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第2節 薬物依存の問題を抱える者への支援等

2 刑事司法関係機関等における効果的な指導の実施等

(1)再犯リスクを踏まえた効果的な指導等の実施【施策番号34】

ア 矯正施設内における指導等について

(ア)刑事施設

 法務省は、刑事施設において、改善指導(【施策番号62】参照)のうち、特別改善指導の一類型として、薬物依存離脱指導の標準プログラム(指導の標準的な実施時間数や指導担当者、カリキュラムの概要等を定めたもの。)を定め、同指導を実施している(資2-34-1資2-34-2参照)※9

 同指導は、認知行動療法※10に基づいて、必修プログラム(麻薬、覚醒剤その他の薬物に依存があると認められる者全員に対して実施するもの)、専門プログラム(より専門的・体系的な指導を受講させる必要性が高いと認められる者に対して実施するもの)、選択プログラム(必修プログラム又は専門プログラムに加えて補完的な指導を受講させる必要性が高いと認められる者に対して実施するもの)の三種類を整備し、対象者の再犯リスク、すなわち、犯罪をした者が再び犯罪を行う危険性や危険因子等に応じて、各種プログラムを柔軟に組み合わせて実施している。令和6年度の受講開始人員は6,826人(令和5年度:6,869人)※11であった。

 また、刑事施設の教育担当職員に対し、薬物依存に関する最新の知見を付与するとともに、認知行動療法等の各種処遇技法を習得させることを目的とした研修を実施している。

(イ)少年院

 法務省は、少年院において、麻薬、覚醒剤その他の薬物に対する依存等がある在院者に対して、特定生活指導として薬物非行防止指導(資2-34-3参照)を実施し、令和6年度は395人(令和5年度:334人)が修了している。また、男子少年院2庁(水府学院及び四国少年院)及び全女子少年院9庁を重点指導施設として指定し、実施施設の中でも特に重点的かつ集中的な指導を実施している。具体的には、薬物依存からの回復をサポートする民間の自助グループ、医療関係者、薬物問題に関する専門家等を指導者として招へいし、グループワークを中心とした指導を実施しているほか、保護者向けプログラムを実施するなどしている。なお、男子少年院2庁においては他の少年院から在院者を一定期間受け入れてこの指導を実施している。

 少年院の職員に対しては、医療関係者等の協力を得て、薬物依存のある少年への効果的な指導方法等についての研修を実施しているほか、大麻使用歴を有する在院者に対する指導を充実させるため、職員用の執務参考資料を配布している。薬物使用経験のある女子在院者については、低年齢からの長期間にわたる薬物使用や女子特有の様々な課題を抱えていることが多く、それらの課題に適切に対応し得る専門的な指導能力が求められることから、専門的知識及び指導技術の一層の向上を図るため、平成29年度から女子在院者を収容する施設間において、職員を相互に派遣して行う研修を実施している。

資2-34-1 薬物依存離脱指導の概要(1)
資2-34-2 薬物依存離脱指導の概要(2)
資2-34-3 少年院における特定生活指導

イ 社会内における指導等について

 法務省は、保護観察所において、犯罪事実に依存性薬物(規制薬物等、指定薬物及び危険ドラッグ)の所持・使用等に当たる事実が含まれる保護観察対象者に対し、薬物再乱用防止プログラム(資2-34-4参照)を実施している。同プログラムは、コアプログラム(依存性薬物の悪影響と依存性を認識させ、自己の問題性について理解させるとともに、薬物再乱用防止のための具体的方法を習得させるもの)及びステップアッププログラム(コアプログラムの内容を定着・応用・実践させるもの)からなる教育課程と簡易薬物検出検査を併せて行うものとなっている。令和6年度は、2,354人(令和5年度:2,661人)が受講した。

 また、薬物再乱用防止プログラムを実施する際には、保健医療機関やダルク(【施策番号71】参照)等の民間団体等にも実施補助者として参加を依頼し、保護観察対象者への助言等の協力を得ているほか、保護観察終了後を見据え、保健医療機関や民間団体等が実施するプログラムやグループミーティングに、保護観察対象者をつなげる働き掛けをしている。

