第2節 新たなステークホルダーの取組
株式会社日本政策投資銀行(以下「DBJ」という。)は、「金融力で未来をデザインする」という企業理念の下、サスティナブルファイナンスやインパクト投資に積極的に取り組んでおり、その中でも成果連動型民間委託契約方式(Pay For Success)(以下「PFS」という。)やソーシャル・インパクト・ボンド(Social Impact Bond)(以下「SIB」という。)は社会課題解決に資する官民連携の重要な手法であると考え、国内外の市場調査、各種情報発信等を通じ、国、地方公共団体、中間支援組織、サービス事業者たる民間企業、金融機関等、PFS/SIB市場の関係者とのネットワークを構築し、先進的なノウハウを獲得してきた。また、同行は、令和3年度から令和5年度まで、法務省が実施した民間資金を活用したPFSによる非行少年への学習支援事業(以下「法務省SIB事業」という。)において、株式会社公文教育研究会(以下「公文教育研究会」という。)を中心とした共同事業体に対する資金提供者として関与した(PFS、SIB及び法務省SIB事業のいずれも【施策番号74】参照)。
語り:DBJストラクチャードファイナンス部 杉浦 克実さん
村田 瑞穂さん
(法務省SIB事業当時所属)
東條 恭章さん
1.法務省SIB事業にはどのような立場として参画いただいていましたか。
(杉浦さん)
当行は元々日本開発銀行という特殊法人でした。平成20年に民営化し、現在の株式会社日本政策投資銀行となりましたが、「社会に何らかの形で貢献したい」というパブリックマインドがDNAとして深く根付いています。そのため、当行の職員の中には、金融というツールを活用して、世の中に貢献したいという人が多いです。古くはPFI(【施策番号60】参照)等の、国や地方が実施していた事業に民間の資金やノウハウを活用するというような案件に多く取り組ませていただき、当行が触媒のような機能を果たしてきました。PFIがある程度普及してきてからは、次に取り組むべき新しい分野について常に考えていました。
そのような中で、行内の若い職員から、DBJの新たな取組としてふさわしいものは何かということを募った際に、選ばれたものの一つがSIBでした。
(東條さん)
当行は以前からPPP※5の事業に幅広く関与していたので、このSIBという取組については、PPPの新たなプロダクトの一つであると考え、令和元年辺りから調査をしていました。当時は、プロトタイプのSIBという感じで、日本でもいくつかのプロジェクトがあるにはあったのですが、中々大きな案件ができているわけではありませんでしたので、まず、SIB発祥の地であるイギリスの市場や事例について調査を行いました。イギリスでは、既にSIBに関する様々なプレーヤーがいましたので、そのような方々のヒアリング等を行いました。そこで、私たちが一から日本でプロジェクトを立ち上げるよりも、まずはイギリスの投資会社と連携するのがよいと考え、彼らが運用しているファンドに投資し、イギリスのSIBに参画しながら、様々な勉強をさせていただきました。
イギリスで学んだことを踏まえて、実際に日本でもプロジェクトを立ち上げたいと検討していたところ、内閣府に成果連動型事業推進室※6が設置され、日本でも様々な事業が進んでいくという段階となっていきました。そのような状況の中、法務省がSIBの事業を検討しているとお聞きし、私たちもマーケットサウンディングの一環として参画させていただきました。その後、法務省SIB事業が始まるタイミングで、公文教育研究会と出会いました。
公文教育研究会が中心となって検討された非行少年に対する学習支援の内容等について、当行は、金融機関として、それが本当に実現可能な事業プランであるのかといった観点から諸々の助言をさせていただきました。加えて、当行も資金提供者という立場で法務省SIB事業に参画することにしました。金融には、元本が保証されているような「融資」という考え方もありますが、当行としては、元本毀損等のリスクのある「投資」として関わらせていただくことにしました。SIBは、事業者のパフォーマンスによって報酬が変わりますので、事業者にとっては、インセンティブが強く働きますが、一方で、成果が低ければ非常にリスクの高い取組ですので、その部分のリスクシェアを図るのが、金融機関である私たちに求められている役割ではないかと思います。
2.再犯防止分野に参画することを検討された際の行内での反応等についてご教示ください。
(東條さん)
