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第1節 京都コングレス開催の意義

1 京都宣言の内容と意義について

(1)京都宣言の全体像

 京都宣言は総論と各論に分かれており、総論においては、ポストコロナ時代、とりわけ持続可能な開発目標(SDGs)のターゲットイヤーである2030年(令和12年)に向け、国際社会が取るべき包括的な指針が示された。

 具体的には、法の支配が誰一人取り残さない社会を目指す「持続可能な開発」の実現の礎となることが確認されたことに加え、加盟国が特に新型コロナウイルス感染症拡大を契機とした刑事司法におけるデジタル化の推進等犯罪防止・刑事司法への課題に対処すべきことや、SDGs達成に向けた刑事司法分野における国際協力の一層の強化、犯罪防止等のためのマルチステークホルダー・パートナーシップの推進等がうたわれている。

 各論は、コングレスの議題に沿った4つの大項目からなっており、①犯罪防止の項目においては、各地域の状況を踏まえ、文化の多様性を念頭に置きつつ法遵守の文化を醸成するなどの方法による、地域の状況を踏まえたテーラーメードの犯罪防止戦略の推進や、刑事司法の未来を担うユースの活躍、②刑事司法の項目においては、更生と社会復帰を通じた再犯防止や、子ども及び若者の脆弱性に対処する刑事司法の推進、③法の支配の項目においては、腐敗防止の取組や、法教育等を通じた法遵守の文化の醸成に必要な知識等の涵養、④国際協力の項目においては、実務家の能力構築や各国への技術支援と共に、犯罪収益はく奪、テロや新興犯罪への対処の必要性など、様々な事項が盛り込まれた。

(2)京都宣言における「再犯防止」

 京都宣言の文言交渉過程においては、SDGs達成のためには再犯防止も重要であることが確認されつつ、各国における再犯率の高止まりや罪を犯した者に対する社会復帰支援が十分になされていないことなどが各国から課題として指摘され、「誰一人取り残さない社会」の理念を背景に、国際社会において再犯防止の取組を推進していくべきとの合意が形成された。

 その結果、前述の京都宣言の各論の4つの大項目のうちの一つである「刑事司法制度の推進(Advancing the criminal justice system)」の中に、「更生と社会復帰を通じた再犯防止(Reducing reoffending through rehabilitation and reintegration)」と題した小項目が設けられ、再犯防止に関する6つの内容がうたわれている。

 以下にその内容を記載する。

① 犯罪者のニーズ及びリスクの個別評価に基づく効果的な処遇プログラムを企画し、実施することを含め、矯正施設における更生環境を改善し、犯罪者が社会復帰に必要な技能を身につけることを支援するため、職業訓練及び技術訓練並びに教育プログラムへのアクセスを提供する。

② 社会及び個人の保護の必要性や被害者及び加害者の権利に十分に配慮した上で、地域コミュニティの積極的な参加を得て、加害者の社会復帰を促進するためにコミュニティにおける更生環境を醸成する。

③ 雇用・社会福祉機関や地方自治体などの関連する行政機関の間の連携とともに、これらの行政機関と、犯罪者の長期的かつ社会的な再統合を支援する協力雇用主や地域ボランティアを含む地域社会との間の官民連携を促進することにより、再犯を防止するためのマルチステークホルダー・パートナーシップを推進する。

④ 犯罪者がコミュニティの一員として社会に受け入れられることの重要性と、犯罪者の長期的かつ社会的な再統合を支援する上でのコミュニティの関与の重要性についての認識を高める。

⑤ 受刑者の権利及び同意、更生及び社会復帰に関する問題を適宜考慮した上で、適切な場合には、受刑者が残りの刑期を自国で服役するための移送に関する協力を推進し、必要に応じて、この点に関する二国間又は多数国間の協定又は取決めを締結し、このような措置が利用可能であることについての受刑者の認識を高める。

⑥ 被害者の回復及び犯罪者の社会復帰を支援し、犯罪及び再犯を防止するために、適切な場合において、国内の法的枠組の範囲内で、刑事手続の適当な段階における修復的司法の手続を促進し、この点に関する同手続の有用性を評価する。

 このうち、特に、②地域コミュニティへの積極的な参加による加害者の社会復帰の促進や④コミュニティ関与の重要性についての啓発は、犯罪をした人の立ち直りを支える地域社会を作るために日々地道に努力されている地域ボランティアの重要性やその意義を再確認するものであり、日本の保護司制度はそのグッドプラクティスとして注目・期待されている。

 また、③マルチステークホルダー・パートナーシップの推進は、総論にも挙げられているところ、特に再犯防止の文脈では、「再犯防止推進計画」に基づき、国、地方公共団体、民間の団体等が相互に連携協力して取組を進め、着実に効果を上げている我が国の知見・経験を基に、我が国がリーダーシップを発揮し得る事項である。

 京都宣言においては、そのほかにも、犯罪の根本原因やリスク要因等に対処する犯罪防止戦略の推進、刑事司法制度と接点を持った子ども及び若者の脆弱性への対処など、様々な角度から再犯防止に関連する記述が盛り込まれており、世界各国の再犯防止に対する関心の高さがうかがえる。