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第1節 特性に応じた効果的な指導の実施

10 再犯の実態把握や指導等の効果検証及び効果的な処遇の在り方等に関する調査研究【施策番号87】

 法務省は、検察庁、矯正施設及び更生保護官署がそれぞれのシステムで保有する対象者情報のうち、相互利用に適する情報を対象者ごとにひも付けることにより、一元的に管理・共有する刑事情報連携データベースシステム(SCRP※26)を運用している。その上で、他の機関が個々の対象者に実施した処遇・支援等の内容の詳細を把握できる「データ参照機能」や、再犯の状況把握や施策の効果検証等を簡易・迅速化する「データ分析機能」を利活用することにより、①再犯の状況や施策の実施状況の迅速かつ効率的な把握や、②各機関における個々の対象者に対する処遇・支援等の充実、③施策の効果検証や再犯要因等の調査研究の推進を行い、必要に応じ、施策の見直しや新たな施策の企画を行うなどして再犯防止施策の推進を図っている。

 また、効果検証センター※27においては、矯正処遇、矯正教育、社会復帰支援、鑑別・観護処遇等に係る効果検証に加え、アセスメントツール(例えば、受刑者用一般リスクアセスメントツール(Gツール)(【施策番号66】参照)、法務省式ケースアセスメントツール(MJCA)(【施策番号66】参照))や処遇プログラムの開発及び維持管理に資する研究等を体系的に実施している※28。そのほか、有為な人材の育成や職員の職務能力向上に資するため、外部専門家を講師に招いて、拡大研修会を計画的に企画・実施しており、2022年度(令和4年度)は、知能検査の概要と解釈の実践、トラウマインフォームドケア、近年の薬物依存の理解と対応、高齢者のアセスメントと処遇等をテーマとして取り上げた。

 なお、2020年(令和2年)6月に性犯罪・性暴力対策強化のための関係府省会議において取りまとめられた「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」を踏まえ、仮釈放中の性犯罪者等にGPS機器の装着を義務付けること等について、2022年度(令和4年度)中に、法務省において諸外国の調査を行ったところであり、今後その結果を取りまとめることとしている。

 法務総合研究所では、2022年(令和4年)10月に発刊した研究部報告63「犯罪者・非行少年の生活意識と価値観に関する研究」※29及び同年12月に発刊した令和4年版犯罪白書※30の特集の一つである「犯罪者・非行少年の生活意識と価値観」において、犯罪者・非行少年に対して実施した質問紙調査の結果を分析し、その特徴、再犯・再非行のリスク要因、改善更生の契機、改善更生のためのニーズ等についてまとめて報告している。2023年(令和5年)3月には、研究部報告64「特殊詐欺事犯者に関する研究」※31を発刊し、近年の特殊詐欺事犯をめぐる情勢のほか、裁判書や刑事確定記録、詐欺・窃盗初入者に対する質問紙調査結果等を用いて、特殊詐欺事犯者の基本的属性、科刑状況、再犯状況等に関する特徴を中心にまとめて報告した(【施策番号100】参照)。

Column6 長崎刑務所における知的障害受刑者処遇・支援モデル事業について

長崎刑務所

 長崎刑務所は長崎県諫早市に所在する刑事施設であり、犯罪傾向の進んだ26歳以上の男子受刑者を収容しています。当所は、全国の刑事施設に先駆けて福祉的な観点を取り入れた指導や支援を推進してきた経緯があり、地元の関係機関や福祉事業者との連携実績もあることから、2019年(平成31年)4月に全国の刑事施設で唯一「社会復帰支援部門」を設立しました。以降、認知症等の配慮を要する高齢受刑者を九州各地の刑事施設から一定数集約し、身体機能や認知機能の維持向上を図る処遇を実施しています。

