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第1節 就労の確保等

第2章 就労・住居の確保等を通じた自立支援のための取組
第1節 就労の確保等
1 職業適性の把握と就労につながる知識・技能等の習得

(1)職業適性の把握等【施策番号1※1

(2)施設内から社会内への一貫した指導・支援スキームの確立【施策番号2】

 法務省は、一部の矯正管区及び刑事施設※2において、2020年度(令和2年度)から、就労の確保及び職場定着に困難が伴う受刑者に対して、更生保護官署※3と連携して、アセスメントに基づく矯正処遇、生活環境の調整及び就労の確保に向けた支援等を一体的に行う包括的な就労支援を実施している(2023年(令和5年)4月現在、札幌刑務所、川越少年刑務所、名古屋刑務所、加古川刑務所及び福岡刑務所の5庁を実施庁に指定)。

 また、2023年12月からは、全ての新受刑者への処遇調査※4において、必要に応じて福祉専門官、就労支援専門官※5等も加わるなどし、社会復帰支援への意向・動機付けの程度、希望職種、職歴等の職業適性等に係る情報をより詳細に把握した上、改善更生及び円滑な社会復帰に資する作業並びに改善指導の指定等ができるよう努めている。

 その他、2014年度(平成26年度)から、保護観察所から委託を受けた民間事業者が、矯正施設※6在所中における就職先確保のための支援から就職後の就労継続に必要な寄り添い型の支援までを行う更生保護就労支援事業(【施策番号7ウ】参照)を実施しており、2024年度(令和6年度)には28庁の保護観察所において実施している。

(3)就労に必要な基礎的能力等の習得に向けた処遇等【施策番号3】

 法務省は、矯正施設において、就労支援体制の充実のため、2006年度(平成18年度)から非常勤職員である就労支援スタッフ※7を配置し、2019年度(令和元年度)からは常勤職員である就労支援専門官を配置しているほか、2022年度(令和4年度)からは、就労支援の要となる統括矯正処遇官(就労支援担当)※8を配置している。

 刑事施設では、受刑者に対して、特別改善指導(【施策番号62】参照)として、就労に必要な基本的スキルやマナーを習得させるとともに、出所後の就労に向けて就労準備指導※9(資2-3-1参照)を実施している。2023年度(令和5年度)の受講開始人員は2,791人(前年度:2,868人)であった。

資2-3-1 就労準備指導の概要
資2-3-1 就労準備指導の概要

 また、2011年度(平成23年度)からは、受刑者の勤労意欲を喚起するとともに、社会への貢献を実感させることで、その改善更生、社会復帰を図ることを目的として、公園の清掃作業などの社会貢献作業を実施している。2023年度は、刑事施設50庁(前年度:37庁)が、79か所(前年度:55か所)の事業主体と協定を結んで実施した。

 刑事施設及び少年院では、受刑者等の職業意識をかん養し、就労意欲を喚起することを目的として、協力雇用主※10等の出所者等を雇用した経験のある事業主等による職業に関する講話を実施している(2023年度には、55庁(前年度:37庁)において延べ72回(前年度:44回)の講話を実施し、延べ3,009人(前年度:2,214人)の受刑者等が受講)。

 少年院では、職場への定着が出院後の再非行防止に有効であるとの観点から、在院者に対し、職業指導の一環として、就労及び職場定着のために必要な知識及び技能の習得を図ることを目的として、職業生活設計指導科を設けている。職業生活設計指導科では、受講者全員に対して統一的に行う必修プログラム64単元(就労支援ワークブック、ビジネスマナー、パソコン操作能力等)と、受講者個々の必要性に応じて選択的に行う選択プログラム(安全衛生ベーシック講座、接客業ベーシック講座、成年就労ベーシック講座等)を定めており、必修プログラムに加え、選択プログラム30単元(5講座)のうち12単元(2講座)以上を組み合わせて行うこととしている。少年院における処遇の概要については【施策番号56】を参照。