「成果連動型民間委託契約方式の推進に関するアクションプラン」※7において、PFS/SIB重点3分野の一つとして「再犯防止」を掲げていただいたので、行内へ説明を行う際には非常に助かりました。「そもそもSIBとは何か」「なぜ再犯防止なのか」といったことを問われることが多かったですが、私たちは元々PFIに関わっていたこともあり、その中で、広い意味での再犯防止に関わるようなプロジェクトもありましたので、比較的行内での反対意見等は少なかったです。むしろ、「DBJらしい取組なので頑張れ」といった声をいただくこともありました。
3.御行の立場から見た、今回の事業の社会的意義とはどのようなところにありますでしょうか。
(東條さん)
我々は資金提供者という立場でしたが、事業実施中に定期的に行われていたプロジェクトチェックについては能動的に関与していました。月に複数回ある事業の東京拠点及び大阪拠点とのモニタリングには、必ず参加するようにしていました。
非行少年が立ち直っていくプロセスの中で、少年院在院中から出院後にかけて継続性のある支援が重要であると聞いてはいましたが、実際に法務省SIB事業に携わってみたら、少年院の中と外との連携の難しさを実感させられました。一方で、SIBというツールを通じて、今までつながりが薄かった方々、例えば、少年院の教官と学習支援の実務家等の、近い分野にいるようで、これまでコミュニケーションが余りなかった方々が、一堂に会して議論をする機会に恵まれたということは、非常に大きな価値があったのではないかと思っています。また、今回の法務省SIB事業では、どのような目標を達成すれば、どれくらいの報酬が支払われるのかという面が明確であったので、この事業に関わるステークホルダーが同じ方向を向いて議論できたという点でも、非常に価値のある取組でした。
(村田さん)
PFI等も市場が広がってきましたが、民間資金の活用によって、全ての行政サービスの質が向上したかというと、必ずしもそうでないと思います。事業の件数は積み重なってきているかもしれませんが、私たちが望むような本来あるべきPFI等ばかりではありません。法務省の取組がモデルケースとなり、今後も、継続的に好事例が出てくることを期待しています。
4.法務省SIB事業への参画前後における行内の意識の変化(特に若手の職員の方々)について教えてください。
(東條さん)
法務省SIB事業は、私たちから見ても、極めて先進的な取組であったので、私を含め、職員にとってチャレンジしがいのある刺激的な取組だったと思います。先ほどお伝えした、普段あまり関わらない人たちが一堂に会して議論するという点に関して、少年院の教官や、学習支援の専門家といった方々は、私たちの通常業務の中では余り関わることがない存在でした。行内には、何かしら社会に貢献したいという職員が非常に多いので、具体的な社会課題を目の前に感じることができ、また、多くの関係者と同じ目標に向かって貢献できたことで、特に若手の職員にとっては、挑戦することの重要性ややりがいを感じられる、大変意義のある取組だったのではないでしょうか。
また、この事業については、新聞等にも取り上げていただいたため、他の金融機関からこの事業について問合せをいただき、説明をさせていただく機会が多くありました。そういう観点から、行内だけではなく、他の金融機関や企業にも影響を与えられたのではないかと思っています。
5.再犯防止分野に民間企業が参画する意義について教えてください。
(東條さん)
SIBは、経済的なリターンだけではなく、社会的なインパクトもしっかり考えなければならないという時流に沿ったプロジェクトです。なぜSIB事業ができるのか。それは、そこに社会課題があるからです。そのような中で、リスクをとって投資をし、事業者と一緒に汗を流してプロジェクトを進めることができるのは、社会的意義が大きいだけでなく、私たち自身の仕事におけるやりがいの向上にもつながっています。

- ※5 PPP(Public Private Partnership)
公共施設等の建設、維持管理、運営等を行政と民間が連携して行うことにより、民間の創意工夫等を活用し、財政資金の効率的使用や行政の効率化等を図るもの。 -
※6 内閣府成果連動型事業推進室
https://www8.cao.go.jp/pfs/index.html
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※7 成果連動型民間委託契約方式の推進に関するアクションプラン
https://www8.cao.go.jp/pfs/actionplan.html