 以上の取組に加え、当所では2022年度(令和4年度)から「知的障害受刑者処遇・支援モデル事業」を実施することになりました。過去の調査研究において、刑事施設には知的障害を有する受刑者が一定数存在していることや、これらの受刑者は刑務所を出所してから再入所するまでの期間が短く、また、刑事施設の入所回数が多い傾向があることが明らかになっています。つまり、知的障害を有する受刑者は、必要な支援が得られないまま出所した場合、短期間で再犯を繰り返してしまうことが懸念され、その再犯防止のためには障害特性に対応した処遇・支援体制の整備が求められます。このような観点から本事業が実施されることになりましたが、刑事施設単独で事業を進めるには専門的知見やノウハウが不十分であるため、触法障害者の支援の実績を有する社会福祉法人南高愛隣会と業務委託契約を締結し、「①特性に応じたアセスメントと処遇計画の立案、②処遇計画に基づく訓練・指導、③療育手帳等の取得に向けた調整、④息の長い寄り添い型支援を可能とする調整」を事業の4つの柱として2022年(令和4年)10月から本格的に事業をスタートしました。

 以後、九州各地の刑事施設から対象者の受入れを進め、対象者個々に作成した処遇計画に基づいて各種プログラムを実施しています。比較的知的能力が高い者には「ジョブトレーニング」や「ビジネスマナー指導」を実施し、就労に必要な知識や技術を身に付けさせています。一方、知的能力の制約が比較的大きい者には、「農園芸作業」のほか、「体感協調プログラム」(和太鼓の練習)や「感情表現プログラム」(絵画作成)を実施し、他者と協調して行動する力や自己表現力を育む指導を実施しています。また、「犯罪防止学習」や「対人関係プログラム」、「生活スキルアップ学習」を共通プログラムとして実施し、再犯防止につながる知識や社会的スキルの習得も目指しています。当初、プログラムの受講に難色を示した者も回数を重ねるごとに意義を感じるようになり、現在はほとんどの対象者が意欲的にプログラムを受講しています。

 療育手帳の取得等、地方自治体が窓口となる福祉的支援の調整のほか、出所後の息の長い寄り添い型支援の実現のためには、地域社会の理解と協力が重要であることから、2023年(令和5年)1月16日に長崎県、諫早市及び当所の三者で地域連携協定を締結しました。また、本事業の効果検証に協力をいただくため、日本福祉大学と法務省矯正局が同日、効果検証に関する連携協定を締結しています。

 本事業は5か年計画のモデル事業であり、その効果を検証した上で、当所以外の刑事施設にも取組を拡大していくことを目指しています。前例のない新たな取組であり、乗り越えなければならない課題も多々ありますが、本事業を通じて知的障害を有する受刑者の再犯防止を推進しつつ、多機関の協力をいただきながら、「誰一人取り残さない」社会の実現につなげていければと考えています。

体感協調プログラム(和太鼓の練習)の様子長崎刑務所知的障害受刑者処遇・支援モデル事業に係る協定締結式の様子
  1. ※26 System for Crime and Recidivism Preventionの略称。システムの機能と実績、活用例等については、令和3年度法務省行政事業レビュー公開プロセス資料参照。
    https://www.moj.go.jp/content/001350629.pdf令和3年度法務省行政事業レビュー公開プロセス資料のqr
  2. ※27 効果検証センター
    矯正行政における証拠に基づく政策立案(Evidence Baced Policy Making、EBPM)の担い手として、刑事施設や少年院における処遇プログラムの開発やその再犯防止効果の検証、受刑者や非行少年の再犯可能性や指導・教育上の必要性を把握するアセスメントツールの開発・維持管理等を行う矯正研修所の部署。
  3. ※28 効果検証センターにおける研究結果
    刑事施設における職業訓練の効果検証結果について
    (URL:https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei13_00004.html刑事施設における職業訓練の効果検証結果についてのqr
  4. ※29 研究部報告63「犯罪者・非行少年の生活意識と価値観に関する研究」
    https://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00116.html研究部報告63「犯罪者・非行少年の生活意識と価値観に関する研究」のqr
  5. ※30 令和4年版犯罪白書
    https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/69/nfm/mokuji.html令和4年版犯罪白書のqr
  6. ※31 研究部報告64「特殊詐欺事犯者に関する研究」
    https://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00119.html研究部報告64「特殊詐欺事犯者に関する研究」のqr