 保護観察所では、ハローワークと連携して、保護観察対象者等のうち、就労体験の乏しい者、就労に必要な知識・技能が身に付いていない者等に対して、刑務所出所者等総合的就労支援対策(【施策番号7ア】参照)による就労支援を行っている。また、少年の保護観察対象者に対しては、必要に応じて、職業人として望ましい勤労観・職業観を醸成することを目的としたジョブキャリア学習を実施し、社会的・職業的自立に向けた基礎となる能力や態度の育成に努めている。

(4)刑事施設における受刑者の特性に応じた刑務作業の充実等【施策番号4】

 法務省は、府中刑務所において、2020年度(令和2年度)から、高齢により日常生活に支障が生じている者や心身の疾患等を有する者に対して、作業療法士等の専門的評価やアドバイスを得ながら、身体機能及び認知機能の維持・向上を図り、段階的に一般的な生産作業に移行させるとともに、社会復帰に向けて身体機能及び認知機能を維持又は向上させる機能向上作業を試行し、2024年度(令和6年度)には同様の取組を12庁で実施している。

 さらに、広島刑務所及び広島少年院において、2019年度(令和元年度)から、知的能力に制約がある、あるいは集中力が続かないなどの特性を有しているため、一般就労が困難な者や継続できない者について、矯正施設在所中に、社会復帰に必要な認知機能等を向上させることにより就労や職場定着を図ることを目的として、広島大学と連携し、作業療法を活用したプログラムの実施等を試行した。この試行の結果を踏まえて、刑事施設においては、2023年度(令和5年度)から、同プログラムの実施庁を10庁に拡大した。

(5)刑事施設における職業訓練等の充実【施策番号5】

 法務省は、刑事施設において、刑務作業の一つとして、受刑者に職業に関する免許や資格を取得させ、又は職業上有用な知識や技能を習得させるために、職業訓練を実施している。2023年度(令和5年度)には、建設機械科、介護福祉科、溶接科、ビジネススキル科等の合計59科目(前年度:57科目)の職業訓練を実施し、9,168人(前年度:1万771人)が受講した。そのうち、溶接技能者、自動車整備士、介護福祉士実務者研修の資格又は免許を取得した者は、延べ6,829人(前年度:6,491人)であった。また、職業訓練がより出所後の就労に資するものとなるよう、有効求人倍率や企業からの受刑者雇用に係る相談件数、内定率、充足率等を考慮しながら、社会ニーズに沿った訓練科目等への見直しを行っており、2024年度(令和6年度)には、2023年度に引き続き、建設・土木に関連する職業訓練を一部集約・統合して、同一施設において、より幅広い分野の資格を取得させるなど、訓練内容の更なる充実化を図っている。

 2018年度(平成30年度)からは、イメージと実際の就労環境のかい離を解消させることで、出所後の就職先への定着を図ることを目的として、刑事施設在所中に内定企業や就労を希望する業種での就労を体験する職場体験制度を導入しており、2023年度は9庁で15人(前年度:8庁12人)が職場体験を実施した。

 また、2023年度から新たに、職業訓練により習得した知識・技能等の定着を図る目的で、釈放が近い時期に再度関連技能等を復習する職業訓練をビジネススキル科及び建築・土木コースの受講対象者に実施している。

 さらに、一定の要件を備えている受刑者について、釈放後の住居又は就業先の確保等のために引受人※11や雇用主等を訪問するなどの必要があるときに、外出又は外泊を許すことがある(2023年度は、外出36件(前年度:18件)、外泊0件(前年度:0件))。加えて、円滑な社会復帰を図るため必要があるときに、刑事施設の外で民間企業の事業所等に通勤させて、作業を行わせる外部通勤作業を実施しており、2023年度末時点では、17庁において22か所の木工・金属・農業等の外部事業所がある。

