再犯防止推進白書ロゴ

第1節 民間協力者の活動の促進等

6 再犯防止に関する広報・啓発活動の推進

(1)啓発事業等の実施【施策番号101】

 法務省は、国民の間に広く再犯の防止等についての関心と理解を深めるため、再犯防止啓発月間である7月を中心に、広報・啓発活動を積極的に展開している。2021年度(令和3年度)は、ポスター(資6-101-1参照)等の広報媒体やSNSを活用した広報啓発のほか、「再犯防止4コマ&1ページ漫画大賞」※23を実施した。また、2022年(令和4年)3月には、広報・啓発番組「広がっています。#再犯防止~みんなで描く、誰ひとり取り残さない社会~」をYouTube法務省チャンネルで配信した。同番組では、トラウデン直美氏(モデル・タレント)、安東弘樹氏(フリーアナウンサー)が進行を行い、検察庁、少年院、地域社会における先進的な取組や、実際に犯罪や非行から立ち直った当事者の方々の対談など、合計4つの短編動画を放映した。

資6-101-1 令和3年度再犯防止啓発月間ポスター
資6-101-1 令和3年度再犯防止啓発月間ポスター

 さらに、法務省は、「“社会を明るくする運動”~犯罪や非行を防止し、立ち直りを支える地域のチカラ~」を主唱している。この運動は、全ての国民が、犯罪や非行の防止と罪を犯した人たちの更生について理解を深め、それぞれの立場において力を合わせ、犯罪や非行のない安全で安心な明るい地域社会を築くための全国的な運動である。2014年(平成26年)12月に犯罪対策閣僚会議において決定した「宣言:犯罪に戻らない・戻さない」において、全ての省庁を本運動の中央推進委員会の構成員にするとともに、2015年(平成27年)からは、毎年、国民の理解を求める内閣総理大臣メッセージを発出するなど、政府全体の取組としてその重要性が高まっている。再犯防止啓発月間である7月は、本運動の強調月間でもあり、全国各地において、運動の推進に当たっての内閣総理大臣メッセージや、ポスター等の広報啓発資材を活用し、地方公共団体や関係機関・団体と連携して、国民に対して広く広報啓発を行っている。

 2021年(令和3年)に実施した第71回“社会を明るくする運動”では、「#生きづらさを、生きていく。」をテーマ(資6-101-2参照)に、全国で3万3,495回(前年:2万7,256回)の行事が実施され、延べ86万7,395人(前年:57万7,047人)が参加した(【指標番号16】参照)。同運動では、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、デジタルサイネージ等を活用した非接触型の広報や、SNS等の多様な媒体を用いた広報等が行われた(写真6-101-1参照)。また、若年層を始めとする幅広い年齢層の方々にとって身近で親しみの持てるような広報を展開するため、更生保護マスコットキャラクターである「ホゴちゃん」の活用、吉本興業株式会社と連携した広報・啓発活動が行われた。

資6-101-2 第71回“社会を明るくする運動”ポスター
資6-101-2 第71回“社会を明るくする運動”ポスター
写真6-101-1 サッカースタジアムでのCM上映の様子
写真6-101-1 サッカースタジアムでのCM上映の様子

 法務省の人権擁護機関では、刑を終えて出所した人の社会復帰に資するよう、「刑を終えて出所した人に対する偏見や差別をなくそう」を強調事項の一つとして掲げ、啓発冊子の配布等、各種人権啓発活動を実施している。

 なお、全国の法務局や特設の人権相談所において人権相談に応じている。人権相談等を通じて、刑を終えた人に対する差別等の人権侵害の疑いのある事案を認知した場合は、人権侵犯事件として調査を行い、事案に応じた適切な措置を講じている。2021年(令和3年)における刑を終えた人に対する差別待遇に関する人権侵犯事件の件数は4件であった。

 検察庁においては、学生や一般の方々を対象に実施する広報活動等において、検察庁における再犯防止・社会復帰支援に関する取組を説明するなど、再犯防止に関する広報・啓発活動を推進している。

(2)法教育の充実【施策番号102】

 法務省は、学習指導要領を踏まえた学校教育における法教育※24の実践の在り方及び教育関係者と法曹関係者による連携・協働の在り方等、法教育に関する取組について多角的な視点から検討するため、法教育推進協議会及び部会を開催(2021年度(令和3年度):8回)している。

 2021年度(令和3年度)は、2022年(令和4年)4月からの成年年齢引下げを踏まえて、契約や私法の基本的な考え方を学ぶことができる高校生向けのリーフレットを全国の高等学校、教育委員会等に配布したほか、リーフレットの内容に関する専門家の解説動画等を法務省ウェブサイトで公開するなどした※25

 また、発達段階に応じた法教育教材を作成し、全国の小中学校、高等学校、教育委員会等に配布するとともに、これらの教材の利用促進を図るため、同教材を活用したモデル授業例を法務省ウェブサイトで公開しているほか、法教育の具体的な実践方法を習得してもらうため、教員向け法教育セミナーを実施している。

 さらに、学校現場等に法教育情報を提供することによって、法教育の積極的な実践を後押しするため、法教育に関するリーフレット※26を作成し、全国の教育委員会等に配布しているほか、学校や各種団体からの要請に応じて、法務省の職員を講師として派遣し、教員、児童・生徒や、一般の人々に対して法的なものの考え方等について説明する法教育授業を実施している。

 特に、少年鑑別所では、地域援助として、教員研修において少年院・少年鑑別所に関する内容を始めとする少年保護手続等について講義を行うほか、参観の機会等を利用して少年鑑別所の業務等について説明を行うなどの法教育を行っている。主な内容としては、「少年保護手続の仕組み」、「特定の非行・犯罪の防止(薬物・窃盗・暴力等)」、「生活態度・友達づきあい」、「児童・生徒の行動理解及び指導方法」等であり、2021年度(令和3年度)には、約600回、延べ約4万5,000人に対して法教育を実施した。

