム入所に向けて調整が続けられたが、グループホームの入所契約上、連帯保証人の確保が必要であった。このため、鹿児島県から居住支援法人として指定されているNPO法人による「地域ふくし連携型連帯保証提供事業」を利用し、同法人が連帯保証を行い、入居先の確保に至った。
上記のほかにも、知的障害を有する被保護者の住居確保のため、農福連携を推進している社会福祉法人と連携を図った事例や協力雇用主のもとで住み込み就労に至った事例もあり、これまで様々な関係機関と協力しながら住居確保を支援しています。
また、近年は、草牟田寮を退所した被保護者が孤独や不安を抱え、再犯に陥らないようフォローアップ事業(【施策番号94】参照)を積極的に行っています。さらに、当寮のフォローアップ事業に加えて、鹿児島県の地域再犯防止推進事業として鹿児島県保護司会連合会が委託を受けて実施している、満期釈放者等を中心に居場所づくりや相談支援を行う「ひまわり教室」への参加が、本人達の孤独を癒やし、感情吐露の場となり、社会内で安定した生活をする上で大きな力となっています。

これからも様々な問題を抱える被保護者の個々の特性や課題等に応じ、関係機関と更なる連携を図りながら、住居確保や居場所づくりに取り組んでいきたいと考えています。
- ※34 居住支援法人
住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(平成19年法律第112号)第40条に規定する法人で、住宅確保要配慮者の民間賃貸住宅への円滑な入居の促進を図るため、家賃債務の保証、円滑な入居の促進に関する情報の提供・相談、その他の援助などを実施する法人として都道府県が指定するもの。 - ※35 住宅確保要配慮者
低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子供を養育している者、保護観察対象者等。 - ※36 更生緊急保護
更生保護法(平成19年法律第88号)第85条に基づき、保護観察所が、満期釈放者、保護観察に付されない全部執行猶予者及び一部執行猶予者、起訴猶予者等について、親族からの援助や、医療機関、福祉機関等の保護を受けることができない場合や、得られた援助や保護だけでは改善更生することができないと認められる場合、その者の申出に基づいて、食事・衣料・旅費等を給与し、宿泊場所等の供与を更生保護施設等に委託したり、生活指導・生活環境の調整などの措置を講ずるもの。刑事上の手続等による身体の拘束を解かれた後6月を超えない範囲内(特に必要があると認められるときは、更に6月を超えない範囲内)において行うことができる。
なお、2022年(令和4年)6月に成立した刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号)による改正後の更生保護法においては、更生緊急保護の対象者に、処分保留で釈放された者のうち検察官が罪を犯したと認めたものが追加された。また、更生緊急保護を行うことができる期間について、刑事上の手続又は保護処分による身体の拘束を解かれた後6月の範囲内という原則的な期間に加えて、更生緊急保護の措置のうち金品の給与又は貸与及び宿泊場所の供与については更に6月、その他のものについては更に1年6月(通算2年)を超えない範囲内において行うことができることとされた。さらに、矯正施設収容中の段階から更生緊急保護の申出を行うことができることとされた。
これらの改正については、令和5年12月1日から施行することとされた。