 少年院では、在院者の勤労意欲を高め、職業上有用な知識及び技能を習得させるために、原則として全ての在院者に職業指導を実施している。2022年度(令和4年度)には、少年法等の一部を改正する法律(令和3年法律第47号)の施行に合わせて、職業指導の再編(資2-5-1参照)を行い、新たに製品企画科、総合建設科、生活関連サービス科及びICT技術科を設け、時代のニーズに対応した能力の取得を目指している。なお、職業指導により、コンピューターサービス技能評価試験、介護職員初任者研修等、何らかの資格を取得した在院者は、2023年(令和5年)は、延べ2,816人(前年:2,780人)であった。

 保護観察所では、刑務所出所者等に対する就労支援を推進するとともに、矯正施設における職業訓練の充実にも資するよう、地元経済団体・業界団体、主要企業、産業・雇用に関わる行政機関、矯正施設、更生保護関係団体等が参集する刑務所出所者等就労支援推進協議会を毎年主催し、刑務所出所者等を各産業分野の雇用に結び付けるための方策や人手不足等の産業分野に送り出すための方策等について情報交換や協議を行っている。

(6)資格制限等の見直し【施策番号6】

 法務省は、2021年(令和3年)に、外部有識者を構成員とした「前科による資格制限の在り方に関する検討ワーキンググループ」※12を設置し、同ワーキンググループにおいて、制限を緩和すべき資格に関するニーズ調査や、資格を所管する関係省庁からのヒアリングを行うなどして所要の検討を進め、2023年(令和5年)3月にその結果を取りまとめた。法務省は、2023年、同取りまとめ結果に基づき、関係省庁に対し、前科による資格制限の在り方等の見直しについての検討を依頼した。

資2-5-1 少年院における職業指導種目の再編
資2-5-1 少年院における職業指導種目の再編
  1. ※1 第二次再犯防止推進計画(https://www.moj.go.jp/hisho/saihanboushi/hisho04_00036.html)との対応状況を明らかにするために付しているもの。第二次再犯防止推進計画のqr
  2. ※2 刑事施設
    刑務所、少年刑務所及び拘置所をいう。
  3. ※3 更生保護官署
    地方更生保護委員会及び保護観察所をいう。
  4. ※4 処遇調査
    刑事施設において受刑者の処遇に必要な基礎資料を得られるよう、その資質及び環境に関し、必要に応じて医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識及び技術を活用し、面接、診察、検査、行動観察その他の方法によって行う科学的調査のこと。
  5. ※5 就労支援専門官
    キャリアコンサルタント等の資格を有する常勤職員。就労支援対象者のうち、特に配慮を要する受刑者等に対する面接・指導のほか、就労支援スタッフ等に対する助言指導等を行っている。
  6. ※6 矯正施設
    刑務所、少年刑務所、拘置所、少年院、少年鑑別所及び婦人補導院をいう。
    なお、婦人補導院は、2024年(令和6年)4月1日に廃止された。
  7. ※7 就労支援スタッフ
    キャリアコンサルティング等の専門性を有する非常勤職員。受刑者等に対する面接・指導のほか、ハローワークや事業主との連絡調整業務等を担っている。
  8. ※8 統括矯正処遇官(就労支援担当)
    刑事施設内での就労支援を担当する幹部職員。就労支援スタッフや就労支援専門官を指導・監督するほか、関係機関及び団体との連絡調整業務等を担っている。
  9. ※9 就労準備指導
    2024年度(令和6年度)からは、就労意欲を喚起させ、就労の重要性や仕事に必要な心構え等に焦点を当てたカリキュラムに変更する予定としている。
  10. ※10 協力雇用主
    保護観察所において登録し、犯罪をした者等の自立及び社会復帰に協力することを目的として、犯罪をした者等を雇用し、又は雇用しようとする事業主をいう。
  11. ※11 引受人
    刑事施設、少年院に収容されている者が釈放された後に同居するなどしてその生活の状況に配慮し、その改善更生のために特に協力をする者をいう。
  12. ※12 前科による資格制限の在り方に関する検討ワーキンググループの開催状況
    https://www.moj.go.jp/hisho/seisakuhyouka/hisho04_00050.html前科による資格制限の在り方に関する検討ワーキンググループの開催状況のqr