 また、保護観察所において、学校との連携を進める中で又は広報の一環として、保護観察官や保護司が学校等に赴いて、更生保護制度等に関する説明を行うなどの法教育を実施しており、2021年度(令和3年度)中には、約250回、延べ約1万7,500人に対して法教育を実施した。

 検察庁において、学生や一般の方々に対し、刑事司法制度等に関する講義や説明等を実施するなどし、法教育を推進している。

Column09 「カベ」を通じたつながり~少年院跡地における鋼板プロジェクト~

相模原市立小山中学校・小原町自治会・TOKYO SOCIAL DESIGN・法務省矯正局

 2019年(平成31年)に閉庁した神奈川医療少年院(神奈川県相模原市)の跡地には、現在、新施設の整備に向けて、敷地を囲う鋼板である「カベ」が設置されています。今回紹介するのは、この「カベ」を通じて、近隣の相模原市立小山中学校、跡地が属する小原町自治会、情報発信やコミュニケーションデザインを手掛けるTOKYO SOCIAL DESIGNと法務省矯正局が協働したプロジェクトです。

 このプロジェクトは、法務省矯正局が、小原町自治会から「敷地周囲の鋼板が殺風景で圧迫感がある。絵を飾ったりできないか。」との相談を受けたことに始まります。小原町自治会は小山中学校にもお声掛けをされており、同校と引き合わせていただいたことから、少年院在院者と中学校の生徒がコラボした作品を展示できないか、というアイディアが生まれました。

 プロジェクトは、小山中学校生徒会の皆さんが中心となって進められましたが、まずは法務省矯正局から少年院のことを知ってもらう機会を設けました。そして、少年院の在院者や職員の思いに触れていただいた上で検討していただき、学校の仲間や地域の方々、家族を大切にしていきたいという気持ちを込めて、「つながり」という一つのテーマに沿った絵を描いて「カベ」に展示することが決まりました。

 その後、絵の募集を行ったところ、中学校から46点、東京矯正管区管内の少年院14庁の在院者から128点もの絵が集まりました。これらの絵を展示する上で、デザインについて御協力をいただいたのがTOKYO SOCIAL DESIGNです。

 TOKYO SOCIAL DESIGNは、物質的・心理的な「カベ」について、デザインを通じてメッセージを発信するため、まず、小山中学校において「ことばのワークショップ」を企画し、「つながり」というテーマを多角的に捉え、広がりを持たせる機会を設けました。そして、絵だけでなく、このワークショップで引き出された言葉も「カベ」に施すことで、より「つながり」というメッセージが地域の方に伝わるようにしたのです。また、「なにとつながる?」という問いかけをデザインに組み込み、絵を見た人が「つながり」というメッセージを自分に寄せて感じられるような仕掛けを設けました。

 このように多くの方々の思いが結集し、2021年(令和3年)11月、展示が完成しました。小山中学校からは、「活動を通じて、生徒たちは、少年院がどのような施設であるかはもちろん、そこで勤務する職員の願いを知り、また、地域はどのように支えていくべきなのかを理解することができた。」との声をいただき、生徒の皆さんからは「自分たちの努力や、絵を描いてくれたたくさんの人たちの協力がとても素敵な形で完成したこと、そして、地域の人たちにも見てもらうことができて、とてもうれしかった。」との感想をいただきました。地域の方からは、「いい企画だね。」「上手な絵だ。」「鋼板の絵や文で辺りの雰囲気が柔らかく変わった。」「少年院はあちこちにあると分かったよ」等の声が自治会へ届いているそうです。

鋼板に展示された生徒・在院者の絵
メッセージ「なにとつながる?」

 「カベ」とは、物理的又は心理的なつながりを断つ最も象徴的なものですが、その「カベ」を通じてこのように多くのつながりが生まれたことの意義は大きいと考えています。今後もこうしたつながりを大切にし、新施設が地域と共生していけるよう、そして、将来ここで学ぶ在院者たちが、多くの方のお力添えを受け、心の壁を乗り越えて未来につながっていけるよう、準備を進めていきたいと思います。

  1. ※23 「再犯防止4コマ&1ページ漫画大賞」
    再犯防止をテーマとした印象的な4コマ漫画及び1ページ漫画(1ページ内で完結する漫画をいう。)を広く募集し、優秀作品を法務大臣、法務副大臣及び法務大臣政務官から表彰するもの。
    同大賞など、再犯防止啓発月間に関する取組は、法務省ホームページ「7月は「再犯防止啓発月間」です」(https://www.moj.go.JP/hisho/seisakuhyouka/hisho04_00051.html)を参照。再犯防止4コマ&1ページ漫画大賞のqr
  2. ※24 法教育
    法教育とは、法律専門家ではない一般の人々が、法や司法制度、これらの基礎となっている価値を理解し、法的なものの考え方を身に付けるための教育であり、法教育の実践は自他の権利・自由の相互尊重のルールである法の意義やこれを守る重要性を理解させ、規範意識をかん養することを通じて再犯防止に寄与するものである。
  3. ※25 成年年齢引下げに向けた高校生向けリーフレット
    https://www.moj.go.jp/housei/shihouseido/houkyouiku_koukouseimukeleaflet.html成年年齢引下げに向けた高校生向けリーフレットのqr
  4. ※26 法教育リーフレット
    https://www.moj.go.jp/housei/shihouhousei/index2.html法教育リーフレットのqr