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第1節 京都コングレス開催の意義

2 京都コングレス・ユースフォーラム

(1)京都コングレス・ユースフォーラムの概要

 2021年(令和3年)2月27日及び28日の2日間にわたって、国立京都国際会館において、京都コングレスの関連イベントである「京都コングレス・ユースフォーラム」(以下「ユースフォーラム」という。)が、オンライン参加と来場参加を組み合わせた「ハイブリッド方式」により開催された。

 ユースフォーラムは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により世界が分断の流れを見せる中で、様々な価値観やバックグラウンドを持つ世界各国の若者が、自分たちが暮らす社会について真摯に議論をすることにより、連帯と対話の機運を醸成し、将来につながるパートナーシップを築くこと、ユースフォーラムの議論の結果を勧告としてコングレスに提出し、SDGsのターゲットイヤーである2030年(令和12年)以降の社会を担う若い世代の意見をコングレスの議論にも反映すること等を目的として開催された。

 今回のユースフォーラムには、我が国を含めて、36の国と地域※3から約150名が参加(来場参加約50名、オンライン参加約100名)した。

 国内においては、法曹になることに興味がある若者はもちろんのこと、国際舞台での活躍を目指して国際関係や国際法を学ぶ若者や、非行等の問題を抱える少年の社会復帰を支えるボランティア活動を行っている日本BBS連盟の若者などの参加を得た。

 ユースフォーラムの全体テーマは、「安全・安心な社会の実現へ~SDGsの達成に向けた私たちの取組~(Youth Engagement for our Safe and Secure Society: towards Achieving the SDGs)」であり、3つの分科会を設け、議題①青少年犯罪の予防・罪を犯した青少年の社会復帰における若者の役割(Youth engagement in preventing youth crime and reintegrating youth offenders)、議題②法遵守の文化を醸成するための若者の教育(Youth education for fostering a culture of lawfulness)、議題③安全なネット社会に向けた若者の責任(Youth commitment towards a safe information society)について議論がなされた。

(2)ユースフォーラムの内容と意義

 開会式では、高円宮承子女王殿下が、特に新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえ、未来を担う若者による創造的な議論や積極的な役割に期待する旨のお言葉を述べられた。また、上川陽子法務大臣(当時)は、日本におけるBBS運動(Big Brothers and Sisters Movement)を紹介し、SDGs達成に向けたステークホルダーの一員としての若者に寄せる大きな期待について、若者が変革の原動力であり希望の源であると述べた。

 全体会では、京都コングレスの事務局である国連薬物・犯罪事務所(UNODC。以下「UNODC」という。)による、全体テーマと各議題についての導入説明に続いて、国内外の実務家・専門家から各分科会のテーマ(議題①から議題③まで)に関する取組事例等の紹介があった。分科会では、各グループにおいて活発な議論を促すため、1つの分科会をさらに5つのサブグループ(各グループ約10名)に分け、それぞれのグループに法務省法務総合研究所教官、弁護士、UNODCのオフィサーがモデレーターとして付いた。参加者には事前にディスカッションガイドを送付し、これに記載された課題及び解決策についての問題提起を踏まえる形で議論が行われた。

特2-2 京都コングレス・ユースフォーラムの開会式の様子
特2-2 京都コングレス・ユースフォーラムの開会式の様子
特2-3 議論の様子①
特2-3 議論の様子①
特2-4 議論の様子②
特2-4 議論の様子②

 前記議題①の分科会においては、ロンドン大学のロージー・ミーク教授が刑務所内におけるスポーツを通じた再犯防止施策の意義等につき詳細に報告した後、日本のBBS会員である参加者が、日本のBBS運動の歴史や現在の活動体制、更には「ともだち活動」の事例やSDGsとBBS運動の関係などについて報告した。

 前記議題②の分科会においては、静岡大学の磯山恭子教授が登壇し、法遵守の文化の意味や教育における課題等について解説するとともに、イタリア高等裁判所のルイジ・マルティーニ判事が、共同生活を行うに際して重要なルールや、「賄賂・脱税等がなぜいけないのか」等についてイタリアの教育の例を紹介した。