 さらに、法務省は、保護観察所において施設内処遇と社会内処遇との連携強化のため、平成29年から、矯正施設職員及び保護観察官を対象とした薬物依存対策研修を実施している。同研修においては、SMARPP※12の開発者及び実務者のほか、精神保健福祉センター、医療機関及び自助グループにおいて薬物依存症者に対する指導及び支援を行っている実務家を講師として招へいし、薬物処遇の専門性を有する職員の育成を行っている。

資2-34-4 保護観察所における薬物再乱用防止プログラムの概要

ウ 処遇情報の共有について

 法務省は、刑事施設において、施設内処遇と社会内処遇の一貫性を保つため、刑事施設における薬物依存離脱指導の受講の有無のほか、指導結果や理解度、グループ処遇への適応状況、出所後の医療機関や自助グループを含めた民間団体への通所意欲、心身の状況や服薬状況等、多くの情報を保護観察所に引き継いでいる。また、少年院においても、施設内処遇から社会内処遇への継続的な指導の実施に向け、薬物非行防止指導の実施状況を保護観察所に引き継いでいる。さらに、保護観察所においては、保護観察対象者が地域における治療・支援につながるよう働き掛けるとともに、保健医療機関、上記民間団体等に対し、保護観察対象者の同意を得た上で、必要に応じて、保護観察対象者の心身の状況等について情報の共有を図っている。

(2)増加する大麻事犯に対応した処遇等の充実【施策番号35】

 令和6年の大麻事犯の検挙人員は6,342人となり、過去最多であった令和5年に比べ減少したものの、依然として、覚醒剤事犯の検挙人員を上回る結果となった。また、大麻事犯の7割以上が30歳未満の若年層であり、若年層における大麻の乱用拡大に歯止めがかからない状況にあることから、引き続き「若年者大麻乱用期」の渦中にあると言える状況にある。また、大麻事犯については「施用罪」がないことが大麻を使用しても良いという誤った認識を助長し、使用のハードルを下げているという調査結果が明らかになったことなどを踏まえ、厚生労働省は、大麻規制の見直しについての検討を進め、令和5年12月に成立した大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律(令和5年法律第84号)により、大麻の不正な施用についても、麻薬及び向精神薬取締法における「麻薬」としての禁止規定及び罰則を適用するなどの措置を講じ、令和6年12月に第一段階目の改正※13、令和7年3月に第二段階目の改正※14が施行された。

 また、インターネット等における「大麻には有害性がない」等の誤情報の流布が、昨今における大麻事犯増加の要因の一つとなっていると考えられる状況があることも踏まえ、広報・啓発活動においては、若年層のうち、大麻への関心が高い者をターゲットに、インターネット上での行動に応じたバナー広告や動画広告等のデジタル広告を活用している。具体的には、デジタル広告を通じて、大麻についての正確な知識を掲載した特設サイトに誘導し、これを閲覧させることで、大麻乱用に興味がある若年層の行動の変化を促すデジタル広報啓発活動を実施している。

 法務省は、令和4年度に大麻に関する基礎的な知識の付与等を目的とした薬物依存離脱指導の補助教材を作成し、全国の刑事施設に配布した。

 また、大麻使用経験を有する少年院在院者に対する指導を充実させるため、令和5年度に在院者向けの大麻に関する指導教材を作成し、少年院において同教材を用いた指導を実施している。

 加えて、令和4年度に取りまとめられた外部の専門家を構成員とする「薬物処遇の在り方に関する検討会」の報告書※15において、大麻事犯者の特性に応じた薬物再乱用防止プログラム改訂の方向性が示されたことを受け、令和5年度に保護観察所の薬物再乱用防止プログラムを一部改訂し、その教育課程のうち、コアプログラムに大麻事犯の保護観察対象者の特性等に対応した全5課程を設けた。保護観察所においては、大麻事犯者に対して、従来の教育課程に代えてこれらの新課程を必要に応じて実施することで、大麻事犯者の特性に応じた一層の処遇の充実を図っている。

