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第2節 京都コングレスにおける再犯防止

5 サイドイベント「再犯防止分野におけるSIBの課題と可能性(Challenges and Potential of Social Impact Bond for the Prevention of Recidivism (Reoffending))」

(1)再犯防止分野におけるSIBの活用

 犯罪をした者等の再犯防止に必要な「息の長い」支援を実現するためには、国と地方公共団体、民間協力者による協働が不可欠です。特に民間協力者については、近年、再犯防止の取組における役割の重要性は増しており、その活動範囲も広がっています。これに対応していくためには、民間協力者による活動のための財政基盤の整備が必要であり、再犯防止分野における民間資金の活用の推進が求められています。

 政府においては、「成果連動型民間委託契約方式の推進に関するアクションプラン」(2020年(令和2年)3月成果連動型民間委託契約方式の推進に関する関係府省庁連絡会議決定)(以下「アクションプラン」という。)(【施策番号97】参照。)に基づき、再犯防止を重点分野の一つとして、成果連動型民間委託契約方式(以下「PFS」という。)の普及促進を進めることとされています。

 こうした流れを受けて、法務省では、2019年度(令和元年度)、再犯防止分野への民間資金を活用した成果連動型民間委託契約方式(以下「SIB」という。)の導入に向け調査研究を実施し、具体的な事業案として「非行少年に対する継続的な学習支援の実施」が示されました。そこで、2021年度(令和3年度)からSIBのスキームを活用して当該事業に取り組むこととしています。

 一般に、SIBのスキームは、国から受託事業者に対し、委託費を事業の成果に連動させる形で支払うことにより、国の支出の効率化を図りつつ、民間のインセンティブを高めることでその知見やノウハウを最大限に活用することが期待できる仕組みとされています。また、民間の資金提供者は、受託事業者に資金提供を行い、国から受託事業者に対する成果に応じた委託費の支払いに連動して償還を受ける形となり、SIBに関与する資金提供者が増加すれば、民間資金の言わば掘り起こしにもつながるものとなります。

 なお、世界で初めてのSIB事業は、2010年(平成22年)から英国のピーターバラ(Peterborough)刑務所において、同刑務所出所者に対して行われた再犯防止分野の事業であるとされています。

 そして、法務省において2021年度から取り組むこととしている事業は、再犯防止分野はもちろんのこと、日本政府が主体的に取り組むものとしては初めてのSIB事業となります。

 このような背景もあり、京都コングレスにおいては、日本におけるPFS/SIBの仕組み作りに貢献いただいている一般財団法人社会変革推進財団(Social Innovation and Investment Foundation、SIIF)と法務省の共催により、諸外国でPFS/SIBに取り組んでいるジェーン・ニューマン氏(Social Finance/International Director)及びケビン・タン氏(Tri-Sector Associate/Founder)をお招きし、「再犯防止分野におけるSIBの課題と可能性」をテーマとして、本サイドイベントを実施しました。

(2)本サイドイベントの内容

 本サイドイベントでは、ジェーン・ニューマン氏からPFS/SIBのスキームや有効性のほか、英国のピーターバラ刑務所における取組の内容や成果等について講演いただきました。

 ケビン・タン氏からは、米国マサチューセッツ州における再犯防止分野でのPFS事業の内容を御紹介いただいたほか、アジアでの取組を通じてタン氏が感じ取られた、PFS/SIBを普及促進するために必要な観点等について講演いただきました。

 また、SIIFから日本におけるPFS/SIBの動向等について紹介いただくとともに、法務省からは2021年度から実施予定のSIB事業について報告を行いました。

 その後、登壇者によるパネルディスカッションが行われ、ジェーン・ニューマン氏からは、PFS/SIBが新たなアプローチの手法であることから、国や地方公共団体が、その導入過程において十分な検討を行い、関係者及び関係機関と密に連携する必要があるなどのコメントがありました。

 また、ケビン・タン氏からは、PFS/SIBのスキームについて、新型コロナウイルス感染症の感染が拡大し、社会課題を解決するための様々な民間セクターによる新たな取組が活発化する現代社会において、資金の豊富な大規模事業者だけでなく、小規模な民間セクターにとっても効果的な連携が構築できるスキームとして期待されるなどのコメントをいただきました。

 さらに、SIIFからは、PFS/SIBは柔軟性を持ったイノベーティブな民間の活動促進が期待されるスキームであるものの、行政側が従来のルールの範囲内で事業の発注を行うことが多いためにその柔軟性が損なわれている現状にあり、今後はインパクト指向の取組について、行政に加え、民間の団体も担っていくことで社会課題の解決に向けた成果の創出につなげていく必要があるなどのコメントをいただきました。

(当日の様子については、こちらから御覧いただけます。)

https://www.youtube.com/watch?v=J6FO8TlEqXMサイドイベント当日の様子qr

特2-15 サイドイベントの様子①
特2-15 サイドイベントの様子①
特2-16 サイドイベントの様子②
特2-16 サイドイベントの様子②

(3)今後の課題と可能性

 我が国で再犯防止分野におけるSIB事業を実施するに当たっては、成果指標の設定方法、適切な民間事業者の選定、資金提供者の位置付けの整理など、検討すべき点が多くあります。

 法務省では、本サイドイベントを通じて得た海外の知見も踏まえ、まずは2021年度から実施する事業について、着実に取り組むこととしています。

 アクションプランでは、2022年度末(令和4年度末)までに、重点3分野(医療・健康、介護及び再犯防止)でのPFS/SIB事業を実施した地方公共団体等の数を100団体以上とする目標が掲げられています。地方公共団体もその実情に応じた再犯防止施策を策定・実施する責務を負う(再犯防止推進法第4条第2項)中で、PFS/SIBは、そうした地方公共団体による取組を進めるツールとしても、有効に活用され得るものと考えています。法務省においても、本サイドイベントを通じて形成された関係機関のネットワークを活用しつつ、2021年度から開始する事業の実施状況も踏まえ、再犯防止分野におけるPFS/SIBの普及促進に取り組むこととしています。