 前記議題③の分科会においては、オーストラリアのジュリー・インマン・グラントeセーフティーコミッショナー※4が同国における情報通信技術(ICT)の不正利用、特に児童ポルノやいじめの事例について解説するとともに、国連児童の権利委員の大谷美紀子弁護士が子どもをデジタル環境に置くことの影響等について解説した。

 これらの基調報告を踏まえ、参加者である若者達が、それぞれが属する社会における課題やそれに対する取組等のグッドプラクティスの紹介を行うなどし、教育やコミュニティー、公的機関や刑事司法機関がそれぞれ果たす役割、若者との関わり等について、自らの経験等も交えながら、活発に議論を行った。

 それぞれの分科会で話し合われた内容は、各分科会で参加者から選出された報告者を中心に、勧告として取りまとめられ、全体会合において採択された※5

 同勧告は、その後、京都コングレスの開会式で、ユースフォーラムの代表者2名から国連に提出され、京都コングレスにおける専門家達の議論に新しい視座を与えた。

 ユースフォーラムについては、国際感覚を有する人材を育成するとともに、若い世代に犯罪防止・刑事司法に関する具体的な施策への理解を深めてもらう機会としても重要であることから、京都コングレス後も継続的に開催していくことを予定している。

参考資料 京都コングレス・ユースフォーラムの勧告の概要

〔総論〕

○ 持続可能な開発は、とりわけポスト・コロナ時代において、安全・安心な社会を実現するための要素であるが、犯罪はその持続可能な開発の障害となる。

○ 若者は、より良い未来を構築する政策を作るための重要なステークホルダーである。

〔各論〕

○ 分科会1:青少年犯罪の予防・罪を犯した青少年の社会復帰における若者の役割

 ・様々なアクター間のパートナーシップの強化と若者の活動のための安全な場所の創造
・施設内、施設外各処遇における様々な更生プログラム(教育、文化、スポーツ、職業訓練、精神的、ITの活用等)の実施
・罪を犯した青少年のスティグマ(汚名)の防止及び除去
・民間企業との連携を通じた、罪を犯した青少年の社会復帰に関する意識啓発
・若者の犯罪予防、社会復帰におけるICT、ソーシャルメディア等の活用

○ 分科会2:法遵守の文化を醸成するための若者の教育

 ・法の支配に関する教育の強化(学校と家庭やその他のステークホルダーとの協働等)
・法へのアクセシビリティの向上(より平易な言語の使用、ICTの活用等)
・マスメディア、ソーシャルメディアに関するリテラシーの促進
・公的機関の透明性及び説明責任の強化等を通じた、市民の信頼の向上
・司法制度におけるジェンダーその他の理由による差別の撤廃と社会的結束の強化

○ 分科会3:安全なネット社会に向けた若者の責任

 ・若者がネット犯罪等の加害者又は被害者となることを防止(コロナ禍により親の監護力が一層弱まっていることを受け、ネットの利用法について親への教育を行う等)
・ネット犯罪等に対する法的対応、被害者の保護等(ネットいじめ等、犯罪を構成するまでに至らない行為についても、ステークホルダーと連携し、カウンセリング等の各種対策を講じる等)
・法執行機関内にネット犯罪等への対処等に関する専門ユニットを設立
・国際協力の推進(若者によるネットの安全な利用に関する知識・経験の共有等)
・ネット犯罪等への対処のための官民連携、能力構築の推進

  1. ※3 我が国以外の参加国と地域は、アルゼンチン、アメリカ、インド、インドネシア、ウガンダ、ウズベキスタン、エジプト、ガーナ、カタール、カナダ、カメルーン、韓国、コモロ連合、サウジアラビア、シンガポール、スウェーデン、スペイン、スリランカ、タイ、台湾、中国、チュニジア、ナイジェリア、ネパール、パレスチナ、フィリピン、ブラジル、フランス、ベトナム、ペルー、マレーシア、ミャンマー、モンゴル、ラオス及びリベリアであった。
  2. ※4 eセーフティーコミッショナー
    オーストラリア国民全体のネットいじめ対策、安全なインターネット利用の促進等の政策を所管している。
  3. ※5 京都コングレス・ユースフォーラムの勧告URL
    https://www.moj.go.jp/KYOTOCONGRESS2020/youth_forum/download/program05.pdf