(3)更生保護施設等による薬物依存回復処遇の充実【施策番号36】

 法務省は、一部の更生保護施設を薬物処遇重点実施更生保護施設に指定し、精神保健福祉士や公認心理師等の専門的資格を持った専門スタッフを配置して薬物依存からの回復に重点を置いた専門的な処遇を実施している。薬物処遇重点実施更生保護施設の数は、令和6年度は25施設であり、令和6年度における薬物依存がある保護観察対象者等の受入人員は578人(令和5年度:711人)であった。

 また、保護観察所においては、更生保護施設に対し、薬物依存回復プログラムやグループミーティング等を特定補導(【施策番号19】参照)として委託をしている。

(4)麻薬取締部が実施する薬物乱用防止対策事業の拡大【施策番号37】

 厚生労働省は、薬物乱用者に対する再乱用防止対策事業として、地方厚生(支)局麻薬取締部・支所(以下「麻薬取締部」という。)において、保護観察の付かない全部執行猶予判決を受けた薬物事犯者等に対して、1対1の個人面談による直接支援等を行っている。

 同事業では、法務省と連携した支援も実施しており、麻薬取締部以外の捜査機関により検挙され、保護観察の付かない全部執行猶予判決を受けた薬物事犯者について、地方検察庁から情報提供を受けて麻薬取締部において支援を実施している。

 地方検察庁と麻薬取締部の連携については、令和3年から4地区に限定して試行的に行ってきたが、令和5年に、試行対象地区を麻薬取締部の拠点である全ての地区(9地区)に拡大した(【施策番号42】参照)。

  1. ※9 令和7年度からは、薬物依存離脱指導の標準プログラムに、移行プログラム(社会内の生活においても薬物依存に至らないための知識及びスキルを定着させるとともに、薬物依存から回復に必要となる社会資源について理解させ、治療の継続等の動機付けを高める必要性が高いと認められる者に対して実施するもの)を加えることとしている
    http://www.moj.go.jp/content/001449184.pdf)。 薬物依存離脱指導のqr
  2. ※10 認知行動療法
    行動や情動の問題、認知的な問題を治療の標的とし、これまで実証的にその効果が確認されている行動的技法と認知的技法を効果的に組み合わせて用いることによって問題の改善を図ろうとする治療アプローチを総称したもの。問題点を整理することによって本人の自己理解を促進するとともに、問題解決能力を向上させ、自己の問題を自分でコントロールしながら合理的に解決することのできる力を増大させることをねらいとして行われる。(「臨床心理学キーワード〔補訂版〕」坂野雄二編参照)
  3. ※11 受講開始人員は、必修プログラム、専門プログラム及び選択プログラムの三種類のプログラムに加え、PFI手法を活用した刑事施設におけるプログラムの各受講開始人員の総数である。
  4. ※12 SMARPP
    Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program(せりがや覚せい剤依存再発防止プログラム)の略称であり、薬物依存症の治療を目的とした認知行動療法に基づくプログラムである。
  5. ※13 第一段階目の改正
    大麻等から製造された医薬品の施用等を可能とするための規定の整備、大麻等の施用罪の適用等に係る規定の整備、大麻草の栽培に関する規制の見直しに係る規定の整備のうち大麻草採取栽培者及び大麻草研究栽培者免許に係る事項について改正。
  6. ※14 第二段階目の改正
    大麻草の栽培に関する規制の見直しに係る規定の整備のうち、大麻草採取栽培者免許を第一種大麻草採取栽培者免許及び第二種大麻草採取栽培者免許に区分し、第一種大麻草採取栽培者について、THCが基準値以下の大麻草から採取した種子等を使用して栽培しなければならないこととするなどの事項について改正。
  7. ※15 薬物処遇の在り方に関する検討会報告書
    https://www.moj.go.jp/content/001388375.pdf 薬物処遇の在り方に関する検討会報告書のqr