
第3節 犯罪や非行からの離脱の要因
3 良好な人間関係の構築
事例1では、本人が仕事で悩みを抱えたり、覚醒剤の誘惑に負けそうになったりした際に、勤務先の社長や店長による助言があったこと、本人と共に更生の道を歩んでいる配偶者がいることで、再犯を抑止できていることがうかがえる。事例2では、更生保護施設退所後も親身になって相談に乗ってくれる施設職員、本人を心配して定期的に連絡をくれる親族、本人の事情を理解して交友関係を続けてくれる地域の友人が、立ち直りの過程において大きな心の支えになっていることが語られている。事例3では、支援を受けたNPO法人の活動に参加し、互いに必要とし、必要とされる関わりによって、本人の価値観や考え方が徐々に良い方向に変わっていったことがうかがえる。
各事例は、良好な人間関係の構築が、離脱の要因の一つであることを示唆しており、この点については、令和5年版白書の事例と共通している。犯罪をした者等の中には、生育環境の問題等から、親密な関係を築きにくかったり、安定した関係の維持が困難であったりするなど、対人関係能力が十分に習得できていない者もおり、様々な生きづらさを抱えていても自ら援助を求められないまま、必要な支援につながらない場合があり得る。そのような場合であっても、事例2や事例3のように、本人の主体性を尊重しながら対話を重ね、粘り強い姿勢で支援を継続することによって、支援者や親族等との適切な関係が構築され、地域社会の中で孤立することなく、自立した生活を送ることができるようになると考えられる。