
第1節 特性に応じた効果的な指導の実施等
法務省は、刑事施設において、犯罪者処遇の基本理念となっている「RNR原則※1」にのっとった処遇を実施するため、2017年(平成29年)11月から「受刑者用一般リスクアセスメントツール」(以下「Gツール」という。)(資5-50-1参照)を活用している。現段階におけるGツールは、原則として、入所時等に実施する刑執行開始時調査において全受刑者を対象としており、これまでの受刑回数や犯罪の内容等、主に処遇によって変化しない要因(静的リスク要因)から、出所後2年以内に再び刑務所に入所する確率を推定するものである。Gツールの実施結果については、犯罪傾向の進度の判定や各種改善指導プログラム(【施策番号62】参照)の対象者選定の際の基礎資料として活用している。また、2023年(令和5年)12月からは、刑事施設の長からの依頼に基づく少年鑑別所における処遇鑑別も活用しており、若年者を対象とする鑑別等を通じて蓄積した少年鑑別所の専門的知識及び技術について、若年受刑者を始めとする受刑者に対する処遇に活用することにより、一層の充実を図っている。
少年鑑別所では、法務省式ケースアセスメントツール(以下「MJCA※2」という。)(資5-50-2参照)を用いて、鑑別対象少年の再非行の可能性及び教育上の必要性を定量的に把握し、その情報を少年院や保護観察所等の関係機関へと引き継いでいる。非行名や動機から、性非行に係る再非行の可能性及び教育上の必要性を定量的に把握する必要があると判断した場合には、MJCAに加え、性非行に特化した法務省式ケースアセスメントツール(性非行)(MJCA(S))を実施している。
また、全ての少年院在院者に、原則として在院中に1回以上少年鑑別所が処遇鑑別を行い、面接や各種心理検査、行動観察のほか、MJCAの再評定等を通じて、少年院入院後の処遇による変化等を把握・分析し、社会復帰後も見据えた処遇指針を提案している。加えて、少年院在院者を、1週間程度、一時的に少年鑑別所に移して生活させ、集中的にアセスメントを行う収容処遇鑑別を実施している。さらに、児童自立支援施設※3や児童養護施設※4の求めによりアセスメントを実施するなど、少年保護手続のあらゆる場面・段階において、必要なアセスメントを行う取組を推進している。
さらに、刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号)の一部施行により2023年12月からは、懲役又は禁錮の刑の執行を受ける20歳以上の受刑者、仮釈放者、保護観察付執行猶予者についても鑑別の対象となった。このうち、若年受刑者については、特に「若年受刑者ユニット型処遇」や「少年院転用型処遇」(【施策番号56】参照)の対象者を中心に、処遇要領の策定や処遇の経過を踏まえた処遇指針の提案等を観点とした鑑別を重点的に実施することとしているほか、上記以外の受刑者についても、刑事施設の長からの依頼に応じ、釈放後の関係機関による支援を見据えた課題、被害等に対する認識等の把握等を観点とした鑑別を実施している。
保護観察所では、保護観察対象者に対して効果的な指導・支援を行うためのアセスメントツール(以下「CFP※5」という。)(資5-50-3参照)を開発し、2021年(令和3年)1月から実施している。CFPは、保護観察対象者の特性等の情報について、犯罪や非行に結び付く要因又は改善更生を促進する事項を抽出し、それぞれの事項の相互作用、因果関係等について分析して図示することにより、犯罪や非行に至る過程等を検討し、再犯リスクを踏まえた適切な処遇方針の決定に活用するものである。今後は、保護観察所における活用状況をモニタリングしつつ、保護観察終了後も見据えた刑事司法関係機関や医療・保健・福祉機関等との連携にも資するものとすることを目指している。
また、一部の刑事施設及び保護観察所において、多角的な視点から適切にアセスメントを行い、それに基づく効果的な指導等を実施するため、必要に応じて、刑が確定した場合に弁護人から提供される更生支援計画書※6等の処遇に資する情報を活用する取組の試行を2018年度(平成30年度)から開始し、試行の結果を踏まえて、2023年度(令和5年度)からは、同取組を全国の刑事施設及び保護観察所において実施している。
さらに、少年院や保護観察所では、家庭裁判所の少年調査記録や少年鑑別所の少年簿に記載された情報を引き継ぎ、必要に応じて、在籍していた学校や、児童相談所等の福祉関係機関等からも情報を収集し、これらの情報を踏まえた処遇を実施している。



- ※1 RNR原則
リスク原則(Risk)、ニーズ原則(Needs)、レスポンシビティ原則(Responsivity)から成り立っており、再犯防止に寄与する処遇をするためには、対象者の再犯リスクの高低に応じて、犯罪や非行を誘発する要因に焦点を当てて、対象者に合った方法によって実施する必要があるという考え方のこと。 - ※2 MJCA
Ministry of Justice Case Assessment toolの略称。 - ※3 児童自立支援施設
非行問題を始めとした児童の行動上の問題や、家庭環境等の理由により生活指導等を要する児童に対応する児童福祉法に基づく施設。 - ※4 児童養護施設
保護者のない児童や保護者に監護させることが適当でない児童に対し、安定した生活環境を整えるとともに、生活指導、学習指導、家庭環境の調整等を行いつつ養育を行い、児童の心身の健やかな成長とその自立を支援する児童福祉法に基づく施設。 - ※5 CFP
Case Formulation in Probation/Paroleの略称。 - ※6 更生支援計画書
弁護人が社会福祉士等に依頼して作成する、個々の被疑者・被告人に必要な福祉的支援策等について取りまとめた書面。